※修正前です。誤字脱字。完成品にする前に修正は入りまくります。文法や文体がしっちゃかめっちゃかなのだけは仕様で一生変わりません。おめでとう。

※ゲーム作成用のシナリオを少しだけ手を入れてコピペしただけなので大変読みづらいです。明日(2017.07.10)以降修正いたします。申し訳ありません。

※修正しました。(2017.08.14)つまり読みやすくなりました。たぶん6回目の再修正入ってVer.1.1.3みたいな。(2019.08.02)

TOPページに戻るのはこちらからですー。

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ーこの道をともにー

【C92配布ゲームシナリオ】

※転載はしないでくださいね。

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#ナレーション

朝、7時00分。

#ナレーション

二学期の始まり。

いつも通りの通学路である。

#ナレーション

きつい残暑にふさわしい太陽の存在感は歩くたびにさらにその存在感を増していく。

#ナカミチ

「あっつい」

#ナレーション

口から意識せずでてくる言葉。しかしどうする事も出来ない。学生は歩くしかないのだ。

#ナレーション

彼は何もなかった夏休みに思いをはせるしかなかった。カムバックサマーバケーションである。

#ナレーション

いよいよ暑さで脳がやられ始めるぞと彼が思った時、目の前をすっと影が横切った。

#ナレーション

彼はほぼ反射的に何の影かと空を見上げてみる。

#ナカミチ

(うわ、あれは目に毒だ)

#ナレーション

空には箒に乗って飛ぶ女性が見える。我らが担任のくぜ先生だろう。

この暑く、照りつけ、汗の滴る登校とは無縁でいらっしゃられること間違いなしの軽快な箒の飛ばしようだ。

#ナカミチ

(無視だ無視)

#ナレーション

考えるだけでひがんでしまいそうだとで結論づけ目線を戻す。

#ナカミチ

(というよりも何かを考えていると余計に暑さを感じる)

#ナレーション

通学路も半分を超し、後7、8分というところだろう。

#

――――――シャァァァァアアア――――――

#ナレーション

後ろから自転車の音が聞こえる。

 

#ましろ

「おはようナカミチ君」

#ナカミチ

「うん。おはよう」

#ナレーション

後ろから来た自転車に乗った人物が声をかけて、

#ナレーション

そしてそれだけのあいさつを交わし通り過ぎていく。

#

―――シャアアアアア!!―――

#みしろ

「まってよー!ましろ姉ぇー!」

#ナレーション

びゅーん。

#ナレーション

後ろから勢いよく自転車が通り過ぎた。双子の幼馴染の妹みしろである。先に通り過ぎたのは姉のましろだ。幼少のころこそ遊んでいたがもう5年以上まともに話していない間柄である。

#ナカミチ

(幼馴染ということで取り繕ったあいさつをした方がいいのかそれとも無理にあいさつをするよりも無関係の間柄になった方がいいのか。きっと思春期特有の悩みだよな)

#ナレーション

解決策など見えもしない。

#ナカミチ

(とにかく早く学校に着こう)

#ナレーション

着こうというより着いてほしいというのが正解である。暑い中早足で進もうなど彼は考えてもいない。

#ナレーション

そういえば双子は自転車通学だったなと思いをはせる。彼は家が学校から近いという事で自転車通勤が認められなかった。学校の駐輪スペースが少ないのが大本の原因である。

#ナレーション

事実、双子の家は彼の家から2、3分ほど離れている。

#ナカミチ

(……深く考えてはいけないな)

#ナレーション

いや、1、2分ほどだったか。

#ナカミチ

(……)

#ナレーション

深く考えてはいけない。

#ナレーション

有意義なのか無意味なのか無かった方がいいのか分からない通学にも終わりが見えてきた。

そう、校門を視覚認識できたのだ。

#ナカミチ

(よくわからないが本格的に暑さでまいってきた感じがする)

#

―キッ―

#ナレーション

不意に校門前に黒いタクシーが止まる。太陽光で白い車に見えかねない。

#

バタン

#ナレーション

扉のあいた車から凛とした麗しさとともに女生徒が降りてくる。遠目ではあるが彼女はおそらくうちの生徒会長様であらせられる。

#ナレーション

くそ暑いなか冷房のきいた車(ハコ)で通学するのは最適解だ。会長はよくわかってらっしゃる。

だが会長は他生徒の心がわからぬらしい。我は暑さで殿中をおこしてしまいそうじゃ。ええい後生じゃ離してたも。すべては太陽がまぶしかったせいじゃー。

#生徒会長

「―――。――――――。」

#ナカミチ

(?もう一人乗っているのか?)

#ナレーション

遠くでしゃべっている言葉は聞き取れないものの車内に向かって手を伸ばしている姿が見える。

#ナレーション

おずおずと手をひかれるように女の子が一人出てきた。

#ナカミチ

(会長の妹かな……)

#ナレーション

生徒会長には妹がいる。特に彼のクラスでは有名な話だ。クラスの中に一学期中病欠で休んでいた女生徒がいた。いわく、会長と名字が同じその彼女は生徒会長の妹ではないかと言われていたのだ。

#ナカミチ

(じゃあ、あいつはクラスメイトになるのか)

#ナレーション

1学期中見たことがないクラスメイト。おそらく手をひかれて出てきた女の子が会長の妹であろうか。

#ナレーション

病弱で学校に行けなかった妹の初登校。そしてそれを支える姉。おそらくはそんな一幕なのだろう。

#ナレーション

その姉をやれ、人の心がわからぬだとかやれ、殿中だとかと罪人扱いまでする。

#ナレーション

――そんな奴はいないはずだ。開き直っていこう。

#ナレーション

会長の妹は手で日差しを遮りつつ少し空を見上げる。

#ナレーション

そして少し憂いな目をしながら、

#???

「………暑い」

#ナレーション

と、ぽつり一言。

#ナカミチ

(そうだな)

#ナカミチ

(ん?)

#ナレーション

未だ声が聞こえるような距離ではないが家からずっと思っている言葉だったからかスッと耳に入ってきた。

#???

「―――、―――――――――――――――――――とは思えません。

気が変わったので家に戻ります」

#ナカミチ

(気が変わった?)

#ナカミチ

(いや、気が変わった変わっていないの問題で帰ってはいけないだろう)

#ナレーション

体調でも変わったのだろうか。それなら納得がいく。

#生徒会長

「このみ。そんな理由で学校は休むところではありません。そもそもこれ以上休ませるつもりはありません。進級に必要な出席日数が足りなくなります」

#このみ

「いやです。家でゲームをします」

#ナレーション

開き直りというやつだ。よくない。

#生徒会長

「夏休み明けで学校復帰にはちょうどいいでしょう。このみの場合、ちょうどいいとかいう話でもないですが。両親は学校側に体調不足として連絡してくれていますから体面も気にしなくていいですしね。まぁ、先生方も本当のところはわかっているはずですが」

#ナレーション

会長は複雑そうに顔をしかめながら妹にたしなめの言葉をかける。

どうやら体調不良すら嘘らしい。なにが『すら』なのかわからないがすごい量の嘘を言われた気分であるから使い方として間違いではないだろう。

#このみ

「姉さんにしては珍しく皮肉っぽく言いますね。別にクラスメイトに対する体面はそんなに気にしていません。今更いい子ぶるつもりはありませんし。まぁ、ありがたい話ではあります」

#ナレーション

ここにきてさらに評価を下げていくとは恐れ入った。

#このみ

「姉の献身的な態度に妹は感動しました。両親同様に早々にあきらめて学校へは体調不良と説明しといてください。じゃ、帰ります」

#ナレーション

悪人というよりクズである。

#ナカミチ

「……。」(衝撃的な話に足が止まっていた……)

#ナレーション

衝撃的?かは知らないが早々に通り過ぎるべきだと判断し足を速める。

#生徒会長

「もう家にはだれもいませんよ。両親は仕事に出かけたでしょうし。帰ったところで鍵を持っていないあなたでは家に入れません」

#このみ

「……ぐ、ぐぅぅ」

#ナレーション

クズというより小物であった。

#このみ

「…………鍵を渡してください。お姉さま」

#生徒会長

「両親のことを小馬鹿にするような妹の言う事は聞きません」

#このみ

「……。」

#ナレーション

ぐうの音も出なくなった。

#ナカミチ

(話の大部分を聞いてしまった……)

#ナレーション

意識せずとはいえ行ってしまった盗み聞きに対しまっとうな罪悪感を抱いている我らが主人公であったが一方、罪悪感を一番感じなければならない小物の心境はいかほどであろうか。

#ナレーション

校門にそそくさ入っていくと校舎から担任のくぜ先生がしかめ面で校門に向かっていくのが見えた。担任の先生が来たのであればあとはなるようになるのだろう。よかったよかった。

 

 

 

#ナレーション

教室に入る、

#

「数学Aの宿題まだ写してる!?」

「もう少しなんで待ってください!」

「書き写した方はこっちに回してくれ!僕もまだなんだ!」

#ナレーション

凄まじい喧騒である。この男、静けさとは無縁であるようだ。かっこいいねとでも言っておこう。

#

「この時に彼がどう思っているかという問いですが、『兄として守る』です」

#

「泣けた」

「泣けた」

「帰りにこの話の本買って帰るわ俺」

#ナレーション

まとまりの強いクラスであるなぁ。

#

「俺の自由研究2人ぐらい共同研究に出来るけど昨日入りたいって言ってたやつ誰だっけ」

「はい!」

「はい!」

#

「じゃ、約束通り俺の漢字と英単語の書き取り手伝ってね」

「ぐわー」

「ぐわー」

#???

「ふひひ。クラスの宿題提出率を100%にするのも風紀委員たる私の務め!」

#ふうき

「『手段無用!宿題殲滅ぅ!』の企画は間違ってなかったね!」

#

「あいつの風紀ってなんか倫理的に間違ってるよな」

「しっ!あれはつっこみ待ちよ。触れたら負けだからほっときなさい……。」

#ナカミチ

(他のクラスに比べたらいいクラスなんだろうけどなぁ)

#ナレーション

頭の上を飛び交う問題用紙に気をつけながら席に着く。

#ナレーション

彼自身も残っている家庭科の宿題を終わらせるかと考え鞄を開ける。

自由に料理をしてレポートとして提出するというものだ。料理したはいいもののレポートがまだなのであった。

 

#ふうき

「ナカミチくん」

#ナレーション

前の教卓でふひひとか言っていた風紀委員さんである。

#ナカミチ

「風紀さんおはよう」

#ふうき

「はい!おはよう!」

#ナカミチ

(なんでふひひとかへんな笑い方するんだろうな。趣味なんだろうけど)

#ナレーション

とか失礼なことを考えながら彼は挨拶をした。

#ふうき

「ナカミチくんなんでみんなよりくるの遅かったのかなーー?」

#ナカミチ

「いやいや!ちょっとまって風紀さん!手段無用宿題殲滅作戦は10分後だろう!」

#ふうき

「だよねぇ!私もさっき来たらみんなから風紀さんおっそーい。とか、企画者がそれでいいの?とか言われたんだよ!?ひどくなーい!?あと『手段無用!宿題殲滅!』が正式名称だから作戦という言葉はつけないよ」

#ナカミチ

(えぇー……)

#ナレーション

つまりこうだ。

#ナレーション

現在時刻7時半。始業式は9時00分からである。昨日、風紀さんはホームルームが8時30分から始まると考え『手段無用!宿題殲滅!』の企画開始時刻を7時40分に決めた。クラスメイトに連絡したのち、えへへ!明日はお祭りだね!とでも思いながら就寝したわけだ。おそらく。

#ナレーション

さて、本日。企画者だから早めについとこうと学生らしく10分前行動を行った風紀委員さん。だが、開始より10分早いぐらいでは、一時間前ぐらいに開始では自分の残っている宿題を片付けられないと思ったクラスメイトは早々に学校についていたのだ。その数20名。

#ナレーション

ひどい数だ。

#ふうき

「いやー、想定以上に宿題をやってない人が多かったよー。企画自体は間違いじゃなかったね。大盛況ってやつ?」

#ナカミチ

「そ、そうだな」

#ふうき

「宿題をやってる人はやってる人で真面目だから20分前についてたりしてたんだよね」

#ふうき

「だから私がクラスに着いた順ワーストツー」

#ナカミチ

「で、俺がワーストワンと言いたいのか……。」

#ふうき

「ナカミチくんが気を利かしてくれなかったら私、企画だけして放り投げるひどい子になってたよ。ふふふ。遅れてくるかっこいいヒーローだね」

#

「ナカミチー。遅いんじゃないかー?」

「かわいらしく遅れてきてクールぶっても似合わないわ。」

「まぁクールってのが似合うってわけでもなー、それより数Aの問題集はやく」

#ナカミチ

「だまって宿題してろ!」

#ナレーション

彼はカバンに入れていた数Aの問題集を渡しながらもう少し早く来るべきだったかなぁと思う。

#ふうき

「ふふ。で、ナカミチくんは宿題は全部終わってますか?手伝えますか?それとも手伝ってほしいですか?」

#ナレーション

手伝わないという選択肢がない気がするが、きっと気のせいだ。

#ナカミチ

「手伝えるよ」

#ナレーション

家庭科の宿題提出は今日ではない。家庭科の授業時に提出である。来週だ。

#ナカミチ

(家に帰ってからやるか)

#ふうき

「釣れた釣れた」

#ナカミチ

(釣られたらしい)

#ふうき

「ほんじゃさいかちゃんを手伝ってね」

#ナレーション

風紀さんが指をさした方を見る。すでに3人手伝っているようだ。

#ナカミチ

「さいかさんを?」

#ナレーション

宿題をやってこないタイプにはみえない。ひと夏で変わってしまったというやつだ。見た目は変わらずおとなしそうなのに……。

#ナカミチ

「あ、いや……そうか」

#ふうき

「うーん。夏休みの間は塾と塾の宿題と家庭教師と家庭教師の宿題と親と親からの宿題で手いっぱいだったらしい」

#ナレーション

親というところに闇を感じざるを得ない。

#ふうき

「私の推定だと毎日5時間ぐらいの睡眠時間だったんじゃないかと思うよ」

#ナカミチ

「そうなのか?」

#ナレーション

よくみたらさいかさんの眼の下にはくまができている。でもきっとやさしい彼女自体は何も変わっちゃいないはずさ。

#ナカミチ

「ま、しっかり手伝ってくるよ。風紀委員さん」

#ふうき

「よろしくー」

#ナレーション

そういうと風紀さんは教卓の方に戻り、全体の総指揮へ戻った。

#ナカミチ

(ま、がんばりますか)

#ナレーション

頑張る理由は彼もまたそれなりにいいクラスのクラスメイトだからだろう。クラスのためにしゃーなしってやつらしい。

#ふうき

「宿題を手伝ってもらった残念さんはクラスの掃除当番シフトを3割増しかなー」(ボソッ)

#

ざわっ……

#ナカミチ

(風紀さんもクラスのために頑張ってくれているようだし)

#ナレーション

3割増しを聞いて、くまができている目が白眼になった子もいましたが今日もおおむねいいクラスです。

 

 

#ナレーション

50分後

#

ガラッ―――

#ナレーション

担任のくぜ先生ご到着である。

#くぜ

「席につきなさい」

#ナレーション

言われなくても宿題を殲滅し終えた生徒たちは椅子に身を預けていた。疲れ果てていたのだ。約一名元気に『イエスマム!』とか叫んでいた風紀委員の誰かがいたが一切の例外なく全員スルーの方向だった。号令とともに立ち、挨拶、座るとこはしっかりとやった。

#くぜ

「全員いますね。今日は全校集会と宿題の回収、それとプリントの配布でおわりです。終わったら寄り道せずに帰りなさい」

#ナレーション

以上ホームルーム終わり。いつもこんな感じである。

#くぜ

「後、長らく休んでいた子が今日から登校できるようになりました。入ってきなさい」

#ナレーション

そういえばいつもと違う事が朝にありましたな。

#

ガラガラガラガラ―――

#ナカミチ

(やっぱりそうなのか)

#ナレーション

ゆっくりと扉を開けて入ってきたのは憂いな目をした病弱な女の子に見えかねないただの不摂生な女生徒である。

#くぜ

「一応自己紹介をしなさい」

#このみ

「寿(ことぶき)このみです。よろしく」

#くぜ

「では後ろの空いてる席に座りなさい」

#ナレーション

自己紹介が終わった。このみさんの情報以上で終わりらしい。

#ナレーション

このみさんも何も問題ないといった感じで席に向かう

#ナレーション

クラスメイトの勘のいい人間はまーた濃そうな人間が増えたぞと早々に病弱な感じではないと悟っていた。

#ナカミチ

(風紀さんがおとなしいな……)

#ナレーション

いつもだと何かしらすると思われているらしい。風紀委員もさすがに心外であろう。おとなしくしている。

#ナレーション

というよりなんか固まっているという感じである。

#くぜ

「では始業式までの時間、やれる事をやりましょうか」

#ふうき

「――――。」

#ふうき

「先生!席替えをしましょう!」

#くぜ

「あ゛ん?」

#ナカミチ

(あ゛んって……)

#ナレーション

くぜ先生は基本面倒くさがりである。周知の事実だ。担任としての態度を保って先ほどのレベルである。気を抜くとこれだ。

#ふうき

「……。」

#ナカミチ

(?どうしたんだ?)

#ナレーション

いつもなら彼女は意味のあるようなないような発言をすらすらと言い並べるところである。

#ナレーション

ちなみに一番意味のない発言を振りまくのはこのナレーションである。このナレーションが主人公の内心だとか最後に新キャラとして出てくるとか難解な伏線だとかそういうたぐいのものではないからがっかりしててきとうにそれなりに信用して読んでくれたまえ。今後ともよろしく。

#ナレーション

しかしそのような意味のあるようなないような発言を言わないとなると。

#ナカミチ

(完全に思いつきだろうか?それもだいぶあわてて発言したらしい)

#ナレーション

こういう時の沈黙は長くなればなるほど違和感と不信感を増していく。

#ナカミチ

(幸い今さら彼女に対して不信感を持つクラスメイトはいないが……)

#ナレーション

よくわからない行動原理で計画をして、いらない騒動が時々巻き起こる事はあれどいやがらせの類等を行う奴ではない……と思う。というのが彼女の一般的な評価だ。実際これまでそうであった。ように思われたが良く考えたらいらない騒動は頻発してる感じがする。

#ナレーション

だが、だからと言って全ての行動が許されるかというと別だ。

#ナカミチ

(じっさい『手段無用!宿題殲滅!』の企画なんて学校側からしたら到底許されるものではないと分かっちゃあいる)

#ナレーション

いやー、許されるとか言う話ではない。へたすりゃ退学うんぬんレベルの話である。彼女がそれをわかってやっているかどうかはよくわからない。本人に聞くしかないが。

#ナレーション

この辺の甘さは学生故の若さというところだろうか。

#ナカミチ

(しかし別に席替えならくぜ先生も拒まないというか拒めないだろうけども……?)

#ナレーション

1学期のあいだ1度席替えをしたっきり席替えをしなかったのはおそらくくぜ先生がめんどくさがったからだろう。
#
ナカミチ

(おかげで横がずーっと風紀さんでやかましかったが)

#ナレーション

しかし、こうして生徒から要望が出た以上拒む方があと後めんどくさい事になりそうであるね。

#ナレーション

くぜ先生もいぶかしんでいる。教師である以上ろくでもない事をみすみすされてはいけないということだろう。別にろくでもないことかどうかは知りませんが。だが拒む理由も特にない。風紀委員の要望は通るだろう。

#くぜ

「分かりました。では帰りのホームルームに席替えを行いましょう」

#ふうき

「…………。」

#くぜ

「では始業式まで時間がありますし、」

#ナカミチ

「―――!」

#ナカミチ

「先生!せっかくですから今やりましょう!」

#ふうき

「!そうですよぅ先生!始業式までの時間で席替えぐらい終わりますって!」

#

「――!」

#くぜ

「――――。」

#ナレーション

説明が必要だろう!つまりナレーションの出番だ!今クラス内で凄まじい攻防戦が行われているのである!そしていまや先生1人対クラス生徒である!……先生不利すぎない?可哀そう。

#ナレーション

つまり、まだ理由こそ説明されていないが風紀さんは席替えを行いたい。それも絶対に。しかも今すぐに、である。

#ナレーション

ひとまず適当な理由が席替えだったのであろう。本命は始業式までの時間をつぶす事だ。始業式までの時間をつぶす案として適当というより最適な席替えという理由を見つけた風紀さんはとりあえず叫んだものの今すぐする理由のほうは(つまり必要性を)明示できなかった。

#ナレーション

できなかったというよりそこまでとっさに考える事が出来なかった。となるとあとは担任のくぜ先生がいますぐやると言うかどうかという賭けになる。

#ナレーション

面倒くさがりのくぜ先生に対して歩の悪い賭けである。もっとも数秒で案を考えてすぐ実行に移せたのはすごい精神力の持ち主というか才があるというか。まぁつまり、普通できないすごいことである。だがくぜ先生とくに今やるとか後でやるとか意識せず始業式後を選択。おわり。

#ナレーション

終わった。終わったのだよ、何もかも……終わった……。

#ナレーション

――様に見えたが、主人公のナカミチ君が気づいてアシスト。風紀さんすぐに席替えをする事がクラスの民意であるとする計画を立案、実行。出来る限り自然にクラスメイトを誘導。というより伝達を行う。ここまで来るとこわいね。なんか。

#ナカミチ

(だがくぜ先生もこの伝達に気づいてないはずがない!)

#ナレーション

実際のところでいうとくぜ先生は主人公のナカミチ君が気付いたあたりで風紀さんが今すぐ席替えを行いたがっている事に気づいている。さすが。

#ナレーション

そこを察して自然な伝達という強引な方法を行おうと決断した風紀さんも風紀さんである。

#ナカミチ

(風紀さんも強引に進めたな。伝達によって完全に気付かれた上での勝負に持って行ったのはこわいなぁ……)

#ナレーション

ハズレ。先ほど述べたように伝達があろうが無かろうが先生なら気づく。主人公のくせに抜けてるんだから。おそらく彼が気付けたのは風紀さんが横という近くであわてていたからというところが大きい。くぜ先生と風紀さんの勝負自体はもう一段階高いレベルで行われていると考えた方がいいだろう。ひゃあこわい。

#ナレーション

はじめこそ仕掛けた側の風紀さんが不利であったがアシストの影響もあり多対一に持ち込んだ風紀さんはほぼ勝ちが決まったと言っていい。うーんこわい。

#

「たしかにそろそろ席替えしたいよねー」

「ずっと前の席ってしんどかったんだよー」

「ちぇー。後ろの席ともお別れかー」

#ナレーション

アシストが入り始め――

#くぜ

「静かにしなさい」

#

「!!」

 

 

#ナレーション

先生からの小さく鋭い言葉である。陽動とは別の制圧によって場の雰囲気を引き寄せる。ほぼ勝ち確定は終わりました。戦況なんざ実際読めねえ。完全にくぜ先生からのお言葉攻撃がダイレクトアタック。人間としての年季が物をいった形だ。別にくぜ先生が若くないと言っているわけではないでゴザル。許して。

#くぜ

「ナカミチさん」

#ナカミチ

「は、はい」(おいおい。俺かよ。いやだなぁ)

#くぜ

「始業式まであと15分ほどです。最初から思っていたわけではありませんが、席替えという、かかる時間が長くて読みにくい事を始業式という行事ごとの前に急いでするべきではありませんね?」

#ナカミチ

「ええと。まぁおっしゃってる事は正しいと思われますが……。」

#ナレーション

緊張が声に出ている。わかりやすい。

#くぜ

「ですがナカミチさんはせっかくだから今席替えをと言いました」

#ナカミチ

「はい。そうですね」(そうだっけ……?あわてて言ったからよく覚えてないぞ……)

#くぜ

「ただ単に今すぐ席替えをしたいという事であれば始業式に間に合わないかもしれないということで教師として認めません」

#ナカミチ

「……はぁ」

#ナレーション

はぁ。ではないぞ。彼は今自分が置かれている状況が分かっているのだろうか?

#ナレーション

だが実際くぜ先生は巻き返したと見ていい。情勢を多対1から1対1にまで戻した。それも議題の『今席替えをするべきだ』という意見に対し明確な拒否を示した。明確な理由を添えてだ。

#ナレーション

さらに議論の場から風紀さんを完全にシャットアウトした状態にした。こちらも明確に理由を述べて。こりゃ結果は決まったわ。さすがに彼にはこの案件、荷が重かろう。ま、若いうちの苦労という奴だ。これをばねに成長したまえ。えっへん。

 

#ナレーション

別に彼が若いと言っただけだ。相対的にくぜ先生の年齢を話題にしたわけではない。彼女はまだ20代だ。20から29の間である。詳細はしらん。しらんしらん。ええい。しらないと言っておろう。そもそも20代も30代も現代でいえば若いだろう?ええい実は30代じゃないかとかそういう邪推はやめるでごじゃる。

#くぜ

「ナカミチさん。私が気付いていない、席替えを今しないといけない理由があるのでしょうか?」

#ナカミチ

(つまり席替えを今しないといけない理由を述べろと?……無理だ!いや、何とかするしかない!)
#
ナレーション

どうも答えというか勝ちの目はあるようである。彼はそう判断する。目の前の教師はじっとこっちを見ている。風紀さんはこっちを見ている。この二人の視線は他のクラスメイトと違ってまだ勝負が続けられる、続きかねないといった感じをもっているのである。

#ナカミチ

(そこまでしかわかんないよ!)

#ナレーション

風紀さんが不安そうな、そんな感じの目をしている。

#ナカミチ

「ええ。そうです」(不安視するのはとうぜんだよなー。正解が全く見えない)

#ナカミチ

「今やった方がいいと思います。…そう思うのは、」(ああ!言葉が続かない!くそっ!わかんねぇ!)

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

ぐうの音も出なくなった。

#ナレーション

だが彼は考えていた。でもまったく違う事を。まあ追い詰められているというのに。いや、追い詰められているからだろうね。

#ナカミチ

(きっとあの時のあいつと同じような顔をしてるだろうな)

#ナレーション

さすがについさっきの彼女より今の君の方が戦っているぐうの音は理由が崇高だから。うん。

#ナレーション

彼はちらっと彼女の方に目を向けた。

#このみ

 

#ナカミチ

(ああ。そうか彼女を――)

#ナレーション

利用すればクラスメイト側の勝利である。風紀さんの考えていることがクラスメイトのためにやっていることであればという前提ではあるが。まぁそのへんは問題ないだろう。

#ナレーション

残念ながら出来ない話である。彼は他人を利用するような男ではないし。利用できるような度胸もないし。

#くぜ

「…まぁ。言い方がまずかったかもしれません。答えられないことを無理にこたえる必要はありませんよ」

#ナレーション

タイムオーバーである。風紀さんは納得してるような顔だし、他のクラスメイト達もしゃーないという顔である。だれも彼を責めないだろうし評価は上がったんじゃないかな。

#

「席替えですか」

#このみ

「楽しそうですね」

#くぜ

「……。」

#ナレーション

許可が降りた。

#ナカミチ

「先生」

#くぜ

「なんですか」

#ナカミチ

「そう思うのは…。…せっかくだからと申し上げたのはこのみさんのためです」

#ナカミチ

「せっかくクラスメイトになったというのに教室の端っこに追いやられていた空席に座らせて終わりというのはどうかと」

#ナカミチ

「ですのでせっかくですから席替えをと申し上げたのです」

#ナレーション

勝ち。

#くぜ

「そうですか。それはそのとおりです。ナカミチさんには最初からそう思ってたにしろ言いづらい事を言わせてしまいましたね。私が気付いて配慮するべきでした」
#
ナカミチ

(うっわ。すっごい歯の浮くような事言ってたな俺)

#ナレーション

クラスメイトからの生温かい目。いや、可哀そうという憐みの目である。

#ナカミチ

(あいつ……)

#ナレーション

ちらりと見たが病弱っぽい不摂生なだけの奴はというと笑いをこらえるのに必死といった感じである。

#ふうき

「どんまい!!」

#このみ

「あーっはっはっはっはっ!」

#ナカミチ

(ついに笑い出したぞあいつ)

#ナレーション

ついに笑い出したぞあいつ。

#

「あーあ、笑われてるよ」

「本気にされてないようだぞ、ナカミチ」

「あわれ……。」

#ナカミチ

「やかましい……!」

#ふうき

「まぁまぁ!じゃあ先生!席替えの方進めていきますね!」

#くぜ

「そうですか。お願いします」

#ナレーション

風紀さんの号令で席替えが進んでいく。

#ふうき

「席替え用のくじできた?じゃあ席替え用のくじ製作委員会解散!できたくじは教卓上の箱に入れて!」

#ナレーション

どうやらくじ引きによって座る席を決めるようである。くじを入れた箱がよく振られる。混ざれ混ざれ。

#ナレーション

物事は順調に進んでいるのにあわただしく騒がしい。とりあえず新しいクラスメイトが一人増えた。

 

 

#ナレーション

くじ引きも終わり机ごと全員が指定された場所へお引っ越し。

#ナレーション

ガタガタと騒がしい中、我らが主人公はというと。

#ナカミチ

(また一番前の席かよ!)

#ナレーション

そうです。いままでずっと一番前の席にいたのです。明かされる衝撃の事実。

#ナカミチ

(しかもまたとなりが風紀さんか!)

#ナレーション

やかましいね。ご愁傷さま。

#ナカミチ

(そしてもう一個の隣が)

#ナレーション

寿このみさんです。はくしゅ。いや、もうわかってたでしょ。のがれられねぇよおめぇさん。

#ナカミチ

(で、またなんかやってたっていうね)

#ナレーション

動いてる最中、風紀さんはこのみさんに何か聞きに行って固まりました。それ以外はつつがなく終わり、始業式のため体育館へ行く時間になりました。

 

 

#ナレーション

あれから時は流れ幾星霜、つまりいわゆる10分後。彼ら、ナカミチ君と他3名が屋上にいる。始業式は体育館にて行われています。

#ふうき

「えー。準備ができたね」

#ナレーション

屋上には机が4つ。かばんが数個。あとなんかおっきなパラソル。机と椅子はセットなようで椅子もあった。

#ふうき

「では風紀委員会主催『手段無用!宿題殲滅!えくすてんど!』の開催を宣言するよ」

#ナカミチ

「それをするためにあの大騒動か」

#このみ

「大山鳴動して鼠一匹」(ぼそっ)

#ナカミチ

(おまえが言っていい言葉ではない!)

#ふうき

「いやほんと宿題回収されなくてよかったよ……。」

#ふうき

「あのままじゃ宿題提出率は100%にならなかったからね。あぶなかった……。ま、これからが忙しいんだけどね」

#ナレーション

どういうことか説明しよう。それが私の役目ってやつらしい。

#ナレーション

このみさんがクラスで挨拶をしているとき風紀さんは何か引っかかってました。頭では歓迎の仕方を考えながらも奥底で何かうまくいってないぞとアラートが鳴っていたのです。あっ!宿題!と気付く。宿題をやってきているのか誰も把握していません。さっきというかたった今来たんだし。そらそうだ。

#ナレーション

もしやってなければクラスの宿題提出率は100%ではありません。しかもどうもやってきている感じがしない。勘だが。

#ナレーション

そんなことを考えていたらこのみさんの自己紹介はさっさと終わりくぜ先生が他のことをしだそうとする。宿題を回収されたらおそらく終わりである。手段無用!宿題殲滅!の企画は失敗だ。今、回収されることは阻止しなければ!で、席替え騒動。

#ナカミチ

「しかし提出率100%のためにここまでやる必要があるのか?宿題をやる時間が今しか無いからって始業式を抜け出して」

#ふうき

「それはナカミチ君。もうこの企画は全員でやり遂げようとしたことだからね。これで失敗というのは後味が悪すぎるってやつだよ」

#このみ

「やつだよ」

#ふうき

「おっ。もううちのクラスの乗りについてこれてるね。ナカミチ君よりも。才能ってやつだね。ナカミチ君見習って」

#ナカミチ

「ええー」

#このみ

「まぁ何となくノリってやつはわかりましたね」

#さいか

「あのー。ナカミチ君が連れてこられたのはなんとなくこう理解できるのですが私はなんで連れてこられたのでしょうか……。」

#ナレーション

あれ。さいかちゃんですね。なんでこんな修羅につれてこられているのか。疲れ切ってるのだからそっとしてあげてもよいのでは。えっ誰って夏休みが塾と家庭教師と親で忙しかった子ですよ。影が濃くないのは仕様です。わりと使いやすいキャラ立ち位置。

#ふうき

「……。」

#ナカミチ

「……。」(俺が巻き込まれるのはわかるのか……)

#このみ

「それはきっと癒しキャラとしていてほしかったんだよ。ほらおひざにおいで」

#ナレーション

3つある椅子の1つに座って自身の太ももをぽんぽんする。おいでおいでである。

#ふうき

「いや、さいかさんにもフルで手伝ってもらわないと終わらないから!マスコットキャラで呼んだわけじゃないよ!それにちゃんと理由もあるよ!」

#このみ

「うーん。私の宿題のことで申し訳ないと謝るべきなのかな……。」

#ナカミチ

「微妙なとこだけどな……勝手にやってるだけのところがあるし」

#ふうき

「うーん。あんまり言いたくないんだけど、さいかさんを呼んだのは一番宿題をやってなかったからだよ。うん。そういうのって大事」

#このみ

「そんな子に見えないのだけど」

#ナカミチ

「君と違ってな」

#このみ

「……。」

#ナカミチ

「いや、言い過ぎた。申し訳ない」

#このみ

「いやー。気にしてないよ。さいかさん、風紀委員さん、2人とも宿題手伝ってくれてありがとうね」

#ナカミチ

「……。」

#さいか

「しゅ、宿題始めましょうか」

#ふうき

「そうだね」

#このみ

「はーい。よろしくおねがいしまーす」

#ナカミチ

「…で、宿題はどれくらい残ってるんだ」

#このみ

「全部です」

#ナカミチ

「全部か。夏休みなにしてたんだ」

#このみ

「女の子のプライベートを何だと思ってるんですか?聞いたら全部答えが返ってくると思わないでください」

#ナカミチ

(こいつ……)

#ふうき

「まぁ私も初めて聞いた時は固まっちゃったよ。このタイミングで1人分の宿題全追加かーって」

#ふうき

「よいしょ。はい。さいかさんは数学と国語よろしく。あっ、こっちに座ってね。きれいな方の椅子をどーぞ」

#さいか

「あ、ありがとう」

#ふうき

「で、私が理科と社会。ことぶきさんは英語ね」

#ナレーション

このみに数冊の英語の問題集を渡しながら自身も席に座る。

#このみ

「このみって呼んでいいよ。ことぶきだとなんか仰々しいし、姉もいるから混同しちゃうしね」

#このみ

「ところでさいかちゃんの名前はわかったんだけど風紀委員さんの名前はなんていうの?みんな風紀さんって呼んでるからわかんないんだけど」

#ふうき

「えへっ。私の名前は白野(しろの)風紀っていうんだ!よろしくねこのみちゃん!」

#このみ

「あぁ……。風紀さんで名前よびにもなるんですか……。」

#ナレーション

いい名前だなぁ。

#ふうき

「じゃあ後のこまごましたやつはナカミチ君よろしく!」

#ナカミチ

「わかったよ。ところでさ」

#ふうき

「椅子が足りないとか見たらわかることで愚痴るのは男としてどうかなー」

#ナレーション

言う前に潰されてますよあの人。

#ナカミチ

「女性らしいあなた方に譲ります」

#このみ

「いやー。男らしいですねぇ」

#さいか

「あはは……。でも机とか屋上の入り口前にあってよかったですね。やりやすいです。でもこのパラソルはどうしてここにあるんですか……?」

#ナレーション

屋上には机と椅子と残暑厳しい直射日光から守ってくれる大きなパラソルがセットされて、風の吹き抜けが涼しささえ感じさせてくれる。うそです。ぎりぎり熱くないと言い張れるレベルだ。パラソルは今にも飛んでいきそう。

#ふうき

「何かあった時のために使えるかもと1学期の時、使われていない机とかが収納されている空き教室から運んどいたんだよ。椅子は1個どっかいったけど。備えあれば憂いなんちゃらってやつだよ」

#ナレーション

用意周到。パラソルについての説明は一切なかった。

#ナカミチ

(そういえば屋上の扉を当然のように開けていたな)

#ナレーション

屋上からの落下防止の安全対策として屋上は普段カギがかかっているのである。どんな学校でも普通はそうだろう。しかし一般生徒の風紀さんは屋上のカギを持っているわけがない。盗んだり複製したりしていない。汎用小型カギ開け道具を持っているだーけ。使ったとは言ってない。まぁ普通は持ってない。

#ナレーション

全員宿題にとりかかっていく。始まってしまえば所詮処理作業。タイムアタック、孤独な戦いである。

#ナレーション

1人は数学の宿題を書きうつし、1人は英語の和訳を自身で訳したかのようにアレンジして書きこみ、1人は音楽感想文と美術品への感想文にどうしろというんだと頭を抱え、1人は理科の自由研究の為に虫眼鏡で紙を燃やしていた。

#ナレーション

10分後。

#ナレーション

1人は朝から続く大量の宿題処理に頭をオーバーヒート、1人は他の教科と比べた際の英語の宿題の多さにグローバル化って楽だなーと思い、1人は音楽感想文を無理やり終わらせて白紙の美術品への感想文に対し本格的に頭を抱え、1人は自由研究の為に浮かした小さな熱気球をインスタントカメラで撮影し現像していた。

#ナレーション

さらに10分後。

#ナレーション

1人は自身のメンタルと最終戦争、1人は宿題量の比率から学校教育と向き合い、1人は教科書の美術品写真から見に行ったと自己暗示して感想文、1人は社会の問題集をすごい勢いで書きこんでいる。理科なら終わった。小さな熱気球は風にあおられて落下。屋上の隅で燃え尽きた。

#ナレーション

そこから10分後。

#ナレーション

屋上には誰もいない。静けさを取り戻していた。ちょっとさかのぼろうか。

#ナレーション

というわけでの5分前。

#このみ

「割と余裕持って終われたね」

#ふうき

「いや、ぎりぎりだからね?」

#さいか

(ぷしゅー)

#ナレーション

机に突っ伏しておられる。人には休息が必要だ。いや、ほんとに。

#ナカミチ

「お、おい。だいじょうぶか?」

#このみ

「ハイがヒートでショート?」

#ふうき

「御苦労さまとしか言いようがないかな……。」

#ふうき

「さて!もうちょっと休んでおきたいというか休ませてあげたいというか。ま、そう思うんだけど始業式が終わったみたいだしクラスのみんなと合流しないとね!」

#ナレーション

風紀さんが屋上から体育館の方を見て言う。始業式が終わったのだろう、中から生徒が出てくる出てくる。

#ナレーション

つられるように全員体育館を見る。

#このみ

「あれ全部同世代なんですね。昔、私の変わりなんていくらでもいるって言葉を聞いた事があります」

#ふうき

「若者としては反抗したくもなるよね。また引きこもる?」

#ナレーション

風紀さんわかってる。そう。ただの引きこもり。

#このみ

「いや、今てきとうに言っただけで別にそんな崇高な理由で引きこもったわけじゃないんですがねー」

#さいか

「え?引きこもるって、病気で休んでたんじゃないの……?」

#ナレーション

そうです。病弱設定などございません。

#ナカミチ

「理由なんてそれこそ人の数だけあるって言うだろ。いいから早くクラスと合流するぞ」

#ナレーション

体育館から自分たちのクラスらしき集団が出てくるのが見える。

#このみ

「はぁ。つまんない男ねー」

#ナカミチ

「うるさい。そのしゃべり方にあってねーぞ」

#このみ

「明日引きこもってたら君のせいですから」

#ナレーション

どんな脅しだ。

#ふうき

「はぁ。つまんない男ねー」

#ナカミチ

「お子様体型が言ってもなー」

#ふうき

「ひどい!夏休みで身長伸びたんだから!おぼえてろよー!」

#ナレーション

こわい。きっと何もしてこないが。たぶん。

#さいか

「……。」

#ナカミチ

「いや、無理しなくていいから」

#さいか

「いえ、私は初めから言うつもりはありませんでしたからね!?」

#ナレーション

ほんとですか?信じろ。

#このみ

「ま、手伝ってくれて感謝してます。ナカミチ君もね」

 

 

#ナレーション

なんやかんやでひと騒動も終わり、その後クラスと合流。やっと一息つけた4人組。いや、クラス一同。

#ナレーション

だが今日はもうちょっと続く。具体的には我々の感覚で5分から10分?

 

 

#ナレーション

教室に戻り宿題が回収される。あっというまである。それこそ5分もかからない。

#ふうき

「あれだけやってこれだもんねー。きっと思い出がプライスレスなんだねー」

#ナレーション

左の席から声が聞こえる。

#ナカミチ

(そのひとりごと俺が反応しないといけないのか?)

#ナレーション

べつにどっちでもいいよ?汝のしたいようにすれば?選択肢とかあるハイレベルなゲームじゃないからさ。ローレベル、ローコスト、ローストビーフ。ナレーションは見ているだけ。

#このみ

「私もこれから一緒にみんなと思いでを作っていけるんだ……!」

#ナレーション

もうひとつの隣の席から声が聞こえる。右の席からだ。

#ナカミチ

(ツッコミ待ち多すぎない?)

#ナレーション

よりどりみどりである。両手に花だな。うらやましー。がんばれよ。

#ナレーション

同じように無視してもいいが一応彼女は初登校日だ。とでも思ったのか反応を返す。

#ナカミチ

「何パーセントぐらい本気で言ってるんだ?」

#このみ

「…2。いや、4……?」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

まったくのうそっぱちじゃなかっただけましだろう。

#このみ

「おまけで5にしましょうかしら。うふふ」

#ナレーション

同じように無視することに決めた。

#ナレーション

宿題回収も終わり後は解散だろう。

#ナレーション

すでに浮き足立ってる生徒はたくさんいる。

#ナレーション

特に右の子はわかりやすい。帰って遊ぶぞー!という感じである。

#ナカミチ

(喜怒哀楽が出すぎてないか?)
#
ナレーション

出ないよりいい。悲しい事実だ。

#くぜ

「静かにしなさい。最後に決める事があります」

#ナレーション

なんかあるってよ。だれだよ後は解散だろうっていった奴。

#ふうき

「……。」

#くぜ

「長らく空いていた委員長の役職ですが。このみさんにしてもらえればと思っています」

#ふうき

「……なるほど。それなら問題がないなぁ」

#このみ

「問題?というか初耳で話が勝手に進んでて不安なんですが。じゃ、解説役のナカミチ君教えていただけます?」

#ナカミチ

「いやだ」

#くぜ

「いつのまにかすごく溶け込んでますね」

#このみ

「みんな親切ですから。ねっ」

#クラスメイト

「だってよ。ナカミチ」

「名指しで頼られるなんてよかったじゃない」

「ちゃんとナカミチが教えてくれるだろう」

#ナカミチ

「……。」

#ふうき

「本格的にすねちゃったよ……。」

#ふうき

「うーん。まぁ仕方ないね!ここは真の解説役たる私。前委員長の白野風紀さんにお任せを!」

#くぜ

「貴方がしゃべると長くなるのでナカミチ君おねがいします」

#ナカミチ

「わかりました」

#このみ

「いいこですね」

#ふうき

「権力に弱いんだよ」

#このみ

「いや、美人さんに弱いのでは?」

#ふうき

「それ遠まわしに自分が美人だって言ってるの……?」

#ナカミチ

「さっき風紀さんが言ってたように前の委員長は風紀さんだったんだがな、」

#くぜ

「その調子です」

#ナレーション

無視して説明しろと教師からの後押しがあり完全に無視して解説を始める我らが主人公。解説までされるとナレーションの立場ってどうなるの?マスコットかな?

#ナカミチ

「1学期の間、委員長だった風紀さんのかじ取りでクラスが動いていたんだよ。だけどまぁ問題視されてな。わかるだろ?」

#このみ

「今日はじめてきたのでちょっとわかりかねますねぇ」

#ナカミチ

「あぁ。そうだったな」

#ナレーション

今日起こった事は全て非公式である。表には出ない。このみちゃんは登校してみんなに挨拶して始業式に出て今、教室に居る。それだけ。

#ふうき

「……くふふ」

#くぜ

「……。」

#ナレーション

先生は完全に聞き流してくれたというところだろう。もちろん今ごろ詳細が分かっても証拠をあげるのはむずかしい。

#ナカミチ

「だけど雰囲気が問題視されているだけでそもそも処分されるような事はやってない」

#このみ

「あぁ。その様な問題点は見られないと」

#ナレーション

見られてないということである。

#ナカミチ

「だが実際にクラス全体で問題をおこしたのを見られてな……。それも学校中のほぼ全員の前で」

#このみ

「へえ。それはまあ大変ですね」

#ふうき

「…………。」

#くぜ

「……風紀さん?」

#ふうき

「……ふぇ!寝てませんよ!人がしゃべってる時は静かに聞くべきです!私だって黙ってることぐらいできますよぉ」

#ナカミチ

「…ま、まぁ、その時に責任をとって風紀さんが委員長から降りたんだよ。大ごとにしたくないしクラスの生徒全員処分なんてできないからな。初犯という事もあって一応、全体の責任者という立場の委員長が辞任すると風紀さんが説明して納得してもらったんだよ」

#ふうき

「説明には回ったけど説得してくれたのはくぜ先生だよ。私が辞めると言った時は言ったところで相手にされなかったよー」

#ナカミチ

「あぁ、そうだな。省いたらだめだったな」

#くぜ

「別にかまわないので早く説明をしてください」

#ナカミチ

「ま、まぁだけどクラス全員で問題を起こしたわけだからな。問題を起こした人が代わりに委員長をやるというわけにもいかなかったんだ」

#ふうき

「……実際は誰も私の後に委員長をやりづらかったんだよ。私としては副委員長だったナカミチ君にその後をお願いしたんだけどねー。彼も副委員長やめちゃって。委員長もしたくないって言われちゃってさ」

#このみ

「……はぁ」

#ナカミチ

「で、おそらくだが全く問題を起こしていないこのみさんに話が回ってきたんだ」

#このみ

「えー?今の話聞いてやりたいと思います?」

#ナカミチ

「思わん」

#くぜ

「はぁ……。」

#ナレーション

くぜ先生溜息。

#くぜ

「しかたありませんね。では今まで通り委員長の仕事はその日の日直が代理で行うという事で」

#ふうき

「はーい。じゃあきりーつ」

#くぜ

「今日の日直は風紀さんではないでしょう」

#ふうき

「えへ?そうでしたっけ?」

#クラスメイト

「たまにはいいんじゃないですか?」

「そーだそーだ」

「今回ぐらいはね」

#くぜ

「なにがどういう理由でいいのか分かりませんが」

#ナカミチ

「まぁせっかくですし」

#くぜ

「せっかくの意味がわかりません」

#このみ

「たのしそうですね」

#くぜ

「わかりました。もう何も言いませんからさっさと終わらせましょう」

#ふうき

「では!あらためまして!きりーつ!れーい!」

#

「ありがとうございましたー!」

#ナレーション

全員のあいさつが合わさる。今日来たばかりのこのみもしっかり合わせている。

#ナレーション

くぜ先生はやれやれといった顔である。

#ふうき

「かいさーん!」

#ナレーション

ようやく長い一日が終わる。

 

 

 

#ナレーション

靴箱にクラスの全員が押し掛け各自が曲芸のように人の隙間から靴を入れ替える。靴を人に当てずいかに早く帰るかという思いやりにあふれたようなそんな大層なものでもないようなそんな感じで生まれる光景であった。

#ナレーション

さすがに初見でついていけないらしいこのみさんがいる。

#ナカミチ

(よっと)

#ナレーション

ナカミチ君はなれている。というか初見を除いて全員なれている。

#クラスメイト

「今日は取りやすかったー」

「誰かの腕があたしの胸にあたったんだけど……。」

「あたるほどあってよかったね」

#ナレーション

一瞬で終わってはける。嵐は一瞬である。

#

「あ。このみ!」

#ナカミチ

(生徒会長だ)

#ふうき

「生徒会長だ」

#クラスメイト

「生徒会長だ」

「ほんとだ生徒会長だ」

「じゃあやっぱりこのみさんは生徒会長の妹なのかしら」

#ナレーション

生徒会長である。

#このみ

「どうしたんですか、生徒会長」

#生徒会長

「姉さん呼びで構いません。わかってやっているでしょう」

#ふうき

「私たちも姉さんって呼んでいいのかな?」(ぼそっ)

#クラスメイト

「身内以外の時、押しが弱いですよね」(ぼそっ)

「配慮するのはいいとして、無理してボケなくてもいいんじゃないですか」(ぼそっ)

「まぁあの生徒会長を前に躊躇してしまう方なのはわかりますが」(ぼそっ)

#このみ

「では姉さん一体どうしたんですか?姉妹だとクラスメイトにお知らせするために来たのですか?姉妹の絆を知らしめるにはいい機会ですが」

#生徒会長

「そういう用事ではありません。このみ、家のカギを持っていないでしょう」

#このみ

「……あっ」

#ナカミチ

(………あっ)

#ナレーション

そういえばそんな話の内容をどっかで聞いた。どこだったかなぁ。

#ナカミチ

(朝聞いた話にそんな話題があったな……)

#ナレーション

家に帰ります。→カギを持っていないでしょう。の流れの時だ。きれいな複線回収である。

#このみ

「そうでした……。じゃあ行きと同じように帰りも一緒に行きましょうか姉さん。計らずとも姉妹の絆を見せつけることになってしまいましたね。タクシー拾ってきます」

#生徒会長

「待ちなさい。今朝タクシーを使ったのは約束していたあなたの先生とのごあいさつの時間に遅れたから仕方なくです」

#このみ

「……姉の配慮に妹は感動しています。おかげでクラスメイト達に直前まで駄々をこねて登校を拒否して遅れた事実を隠せます。私が休んでいた理由は病弱というものですからね。ゲームするためのずる休みだと知られたらきっとクラスメイトは私を馬鹿にします。いじめ発生です」

#生徒会長

「……えっ?」

#生徒会長

「…………。」(ギロリン)

#ナカミチ

(え?なんだ?俺?)

#生徒会長

「……あなた確か私たちが朝、話しているときにいましたね?」

#ナカミチ

「え?はいぃ?!」(気づかれてたのかよ!)

#このみ

「え?聞いていたんですか?気づきませんでしたね」

#生徒会長

「言いふらしたんですね。それでこのみはいじめられてるんですね」

#ナカミチ

「え?いや!いじめていません!言いふらしていません!」(こわい!こわいぞ!)

#このみ

「姉さん?早合点です。私の言い方が悪かったです。ごめんなさい。はい」

#生徒会長

「そんなふうに隠してはいけません。いじめられた時は素直に言いなさい。悪いのはすべて相手なんですから。あなたは何もいじめられるようなことはしていません」

#このみ

「いや、いじめられていません。早合点です姉さん。クラスメイトにカミングアウトしただけです。休んでいた理由を知ってもらっても問題ないと思ったから今言っただけです。その深刻な顔をやめてください姉さん」

#生徒会長

「……。」

#このみ

「ほんとです。ほんとです姉さん。お姉ちゃん。私はいじめられていませんから」

#生徒会長

「……私の早合点ですか?」

#このみ

「そうです」

#生徒会長

「…………。」

#ナカミチ

「……。」

#生徒会長

「もうしわけございません。失礼なことをしました……。本当に申し訳ありません……。」

#ナカミチ

「いや、いいですよ……。問題ありません」

#このみ

「すいませんね、ナカミチ君」

#ふうき

「いやー。問題ないですよ。彼、精神強いですから。それより話を戻されては?」

#ナカミチ

(なんでふうきさんが答えるんだ。そして認識を改めてくれ。精神弱いから)

#ナカミチ

「ま、まぁ、本当に問題ないですから」

#生徒会長

「え、えぇ。そうですか……。ありがとうございます」

#生徒会長

「このみ、私は今から生徒会の活動があります。家に帰れるのは今から1時間後ぐらいだと思います。それまで校内で待っていてください」

#このみ

「…え?」

#このみ

「いやいや!家のカギを渡してくれたらいいじゃないですか!」

#生徒会長

「複製されてはいけませんので。明日以降登校したように見せて帰りそうですから」

#ナカミチ

(えらい言われようだな。いや、さすがに)

#このみ

「……あー」

#ナカミチ

(しそうだな)

#ナレーション

これにはその場にいた全員微妙な顔。

#このみ

「いや、しませんから。クラスのみんなにそんなことする子だと思われたらどうするんですか」

#生徒会長

「信用は勝ち取るものです。一週間ちゃんと学校に通ってる事を確認出来たらカギを渡しますから。それまでの間に生徒会の用事で遅くなるのは今日だけですし」

#このみ

「いや、今日はどうすれば」

#生徒会長

「図書館で残っている夏の宿題を終わらせなさい。たしか今日提出分で社会の宿題が少し残ってるんですよね」

#このみ

「え、ええ。昨日そう報告しましたね」

#ナカミチ

(おい。全部やってなかったじゃねーか)

#ナレーション

もう全部終わってるけどな。あ、家庭科の宿題残ってるわ。

#生徒会長

「というわけで時間も迫ってますしそろそろ行きます。皆さん失礼しました。とくにナカミチさんでしたか失礼しました」

#生徒会長

「では今後このみのことよろしくお願いします。失礼します」

#このみ

「……うそやん」

#ナカミチ

「言葉づかい変になってるぞ」

#ナレーション

姉妹の絆が見れたような信用されてないところを見られたというか。

#ナカミチ

「そうだ。このみさん忘れているかもしれないから言うけど、まだ家庭科の宿題残ってるからな」

#このみ

「?そんなのがあったんですか」

#ふうき

「えっ?なにそれ」

#クラスメイト

「えっ?なにそれ」

「あっ。あったなそんなの」

「わすれていたな」

#ナレーション

1人除いて忘れていたようである。

#ふうき

「なになに……。ふんふん。来週提出の宿題……。料理して工程と味の感想をレポートとして記述」

#ナレーション

風紀さん情報収集中。

#ふうき

「提出期限がずれていたからかな?学校から配布された夏休みの宿題一覧に書かれていなかったみたいだね……。」

#クラスメイト

「なんだそりゃ。なんで誰も気づかなかったんだ」

「たしか1学期の家庭科ってだいたい全員疲労で意識朦朧してたんじゃなかった?」

「家庭科の前が体育だったからな」

#ふうき

「『手段無用!宿題殲滅!えくすてんど!りみてっど!』の企画開催を宣言するよ!各自作る料理と必要な食材を宣言してから帰ってね!えーっと、知ってたのに連絡しなかったナカミチ君は全員の宣言が終わるまで待つように」

#ナレーション

おわんねぇな今日ってやつ。

#このみ

「1時間ぐらいすぐ過ぎそうでよかったですー」

#ナカミチ

「え?1時間も俺いないといけないの?」

#ふうき

「ナカミチ君もちょっと残ってるんじゃないの?レポートがまだとか」

#ナカミチ

「……よくわかるな」

#ふうき

「今日の朝に宿題やってるか聞いた時、変だったからね。終わってないのありそうだなーと思ってたら終わってたからね。その時は違和感って感じだけだったけど」

#ナカミチ

「はぁ。ほんとよくわかったな。じゃあ言われたとおりおとなしく宿題を仕上げるよ」

#ふうき

「ここから一番近い机といすのストックは階段下だよ。私たちも隅の方に移動するからそこまで持ってきて宿題をやればいいよ」

#ナカミチ

「おう」

#このみ

「ところでナカミチ君はどんな料理を作ったんです?参考にするから教えてください」

#ナカミチ

「和風パフェ。材料を盛り付けるだけだから見た目の割に簡単だぞ」

#ふうき

「あぁ。実家が和菓子屋だったね。材料は全部揃ってたんだろうね」

#このみ

「ずるくない?」

#ナカミチ

「ずるくない」

#このみ

「ううーん。じゃあ私はクレープにしましょうか。生地だけ焼いちゃえばこれも後は盛り付けるだけですし」

#ふうき

「あぁ!かぶった!」

#このみ

「言ったもん勝ちですよー。クレープは私が作ります」

#ナカミチ

「別に数人がかぶったってかまわんだろうに……。」

#ふうき

「それもそうだね」

#このみ

「それもそうですね。」

#ナレーション

発言は微妙に語尾だけかぶらなかった。

#クラスメイト

「風紀さーん作る料理はいいんだけど必要な食材までは今分かんないよー」

#ふうき

「食材が分かんない料理をいきなり作るのは難しいよー?それでもやるならもちろん作るって宣言してもかまわないけど」

#クラスメイト

「確かにそうですね」

「あたしは女子力アップのためにやるよー!」

「なにか無理してないですか?」

#ナレーション

その後、結局全員で全員分の料理案を話し合う形になった。あーでもない。こーでもない。といった感じで。

#ナレーション

ですので結局ナカミチ君もその議論に参加。というか巻き込まれる。ナカミチ君のレポートは家でやることになりました。

#ナレーション

さらにそのあとはこのみさんに対しての質問タイムに流れ込むようだ。

#クラスメイト

「結局このみちゃんって1学期のあいだ家でゲームしてたんだよね?」

#このみ

「ま、まぁね」

#ナレーション

さすがに気まずいもよう。

#クラスメイト

「……もしかして中学時代はいじめられてたりしたの?」

「それで不登校……か。」

「なんてこと……。このみさん、うちのクラスはそんなこと起きたことないから安心していいわ」

#このみ

「いや、そういったことはないんですよ。そういったちゃんとした理由で引きこもったわけじゃないです。姉さんの過剰反応が気になったのなら……。あれは姉さんがそういうの嫌いな人だからですとしか。あとはいわゆるシスコンってやつなんでしょう」

#ナレーション

姉妹の絆ってやつだ。

#このみ

「学校に行かなかったのは学校より家でゲームしてる方が楽しいと思ったからです。せっかくの若者の時間を無駄に費やしたくなかったんですよね……。」

#ナレーション

すごいことをなさる。

#ふうき

「と!いうことは明日からは?!」

#このみ

「さぁ?どうでしょう?学校に行くふりして家に帰るかもね」

#ナカミチ

「カギ無いんだろ」

#このみ

「そーでしたねぇ。じゃ、学校に居ときましょうか?」

#ふうき

「やったー!かったー!」

#ナレーション

何に勝ったのか。ゲームか。

#このみ

「とりあえずは1週間のお試しですねぇ」

#クラスメイト

「まだお試し期間なのか」

「あぁ。カギが1週間後に手に入るからだろ」

「家に帰ってゲームがしたくなってきたね」

#ふうき

「じゃ、そろそろみんな帰ろうか」

#このみ

「帰ろ帰ろ」

#ナカミチ

(お前は待ってないといけないだろ)

#クラスメイト

「そうだなー」

「帰ってゲームしよー」

「あ、くぜ先生だー。さよーならー」

#くぜ

「ん?はい。さようなら。……あなたたちまだ居たんですか。早く帰りなさい」

#ナレーション

たまたま通りかかったくぜ先生に呆れられながらあいさつをして帰っていく。

#このみ

「嵐の後の静けさですねー」

#ナカミチ

「じゃ、俺も帰るからな」

#このみ

「今の私の発言を聞いてなお帰りますか」

#ふうき

「ひどいねー」

#ナカミチ

「さみしいとか思ってないだろ」

#このみ

「おまけで5%ぐらい思ってます」

#ナカミチ

「じゃあな」

#ふうき

「ひどいねー」

#このみ

「ですねー」

#ふうき

「ま、あれからまだ40分ほどしかたってないけど大丈夫だよ。そろそろ来るんじゃない?私も帰るよー。じゃあねー」

#ナレーション

クラスメイト達が帰る。このみを残して。

#ナレーション

いや、彼らだいぶ付き合ったけどね。

#ナレーション

ナカミチ君がちょっと心配して振り返ると、じゃあねー。と言いながら風紀さんが横を通り過ぎていった。遠くに生徒会長と話しているこのみの姿が見える。どうやら入れ違いで生徒会長が来たようだ。ナカミチ君のちょっとした心配事はなくなった。

#ナカミチ

(帰るか)

#ナレーション

校舎から出ると夏の暑さが刺さる。朝はうだるような暑さだったが時間は11時を回り、殺しにかかってくるような暑さである。

#ナカミチ

(さっさと帰ろう)

#ナレーション

学校での1日が終わったのでした。

 

#ナレーション

あれから2週間後。

#ナレーション

残暑も過ぎ去りわずかにすずしさがやってくるわけでもなく相変わらず暑い。

#このみ

「暑い」

#ナレーション

家を出てからずっと思っていたことを横で言われたらそりゃ耳に入る。

#ナカミチ

「教室まで我慢しろ」

#ナレーション

校門前でたまたま出会ったこのみがつぶやく。現在、靴箱前。ちなみに第1声がこれである。ちなみに校門前で会ってから2人が別に歩調を合わせたりして並んできたわけではない。

#ナレーション

実際校門に入った辺りで彼がこのみを見つけた時はけだるそうにふらふら歩いていたので横を通り過ぎて行ったのだ。けだるそうにしてたのは彼も同じであるが。歩くスピード的に彼がこのみを追い越していった。

#ナレーション

追い越す時におはようと彼は声をかけたのだが、まぁ形式的に。しかし、このみはふらふらしていただけだった。

#ナレーション

この学校の靴箱はロッカー式で簡易な小さい南京錠によって鍵が閉まっている。2足分の靴が入る基本的な大きさだ。ちなみにクラス全員が鍵じゃなくても鍵穴にさしこめて回せるものであれば何でもこの南京錠が開く事を知っている。だからといっても基本は鍵を使うが。

#ナレーション

帰る時に曲芸をしながら南京錠を開けるとき手首をひねる人もいる。だがそれでも靴箱前で曲芸をしながら靴を取り出すのである。学生のノリと言えば聞こえはいいか。若いね。青春だね。曲芸だね。

#このみ

「あぁ、これはナカミチ君。おはようございます」

#ナカミチ

「あぁ、おはよう」

#ナレーション

さっき言ったんだがなと思いながら挨拶を返す。

#ナカミチ

(気づかなかったんだろう)

#ナレーション

あの殺意ある暑さではね。一体いつになったら涼しくなってくるのやら。

#このみ

「いや、先ほどはすみませんね。声をかけられた事には気づいてたんですが」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

気づいてたってよ。

#ナカミチ

「先に教室行くぞ」

#このみ

「えぇー。待ってくださいよぉ。外よりましとはいえ暑いんですから」

#ナカミチ

「なんで暑かったら待ってなきゃいけないんだ」

#このみ

「共に乗り越える仲間が欲しい」

#ナカミチ

「先に行くぞ」

#このみ

「そんなこと言ってー。さっき追い越した後、私が来るまで今まで待ってくれてたんじゃないんですか?いや、待ってたんでしょう?」

#ナカミチ

「靴箱の鍵探してたら勝手に追いつかれただけだ」

#ナレーション

ああいう鍵はちょっといつもと違う場所になおすと見つからないものだ。よくわかるぞ少年。

#このみ

「はっはっ。鍵なんていう大事な物を適当に管理しているからそうなるのです。私は鍵のケースに入れて管理してますからそういう事はありません。大事な家の鍵もそこに直してるんですよ。ケースは皮仕様です」

#ナカミチ

(このみさんにとって家の鍵は信用の証みたいなもんだろうしな)

#ナレーション

ナカミチ君憐みの目。なんか同情心が出てくる。

#ナレーション

1週間前このみは鍵を手に入れる事が出来た。かばんに手を突っ込みカギを取り出そうとする女の子を見ながら1週間前に今日家を出る前にわりとあっさりお姉ちゃんが渡してくれたと(自慢なんだろうか、自慢なんだろうな)教えてくれたのをナカミチ君は思い出していた。

#このみ

「……あれ?」

#ナカミチ

「あ、もう先の展開読めたわ」

#ナレーション

思わず心にとどめておかないといけない声が出てしまうぐらいのテンプレが発生したようである。

#このみ

「ごそごそ。ごそごそ」

#ナカミチ

「……擬音を口に出して探すな」

#このみ

「あぁー」

#ナカミチ

「……。」

#このみ

「ああー」

#ナカミチ

「……。」

#このみ

「どうしよ。鍵、全部家だ」

#ナレーション

鍵ケースごと忘れたらしい。

#ナカミチ

「先行くからな」

#このみ

「まって!まってください!こういう時どうしたらいいんですか!?靴が取り出せないですよ!」

#ナカミチ

「ええい、もたれかかるな!汗でひっつく!女の子がとっていい行動じゃねぇ!」

#ナレーション

抱きついているわけではない。だらーんともたれかかりながらすがっている。

#このみ

「よかったですね。さぁ助けて下さい」

#ナレーション

このみさん。離れながらハンカチで汗をぬぐう。女の子らしい行為だ。

#ナカミチ

「 」

#ナレーション

絶句。ぷるぷるふるえておるわ。

#ナカミチ

「はぁ。わかったよ。普通は先生に頼んで予備の鍵を貸してもらうんだがな」

#ナレーション

右下の鍵がついていない靴箱をあける。使われていない靴箱のようだ。

#ナレーション

ナカミチ君、中からなにか取り出す。小さな小さな鉄の板からそれなりに小さな鉄の板まで大量にひもでつながっている。なんだこれ。

#ナレーション

大量の鉄の板の中で一つだけ、これだ!つかえ!と言わんばかりの赤いラインが入っている板をこのみさんの靴箱についてる南京錠に差し込み、ひねる。

#ナレーション

あいた。

#ナカミチ

「ほら。あいたぞ」

#このみ

「ありがとうございます。普段からそうやって女の子の靴箱を開けてらっしゃるんですね」

#ナレーション

ナカミチ君、南京錠を再度靴箱にとりつけて教室に向かう。鍵を開けた謎の道具と共に。

#このみ

「あぁ!ごめんなさい!ゆるしてください!時間的にもう予備の鍵をもらいに行く時間がないんですよー!」

#ふうき

「……なにしてんの?」

#ナレーション

あきれ顔の風紀さんだ。風紀さんにあきれられるとはよっぽどのコントだったのだろう。

#このみ

「あ、風紀さんおはようございます」

#ふうき

「うん!おはよう!ナカミチ君もおはよう!」

#ナカミチ

「あぁ。おはよう風紀さん」

#ナレーション

風紀さん登場。靴箱から靴をとりだす。

#このみ

「風紀さん実はこういうことがあったの」

#ナレーション

南京錠のかかったままの靴箱を指さす。当然その先はこのみの靴箱だ。

#ふうき

「なるほどねー。ナカミチ君もよくこのみさんにからまれるねー」

#このみ

「まぁしかたないですね。運が悪いんでしょう。いや、運がいいんだね!」

#ナカミチ

「最近、運が悪いな」

#このみ

「明日不登校だったらナカミチ君のせいです」

#ナカミチ

「ところで風紀さん、なんか鍵のかかった靴箱を見ただけで全部わかったようだけど」

#ナレーション

無視発生。

#ふうき

「まぁ実際だいたいあたってるレベルで分かってると思うよ。このみさんが靴箱の鍵忘れたんでしょ?で、ナカミチ君がおちょくられたんじゃないの?」

#ナレーション

だいたいそうだ。ここまでの騒動が二言で済むのだな。

#ふうき

「いやー、加わりたかったなー。おもしろかったんだろうね」

#このみ

「ええ。ナカミチ君が一番いい思いしてましたよ。ひっついたり靴箱あけたり」

#ふうき

「……どんびきだなー」

#ナカミチ

「くっそ!もう知らないぞ!教室に行くからな!」

#ふうき

「あぁ!ちょっとまって、ちょっとまって。忘れてるだろうけど一応その旧簡易鍵あけ君を靴箱に直してってー!」

#このみ

「あれやっぱり風紀さんの私物だったんですか」

#ふうき

「今はもう私有権放棄してるよ。教師に見つかったとしても私のじゃなーいよ!うふふ!」

#ナレーション

すごい理屈だ。

#ナカミチ

「忘れてた。持ってたな。かえすよ。じゃあ行くから」

#ナレーション

すばやく鍵を直して教室に向かおうとする。

#ふうき

「まぁまぁ。待ちたまえよ。このみさんの靴箱も開いたし一緒にいこうよ」

#ナレーション

風紀さんはポケットから取り出した()簡易鍵あけ君を手に持って言う。使って開けたのだろうか?え?使ったかって?知らないな。

#このみ

「ありがとう風紀さん!ナカミチ君もさっき開けてくれてありがとう!」

#ナカミチ

「ああ。どういたしまして。だがそのうすっぺらい感謝の言葉はいらん」

#ナレーション

やさぐれちゃった。しかたない。

#ふうき

「やさぐれちゃったよ」

#このみ

「やりすぎました」

#ふうき

「うーん。ま、いっか!」

#ナカミチ

「……。」

#このみ

「いや、ちゃんとお礼言うつもりだったんですがね。うーん。お昼にからあげを1個あげましょう」

#ナカミチ

「いや、別にそういうのいらない」

#このみ

「姉さんが昨日作ったからあげですよ?」

#ナカミチ

「なんでそれで心が変わると思ったんだ」

#このみ

「私のお昼ご飯なら心配しなくていいですよ。いつもより量が多いですからね。朝ごねて姉さんの分まで唐揚げ入れてもらいました」

#ナカミチ

「なんてひどいやつだ」

#ナレーション

同意。

#このみ

「というか今日は家庭科の調理実習があるでしょ?お弁当は少なめにと言われてたのを朝出るまで忘れてましてね。本格的に量が多くて」

#ふうき

「あ、やっば。ダッシュ!わるくおもうなー!」

#このみ

「?」

#ナカミチ

「?とにかく」

#

キーンコーンカーンコーン

#このみ

「だっしゅ!」

#

ダッ!

#ナレーション

2人同時に駆け出す。予鈴が鳴り響きホームルームまで後五分。教室は靴箱からそれなりだ。まぁ走れば2分もかからんよ。

#このみ

「あぁ!ナカミチ君まってください!私、革靴のままでした!」

#ナレーション

この学校の登校靴は革靴。学校指定製品。安いから癒着だとしてもセーフな感じの革靴とクラスで言われている。ちなみに卸している靴屋と学校が癒着しているかは知らない。

#ナレーション

その革靴で廊下を爆走していた。

#ナカミチ

「ああ!もう、わかったから早くなおしてこい!」

#ナレーション

ナカミチ君止まる。

#ナレーション

このみさん逆走だっしゅ。見えなくなる。

#このみ

「あぁ!南京錠閉めてた!」

#ナレーション

律儀にダッシュする寸前に閉めたのだ。叫びが離れたところにいるナカミチ君にまで聞こえる。

#ナカミチ

「右下にある靴箱にさっきおれが使ってた鍵あけがあるから使え!」

#このみ

「大丈夫!使ってます!」

#ナレーション

とっさの判断が素晴らしい。これはいいタイムが出そうだ!(タイムロス中)

#このみ

「ナカミチ君行きましょう!」

#ナレーション

少ししてこのみさん戻ってくる。ちなみに廊下は走っていいとされてない。緊急時の場合であっても校則の変更はいたしかねます。だめぜったい。おはし。押さず走らず死ぬな。

#ナカミチ

「ばか!それ外靴だ!」

#このみ

「ああ!……てへっ」

#ナレーション

グラウンドに出るときに使う靴。癒着で話題になった事は無い。

#ナレーション

このみさん逆走だっしゅ。たぶん後2分ぐらいで本鈴。

#ナレーション

もうだめかもね。
#
ナカミチ

(たぶん大丈夫だろ……)

#ナレーション

お?勝算でもあるのか?

 

 

#ナレーション

そして3分後。いわゆる本鈴1分後。時間は無慈悲。そこに感情など無い。時間はただ規定通りに動く。古き条約通りに。いにしえの宇宙誕生以前の約束通りに。テキトウ言いました。

#ナカミチ

「遅れました」

#このみ

「遅れました。私のせいです」

#ナレーション

ダッシュにより汗だくである。クーラーによる教室の冷気が2人への祝福。

#ふうき

「おそいよー。まってたよー」

#くぜ

「早く席に着きなさい」

#くぜ

「……鍵はあったようですね」

#ナレーション

くぜ先生がこのみの方を見て言う。視線は靴を向いているようだ。

#このみ

「え?」

#ふうき

「このみさんが靴箱前で鍵を探してたからホームルーム待ってってお願いしたんだー。それにナカミチ君がつきあってたってねー」

#このみ

「あ、はい。無事なんとか。ええ、見つかりました」

#くぜ

「これで全員揃いましたね。ではホームルームは以上です。各自1限目の用意をするように」

#ナレーション

そういいながらくぜ先生は教室を出ていく。出欠確認はあの一瞬、あの一言で終わるのだ。

#ナレーション

先生が出ていけば教室は騒音であふれる。別にこのクラスだからという事は無い。どこでもこうなる。

#このみ

「いやー。風紀さんありがとうございますね。遅刻にならずにすみました」

#ふうき

「途中で裏切った味方が最後にサポートするもんだよ。王道だよね」

#ナカミチ

「この茶番を起こすためにわざと靴箱前で時間が迫ってる事教えなかっただろ」

#ふうき

「んー?感謝の声が聞こえないぞー?」

#ナカミチ

「……ごめん。たすかったよ」

#ふうき

「よろしい!」

#このみ

「で?実際どうなんです?」

#ふうき

「私が靴箱につく時間はなにもなくすんなりいって予鈴が鳴る辺りで教室に入れるよう設定してるから、まぁ靴箱前で会った時にはこうなる確率は計算してたよ。でも2人とも本鈴には間に合うと思ってたんだけどね。うーん。廊下を走って誰かにでも叱られてた?」

#このみ

「いや、靴を履き替えるのを忘れて、次に靴をはき間違えたんですよ。どっちも鍵あけこみで」

#ふうき

「?」

#ナレーション

風紀さん想像中。

#ふうき

「あー。なるほどねぇ。それはナカミチ君がいないとえらいことになっちゃってたね。廊下を革靴でだっしゅになっちゃってたね。うーん。ちょっとやってみたいな。廊下を革靴でだっしゅか……。」

#ナカミチ

「やるなよ」

#このみ

「今朝はナカミチ君に助けてもらってばっかりでしたね。もし靴箱前であってなかったらと思うと。そうですね……。」

#このみ

「靴箱前で鍵がない事に気づく」

#ふうき

「どうしたらいいか分からず右往左往」

#このみ

「そうしているうちに風紀さん到着」

#ふうき

「風紀さんこと私が靴箱のかぎを開ける」

#このみ

「わたしことこのみちゃん、風紀ちゃんに素直に感謝を述べる」

#ふうき

「風紀ちゃんこと私が素直にこのみちゃんからの感謝を受け取る」

#このみ

「このみちゃんこと私、風紀さんと一緒に教室へ」

#ふうき

「風紀さんこと私、このみちゃんことこのみちゃんと予鈴が鳴った数十秒後、教室につく」

#このみ

「おや?おかしいですね?走ってもいないですし、靴をはき間違えたりもありません。しかも本鈴には余裕で間に合ってます」

#ふうき

「ふしぎ!」

#ナカミチ

(涙が出そうな言われようだな)

#ナレーション

彼はなんかいつも悲観している。

#このみ

「流されやすい人ですねぇ」

#ふうき

「わかりやすいねぇ」

#ナカミチ

「このみさんの感謝はわかりにくいよ」

#このみ

「ううん。こまりましたね。感謝の言葉では満足いただけない。姉さんの唐揚げでも満足いただけない。どうしましょうか」

#ふうき

「生徒会長さんの手作り料理でもだめならもうだめだよ。打つ手ないよ。それ以上ってんならくぜ先生にナカミチ君を告訴する旨を伝えに行かないと」

#ナカミチ

「この調子だと俺が先に相談しに行くけどな」

#このみ

「全面的に争う姿勢ですか。相手になります。私は裁判のゲームも推理のゲームも得意です」

#ふうき

「どっち側についてもいいよ。交渉額次第?」

#ナカミチ

「ここで引かないのが君らの怖い所だ。どうすればいいんだ」

#クラスメイト

「風紀さんあと頼める?」

「長くなるんだろ?」

#ふうき

「いいよー」

#ナレーション

風紀さん何か受け取る。

#このみ

「?まぁ、どうすればいいって言われましてもね。そのままの君でいてというやつですかね?」

#ふうき

「んー。いい言葉だね!」

#ナカミチ

「わかった。わかったよ。その言葉を感謝の気持ちとして受け取っておくから」

#このみ

「ふふん。ありがとうございます」

#ナカミチ

「その言葉を最初に言ってくれればスムーズなんだけどな」

#ふうき

「まったくだね」

#ナカミチ

「風紀さんがいると話が2倍長くなるイメージがあるんだが」

#ふうき

「2人が3人になって話が2倍になるなら4人分の幸せがそこにあるんだねぇ」

#ナカミチ

「何も考えずにその言葉言ってるだろ」

#ふうき

「まあね!じゃ、ナカミチ君あとよろしくね!はい。これ」

#ナレーション

風紀さんから鍵を渡される。教室の鍵だ。日直になった時に管理するものなので見おぼえはある。

#ナカミチ

「?なんだこ、」

#ふうき

「わるくおもうなー!」

#ナレーション

風紀さん机においていた教科書や筆箱を持って教室をかけだす。

#ふうき

「あ。このみちゃん、鍵はあけといたからね!もちろん中は見てないよ!」

#ナレーション

教室を出た風紀さん戻ってきて扉から顔だけ教室に出す。また駆け出す。

#このみ

「?なんかデジャブというか、」

#

キーンコーンカーンコーン

#ナカミチ

「うん?!」

#ナレーション

ナカミチ君教室に2人しかいない事に気づく。このチャイムは1限目の予鈴である。

#このみ

「あれ?」

#ナレーション

このみさん気づく。

#ナカミチ

「このみ!?1限目は?!」

#このみ

「え!?えーと。理科ですね。化学です」

#ナカミチ

「ええ?」

#ナレーション

教室移動が必要な教科ではない。まぁ普通は。今日は違う。しゃべっている間は全く気付かなかったが知らぬ間に教室の電気が消されている。次は移動教室だから、と教室が伝えているかのようである。

#ナカミチ

「……うっ!今日は理科実験室で実験するって言ってたな……!」

#ナレーション

前の授業を思い出して言う。

#このみ

「ううん。思い出せませんね。寝てたかなぁ」

#ナレーション

おおっと。このみさん思い出すものがない。

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

授業中、他人に迷惑はかけたりはしない。だが寝たい時には寝る。それがこのみ流。授業料は良き睡眠の為に。とても幸せそうに寝るのである。幸せそうな寝顔を思い出すナカミチ君。思い出してるこの1場面、授業中でなければほほえましいだけの話なんだがな。

#ナカミチ

「理科実験室だ!行くぞ!」

#ナレーション

かばんから教科書を取り出し言う。

#このみ

「あー。ロッカーに教科書類放り込んでありますんで。取り出してきます」

#ナレーション

クラス全員分のロッカーが教室にはある。女子と男子でとても簡易的にスペースが分かれている。配慮という奴だ。少し幅が狭いが服をかけれるタイプの縦長ロッカーである。鍵つき。

#ナカミチ

「鍵は開けれるのか!?……あ」

#このみ

「風紀さんが開けたって言ってたのはそれでしょうね。教科書を取り出したらあとから追いかけますんで鍵置いて先に実験教室、行っててください」

#ナカミチ

「あぁ……?わかったよ。教卓に置いとくぞ」

#このみ

「はーい」

#ナレーション

ナカミチ君、理科実験室へ向かう。

#ナレーション

この学校、若干構造がややこしい。

#ナカミチ

(初めの頃は迷ったな)

#ナレーション

だれでも最初はどこに何があるか分からないものだ。

#ナレーション

2週間前に来たもちろん彼女も例外ではない。

#ナレーション

彼女は一度も理科実験室に行った事がないはずだろう。2学期に入ってからまだ実験室に行くような事はなかった。

#ナカミチ

「!くそっ!意味がわからん!」

#ナレーション

理解はできる。認めもする。だが素直に言ってほしいとも思う。彼も素直に口に出す方ではないのにそう思うのだ。

#ナレーション

ナカミチ君逆走ダッシュ。

#このみ

「うーん。どれでしたかねぇ」

#ナレーション

ロッカー前で床に大量の教科書とノートを広げてこのみがあぐらの形で座っている。

#ナカミチ

「――なにがだよ」

#このみ

「……いえ。化学と物理の教科書が似てるもんですから。どっちも使う教科書が数冊あるでしょ?どれを持っていけばいいかわからなくなってしまいましてね」

#ナレーション

理科特有の写真いっぱい掲載されているやつである。社会だと地図帳があったりする楽しい教科書だ。全部がこういう教科書だとたのしい限りだ。学ぶ事がたのしけりゃ問題ないんだけどね。そうもいかない。そうはいかない。

#ナカミチ

「わからなけりゃとりあえず全部持っていけばいいだろ」

#ナレーション

そういいながら化学に必要な教科書を拾って渡す。彼女は教科書を2学期から使い始めたはずなのに折り目いっぱいである。それも表紙が大きく折れていたりする。

#ナレーション

開いてるロッカーを見ると乱雑に詰め込まれた辞書類やノート。体操服。なんやかんや。詰め込まれたというより放り込まれたと言うべきか。教科書についた折り目の原因を突き止めたナカミチ君。

#このみ

「そうですねぇ。そうするべきでした。……というか私いつもそうしてましたね」

#ナレーション

このみはそうつぶやく。いつも積み重なった教科書が隣に見えていたのを彼は思い出していた。

#ナレーション

このみは座ってつぶやきながら、ぽいぽいと床の教科書類をロッカーに放り込む。ちなみに床はピカピカのフローリングでよく掃除が行き届いている。寝転がれるレベルできれいだとクラスメイトたちは自負していて、教科書を床に広げて座っていても見た目や倫理、道徳、そういうものを除いて問題ないと言える。

#このみ

「ナカミチ君」

#ナカミチ

「なんだ」

#このみ

「ありがとうございます」

#ナカミチ

「別にかまわない。から、普段からそう言え」

#このみ

「てへっ」

#ナレーション

このみちゃん立ち上がる。

#このみ

「さ、ナカミチ君行きましょう」

#ナレーション

ロッカーを丁寧に閉めつつふり返り言う。

#ナカミチ

「あいよ」

#ナレーション

ナカミチ君が先導する形で走り出す。間に合えばいいが。

#2人

「ああ!教室の鍵を閉め忘れた!」

#ナレーション

もう駄目かもね。

#ナレーション

2人仲良くターン。逆走だっしゅ。これはいいタイムでるわ。(てきとう)

#ナレーション

もちろん廊下は走ってもよい事にはなっていない。

 

 

#ナレーション

理科実験室

#ナレーション

ん?今の時間?2分前に本鈴が鳴ったよ。教室の鍵を閉めたぐらいの時に鳴ってた。

#ナカミチ

「遅れました」

#このみ

「遅れました。すみません」

#ナレーション

だっしゅにより当然汗だく。クーラーによる実験教室の冷気が2人への祝福。

#理科の先生

「話は聞いていますよ。実験のグループ分けが終わったところだから焦らなくてかまいませんから。あそこのグループに座りなさい」

#ナレーション

年を重ねたおじいちゃんの先生である。よぼよぼしてる。その真反対のような存在、わちゃわちゃしている幼子みたいな女の子の風紀さんが手をふってる。身長は160いかない位だがどうも小さい子供のように見えて仕方がない。

#ナレーション

そんな風紀さんがいる大きな机には席が2つあいてる。風紀さんの隣にはさいかちゃんが座って少し困り顔で微笑んでる。まぁ風紀さんのテンションが横にありゃ普通の人の対応はこうであろうな。

#ナカミチ

「そうですか。ありがとうございます」

#ナレーション

きっとまた風紀さんがなんか言った結果遅刻にならなかったのだろう。

#ナレーション

2人は席につくなり聞く。

#このみ

「今回は私たちどういう理由で遅れたんですかね?」

#ふうき

「えー?そのまま言ったよ?別に特別な事は何も」

#ナカミチ

「どう言ったんだ」

#ナレーション

ナカミチ君さいかちゃんに聞く。

#ふうき

「ちょっと。それはずるくない?」

#さいか

「えーっと。どうしましょう。言っていいのかな?」

#ナレーション

自分で決めたまえ。

#このみ

「まぁ言わなくてもそのうち風紀さんが黙ってられなくて語りだすから大丈夫だよ」

#ふうき

「うっ。否定できない」

#さいか

「あはは……。じゃあ言おうかな」

#さいか

「たしか、ホームルームが終わった後に2人が用事を頼まれていた。それが理由で遅れてるんじゃないですかと風紀さんが言ってました」

#このみ

「まぁ用事は頼まれてましたね。風紀さんから」

#ナレーション

いわゆる主語を抜いて相手に誤認させるやつだ。

#ナカミチ

「ホームルームの後と言ったら普通、担任だと思うだろうな。実際は風紀さんからの頼まれごとだったがな」

#ナレーション

担任から用事を頼まれていたため遅れたと受け取られた可能性が高い。

#さいか

「それで2人はどんな用事を頼まれたんですか?だいぶ遅れてこられましたが」

#ナレーション

彼女は2分遅れる事がだいぶ遅れたというぐらいに真面目である。

#このみ

「教室の鍵を閉めてたらちょっと遅れちゃった」

#ナレーション

まぁ2分は感覚的にちょっとであろう。不真面目とまでは言わない。

#このみ

「これなら校舎内を案内してもらいがてら、のんびり歩いて来てもよかったですねぇ」

#ナレーション

不真面目も一つの青春ということにしとこう。

#ナカミチ

「よくないだろ」

#ナレーション

そうだな。

#ふうき

「鍵閉めるだけで遅れてこられるとは思わなかったよ。ただの天丼ネタのつもりだったんだけどなぁ」

#さいか

「天丼ネタ?どういうことでしょうか?」

#ナレーション

あ。さいかさん、それ言われるとナレーションの補足解説がなくなる。

#ナカミチ

「おんなじ事を2回3回やって笑いを取ろうとする事を天丼ネタっていうんだよ」

#ナレーション

いいます。

#ふうき

「念のために言っとくけど遅刻させて笑いを取ろうとしたわけじゃないよ。私そこまで性悪じゃないよ。普通は5分あれば間に合うはずだよ?」

#ナカミチ

「いろいろ予定外の事があったんだよ」

#ふうき

「……教室の鍵をかけ忘れた?」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

大きな原因は違うがそれもあった。

#ふうき

「うーん。でも鍵をかけ忘れただけにしては時間がかかってるような」

#このみ

「ま。生きてりゃいろいろあります」

#ふうき

「それもそっか」

#さいか

「それでいいんですか……?」

#ナカミチ

「いいんじゃないか?」

#さいか

「……そういえばさっきは私はさっきナカミチ君から聞かれた事を答えましたから今度は私が聞いたら遅れた原因を答えてくれますよね?」

#ナレーション

風紀さんがこの教室で発した一言は高くついたようだ。一言というのはもちろん2人は用事を頼まれて遅れてるうんぬんの事である。

#ナカミチ

「……悪い影響を2人から受けないように」

#ナレーション

君も大概であるよ?

#ふうき

「さ、実験器具も組み立てたし。……バーナーに火を点火するのはまだみたいだね」

#ナレーション

しゃべりながら組み立て終わる辺りこのグループは優秀であるなあ。

#ナレーション

ほとんどこのみさんが組み立ててましたけどね。ちょこちょこ風紀さんがサポートしてたけど。

#さいか

「うん。みた感じだと先生が組み立ててるのとおんなじ形ですね」

#ナカミチ

「いや、さいかさん毒されちゃだめだから。見た目だけ正しくてもだめだから。何か間違ってたらとんでもないことになりかねん」

#このみ

「あ、沸騰石入れ忘れてた」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

このグループは問題であるなぁ。

#ふうき

「ここからじゃ遠くて先生が作った器具内の石は見えなかったね。いやー、実験開始前で良かったよ」

#ナレーション

加熱中に石を放り込むのはかなり危険らしい。急に沸騰するらしい。やったことないかららしいらしいって言うしかない解説役である。

#さいか

「えーと。先生の機具を見に行ってる他の方もいますし参考にちょっと近くで見てきますね」

#ふうき

「あー。いや、みんなで見に行こうか」

#ナレーション

さすがに反省してるらしい。こりるって事はない。

#ナレーション

全員でぞろぞろと前に出る。

#クラスメイト

「ああっ!沸騰石入れ忘れてた」

「え?あっ、俺らのとこもだ!」

「うちら入れてた?あ、入ってる」

#ナレーション

実験やめた方がいいんじゃね?

#理科の先生

「実験開始の前に確認していくから安心しなさい」

#ナレーション

これは安心できる。

#このみ

「確認されるなら問題ありませんね。席に戻りましょう」

#ナカミチ

「自分でも確認しろ」

 

 

#ナレーション

実験も成功に終わり続いて国語である。

#ナカミチ

(ね、眠い!)

#ナレーション

授業の感想として眠いから始まるのはどうなのか。

#ナカミチ

(まだ2時間目だっていうのに疲れがきてる!)

#ナレーション

朝からの騒動を思い出すとしかたないかもしれない。また国語の先生の声が単調であるのだ。こう考えると彼が眠いのは外的要因が多すぎる。

#ナカミチ

(しかしああはなりたくないし)

#ナレーション

横にはやさしい笑みを浮かべて机にぺったりほおをつけて寝ているこのみさんがいる。平和はここにあるというような顔である。

#ナレーション

先生はおこらないのかって?ざんねんながら放任主義である。自己責任という言葉はあまりに便利だ。

#ナカミチ

(またあっち側はそんな眠気とは無縁みたいだし)

#ナレーション

風紀さんを見ると真面目にノートをとっている。はしゃぐ理由がなければ真面目なのである。ちなみにノートの中身はきたない。文字が下手というわけではない。ごちゃごちゃしているのだ。

#ナレーション

さっきまでノートの左上で文字を書いてたと思ったら右下、まんなか、下、左。

#ナレーション

本人も認める本人すら何を書いているのかわかりにくいノートである。そんなんでいいんだよ。そんなんで。とは本人の談。1学期中のテストはだいたい8割後半の辺りという点数である。

#ナレーション

学校のテスト点数で比較するのは悪い気はするがナカミチ君は基本7割。英語が若干得意で8割。テスト前にちゃんと勉強するいい子なのである。普段から勉強するのは無理。

#ナレーション

このみちゃんはしらん。一応、授業中に問題回答を求められた時は全て正解している。寝ている時に当てられたら横のナカミチ君にヘルプを求めてどこをやっているか教えてもらえばいい。

#ナレーション

一応さいかさんは音楽、保険、家庭科等の特殊教科を除いて大体9割前後。基礎教科に特化している。対受験用生命体である。特殊教科は5割とか6割。数学は苦手で8割中頃。

#ナレーション

この際である、他のキャラの勉強態度についても書いておこう。

#ナレーション

会長は賢い。普段から勉強している。双子は普通以上。普段からちょっとづつ勉強している。おわり。

#ナレーション

説明している間にナカミチ君も寝たようだ。

#

キーンコーンカーンコーン……

#ナレーション

よく寝たという感想しかない国語であった。この国語は最弱。次の国語はこうはいかんからな。

#ナレーション

次の授業は体育である。残暑厳しい炎天下の中で仲良く運動しよう。

#ナレーション

プール?1学期で終わった。

#ナレーション

生徒たちの着替えがどこで行われるのかというと男子更衣室、女子更衣室両方が完備されている。なかなかうらやましい設備充実だ。

#このみ

「あついー!」

#ナカミチ

「いや、体育館でクーラーがガンガンにかかっているが」

#ナレーション

着替え終わり体育館に集まるクラスメイトたち。あれ?炎天下での運動は?

#このみ

「今どき炎天下で健康的な汗を流すとか時代遅れも甚だしくナンセンス!そう思いませんか」

#ナカミチ

「なにを言ってるんだ……。というほどのものじゃないな。そうだな、そう思う」

#ナレーション

体育館の窓から暑さでゆらめくグラウンドを見る。体育館の時に使う専用の運動靴は各自で教室のロッカーに保管だ。しっかりした構造で高い。クラスで話題になったことはない。

#ナカミチ

「ん?このみさん、めがねはどうしたんだ。体育の時はコンタクトなのか?」

#このみ

「……。」

#ナカミチ

「……?このみ?」

#このみ

「はい?」

#ナカミチ

「いや、このみはめがねどうしたのかって聞いてるんだが。今はコンタクトなのか?」

#このみ

「初めからそういえばいいんですよ。まったく」

#ナカミチ

「いや、言ってるだろう。何言ってるんだ」

#ナレーション

何言ってるんだこいつ?は君の方である。滅びれば?

#このみ

「運動の時にめがねしてると壊れるかもしれないじゃないですか。それに私視力悪いわけじゃないですよ。気付いてなかったんですか?あのめがねレンズもはまってないですよ。フレームだけです」

#ナカミチ

「え?」

#ナレーション

え?何言ってるんだこいつ。

#このみ

「はぁ。女の子の小物、アクセサリーに気を配れないともてませんよ」

#ナカミチ

「やかましい。寝ぐせを直してから女の子と言え」

#このみ

「髪の毛のセットはすごい時間がかかるんです。朝の短い時間ではできませんね」

#ナレーション

その短い時間で世の中の女の子はセットしてるんですが。

#ナレーション

というか伊達めがねだったとかえらいことである。レンズすら入ってないとかどうするのだろうか。責任問題だぞ。ええい!私は責任者ではない!ただの説明すらろくにできないただのナレーションだ!やめろ!つつくな!小石を投げるな!

#ナカミチ

「というか伊達めがねだったのかよ。レンズすら入ってないのか?なんでそんなことしたんだ」

#このみ

「かしこそうに見えるもんですからつい……。姉さんは伊達めがねじゃないですけどかしこく見えるじゃないですか。いや、実際かしこいですし、わたしも実際かしこいですが」

#ナレーション

なるほど。めがねに対してあこがれがあったと。しかしめがねを利用しようとする態度はやばいよ。オタクサブカル感性的に。

#ナカミチ

「たしかにめがねがあるとないとでは印象が変わるな。しかし以外とばれていないんじゃないか?伊達めがねだってこと。ばれたら先生から呼び出し受けて注意受けるだろうし」

#ナレーション

一般人感性ナカミチ君。見習おう。

#このみ

「最近は個性とかいうのがややこしくて大丈夫ですよ。きっと」

#ナレーション

左道的感性このみちゃん。見習わないでおこう。

#このみ

「おっと。そろそろ集まらないといけません。今日はなんでしょうねー。バスケットかな?ドッジボールかな?ふんふーん」

#ナレーション

このみさんふらふらと集合場所に動く。

#ナカミチ

(このみはほんと自分本位に生きてるな)

#ナレーション

そういってナカミチ君、自分がこのみさんの事を呼び捨てている事に気づく。

#ナカミチ

(さっきは寝ぐせどうこうっていったけど女の子なわけだし呼び捨てはまずいよなぁ)

#ナレーション

こいつまだ言ってんのか。滅ぼすぞ。

#ナカミチ

(まぁ気遣う相手でもないか)

#ナレーション

気遣えよ。女の子だぞ。伊達めがねで寝ぐせ直さない左道系女子だぞ。

#ナレーション

左道の意味は一般的に外道と一緒。ただマイルドに聞こえるからこのみさんの印象的にぴったり。

#ふうき

「なにしてんの?ナカミチ君?みんな集まってるよ?」

#ナレーション

後ろからひょっこりと風紀さん登場。

#ナカミチ

「うわっ。風紀か。おどろかすなよ」

#ふうき

「?いつものことじゃん。それよりなんで呼び捨てなの?」

#ナカミチ

「すいません。風紀さん」

#ふうき

「気兼ねなく呼ばれてうれしい子もいれば丁寧に扱ってくれる方がうれしい子もいるんだよ?そういうのわかってる?」

#ナレーション

風紀さんは丁寧に扱ってくれる方がうれしい乙女なのだろうか。

#ナカミチ

「はあ」

#ふうき

「はあ。じゃないよ。まったく。おっと、しゃべりすぎちゃった。じゃーねー」

#ナレーション

風紀さんとことこ走ってみんなが集まってる場所に向かう。

#

キーンコーンカーンコーン

#ナカミチ

(またかよ!)

#ナレーション

ナカミチ君全力でダッシュ。チャイムが鳴り終わるまでには間に合った。

 

#ナレーション

体育の白熱したシャトルランは終わった。記録は風紀さんが意地で全員に勝った。走り終えたと同時にぶち倒れた。みんなは走った後に急にとまらず少し歩こうね。急にとまると体に悪いから。酸素スプレーでこのみちゃんが介抱する。スプレーは当たり前のように風紀さんが持参して置いていたものだ。

#ナレーション

記録としては、女子平均(少し下にさいかちゃん)→男子平均→このみちゃん(男子平均のちょっと上)→ナカミチ君(このみちゃんのちょっと上)→男子トップ(走った後ぶち倒れる)→風紀さん(男子トップの1往復上、走った後倒れて床に顔を打ち付ける)である。

#ふうき

「あひー」

#このみ

「大丈夫ですか風紀さん」

#ふうき

「うう。このみちゃん。応援ありがとうね」

#ナレーション

がんばれー。がんばれー。とリタイア後に(おそらく暇だったから)応援してたこのみちゃんだった。そしたら男女別応援合戦になった。

#クラスメイト

「あひー」(男子トップ)

「あーあ、無茶するから」

「このクラスで無茶をするからこうなる」

#クラスメイト

「誰か酸素スプレーもってる?」(やさしい)

「持ってるわけないじゃん」(ふつう)

「そのへんに転がしときゃそのうち回復するだろ」(このクラスの一般的なやつ)

#ナレーション

せーの。と端っこに転がされる。敗者に厳しい世界だ。

#ふうき

「ごほっ。ごほごほ」

#このみ

「ああ。風紀ちゃんが。ナカミチ君。風紀ちゃんが。風紀ちゃんが」

#ナカミチ

「ええい。いちいち茶番に俺を呼ぶな」

#ふうき

「うう。このみちゃん。どこ?見えないよー」

#このみ

「ああ。ついに視力まで」

#ふうき

「さいかちゃんは?さいかちゃんどこ?」

#さいか

「え?わたし最近巻き込まれすぎてません?」

#ふうき

「ナカミチ君はまあいいや」

#ナカミチ

「そりゃありがたいな」

#さいか

「前はナカミチさんで止まってたのに。わたしそんなにアドリブ得意じゃないですよ」

#ナレーション

おそらくこのみちゃんで風紀さんの影響範囲が広がった。

#ナカミチ

(このみのせいなんだろうな)

#このみ

「私のおかげだね」

#さいか

「あっ。そっか」

#ナカミチ

「いやならいやといった方がいいぞ」

#さいか

「いや、そこまでは言いません……。それに大体はナカミチ君が二人の相手をしてるから問題ないかなあ?」

#ナカミチ

「いや、相手をせざるを得ないからしているだけだからね?勘違いしないように」

#ふうき

「でもどっちかというと自ら対応に出てきて巻き込まれに来ているようにしか見えないんだけど」

#ナカミチ

「もう治ったのか」

#ふうき

「ごほ。ごほごほ。うう。なおったよー」

#ナカミチ

(治ってるじゃねーか)

#このみ

「ああ。よかった。じゃあ私はバスケットしてきますねー」

#ナレーション

休憩し終わった生徒たちはバスケをして遊んでいる。あ、いや、授業を続けている。

#ふうき

「まってー。わたしもあそぶー」

#ナレーション

風紀さんはバスケをしに遊びに行った。

#ナカミチ

(元気だなあいつら……)

#さいか

「あはは……。2人ともげんきですね」

#クラスメイト

「うおっ。風紀さんとこのみさんだ」

「おい、ナカミチ。はやく来い」

「はやく対処してください」

#ナカミチ

「おいまて。その認識はやめろ」

#ふうき

「ちょっと人数が多くなってきちゃったね」

#このみ

「分けます?わたしドッジボールがしたくなってきましたし」

#ふうき

「じゃあわたしはバスケット」

#このみ

「じゃあ私はドッジボールしますんで、一緒にするかた募集します」

#さいか

「じゃあドッジボールしようかな。バスケットよりは動かないですし」

#クラスメイト

「じゃあナカミチはなかよく半分個な」

「仲いいね私たち。じゃあだれかそっち持ってくれる?」

「俺が持つよ。仲いいからな」

#ナカミチ

「やめろ!俺は仲間意識もたないからな!覚えとけよ!」

#クラスメイト

「あ!逃げた!」

「捕まえろ!俺たちには奴が必要だ!俺たちにはあいつが必要なんだ!唯一無二なんだ!」

「感動の展開。涙を抑えきれない」

#ふうき

「右舷展開!全体前進!端っこに誘導するんだ!遊撃隊出動!」

#クラスメイト

「はーい」

「ほーい」

「ふーい」

#ナカミチ

「くそう!どうなってるんだこいつらの精神構造は!」

#クラスメイト(待機組と休憩者)

「いやー。見てるだけでも楽しいね」

「まぁ退屈はせんわな」

「あの立ち位置に手を伸ばせば死にそう」

#このみ

「がんばれー。がんばれー」

#ふうき

「あっはっはっ!女の子からの応援が入ってるぞナカミチ君!そーら!がんばってぇ!右舷から突破しようとしてるぞぉ!さらに右舷固めろー!ふーひっひっひあひっ!」

#ふうき

「……舌かんじゃった」

#クラスメイト

「なんてこった!うちの司令官にダメージが!」

「これが奴の能力、ダメージコントロールか……!」

「あってないような彼の本質を突いてるような。ところでどう落ちをつけるんだこのさわぎ」

#ナレーション

最終的にぶち倒れたナカミチ君を体育館のすみっこに転がしておくことになりました。という落ちです。

 

 

#ナレーション

つづきまして家庭科。

#ナカミチ

「体育の後が移動教室の教科とかおかしいんじゃねーのか?」

#ふうき

「1学期もそうだったじゃん今更なにいってるの」

#このみ

「風紀さんはなに作りたい?私はほうれん草のおひたしかな」

#ナカミチ

「一番簡単そうだからだろう。あと風紀さんはこの調理グループじゃないよな?」

#ふうき

「あれ?てっきり流れ的に一緒にやるのかなーって」

#クラスメイト

「風紀さーん。こっちだよー。今回はナカミチ君おあずけだよー」

「たまにはそういう時間もないとだめだぞー」

「そーねー」

#ふうき

「……依存していると思われている?」

#ナカミチ

「いい迷惑だな」

#ふうき

「まぁいいや!事実だし。依存先を変えるのもむずかしいし。さいかちゃんは花があるけど量もたないからなー。まだ使うかー。ものもちがいいなー。めいどいんじゃぱん」

#このみ

「ゆーずどじゃぱん」

#ナカミチ

「やめろ」

#クラスメイト

「ナカミチ君。はやく風紀さん返してくれる?」

「わたしたち風紀さんにお味噌汁作ってもらって飲みたいのよ。わかる?」

「気づいたけど厄介ごとが起こる気しかしません。助けて下さい」

#ナカミチ

「別におれは引き留めてないよ。ほら行け」

#ふうき

「はーい」

#ナレーション

風紀さんとてとてと行く。どこまでも。ついた。

#このみ

「さて、わたしたちも作っていきますか」

#グループメンバーA

「今日作るのは3品、ほうれん草のおひたし、豆腐とつみれのお味噌汁、一口ハンバーグです。私はお味噌汁を担当しましょう」

#グループメンバーB

「じゃああたしはハンバーグね」

#ナカミチ

「おれは?」

#このみ

「食器準備と使った調理器具洗いをお願いします」

#ナカミチ

「あいよ」

#グループメンバーAB(以下A、B)

「素直ですね」

「あきらめたの?」

#ナカミチ

(疲れてるだけだよ)

#このみ

「疲れてるだけでしょう。それより早く作りましょう。おなかがすきました」

#ナカミチ

「まだ4限目始まったばかりだけどな」

#グループメンバーAB

「時間はあると思ってたらすぐなくなるものです」

「うちの家庭科は1限だけだしね」

#ナレーション

各自お湯を沸かしたりトレイからミンチをボウルに移し替えたり忙しくなってくる。

#このみ

「さあ私も作りましょうか。えーとほうれん草を軽く洗って……。」

#ナカミチ

(ひまだ……)

#ナレーション

周りを見ると他にも同じ境遇の生徒が多い。

#ナカミチ

(なぜ4品にしなかった……)

#ナレーション

1限しかないからなあ。家庭科が2限あれば4品あってもゆっくり作れたんだろうがね。

#

「ナカミチさん、包丁を使ったので洗ってください。あとでこのみさんが使われます。……まちなさい。みじん切りにした玉ねぎは炒めたあとにミンチに入れるんです」

#

「え?うちは炒めずに入れるよ?」

#

「教科書に書いてある以上炒めるのにはそれなりの理由があるはずです。変わったことをする前に基本をしっかりしましょう」

#

「えー?それじゃ納得できないよ」

#ナレーション

説明しましょう。しましょうとも。まってました。

#ナカミチ

「水分を飛ばすんだ。生のままミンチに入れて焼くと玉ねぎの水分がミンチの肉汁と一緒に外に出る事が多いんだ。初めて作るなら最初に炒めた方がいいと思うし玉ねぎ自体も炒めた方が甘くなるし」

#ナレーション

さ、さすがだな。知識のある男の子はもてるぞ。だけどそれ以外にもある。

#このみ

「学校での料理ですからね。加熱処理がしっかり出来てないと問題になるのでしょうね。そろそろほうれん草が…ゆであがりました。冷水で冷やしますね」

#ナレーション

うぐぐ。行動まで描写されるとは……。

#

「ということらしいです。炒めなくてもいいという事ですが私たちは炒めましょう。そのほうがおいしくできると思います」

#

「うん。そうだね。オリジナリティはソースで出すことにするよ」

#

「ちょっとまちなさい。やはり問題はそこですか。普通に作ってください。あ、こら。ちょっと。とまれ」

#

「……ナカミチ君。ソースを作ってください」

#

「えー」

#ナカミチ

「いや、しかし洗い物が」

#

「そんな物あとで構いません!今ある危機を乗り越えるんです!」

#ナカミチ

(……うちのクラスの誰かから悪影響受けてるんじゃないか?)

#ナレーション

誰かって誰だ。

#このみ

「じゃあソースは各自で作りましょう。それで味比べです」

#ナカミチ

「そんな時間あるのか?」

#ナレーション

時計を見ると後20分ほどある。

#このみ

「おひたしならもうできます。ナカミチ君包丁を」

#ナカミチ

「ん?ああ、ほら」

#ナレーション

ナカミチ君が洗った包丁を受け取り、手に持っていたキッチンペーパーで水気をふいてほうれん草をすぱすぱ切っている。浸ける液はもうできているようだ。

#A

「お味噌汁はまだつみれができた所ですがあとは煮るのを注意すればいいですし。まぁソースぐらいなら」

#B

「ハンバーグもあとは焼くだけだよ。早速焼いていくね」

#A

「待ちなさい。油をひいてから焼きなさい」

#ナカミチ

「できなくはないか」

#ナレーション

新たにでだした洗い物を洗いながらナカミチ君は言う。結局洗い物をあとに残したくないらしく食器を洗いながらソースについて考えるのであった。

#このみ

「言ったはいいものの全く案が出ない……。」

#ナカミチ

(そりゃあ大変だな)

#ナレーション

どうなるのか見守ってみようとするあたり彼も楽しんでいるらしい。

 

#

「えー。では手を合わせて」

#4人

「いただきまーす」

#ナレーション

料理ができた班から食事開始である。

#ナレーション

おかず3品と各自持ってきたお弁当が今日の昼食だ。

#ナレーション

各自が持ってきたお弁当はちいさなお弁当箱だったり、パン1つだったり、いつものお弁当箱に少量詰め込んでたり、おおきめのお弁当にぎっしり詰まってたり。唐揚げ多めで。

#このみ

「多い!」

#ナレーション

知らん。

#ナカミチ

「いつも思うけどよく食べるよな」

#このみ

「学校生活はよく動きますからね、食べないともちません」

#B

「ナカミチ君、女の子によく食べるとか言っちゃだめだよ……。」

#このみ

「いいですよ別に。朝昼晩よく食べてよく寝るのが健康的なんですから。というわけであなたたちにもおすそわけです。この唐揚げはヘルシーに作られてますから。あくまで唐揚げとしてはですが」

#B

「えーと。ありがとう?でもあたしは自分の分だけでおなかいっぱいになりそうなんだけどな……。」

#A

「私も同じく……。」

#ナカミチ

「わかった。わかったよ。俺にくれ」

#このみ

「姉さんがつくった唐揚げなんですよねー。私が食べきれない分とはいえ、くれ。みたいな言い方でもらえるものではないとわかりますよね」

#ナカミチ

「うぅ。た、食べたいからください。ほら、もうかんべんしてくれ」

#このみ

「いやー、食べきれないと思ってたので助かります。そちらのお弁当箱の開いてる所に入れていきますねー。ほいほいっと」

#A

「たすかりました。小食なもので」

#B

「あたしはちょっと体重が気になるからね……。会長さんの唐揚げはちょっとおいしさが気になるけど」

#ナカミチ

「ネネさんもミサキさんもまだこのみのノリに慣れてないんだから少しは遠慮するように」

#このみ

「ふんふんふーん」

#ナカミチ

「聞いているのか?」

#ナレーション

聞こえてはいると思われる。が、無視して唐揚げや卵焼きを放り込んでいる。それより2人の名前がわかったぞ。名前欄等をアップデートしなければ。

#ナレーション

……どっちがネネでミサキがどっちだ?

#A

「ではそろそろ本題の、すこしためらっていたところはありますがまずはハンバーグソースの味比べをしましょうか」

#このみ

「ではネネちゃんからおねがいします」

#A

「私のはこれです」

#ナレーション

よし。アップデート完了。ネネちゃん手元のソースを机の真ん中に置く。

#ネネ

「ケチャップとソースを合わせたものに粉チーズをまぜました」

#このみ

「絶対おいしい。ですがもうちょいひねりが欲しいところです」

#ナカミチ

「粉チーズがよくまざってる。チーズがだまに、塊になっていないところがすごいと思う」

#ミサキ

「ソースの味が強めでパンチのある味だね。チーズの味も残っててぐっど」(もぐもぐ)

#ナカミチ

「うまい」(もぐもぐ)

#ミサキ

「では続いてあたしだね」(もぐもぐ)

#ネネ

「落ち担当は最後ですよ」

#ミサキ

「うっ。そうはいかないからね!はい、こちら!」

#ナカミチ

(不安だ)

#ナレーション

引き出しからソースを取り出す。

#このみ

「えーと。油が浮いてますけど」

#ミサキ

「そこはハンバーグ担当の役得だね。肉汁を使ったソースだよ。フライパンの上でケチャップをベースにはちみつと砂糖で甘めに仕上げたんだ」

#ナカミチ

「油の色が2色あるようにみえるが1つははちみつか」

#ネネ

「おそらくおいしくありませんよ」

#ミサキ

「食べてから言ってよー」

#ネネ

「あなたは食べたんですか」

#ミサキ

「いや、怖くてたべれてない……。」

#このみ

「仕方ありませんね。ちょっと食べてみましょうか」(ぱく)

#このみ

「なるほど。ナカミチ君もどうぞ」

#ナカミチ

「自分で最初に食べたことに免じて付き合ってやる」(ぱく)

#ナカミチ

「うぐ」

#ナレーション

いやな汗が出てくる。ケチャップを引き立てる役目(おそらく)だった甘みが主役に躍り出てケチャップがはちみつの甘さを邪魔している。砂糖は全く別の甘さを主張している。とどめが肉汁とは呼べない脂分の感覚だ。ぎっとぎと。

#このみ

「食べ物で遊んではいけませんね。責任を持って本人に食べてもらいましょう」

#ナカミチ

「企画の発案者も責任を取るべきだ」

#このみ

「賛同者にももちろん責任がありますよね」

#ネネ

「理屈が通ってる発言です。まぁ仕方ありません、私も食べましょう」(ぱく)

#ネネ

「ぐうぅ!」

#このみ

「あぁ。こういうノリに慣れていないばっかりに。いい人から先に犠牲になっていく」

#ナカミチ

「同感だな」

#ミサキ

「あ、あとはあたしが食べます……。」

#このみ

「そうしていただけるとありがたいですが半分はナカミチ君が食べるという事です」

#ナカミチ

「このみも食べるんだよ」

#ネネ

「つ、都合のいい時だけ連帯責任を使う女にはなりたくありません。私も食べます」

#ナレーション

美しい若者たち。人としてこうありたい。

#ナレーション

なんとか処理し終えようとする若者。無茶できるのも若さだ。

#4

「ぐうぅ!」

#ナレーション

何とか処理し終えた。無茶は基本するべきではない。

 

 

#このみ

「では次、ナカミチ君。お手本をどうぞ」

#ナカミチ

「自分を最後に持っていったな。落ち担当か」

#このみ

「ほっといてください。はやくソースを出したらどうです」

#ナレーション

ナカミチ君、トンと引き出しからガラスのカップをとりだす。

#ナカミチ

「和風ソースだ。しょうゆとみりんをベースに砂糖を少し足した」

#このみ

「また甘いのか……。」

#ナカミチ

「少しだと言ってるだろう。たしかにあまめかもしれないが……。」

#ミサキ

「なんでもいいよ!とりあえず口の中の味を変えよう!」

#ナレーション

戦犯が何か言ってる。

#ネネ

「同意です。釈然としませんが」(ぱく)

#ネネ

(もぐもぐ)「ああ、あっさりしてます。浄化されてるという表現がぴったりです。よかった」

#ナレーション

よかったという言葉がでるのがその前の凄惨さを感じさせる。あとに引く味という奴だろうか。いや、和風ソースの話をしてあげるべきである。

#ミサキ

「ほんと!おいしい!」(ぱく)

#このみ

「おいしいですね。なんでしょう、さわやかさがすごい。レモンですか?」(もぐもぐ)

#ナカミチ

「ああ、さっき付け足した」

#このみ

「アドリブがきいてますね。私は普段ならレモン無しの方が好みかもしれませんが今日この時ならまちがいなくこちらの方が好きですね」

#ナカミチ

「なら普段はにんにくを足し合わせた方が好みなんじゃないか?入れたかったんだがにんにくチューブが調味料棚に見当たらなくてな。まぁ結果としてはなくてよかったな。にんにくを入れた後にレモンはちょっときびしいだろうな、味が合わないと思う」

#このみ

「ナカミチ君、普段からいいもん食ってるんだぜきっと」

#ミサキ

「そうだぜ、きっと食ってるんだぜ」

#ネネ

「合ってませんね」

#ナカミチ

「無理に組み合わせるとこうなる」

#このみ

「さて」

#このみ

「……。」

#ナカミチ

「はやくだせ」

#ネネ

「このソースの後はきついですね。ハードルが上がっています」

#ミサキ

「厳しいね。鬼畜ってやつ?」

#ナレーション

鬼畜生の略語にしてはわりと軽く愛されて使われる言葉である。本来の意味でつかわれるようなことがあるとやばいことがおこってる。みんなも軽く使われる日々を送ろう。

#このみ

「ええい!これです!くらえ!」

#ナレーション

とん。と置かれる。くらえ!と言うわりに中身がカップから出ないようにわりと軽めにおかれたのがまぁなんともなんとも。

#ナカミチ

「……これは?」

#このみ

「ハーブ塩」

#ナカミチ

「塩コショウだよな」

#ネネ

「胡椒は香辛料では……?」

#ミサキ

「ソースなのこれって?」

#ナカミチ

「断じて違う」

#このみ

「いや、断じるのは早いです。私たちが認めたらこれはソースにもハーブ塩にもなれるはずなんです」

#ナレーション

一理あるがなれる日は来ない。

#ナカミチ

「たとえ俺たちが認めたところで世界が認めなけりゃこれはソースにもハーブ塩にもなれていない」

#このみ

「……ぐぅう」

#ナレーション

ぐうの音が出た。ここまで追い詰めた鬼畜はだれだ。このみちゃんの場合、勝手に追い詰められてる感じがするが。

#ナカミチ

「とにかく、まぁおいしいはずだ。シンプルでまちがった味付けはされていないし、甘いソースが続いた後だから塩の味がよりおいしく感じるはずだ」

#ミサキ

「ほんとだ!おいしーい」(ぱく)

#ネネ

「最後にシンプルな塩というのがおいしいですね。出された順番が確かにいいです」(ぱく)

#ナカミチ

「ソース対決と言っておきながらこういうものをだすのがこのみらしいな……。」(ぱく)

#このみ

「色々考えた末につかんだ勝利ですね」

#ナカミチ

「悩んだ末の暴挙だろ」

#このみ

「じゃあハンバーグ品評会も終わったことですし普通にお昼ご飯をいただいていきますか」

#ナカミチ

「お味噌汁すっかりさめちまったな」

#ネネ

「まだ飲んでいないのでしょう?戻してあたためなおしますよ。お椀かしてください」

#ナカミチ

「じゃあおねがいしようかな」

#このみ

「ほらほら。おひたし上手にできたからたくさん食べてよ!」

#ナカミチ

「おい。多く盛るな。ただでさえ量が多いんだ。自分自身のに多く入れろ」

#ミサキ

「……あたしの女子力低いなー」

#ナレーション

三者三様(4人)十人十色(4人)みんな違ってみんないい。精進するんだ!

#ナカミチ

「んん。唐揚げうまいな」

#このみ

「そうでしょう。そうでしょう」

#ネネ

「そんなにおいしいんですか。やはり会長は才色兼備と言われるだけの理由があるのですね。私もあこがれます」

#このみ

「そうでしょう。そうでしょう。じゃあからあげとネネちゃんのおかず交換しようよ。それなら量も多くならないでしょ?ミサキちゃんも1つどうです?まだ多いんだからどうぞどうぞ」

#ミサキ

「た、体重が気になるからね。あたしも交換するよ。このあんぱんを少しどうぞ」

#このみ

「あんこの甘さはまたソース系とは違う甘さでおいしいですねー(もぐもぐ)後の唐揚げは私の分なんでナカミチ君のはもうないですよ」(むぐむぐ)

#ナカミチ

「いや、もうじゅうぶん多いから。この卵焼きもおいしいな」

#このみ

「そうでしょう!そうでしょう!卵焼きはあげます。ほいほいっと」

#ナカミチ

「多いと言ってるだろう!まったく」

#ナカミチ

「うん。おみそ汁も、(ごくり)……つみれがよくできてるな」

#ナレーション

入れ直してもらったおみそ汁を飲む。

#このみ

「?どれどれ。(ごくり)……ふむ。(ぱくり)おいしいですねぇ」

#ミサキ

「ほんとー。イワシのつみれっておいしいんだねー。お味噌汁ってほっとするよね!」

#ネネ

「そういっていただけるとうれしいですね。ふふっ」

#ナカミチ

(このみは気づいている感じがしたけど、料理の手際も良かったし普段から料理やってるのか?)

#ナレーション

なにがわかったんだよ。教えろよ。言ってくれなきゃわからないよ。

#ナカミチ

(お味噌を最初から溶いてたか加熱中に溶いたんだろうか?お味噌を溶いてから沸騰させた感じが出ている)

#ナレーション

よくわかったね。ごめんね、そのシーン描写してなくて。

#ナカミチ

(調理中に誰かが気づくべきだったんだが、自分のソース作りで頭がいっぱいになってたな)

#ナレーション

こっちもソースの描写でいっぱいになってた気がする。……気がする。

#ナカミチ

(今からでも教えるべきだろうか)

#ナレーション

むずかしいところだね。

#このみ

「いやー、全部おいしいからお箸が止まりません。ですが楽しくないとおいしいと感じないものですからね。やっぱりこういう場が大事なんですよ」

#ミサキ

「おっ!いい事いうねー」

#ネネ

「少しテンプレートみたいな言い方でしたけどね。ふふっ」

#ナカミチ

「……そうだな。でもそういう事を言うのが大事なんだろうな」

#ネネ

「ふふっ。ナカミチ君もロマンチストみたいな事言いだしましたね」

#このみ

「きゃー。はずかしいー」

#ミサキ

「きゃー」

#ナカミチ

「……言わなきゃよかった」

#ナレーション

つまりそういうことだ。やぼってもんだ。そういうことだ。

 

 

#ナレーション

昼休み。

#ふうき

「すぴー。………すぴー」

#ナレーション

風紀さんはだいたいこの時間帯は静かになる。本人いわく成長期だから。

#ナレーション

風紀さんの事は別にしても教室内の騒音レベルは低い。

#ナレーション

特に何かが起こるわけもなく昼さがりは過ぎていく。。

#

「うぅ……。」

#クラスメイト

「あっ」

「あっ。ちょっと用事が」

「待て。対処からにげるな」

#さいか

「う゛う゛うううぅ」

#ナレーション

おや、さいかさんだった。ちょっとぶりである。どうしたのだろうか。

#さいか

「うぅ、う゛ぇ、うえぇ、ぐすっ」

#クラスメイト

「おちついて!さいかさん!ねっ!ほら!ちょっとお水のもう?ねっ!?」

「2学期が始まってからなかったから安心してたんだけどなぁ」

「お前が落ち着いてんじゃねぇ」

「すぴー。……………すぴー」

#このみ

「えっ。なんですかあれ。どうしたんですか、さいかちゃんは」

#ナレーション

このみちゃん、始めて見るさいかさんのすがたに少し驚いているようである。

#ナカミチ

「ストレスが高まると……な」

#さいか

「うぅ……。宿題が終わりません……。」

#ナレーション

おそらくさいかさんの言う宿題は家庭教師か塾からのものだろう。この学校は普段あまり宿題を出さない。

#さいか

「おわらないんです……。ずっと……。」

#ナレーション

闇が深い。

#クラスメイト

「まぁ久しぶりに手伝うか……。」

「君は戦力外だろうに……。まぁ、かといって僕もな……。」

「俺たちの力では……。」

#さいか

「ぐすっ。ごめんなさい、泣き言を言ったばっかりに。もう言わないって思っていたんですけど……。」

#ナレーション

いっぱいいっぱいで自己防衛が出たのだろう。

#さいか

「1人でやりますので大丈夫です。終わる量ですよ」

#このみ

「どれだけの量なんです?」

#ナレーション

ひょっこりとこのみちゃん。

#さいか

「英文の和訳があと2ページです……。それに付随した問題が5問あります……。」

#ナレーション

無理な量ではない。

#ナカミチ

「横に置いてある国語のプリントからはどれだけ宿題が出てるんだ」

#さいか

「……長文読解が2つです。あと、短めの読解が1つ」

#ふうき

「それを?」

#ナレーション

風紀さんひょっこり。起きた。

#さいか

「学校にいる間に終わらせます」

#ナレーション

終わらせる。終わらせるというのはまともには出来上がらないと同義である。世知辛い。

#ナカミチ

「難易度は」

#さいか

「おそらくだいたい高校2年レベルと思います……。」

#ふうき

「落ち着きが戻ってきたね」

#このみ

「残りの量を把握するだけで一応終わりが見える分、心に余裕が生まれるんですね」

#ナレーション

量によっては絶望して落ち着くもあるが。

#クラスメイト

「とりあえずやっていこうよ」

「後、十分ぐらいしかないぞ」

「前が家庭科の調理実習だったからいつもより休み時間が短く感じるねー……。」

#さいか

「……そもそも今回終わられせられなかったのは前日に気づいたら寝てしまっていた私の責任です。前のように量がすごく多かったというわけではないんです」

#ナレーション

寝落ちという奴だったのだろう。

#ナカミチ

「終わらなかった。それだけのことだろう」

#ナレーション

さすがぼくらの主人公。かっこいい事言ってくれる。

#ふうき

「そもそもこれから終わるし。まぁ宿題は大人数でやるものでもないし、いつも通りの布陣でいいでしょ。英語ならネネさんに手伝ってもらいながら、さいかちゃんが仕上げる」

#クラスメイト

「ざわっ……。」

「でた、英単語のネネだ……。」

「知らない英単語は罵倒系とアダルト系しかないと言われる……。」

#ネネ

「その言い方やめてくれますか。あとその単語しか知らないと思われそうな呼び名も即刻辞めて下さい。イディオムも高校レベルなら頭に入ってます」

#クラスメイト

「氷のネネだ……。」

「氷(アイシクル)ネネ……!」

「その氷が溶ける日は来るのか……!」

#ネネ

「あなた方の顔は覚えましたんで。あとアイシクルはつららです。さいかさん、私が長文の大体の意味を汲み取るんで素早く終わらせていきましょう」

#さいか

「うん。わかりました。……ありがとう」

#ふうき

「さて、国語は読解問題でしょ?じゃあナカミチ君でいけるでしょ。ま、がんばってね」

#ナレーション

風紀さん席に戻る。

#ナカミチ

「いや、俺だけじゃ時間が足りない。風紀さん?」

#ふうき

「さっきかっこつけたじゃん。つけた責任はとるべきだよ。ほらほらタイムアタック。10分切ったよ」

#ナカミチ

「ごめんなさい。かっこつけた事は謝るんで。手伝ってください」

#ナレーション

なんてかっこわるい。

#このみ

「うっわ。かっこわる」

#ナカミチ

「ぐっ」

#ふうき

「その程度でかっこつけられてもね」

#ナカミチ

「ぐうぅ……。」

#ふうき

「しかたない。短めの読解と言ってたのは私が担当するよ。おそらくだけど……。やっぱりこれ古典だね。気付いてなかったのだろうけど」

#ナカミチ

「……さっぱりわからん」

#このみ

「知らない古文単語ばっかり」

#ふうき

「私も習ってないし、知らないよ。私が古典の単語帳はもってるから即刻しらべながら解くよ。誰か悪いんだけど、」

#クラスメイト

「ロッカーにあるんだな!とってくるぜ!」

「黙れクソヤロー。なに堂々と女子ロッカー地帯に入ろうとしてるの」

「やれやれ、わたしが取りに行きます」

#ふうき

「いや、貸してくれればよかったんだけど。まぁいいや、これロッカーのカギね。お願い。さて、残りの長文読解は2つあるし1つ誰かに、まぁこのみちゃんに手伝ってもらいなよ。……ん?」

#ナレーション

風紀さんが何かに気づいて振り向くと廊下付近にいたクラスメイトが話に割り込んでくる。

#クラスメイト

「な、ナカミチ……。他クラスの女の子がお前を呼んでるぞ……。」

#クラスメイト一同

「!!」

#ナカミチ

「え?タイミングが悪いな。……ん?女の子?」

#ナレーション

一瞬、意識下で何か期待しちゃうナカミチ君。男の子だもん。だが、廊下を見ると申し訳なさそうな顔をしているましろさんがいた。何かはないだろうと結論づける。そこ、だれだっけはやめろ。幼馴染だ。ゲーム冒頭に10秒ぐらいはみんな見てるはずだ。

#ナカミチ

「うーん。このみ。悪いが」

#このみ

「ええ。誰かに手伝ってもらって。2つとも。解いておきますよ」

#ナカミチ

「す、すまない」

#ふうき

「あっはっはっ!……かっこわるー」(ぼそっ)

#ナカミチ

「……。」

#クラスメイト

「きゃー。青春ー」

「きゃー。たらしー」

「きゃー。きゃー」

#ナカミチ

「べつにそんなんじゃないよ。お前らが期待してるような事はおきない」

#クラスメイト

「……へたれ」

「……はっ」(嘲笑)

「……ぺっ」(音だけ)

#ナレーション

無視してさっさとましろさんの所へ向かう。時間は有限なのだ。

 

 

#ナカミチ

「どうしたんだ、ましろ、さん」

#ナレーション

へたれ。教室の廊下側の窓が慎重に開けられていく。ばれてないばれてない。完全にクラスメイト共は盗み聞く気まんまんである。

#ましろ

「ごめんね。ちょっと教科書を忘れちゃって。貸してほしくて来たの」

#ナカミチ

「ああ。そう。何の教科書なんだ?」

#ましろ

「社会の地図帳なんだけど。今日持ってるかな?」

#ナカミチ

「ああ、持ってる。持ってくるよ。必要なのはそれだけ?」

#ましろ

「うん。それだけ」

#ナカミチ

(昔はどんなふうに話していただろうか)

#ナレーション

いつもより丁寧に話しているような。そんな感覚が体にまとわりつく。自分の机に向かう。

 

 

#クラスメイト

(ジロジロ)

#ナレーション

目線を感じる。

#このみ

「ごめんなさい。やっぱり1つはナカミチ君が解くと言う事で決まりましたから」

#ナカミチ

「なんでだよ」

#ふうき

「面白さが期待値を下回っちゃったからねー。しゃーないしゃーない」

#ナレーション

理不尽を感じながら自分のかばんから地図帳を引っ張り出し廊下に向かう。

 

 

#ナカミチ

「ほら、これだろ?こっちは6限目が社会なんだ。さっき聞いてなかったがそっちは6限目が社会じゃないよな」

#ましろ

「え?う、うん。そうだね。こっちは5限に社会だから大丈夫だよ。ありがとう」

#ナカミチ

「別にかまわないから」

#ましろ

「じゃあまた次の休み時間に来るね」

#ナカミチ

「ああ。じゃあな」

#ナレーション

ましろさんが自分の教室へ向かい歩き去る。

#ナカミチ

(しかし何で俺のところに借りに来たんだ?妹のみしろに借りればよかったんじゃないのか?)

#ナレーション

ましろとみしろは双子である。憶えていた方はすばらしい。

#ナカミチ

(あ。そうだ。おんなじクラスだ、ましろとみしろは……)

#ナレーション

双子がおんなじクラスだと見分けるのが難しいのでは。普通は別にしないだろうか?

 

 

#ナレーション

教室の席に戻ると回答欄がまっしろのプリントが宣言通り置かれていた。

#ナレーション

正確に言うとこのみちゃんが担当している1題目の問題が少しナカミチ君担当の2題目の文章の前についてたのでそこだけ書きこまれている。ナカミチ君がプリントを使うから先にその問題をこのみちゃんは終わらせたのだろう。やさしいね。よかったね。あと5分だからがんばって。

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

ちらっとさいかちゃんの方を見るとネネちゃんと一緒に冷めた目で見られる。どうやら英語は終わったようだ。2人とも優秀である。休憩時間を休憩に使えているようでよかった。残念だが女の子の前でかっこつけてすぐに別の女の子のもとへ行ったのだからそりゃそういう目で見られる。

#ナレーション

女の子に1度手助けすると言ったんだ。やれ。

#ナカミチ

(ぐぅ……!くっそ!やるしかない!)

#ナレーション

クラスメイト全体からジーっと見つめられながら問題を解いて行く。問題を解く手が止まれば解ききる事は難しい量だ。2題目は全5問。1問目が終わった、残り4問。

#このみ

「ひゃー。終わりましたぁ」

#ふうき

(ペラペラペラ)ふんふん。(ペラペラペラペラペラペラ)なるほどなるほど。(ペラペラ)ほうほう」

#ナレーション

このみちゃん終わり。風紀さん単語帳フル活用。ふ、ふ、ふる、ふる、ふれ、ふよ。

#ナレーション

ご存知の方もいるだろうが古典の活用法にフル活用など存在しない。あたりまえか。ちなみにさっきのは上1段活用。

#ふうき

「こっちもおわったよ。古典の文章題は文章の横に訳を書いといたから安心して塾に行くと良いよ」

#さいか

「このみちゃん、風紀さん。2人ともありがとう」

#このみ

「いやー、解く速度は昔から鍛えてましたからね。宿題はさっさと終わらせるもんです」

#ふうき

「さすがになかなか厳しい難易度だったかな……。まぁできたけどねー!」

#ナカミチ

(聞こえない聞こえない。集中しろ集中しろ)

#ナレーション

孤独と戦う。

#さいか

「風紀さん。こういうことばかりですみません。……ごめんなさい」

#ふうき

「べつに見返りとか求めてないよ。安心してね!」

#クラスメイト

「よかったな、これでハッピーエンド間違い無し」(ジー)

「めでたしめでたし」(ジー)

「残り、2分、10秒」(ジー)

#ナカミチ

(最後の将棋の残り時間を言うような言い方がむかつく)

#ナレーション

そういいながら2問終わらせていく。残り、2分。残り、2問。

 

#ナレーション

5限目は数学Ⅰである。この学校は数学ⅠとAで分かれているタイプである。ちなみに国語が現代文と古典で分かれていたり英語が文法と長文読解で分かれていたりはしない。社会すら分かれていない。今後一切必要ないであろう設定内容ではある。

#

キーンコーンカーンコーン

#ナレーション

開始のチャイムだ。

#ナカミチ

「終わったー!」

#ナレーション

5限目が始まるようだ。そして終わったようだ。

#ふうき

「解けてなくても学校生活が終わったりしないよ。また1から信用を積み上げていこうね」

#このみ

「もしかしたらマイナスからの再スタートかもしれませんがそれも仕方ありません。切り替えていきましょう。わたしはこのみちゃんです、よろしくおねがいします」

#ナカミチ

「ちがう!終わったのは解き終わったんだよ。分かってて言ってるだろう」

#このみ

「わかってますよ!今後ともよろしく」

#ふうき

「先生が来る前にはやくさいかちゃんに渡しなよー」

#ナレーション

さいかさんが受け取りにやってくる。どうやら先生は遅れておられるようだ。

#さいか

「ナカミチ君、ありがとうございます。いえ、いつもありがとうございます」

#ナカミチ

「手伝ってるのはどうしようもない時だけだろう。いつもってわけじゃない」

#ふうき

「こいつ隙があったらすぐかっこつける」
#
このみ

「こいつかっこつけてるんじゃなくて冷淡ぶってるんですよ。悪い癖ですねぇ」

#ナカミチ

「こいつはやめろ!」

#ふうき

「きゃー。ナカミチ君がおこったー!」

#このみ

「きゃー。ナカミチ君がおこったー!」

#ナレーション

きゃあきゃあとみんなでしばらくさわぐ。先生が来ていないとはいえお昼休みよりさわがしい。まるでまだ休み時間のようである。

#ナレーション

これは先生に見つかったら怒られるやつだ。

#クラスメイト

「先生きたぞー」

#

だだっ!がたがた!

#ナレーション

みつからなければいい。そういうことも世の中にはある。ようやく5限目が始まるのだ。

#ナレーション

しばらくして。

#

ぺしっ。

#ナレーション

机を定規で叩く音。

#

「ごほっ」

#ナレーション

咳払いする人。

#

がたっ。

#ナレーション

椅子を動かす人。

#ナカミチ

(今日は一層早いな)

#ナレーション

先生から問題が解くようにと指示が与えられると音が鳴りだす。問題を解き終わると解き終わったとクラスメイトにアピールするために音を出している。3位まで出せる。まぁ自慢大会だ。ちなみにクラス非公式。自然発生したゲームである。アピールしたのに間違えて答えを出していた場合どうなるのかは謎だ。

#ナカミチ

(たまには参加してみるか)

#ナレーション

ナカミチ君参戦。

#ナレーション

全敗しました。

#ナレーション

休み時間。

#このみ

「あれ、ナカミチ君なんかすごい疲れてません?」

#ナレーション

グロッキー状態である。文章題を凄まじいスピードで仕上げ、ハイになって調子に乗って数学のスピード勝負に参戦(全敗)。後は朝からのいろいろな抜けきらない疲れが残ってる。

#ナカミチ

「後1時間だからな。こんなもんだろ」

#このみ

「なんか日本語の使い方まちがってますよ。本格的に疲れているようですね」

#ふうき

「ナカミチくーん、廊下見てごらんよ。教科書返しに来たっぽいよ」

#ナカミチ

「ああ。そうか。あったなそんなことも。もらってくる」

#ナレーション

ナカミチ君廊下へ向かう。

 

 

#ナカミチ

「ん?みしろじゃないか。あぁ、教科書持ってきてくれたのか」

#みしろ

「ましろ姉さんに用事が出来てね、返しに行ってくれって言ったのを持ってきたんだけどさ。教科書って地図帳だよね?これであってるの?」

#ナカミチ

「……ああ。あってるよ」

#ナカミチ

(昔の話方そのままだな)

#ナレーション

何年も話していない雰囲気を出さない。

#みしろ

「そう。じゃあ確かに返したから。じゃあね。あと姉さんが貸してくれてありがとうってさ」

#ナカミチ

「……ああ。じゃあな。持ってきてくれてありがとうな」

#ナレーション

それでも昔のように話しこんだりはしない。そんなもんだ。話さないようになってからもう時間がたちすぎている。

#ナカミチ

(もどるか)

 

 

#ナレーション

教室では机にほおをぺたーとくっつけながら25秒ー。25秒ー。と言ってる風紀さんがいた。

#ナカミチ

(なにが25秒なんだ?)

#ナレーション

ユーがしゃべってた時間ですね。

#ナレーション

クラスメイト達はこりゃ発展しねーわとあきれ顔になっていた。

 

#ナレーション

ついに本日最後6限目、社会である。

#ナレーション

先生は重要なところを黒板に書いて行く。が、生徒たちが重要なところは違う。

#ナレーション

ナカミチ君の左、風紀さんは教科書を読んでいるが今やっている所と全く違う所を読んでいる。ナカミチ君の右、このみちゃんは地図帳を見ている。ちらっと見えた限りでは見てるのはタイの辺りらしい。あの辺りの大陸の形は印象に残る。しかしそもそも今は地図帳を使っていない。今やっているのは日本史の話だ。

#ナレーション

で、ナカミチ君はぼーっとしてる。今は英気を養う時だ。

#ナレーション

使われない地図帳を見ながら結局ましろも使わなかったのだろうなとなんとなく思う。

#ナレーション

かといってタイのページを開くつもりはないナカミチ君であった。

#ナレーション

されど授業はつつがなく進んでいく。妨害行為等もないしね。そりゃふつうはない。

#ナレーション

こういう時、真面目に授業を受けていると勉強ができるのかって言えばそうでもない。授業を受けているからといって勉強しているとはならないし、勉強しているからと言って身につくかどうかは人による。世知辛い。

#ナレーション

ぼーっとしてたら何も起こらんぞナカミチ君。覚醒するのだ。

#ナレーション

と思ったら小テストが始まった。

#ナカミチ

(げっ。何も聞いてなかったぞ)

#ナレーション

意識が戻ってきたか。

 

#ナレーション

6限目終了。今日のお勤め終わり。

#クラスメイト

「ナカミチー。小テストどうだったよー」

#ナカミチ

「聞くなよ。あんまりできなかったんだから。そっちはどうなんだ、教えろよ」

#クラスメイト

「お前と同じぐらいだろうな。ナカミチができなかったって言うのは6割ぐらいだからな。俺の普段ぐらいの点数だろ。まったく」

#クラスメイト

「だがな俺たちにとって小テストは何も悪いばっかりじゃあない。風紀さんどうなんだ今回のテストは」

#ナレーション

気づけば他の人も風紀さんの周りに、ぞろぞろと集まる生徒たち。

#ふうき

「問い2の桓武天皇と問い4の藤原不比等がテストに出るんじゃないかな。どうかな?さいかちゃん?」

#さいか

「そうですね……。問題集ではよく見かけると思います」

#ふうき

「後は問い8と9で藤原四兄弟と藤原宇合(うごう)が出てるから4兄弟全員と式家開祖だとか、なに家の開祖かを合わせて覚えないと危ないだろうね。選択問題にはなりそうにない気配がするね。記述問題になると思うからしっかり覚えとかないといけないかな」

#さいか

「風紀さんその方、宇合(うごう)ではなく宇合(うまかい)です……。読みにくい名前ですが……。」

#ふうき

「いやー!はずかしいー!」

#ナレーション

もだえる風紀さん。椅子から転げ落ちる。しかし昔の歴史上の人名は読み方がはっきりしていない。実はうごうの読み方でもあっている可能性が……まぁないな。

#クラスメイト

「ふ、風紀さん。さすがに掃除前だから床を転がるのはやめといた方が」

「毎日掃除してるといっても1日たってるからな」

「まぁそれでもしたいなら別に構わないけど……。」

#ふうき

「そ、そうだね。やめとこうか」

#ナレーション

今度は本当に恥ずかしそうだ。行動パターンを読まれ、善意でひかれながら提言されればこうなる。

#このみ

「いやー。テストよりよっぽど復習になりますねー」

#ナカミチ

「テストがあるから出来ることだけどな」

#ふうき

「ではこんなところにして掃除始めないとね。じゃ、当番じゃない人は外に出ようか。あとよろしくー」

#このみ

「はーい。昨日に引き続いてかんぺきにしますよー」

#ナカミチ

「今日はおれの列もか」

#ナレーション

縦2列が順番に毎日の掃除を担当する。毎日、横に一つづつずれていく。

#クラスメイト

「今日は私たちが机運びと箒掃き、床のからぶき担当だね」

「おーし、やるかー」

「じゃあこっちはぬれぞうきん用意してくるわ。行こうぜー」

#ナカミチ

「ああ」

#クラスメイト

「あいよー」

「はいよー」

「いいよー」

#ナレーション

このクラスは毎日床をぞうきんがけする。おもに誰かが転げまわったりするからだ。もともとは教室をきれいに保つためにはというものから始まったのだが。いや、今もそのためにやっているはずなのだ。

#ナレーション

掃除自体はのんびりやっている。ホームルームまでどうせ今から15分あるのだ。

 

#ナレーション

ぞうきんを絞り戻ってくる。

#このみ

「あ、帰って来ましたか。床の雑巾がけは掃き終わった右側からおねがいしますね。掃き掃除から半分からぶきへ回りましょうか」

#ナレーション

箒を軽快に扱いながらこのみさんが言う。

#クラスメイト

「いいよー」

「はいよー」

「あいよー」

#ナカミチ

「残り10分か」

#このみ

「急がなくても大丈夫でしょう。それよりはやく這いつくばってください」

#ナカミチ

「素直に床を拭いてくださいでいいだろう」

#このみ

「同じ意味ですよ」

#ナレーション

箒を操りながら言う。

#ナカミチ

「絶対違う」

#ナレーション

このみさんチリトリでまとまったチリを受け取る。

#このみ

「じゃ、からぶき行きましょうか。這いつくばりますよー」

#クラスメイト

「そうだね」

「今日ももう終るって感じがするなー」

「あとは15秒ぐらいのホームルームだもんな」

#ナカミチ

(毎日早いような長いような。よくわからないな本当に)

#ナレーション

つつがなく清掃も終わり教室にクラスメイト達が戻ってくるとくぜ先生もやってくる。同時に清掃時間終了のチャイムが流れる。ホームルーム開始の合図でもある。

#くぜ

「ホームルームをはじめます。まずはプリント等の配布物です」

#ナレーション

要件を淡々と言う。今日は15秒以上のホームルームだ。

#ナカミチ

(今日は長くなるのか?)

#ナレーション

配られたプリントを後ろに回しながら思う。まずはとか言ってたから、そうだろう。プリントは、保護者の皆様へ文化祭のお知らせ。という内容だった。つづいて封筒が配られる。

#くぜ

「プリントに書かれていますが中学生以下は学生証の提示で保護者2名までと同伴して入れます。高校生以上は封筒に入っている4枚の入場券が無いと入れません」

#くぜ

「あと4枚以上必要な場合は明日以降、職員室に来なさい。まあ、主に家族が5人以上来られるという事以外ではほとんど渡すことはできません」

#くぜ

「質問は?」

#ふうき

「偽造される可能性は?」

#くぜ

「質問は以上ですか?では次ですが、生徒会長立候補者についてです。1年生にも立候補する権利があります。立候補する人はいますか」

#ナレーション

無視した方がいい時もある。なんでも聞き入れてもらえると思ったら間違いということでもある。ちなみに入場券には偽造防止のためか銀色のように光るシールが貼られている。世知辛い世の中だ。

#このみ

「質問いいですか?」

#くぜ

「……なんでしょう」

#くぜ

「5人以上の先生方から推薦を頂かないといけませんから、まあ無理ですね。2年生がなるという暗黙の了解が教師間にはありますから」

#このみ

「そうですか。なるほど。ありがとうございます。姉さん。このみは後は継げそうにありません。このみは権力にひれ伏して生きます……。」

#ふうき

「うう……。このみちゃんふびんだよう……。」

#くぜ

「あなた方、来年はやるつもりなんですか」

#このみ

「いえ、今のところそのようなことはー、」

#ふうき

「ありませんぜー。えっへっへ。……いや、本当にありませんよ?」

#ナレーション

いぶかしげなくぜ先生の顔に風紀さんは2回答える。

#ナカミチ

(なんでおとなしくできないんだろうなぁ)

#ナレーション

知りたいという気持ちは大事である。抑えきれない思いがある。知識も増えるし。ただ人に迷惑をかけてはいけない。少しなら許してもらえるかも。

#くぜ

「次が最後なんですが、文化祭にて1年生は飲食店を行うのですが……。」

#ナレーション

くぜ先生にしては珍しく言いよどむ。

#くぜ

「出し物を決める前にのばしに延ばしてきたクラスを指揮する委員長を決めなければなりません」

#ふうき

「先生。前提としてこのみさんしか無理なんですよね?」

#くぜ

「……いえ、もう時間も経ちましたし。ある程度、許可されるでしょう。いいですか、委員長を再任するに当たって他クラスの先生から了承を貰わないといけません。少なくとも学年主任からは了承を貰わないといけません」

#ふうき

「いや、私はもうするつもりありませんよ。本当に」

#くぜ

「……そうですか」

#ナカミチ

(少なくとも風紀さんは実質無理だということか)

#ナレーション

もう一度というわけにはいかないのだろう。

#ナカミチ

(風紀さんは本当にもうする気はないのだろうし)

#クラスメイト

「やっぱりこのみちゃんしかないかなぁ」

「いや、本人がやらないって言っただろう」

「でもなぁ」

#ナレーション

ちらっとこのみの方を向くナカミチ君。

#ナカミチ

(このみがしてくれればなぁ)

#ナレーション

このみはいつも通りの顔である。どこ吹く風というような。

#ナカミチ

(このみがしてくれたらどうなるんだろう)

#ナカミチ

(……してくれたらってなんなんだろうな。してくれたらそれで丸く収まるんだろう。だからなんなんだろうな。それで終わるからかな)

#ナレーション

相手の心を推し量るというのは本当に難しい。

#ナレーション

議論が行き詰まりはじめたところでこのみがしゃべり始める。

#このみ

「私は……。その、」

#ナカミチ

「なぁ、このみ。俺はこのみに委員長してほしいって思ってるんだけどな。ぜひって。このみなら出来るって思うから」

#ナレーション

これが精一杯の答えだった。今日一番考えたと彼は思った。

#このみ

「私は、その、しかたないから。とか、問題ないから。とか、そういうのでやりたくなかったんですよ。それだけです。してほしいってんなら話は別です」

#ふうき

「………え?ということは?……やったあ!」

#クラスメイト

「お?やってくれるってことか?」

「ありがとうこのみさん!うれしいです!」

「いやー、なんだかうれしいね。よかったよかった」

#このみ

「そこまで喜んでもらえるとは」

#さいか

「ううん。それだけみんなこのみちゃんにしてほしかったんだよ。このみちゃんのこともわかったうえでね。……1学期の時よりハチャメチャにならないと思うし。大きな問題も起こらないだろうし」

#ふうき

「えへー」

#ナカミチ

「えへー、じゃない。風紀さんの後にみんなやりずらかったて言うのもあるんだぞ」

#ふうき

「えへー」

#ナカミチ

「……。」

#くぜ

「そうですか、しますか。……がんばってください」

#ナレーション

すこしくぜ先生もうれしそうである。

#くぜ

「ですが、委員長が決まったらあと一個決めないといけないことがあります。さっきので最後と思っていましたが間違ってましたね。もうしわけない」

#ふうき

「そうですねー!いやー、どうしよっかなー!」

#さいか

「私はもう決めてます。わたしハチャメチャなのは苦手だから……。」

#クラスメイト

「まぁ、そのへんも勝手に決めるのもなー」

「そうねー。決め方もいろいろあるしねー」

「まぁ一応あるわねー」

#ミサキ

「まあさっと決まるんじゃないかな?この感じだったら?」

#ネネ

「とりあえず、ナカミチ君はどう思ってるのか聞いたらどうですか?引っ張りすぎるのもどうかと思います」

#ナカミチ

「?ああ、文化祭の出し物か。俺は特に考えてなかったな」

#クラスメイト一同

「……。」

#くぜ

「……それは今日ひと晩考えてきてもらって明日決めるつもりです」

#ふうき

「まじで言ってるの……?ナカミチ君……。」

#ナカミチ

「え?」

#さいか

「ちょっと考え直しましょうか。ネネさんあたりに」

#ナカミチ

「なんの話なんだ?」

#ナレーション

このみの方を向く。

#このみ

「こっち向かないでください」

#ナレーション

そりゃそうだ。

#このみ

「前はどう決めたんです」

#ふうき

「横にいた異性だよ。男女別の方が効率がいいでしょ」

#このみ

「じゃあ、ナカミチ君、で、いいや。問題ないでしょ」

#ナレーション

ちなみにこのみちゃんのもう片方の席は女の子が座ってる。同性だ。

#クラスメイト

「それでいいや」

「それでいいや」

「それでいいや」

#くぜ

「では副委員長はナカミチさんという事で。委員長、初めての号令お願いします」

#このみ

「はーい。じゃあきりーつ」

#ナレーション

クラスの生徒たちが一斉に立ち上がる。ナカミチもよくわかってないまま遅れて立つ。

#このみ

「れーい!」

#クラスメイト

「ありがとうございましたー!」

#ナカミチ

「あ、ありがとうございました?」

#このみ

「……これからもよろしくおねがいしますね。では、かいさーん」

#クラスメイト

「よろしくねこのみ委員長!」

「よろしくなこのみ委員長!」

「じゃあねこのみいいんちょ!」

#このみ

「委員長はやめてほしいですねー」

#ナレーション

てれるこのみさん。

#ふうき

「うふふ!じゃあこれからもよろしくねこのみちゃん!」

#ナレーション

みんな帰っていく。

#ナカミチ

「……あれ?」

#クラスメイト(日直)

「教室の鍵閉めるからでてくれない?副委員長」

「もうみんな出ていったぞ?副委員長」

#ナレーション

残ってるのは日直の2人とナカミチ君だけだ。

#ナカミチ

(やっちまった?)

#ナレーション

そうだね。

#ナカミチ

「す、すまない。すぐにでるよ」

#クラスメイト(日直)

「いや、別に謝らなくていいよ。副委員長」

「俺らは別に謝られることされてないし。副委員長」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

かえれ。

#ナレーション

長いような短いような1日がまた過ぎていく。あしたもがんばろう。信用は1から積み直せるのだ。マイナスからでも積み直すしかない。がんばれー。がんばれー。

 

#ナレーション

10月初め。

#ナレーション

夏の残した暑さも抜け落ち、涼しさが吹き抜ける。綺麗な青空が寒さを感じさせさえする季節、秋である。

#このみ

「はふー。少し寒くなってきましたねー。少し休憩しましょうか」

#ナカミチ

「まだ何もしてないんだが」

#ナレーション

2人そろって私服である。そりゃそうだ。今日は休日なんだから。

#ナレーション

……何で休日に会ってるんだろう。まさか。

#ナカミチ

「とりあえず衣装に使う布生地を見に行くぞ。休憩はその後だな」

#このみ

「そうやってなんだかんだ要望を聞くからもてあそばれるんですよねー」

#ナカミチ

「もてあそぶ方が悪いんだ」

#このみ

「ナカミチ君がみんなから好かれている証拠ですねぇ」

#ナカミチ

「もてあそんでいると言った後に言う言葉じゃないな」

#このみ

「おおっと。一度言った言葉は無くす事ができませんね。見て見ぬふりでもしてもらいましょうか。……いわゆる甲斐性ってやつですかね?」

#ナカミチ

「しらん」

#ナレーション

まさか文化祭の喫茶店で使う衣装の作成に必要な布生地にかかる費用を下調べしに来ているとは。それで委員長と副委員長が休日に調べに来たというわけである。

#ナレーション

わー。甘酸っぱいなぁ。

#ナカミチ

「さ、行くぞ。さっさと終わらせてしまおう」

#ナレーション

なんかもうこれ以上ないほど残念なコメントが出た。失言はとりかえしがつかないからこわい。

#このみ

「そうですねー。私も急速にそうしたくなってきました。出会って早々にそう言われてはねー」

#ナカミチ

「学生だけでは入ったことないけど、もう俺たちも高校生だからな。休憩はカフェとかにしよう」

#このみ

「あぁ。気遣いでしたか……。」

#ナカミチ

「?休憩したいんだろう?」

#このみ

「ああ、いえいえ。カフェに入るのにワクワクしているとは子供っぽいなーと思いましてね。ナカミチ君もまだまだ子供っぽいですねー」

#ナカミチ

「ぐっ」

#ナレーション

高校生。まだまだ子供である。

#このみ

「私はお姉ちゃんとカフェに入ったりすることもしばしばですから。カフェでは私がエスコートすることになりそうですねぇ?」

#ナレーション

まだまだ子供。その2。別にゆっくりと大人になればいいんですが。

 

 

#このみ

「おお。ここですか。こういうお店は来た事がなかったので、なるほど。すごいですね」

#ナカミチ

「俺も布屋さんに来た事はなかったな。生地のロールって言うのか?一つ一つが巨大だな。種類も多くて探すのが大変そうだ」

#ナレーション

専門店の大きさに驚く二人。しかし見えているすごい量の生地群、ほとんど展示用。裏には販売用の在庫がそれはもう大量に。つまり見えている大量の布は氷山の一角。

#ナレーション

2人すごすごと入っていく。1人では入りづらいなぁとナカミチ君は思う。2人でも場違い感があるのではないだろうかと不安にはなるが、表には出したくないものだ。

#ナレーション

いろいろ見て回るが今一つどれがいいのか分からない。下調べはしたものの、よくわからなかったというのが本音だ。使えばいい布の種類すらよくわかっていない。

#ナカミチ

「見た感じだとこれがいいと思うが」

#このみ

「そうですねぇ。しかし右にも同じようなのが。値段も変わらないですしなにが違うのか……。」

#ナレーション

正解はどっちでもいい。であるが不安の前では決定しきれない。

#このみ

「そもそもツイルってなんですかね」

#ナカミチ

「俺も知らん」

#ナレーション

説明すると間延びするからいやだなぁ。

#ナレーション

2人が同じ場所でうろうろしていると店員が、お客様何かお困りでしょうか。と定型文を口にしてやってくる。

#このみ

「あ、これはどうも。ごていねいに」

#ナカミチ

「ああ、どうも。ごていねいに。すみません」

#ナレーション

2人そろってびびっているとしか言えない感じである。お年を重ねたおばあさまと呼ぶのが相応しい感じの店員さんが話しかけてきた。さぁ、君たちはお客様だ。

#ナカミチ

「いやー、その、ツイルってなんでしょうか。衣装作成に使う生地を探しに来たんですが、よくわからなくて」

#ナレーション

店員が言うには、ツイルは布の織り方についての説明らしい。ツイル生地は伸縮性がよく、一般的に好まれ、よくつかわれる生地の一つですね。と説明される。

#ナレーション

必要なところを抑えた説明であった。

 

 

#このみ

「あー。こわかった」

#ナカミチ

「そうだな……。」

#ナレーション

素直な感想だった。

#ナカミチ

「とりあえず男子のベストは2000円前後。女子のスカートは3000円前後の生地代がかかりそうだという事は教えてもらえたな」

#このみ

「最初から聞けば早かったですねぇ」

#ナカミチ

「そうだなぁ」

#ナレーション

そうできれば楽だが2人とも聞けそうにない。お互いに分かっている。

#このみ

「この調子ではカフェも無理ですね。おとなしくどこかのハンバーガーチェーン店にでも座って休みましょう」

#ナカミチ

「……いや、それはそれでまずいんだ」

#このみ

「?まずいってなんですか。変な言い方ですね」

#ナカミチ

「いや、昨日学校で風紀さんから1000円渡されただろう。経費だって」

#このみ

「ああ。あー、なるほどそういう……。」

#ナレーション

このみちゃんは昨日の出来事を思い出す。

 

 

#ふうき

「はい。これ」

#ナレーション

渡すぞーという感じで風紀さんが1000円を差し出す。

#このみ

「?なんですかこれ」

#ふうき

「なにって経費。2人分。明日生地の下見に行くんでしょう?」

#ナカミチ

「いや、下見だけだしいらないだろう」

#ふうき

「なにいってるの!私こと白野風紀が経理を任された以上ちゃんと経費は払うからね!あと文化祭にかけた時間分の賃金は最低賃金を超えてみせるってこのみちゃんが委員長として言ったんでしょ!?」

#ナレーション

言った。このみは飲食店のコンセプトについて話し合っている時に、利益を大事にしたい。準備時間を含めて労働時間とみなし、文化祭の利益の配分額が時給換算で地域の最低賃金を超えるようにしたいと言ったのだ。

#このみ

「その。ありがたい話ですが、1000円で交通費まで賄えるとは思えないんですけど。あと下見にかかる時間は労働時間に入ってますか?」

#ふうき

「なにいってるの!経営陣に保障賃金はない!ちなみに経営陣だろうが飲食店で利益が出ても役員報酬はない!」

#ナレーション

つまり責任だけである。自腹も増える。ゴミやん。

#このみ

「つきあわせてごめんね。経理の風紀さん」

#ふうき

「ううん。いいんだよ。責任者のこのみちゃん」

#ふうき

「で、まぁこれは払うべきお金。しっかり使ってくれないとなんていうべきか分からないけどこまる。いわゆる社長さんとか部長さんとかに払う経費だから。使ってくれないと品位に関わる。……らしいの」

#ナカミチ

「いや、何を言っているのかさっぱりわからないんだが」

#ふうき

「私もわからないよ!そういうのが必要なんだって!会社ってのは!」

#ナレーション

風紀さんの周りには経営哲学とか啓発(けいはつ)本とか積み重なっている。経理や会計の本が見当たらないのが風紀さんらしいといえばらしい。ちょっと選んだ本が間違っているのではなかろうか。

#ふうき

「ううん。よくわからないや。なんで保険の契約はハンバーガーのチェーン店でよくて収入を増やすにはいいお店に入るべきなんだ……?あれ?こっちは食費を上げるなって書いてある……。」

#ナレーション

本に目をとおす風紀さん。ぶつくさ言いながら席に戻る。風紀さんの中の経理のイメージまちがってないだろうか。やはり選んだ本が間違ってる気がして仕方がない。

#このみ

「ふむう。じゃあこの1000円とりあえずナカミチ君が持っといて下さいね」

#ナカミチ

「了解」

#ふうき

「まぁ、実際のところはちゃんと後から払うから使いきっちゃってねー。その1000円はとりあえず先払いってことで。まあ1000円じゃ余るわけないけどね……。」

#ナレーション

以上、回想終了。

 

 

#このみ

「うーん。ですが文化祭の集金でお金がさみしいですし、返ってくるからと言って別に無理しなくても」

#ナカミチ

「たしかにそうだが……。というよりも2万円集金されるとは思ってなかったのがな」

#このみ

「1万円は払いましたけど来月には残りの1万円の集金が行われますからね……。」

#このみ

「これでよかったんでしょうかね。衣装代はやっぱり無くすべきだったのでしょうか」

#ナカミチ

「……2万円はきついがその点について俺はそうは思っていない。というよりもこのみが一番押していたんだろう。他のクラスメイトにそんな後悔しているようなところ見せるんじゃないぞ」

#ナレーション

文化祭が終わった後に形として残るものが欲しいと、これもまた元々このみちゃんが出した案だった。最初はコスプレでもしたいですね。という発言だったが風紀さんが経費が莫大に上がると猛反対。利益を大事にしたいという発言とも反発しあっている内容だから考え直してと風紀さんが言ったのであるが。

#ナレーション

しかしこのみちゃん軽く言った割にどうも食い下がると言うかあきらめたくないという感じ。他のクラスメイトも経費はあげたくないという気持ちが強かったので反対気味であったのにもかかわらずである。

#ナレーション

あの日はまた一段と記憶に残る日であったとナカミチ君は思った。回想シーン入りますので通してくださーい。放課後のシーン、学級会にて、飲食店のコンセプト。長くなるので覚悟してどっぷり浸かってってください。すたーと。

 

 

#ナレーション

1日の授業が終わり、西日のさしこむ教室。前の時間、6限目の授業を担当していたくぜ先生が少し早めに授業を終えたものの、すでにホームルーム開始のチャイムが鳴ってもう30分以上話し合いは継続している。

#ナカミチ

「このみ、風紀さんの言うとおりだ。利益を出したいというのが大事だったんだろう?そこを見失っていないか」

#このみ

「いえ、文化祭らしさも大事ですよ。やっぱりみんなで文化祭をしているという感覚は大事じゃないですか」

#ナカミチ

「いや、だからそれをコスプレでする必要はないだろう?」

#ナレーション

委員長と副委員長として教室の前、教卓で立つ二人。まとめ役がまとまらない話を続けていた。ここに割って入れる雰囲気ではない。クラスメイト達も何とも言えない感じだった。風紀さんは別。

#ナレーション

どうもかみ合わない。この話が始まってからナカミチ君はそんな感覚だった。風紀さんもいぶかしんでいるような顔だ。同じような感覚なのかもしれない。

#ふうき

「どのくらいの費用がかかるかわかっているの?」

#このみ

「そこはわかりませんが……。」

#ふうき

「ううん。私も詳しくないけれど普通の服でも上下で6000円ぐらいするっていうのに特殊な服なんだから1万円は超えると思うんだけど。よく考えたら製作費用もかかるじゃん。費用というか時間かな?準備時間も含めて労働時間って決めたよね?このみちゃん、この案と利益はあまりにも相性が悪すぎるよ」

#クラスメイト

「ちょっと6000円以上増えるっていうのは……。」

「やめるべきだと思うかな?」

「どうなんだろうなー」

#このみ

「いえ、コスプレっていう必要はないかもしれません。ウエイトレスの衣装だったら1万円よりは少ないでしょうか?」

#ナレーション

広義の意味ではそれもコスプレに入るなぁ。

#ふうき

「いや、疑問形で聞かれても……。」

#ナカミチ

「コスプレじゃなくてもいいっていうのがよくわからないな。そこまでこだわってないんじゃないか?」

#このみ

「!そんなことはありません!ただどうも……。」

#ナレーション

もう続く言葉が見つからないという感じだった。

#このみ

「いえ、そうですね。こだわり過ぎていたのかもしれません」

#ナレーション

これ以上続けたならくぜ先生が仲裁に入るだろう。制裁と言えるかもしれないことかもしれないが。

#ナレーション

ちなみに先生、まだ話し合いには全く参加していない。教室の後ろで壁に軽くもたれながら話し合いを見守っている。

#ナレーション

おそらくそんなくぜ先生が少しだけ体勢を変えたのをこのみがサインと受け取ったのだ。

#ナレーション

まとまらないようであるなら教師が出るしかありませんよ……。と。

#ナレーション

だから話を切り上げたのだろう。ナカミチ君はそう考えた。実際そうだったと言っておこう。

#ナレーション

見えていたのは前に出て教室の後ろが見える位置の委員長と副委員長だけである。

#ふうき

「そっか。よかったよ」

#ナレーション

風紀さんは安心していた。これ以上きつく言いたくなかったのだろう。

#ナカミチ

(費用を抑えることが重要だと風紀さんは考えてるよな)

#ナカミチ

(考えれば考えるほどそうなんだよな……)

#ナレーション

ものの30秒ぐらいの考えれば考えるほどである。

#ナカミチ

「ではまとめようと思う」

#ナレーション

さすがに今の瞬間はこのみより自分自身がまとめを切り出した方がいいだろうとナカミチ君が動く。

#ナカミチ

「出すものは焼き鳥。3本200円の設定。当日、鳥を串に刺す調理班と焼いて販売する販売班で分かれて3シフトの交代制で回していく」

#ふうき

「販売所で焼くんだから販売班も調理している調理班と言えるのでは?」

#ナカミチ

「じゃあなんて呼ぶ?」

#ふうき

「すみません!考えなしに言いました!」

#ナカミチ

「じゃあこれで決まりだな」

#このみ

「そうですね。ありがとうございます。これで問題ありませんね。他に特になければこれで決定しましょうか」

#クラスメイト

「無いかな」

「無いな」

「いいとおもいます」

#ナカミチ

「ああ、そうだな、問題ない。……。」

#ふうき

「おっけーだよ!」

#このみ

「じゃあまぁ。これでいきましょうか」

#ナカミチ

「……問題が無いのか」

#このみ

「ええ。そうですね」

#このみ

「……あっ」

#ふうき

「?」

#ナレーション

ナカミチ君は理解した。問題ないと言ったときにこのみはしかたなくこの文化祭を行うのだろうと。問題ないとか仕方なくとかそういう事が嫌いって言っていたのに。そうナカミチ君は思った。だから解ったのだろう。

#ナカミチ

「したいというよりはしてほしかったってことなんじゃないのか」

#このみ

「どういうことですか……?」

#ふうき

「……ナカミチ君。それコスプレの話だよねぇ?うふふ。わかったよ。悪役が必要だもんねぇ……。」

#ナレーション

ゆらりゆらりとゆれる風紀さん。座ってるから頭だけが動いててどこか滑稽であるがクラスはざわつき始める。

#クラスメイト

「うえー。風紀さんが敵だってよ。ナカミチも大変だな」

「厄介この上なさそう」

「でもよく考えたらナカミチにとっちゃいつも通りじゃねぇの?」(ぼそっ)

#ナカミチ

「いや、別に悪役は必要ないが」

#ふうき

「ええい!問答無用!一度必要が無いと認めた話!そちに再びその話をする権利など無いわぁ!」

#ナレーション

ひっどい展開である。引っかき回す気満々である。どうしようである。

#このみ

「そうですね。そのとおりです。そもそも私ももう決めた話です。私のわがままでした」

#ナカミチ

「ええい!わかった!わかったよ!じゃあ俺からの提案だよ!これならいいんだろ!」

#ふうき

「さすが、1発でやられるとは。ぐわー」

#このみ

「ああ!風紀ちゃんが!」

#ナカミチ

「今茶番をやるな!収拾がつかん!」

#ふうき

「はい」

#このみ

「はい」

#ふうき

「でもまぁ、根本の部分は変わってないよ。コスプレをする理由が文化祭っぽいからじゃねぇ。10年とか15年前なら文化祭でコスプレは珍しかったかもしれないけど今どき文化祭だからコスプレしますっていうのに集客力があるかなぁ。高いしねぇ」

#ふうき

「しかも全員でやるっていうんだから。……なんか否定的なことばっかり言って本格的に悪役の気分だよ。追い詰めてる気がする。ええい。オーバーキルしてやる。ふふふ」

#このみ

「ナカミチ君!がんばって!」

#ナカミチ

「やめよっかな」

#ナレーション

もうちょい頑張れ。

#ナカミチ

「とりあえず今持っているコスプレのイメージをいったん離れるべきだ」

#ふうき

「というと?」

#ナカミチ

「派手なコスプレをイメージするんじゃなくて喫茶店のウエイトレスをイメージするんだ」

#ふうき

「あぁ、このみちゃんが言ってたようにナカミチ君もウエイトレス衣装をつくりたいと。……で?あんまり引っ張らないでくれる?私たちにも都合ってものがあるんだ。結論が遅いとさいかちゃんが塾に遅れることになるぜ?くっくっくっ」

#さいか

「い、いえ。今日はそのまま塾に向かうつもりだったので後30分以上大丈夫ですよ?」

#ふうき

「くっくっくっ。大丈夫だってさよお」

#ナカミチ

「そりゃよかった」

#ナレーション

無理にやるからこうなる。

#ネネ

「……他にも塾がある人はいますからね」

#ナカミチ

「はい。急ぎます」

#ふうき

「くっくっくっ。いそげよぉ」

#ナカミチ

「遅くなってる一番の原因は何だと思う?」

#ふうき

「つまりどういうことなの?」

#このみ

「ちょっと待たせすぎじゃないですか?」

#ナカミチ

「文化祭の後も全員に形として残るものが欲しいんだよ。それを見て文化祭を懐かしめるような。それにはコスプレの衣装。いや、コスプレじゃなくてもいい。喫茶店の従業員が着るような服。自分で手作りした衣装っていうのがいいと思うんだ」

#ナレーション

ここでナカミチ君。伝統のスルー。以外にも本人は多用したくないらしい。

#このみ

「……。」

#ナカミチ

「そうなんだろ?」

#ふうき

「そうだよ」

#ナカミチ

「お前じゃない」

#ふうき

「ひどい!お前って言った!チャンスをあげたのに!」

#ナカミチ

「へ?」

#このみ

「それはナカミチ君の案です。私の案とは違うかもしれませんねー」

#ナレーション

このみちゃんの案はさっき終わったのだ。ここにあるのはナカミチ君の案。

#ナカミチ

「……めんどくさいな」

#くぜ

「そういうものです」

#ナレーション

議論が始まって以来初めてくぜ先生の言葉が聞けた。

#クラスメイト

「形に残るって大事なのかな?大事だとは思うんだけど」

「それはきっと5年ごとか10年後にわかることなんじゃねーか?」

「やってみる?」

#ナレーション

民意はナカミチ君に傾きだした。

#ふうき

「ちょっと待ってもらおうか」

#ナレーション

ゆらりと風紀さん。威圧ましましである。

#クラスメイト

「しーん」

「しーん」

「物言わぬ置物です」

#ナレーション

しかし威圧が効いているのかいないのか微妙。とりあえず意図をくみ取ってみんなやさしくつきあってあげている。

#くぜ

「……今度からああいうのはやめましょうか」

#ナレーション

くぜ先生一人つぶやく。生徒に自分と似たことをされているというか学ばれているというか。しかしあれを見ると思うところもあるらしい。9割以上風紀さんが悪いとは思うがどうだろう。

#ナカミチ

「……なにか?」

#ふうき

「なにか?じゃないよ。論点をずらされちゃあ困る。……ふふふ!ナカミチ君と議論するとはね!勝てるかなぁ?」

#ナカミチ

「どうだろうな」

#ふうき

「……わたしが勝てるか不安なんだよ?わかってるのかな?」

#ナカミチ

「いや、そっちが圧倒的に有利じゃないか……。」

#ふうき

「……あっそう」

#ナレーション

風紀さん流石にいらっときたようだ。

#このみ

「おっと。ナカミチ君、ボス戦ですね。ボス戦の前には小休止があるものです。サポートキャラのこのみちゃんは使いますか?」

#ナカミチ

「それサポートキャラなんだろうな?おじゃまキャラにならないよな?」

#このみ

「好感度が下がると敵キャラになりますが?」

#クラスメイト

「あいつら度胸あるよな……。」

「度胸というかなんていうのか……。」

「おい。同じ位置に立つと変人扱いされるぞ……。」

#ナカミチ

(俺もその変人に入っているのか?)

#ナレーション

入ってるよ。

#ふうき

「サポートキャラを使うならボスキャラは待ちますが?」

#ナカミチ

「律儀だな」

#ふうき

「ボスキャラだしね。そういうもんなんでしょ?」

#ナカミチ

「じゃあ使うか」

#このみ

「じゃあ?」

#ナカミチ

「……使いたいから使うか」

#このみ

「わかりました。そこまでいうなら」

#クラスメイト

「何分ぐらいかかるのかな」

10分ぐらいはいるんじゃない?」

「あのノリが始まると止まらんからな……。」

#ナレーション

この回想いつ終わるんだ?

#このみ

「まず論点です。風紀さんが言っているように今、ナカミチ君は衣装の必要性を述べていますが元々は風紀さんが懸念している文化祭費用の増大について話していました」

#クラスメイト

「たしかに」

「そうだな」

「文化祭の利益。いや、労働対価の重要性をうたう案と思い出に残る出し物をうたう案が対立している。というより相性が悪いということをいっていたなあ」

#このみ

「そしておそらくですが2つの案のどちらに重点を置くかという話になります。ざっと考える限り両方の案を強く否定することができないからです」

#クラスメイト

「たしかに」

「そうだな」

「利益と思い出もどっちも大事ですし。利益と言うとお金に執着するように聞こえますが皆さんの拘束時間に対する対価と言えばとっても大事なことですね」

#このみ

「そしてそうなった場合、この2つの案は両立しないことが発覚します。衣装代が高いためです」

#クラスメイト

「たしかに」

「そうだな」

「衣装の費用がわからないというのもネックだな。そういえば風紀さんは費用と言うより時間って言ってたような。そうか、作成時間も費用に含まれるのか」

#このみ

「さて、無料サポートはここまでです。後はナカミチ君が頑張るしかありません」

#クラスメイト

「たしかに」

「そうだな」

「ナカミチ君って本当に大変なことに巻き込まれるといつの間にか中心に居るね。これは私たち全員の意見だよ」

#このみ

「じゃ、頑張ってください」

#クラスメイト

「たしかに」

「そうだな」

「がんばれ」

#ナカミチ

(黙っていたら終わった)

#ナレーション

そんなもんさ。がんばれ。

#ナカミチ

「いや、まて。そもそも利益重視はこのみの案だろう。このみが重要性を下げれば相対的に衣装の費用が出て両立するんじゃないのか?」

#このみ

「さあ?ここから先は製品版で楽しんでください。なーに、このあとすぐ遊べますから。安心してくださいよ」

#ナカミチ

(俺はどこかで間違えたのだろうか)

#ナレーション

おおむね正解してるから大変なことに巻き込まれてるんだけどな。

#このみ

「私も安心してますからね」

#ナカミチ

「おかしい。俺の安心が無い」

#ナレーション

探したらあるかもね。ここにあるかは知らないが。

#ふうき

「ふふふ!準備は整ったようだね!さあ相手をしよう!」

#ナレーション

準備終了。本番である。どうなることやら。

#くぜ

「いや。その必要はありません。ナカミチ君。議論の相手は私です」

#ふうき

「あれえ!?」

#ナカミチ

「はい?!」

 

#ナレーション

こうなるかぁ。

#クラスメイト

「うわぁ。どうなるんだこれ」

「ナカミチにとってはどうなんだ?有利になったのか?不利になったのか?」

「くぜ先生を相手にするんだから不利になったって考えた方がいいんじゃないの?やりずらいだろうし」

#くぜ

「利益に対しての話を子供が本気でできるとは思えません。衣服の話も大体6000円だとか全員がそのレベルでしか話せていませんでしたしね」

#ふうき

「ううっ!?」

#ナレーション

くぜ先生ちゃんと見てくれていたようである。辛辣。

#くぜ

「風紀さん、あなたもナカミチ君側で構いませんからさっさと議論を始めますよ。どうせそっち側の議題であっても賛成側で戦えるでしょう?」

#ふうき

「えへへ。どうでしょうねぇ?…………?」

#ナカミチ

「戦えそうだな。どうもその感じだと」

#このみ

「じゃあ私もいいんですかね」

#くぜ

「別にかまいませんよ。クラス全員でかまいません」

#クラスメイト

「あれ?これなら何とか出来るんじゃない?」

「おっ。やったな。」

「いや、議論なんですからそもそも何とかとかそういう話ではないんじゃ」

#ふうき

「…………へえ。なるほどね。うーん。けじめってやつがいるよね、これは」

#ナカミチ

「?風紀さんどうしたんだ?」

#ふうき

「議論なんだからどっち側についたっていいんだよね。ナカミチ君」

#ナカミチ

「……ああ」

#クラスメイト

「あれ?不穏な感じがするぞ」

「これ、は、どうなるのかな。わから、ないな」

「こら、目をそむけるな」

#ふうき

「じゃあ私は費用削減派だよ。やっぱりそういうのって大事だよねー」

#このみ

「あらま」

#ナカミチ

(風紀さんはなにを考えているのかほんとつかみにくいな。……けじめってなんだろうな)

#クラスメイト

「さぁ、どうする」

「我々にも派閥決めの選択があるという事か」

「他人任せにしたツケが回ってきたと考えるべきだね」

#くぜ

「教師が一度言ったことを曲げるとでも?」

#ふうき

「そこをなんとか」

#ナカミチ

「や、ややこしくなってきたなぁ」

#このみ

「も、もう一回まとめましょう」

#くぜ

「いいでしょう。ですがこのまま議論を始めます。議論を行いながらまとめていきますのでついてきなさい。いいですね?」

#ナカミチ

「お、おてやわらかに……?」

#クラスメイト

「俺らも当然?」

「他人事にした結果みたいなところあるし。ついていかないと」

「まぁついていける範囲でいきましょ?」

#ナレーション

議論スタート。ようやくまとまりだすらしい。どう決着がつくのか見ものではある。

 

 

#くぜ

「ではまずそちら側。…そちら側のグループはなんていう名称にするんですか」

#ナレーション

議論にはグループごとに名称が欲しいところである。絶対いるとは言わないけれど。

#このみ

「え?どうしましょう?」

#ナカミチ

「いや、どうしようか。衣装派とか?」

#ふうき

「印象派見たいな名前になったね」

#このみ

「では衣装と書いて、いんしょう、と読むという感じで」

#ナカミチ

「衣装(いんしょう)派?」

#ナレーション

しまらないグループ名だと個人的に思う。衣装(いんしょう)側はどのようにお考えか?というふうに議論中、尋ねられるのだろう。しまらないと思うなぁ。

#ふうき

「まぁ別に決める必要はないよ。すぐにまた形が変わるんだからね」

#ナカミチ

「え?」

#くぜ

「そこまでです。さっき言った通り教師が一度言ったことは簡単に曲げません。つまり間違いが無い限りは。ということですが。生徒に利益についての議論を正しく行えるとは判断できなかったので私が出てきました。風紀さんが費用削減派に居る理由はありません」

#ふうき

「つまりね、」

#くぜ

「さきほど、そこまでです、と私は言いましたが?議論の場で堂々と談合……は少し意味が違いますか。茶番をするつもりなら、もはや議論ではありません。私は引き上げましょう。それはそれで風紀さんとしては目的を達成できたという事になるのでしょう。それで納得できるならそうしてもいいですね」

#ふうき

「つ、つまりね。そういうことなの。うん。あとよろしく」

#くぜ

「……まぁそのぐらいならいいでしょう」

#ふうき

「しばらくおくちにチャックしてます」

#ナカミチ

「さっぱりわからん……。」

#このみ

「まぁまぁ、ちょっと考えてみましょう」

#クラスメイト

「考えるってもなー。なんとかしたら風紀さんが敵側に行くことになるんだろ?」

「でもそれがナカミチと風紀さんの戦いになってくぜ先生を無力化できると」

「それじゃ、さっきの私たちもついていって頑張るって決めた意味が……。」

#ふうき

「……。」

#くぜ

「……。」

#ネネ

「……そもそも私は風紀さんと同じでどちらかというと費用削減派です。ついていくよりくぜ先生を無力化してナカミチ君と風紀さんで議論していただく方がいいのですが」

#ミサキ

「ええ?そんなぁ。私たちも話し合うべきじゃないの?」

#ネネ

「そこは別に否定していません」

#このみ

「いびつだよ。ナカミチ君。どうしましょうねぇ」

#ナカミチ

「いびつになってしまったのはくぜ先生対クラスメイトになったからだ。そこを解消するにはやっぱりくぜ先生には退場いただくしかない」

#くぜ

「で?だから先生は引っ込んでくださいと?それではだめです」

#ナカミチ

「なぜでしょうか?」

#くぜ

「ネネさんが思っている意見なら私一人で問題なく答えることができます。わざわざ来ていただく必要がありません」

#ネネ

「議論ってそういう事ではないのではないですか」

#くぜ

「残念ですが今は私とあなた方で利益削減をするかしないかの話をしているのです。とっくに議論は始まっているのですよ」

#ネネ

「それは…おかしいです……。」

#ナレーション

なぜおかしいのか。どうしてそういうのか。わからないことが多すぎる。

#このみ

「さて、どうしましょ」

#ナカミチ

「とりあえずなんか癪(しゃく)だが風紀さんの誘導通りに進んでみよう。無意味なことをしていた感じではなかった。……と思うんだが」

#このみ

「そうですね。きっと、意味があって議論を元の形に戻そうとしてたのだと思います。……たぶんですが」

#ふうき

「―――!―――!」

#くぜ

「……ひどい。とかぐらいなら言ってもかまいませんよ」

#ふうき

「……。」(わちゃわちゃ)

#くぜ

「行動で示さないように」

#ナカミチ

(これ頑張る価値あるんだろうな……)

#ナレーション

あるからほらがんばれ。

#このみ

「さあ、まず風紀さんをどうすれば利益削減派に戻せるかです」

#クラスメイト

「どうすればいいんだ?」

「どうすればいいんだ、じゃなにもかわらないぞ」

「なんだとー」

#ナカミチ

「ポイントは風紀さんへ理由をつけることだ。風紀さんが利益削減派に居る理由。いなければならない理由だ。くぜ先生は風紀さんが利益削減派に居る理由が無く。利益を話すには相応しくないと言っていた」

#このみ

「いえ。いるのが自然というふうにした方がいいでしょう」

#ネネ

「…会計です!」

#クラスメイト

「うぉ!?」

「か、会計?」

「風紀さんを会計に置くということか?」

#ネネ

「そうです!会計なら利益を管理していてもおかしくないでしょう!?」

#クラスメイト

「たしかにクラブとかに会計を担当している人がいると聞いたことがあるな」

「お金の管理をしているなら会計のイメージだね」

「これで問題ないな!」

#くぜ

10点」

#クラスメイト

「あとはナカミチ頼んだわ」

「いやー。よくがんばったな」

「いい仕事した気分ですね」

#ナカミチ

(だまっていても終わらなかったな)

#ナレーション

そりゃそうだ。主人公さんよ。

#このみ

「おかしいですね。これでいいと思うんですが」

#ナカミチ

「そうなんだ。そのはずなんだ。だが間違っているらしい」

#くぜ

「……その部分は今回の問題全体の半分になります」

#ナカミチ

「え?」

#くぜ

「……。」

#このみ

「出せる情報はそこまでという事ですか」

#ナカミチ

50点中10点というわけか……。」

#クラスメイト

「当たらずとも遠からずってことか」

「テスト形式という事は部分点をもらってるんだね」

「途中式があってるっていうことかもな」

#ナカミチ

「途中があってるという事は最後に間違えたということか?」

#このみ

「ううん。計算ミスってやつですか。たしかにこれじゃ会計は失格ですねぇ」

#ナカミチ

「それはうまいこと言ってると思ってるのか?」

#このみ

「そうですよ?」

#ナカミチ

10点中8点」

#ナレーション

意外と高い。

#クラスメイト

「9点」

10点」

「9点」

#このみ

「うふふ。やりましたよ」

#ナレーション

このみちゃんご満悦。

#ナカミチ

「いや、そうじゃなくて会計じゃダメな理由がわからなきゃいけないんだぞ」

#このみ

「わからないならあてずっぽうしかありませんよ。答えを知っているなら思い出すことはできますが。さてどうしましょうかね」

#ナカミチ

「うーん。会計、会計」

#クラスメイト

「会計、会計」

「会計、会計ねえ」

「会計、会計ですか」

#ミサキ

「そうだ!経理じゃない!?ほら?会計って利益というより計算しているイメージだよ!」

#クラスメイト

「たしかに会社とかだと経理を担当してるって人がいるな」

「お金の責任っていったら経理のイメージだね」

「これで問題ないな!」

#くぜ

20点」

#クラスメイト

「あとはナカミチ頼んだわ」

「いやー。よくがんばったな」

「いい仕事した気分だよねー」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

ほら近くなってるからがんばれ。あと会社に責任ないお金はどの部署、社員にもないんだ。

#ナカミチ

「いや、わかった。風紀さんに経営側に回ってもらえばいいんだ」

#このみ

「ん?あ、なるほど。え?でもそれってどうやるんです?」

#ナカミチ

「風紀さん前に出て来てくれるか?」

#ふうき

「……。」(とてとて)

#ナカミチ

「風紀さんに文化祭の経理を任せようと思う。全体指揮はこのみと俺が変わらず行うがお金回り、会計と経理は風紀さんに指揮権を渡す。まずこのみこれでいいか?」

#このみ

「なるほど。ええ。ぜひおねがいしましょう。風紀さんなら想像以上の働きをしてくれるはずです」

#ナカミチ

「風紀さん。やってくれるか?」

#ふうき

「……。」

#ナカミチ

「……ああ。いうまでもないってことか……。」

#ナレーション

よくわかったな。

#ナカミチ

「あとは、全体の賛成があれば」

#クラスメイト

「かまわねーぜ!このみさんが言うように想像以上を期待してるぜ!」

「すごく納得いく配置というか違和感ないなぁ」

「うん。いいと思います」

#ナカミチ

「くぜ先生、これでどうですか?」

#ナレーション

すこし間を開けて先生が点数を発表する。さて何点か。

#くぜ

「……50点です」

#このみ

「やりましたね!この議題は満点です!あと半分ですよ!」

#ナカミチ

「よし。だが後半分というのがわからない。半分というからには後1つ問題点があると言う事なんだろうが……。あ、そうだ」

#ナカミチ

「くぜ先生。後半分の問題点は風紀さんに参加してもらってもかまわないのでは?」

#ナレーション

ずーっと黙ったままの風紀さん。かわいらしい置物のようだ。

#くぜ

「かまいません。風紀さん、黙らせていて申し訳ありません」

#ふうき

「……いえいえー」

#このみ

「よーし、では後半分みんなで考えましょうか」

#ふうき

「まずいいかな?」

#このみ

「?なんです風紀さん?」

#ふうき

「まずは先ほどの経理のお話。謹んでお受けするよ。がんばるね!」

#このみ

「風紀さん!ありがとうございます!」

#ナカミチ

「ああ、ありがとうな」

#クラスメイト

「いやー。よかったよかった」

「めでたしめでたし」

「風紀さんもいるし残り半分はすぐ終わるな!」

#ナレーション

それが終わった後にまだ何か控えていただろう?まだまだ終わらん。回想は。

#ナカミチ

「で、風紀さん。……まず、っていっていたが他に何かあるのか?」

#ふうき

「うん。えーっと。後2つ」

#このみ

「2つ?」

#ふうき

「さっきの点数の件ね。くぜ先生は50点付けてくださったけど45点かな。経理っていうより財務の仕事に近いよ。資金、予算とかに関する話ならね。まぁ、財務って答えたら30点で及第点がもらえたんだろうね」

#クラスメイト

「つまり?」

「つまり、じゃねーよ。ちょっとは理解しようとしろ。どういうことなんだ」

「さぁ?」

#ふうき

「私を財務につけたらオッケー。まる。財務につけたうえで経営側、指揮権等の権利を与えたらグッド。はなまる」

#このみ

「ほうほう。一段飛ばす感じで、はなまるに到達した感じですかね」

#くぜ

「べつに甘めに点数を付けたわけではありません。1部分でも権利を譲渡すればその時点で50点分にするつもりでした。財務という答えなら30点で及第点だったというのはあっています」

#ふうき

「だって」

#ナカミチ

「わかったから残り一つの言いたい事はなんだ」

#ふうき

「いやー、そのねー」

#ナカミチ

「さっさと言え」

#ふうき

「えっへっへー。……残念だけど次の、いや残りの半分も私は黙っておくよ。ごめんね」

#このみ

「……なんででしょうか。いや、いやがらせとかじゃないのは分かっていますが」

#ふうき

「うふふ!信用してくれてありがとう!」

#ふうき

「そうだねぇ。まぁケジメだよ。残りの問題点は私のせいだからね」

#ナカミチ

「どういうことだ。……というのは答えないよな」

#ふうき

「うん。ま、大丈夫でしょ」

#くぜ

「そんなことする必要はもうないでしょう。そもそも風紀さん、あなたのせいというのは」

#ふうき

「うふふふふ!もしかしたらちょっといやがらせなのかもしれないかな?でも大丈夫です。なんとかなりますよ!それに先ほども言いましたがケジメですよ。私が勝手にする事です」

#くぜ

「……。」

#ふうき

「うう、おこらないでくださいよー」

#くぜ

「別に怒ってはいません」

#ふうき

「じゃそろそろ黙ろうかな。みんながんばってね!」

#クラスメイト

「あれー。風紀さんが仲間から外れたぞー?」

「バグかなー?このゲームデバックしたかー?」

「難易度調節ひどくなーい?」

#ナカミチ

「結局やることは変わらないのか」

#このみ

「ハードですねぇ」

#ナカミチ

「とりあえず、だ。さっき風紀さんが言ってたが次の問題点は風紀さんが起点、もしくは実際に何かをしていたことにより発生したらしい。しかし、あくまで風紀さんが言うにはということになるが」

#このみ

「くぜ先生はあなたのせいではない、もしくはそれに近い事をいいかけてましたね。つまり風紀さんだけの問題ではない可能性が出てくるんですね」

#このみ

「……この推理の仕方なんかずるくないですかぁ?なんていうんでしょう、メタ的というか?」

#ナカミチ

「ずるくない」

#クラスメイト

「言い聞かせてるよ」

「え?どういうことだ?」

「本来、さっきの風紀さんやくぜ先生の話のやり取りなしで解く問題だったという事だろ?」

#ナカミチ

「……出たヒントは活用するべきだ」

#ナレーション

全力でやることはいいことである。

#このみ

「うーん。まぁ、そうですね。出し惜しみして答えられるとは思いませんし。今さら聞かなかったふりってのもわたしには無理ですしねー」

#ナカミチ

「だが風紀さんの行動って何をしてたかきっちり覚えていないんだが」

#クラスメイト

「いつもの調子だったからそもそも最初から半分ほど聞き流していた」

「だいたい対応するのはナカミチだし」

「きっちり覚えといてよ」

#ナカミチ

「お前らの今の言葉はきっちり覚えておいてやるよ」

#このみ

「器が小さいですよ。ほら思い出して下さい」

#ナカミチ

「だいたいしか覚えていないぞ」

#このみ

「会話を一言一句覚えている人なんて最初からいませんよ」

#クラスメイト

「だいたいなら憶えているぞ」

「半分ぐらいってやつだな」

「半分聞き流してて半分覚えているんだから全部覚えているってことになるな」

#ナカミチ

「風紀さんみたいな言葉遊びをやめろ」

#クラスメイト

「そもそも風紀さんは最初はこのみさんのコスプレ案に反対していたんだよな」

「経費削減の重要性を訴えていたんだよな」

「いや、そもそもその地点が最初という事でいいのか?」

#このみ

「議論が始まってからで言うと風紀さんの行動で最初の印象に残っているのは焼き鳥の話ですね。利益を出すなら鳥だよ鳥!と言っていましたね」

#ナカミチ

「利益重視のこのみちゃんの案にぴったりだよ、とか言ってたな」

#クラスメイト

「そもそも経費削減というか利益重視はこのみさんの案から来ているんでしたね」

「……あれ?たしか衣装作成案は今ナカミチの案になってるんだよな」

「そうだけど。それがどうかするの?」

#クラスメイト

「いや、今のこのみさんの立ち位置ってどうなってるんだ?」

「ん?衣装作成案はこのみさん撤回しているが経費削減は撤回してないな」

「んん?じゃあそうなると……?利益重視派になるのか?いや、となると風紀さんとこのみさんは同じ立ち位置になるぞ?」

#クラスメイト

「じゃあナカミチ君が今の問題をクリアしても今度はこのみさんと風紀さん2人に挑むことになる、の……?」

「……うわー。ナカミチ大変だなー……。」

「どんどん大変なほうへと向かっていくのはナカミチ君らしいなー……。」

#ナカミチ

「い、いや。話がそれてる。事態はいい方向に動いているはずだ……。」

#このみ

「なんでしょうね。ナカミチ君おかしくないですか?物事は進んでいるはずなのにどんどんややこしくなっていっている気がします。本当に進んでいるんですか?」

#ナカミチ

「うう……。なぜだ……?」

#ネネ

「疲れて集中できていないんです。話がそれると言うのは休憩に近い行為だと聞いた事があります」

#ナカミチ

「確かに長丁場だが……。」

#このみ

「いったん休憩します?」

#さいか

「や、やめて……!休憩はさまれるとさすがに塾に間に合わない……!」

#ナカミチ

「す、すまない」

#さいか

「あ、ごめんなさい。ナカミチ君のせいじゃないです……。すみません。自分勝手で」

#このみ

「そういえばネネちゃんも塾だって」

#ネネ

「とっくにあきらめてます」

#クラスメイト

「いやー。しかたないよね。今日は塾遅れちゃうな―」

「くっそー。まーしゃーないなー」

「いいよ、いいよ。気にしないでー」

#ナカミチ

「声に感情がこもってないが」

#ネネ

「私は気にしていますからね?」

#ナカミチ

「ま、また話がずれてしまったな」

#このみ

「そもそもこの問題の根点はなんなんでしょう?」

#ナカミチ

「風紀さんが関係してるところまではわかっているんだが」

#このみ

「いや、ナカミチ君。そこが変なんですよ。風紀さんの問題点はさっき解決したはずなんです」

#ナカミチ

「え?いや。風紀さんに問題がある事は自分で認めて……。いや、くぜ先生は疑問視してたな」

#このみ

「おそらくその辺りの情報がむしろ余計なんですよ」

#クラスメイト

「人によって見方が変わる内容……?」

「ややこしくなりそうだな」

「というわけで捨てよー」

#ナカミチ

「いいのか?いや、いいのか。そもそもそこは存在しなくても解ける問題のはずだったな」

#このみ

「そうです。そうですね。あー、すっきりしてきました」

#クラスメイト

「じゃあ後は何が残るんだ?」

「手元にはなにも残ってないぞ」

「むしろ今まで捨てたとこしか話せてなかったんだな」

#ナカミチ

「あれだけしゃべって『問題があると風紀さんが認めている』のと『くぜ先生はそうは思っていない』という二言分しか論点にしてなかったのか……。」

#このみ

「議論ってむずかしいですねぇ。まぁ大半は脱線して違う事を話してましたが」

#このみ

「ではどこが問題点なんでしょうね?」

#ふうき

「……。」

#くぜ

「……。」

#クラスメイト

「くぜ先生の位置に風紀さんを立たせるのが目的だったろ?」

「それはさっきクリアしたじゃん」

「……え?あ、いや、そうだよね。あれ?何で終わらないんだろう?」

#ナカミチ

「……ちょっとまて。そうだ。問題は2問じゃない。あくまで1問のうちの50点まで来ただけだ!」

#このみ

「うっ!まだ計算途中というようなことですか!?」

#クラスメイト

「どういうことだ?すまん。教えてくれ」

「クリア条件がまだわかっていないってことだ」

「証明問題で証明しなきゃならない事がわからないのに半分書けている状態って事だな」

#このみ

「部分点がもらえているという事は、いえ、わざわざ半分と言っているのには理由があったんです。問題1の中に()()の問いがあるわけで、()を解くために()の答えは必須なんです」

#さいか

「ですが証明問題なら命題と条件という形できっちり目的が示されているはずですけど。……今回はそこも私たちで考えないといけないということですか」

#ナカミチ

「命題?条件?いや、わからないなら聞こう。今回ならどういう形になるんだ?さいかさん」

#さいか

「え?ええと。ううんと。えーと」

#クラスメイト

「……。」

「……。」

「……。」

#ネネ

「いや、誰か手伝ってあげれないんですか。……いえ、私も無理ですけど……。」

#このみ

「さいかちゃん!がんばって!」

#くぜ

「……はぁ」(溜息)

#ふうき

「……はぁ」(嘲笑)

#ナカミチ

(勉強しよう……)

#さいか

「……くぜ先生が風紀さんに議論の権利を渡す事が正しい。これを証明しなさい。いや、違う気がする。ごめん。ここまでしか考えられないよ」

#このみ

「いえ、形はわかりました。改良していけばいいんです」

#ナカミチ

「すごいな。そうだ。議論の権利が取られているんだ」

#このみ

「風紀さんの問題点はクリアしたはずです。つまりくぜ先生が議論の権利を渡す事が正しい。これを証明しなさい。になります」

#ナカミチ

「日本語的になにかおかしいな。くぜ先生が議論の権利を返す相手は風紀さんだったはずだ」

#ネネ

「議論の権利は私たち全員にあるはずです……!」

#ナカミチ

「えっ?ネネさん?」

#ネネ

「そうでしょう?私たちで話し合っていたところにくぜ先生が介入してきたんです……。」

#クラスメイト

「ど、どういうことだ……?教えてくれ……。」

「くぜ先生は風紀さんというより俺ら全員相手取っていたということだ」

「くぜ先生が私たち生徒に議論の権利を渡す事が正しい。これを証明しなさい。って事だな」

#ネネ

「渡すんじゃありません。返してもらうんです」

#ナカミチ

「あ、ああ。くぜ先生が私たち生徒に議論の権利を返す事が正しい。これを証明しなさい。いや、くぜ先生は私たち生徒に議論の権利を返す事が正しい。が日本語的には正しいか」

#このみ

「では何のために風紀さんの話を今までしていたのでしょう?改めて考えるべきです」

#さいか

「証明問題として考えるなら前提を。つまり仮定を証明していたんです……。つまり前準備として必要な行為だったのではないでしょうか?」

#ナカミチ

「権利を返してもらう前にしなければならないことだった?」

#このみ

「風紀さんの問題が解決した時点でくぜ先生に権利はなくなったはずです。あ、もしかしてこうじゃないですか?」

#ナカミチ

「わかったのか?」

#このみ

「つまりですね」

#このみ

「くぜ先生!議論の権利を私たちに返して下さい!お願いします!」

#ナカミチ

「……。」

#クラスメイト

「……。」

「……。」

「……。」

#くぜ

「……。」

#ふうき

「…55点だね。……あぁ、単体で言うと10点中1点」

#くぜ

「……ということです」

#このみ

「……てへっ」

#ナカミチ

「他になにか気付いた奴はいるか」

#このみ

「ぐうぅ……。」

#ネネ

「くぜ先生に議論の権利を取る理由はもうないはずってところまではあっているはずです」

#ミサキ

「でもくぜ先生は返してくれてないよ?それに風紀さんも賛同してる……とまでは言わないけど同調はしているし……。」

#ナカミチ

「風紀さんもこの行為は正しいと感じている……?」

#ネネ

「じゃあこの行いにも正当性があるっていうんですか?」

#このみ

「そういうことになりますね。そもそもくぜ先生が、というか先生が生徒に理由なく何であっても取り上げたら問題です。……問題?」

#ナカミチ

「……問題点は俺達の方にある。だから先生が生徒から没収した……。」

#クラスメイト

「……は?い、いや。そりゃそうだ!俺もわかるぜ」

「先生が生徒から不適切なものを没収ということだ」

「じゃあ次に来るのは……?って事だな」

#ナカミチ

「返してもらうには……謝罪だ!なにが悪かったのか理解して、今後行わないというような謝罪だ!」

#このみ

「謝罪って……。なにかすごい悪い事したような気分ですが」

#ナカミチ

「いや、謝罪以外に何か的確な言葉ってあったか?」

#このみ

「……お詫びとか?」

#ナカミチ

「謝罪で行くぞ」

#ナレーション

ナカミチ君、即答。

#ネネ

「私たちに悪い点があった……?」

#ナカミチ

「議論を……一部ではあったが取り上げられた。ということは議論に問題があった?」

#このみ

「それって風紀さんが利益を話すに値しないからって事だったんじゃないですか?」

#ナカミチ

「……。ううん?」

#クラスメイト

「それって前提だったって話だぜ?」

「議論を行う問題点ではないということだ」

「議論を取り上げた理由だったって事だな。…………ん?」

#ナカミチ

「……議論の権利は返ってきている!?」

#このみ

「はぁ!?い、いや、議論の権利と議論の問題点は別ということでしょうか!?」

#ナカミチ

「議論に問題があったのをくぜ先生は見ていた。そこで利益を話すに値しないという理由で取り上げた」

#このみ

「取り上げた理由、議論の問題点とは別の理由で取り上げたんですね、ってなんでそんな事をする理由があるんですか?」

#ナカミチ

「……なぜだ?」

#クラスメイト

「ナカミチ!いまはその話じゃないぜ!」

「議論の問題点を話すべきということだ」

「って事だな」

#ナカミチ

「……そっか。そうだな」

#このみ

「私たちの議論に問題があったのでしょうか……?」

#ネネ

「……。」

#ナカミチ

「その問題は俺たち全員にあった。そして風紀さんは自分のせいだと思っている」

#このみ

「戻ってきました……。まとまりながら……!」

#ナカミチ

「証明問題の形に戻ろう。さいかさんもう一度まとめてもらえるか」

#さいか

「ナカミチ君1人でまとめれるとおもうけどな……。気は使わなくてもいいですよ?」

#このみ

「くすくす」

#クラスメイト

「くっくっくっ」

「また無駄にかっこつけてる」

「これがなきゃなぁ」

#ナカミチ

「さいかさん、早くしてくれ……。」

#さいか

「急かさないで……。そういうの苦手だから……。えーと、私たちは議論を行うにふさわしい。これを証明しなさい。でしょうか?」

#このみ

「すごくおごそかな感じになりましたよ……。」

#ナカミチ

「そうだな……。」

#ネネ

「……いえ、議論っておごそかな点も持ち合わせているはずです。私たちは軽く見過ぎていたんです……。」

#ナカミチ

「……私たちは議論を行える生徒です。くぜ先生に証明します。ぐらいのノリかな」

#このみ

「ま、私たちにも自尊心がありますからね。そのあたりでしょうか」

#ナカミチ

「言ってからでわるいんだがおごりやうぬぼれの気がしてきた」

#このみ

「ええい。若さってやつですよ。行きますよ!」

#さいか

「まず議論を行うふさわしさって何でしょう?」

#ナカミチ

「おそらく俺たちはふさわしくない事を行っていたんだ。それを認めて謝罪すればいい」

#このみ

「逆説的ですねー」

#ナカミチ

「振り返るぞ。まず全体的な方針を決めようとしたんだ」

#このみ

「コンセプトを決めた方が話がまとまりやすいという風紀さんの案でしたね」

#ナカミチ

「結果、利益を大事にしたいというこのみの案が採用されたんだ」

#このみ

「うーん。そうですねぇ」

#さいか

「そのあと焼き鳥屋にしようと決定しましたよね……。」

#ネネ

「その後、このみさんからコスプレをして販売するのはどうだろうか。という話が出ました」

#クラスメイト

「風紀さんが利益重視と合わないって言ったんだよね」

「ここから話が大きくなっていったよね」

「そう?この後の風紀さん対ナカミチ君から話が大きくなっていったんじゃない?」

#ナカミチ

「……。」(話が大きくなっていった?)

#このみ

「その後、くぜ先生が利益重視の立場を風紀さんの代わりにというか立場を没収します」

#ナカミチ

「まった。そこまでだ。議論の問題点があると言うならこれ以降にあるはずが無い」

#さいか

「ここまでが私たちだけで行っていた議論ってことですね?」

#ナカミチ

「そうだ」

#このみ

「介入されるまでの出来事に問題点があるはずなんですから。ま、そりゃそうですか」

#クラスメイト

「い、いや少なすぎねえか?まとめたら5分もねーぞ」

「3分もたってないよ……。」

「問題点を考えるならもう少し細かく見ていくべきか」

#ネネ

「いえ、わかりました。みんなで議論をしましょうという事です」

#このみ

「え?どういうこと?いや、そういうことか」

#ナカミチ

(ネネさん、震えてるな……)

#さいか

「風紀さんとこのみちゃんにまかせっきりだったかな……。」

#クラスメイト

「ナカミチにもまかせっきりだったかな」

「ああ、ということだ」

「ああ、ってことだ」

#ナカミチ

「……ネネさん。それだけじゃないはずなんだ」

#ネネ

「なにがですかっ。……いいかげんにしてください先生!一言いえばいい話じゃないですか!それでよかったでしょう!」

#このみ

「え?急にどうしたんですか!?」

#ナカミチ

「いや、別に急ってわけじゃない。ネネさん。おそらくその答えで60点。及第点だ」

#ミサキ

「ネネちゃん…。なにを怒ってるの?」

#ネネ

「何って!なんでこんな試されるようなまねをされなきゃいけないんです!何が問題だったか教えてくれればそれを改めて終わりでしょう!!」

#くぜ

「……。」

#ナカミチ

「この問題100点まで行く必要があるな……。」

#このみ

「1人だけわかったようなふりしてもかっこよくありませんよ?」

#ナカミチ

「よくわかってるな。まだ俺にもわかってない」

#このみ

「いや、本当にわかったふりをしてるとは思ってませんでしたが」

#クラスメイト

「当然俺たちも考えるぞ」

「全員で考えなかったのが問題点なのは間違いなさそうだしな」

「ああ。やるぞ」

#ナカミチ

「ネネさん。大丈夫だ。きっとこの問題の始まりには明確な理由がある」

#ネネ

「……。」

#このみ

「まぁ、最悪かっこつけたナカミチ君に全部考えてもらえばいいんですよ。別に頼ることが問題とは思えません」

#ナカミチ

「俺が全部考えるというのはおかしいと思うが、頼ることが問題じゃないというのは大事だろう」

#さいか

「そもそも風紀さん対ナカミチ君って討論みたいなものですよね……?一応それって議論として間違いじゃないと思うんだけど……?」

#クラスメイト

「風紀さんとナカミチ君の話を聞いてから私たちが決めていいはずってこと?」

「風紀さんは頼れることが多いからなー。まぁなんだかんだで」

「討論って議論の一種だったのか……。なんとなく別物のイメージだったぜ」

#ミサキ

「でも本当にそれでよかったの?私から見てたら風紀さんが悪者扱いされてるように見えていたけど」

#ナカミチ

「いや、あれは風紀さんが調子に乗ってたからだろう…。悪役やるって言っているようなもんだっただろ、あれ」

#このみ

「いや、言ってるようなもんというよりやってましたよあれは。ボスキャラだからね、とか言ってましたし」

#このみ

「まあ、ですがそこも問題点でしょうね。風紀さんも1人じゃなきゃ悪役やるとは言わなかったでしょうし。他の人まで悪役に巻き込むとは思えませんしね」

#さいか

「そうですね……。でも風紀さんが1人でやりたいという感じだったと思うのですけど……。」

#ナカミチ

「いや、誰もやらないから風紀さんが1人でやった方がいいと判断したんじゃ、……。」

#クラスメイト

「だれもやらないから?」

「……。」

「……。」

#このみ

「でも風紀さんもできなかったはずですよ?現に洋服のお値段の回答に詰まってたじゃないですか。やっぱり1人じゃ限度があるんですよ」

#クラスメイト

「……。」

「……。」

「……。」

#このみ

「…?みんな考えこんじゃいましたね。ナカミチ君どうしましょうか」

#ナカミチ

「いや、……おそらくもう少しで終わりだよ」

#ネネ

「……。」

#ネネ

「誰でもよかったんじゃないですか……。」

#このみ

「え?」

#クラスメイト

6000円程度でもいいんじゃねーかと俺、思ってたよ。服の値段ってそのくらいでも間違いじゃなかったし」

「……。」

「……。」

#ナカミチ

「これがみんなでやらないってことか」

#このみ

「あっ……。押し付けていた?」

#ネネ

「そりゃ話し合いもだんだん長くなりますね、最初は話し合っているの風紀さんとこのみちゃんとナカミチ君ぐらいだったんですもんね。ふふっ。最低ですね。私、自分のことばっかり」

#さいか

「うぅう。すみません。ごめんなさい」

#ネネ

「さいかさんは悪くないんですよ。私、正面から自分の事をいうのも避けていたんですね」

#このみ

「……これが結論ですか。まとめましょうかね」

#ナカミチ

「ああ、さかのぼる形で話すぞ」

#ナカミチ

「まず風紀さんは利益重視とかみ合わない衣装制作に賛成側と反対側で討論を行おうとした。その際、俺と風紀さんだけの話し合いにしてしまおうとした。これは議論をスムーズに終わらせようとした風紀さんの計略があったのだろう」

#このみ

「ですが風紀さんがそのような行動に至ったのには理由があります。私たちに議論への参加意識が低かったからです。実際は風紀さんが議論に対して積極的に盛り上げようとした結果、私たちに見とくだけでいいというポジションを与えてくれようとしたという言い方が近いでしょう」

#ナカミチ

「だが、衣装作成を反対すると言うのは否定的な意味が強かった。文化祭を盛り上げようとする行動とは反対方向だからな。悪役とまでは言わないが憎まれ役を買わないといけない側面があった」

#このみ

「風紀さんは自ら悪役と言う事でコメディ感を付け加えたのでしょう。それでも憎まれ役を一手に引き受けたのには変わりありません」

#ナカミチ

「だがここで問題が出てくる。風紀さんが初めから望んで自ら悪役を引き受けたのだろうか、という話だ」

#このみ

「私たちが議論に参加していなかったから風紀さんしかいない。という状況が生まれた可能性があります」

#ナカミチ

「事実、風紀さんではなくても賛成意見や反対意見を持っている人は一定以上いたはずだ。風紀さんが1人で突っ走っていた部分はあったのだろうけどな。でもそれも最初からではなかった」

#このみ

「最初に風紀さんが出した案は文化祭のコンセプトを決めよう。というものでした。具体性はありません。その後、鳥を使おう、焼き鳥にしようと、具体的になって行きました。私たちも風紀さんが議論に影響を与えているイメージとして最初に出てきたのは焼き鳥にしようと風紀さんが言っていたあたりです」

#ナカミチ

「具体的な話まで話さなかった俺達の代わりに道筋を引いていたんだろうな」

#このみ

「誰もしなかったから風紀さんが代わりにした。きつめに言い換えた場合、誰もしたがらなかったから風紀さんが仕方なく行ったということになります」

#ナカミチ

「そこまで重く考えていた奴はもちろん1人もいない。風紀さんもそんな事を思ってやっていたわけではないだろう。だが、誰も憎まれ役をやりたくないから風紀さんに押し付けていたという状況は生まれていた」

#ナカミチ

「これが問題点の全容だ。次は解決していくぞ」

#ネネ

「……それを問題視したくぜ先生は反対派、憎まれ側を請け負いました。風紀さんはそこに気づいたんでしょうね」

#さいか

「その時点で風紀さんが問題点を全て分かっていたかどうかはわかりませんが憎まれ役を引き受けたという事はわかっていたのだと思います。だからくぜ先生から議論を再度受け取ろうとしたんですね」

#ナカミチ

「議論を続けようとしたくぜ先生だったが問題解決に向けて動き出した俺達を前に解けるまで待とうとした。問題を改められるならその方がいいしな。あるいはそうする、そうなる所までがくぜ先生の考えだった可能性はあるけれどな」

#クラスメイト

「それがくぜ先生が介入した理由だったんですか」

「風紀さんに謝らないと」

「これが俺達の問題点だったのか」

#ネネ

「……もはやいじめのようです。いえ、いじめだった、のでしょうか」

#ナカミチ

「いや。ちがう。風紀さんもそんな事思っていない。それはわかる」

#ネネ

「だけど……。」

#このみ

「こればっかりはもうやってしまった事です。……残念ですが仕方ありません。きっちり謝って再度こういう事がないようにしましょう」

#クラスメイト

「クラス全体の問題だったぜ」

「全員で反省しなきゃならない」

「みんなで責任を取ろうな」

#ネネ

「……。」

#ナカミチ

(……)

#ナカミチ

(確かに深刻な話だ。風紀さんに対してクラス全体で責任を押し付けた。)

#ナカミチ

(だけどもそうだとしてもやはり回りくどすぎる。全員に注意して、風紀さんに経理を担当してもらい、議論を再開。これでいいはずだ)

#ナカミチ

(なにかまだ理由がある?)

#このみ

「しかし何か釈然としませんね。回りくどすぎる理由にはなっていない気がします」

#クラスメイト

「え?どういうことだ?」

「最大の難所ということだ。俺もよくわからん」

「まだわからない事があるって事だ。むずかしいな」

#ナカミチ

「……そうだな。わからないからみんなで考えるんだよな」

#ふうき

「うふーふ。うふーふ。みんなで考えるなら私も、」

#ネネ

「いいえ、風紀さん。私たち考えてみます。きっと私たちのケジメになると思う」

#ふうき

「あれ?そう?それなら信じるよ。まっとくね!」

#くぜ

「……。」

#さいか

「えぇと。手伝えるでしょうか」

#ミサキ

「不安でも協力するんだよ!きっとあと一歩!」

#クラスメイト

「くぜ先生が複雑な問題にした理由かぁ」

「先生が議論に介入した理由は風紀さんが利益について話す立場にふさわしくなかったからでしょうね」

「だけど理由と問題点は一致してなかった」

#このみ

「問題点は風紀さんに議論の役割をほとんど背負わせていたことにあります」

#さいか

「まとめると議論の問題点は私たち全体にあるけどくぜ先生が指摘したのは生徒の中に利益を話す立場にふさわしい人がいないということかな……。」

#ナカミチ

「こうして考えるとくぜ先生が俺達に指摘したのは立場に関する事だけ」

#ナカミチ

「議論に問題点がある事は言ったが指摘して介入したのは風紀さんの立ち位置の変更、修正……?」

#ナカミチ

「くぜ先生は俺達の議論の姿勢に対しては介入、指摘していない……。指導していない……!」

#ミサキ

「だとするとなにか変わる事があるのかな?」

#クラスメイト

「なにかできることがあるんじゃねーか?」

「ふむ。介入したり指摘していないなら俺達だけでこの問題を解いているということか?」

「たしかに何かできそうな感じはするよね」

#ネネ

「……あぁ。わかりました。こんどこそわかりました……。でも、これは……、言葉遊び、詭弁……。」

#このみ

「ネネさん!わかったんですか?教えてください!」

#ナカミチ

(詭弁……か)

#ネネ

「進行形なんです……。風紀さんに憎まれ役を押し付けていたのは事実、まだ先生の指導はない。私たちだけで解決してしまえばいい。風紀さんに役回りを押し付けすぎじゃない?と言って改善してしまえばそれで終わり」

#ネネ

「ふふ。これが私のケジメですか。こんなのケジメじゃない。詭弁。詭弁です」

#このみ

「ネネさん?」

#ナカミチ

「……。この話の重要点はいじめがおきていないということだ」

#このみ

「え?」

#クラスメイト

「ナカミチ。なんとかなるんだよな?」

「信じるから頼れるんだな」

「同じ頼るという事でもここまで違うんだな」

#このみ

「……。」

#ナカミチ

「くぜ先生からの指導もなく俺達で風紀さんの負担に気づき改めた。負担を押し付けたまま議論を終わらせず、先生等の外部からの指導もなかったということは、元から誰も風紀さんに負担を押し付けて終わらせようなどと考えていないという証明になる」

#このみ

「あっ……。証明完了……。」

#ネネ

「詭弁……。」

#ナカミチ

「問題解決。いや、問題なんてどこにもなくなった」

#ネネ

「詭弁ですっ!!思っていました!早く終わらせようって!だから甘んじてたんです!積極的に参加しなかった!風紀さんたちに全部任せて!話が大きくなってきたからまとめようとして!やっと!やっと参加しようとした!話を終わらせるために!」

#クラスメイト

「それはネネさんだけの問題じゃないだろ?俺にもそんな気持ちはあった」

「次はそうじゃない。そんなことは起きない。みんなで話し合えたから」

「問題を解消したらいいんだ。誰も誰かを困らせようとかそういうのは絶対なかった」

#ナカミチ

「……そうだ。悪意なんてなかった。これでいいんだ」

#このみ

「そうですそうです。いいじゃないですか、問題も解決して。さ、私が代表して風紀さんに謝りますよ。風紀さん、損な役回りを押しつけてすみませんでした。ここからはみんなで話し合っていきますから。これからもよろしくお願いします」

#ふうき

「ええー?べつにー、押し付けられてたなんて思ってなかったよー?でもきっとこれからもっといい文化祭の案が出そうだね!うふふ!みんなで頑張っていこうか!わたしも経理としてもっと頑張るよー!」

#ネネ

「風紀さん……。ありがとう」

#ふうき

「うふふふふ!」

#クラスメイト

「これで解決だな!」

「ってことだ!」

「という事だな!」

#ナカミチ

「どうでしょうかくぜ先生」

#くぜ

「……どうもなにも問題点はさっきナカミチ君が言った通り無くなりました。もう問題が無いのですから点数をつけることもできませんね」

#ふうき

「まさにクリアって奴だねー。きれいさっぱり。0点中0点っていうのかな?」

#ナカミチ

(これでくぜ先生が議論に対して問題点があると言った事も消え去るのか)

#このみ

「うふふ、かんぺきですねぇ。でも0点じゃありませんよ。議論は進行中なんですから。みんなで100点目指してますからね、加点中ですよ!」

#ナカミチ

100点中今何点なんだ」

#ふうき

30点あればいい方じゃない?まだ始まったばかりだし」

#クラスメイト

「へ?点数少なくないか?どういう事なんだ?」

「文化祭の出し物についての話し合いはまだ始まったばかりってことだ」

「さっきの案は見直すんだからな、次は全員で考えてみようという事だ」

#さいか

「。」

#ナカミチ

「さ、さいかさん。大丈夫か?」

#ふうき

「ま、まぁ。今日はこのへんにしよう。気づけば放課後が始まって1時間たってるし、あせって考える必要はないんだからね!」

#ネネ

「……次はちゃんと意見を持ってから望みます。がんばりますね」

#このみ

「うん。わたしももっと考えてから議論に望みます。再開は明日の放課後にしましょう」

#ナカミチ

「俺も、そうだな。今日はすまなかった。明日はなんか考えてくるよ」

#くぜ

「……今日はここまでですか。全員寄り道等しないように。日直は教室のカギを渡しなさい。もう遅いですし私が教室を閉めてカギを職員室まで持っていきます。では解散」

#ナレーション

どうやら終わりのようだ。教室の後ろで見守っていたくぜ先生も前に出て解散を告げる。

#このみ

「おっと、きりーつ!」

#ナカミチ

(おっと。これはこのみナイスだ)

#ナレーション

突然の号令であり、あわただしくもクラスメイト達は急いで立ち上がる。

#このみ

「れーい!」

#全員

「ありがとうございましたー!」

#このみ

「では、かいさーん!」

#ナレーション

いつも通りで特に理由が無くても言える、不自然じゃない感謝の言葉である。これならくぜ先生も素直に受け取れるだろうか、顔を見るとやれやれといった顔をしている。

#ネネ

「さいかさん!急ぎますよ!塾まで時間が無いんでしょう?!風紀さん!明日からもよろしくお願いします!」

#さいか

「は、はいい!」

#クラスメイト

「俺たちも急がないとなー。塾組みはねー」

「そだねー」

「いそげー」

#ふうき

「え?あ、うん。ネネちゃん、よろしくね……ってもういないや。すっかり本調子だねー」

#ナレーション

塾組みに気を使っているのか塾が無い人たちは帰る初動がいつもよりも遅い。

#このみ

「かっえっろー。かっえっろー」

#ナレーション

このみちゃんも机の中の筆記用具を鞄に放り込みながら帰宅準備を行う。

#ナカミチ

(今日はまた一段と大変な日だったな……)

#ナレーション

こうしてまた一日が過ぎて行った。

 

 

#ナカミチ

「……。」

#このみ

「うーん。ここなら入りやすそうですねー。カフェと言ってもチェーン店ですし。ナカミチ君どうです?」

#ナカミチ

「ん?ああ。そうだな。ここにするか」

#ナレーション

そうだ。回想だった。2人は休憩するためにカフェを探していた。オープンカフェでありながら注文はカウンターで行うこのお店は学生にも入りやすいカフェと言える。

#このみ

「なーんか別の事考えてませんでしたぁ?」

#ナカミチ

「いや、ちょっと文化祭の飲食店について話してた時を思い返してたんだよ。ちょっとだけな」

#ナレーション

振り返ったこっちの身としてはちょっとではなかったが。

#このみ

「あー。大変でしたねぇ。でも結果として男子と女子の衣装も普段の学生服と組み合わせながらとか豚の生姜焼きだとかスープだとか焼き野菜スティックとかトッピングとか盛り上がりそうですよ」

#ナカミチ

「全部乗せみたいになったけどな」

#このみ

「いわゆるデラックスコースです。もしくはミックスプレートでしょうかね。アラモードも捨てがたいですー」

#ナカミチ

「闇鍋って言われても仕方がないと思うが」

#ナレーション

あの後日の議論は有意義なものになったのだろう。このみちゃんは笑っているしナカミチ君も苦笑していることからよくわかる。

#ナカミチ

「さて、じゃあこのお店に入るか。注文してくるよ。席とっておいてくれないか?」

#このみ

「いえいえ。私が注文して飲み物運びますよ。ナカミチ君は先に席に座っておいてください」

#ナレーション

ようやく青春劇が始まりそうだ。前置きは十分だろう。

#ナカミチ

「そうか?じゃあ頼もうかな」

#このみ

「ええ、ええ。注文を何にするかだけ教えてくれたらいいですよ」

#ナレーション

そう言われてカフェの店先に掲げられたメニューの看板を見ながら考える。

#ナカミチ

(……普段はミルクなんだがな。)「……抹茶カフェラテのアイスで。あと風紀さんが渡してくれた1000円渡すよ」

#このみ

「わかりました。抹茶カフェラテですね。じゃあ買ってきますねー」

#ナレーション

1000円を受け取りふらふらとレジに向かうこのみちゃん。ナカミチ君もかっこつけずミルクでもよかったと思うが、さて。店内を見渡して座る席を探す。

#ナカミチ

(お、ソファー席が空いてるな)

#ナレーション

店内に入りとりあえずセルフサービスのお水を2人分とってからナカミチ君座る。ソファー側に。ソファーと椅子が向かい合っている形の席だ。店内に座るならオープンカフェであるという解説を入れた意味がないのではないか。

#ナカミチ

(じゃ、ない!こっちに男が座ったらだめだろう!)

#ナレーション

ダメってこたぁないが。まぁ女の子にソファー側を譲るのはマナーとしていいといえるだろうか。椅子側にあわてて座りなおす。

#ナレーション

このみの方を見るとレジのカウンターに置かれているメニュー表を上から覗き込んでみている。初めてのお店だという事も加えて注文に慣れてないのだろう。変ってこたないが、まぁ女の子としては不審。

#ナカミチ

(見られてなくてよかった)

#ナレーション

いそいそと席を移動するところは見られたくなかったらしい。若くていいなぁ。青春だなぁ。

#ナレーション

少し待ってこのみちゃんが席に来る。

#このみ

「おまたせしました」

#ナカミチ

「お、ありがとう」

#ナレーション

トレイにグラスコップとティーカップを乗せてこのみちゃんが席に座り、かぶっていた帽子も荷物と一緒に席の横に置く。

 

 

#このみ

「ナカミチ君みてください。うさぎさんの絵がかかれています」

#ナカミチ

「おお、うまいな。ラテアートってやつだったか?」

#ナレーション

このみちゃんが頼んだ飲み物のティーカップにはミルクの白い泡の上に薄緑色の抹茶によって引かれた線による、かわいらしいうさぎの絵が描かれていた。

#このみ

「いやー、私は抹茶ラテをホットで頼んだんですよー。なんかナカミチ君のと同じなのに高く見えちゃいますねー」

#ナカミチ

「いや、なにも気にしないが……。」

#このみ

「あれ?男の子は女の子の前でかっこつけたがるもんじゃないんですか?とくにナカミチ君は普段からかっこつけて痛い目あってますし」

#ナカミチ

「かっこつけてしまうのは否定しないが痛い目にあう理由の大半は俺が原因じゃない」

#このみ

「かっこつける理由をあげてる人たちにそういう事を言うんですか?」

#ナカミチ

「俺はいっさいたのんでないぞ……。」

#ナカミチ

「それにうさぎが描かれている飲み物を男が飲むのはむしろかっこ悪いというか、なんていうか」

#このみ

「えぇー。そんなの気にしませんよ、ふつー。からかいはしますが」

#ナカミチ

「じゃあたのまない」

#ナレーション

価値観が見える。

#このみ

「ま、人それぞれ。個人の自由ですかね。ではいただきましょう」

#ナカミチ

「そうだな」

#このみ

「うーん。口につけるのがもったいないですねぇ」(ごくっ)

#ナカミチ

(言いながら飲むのか)

#ナレーション

ナカミチ君もグラスにストローをさして飲む。

#このみ

「……。」

#ナカミチ

(……にがい)

#ナレーション

その飲み物はガムシロップ入れて飲む人が多い。最初からたっぷりシロップを入れてくれているお店も多いが。素直にミルクを注文しておけばよかったと思う。

#ナカミチ

「うまいな」

#このみ

「じゃあガムシロップいらないんですね。私自分の分だけ取ってきます」

#ナカミチ

「すみません。かっこつけました」

#このみ

「でしょうね」

#ナレーション

全部ばれてる。あわれとしか言えない。

#ナレーション

カウンター横に置いてあるガムシロップの小さな入れ物、いわゆるポーションカップ、を3つ右手に取りこのみちゃんが戻ってくる。

#このみ

「はい。どうぞ」

#ナレーション

ナカミチ君にガムシロップを1つ手渡す。残り2つはこのみちゃんの分。

#ナカミチ

「……出来れば2個欲しい」

#このみ

「最初からそう素直だったらいいんですけどねぇ」

#ナレーション

このみちゃん左手に1つ隠し持っていたガムシロップをナカミチ君に手渡す。場合によってはガムシロップ1つではまだ苦いアイス抹茶カフェラテを無理して飲むナカミチ君を鑑賞する予定だったらしい。

#ナレーション

2人ともガムシロップを2つ入れかき混ぜて飲む。うさぎの模様は完全に消えてしまった。

#ナカミチ

「おお。おいしいな」

#このみ

「ああー。癒される感じがします。うさぎを犠牲にした価値は十分にありますねー」

#ナカミチ

「物騒な物言いはやめろ」

#このみ

「そうですねぇ。ふー」

#ナレーション

完全にゆるみきっている。

#ナカミチ

「あれ?……このみ、俺も言い忘れていたがレシートは?」

#このみ

「……。」(ごくごく)

#このみ

「……。ふぅ」

#ナカミチ

「経費で落ちないぞ」

#ナレーション

交通費は自己申告。その他はすべてレシートで経費を判断。

#このみ

「いやぁ。やっちゃいました」

#ナカミチ

「レシート貰えるか聞いてくる」

#このみ

「私が行きますよ。私のミスです」

#ナレーション

さて、あとからもらえるか。

#ナカミチ

「いいから」

#ナレーション

ナカミチ君立ち上がる。

#このみ

「……すみませんね」

#ナカミチ

「まあ、このぐらいならな」

#このみ

「そうでしたね。今さらって感じでしたね。じゃあゆっくりしていますよ」

#ナカミチ

「もうちょっと気にしてくれてもいいぞ」

#このみ

「ふうー」(ごく)

#ナレーション

すっかりくつろぎモードだ。

#ナカミチ

(まあいいか)

#ナレーション

ナカミチ君カウンターへ向かう。

#ナカミチ

「あのー。すみません」

#店員

「はい。どうなされました?」

#ナカミチ

「さきほどあの席に座ってる女の子が注文したんですがレシートを受け取らなかったんです。ですが必要でして、すみませんがどうにか再発行していただけますか?」

#店員

「そうですか。お客様が受け取らなかったレシートは保管しておりますのでお渡しできますよ。彼女さんは何を注文なされたのでしょうか」

#ナレーション

彼女だってよ。

#ナカミチ

「ええと。抹茶カフェラテのホットとアイスをひとつづつ……。」

#ナレーション

気づいてねーな。

#店員

「かしこまりました。少々お待ち下さい」

#ナカミチ

(……か、のじょ……?)

#ナレーション

気付いた。顔が真っ赤になっていく。それこのみちゃんの方の役目じゃ?男が照れるとこみてもなー。

#店員

「こちらのレシートだと思うのですが、ご確認いただけますか?」

#ナカミチ

「……あ、は、はい!」

#ナレーション

ちらっとこのみちゃんの方を見るナカミチ君。このみちゃんはラテのあわをスプーンでつついている。なにをやってるのか。

#ナカミチ

「ああ、これです。間違いありません。ありがとうございます」

#店員

「そうですか。また何かございましたら遠慮なくおっしゃってください」

#ナカミチ

「はい。ありがとうございます」

#ナレーション

そそくさと席に戻る。

#このみ

「ナカミチ君。ありがとうございました。今度から失敗しないようにします。うーん、普段からレシートをもらうようにしましょうかね」

#ナレーション

そしてレシートで膨れ上がるお財布。

#ナカミチ

「細かいお金の管理をするならもらう意味はあるだろうがしないんだったら別にもらう必要はないだろ。このみはそういうの気にするのか?」

#このみ

「いえ、管理しないですよ。……ああ、なるほど。このみは管理するような人間には見えないと。そう思っている。それを遠まわしに言ってるいるんですね。なんてことでしょうか」

#ナカミチ

「レシートだが、このみから風紀さんに渡しといてくれ」

#このみ

「はーい。……念のため言っておきますが私は浪費家じゃありませんよ」

#ナレーション

もはや定番のやり取りである。ナカミチ君がさばき切れていないだけともいえる。

#ナカミチ

「倹約家なのか?」

#このみ

「いーえ。ぜんぜん」

#ナカミチ

「だろうな」

#このみ

「想像通りかと」

#ナカミチ

「欲しいものなら買うタイプだろうな。無駄遣いはしない」

#このみ

「まー、そうですね……。っと、できました」

#ナレーション

ずーっとカップの泡をつついていたスプーンを受け皿に置く。

#ナカミチ

「あー、……それはなんだ」

#このみ

「なんだかんだいって結局つっこんでくれますよねー。付き合いがいいというか」

#ナカミチ

「だれだって目の前の人物がなんかやってたら聞くだろう。しかたなくか聞きたくて聞くかの違いはあるだろうけどな」

#このみ

「ふふふ、正直ですねぇ」

#ナカミチ

「で、それはなんだ」

#このみ

「『うさぎさんりみてっどえでぃしょん』です」

#ナレーション

このみちゃんのカップ上で混ぜられて薄緑色になったラテの泡。その上で比較的白色をたもったミルクの泡でなにか描かれている。このみちゃんがうさぎさんとかぬかしてるのでおそらくうさぎを描いている。言われたらまあそう見えるというレベルだ。

#ナカミチ

「さっきからなにかやっていると思えば。なんというか、もはや子供じみているぞ」

#このみ

「いちいち自分の行動に意味なんか求めませんよ。楽しいからやるんです。すくなくとも今楽しけりゃ今は幸せです」

#ナカミチ

「深い事を言っているとは思うが、深い事を考えてはいないだろうな」

#このみ

「まあテキトウにすらすら出てきた言葉ですからね。なんも考えず出てきたにしては深い言葉でした」

#ナカミチ

「で、そのよくわからない模様がうさぎだと言い張るわけだ」

#このみ

「そうです、そうです。女の子が言ってるんですから、おっと。かわいい女の子が言ってるんですからおとなしくナカミチ君はこれをうさぎだと認めりゃいいんですよ」

#ナカミチ

「もはや投げやり気味だな。……これを見ろ」

#ナレーション

そう言って机に置かれたトレイの影に目立たないように置かれていた物を取り出す。これは……、ストローを保護している紙の梱包をストローの両側から押して圧縮してつくった、いわゆるヘビである。蛇腹状に圧縮されており液体でにょーんとのびる。

#このみ

「ふむ。いわゆるへびですね。ストローの両側から紙だけ圧縮するんですよね」

#ナカミチ

「少しもったいないが……。」

#ナレーション

ナカミチ君、自分のアイス抹茶カフェラテからストローで中身の液体を取り出す。

液体をかけられたヘビはにょろーと伸びる。

#このみ

「おお。久しぶりに見ましたが綺麗に伸びましたね―。抹茶の色が緑色だからヘビにより似ましたね」

#ナカミチ

「そうだろう」

#このみ

「……で、あの。これがなにか?」

#ナカミチ

「意味はない。そしてヘビだと認めたな?」

#このみ

「!ぐうっ……。意趣返しでしたか。油断してました」

#ナカミチ

「同じ意味がない事をするにしても色使いとかなにかしら考えた方がいいと思うぞ?」

#このみ

「……ぐぐぐ」

#ナレーション

にやりとナカミチ君。くやしがるこのみちゃん。2人にしかわからない価値観が場を支配している。2人だけの世界とも言えなくはないといえるかなぁ?もう少しこう、わかりやすく価値観の共有とかしてくれないだろうか。ついていけない。

#このみ

「ふ、ふふ。『うさぎさんりみてっどえでぃしょん』の方がかわいいですよ。なんたってうさぎですからね。みんな大好きですよ」

#ナカミチ

「ヘビには魅力があるぞ?うさぎとは立っている立場が違うからその辺りで優越は決められないと思うがな?」

#このみ

「ぐ、ぐうぅ……。ん?」

#ナカミチ

「……どうした?」

#このみ

「ナカミチ君?ふふふふふ」

#ナレーション

このみちゃんにやにや笑う。どうやら何か気づいたようだ。

#ナカミチ

「……そこは関係ないだろう」

#このみ

「いえいえ。そこまで丁寧に話題を出してもらってふれないというのもねぇ?悪い気がしますし」

#ナレーション

ナカミチ君、アイス抹茶カフェラテのグラスに口をつけて飲む。落ち着きを取り戻そうとしているのがわかりやすく見える。ストローは先ほど水滴を取る為に口をつける部分に指を当てたためトレーに置かれている。そういう所は気にするタイプのようだ。

#このみ

「ううん。そうですねえ。ナカミチ君の方がよくできてました。緑色のヘビ。いいと思います。わたしも遊び心を持つ者として経験にします。で、それはそれとして別の話題として話すのですが」

#ナカミチ

「ああ」

#このみ

「そのヘビはいつ作ったんですか?いえ、まあわかります。ストローをグラスに入れた時ですよね。わたしが『うさぎさんりみてっどえでぃしょん』を作るより前。最初。私に見つからないように作ったんですよね?いやー、まいりました。なにがって?子供心ってやつですよ。私より子供ですね。うふふ」

#ナカミチ

「そうでもないぞ。スプーンで必死にうさぎさんを描くほどじゃあないさ」

#このみ

「うふふ」

#ナカミチ

「ふふふ」

#ナレーション

話の内容的には両方笑われても仕方がない状態である。外見的、傍(はた)から見れば顔を見合いながら笑っているほほえましい画ではある。もしくは嫉妬されるような画。

#このみ

「……。」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

傍から見れば見つめ合っている画。

#このみ

「ふっ、今回は負けを認めましょう」

#ナカミチ

「次はないがな」

#ナレーション

傍から見れば青春の画。おそらく。

#ナカミチ

「なあ、このみ」

#このみ

「はい」

#ナカミチ

「これを飲み終わったらもう一度ちゃんと服に使う生地を見に行こう」

#このみ

「そうしましょう」

#ナレーション

互いにホットとアイスの抹茶カフェラテを飲みながら今後の行動を決めるのであった。

 

 

#ナレーション

翌日。学校。教室。

#ナレーション

すでにナカミチ君は到着している。風紀さんと会話中である。少ししてこのみちゃんご到着。

#このみ

「いやー、涼しいと快適に学校に通えます。毎日がこうだといいんですけどねー」

#ナレーション

流れるように会話に混じる。

#このみ

「おはようございます。風紀さん。ナカミチ君」

#ナカミチ

「おはよう」

#ふうき

「おはよう!このみちゃん!今ナカミチ君から衣装について聞いてたよ。詳細まで詰めてくれたみたいだね!」

#このみ

「ええ。頑張りましたよ。どこまで聞きました?」

#ふうき

「衣装に使う生地と値段を調べてくれたって聞いただけだよ。まだ中身は聞いてないかなー」

#このみ

「あらあら。わざわざ報告を残しといてくれるとは。私の功績として報告させてくれるとは思っていませんでした」

#ナカミチ

「そういうつもりじゃない。俺も来たのはついさっきだよ。というか集合時間決めといて残しておくも何もないだろう」

#ふうき

「いつもより30分早く起きたよ!」

#このみ

「すごいです!」

#ナカミチ

「すごくない」

#ナレーション

今はホームルームまであと20分という時間帯である。こんな調子ではすぐに過ぎてしまいそうな時間である。

#このみ

「じゃあ最初から説明したらいいんですね」

#ふうき

「うん。お願いするよ」

#ナカミチ

「じゃあ衣装の仕様について説明するか」

#このみ

「使用?服の使用方法は着ることにありますが」

#ふうき

「うん。大事だね。服が人間を人間たらしめているとだれか言ってたね」

#ナレーション

だれが言っていたかは忘れたらしい。ナレーションも誰が言っていたかまでは知らない。

#ナカミチ

「このみ、続けてくれ」

#このみ

「わかりました。まず女の子が着るスカートですが生地はグログランにしました。1人当たり幅が約1メートルの生地を1.8メートル購入します。お値段は1人当たり1500円に届かないぐらいです」

#ふうき

「へえ。意外と安いんだね。スカートのひだも多いから心配してたんだけどね」

#ナレーション

つくるのはいわゆるプリーツスカートのロングスカートであるらしい。

#このみ

「男性のベストはナカミチ君に説明を譲りましょう」

#ふうき

「このままだと全部このみちゃんに調べさせたみたいになっちゃうからね。私たちはそんなことしないってわかっているけどね。ほら、一応ってやつ?」

#ナカミチ

「信用されていてうれしいよ。ご期待通り説明してやる」

#ナカミチ

「男子のベストは生地をオックス生地にする。1人当たり幅約1メートルの生地を1.5メートル。価格は1人当たり1000円前後だ」

#ふうき

「安いね。いや、お店に並ぶ服の原価と考えたらこんなものなんだろうね。うーん。勉強になる」

#ナカミチ

「風紀さん。もう少し話があって、男子のベストはここにボタンが入るんだ。1人当たり4つで1個あたり200円。ブラウン色のいいボタンがあったからそれにしようと思っているんだが」

#ふうき

「そこまで見てきてくれたんだ!そっかー。ボタンもいるよね。じゃあ1人当たり約1800円……。あれぇ!?スカートより高くなった!?」

#ナレーション

これにはびっくり。

#このみ

「そうなんですよねぇ。私たちもびっくりしました。スカートもしっかり作るのであれば金具とか必要なんでしょうけど今回はマジックテープとファスナーで止めますからね。あ、マジックテープは1人50円ぐらいです。ファスナーは100円でした。合わせるとスカートは1650円です」

#ナカミチ

「ベストのボタンはもろに見えるからな。見た目から安っぽいのはつけれないんだよ」

#ふうき

「ああ。そっかあ。でもでも予想より安くてよかったよ」

#ナカミチ

「せっかくだからスカートのマジックテープを金具にしてしまったらどうだ?男女で衣装の値段に差が出るのもどうかと思うんだが」

#このみ

「あー、スカートの金具ですか。女子の間で話し合ったんですけどねー」

#ふうき

「男の子は知らないと思うけどスカートにはウエストゴムが縫い付けられてるんだよ。今回制作するのは簡易スカートだからウエストゴムはないんだけどね。だからゴムで引っ張られないからひっかける形の金具はあまり役に立たないかなーって話になったの」

#ナカミチ

「そうか」

#このみ

「よくスカートに金具があるって知ってましたねと言いたいんですが」

#ナカミチ

「そのくらい想像つくだろう」

#ふうき

「その言い方だとスカートの中を想像してたと言いかえれるよナカミチ君……?」

#このみ

「まあ気を使ってくれたのでしょうし深くは追及しませんが」

#ナカミチ

「2人にはもう少しきつめに対応しようかな」

#このみ

「腰ゴムのようにですか?」

#ふうき

「……えぇー」

#ナカミチ

「このみはウエストのゴムをきつく感じていると……。」

#このみ

「……やってしまいました」

#ナカミチ

「まぁ想定以上に衣装が安くてよかったよ」

#ふうき

「そこで追撃しないのがナカミチ君だよね」

#ナカミチ

「俺じゃなくてもしないと思うが」

#ふうき

「できるのにしないんでしょう?優しさだよねー」

#このみ

「少し頭を回せば追撃の言葉でそうですもんねナカミチ君は」

#ナカミチ

「ふつうしないよ」

#ふうき

「とりあえず思いつく派」

#このみ

「とりあえず言ってみる派」

#このみ

「まぁ信頼のあかしと思っといてください」

#ふうき

「よかったね、ナカミチ君」

#ナカミチ

(よかったのか?)

#ナレーション

価値は人それぞれ。

#このみ

「あと生地ですけどちょっといいものを選定しました。見た目の質感が全然違ったので。最初はもっとも安い生地を買う想定をしてたんですがねー」

#ナレーション

話を強引に戻す。

#ナカミチ

「その割に最初高い値段言われたよな」

#このみ

「まさかテキトウに値段を言われていたとは思いませんでした」

#ふうき

「ええー。そんなことがあったの?大変だったね」

#このみ

「まったくです。別のお店に行ったときにわかったんですけどね。生地はそっちのお店で買うことにしましたよ」

#ナレーション

このみちゃんお怒りである。予鈴のチャイムが鳴った。

#ふうき

「ふぅん。じゃあ結局生地自体の値段はそんなに変わらないだろうに。店員の行動が差をつけた感じだねー。うーん」

#ナカミチ

「最初に考えていた綿ツイルという布だと生地だけで考えてベストが800円スカートが1200円だっただろうな」

#ふうき

「3つ…いやー、4つ考えられるかな。理由として」

#ナカミチ

「4つ?」

#このみ

「ふむ」

#ふうき

「まずそもそも何か勘違いしていた可能性。布の価格をほかの布と勘違いしていたか」

#ナカミチ

「……。」

#このみ

「ほうほう」

#ふうき

「次はテキトウに答えた可能性。知らないことを知らないって言わず自信ありげに見せたか」

#このみ

「ひどいですね。私はこれだと思います」

#ふうき

「3つ目がその店員が言った値段分の布を買わせようとした可能性。売上を上げて評価を得ようとした可能性だね」

#このみ

「そんなことされたとは思いたくありませんがそうだとしたらひどいですね!」

#ふうき

「でね、4つ目が間違った情報をあたえて困らせようとした可能性。未来ある若者を直視できなかった可能性。こっちの考えを台無しにしてしまおうとした可能性」

#このみ

「えっ……。」

#ナカミチ

「あまり怖いことを言うな、風紀さん」

#ふうき

「まあねー。でもそうだね。最初の3つのどれかだと思うよ。私もこのみちゃんと同じで自信ありげに見せるためにわからなくても値段をはっきり言ったってのが本命かなー」

#このみ

「そうですよね、スカートとか作るのに必要な生地の量とかわかりづらいですもんね」

#くぜ

「お客に自信がない姿を見せる店員や営業はいない、いれば3流です。ですがうそをつくのは本来失格云々(うんぬん)の話でしょう」

#このみ

「ううっ!?くぜ先生!?」

#ナカミチ

「あ。このみ!もう予鈴なっているみたいだ!」

#ふうき

「え?気づかなかったね」

#ナレーション

気づけばクラスメイトは席に座っていた。

#ナカミチ

「いや、座る前に教えろよ!」

#ナレーション

まぁ言いたくなるもっともな意見。

#クラスメイト

「い、いや。教えようとしたんだがなんか急にナカミチが真剣な顔をして話してたもんだからよ」

「話かけづらかったの」

「そもそも自分で気づくべきだ」

#ナカミチ

「う、それを言われると。ご、ごめん」

#くぜ

「……号令をお願いします」

#このみ

「は、はい!きりーつ!れーい!」

#全体

「よろしくおねがいしまーす!」

#このみ

「ちゃくせーき!」

#くぜ

「全員いますね。プリントの配布物等はありません。1限目の準備をするように。解散」

#ナレーション

終わり。くぜ先生が教室を出る。

#このみ

「は、はやい」

#ふうき

「いつものことだけどね」

#ナレーション

これが普段のスピードである。

#ネネ

「今いいですかね」

#ナレーション

ネネちゃんである。風紀さんに何か用事があるようだ。

#ふうき

「いやー、ごめんね。待たせちゃったかな?別に話に入ってきてもよかったんだよ?」

#ネネ

「いえ、別に待ってたというわけじゃないですから気にしなくていいですよ。文化祭で使う豚肉ですが1グラム2.5円になりそうだと連絡しに来ただけです」

#ふうき

「ああ、そうだったの!ありがとう調べてくれて!……え?グラム2.5円?」

#ネネ

「はい」

#ふうき

「グラム?」

#ネネ

1グラム」

#ふうき

「いやいやいや。高くない?」

#ネネ

「産地と安全性にこだわりました」

#ふうき

「いや、外国産でいいよね?安全性もあるでしょ!?」

#ネネ

「安全性に信頼を置くと国産も外国産も安いお肉だと変わらないラインでした。とっても安いお肉だと国内だろうと海外だろうと生産場所と生産者がはっきりわからなかったんです」

#ふうき

「いや!グラム1.5か最低でも2じゃないと困る!めっちゃこまるよ!?」

#ネネ

「文化祭には子供たちが来るんですよ!?安全性は当然でしょう!?」

#ナレーション

ネネちゃん風紀さんの肩をつかむ。ゆらす。

#ふうき

「私たちも子供だよ!わー!きゃー!ゆらさないでー!」

#ネネ

「1グラム2.5円です!それなら北海道産で生産者が書かれたものが買えます!」

#ふうき

「わかった!そうだよね!安全は何にも優先されるよね!揺らすのやめて!」

#ネネ

「ほんとですか!?じゃあ詳細を詰めますので明日には正式に提案しますね!」

#ナレーション

揚々と去るネネちゃん。

#ふうき

「おおう……。うっぷ」

#ナカミチ

「お、おい。大丈夫か?」

#ふうき

「はっ!?け、経費の事!?だ、だいじょうぶだよ!私の仕事だからね!計算し直すから!」

#ナカミチ

「いや、そっちの話じゃなくて」

#ふうき

「あ、ああお気遣いありがとう。じ、自分の意見を言ってくれるのはありがたいね……。ネネちゃんも強くなったようでなにより」

#ナカミチ

「環境のせいだろうな」

#ナレーション

環境のおかげとは言えないナカミチ君であった。経費にはふれなかった。風紀さんが大丈夫というなら大丈夫だろう。計算し直すとか言っていたが大丈夫だろう。

#このみ

「あ、そうだ、風紀さん。この前いただいた1000円の使った分のレシートとお釣りです。私とナカミチ君の交通費はレシートの後ろに書いていますので後でくださいね」

#ふうき

「ふいー。了解。そっか、交通費後払いだとお釣りでたかー。ナカミチ君、ちゃんとカフェに連れて行ってあげたの?エスコートしなきゃ」

#ナカミチ

「いや、カフェで休んだから」

#ナレーション

レシートを見る風紀さん。

#ふうき

「あれ?ほんとだ?ごめんね。ちゃんとカフェでゆっくりしてくれたようで何よりだよ。……あれ?それでお釣りでたの?」

#このみ

「ええ」

#ふうき

「アイス抹茶カフェラテ420円、ホットが420円。え?安いね。立ち飲み?」

#ナカミチ

「居酒屋みたいな言い方だな。いや、いい雰囲気のカフェだったぞ」

#ふうき

「うーん。相場ってわからないなー。経験だなー。そっか、交通費後払いってのもあるのか。お釣り出る可能性は十分あったんだねー」

#ナレーション

実際安いほうである。

#このみ

「ラテアートしてくれましたよ。今度行ってみますか?」

#ふうき

「そうだねぇ。カフェでガールズトークしよっか。ナカミチ君も行く?」

#ナカミチ

「いまガールズトークするって話だったよな?」

#クラスメイト

「3人とも次、移動教室だからな……?」

「知っててしゃべっているなら止めないけど……。」

「こういう時にどこか抜けてるのが君たちだからねぇ……。」

#ナレーション

あわただしく用意し始める3人。次の日、焦燥しきった顔で通学してきた風紀さんはネネちゃんが出してきたお肉の詳細に書かれたグラム2.2円を見て安心してすこやかに眠りにつくのだった。

 

#ナレーション

文化祭に向けて日にちが進む。ある日の放課後。

#ふうき

「うわぁ。ロールで来るとはね」

#このみ

「運び込むのも一苦労でした……。」

#ナレーション

教室には衣装に使うための生地、つまり布が運び込まれていた。

#ナカミチ

「考えれば大量の布の運送なんてまかれた状態以外で運ばれることのほうが少ないだろうな」

#ナレーション

教室の後ろで赤と紺色の布が直立しておかれており存在感を示している。

#クラスメイト

「運び終えたし帰ろうぜー」

「仕事が終わったらすぐ帰る。人件費を浮かせる基本です」

「そういう事だな」

#このみ

「最後に外した扉を戻しておいてくださいねー」

#クラスメイト

「はーい」

「ほーい」

「うーい」

#このみ

「お願いしまーす」

#ナレーション

ロールを運び込む際に教室の引き戸の扉を外していたらしい。そうしないと入らなかったようだ。

#このみ

「さ、型紙に沿って布に線入れしましょう」

#ふうき

「さっさと終わらせちゃおうね」

#ナカミチ

「目標は20分だったな」

#ナレーション

クラス内の話し合いで各自、自分の分の生地をカットすることに決まった。今日は手始めに3人が自分たちの分を製作するようである。1人当たり必要な生地の量の見極めを兼ねる。

#クラスメイト

「じゃあ帰るからなー」

「教室のカギは教卓の上だからねー」

「じゃあな」

#ふうき

「またねー」

#このみ

「お疲れ様でした」

#ナカミチ

「ああ、じゃあな」

#ナレーション

教室で布のロールに線を入れ始め、黙々と作業する。15分経っただろうか。

#ナカミチ

「よし、こっちは線を引き終えたぞ」

#このみ

「まだです」

#ふうき

「まだだよ」

#ナカミチ

「あいよ」

#ナレーション

黙々と作業。ナカミチ君、自分の分に必要な布をカットして確保。この長さが1人分ということになる。

#ナカミチ

「オッケー。終わった」

#このみ

「じゃあ私の生地線引き終わったんでその区切り線で切っていただけます?」

#ナレーション

赤い生地の上に様々な形の図形が描かれている。

#ナカミチ

「あいよ」

#ふうき

「私の分ももう終わるよー」

#このみ

「2人分でこのはやさですか。実質ナカミチ君より早いですね」

#ナカミチ

「競っていたわけじゃないだろ。これでも急いだんだがな」

#このみ

「まあベストのほうが複雑な生地の形してましたもんね」

#ふうき

「意外だよね。でも縫い始めると圧倒的にこっちのスカートのほうがややこしいんだろうけどね」

#ナカミチ

「だろうな……。」

#ふうき

「よし!できたよ!帰ろう!」

#ナレーション

1人分カットし終える。これを教室の後ろに飾って見本とするようだ。

#このみ

「はーい」

#ナカミチ

「かかった時間は23分か」

#このみ

「目標よりはかかっちゃいましたけど想定の30分よりは早かったですね」

#ナレーション

目標と想定を別にするとはやりよる。

#ふうき

「そうだねぇ」

#ナレーション

型紙を直し終えて生地のロールの上に置く。

#このみ

「型紙が1枚しかないのがつらいですね。1人づつしか作業できません」

#ふうき

「文化祭に間に合えばいいんだからそんなに急がなくてもいいんだよ。明日からのカットも時間をとりづらい人からやることになってるんだから」

#ナレーション

1番手はやはりさいかちゃんになった。ちなみに制作手順はコピーして配布済み。準備万端である。

#このみ

「あとはミシンですねー」

#ふうき

「まあそればっかりはね」

#ナカミチ

「大丈夫だろ。15人だったのがもう8人になっているし」

 

 

#ナレーション

早々に問題となったのがミシンを持っていない家庭である。始め15人がミシンを持っていないと申告。

#ナレーション

探したらあった、親戚から貸してもらえる等々で今持っていないのは8人である。

#ふうき

「みんな探したうえで残っているっていうのが危ないんだけどね。探してもなかったってことだからね、私は8個だったらなんとかクラスメイト内で貸し借りできるとは思っているけども」

#ナレーション

以上の理由で家庭にミシンがある人も早めに生地をカットして作成に入る。終わり次第ミシンを貸していただこうということだ。

#ふうき

「貸し借りは極力避けたいんだけどねー。絶対壊さないでねって今の段階から念押ししてるけど」

#このみ

「それでも壊れるときは壊れますからね。みんなには言っていませんが貸し借りで壊れた時は売上利益から保証することにしようと思ってますしね。壊れないでくださいよー。お願いしますよー」

#ナカミチ

「その祈りはミシンにあげているのか?」

#このみ

「そうですよ?」

#ふうき

「シュールすぎるね……。」

#ナレーション

廊下を歩きながら話し合う3人。これから本格的に忙しくなりそうだ。

#ふうき

「あ、教室開けっ放しじゃん……。」

#このみ

「え?」

#ナカミチ

「なんで3人とも忘れるんだろうな」

#ナレーション

真剣に文化祭について話し合っていた。だから忘れちゃった。そういうふうに3人は考えることにした。ポジティブシンキング。ただのいいわけである。ひどい。とりあえず鍵を閉めに戻る。

 

 

#ナレーション

翌日。

#このみ

「見本があると早いですね」

#ナカミチ

「そうだな」

#さいか

「これであっていると思うんだけど、どうかな?」

#このみ

「ええ。ばっちりですよ」

#ナレーション

さいかちゃんは型紙への記入を10分で終わらせていた。このペースだと3日もあれば全員型紙のカットを終えれそうである。想定外はいい方向にも動くようで何よりである。

#ナカミチ

「このまま何事もなく文化祭が成功するといいんだが」

#このみ

「それフラグっていうんですよ」

#ナカミチ

「このみは何か起こる、そう思っていると。何か起こって一番忙しくなるのはこのみだがな」

#このみ

「ああ!おお、思ってませんよ!いやだなあ!万が一、万が一ですけど、たとえ何かあったとしても協力、友情の精神、助け合いで何の問題もありません!勝利です!」

#ナカミチ

「なんだそりゃ。さいかさんはどう思う?文化祭何事も起きないだろうか」

#さいか

「うふふ。このみちゃんも頑張ってますし。何も起こらないと思いますよ。ナカミチ君も不安でしょうけどクラスのみんなも私も協力しますから」

#ナカミチ

「そうか……。まぁ大丈夫だろう」

#ナレーション

準備万端でも不安は尽きない。想定外は想定できないものである。別に何も起きないんですけどね。優秀であるなぁ。

 

 

#ナレーション

数日後。

#ふうき

「めっちゃ余ったね」

#ナレーション

全員必要分を切り終えて、生地はいまだ残っている。

#このみ

「無駄なくカットしましたからね。型紙で想定していた大きさより小さいのは感じていましたが」

#ナカミチ

「3メートルづつ残るとはな」

#このみ

「女の子の赤色の布は4メートルって言ったほうが近いぐらい残りましたよ」

#ナカミチ

「レイアウトにでも使うか」

#ふうき

「ああ、それがいいね。そうしようか」

#このみ

「さーて私たちも衣装縫っていきましょうか」

#ふうき

「2日で完成させるよー」

#ナカミチ

「あと2週間あるのにか?」

#ふうき

「みんなへの後押しの意味合いもあるんだー。ちょっと卑怯だけどねー。自分で終わったとか言いふらしたりはしないけどね」

#このみ

「ああ、最後まで見本として後ろに飾ってた私たちが終わっていればみんな急ごうとするかもしれませんね」

#ナカミチ

「ふむ。俺たちもそうするか」

#このみ

「私は構いませんが今日含めて2日で終わる気がしませんね」

#ふうき

「あ。やっぱりそう?作り終えるのに作業時間が8時間ぐらいいると思うんだよね。慣れてないだろうし。2日と言って3日で終わらせる想定だから3日間でつくるということで」

#ナカミチ

「2日は目標か」

#ふうき

「そういう事。3日が想定」

#このみ

「じゃあそういう事で今日は帰りましょう。ミシン引っ張り出さないといけませんしね」

#ナカミチ

「そうだな。帰るか」

#クラスメイト(日直)

「あ、終わった?」

「閉めるぞー」

#このみ

「お待たせしました」

#クラスメイト(日直)

「5分もたってないけどね」

「おかげで3日で完成するって聞けたし」

#ふうき

「退路が断たれた!」

#ナカミチ

「終わらせるしかなくなったな」

#ナレーション

この翌日にさいかちゃんが衣装を完成。こつこつやったからこその完成はみんなのモチベーションアップにつながった。その1日後3人が完成させたがもはや特に影響はなかった。まあいいことだ。早めに終わらせることは。本当にお疲れ様です。

 

 

 

#ナレーション

順調に準備が進んでいく。衣装も5日前には全員完成していた。文化祭に向けてラストスパートすら必要なくスムーズに進んでいったのだった。

#このみ

「おーらい!おーらい!すとーっぷ!はーい。こっちでーす。おねがいしまーす」

#ナレーション

そして文化祭前日。このみちゃんがトラックを学校内に誘導していた。文化祭に使われる食材は家庭科室の冷蔵庫に入れることが許可されていた。1クラス1つである。

#ナカミチ

「どうも。ああ、はい。そうですね。その明細通りの内容であっています。いまこちらで中身を確認しているのでサインもうちょっと待ってくださいますか?」

#ナレーション

ナカミチ君は運送屋の方と話している。クラスメイト10人以上で中身を確認中だ。

#ふうき

「ナカミチくーん!全部オッケー!サインおねがーい!」

#ナカミチ

「はい、はい。これでいいですか?ありがとうございました。門を出るところまで誘導いたしますんで、はい」

#このみ

「じゃあ私たちは家庭科室まで運びますよー」

#ナレーション

わずか5分。すごい。運送屋さんも驚いた顔である。

#ふうき

「いやー、完ぺきだったね。まさに段取りの勝利」

#このみ

「問題があったらまずいですからねー」

#ナレーション

まずいではすまないが完ぺきなので問題なし。ちなみにくぜ先生は責任者として見守っていた。トラックが出ていくのを確認したら職員室へ戻っていきました。

 

 

#ナレーション

場所は家庭科室、運び込まれた缶詰類と豚バラ肉、生姜焼きのタレ、チーズ、天かす、ねぎ、牛乳、冷凍の焼きおにぎり、野菜全部山積み。前に運んでいたコーヒーの粉は隅のほうにある。5日前にコーヒーの販売も急遽決定した。急だったため配送ではなくどこかで買ってきたようだ。

#ふうき

「えー」

#このみ

「……。」

#ナカミチ

「……。」

#ふうき

「えー」

#このみ

「……。」

#ナカミチ

「……。」

#ふうき

「パス!」

#このみ

「パス2!」

#ナカミチ

「パ…ぐっ!出遅れた!」

#ナレーション

責任者の責任の擦り付け合いここに決着をみる。

#クラスメイト

「いや、まあ言わなくてもわかるよ」

「これ絶対冷蔵庫に入りきらねぇよな?」

「冷蔵庫の体積より大きいからな」

#ナレーション

文字通り山積みである。特に豚バラ肉の量がとんでもないことになっている。

#ふうき

「えーとね。豚肉は180キログラムあります」

#このみ

「聞いてませんでしたよ!」

#ふうき

「そういや言ってなかったかな。うん。すごい量だって言ったぐらいだったね」

#ナカミチ

「お約束みたいな返し方だがどうすればいいんだ?」

#ふうき

「牛乳とチーズと豚バラ肉だけ冷蔵庫に入れればいいかな。ほかは常温でも大丈夫だよ。野菜も根菜類だしね。ネギも新鮮みたいだから1日なら大丈夫だよ。気温も11月で涼しいしね。冷凍物は意地でも冷凍庫に詰める」

#クラスメイト

「よかったー。やっぱり解決策あったんだねー」

「運んでいるときから不安だったからな」

「やっぱりそりゃあ考えてるよな。俺たちもまだまだ3人におんぶにだっこだな」

#ふうき

「いやー。よかったよかった」

#このみ

「私は最初から解決策があるって信じてましたよ」

#ナカミチ

(風紀さんが最初から解決策を持ってたか微妙なところだ)

#ナレーション

ナカミチ君は風紀さんの、豚バラ肉だけ冷蔵庫に入れればいいかな、の、いいかな、の部分が引っ掛かっていた。まるで今考えているような言い方だったからである。

#ふうき

「いやー。最初から考えていたわけじゃないよ」

#このみ

「もちろん知ってましたよ。風紀さんは解決策を考えてくれているって最初から思っていました」

#ナカミチ

(考えるまでもなく思ってなかったな)

#ナレーション

ナカミチ君このみちゃんの言葉全体から想定。実際その通り。

#ふうき

「じゃあ入れていこうか」

#ナレーション

風紀さん冷蔵庫を開ける。食材を入れるスペースは外見以上に少なかった。

 

 

#ふうき

「えー。というわけで」

#ナレーション

結局豚肉は入りきらなかった。責任者の弁明が始まる。

#ふうき

80キログラム余ったから110キロづつね」

#ナカミチ

10キロか」

#ふうき

「ひいー!ごめんなさーい!」

#クラスメイト

「えーとつまり持って帰るってことか?」

「そして明日持ってくればいいのか」

10キロかぁ……。」

#ナレーション

いわゆる大きなお米一袋分である。重い。普通サイズのお米二袋でもよい。重い。

#ふうき

「えーとね。まず教室に戻ってカバンの中の教科書類を全部ロッカーに入れてください。それで帰る準備整えて再集合です」

#ナカミチ

「お願いします」

#ふうき

「お願いします!」

#このみ

「仕方ないですねぇ」

#ナカミチ

「このみも責任者だろうが」

#このみ

「すいません!お願いします!」

#クラスメイト

「いや、仕方ないだろ。想定以上だもんなこれ」

「仕入れの量は風紀さんに任せちゃったしな」

「このくらいはねー。これはみんなの責任でしょー」

#ふうき

「ごめんねー。家の冷蔵庫が小さい人はおしえてねー」

 

#ナレーション

その後。15分後ぐらい。

#このみ

「おっけーです。あとは帰りましょう」

#ナレーション

山積みのお肉も残りは3人の30キロだけである。クラスメイト達は帰り、3人は何か忘れていることがないかと最終確認中である。

#ふうき

「明日は7時半集合だね。7時半だからね?7時とか7時20分じゃなくて、7時半に教室にいてたらいいんだね?」

#このみ

「なんでそんなに念を押すんですかね?そう決めたじゃないですか。何かあるんですか?」

#ナカミチ

「気にしなくていいぞ」

#このみ

「そういわれるといやでも気になってしまいますが」

#ナカミチ

「それもそうか」

#ふうき

「前に集合時間決めた時に10分前に到着したのにみんな来ててからかわれたんだよ!ねー」

#ナカミチ

「イベントを企画した風紀さんがみんなより到着するのが遅かったからってやつだよな」

#このみ

「うーん。知らない時代の話ですねー。まぁ仕方ない話ですか」

#ナカミチ

「このみも途中から参加したやつだぞ。あれは…名前なんだったかな」

#ふうき

「なんだっけ?」

#ナカミチ

「企画者は覚えといてほしいんだが」

#このみ

「ああー。あれですか?『なんとかかんとかえくすてんど』とかいうやつですよね」

#ナカミチ

「なんとかかんとかの部分が大事だったんだけどな」

#ふうき

「あ、思い出した。『手段無用!宿題殲滅!えくすてんど!』だったかなー」

#このみ

「それですそれです」

#ナカミチ

「その企画の最初にさっき言った出来事があったんだよ。『手段無用!宿題殲滅!』の開始時にな」

#ふうき

「ほんとあの時はまいったよ。みんなやる気ありすぎたね」

#ナカミチ

「まったくだ」

#ふうき

「やる気がありすぎて私より後の人が1人しかいなかったんだよー。あ、このみちゃんのことじゃないよ」

#このみ

「おそらくですが、私はその時なら職員室にいましたからね。じゃあその1人は誰なんですかねー」

#ナカミチ

「さあな。思い出せないな」

#ふうき

「だれだっけ?」

#このみ

「予想もつきません。これは迷宮入りですね」

#ふうき

「ま、わからないならわからないということで。そろそろ帰ろっか」

#ナレーション

風紀さん自分のカバンに豚肉のトレイと保冷剤をぽんぽん入れる。

#このみ

「きっちり入れないと入りきりませんよ」

#ナカミチ

「全員カバンが膨れてたよな」

#ふうき

「入ったよ」

#このみ

「カバンの上はみ出してますが」

#ふうき

「大丈夫大丈夫。家近いし」

#このみ

「まあ私たちは全員自宅は徒歩圏内みたいですしね」

#ナレーション

自宅は近いらしい。このみちゃんとナカミチ君は豚肉を保冷剤と一緒にカバンの中に入れて外から見えないようにチャックを閉める。

#このみ

「じゃあ帰りますかね。よっと」

#ナカミチ

「そうだな」

#ふうき

「よーいしょっと!」

#ナレーション

ナカミチ君と風紀さん豚肉バッグを肩にかけて持ち上げる。おっと、このみちゃん持ち上げられない。

#このみ

「よいしょっと」

#ナカミチ

「……。」

#ふうき

「……。」

#ナレーション

持ち上がらない。

#このみ

「ふう」

#ナレーション

いったん離れる。仕切り直しのようだ。

#このみ

「これはだめですね」

#ナレーション

仕切り直しではなく降参だった。まあ仕方がない。むしろ今までの女の子が苦もなく持ち帰ったのがすごい。うわー、重いー。とかは言っていたが。風紀さんはパワフルですね。元気いっぱい。

#ナカミチ

「だめじゃない。しゃがんでみろ」

#このみ

「?こうですか?」

#ふうき

「それでこうだね」

#ナレーション

背中に豚バッグをのせる。

#ナカミチ

「そうだ」

#このみ

「なるほど。背中に担げば楽ですねー」

#ふうき

「このみちゃん体力あるのにねー」

#このみ

「えっへん」

#ナカミチ

「帰るか」

 

 

#ナレーション

今日も終わり。次の明日。

#ナレーション

晴れ渡る空。秋空である。文化祭日和まっさかり。

#このみ

「重い」

#ナレーション

ナカミチ君は家を出てからずっと思っていたことを横で言われた。よく耳に入る。

#ナカミチ

「そうだな」

#ナレーション

靴箱前で靴を履き替えながらナカミチ君が答える。

#このみ

「昨日も重かったです」

#ナカミチ

「ああ」

#このみ

「家から学校まで15分かかるんですよね」

#ナカミチ

「何が言いたい」

#ナレーション

ちなみにナカミチ君の通学時間は20分である。10キロを背負って15分とか20分とか大変ですね。遠慮したい苦行である。

#このみ

「持ってー」

#ナカミチ

「寄りかかるな!」

#ナレーション

このみちゃんだらーっと寄りかかる。ナカミチ君にはこのみちゃんとこのみちゃんが持っている豚肉10キロ、合わせてろくじゅ…。……。合わせて60キロから70キロぐらいの重さが寄りかかっている。

#ナカミチ

「ぐぐぐ……。」

#このみ

「重いって言わないでくださいねー」

#ナカミチ

「これ以上寄りかかるようなら言うぞ……。」

#ナレーション

ナカミチ君そろそろ限界。

#このみ

「ちなみに私の体重は58キロ未満です。56から58ぐらいをうろちょろしてます」

#ナカミチ

「誰も聞いてない……。ぐぐ……そろそろ離れろ……!」

#ナレーション

体重隠さないとは恐れ入りました。ちなみにこのみちゃんの身長は162cmぐらい。ナカミチ君は知らん。身長はこのみちゃんより少し大きいくらいにみえる。

#ふうき

「朝から何してんの?大丈夫?」

#ナレーション

風紀さんである。特筆するならキャリーバッグをころころ引いているようだ。

#このみ

「あぁ、これは風紀さんおはようございます」

#ふうき

「うん!おはよう!で、えーと。ナカミチ君おはよう」

#ナカミチ

「い、いま無理。ぐぐ……お、おも……。」

#このみ

「おも?」

#ふうき

「おも?」

#ナカミチ

「ええい!離れろ!」

#このみ

「きゃー」

#ふうき

「きゃー」

#ナレーション

ナカミチ君このみちゃんを押し返す。意地であろう。別に何もされていない風紀さんはノリでさけんでいた。

#ナカミチ

「はあ、はあ」

#ふうき

「あらためておはよう。ナカミチ君」

#ナカミチ

「あ、ああ、ごほっ。おはよう。風紀さん」

#このみ

「無理させすぎましたね」

#ふうき

「もう長くはもたないかも……。」

#このみ

「じゃあ使えるときに使うしかないですね!」

#ふうき

「このみちゃんはポジティブだねぇ」

#このみ

「風紀ちゃんは前向きですねぇ」

#ナレーション

どうちがうのか。

#ナカミチ

「仲がいいようで何より。俺はもう行くから」

#このみ

「向かう場所は一緒ですよ?みんなでいきましょう」

#ナカミチ

「わかったよ」

#ふうき

「そこであまやかすから……。」

#ナカミチ

「あまやかした結果に言われるとさすがに思うところはあるな」

#ふうき

「今日もよく使うかー」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

仲がよろしいことで。

 

 

#ナレーション

靴も履き替え、廊下を進むとよくキャリーバッグのコマ(タイヤ部分)がガラガラと響く。

#このみ

「それお肉を入れているんですよね?私もガラガラで来ればよかったです」

#ナレーション

このみちゃん、キャリーバッグをガラガラと呼ぶ。

#ふうき

「え?」

#ナカミチ

「どうした」

#ふうき

「わたし明日持っていくときはキャリーバッグで来るといいよって言わなかったっけ?」

#ナカミチ

「聞いてないな」

#このみ

「聞いていませんね。ああ、キャリーバッグって名前でしたね、それ」

#ふうき

「ごめんね。そうしたほうがいいってわかってたのに言い忘れていたよ」

#ナカミチ

「うーん。気にしすぎだろ風紀さん。そのぐらい個人の裁量みたいなものだろう」

#このみ

「ナカミチ君、わかりにくいですよその言い方。でもそうですね。結局わたしもうまく言えませんが気にしてくれてるだけで十分ですよ」

#ナレーション

仲がよろしくてほっこり。

#ふうき

「そう?わかったよ。そうだね、じゃあ今日も頑張ろう!」

#このみ

「はい!頑張りましょう!」

#ナカミチ

「本番だからな。きっちり決めよう」

#ナレーション

今日は文化祭用に割り当てられた教室での集合だ。ナカミチ君はいつもと違う教室のドアを開ける。

#クラスメイト

「あ。みんなー。3人きたよー」

「みんな来てるぜ?ってあれナカミチとこのみさんはもしかしてキャリーバッグなかったのか?」

「他の10キロ組の奴らはキャリーバッグだぞ」

#ナレーション

教室の隅のほうにキャリーバッグが積まれている。まあそれより目につくのは机の上に置かれている作った商品を載せる為に用意した使い捨てトレーの山であるが。

#ふうき

「ほかの人たちには言ってないって思ってたからスマホで連絡してたんだー。……ほんとごめんね」

#このみ

「うぅ……。重かったですよー」

#ナカミチ

「俺だって……。重かった……。」

#ナレーション

2人ともよく頑張った。これからが本番だ。

#ふうき

「ナカミチ君は2人の豚肉を分けてみんなのキャリーバックに入れといてね。簡易的なクーラーボックスになってると思うし」

#ナカミチ

「わかったよ」

#このみ

「じゃあ我々はさっそくセッティングしますよ。予定通り2時間で仕上げましょうね」

#クラスメイト

「はーい」

「ほーい」

「ふーい」

#ナレーション

文化祭は1日開催。10時から16時までである。がんばるんだぞ。

 

 

#クラスメイト

「教室内のセッティング終わりましたー!」

「食材運ぶぞー!家庭科室に行くからなー!」

「うーい」

#このみ

「外観のレイアウトも完成しましたー」

#クラスメイト

「かわいくできたねー」

「メニュー表もわかりやすいし」

「種類があるからな。想定通りわかりやすくできてよかった」

#ナレーション

廊下の教室側の壁には上側に大きく洋風亭の文字が飾られている。店舗名だろうか、シンプルである。ドアと窓は取り外され教室の入り口片側が精算所になっている。窓から商品を渡すのだろう。カウンターのように窓の教室側に並べられた机にはトレーや割りばし類が見えている。

#ナレーション

カウンターの少し奥が調理場のようだ。机を並べて汚れないようにビニールシートがかけられている。さらに奥の廊下反対側の窓には机が積み重ねてある。学びの机が追いやられているというのは文化祭ならではということにしておこう。

#ナレーション

準備がひと段落したところを狙ったかのように。実際狙ったのだろう。くぜ先生がドアを開けて入ってきた。

#くぜ

「欠席者はいないようですね。文化祭で張り切りすぎてけがをするようなことはないように。ゴミ等の収集場所は文化祭終了後のホームルームで連絡します。なにか問題が発生したときは職員室まで来なさい。何か質問は」

#このみ

「今日は全日職員室にいらっしゃるんですか?」

#くぜ

「見回りを除けば職員室にいます。担任を受け持つ先生方は見回りおよび職員室での待機となっています。大変面倒な話です」

#ナカミチ

(なにもすることないんだろうな……)

#ナレーション

それはそれでつらい。普段の業務がたまっているとかそういうことはくぜ先生には無縁だろう。全部終わらせてやることがない。

#クラスメイト

「くぜ先生!お昼はうちで買っていってくださいね!」

「あ、ばか。言わなくていいことを」

「え?」

#くぜ

「先生が生徒に対して贔屓を行ったりはしません。いいですね」

#クラスメイト

「え?どういうこと?」

「担当のクラスだから優先して品物を買うとかはしないってことじゃない?」

「聖職者の鏡。こっちが心配してしまうぐらいに」

#ナレーション

教師とは大変であるなぁ。

#ふうき

「いやー、しっかりやってればいいんだよ。しっかりね」

#このみ

「そうですねー」

#クラスメイト

「え?どういうこと?」

「自分で考えてください」

「答えが出たら胸の内にしまっとけ」

#ナレーション

めんどくさいであるなぁ。

#くぜ

「ではしっかりやるように」

#ナレーション

くぜ先生でていかれる。

#このみ

「さーてはじまりますよー!」

#ナカミチ

「ふふっ。やる気いっぱいだな」

#クラスメイト

「ナカミチが……、ふふっ、って笑った……?」

「素直じゃないナカミチが……?」

「でも笑い方はどこかかっこつけてるよね」

#ふうき

「普段顔にも出ないからねー。ネネちゃんの笑顔より見かけないよね。無表情」

#ネネ

「急に引き合いに出さないでくれますか?」

#さいか

「もうちょっと普段から表情がわかるといいんだけどね……。」

#ミサキ

「そうだよねー!」

#ナレーション

まったくである。解説側の身にもなってほしい。

#ナカミチ

「いま俺の話するときか?」

#このみ

「違いますね。ですが原因はどこでしょうか」

#ナカミチ

「俺じゃないぞ」

#このみ

「みんなにはよほど笑顔をみないと思われているようですよ。……ん?」

#ナレーション

風紀さんが手をぐるぐるしている。

#このみ

「巻きでお願いしますということですかね?」

#ナレーション

よくわかったものである。つまり時間無いから急いで、ということである。

#ふうき

「そうだね」

#ナカミチ

「初めから口で言えば早いのにな」

#さいか

「着替えもありますからね……。」

#ミサキ

「ここは掛け声だよこのみちゃん!もりあげないと!」

#ネネ

「ミサキさんはもうちょっと落ち着いてください。普段の風紀さんみたいになってますよ」

#ふうき

「おっと、急に引き合いに出されちゃったよ。えへへー」

#クラスメイト

「収集つかねぇな」

「お前がナカミチの笑いに反応したからだろ」

「ナカミチ、何とかして」

#ナカミチ

「このみ、掛け声」

#このみ

「了解しました」

#ナレーション

始まるようである。

#このみ

「最終確認です。1回目の交代は12時です。おくれちゃだめですよ」

#クラスメイト

「了解」

「りょーかい」

「りょうかい」

#このみ

「では、今日この日のために準備してきたんです。しっかりやれば大丈夫です。うまくいきます。では……、ふぁいとー」

#全員

「おー!」

#ふうき

「よーし!がんばれー」

#ナカミチ

「おまえもがんばるんだ」

#ナレーション

がんばれー。

#このみ

「では、最初の担当者は着替えてー!」

#ナレーション

いつもの制服の上から男の子は紺色のベスト、女の子は赤色のロングスカートをはく。全員の前で脱いではいたんじゃないぞ。スカートの上からスカートをはいたのである。間違えないでね。間違えてイメージされるとあれですし。

 

 

#このみ

「ビラ配りに広報組その1行きますよー!」

#ミサキ

「私たちのその2も行くよー!」

#ナレーション

女の子たちはスカートに加え、各自用意した大きなワンポイントのアクセサリーもつけているようだ。わかりやすく文化祭の催しだとわかってもらえるだろう。

#ナカミチ

「プレートの電源つけるぞ」

#クラスメイト

「おう。食材、机に並べていくぜ」

「スープはとりあえず予定の10人前分つくるねー」

「ネギカットするぞー」

#ふうき

「レージーレージー」

#ナレーション

清算所であるレジのセッティングを整える風紀さん。横ではネネさんが手伝っている。レジは2人体制、カウンター3人、調理6人、先ほど出て行ったビラ配りが3人と4人グループである。

#ネネ

「レージーレージー」

#ナレーション

浮かれモードなのは全員であるが普段が冷静な子ほど際立って見える。風紀さんとネネちゃんは完全に笑顔である。接客にはもってこいのスマイルだ。忙しくなっても笑顔が大事だぞ。

#ナレーション

プレートが温まってきたところで放送が入る。文化祭開催のアナウンスだろう。

#生徒会長(放送)

「――ただいまより―――第24回――」

#ナレーション

校門の方から喧騒が聞こえてくる。入場が開始されたのだろう。

#ふうき

「広報組が出てるからここめがけてすぐに来るよ!焼き始めて!」

#ナカミチ

「了解!」

#クラスメイト

「解凍した焼きおにぎりプレートに並べるぞ!」

「コーンスープ温めてます!もうちょっとかかる!」

「来たぞ!」

#来場者

「わぁ、お肉のいいにおいしてるぞ!」

「お昼はここにする?」

「ひとまず候補としてはありだな」

#ふうき

「いらっしゃいませー」

#ネネ

「いらっしゃいませー」

#クラスメイト

「いらっしゃいませー」

「いらっしゃいませー」

「いらっしゃいませー」

#ナカミチ

(シュールだけど他に言う言葉ってないよな)

#ナレーション

「ある。北海道産の豚肉ですよ。とか。配っているビラにも強みとして押し出されている」

#来場者

「すいません、ビラをもらったんですけど。生姜焼きとビラの天かすトッピング無料で」

「あ、ここだ」

「生姜焼きに天かすとチーズで」

#クラスメイト

「すいませーん!まずあちらの精算所で支払いをお願いしますー!」

「チラシに記入されている天かすのクーポンをお持ちの方はレジにて提示お願いします!」

「よろしければ焼きおにぎりなどもご一緒にどうぞ!」

#ナレーション

広報組が配っているチラシには天かすトッピング無料のクーポンがついているらしい。チラシ自体はクレヨンで書かれたようなかすれているのに鮮やかなやさしい色彩である。

#ネネ

「注文はまずこちらのレジからお願いします!」

#ふうき

「はい!生姜焼きに天かす、チーズですね!チラシのクーポン切り取らせていただきます!合わせて400円です!はい!1000円からですね!お預かりします!」

#ナカミチ

(風紀さんはなんでもそつなくこなせるもんなぁ)

#ナレーション

うらやましがっているが彼も同類である。肝が据わっているのはそれだけで強くていいなと思う。風紀さんがチラシの右端のクーポンを切り取り、横からカウンター担当が注文が記入された小さなホワイトボードを受け取る。商品の名前が書かれた横にチェックマークがあり、注文された品を示しているようだ。

#クラスメイト

「ナカミチー、天かすとチーズー」

#ナカミチ

「了解」

#ナレーション

焼き上げている生姜焼きに天かすとチーズを絡め、温まったらトレーに乗せる。それをカウンター担当が運ぶ。1人前、約100グラム。

#クラスメイト

「お待たせしました!生姜焼きの天かす、チーズトッピングです!ありがとうございました!」

#ナレーション

品物がはけたらホワイトボードのチェックマークを消してレジに返す。次の注文を受け取る。品物が作られお客に渡し、注文のチェックを消して、レジで次の注文。以下リピート。

#ナレーション

注文が途切れないのはうれしい悲鳴であろうか。

#ナレーション

時は過ぎて12時前。11時ごろからお昼ご飯として購入する人たちが増えてきており、1人当たりの注文が多くうれしい悲鳴は悲鳴になりかけていた。顔の笑顔が引きつっている。風紀さんも笑顔が固定されているのでたぶん疲れてる。

#ふうき

「はい!焼きおにぎり2つにチーズトッピングの生姜焼き2つですね!1200円です!」

#ネネ

「はい…!焼き野菜スティックに生姜焼き!それとコーヒーですね……!600円です!」

#ナレーション

ネネさん疲れているのをなんとか持ちこたえている。笑顔は保たれている。凍り付いたような笑顔だが。

#クラスメイト

「ナカミチ、焼きおにぎりチーズトッピングに生姜焼き。2つづつ頼む」

#ナカミチ

「おい。混ざってんぞ。しっかりしてくれ」

#ナレーション

焼きおにぎりにトッピングは存在しない。チーズトッピングはあうかもしれないが。ちなみに焼きおにぎりは1つに2個入っている。

#くぜ

「生姜焼きにトッピング全部、あとコーヒーをお願いします」

#ネネ

「あ、先生!きてくださっ、むぐ!?」

#ナレーション

風紀さんに横から口を押えられるネネちゃん。

#ネネ

「し、失礼しました。生姜焼きに天かす、チーズ、ネギのトッピングにコーヒーですね!合わせて600円です!」

#ナレーション

ここまでくるとめんど、いや融通がきかないというか。

#くぜ

「……まぁ話し込んでも邪魔になりますからね」

#ナレーション

少しぐらいは話したかったのかもしれない。もしくはここまで徹底されるとは思わなかったのか。店員としては正しいあり方ゆえ何も言えないのかもしれない。もしかしたらさみしいのかもしれない。

#クラスメイト

「くぜ先生!おまたせしました!生姜焼きの天かす、チーズ、ネギトッピングになります!」とコーヒーになります!砂糖とミルクが必要でしたら横の机に置いてありますので!ありがとうございました!」

#くぜ

「ありがとうございます。では」

#ナレーション

くぜ先生帰る。

#このみ

「あ、くぜ先生ー。見回りですね。ありがとうございます」

#ナレーション

しかし道はふさがれた。

#ミサキ

「あ、生姜焼きだ!わーい!先生ありがとう!」

#クラスメイト(広報組)

「頑張ったからな」

11月だってのに汗かくぐらいな」

「さ、さすがにこれ以上はね。っていうぐらいにはやったよね」

#くぜ

「おいしそうでしたから買っただけです。皆さんよく頑張ってますね」

#ナレーション

広報も引き上げてきたようだ。ついでに追加の食材を家庭科室から持ってきたようだ。

#クラスメイト

「交代の時間だ。戻ってきたぞ」

「なかなかに忙しそうだな」

「これは大変だ」

#ナカミチ

「各自で担当と変わっていってくれ!」

#このみ

「おっと、次は3時交代です!12時から大変だと思いますがお願いしますね!」

#ナレーション

10時から12時と3時から4時担当、12時から3時担当の2グループ体制のようである。

 

 

#ナレーション

で、10分後。

#ナカミチ

(……1人で文化祭か)

#ナレーション

ナカミチ君は1人で文化祭を回っていた。こうなった原因は大体全員がナカミチ君は風紀さんとこのみちゃんと回るんだろうなという謎の思い込みがあったからである。決して男子友達がいないわけではないと思われる。思う。思いたい。

#ナレーション

事実、一緒に回ろうぜとナカミチ君は友人に誘っていたのだ。返事の言葉は、え?いや、なんだ、その、お前ほかに回る奴いるんだろ?おれはちょっと巻き込まれたくないじゃなくて、まぁまた今度な!というものだった。

#ナレーション

ナカミチ君これですべてさとる。以降誘うのは無駄だとわかったのでやめた。

#ナカミチ

(いつも一緒にいるわけじゃないんだけどな)

#ナレーション

よくいうなぁといったところである。学校にいる間だいたいつるんでいる。いや、失礼。絡まれているというのに。

#ナカミチ

(ラーメンうまかったな)

#ナレーション

お昼はラーメンの屋台だった。さすがに生姜焼きのにおいをかぎ続けてなお生姜焼きを食べる気にはならなかったらしい。

#ナカミチ

(商品に手を付けないって決めたしな)

#ナレーション

そういう取り決めもあったらしい。すべて商品ということか。

#ナカミチ

(……)

#ナレーション

ナカミチ君やることがない。お昼も食べ終えた。やりたいことは終わってしまった。

#ナカミチ

(ステージ見に行ってもなぁ)

#ナレーション

乗り気ではないらしい。1人で見に行ってもというところもあるだろう。1人でアトラクション系の出し物に行くのはもっと乗り気ではない。

#ナレーション

ぶらぶらと歩いていると研究発表の場所についた。3年生の出し物である。学年ごとに発表場所が固まっている。

#このみ

「おや?ナカミチ君じゃないですか」

#ふうき

「ナカミチ君も見に来たのー?」

#ナレーション

女の子5人グループである。このみちゃん、風紀ちゃん、さいかちゃん、ネネちゃん、ミサキちゃんである。

#ネネ

「……というかナカミチ君1人ですか?」

#ミサキ

「1人なの?」

#ナカミチ

「まぁな」

#ナレーション

クールに決めた。

#ナカミチ

「行くところあるからじゃあな」

#ナレーション

立ち去ろうとする。

#このみ

「待ってくださいよ」

#ふうき

「待てー」

#ナカミチ

「つかむな」

#ナレーション

モテモテで困るね。厄介ごとの気配からは逃げられない。

#さいか

「用事があるって言ってますし引き止めたらだめですよ?」

#ネネ

「ナカミチ君、本当にあるんですか?」

#ミサキ

「いやいや、ネネちゃん。そこ聞いちゃダメでしょ」

#このみ

「ないんじゃないですか?」

#ふうき

「ないよ」

#ナカミチ

「……ない」

#ふうき

「やっぱりねー」

#このみ

「えぇ!あるって言ってたじゃないですか!信じていたのに!裏切られました!」

#ナカミチ

「はじめっから信じてなかっただろ……。わるかったよ」

#ネネ

「ないような気はしてましたがなんでそんなウソを?」

#ミサキ

「いやー、それはわかる気がするなー。はずかしかったんじゃないの?」

#さいか

「1人ぼっちに見られたくなかったんですね」

#ミサキ

「いやいや!それはナカミチ君に失礼でしょ!」

#さいか

「えっ!?ご、ごめんなさい。私基準で話してました」

#ネネ

「ど、どう反応すれば」

#ナカミチ

「話を戻せ。俺が逃げようとしたのは女子の中にいるのが気まずかったからだ」

#ミサキ

「そうだよね!そう思ってたよ」

#このみ

「うっわー。自意識過剰ー」

#ふうき

「うわー」

#ミサキ

「ふつうのことだと思うんだけど……。」

#ネネ

「ああ、つまりこのままだとみんなで回ろうということになり男子1人に女子5人というグループになると」

#さいか

「周りからどういう風にみられちゃうかということですね……。すみませんでした」

#ナカミチ

「いいよべつに。じゃあな」

#ナレーション

ナカミチ君が去ろうとする。彼が本当に1人ぼっちにみられるのが恥ずかしくなかったのかはわからない。だが信じてあげよう。

#このみ

「待ってくださいよ」

#ふうき

「待てー」

#ナカミチ

「つかむな」

#ナレーション

まだなにかあるようだ。

#ナカミチ

「まだなにかあるのか」

#このみ

「あるっていうかー」

#ふうき

「聞きたいことがあるんだよねー」

#ネネ

「ナカミチ君が追い詰められている気がします」

#さいか

「いつものことじゃ……。」

#ミサキ

「周りから見てるとナカミチ君巻き込まれているように見えて騒動の中心にいる感じがいつもするんだけどね」

#ナカミチ

「まきこまれてるんだよ」

#ナレーション

譲れない一線らしい。

#このみ

「そもそも私と風紀さんはナカミチ君と回ろうと思ってたんですよ」

#ふうき

「回ろうと思ったらすでに教室にいなくて2人で回ってたんだよね」

#ナカミチ

「今5人じゃないか」

#ミサキ

「2人で回ってたから声をかけて一緒に回ろうってことになったんだよ」

#ネネ

「トボトボ歩いてましたし、寂しそうにこっち見てましたから」

#さいか

「こっちのことを見つけてからトボトボ歩き始めたんだけどね……。」

#ナレーション

話しかけてというアピールだったらしい。

#このみ

「一緒に行きましょーよ」

#ふうき

「ねー。せっかくなのにねー」

#ナカミチ

「なにがせっかくなんだ」

#このみ

「いや、言ったじゃないですか。使えるときに使うって」

#ふうき

「ねー」

#ナカミチ

「……朝のことか」

#このみ

「やっぱりわかってたんですね!」

#ふうき

「聞きたかったのはそこだったんだよー!」

#ネネ

「さすがにこちらにもわかるよう話してほしいんですが」

#ふうき

「いやー、朝にナカミチ君と遊んでたんだけどね」

#ナカミチ

(遊ばれていたんだとは言いたくないがその言い方には賛成できない)

#このみ

「決してナカミチ君で遊んでたわけじゃないんですよ」

#ナレーション

わざわざ自分から言うとは恐れ入る。

#ネネ

「あなた方はナカミチ君にたまにはあやまるべきでは……?」

#さいか

「ナカミチ君が強く言わないですし、本心では受け入れてるんだと思ってますが……。」

#ミサキ

「やっぱりさいかちゃんもそう思う?私も同意見」

#ネネ

「受け入れているところは否定しませんけども」

#ナカミチ

「本人に意見を聞けばいいと思うんだが」

#ネネ

「本心が出るとは思えないんで」

#ナカミチ

「もうちょっと手加減してほしいんだがな」

#さいか

「それ受け入れてますよ?自覚できています?」

#ナカミチ

「……うん?」

#ナレーション

ナカミチ君もなかなか変人らしい。知っていたが。

#このみ

「で、話し戻すんですがね。いつも通り無茶させちゃったんですよ。ごめんなさい」

#ふうき

「で、無茶させちゃったからナカミチ君もうダメかもって言ったんだ。ごめんなさい」

#このみ

「だから私は使えるときに使うかーって言ったんですよ。すいません」

#ふうき

「文化祭一緒に回ろうっていうことだよねー。私は今日もよく使うかーって言ったんだっけ。すいません」

#さいか

「使えるときに使うって言葉のどこに一緒に回ろうって意味があったんですか……?」

#ナレーション

さいかさんとあと2人困惑である。解説側も困惑するレベルでわからない。

#ナカミチ

「あると思わないだろ。おれも思わない。さっきふたりが再度聞いてきたからあたりをつけてみたんだがそうだったらしい」

#このみ

「初めから気づいてたわけじゃなかったんですか。では仕方ありません」

#ふうき

「じゃあ許す」

#ナカミチ

「おこるぞ」

#ふうき

「ごめんなさい」

#このみ

「ごめんなさい」

#ミサキ

「でも気づかなかったとしてもなんで普段通り3人で行動してなかったの?別にそんなことしなくても一緒に回っているイメージだけど」

#ナレーション

たしかにそうである。ミサキちゃんが言ったようにクラスのイメージは3人いつも一緒である。ナカミチ君が男友達を誘った時も3人で回ると初めから思われていた。

#ふうき

「!ミサキちゃんナイス!」

#このみ

「あちゃー。自分たちでややこしくして見失っていた部分ですね。結局ナカミチ君が私たち2人と回るのを避けていたというのはほぼ確定です」

#ネネ

「私たちは大体おんなじ時間に休憩に入りましたからね。2、3分待ってれば一緒に回れるはずです」

#さいか

「ナカミチ君……。逃げた?」

#ナレーション

一緒に回ることになりそうだからさっさと教室を出た。これがどうやら真相らしい。

#ナカミチ

「……。」

#このみ

「理由は?」

#ふうき

「おんなじでしょ」

#ミサキ

「あぁ、女の子2人に男の子1人で回るのはねー」

#ネネ

「今更という感じですがね」

#さいか

「私たちはまぁそう思うけど他クラスの人たちからも今日はよく見られるしね……。」

#ナカミチ

「……まぁそういうことだ」

#さいか

「ナカミチ君……。」

#ナカミチ

「うっ……。わ、わるかったよ。一緒に回ろうとしてたのはわかってました。ごめんなさい」

#このみ

「ひどいねー」

#ふうき

「ねー」

#ネネ

「ねーじゃないです!あなた方3人ともわかりづらすぎます!」

#このみ

「ご、ごめんなさい」

#ふうき

「ごめんなさい」

#ナカミチ

「ごめんなさい」

#ナレーション

あやまってばっかりである。結局、似た者どおしの3人であるのだ。

#ミサキ

「まぁナカミチ君もいろいろ気にするところはあるだろうけど1人でいちゃつまんないよ?6人で回ろうよ」

#ナカミチ

「い、いや。だれか他を探すから」

#ネネ

「そういう言い方をされるのもあまりいい気はしないんですが」

#ナカミチ

「う、すまない」

#このみ

「……?なんかいつもとノリが違いますね」

#ふうき

「大体ほかの人たちから断られた結果1人で回ってるんじゃないの?原因が言っちゃって申し訳ないとは思ってたりしてないけど」

#さいか

「うぅ……、確かにこの3人で回るところに自ら入ろうとする方はなかなかいないでしょうね……。でもいつものナカミチ君ならたしかに折れるというか妥協するはずです」

#ナレーション

いなかった結果1人で回っていたのであるし。しかしいつもに比べてナカミチ君が片意地っぽいらしい。さすがクラスメイトである。

#ナカミチ

「いや、女の子のほうがうわさされたりするのは嫌だろう。うちのクラス内は別としてほかのクラスには勘違いするやつも、」

#ふうき

「今更うちのクラスが他クラスの目を気にしても」

#このみ

「まったくです。さ、あきらめて行きましょう」

#ナカミチ

「わ、わかった。わかったから引っ張るな」

#ナレーション

今日はよく引っ張られるな。

#ナカミチ

「行くって言ってたがどこか目的地があるのか?」

#さいか

「このみちゃんのお姉さん、生徒会長さんの作品を見に行くんですよ」

#ナカミチ

「ああ、研究発表か」

#このみ

「姉さん頑張ってましたからねー。妹としては見に行かないと妹じゃありません」

#ふうき

「うんうん。妹の鏡だね」

#ナカミチ

「いや、よくわからないが」

#ネネ

「意味はなんとなくわかりますが、よくわかりませんね」

#ミサキ

「意味だけ分かればいい事もあるでしょ」

#さいか

「そうなんですか……?」

#ナレーション

さぁ?

#このみ

「ほら行きますよ!」

#ナレーション

横の教室に入っていくこのみちゃん。

#ナカミチ

「ここかよ」

#ナレーション

近かった。ぞろぞろと入っていく。

#ナカミチ

(着いて行くか……)

#ナレーション

1人で回るよりは有意義であるというのはよくわかる。1人で回っていたからこそそう思った。片意地張らない方がいいだろう。ナカミチ君も教室に入ろうとしたところで教室の反対側の出入り口から生徒会長が出てくる。

#生徒会長

「ん?」

#ナカミチ

「あ、どうも」

#生徒会長

「あなたはこのみのクラスメイト……ナカミチさんでしたね。いつもこのみがお世話になっております。あとあの時は本当にすみませんでした……。」

#ナレーション

生徒会長である。

#ナカミチ

「いや、あの時の事は気にしていませんから……。」

#ナレーション

いろいろあった始業式。

#生徒会長

「このみが学校を楽しんでいるのはあなたたち、クラスの皆さんのおかげだと思っています。本当にありがとうございます」

#ナカミチ

「毎日学校に来てますもんね」

#生徒会長

「朝学校に行く時は文句言ってますけどね。ですが、形だけなのは見ていたらわかります」

#ナカミチ

「まぁ顔に出やすいですよね。……会長は妹さんをうちのクラスに入れる事不安ではなかったのですか?」

#ナレーション

いろいろ問題はあるだろうがそういうふうに言うもんじゃないよ。ナカミチ君。

#生徒会長

「……体育大会の事を言っているのですよね。あれは、そうですね……。」

#ナレーション

会長さんが何か言い淀んでいるようである。同時に出入り口が割と勢いよく開け放たれる。

#このみ

「……あ、いました。なにして、あれ?姉さん?」

#生徒会長

「このみ。あまり乱暴にドアを開けないように」

#このみ

「怒られました。ナカミチ君のせいです」

#ナカミチ

「なぜ」

#生徒会長

「このみ?」

#このみ

「うぅ……、ごめんなさい」

#ナレーション

だがナカミチ君のせいである。なぜってこのみちゃんがそういうんだからそうなのであろう。

#生徒会長

「このみの声が聞こえたので教室から出たのですが入れ違いだったようですね」

#ナレーション

教室内は展示用のプレートで互いの出入り口が見えないようだ。おそらく仕切りのようになっているのだろう。まだ入ってないけどそうだ。この状況がそうだといってる。信じるべき。

#このみ

「ナカミチ君、姉さんと話してたんですか?いったい何を話していたのやら」

#ナカミチ

「朝、学校へ行く時このみが文句言うから迎えにこいと言われた」

#このみ

「なあ!?」

#ナレーション

ナカミチ君がおかしくなった。

#生徒会長

「毎朝ですからね。毎日文句言いますから」

#このみ

「ぐぬぬ!わかってますよ!じょーくでしょう!これだから高スペックの人種は!」

#ナレーション

なぜかこういう時にジョークを言うのがすごいというか。

#生徒会長

「ジョークだと分かっているなら綺麗に受け流してみなさい」

#このみ

「ナカミチ君だって普段は受け流せていませんし!」

#ナカミチ

「そうでもないだろ」

#ナレーション

そうだっけ?

#ふうき

「そうだっけ?」

#ナレーション

一番受け流す人が来た。

#生徒会長

「あなたは、風紀さんでしたか」

#ふうき

「どうもどうも。生徒としては生徒会長の次に学内で有名な風紀ちゃんです。このみちゃんにはいつもお世話になっております」

#生徒会長

「いえ。このみがたのしそうに学校生活をおくれているようで大変感謝してます」

#ふうき

「それはどうもどうも。恐縮です。3割から5割はそこのナカミチ君のおかげだと思いますが」

#ナカミチ

(そう思ってくれているのか)

#ナレーション

社交辞令じゃないと思う。

#ふうき

「使い勝手ばつぐん」

#ナカミチ

(……)

#ナレーション

なかなかの評価である。社交辞令じゃないのはまちがいない。

#生徒会長

「なるほど。それでこちらにはこのみの付き添いで来てくださったのですね」

#ふうき

「それも確かにあるのですけどー、生徒会長の研究発表はみんな気になっているんじゃないでしょうかね。まだちらっと見ただけですが一般化へのアプローチは一番好感のあるテーマです。研究は最終的に社会に貢献してこそだと思いますよ」

#生徒会長

「そうですか。ありがとうございます。ですが生徒たちにとっては屋台やステージの方が盛り上がっている事はみればわかりますよ」

#ふうき

「それらも生徒会長の尽力がないとはとても思えませんが」

#生徒会長

「ふふっ。ありがとうございます。ところでそちらの方々は?」

#ナレーション

遠巻きに見つめる3人の女の子。気になるその目線の先はもちろん話し込んでいるナカミチ君たち。たちである。

#このみ

「姉さんのファンです。熱い目線ですね」

#生徒会長

「違いますよね?」

#ナカミチ

「一緒に回っているクラスメイトたちです」

#生徒会長

「なるほど。6人とはなかなか大人数で回ってますね……。」

#生徒会長

「……ナカミチさん。このみに強引にグループに入れられましたか?」

#このみ

「いえ。女の子5人グループに後から潜り込んできたオオカミさんです」

#ナカミチ

「強引とまでは言いませんよ。1人で回っているところに声をかけてくれました」

#ナレーション

どうも結局1人で回っているのはさみしかったらしい。まぁそりゃそうである。

#生徒会長

「やれやれ。ご迷惑をおかけしている……とは思わないでおきましょう。これからもこのみのことお願いします」

#このみ

「ぐうぅ。アウェーです!2対1です!というより堅物2人で息があいすぎです!ぐぬぬぅ!」

#ナレーション

風紀さんは身内以外にはおとなしめであるし。風紀さんに限った事でもないが、このみちゃんもお姉さんじゃなかったらここまでぶっとばしていない。

#生徒会長

「誰が堅物ですか、まったく」

#ふうき

「いやー。全然話し方や性格が違うのに話しているとこのみちゃんのお姉さんだって納得できるなー」

#ナカミチ

「そうか?しかし言われてみると芯が同じというか、なんだろうな」

#このみ

「お姉ちゃんにも私みたいな時期がありましたからね」

#ふうき

「へぇー」

#生徒会長

「さらっとうそを言わない。あと自分を蔑んでますよ、その言い方だと」

#ふうき

「しってたー」

#ナカミチ

(一瞬信じて想像してしまった)

#ナレーション

なんというか刺激の強そうな想像である。いろんな意味はないが。

#生徒会長

「あ、いや。そうではなくて。3人お待たせしてしまっているということを言いたかったんです」

#このみ

「あっ」

#ふうき

「うっ」

#ナカミチ

(じっとこっち見てるぞ)

#生徒会長

「すいません。話し込んでしまって」

#ナレーション

会長が3人の方に少し歩み寄り会話の輪を広げる。熟練の技といえるかもしれない。

#さいか

「い、いえいえ!ぜんぜんです!」

#ネネ

「不安といえば不安でした」

#ミサキ

「ナカミチ君たちが普段3人で話している時って10分でも20分でも話し込んでいる事をよく見かけるからね……。」

#生徒会長

「せっかく来ていただけたんですし、よければ展示作品について説明させていただきます。さあどうぞ」

#ナレーション

自然と教室へ移動を促す。生徒会長自ら自分のクラスの展示を説明してくれるようだ。

#ふうき

「いやいや、生徒会長はお忙しいのではないですか?他の学生に比べたら自由な時間もすくないでしょう。いいんでしょうか?」

#ナレーション

なんか真面目。

#生徒会長

「やりたいからやっている事ですよ」

#ナレーション

強い。

#さいか

「さすが正統派生徒会長です……。」

#ミサキ

「正道の生徒会長じゃなかった?」

#ネネ

「本人の前で変な名前を呼ばないように」

#生徒会長

「皆さんが変なあだ名で呼んでくださってるのは知っています。ほめてくださっているのでありがたくはあるのですが、まぁその呼び名はやめてほしいですね」

#このみ

「へんなネーミングセンスですねー」

#ナカミチ

(俺の記憶違いじゃなかったら……)

#ふうき

「……。」

#ナレーション

どうもナカミチ君には最初に言い始めた人物に心当たりがあるらしい。おそらく自信満々に、そして良かれと思って言い始めたに違いないとナカミチ君は予想していた。

#生徒会長

「それに文化祭が終われば務めさせていただいた生徒会長の肩書きも次の方へお渡しすることになります。それに実はあまり肩書きで呼び止められるのは好きではないんですよ。わがままかもしれませんが」

#ふうき

「ふふふ。このみちゃんと同じだね」

#さいか

「たしか委員長と呼ぶのはやめてほしいって言ってた気がします」

#生徒会長

「ふふっ。そうでしたか。……、」

#ナカミチ

「じゃあ、」

#生徒会長

「えっ!!?このみ、委員長やっているんですか!!!」

#ナカミチ

「えっ?」

#ふうき

「あ」

#ネネ

「え?」

#さいか

「あ、これは……。」

#ミサキ

「言ってなかったの!?このみちゃん!?」

#このみ

「じゃあ、まあ生徒会長ではなく下の名前で呼ぶ事にしましょう。ひよりさんという感じで。ですよね、ナカミチ君」

#ナカミチ

「いや、下の名前で呼んでもいいですかと許可取ろうとしたんだよ!しましょうとは言うわけないだろう……。」

#ひよりさん

「そもそもひよりって誰ですか!私の下の名前はともみです!!」

#ナレーション

ともみさんである。断じてひよりさんではないようだ。修正修正。

#ふうき

「このみちゃん追い詰められすぎるときわどい事しだすよね」

#ともみ

「姉として久しぶりにしっかり怒らないといけません」

#このみ

「あわわ。やってしまいました。ナカミチ君助けてください。どうせナカミチ君の事ですからお姉ちゃんの下の名前憶えてたんでしょう?やだやだ」

#ナカミチ

「なぜ今の会話で助けてくれると思えるんだ?」

#ふうき

「さすがだねー。ナカミチ君」

#ミサキ

「え?本当に憶えてたの?」

#ネネ

「確かに生徒会長ですから行事等で名前が呼ばれる事が多々ありますし、私も聞き憶えはありますが……」

#さいか

「確かに私も憶えていますが憶えている方がナカミチ君としては自然な気がするのが何とも言えないよ……。」

#ともみ

「名前を覚えておく事は大事ですよ。自分が相手に対して興味があるということをわかってもらえますからね。本当に大事なことですよ」

#ナレーション

相手が名前を覚えていないからといって自分に興味をもってないんだとは思わないように。

#ナカミチ

「いえ、真面目にお答えしていただかなくても……。あとこのみはお渡しします。僕たちは先に展示を見させていただきますから」

#ふうき

「それで聞きたい事が出てきたらともみさんにお聞きしますね!」

#ネネ

「そうですね。聞く前に見るのがマナーですね」

#ミサキ

「じゃあいこっか」

#さいか

「あはは……。まぁそうするしかないかな……。」

#このみ

「いやー!待ってください!そうするしかないとか私そういうの嫌いですよー!……私も見ますー」(てくてく)

#ナレーション

このみちゃん平静を装いながらついていこうとする。

#ともみ

「待ちなさい」

#このみ

「わーん!お姉ちゃん、服を掴まないでー!」

#ナレーション

もうナカミチ君の中に1人の時のたいくつはなかった。思い返すと平穏と呼べたかもしれないがどこか感じていた少しのつらさはなかった。

#このみ

「うぅー」

#ともみ

「まったく」

#ナレーション

少しのつらさは怒られているここにあるのかもしれない。まぁこれはいいか。

 

 

#ナレーション

お時間飛びまして3時40分。

#ナレーション

ナカミチ君たちが再び店員を始めてから40分。最後のスパートである。

#ふうき

「はい!生姜焼きに天かす、チーズですね!合わせて450円です!はい!ちょうどお預かりします!」

#クラスメイト

「ナカミチ、天かすとチーズ」

#ナカミチ

「了解」

#ミサキ

「スープは次がラスト!コーヒーは後4杯!」

#ナカミチ

(コーヒーが予想以上に売れたな)

#ナレーション

ナカミチ君の勝手な予想ではあるがおそらく風紀さんはコーヒーを余るぐらいに仕入れていたと思っていた。コーヒーメーカーを稼働させてしまえばあとは入れるだけの手間だ。これで利益が生姜焼きと同じぐらい。一杯50円程度の利益である。

#ナレーション

生姜焼きは客寄せの意味合いも持っているため利益幅を求めていなかった。まぁ原価がかかるからね。安全第一。

#ナレーション

チラシももうなかった。10分程前にこのみが最後のひと束を持って行った。今頃はもうチラシもなく声1本で宣伝を行っていると思われる。

#ナカミチ

「できた」

#ナレーション

ほかほかのチーズ生姜焼き。天かすトッピングである。

#クラスメイト

「あいよ。お待たせしました!生姜焼きの天かす、チーズトッピングです!ありがとうございました!」

#ナカミチ

「生姜焼きは後30人前だ!チーズは10人前!天かすは最後までいける!」

#ナレーション

ねぎはもうない。焼きおにぎりはもともと遅くてもお昼過ぎには売り切れるぐらいしか仕入れてなかった。ご飯ものがどれだけ売れるか読みにくかったらしい。焼き野菜スティックは気づけばなくなっていた。野菜類は目立たずさくさく売れていき仕入れも少なめだったため最初に売り切れになった。

#ふうき

「わかったー!」

#ネネ

「了解です!」

#ナレーション

今から風紀さんとネネさんの頭の中では品物の残りがカウントされていく。互いの注文を把握しながらのレジ担当、最後の集中である。できるのだからすごい。もちろん在庫が無くなった瞬間連絡は入るのだが。

#ナカミチ

「だれか広報組を呼び戻しに行ってくれ!もうそろそろ売り切れるって伝えてくれ!」

#さいか

「私が行きます……!」

#ナレーション

品物が少なくなり調理担当がいちばん手が空いていた。特にさいかさんは仕込み担当である。準備することはこの終盤に置いてもうなく、片づけれる所から片づけて、掃除していたところだった。

#ナカミチ

「ああ!まかせた!」

#さいか

「……いってきますね!」

#ナレーション

さいかちゃんは強い口調で出て行った。文化祭ももう終わりが近づいてきたのだ。

 

 

#ナレーション

4時前。

#このみ

「完売しましたー!」

#クラスメイト

「よっしゃー!」

「やったー!」

「ばんざーい!」

#ナレーション

よろこばしい。一方、疲れ果ててぐでぐでの、プレートで調理していた調理班とレジ2人とカウンター組とこのみちゃんを除く広報組。お疲れ様です。1時間休憩だった前の調理班と最後は片づけをしていた仕込みの調理班は別にしてこのみちゃんのどこにそんな元気が残っているのか。

#ナカミチ

「う、うごくのがつらい」

#ふうき

「計算上は今日1日で1800人前回した」

#ネネ

「馬鹿じゃないですか?」

#ナレーション

頭おかしい。お肉換算で180kg消えた。改めていってもおかしい。

#ナレーション

せっかくである。簡単にであるが、もう少し計算してみよう。2グループに大きく分かれていたため1グループ900人担当。鉄板プレートで調理していたのは常に3人。1人300人担当、30キログラムのお肉を焼きあげる。カウンターは常に3人。1人300人担当、調理班から品物を受け取り、教室内を歩き回り、声を出してお客さんに品物を渡す。それを300回。レジ、2人体制。1人450人担当。450人に注文を取り、声を出し、勘定を計算し、おつりを返す。広報。チラシは合計4000枚。それを2グループで15人が配る。1人約270枚担当。そして3時間の声出し。

#ナカミチ

「腕が、腕が」

#ふうき

「腰が、腰が」

#ネネ

「頭が、頭が」

#クラスメイト

「腕」

「足」

「喉」

#ナレーション

そりゃこうなる。腰はよくわからない。清算の時に中腰にでもなっていたのだろうか。

#ナカミチ

「腰って何だよ……。」

#ふうき

「テキトウに言った……。」

#ナレーション

テキトウだった。

#ナレーション

そんなことをやっていると放送が流れ始める。終幕である。

#ともみ(放送)

「ただいまを持ちまして―――第24回――」

#このみ

「あ!お姉ちゃんの放送です!いやー!おわっちゃいましたね!」

#ナレーション

元気である。

#ナカミチ

「なんであんなに元気なんだ、このみは」

#ふうき

「わ、若さ」

#ネネ

「こちらがふけているみたいな言い方やめてください……。」

#ナレーション

放送が終わると同時に教室のドアが開く。くぜ先生だ。

#くぜ

「ホームルームを始めます。全員揃っていますね。全員その場で構いません」

#ふうき

「はい」

#ナレーション

ぐでーっと風紀さん。

#くぜ

「……いちおう立ってください」

#ふうき

「はい!」

#ナレーション

ぴしっと立つ。直立不動である。

#くぜ

「廃材、生ゴミ等の収集場所を連絡します。後は片づけが終わり次第教室をロックして委員長が鍵を持ってくるように」

#このみ

「了解しました!」

#ナレーション

片付けまでがお祭りである。毎日がお祭り騒ぎのクラスではあるが。

 

 

#ナレーション

まずは文化祭の衣装から普段の制服へと着替える。普段というものが戻ろうとしている。お祭りは終わり、その片付けが進む。今は念入りに雑巾がけをしているところである。

#ふうき

「よいしょっと」

#このみ

「あれ?風紀さん。それは……脱臭剤ですか?」

#ナカミチ

「なるほど。準備いいな」

#ふうき

「ふふふーん。やっぱり他クラスを使わせてもらったんだからね!においは消しとかないとね!」

#ナレーション

業務用強力脱臭剤と書かれた円筒の品を教卓に2つ置く風紀さん。

#ふうき

「教卓に置くとちょっとアピールになっちゃうけどちゃんと気を使いましたよってわかってもらわないと!」

#ナカミチ

「うん。大事なことだな」

#このみ

「……気が回らなかったです。すいませんね風紀さん」

#ふうき

「いやー!気がつく女の子ってアピールしたかったから最初からだまってたんだ!」

#ナカミチ

「……。」

#このみ

「……。」

#ナレーション

本当にアピールしたかったらそれも黙ってりゃいいのに。どうもネタキャラっぷりをアピールしたいらしい。

#ナカミチ

「よく気がつくな風紀さんは」

#このみ

「できる女の子ですね」

#ふうき

「むぐぅ」

#ナレーション

いじられかたに不満があるらしい。

#ふうき

「まあこれで明日1日休みも挟まるし明後日の朝には教室は、」

#このみ

「きれいさっぱり無臭ですね!」

#ふうき

「ばっちり塩素のにおいが蔓延してるよ。ふひひ」

#ナレーション

消毒のにおい。病院のにおい。

#このみ

「ばっちり!」

#ナカミチ

「さ、掃除終わるぞ」

#クラスメイト

「おつかれー」

「もうごみないよね?ゴミ袋持って行くよ?」

「雑巾まとめて洗ってくるから渡してくれー」

#ナレーション

こうして文化祭は無事閉幕した。最終的に売り上げは1266450円。74万円の集金を引きつつ、使わなかったお金をあわせて527520円の利益、1人当たり1万4257円の労働対価だった。

#ネネ

11円余りました」

#このみ

「どうしましょうかね?」

#ナカミチ

「募金箱に入れるか?」

#ふうき

「じゃあ森林募金に」

#ナレーション

これが文化祭の最後の出来事だった。これで文化祭が中心に起きた出来事の一部始終である。

 

 

#ナレーション

ところが2学期終業式を週末に控えた月曜日から終業式まで、ちょっとだけ文化祭発端の出来事がおこるのである。

#ナカミチ

(ん?)

#ナレーション

その日は静かな日であった。風紀さんとこのみちゃんはいつも通りではあったがどこか落ち着いた雰囲気が流れていた。そんな中、ナカミチ君は机の中に入れた覚えのない形のものが入っていることに気づいたのだった。取り出して机の上に置く。

#ナカミチ

(なんだこれは……)

#ナレーション

白い封筒であった。いわゆる洋封筒と呼ばれる……ラブレター?

#ナカミチ

「。」

#ナレーション

唖然とする。ナカミチ君もその可能性に気が付いたようであるが。いや、でもどうであろう?どうか?白封筒とはラブレターらしからぬ。いや、しかし清潔な感じで。ううん?いや、おめでとう?

#このみ

「え?ナカミチ君。なんですかそれ」

#ナカミチ

「机の中に……。」

#ふうき

「なにー?」

#ナレーション

なにかあったの?という感じでいつも通り風紀さんが混じる。

#ふうき

「?封筒?え?でも?いや、どうなんだろ?」

#このみ

「ど、どうするんですか!それ!」

#ナカミチ

「いや!どうするもなにも!何の封筒か知らないし!」

#クラスメイト

「なんかまた騒いでるよ」

「いつもどおりだな」

「やれやれ。なんだなんだ?」

#ナレーション

ぞろぞろと集まってくるクラスメイト。

#ふうき

「……?」

#このみ

「だれからですか!?」

#ナカミチ

「え?いや!見せるわけないだろう!」

#さいか

「見せびらかすように机の上に置いてそれは……。」

#ネネ

「デリカシーないですねナカミチ君」

#ナカミチ

「机の中に知らないものが入ってるって感じたら出して確認するだろ!」

#ナレーション

まあそうではある。でも悪いことしたのではないだろうか。認めなさい。

#クラスメイト

「誰からなのか気になるな」

「ナカミチに春か」

12月。クリスマス前に春たぁうらやましい」

#ナレーション

祝福の言葉。ナカミチ君は愛されています。

#ミサキ

「で!?だれなの!?」

#ナカミチ

「いうわけないだろ!」

#このみ

「あっ!逃げた!」

 

#ナレーション

そういいながら出ていくナカミチ君。廊下で封筒を開け確認する。誰からだろうか。

 

#ナレーション

すぐに教室に戻ってくるナカミチ君。

#このみ

「あ、あれ?思ったより早く帰ってきましたね」

#ふうき

10秒は絶対たってないよ。で?その封筒何だったの?」

#ナレーション

もはやラブレターとはかけらも思っていないらしい風紀さんである。

#ナカミチ

「ほら。このみも見ろ」

#このみ

「なんか高圧的ですね。何なんでしょうか……。」

#ふうき

「とりあえず読んでみよっか」

#このみ

「うーんと。なになに……。」

#ふうき

「えーっと。なになに……。」

#ナレーション

風紀さんとこのみちゃんがのぞき込む

#このみ

「招待状……?」

#

招待状。このみさん、なかみちくん、ふうきさんへ。先の文化祭の大成功をお祝いいたしまして、終業式後に祝賀パーティーを行います。つきましてはぜひお三方の出席をお待ちしております。クラス一同。

#ふうき

「はあはあ、なるほどねぇ」

#このみ

「これは、もしかしてあれですか。ねぎらいというやつ」

#ナカミチ

「そうだとおもうんだがな」

#さいか

「そうですよ。このみちゃん、ナカミチ君、風紀さんには特に文化祭動いていただきましたから」

#ネネ

「お三方にはご招待という形にしました」

#ナレーション

つまり来賓。おそらく参加費をクラスメイトが出し合ってくれるのだろう。

#ふうき

「うぅ……。ありがとう。頑張ったかいがあったよ。ご祝儀袋はいくら包んだらいいかな……?」

#ネネ

「いりません」

#クラスメイト

「来てくれるってことでいいよな?」

「全員参加になるな」

「よかった」

#ナカミチ

「まだ何も言ってないが」

#このみ

「行きますよね?」

#ナカミチ

「いや、もちろん参加させてもらうが」

#ミサキ

「これでオッケー!さ、場所の確保と料理の選定だね!」

#ネネ

「あと4日しかありません」

#ナレーション

もうちょっと早くなんとかならなかったのか。

#クラスメイト

「クリスマスも近いからクリスマス仕様になるぜ!」

「そもそもクリスマス会みたいなのをしようという話から広がったんだ」

「そうだな」

#ふうき

「なるほどねぇ。プレゼント交換でもする?」

#クラスメイト

「しない」

「やめとく」

「こわい」

#ふうき

「だれのプレゼントがこわいってー!」

#ナカミチ

「ところでなんで俺の机に手紙を入れたんだよ。ふつう委員長のこのみに渡すものじゃ……。」

#このみ

「私の机の引き出し、教科書でいっぱいですからね」

#ナカミチ

「そうだった」

#さいか

「あとはそのほうがおもしろいからという理由でした」

#ナカミチ

「やっぱりそういうことか」

#このみ

「女の子は繊細ですから」

#ナカミチ

「男だって繊細だからな……。」

#さいか

「ナカミチ君は今までの実績に基づいた信頼が」

#ナカミチ

「いらない」

#ナレーション

いらなかった。

 

 

#ナレーション

日時は流れ、終業式。朝の靴箱前。

#このみ

「寒い」

#ナカミチ

「そうだな」

#このみ

「寒いですー」

#ともみ

「このみ、そういった文句を言ってはいけません。はしたないですよ」

#このみ

「では姉さんにひっつきましょう」

#ともみ

「シャキッとしなさいといってるんです。ひっつかない!」

#ふうき

「何してんの?」

#ナカミチ

「あぁ、風紀さんおはよう。あれならおしくらまんじゅうみたいなことだな」

#ふうき

「うん、おはよう!今回は余裕あるね」

#ナカミチ

「ともみさんがこのみの対応してくれるからな」

#ナレーション

ともみさんは生徒会長の任期が終わり、朝、このみとともに姉妹で登校する姿をよく見かけるようになった。

#このみ

「あぁ風紀さん。おはようございます。おしくらまんじゅうしましょう」

#ともみ

「やめなさい。風紀さんおはようございます」

#ふうき

「おはようございます!ほらこのみちゃん。教室はあったかいだろうし早く行こう!」

#このみ

「うぅ。風紀さんは姉さんの味方することが多いです」

#ふうき

「別にそんなつもりはないんだけどね……。」

#ナレーション

二人仲良く教室へ向かう。

#ナカミチ

「では俺も行きますんで」

#ともみ

「ナカミチさん。少しだけよろしいですか」

#ナカミチ

「もちろんです」

#ナレーション

予鈴のチャイムまであと少しである。それでも話しておきたいことがあるのだろう。というよりともみさんに呼び止められて止まらない理由はない。優先事項だ。

#ともみ

「文化祭の時に答えそびれて、いえ、答えられなかったことです」

#ナカミチ

「1学期の体育大会ですか」

#ともみ

「……私はあれが一番公平な状態だったと思います」

#ナカミチ

「もうしないって風紀さんは言ってました。安心してください」

#ともみ

「そうですね。ずるはしてはいけません。もし相手がしていたとしてもこっちが同じ土俵にあがる必要はありません」

#ナカミチ

「すみません。何もせず負けるのがどうも……。」

#ともみ

「本当はこっちがあやまらないといけないはずなんです。公平な運営ができていなかったのですから」

#ナカミチ

「ともみさん」

#ともみ

「すいません。いいすぎました。とにかく、私はあなた方のクラス、機械科に好感を持っています。……そろそろ時間ですね」

#ナカミチ

「ありがとうございます。急ぎましょうか」

#ナレーション

それぞれの教室へと向かう。今日もそれなりに忙しい1日になるはずだ。

 

 

#ナレーション

終業式も終わりパーティー会場。2時間会場を借りたようだ。机には出前のピザ、中華、フライドチキンにお菓子。なんとも高カロリー。若さ若さ。

#ふうき

「いやー!おいしいねー。しかしこれからどうしよっかなー」

#ナレーション

自前のパーティーハットをかぶって存分に楽しんでいる風紀さんである。

#ナカミチ

「なにかするのか?」

#ふうき

「いや、来年の話。あ、2年生の話ではなく3学期おとなしくしてよっかなって。あー、でも2年生になってからの事も含めよっかな」

#ナカミチ

「もしかして2学期おとなしくしてたって言ってるのか?」

#ふうき

「うん。初日と文化祭以外はおとなしくしたでしょ?」

#ナカミチ

「十分だろ」

#ふうき

「まぁ実際あれ以上やるポテンシャルはないよ。無理」

#ナカミチ

「あれ以上やられたらついていけないからな」

#ふうき

「いや、本当にあれ以上無理だからね?」

#ナレーション

ほんとうであろうか。

#ナカミチ

「……風紀さんは普通科に編入とかしないのか?」

#ふうき

「怒る」

#ナカミチ

「ごめん。しないよな」

#ふうき

「あたりまえだよ。いやだから。ここにいるし」

#ナレーション

スクリーンに大きく映し出されたゲーム画面を見ながらつぶやく。前のほうではクラスメイト達がテレビゲームで盛り上がっているようだ。一番はしゃいでいるのはこのみちゃんであろうか。

#ふうき

「……もしかしたら、1学期の最初なら、……編入しようとか思ってたかもね」

#ナカミチ

「そうか」

#ナレーション

風紀さんテレビゲームをやっているほうに走っていく。

#ふうき

「わーい!わたしもやるー!」

#ナカミチ

(俺はアナログゲームにまぜてもらおうかな……)

#さいか

「ナカミチ君」

#ナカミチ

「さいかさんか、どうしたんだ」

#さいか

「いえ。2学期ももう終わりですから。心配してらっしゃらなかったみたいですし。これはぜひ。お伝えしとかないといけないな。って思いましたから……。」

#ナカミチ

「さいかさん。やめておいたらどうだ」

#さいか

「ううん。ナカミチ君に聞いておいてもらわないとこわいから。わたしはね。このみちゃんになにかしようとか。じゃましようとか。台無しにしようとか。思わなかった。嫌いじゃないの。あの委員長とちがって。嫌いじゃなかった。だからなにもしないよ……。」

#ナカミチ

(やっぱりあれはわざとなのか……さいかさん)

#ナレーション

あの日。あの体育大会。機械を使って勝とうとしたこのクラス、機械科は普通科と接戦をくりひろげていた。

#さいか

「細工したりしない。来年も。約束する」

#ナレーション

彼女は細工したのだ。台無しにして。邪魔するために。

#ナレーション

あの日、もとからあまりズルに乗り気じゃなかったネネさんの改造していた靴がいきなり発火した。ネネさんはしっかり作らなかったからこんなことになってしまった、みんなに迷惑をかけてしまったとあやまった。風紀さんに泣いて謝っていた。

#ナカミチ

(あの時、)

#ナレーション

あの時に一番困ったのは、いや、困るはずだったのは風紀さんである。なにかあったら私がみんなにやってって言ったことにしてね。と彼に言っていたから。だから彼はクラスメイトに、全員で逃げる。と応援中のクラスメイトに指示を出したのだ。

#ナカミチ

「……それでも全員クラスメイトだからな」

#さいか

「そう……。あいかわらずかっこつけるんだから。だれを大事にするか順位ぐらいつけとかないとひどいことになりますよ……?」

#ナカミチ

「なんだそれ。風紀さんのまねか?」

#さいか

「……もういい。とにかくこれからじゃましたりしませんから。文化祭の時ぐらいには協力するから、ナカミチ君。これからもだまっておいてくださいね」

#ナカミチ

「風紀さんが気付いてないと思うか?俺は気付いてないとは思えないんだが、聞いてはいないけどな」

#さいか

「それはどうでもいい。じゃあまた3学期に。それじゃあ失礼しますね……。」

#ナカミチ

「まってくれ、来年以降もこのクラスにいてくれるよな」

#さいか

「……もちろんです。今さら普通科は興味すら湧きません。……それでは」

#ナカミチ

(……ふう)

#ナカミチ

(おれもひどいことしてるんだろうな)

#ナレーション

ナカミチ君は思っていた。さいかさんの言うとおりだろう。贔屓とは言わないまでも区別ぐらいするべきではあるのかもしれない。さいかさんを非難すればあの時ネネさんは困らずに済んだだろう。

#ナレーション

風紀さんはクラス全員に対して口頭による注意が行われたあの時、つらそうな顔でにらんできた。すぐにあやまってきたが彼女の望みは罪をかぶることだった。いや、もしかしたら彼が犯人をかばっている事をわかっていたのかもしれない。

#ナレーション

それでも彼はクラスの全員がかわらず過ごしていけるように動いた。黙っていた。結果は風紀さんが委員長さんから風紀さんに変わった。あとはクラスの評判が悪くなったがクラスの仲は良くなったのだ。

#ナレーション

しかし、しかしそれでも彼はあの時、風紀さんのサポートをする副委員長だったのだ。他に、本来とるべき行動はなかったのだろうか。

#このみ

「あはー。ナカミチ君、5連勝してやりましたよ」

#ナレーション

このみちゃんがのんびりとやってくる。さっきまで上機嫌でテレビゲームで遊んでいたのだ。

#ナカミチ

「ああ。さっき風紀さんに負けたな」

#このみ

「いや、だってキャラ性能を見抜かれてしまったんですもん!あればっかりは相性です!」

#ナカミチ

「それをくつがえしたんだったら自慢できるかも知れんが」

#ナレーション

だいたい5連勝で自慢するのもどうなのか。無傷で勝ってたというわけでもないであろうし。

#このみ

「ま、キャラ性能によって相性が出ても楽しいゲームってのはそうあるものじゃありません。あれこそパーティーゲームというやつです」

#ナカミチ

「賛否ありそうな発言だな」

#このみ

「それにようやく冬休みですからね。これから1人用ゲームをあそびつづけますから今日は大人数で遊ぶゲームができて満足です」

#ナカミチ

「ふーん。おれはこれからアナログゲームするんだが一緒に行くか?」

#このみ

「アナログは専門外ですがもちろん好きなので付き合いましょう。ですがその前にお聞きしたいことがあるんです」

#ナカミチ

「そうか」

#ナレーション

今日は朝から同じ話題が多い。3学期が始まってしまえばすぐに2年生になるだろう。だからだろうか。2学期最後の日、みんな大小あれど過去を清算したがっている。

#このみ

「1学期何があったのか聞いておきたいんです。教えてくれますか?」

#ナレーション

やはり体育祭のことであった。

#ナカミチ

「ああ。……もちろん」

#ナレーション

みんな進んでいく。このみちゃんもナカミチ君も全員が。

#ナレーション

結局、彼はさいかちゃんのことは話さなかった。

 

#ナレーション

いわゆる宴もたけなわ、終了10分前。テーブルにはアナログゲームで盛り上がってる人たち。最終決戦であるようだ。ナカミチ君と風紀さんがゲームに残ってる。

#ふうき

「これで逆転勝利!完成したプラチナシステムによるシステムハックだよ!これで買収をしかける!さぁ勢力変動による大損害表をくらえ!あ、これサイコロ。さぁ!振り給え!」

#ナレーション

01から100までのイベント表である。風紀さんが言う大損害表であるがほとんどがえらいことがかかれている。内部抗争やら不渡りやら大事故やらなんやら。100に近いほど被害が大きい。おそらくなんとかシステムとかいうのができた時点で勝ちなのであろう。どんな世界観のゲームなのか皆目見当がつかない。

#ナレーション

ナカミチ君、ダイスロール。

#ナカミチ

「うわ、01

#ナレーション

クリティカル。出した本人がうわとか言ってる。申し訳ない気持ちがあるんだろう。

#このみ

「システムが反乱を起こす。双方、カッコ振った側も再度カッコ閉じ、大損害表を振る。ですって」

#さいか

「1時間やった結末がこれなんですね……。」

#ネネ

「ま、まあ振り終えるまでどうなるかわからないですよ」

#ふうき

「な、なんで裏切ったの。ひ、ひどい。もうちょっとでロマンあふれる勝利だったのに。普通に勝つより難しいのに。ナ、ナカミチ君のせいだー!」

#ナカミチ

「と、時の運だから」

#ふうき

「むぐぐ!」

#このみ

「素直に決着させてあげないのがナカミチ君らしいというか。はい、風紀さん。予備の10面ダイス2個です」

#ふうき

「ぬぐぐー!よいしょっと!」

#ナカミチ

「い、いくぞ」

#ナレーション

双方ダイスロール。7679

#このみ

「2人仲良くおんなじイベントですね。主力商品に意図せぬ問題が発覚、リコール案件に。これにより銀行からの貸し渋り、貸しはがしの催促が発生、会社がまともに動かない。500億円を失う。とのことです」

#ナレーション

最終結果。ナカミチ君マイナス48億円。風紀ちゃんマイナス124億円。双方破産。勝者なし。

#ふうき

「くそげー!」

#ナカミチ

「ひどい結末だ……。」

#さいか

「こういうと失礼なのはわかってるのですけど……、なんかすごく、らしい、終わり方といいますか……。」

#クラスメイト

「2人が争うと最終的に焦土になる感じというのはわかるが」

「いや、言いたいことわかるぜ。おれもそう思うわ」

「これからも協力してください。周りのために」

#ナレーション

信頼されているということだと思う。

#ミサキ

「みんなー。そろそろ解散の時間だよー」

#このみ

「そうですかー。あっという間に過ぎちゃうものですねぇ。まぁ、まずゴミをまとめましょうか。ゴミは指定の場所に捨ててきます」

#ふうき

「よいしょー!はい。まとまったよ」

#ナレーション

プラスチックとそれ以外を分けるだけの仕事である。そもそも食べ終わってたので一瞬である。

#このみ

「じゃ、すててきます。あとおねがいしますね」

#ナレーション

このみちゃん部屋を出る。

#クラスメイト

「じゃあゲーム機かたづけるわ」

「ゲームは持ち主が片付けてほかの人で机とか元の形に戻すか」

「それでいこう」

#ナレーション

机を直す人、床をはく人、ゲーム機を学校のカバンにしまう人。学校から直行したのだ、学校のカバンに入れて持って帰るのはおかしくない。持ってきたときも学校のカバンに入っていた。いつから入っていたかは知らない。

#ナレーション

まぁそもそも寄り道が校則違反であるが。

 

#ふうき

「じゃあ全部終わったしこのみちゃん締めのあいさつとかある?」

#このみ

「本日はお呼びいただいてありがとうございました。つきましては感謝の意を260行ほどつづらせていただきましたのでこれから朗読致します」

#ナカミチ

「解散!」

#クラスメイト

「おつかれー」

「お疲れ様したー」

「よいお年をー」

#ナレーション

みんな帰っていく。さいかちゃんやネネちゃん達はダッシュで帰っていった。おそらく塾があるのにぎりぎりまでいたのだろう。

#このみ

「嵐の後の静けさですねー」

#ナカミチ

「じゃ、俺も帰るからな」

#このみ

「今の私の発言を聞いてなお帰りますか」

#ふうき

「ひどいねー」

#ナカミチ

「さみしけりゃそういえばいいだろ。それでも帰るけどな」

#ふうき

「ひどいねー」

#このみ

「ですねー」

#ナカミチ

「帰る」

#ふうき

「私たちも帰ろっか」

#このみ

「そうですね。帰りましょう」

#ナカミチ

「ちゃんと年明け学校来いよ」

#このみ

「おもしろいゲームをクリアできてたら行きます」

#ふうき

「宿題もちゃんとやってきてね」

#このみ

「冬休みは宿題少ないですからね。1日で十分終わります」

#ナレーション

やる、ではなく終わらせる、である。もっとやりたいことが他にあるのだから仕方がない。

#ナカミチ

「休みが続くからって風呂入らずにゲームとかやめろよ?」

#このみ

「いきなりのセクハラ。そう見えます?」

#ふうき

「……少し」

#このみ

「なあっ……!」

#ナレーション

これには乙女心ブレイクハート。

#このみ

「入ってますよ!?入ってますからね!??私!!」

#ナカミチ

「ご、ごめん。ごめんなさい」

#ふうき

「ごめんなさい。じょ、じょーくだったんだけど傷つけちゃったね……。」

#このみ

「い、いえ。取り乱してしまいました。どうもあわてると真に受ける癖があるみたいで。あ、私帰り道こっちです」

#ナカミチ

「おれはあっちだな」

#ふうき

「私はそっちー」

#このみ

「ではまた来年」

#ナカミチ

「ああ。じゃあな」

#ふうき

「じゃあねー」

 

#ナレーション

帰り道が分かれ、それぞれ帰っていく。冬休み。年末年始も過ぎてみんなでSNSのチャットにあけおめなんて書いたり。風紀さんが全員の宿題をチェック、監視したり。このみが家族旅行の写真貼ったり。めったにコメントしないナカミチ君をいかにコメントさせるかとかいうこともあったりしたり。

#ナレーション

休みの間、出不精になっているナカミチ君はこのみより外に出てないかもしれないと思ったりしたりしなかったりしながら冬休みが過ぎていった。

#ナレーション

そして今日は3学期の始業式である―――

 

#ナレーション

朝、6時55分。

#ナレーション

三学期の始まり。

いつも通りの通学路である。

#ナレーション

冷たくて心地よい空気が風になり、存在感を増し、肌が痛いほどに冷たい冷気になる。

#ナカミチ

「寒い」

#ナレーション

口から意識せずでてくる言葉。しかしどうする事も出来ない。学生は歩くしかないのだ。

#ナレーション

彼は何もなく家にこもれた冬休みに思いをはせるしかなかった。カムバックウインターバケーションである。

#ナレーション

いよいよ寒さで体がやられ始めるぞと彼が思った時、目の前をすっと影が横切った。

 

#ナレーション

彼はほぼ反射的に何の影かと空を見上げてみる。

#ナカミチ

(うわ、あれは体に毒だ)

#ナレーション

空には箒に乗って飛ぶ女性が見える。我らが担任のくぜ先生だろう。

この寒く、冷たく、肌の痛みを感じる登校の数倍は寒く、冷たく、肌が痛そうな軽快な箒の飛ばしようである。

#ナカミチ

(見てない見てない。)

#ナレーション

見るだけで芯まで冷えてしまいそうだとで結論づけ目線を戻す。

 

#ナカミチ

(しかし、ただ歩いているだけだとと寒さが体の底まで迫ってくる)

#ナレーション

しかし他にすることもない。学校に着けば教室は暖房も聞いているだろうと未来に思いをはせることしかできない。

#ナレーション

通学路もだいぶ歩き、後2、3分というところだろう。

#

――――――シャァァァァアアア――――――

#ナレーション

後ろから自転車の音が聞こえる。

#ましろ

「おはようナカミチ君」

#ナカミチ

「おはよう」

#ナレーション

後ろから来た自転車に乗った人物が声をかけて、

#ナレーション

そしてそれだけのあいさつを交わし通り過ぎていく。

#ナレーション

そして少し先でもう一度振り返るのが見えた。

#

―――シャアアアアア!!―――

#みしろ

「まってよー!ましろ姉ぇー!」

#ナレーション

びゅーん。

#ナレーション

後ろから勢いよく自転車が通り過ぎた。みしろである。幼少のころこそ遊んでいたがもう2か月以上まともに話していない間柄である。

#ナレーション

この2か月が1年、2年、5年、10年になるのだ。

#ナカミチ

(そういうもんだよな)

#ナレーション

過ぎ去りし幼少を振り返るにはいささか若いが、憶えている思い出は誰にとっても意味のある物である。

#ナレーション

たぶんであるが。

#ナカミチ

(それでいいんだよな)

#ナレーション

疎遠になっていくことがそれでいいのかはわからない。ただ深い縁は多く持てない。道が分かれた過去の縁が今の縁より大事なものであるか。ただ、今は過去より大事である。

#ナレーション

たぶんであるが。

#ナレーション

過去は今の為に。経験にしたいものである。

#ナレーション

まぁ、できたら苦労しないのであるが。歴史に学べないから同じ過ちを繰り返すのである。自分の経験ぐらいは生かしたいが。

#ナレーション

まぁ、無理である。できたら苦労しない。

 

#ナレーション

有意義なのか無意味なのか無かった方がいいのか分からない通学にも終わりが見えてきた。

そう、校門を視覚認識したのだ。

#ナカミチ

(よくわからないが本格的に寒さがこたえてきた感じがする)

#ナレーション

学校の門の前だというのに静かである。それは考えてみればそうである。始業式の、それもホームルームが始まる1時間以上前である。

#ナカミチ

(タクシーは止まらないよな)

#ナレーション

2学期の始業式はさわがしかった。いや、別にうるさくはなかったはずだ。良くも悪くもわがままな女の子の一言一言が印象に残っているから騒がしい思い出になっている。

#ナレーション

ところでこの男の子はあのわがまま女の子に朝から会えるかと期待したわけではあるまいな。

#ナレーション

わくわくして1時間以上前に登校したのかと思うと優しい目で見守ってあげたいでそうろう。ええい。不審者みたいな目で見るな。見守るのは大人にだけできる特権であるぞ。別にナレーションに老いも若いもないのであるが。

#ナカミチ

(学校に入るか)

#ナレーション

道路側に目を向ける必要がないのであれば目は必然的に門に向かう。そして門には大きく学校の名前が飾られている。

#ナカミチ

(また今日から騒がしくなるんだろうな)

#ナレーション

日本国立魔術研究特殊高等学校。その学校の名前に彼は気を留める様子はなかった。

 

 

#ナレーション

日本国立魔術研究特殊高等学校。今年で創立されて四半世紀である。いまだ実のある成果はあげられていない。

#ナレーション

そもそも魔術がアメリカで見つかったのが100年ほど前。今年西暦2040年。世界はいまだ魔術に意味を持たせられていない。どの国も魔術を理解出来ていない。

#ナレーション

理解できないから無限の可能性を感じたのも過去の話。魔法を使える人は法則性が一切なく生まれる。使えるのは1代限りで親から子に遺伝しているとは見られていない。

そして使い方は使える人が使いたいと思うだけ。100年たっても魔法に発展性が見えない。だれでも使えるようにするための一般化の研究は机上の空論すら仮説の仮設という感じだ。

#ナレーション

いまだ物珍しさによって好意的に受け入れられているものの化学の発展を妨げたというのが事実であり魔術に費やした研究費用を科学に費やしていれば10年は未来に進めていたというのが世間の一般的な印象なのである。

#ナレーション

以上、完璧なナレーションであった。この学校については今後もう少し詳しい解説がされる事もあるだろう。流れによっては解説する必要もないかもしれないが。

 

#ナレーション

場所はうつりかわり、下駄箱前である。われらがナカミチ君は靴を履き替え教室に向かう所である。

#ましろ

「あっ」

#ナカミチ

「うん?」

#ナレーション

ばったりとましろちゃんとであうナカミチ君。考えるに自転車を指定個所におきに行っている時間がナカミチ君の到着時間と重なったのだろう。

#みしろ

「ましろ姉さーん。おまたせー。ん?」

#ナカミチ

「じゃあな」

#ナレーション

ナカミチ君、教室に行こうとする。とどまっていた所でなにを話せばいいのか。

#ナレーション

なにも話す事がなくてもしゃべるような。しゃべり合えるような。そんな間柄ではないのだ。

#ましろ

「あっ、ナカミチ君……!」

#ナカミチ

(えっ?)

#みしろ

「えっ?……。姉さん……。」

#ナレーション

呼び止められるような事はないはずだ。2か月前に話したこと自体かなりあの時は不思議だったのだ。なぜ?ナカミチ君は考えるが答えなど出ない。呼びとめられればふり返り。止まるしかない。

#ナカミチ

「なにかあったかな?ましろさん」

#ましろ

「……。ううん。その。なんでも、」

#みしろ

「ずいぶん他人行儀に話すね。私としゃべった時そんなふうにしゃべって無かったじゃん」

#ナカミチ

「……。」

#ましろ

「……。」

#ナカミチ

「そういうもんだろ。長い事しゃべって無かったんだからな」

#みしろ

「ふーん。姉さんには丁寧に話して私には砕けて話してたんだ。べつにいいんだけどね。どっちがいいのか私もよくわかんないし」

#ナレーション

丁寧に扱われた方がいいのか対等に居たいのか人それぞれ。場合にもよる。

#ナカミチ

(風紀さんはさんづけ。このみはそのまま。2学期にも同じような事があったのにな)

#ナレーション

まぁ、過去は活かせないのが常である。頑張りたまえ。

#ナレーション

そんなことより女の子の目の前で別の女の子の事を考えていていいのか。そこを気付いてほしい。

#みしろ

「あー。もう。…ましろ姉さん。姉さんの言いたい事はわかったから私が言おうか?」

#ナカミチ

「いや。ましろから直接聞くからいい」

#みしろ

「……。うわさ通りかっこつけてるみたいね」

#ナカミチ

「いや、うわさどおりって」

#ましろ

「私たちと遊んでた時も助けてくれたよね。私たちだけって訳じゃないけど」

#ナカミチ

「そう、だったかな」

#ナレーション

憶えていない。照れくさい限りである。

#みしろ

「姉さん。思い出を美化しすぎじゃない?」

#ナカミチ

「……。」

#ましろ

「うーん。まぁそうかもしれない」

#ナカミチ

「……。」

#ましろ

「だけどその時は助けても素知らぬ顔をしてたというか自分が何かやってたって言う所を一切見せなかった。……ナカミチ君。今の方がいいと思うよ」

#ナカミチ

「そりゃ、まぁ、その、どうも」

#ナレーション

憶えている。

#

「誰かの為に何かしたんだったら、その子に、助けた子にわかってもらわないとナカミチ君も、してもらった子も、さみしい思いをするよ」

#ナレーション

昔、一昔前にそんなことを言われた彼はどうする事も出来なかった。生き方を変えることなんて小さな子にはむずかしすぎた。それでも彼女は言わないといけなかったと思っているから言ったのだろう。ナカミチ君。言われた彼はわかっている。なぜ言われたのか。

#ナレーション

だから彼は一歩引かなければならなかった。どうにもできない以上。後ずさりのように。昔の話。どうにもできなかったお話。縁は多く持てないのだから。

#ましろ

「あのね、ナカミチ君。……気をつけて」

#ナカミチ

「……。」

#みしろ

「文化祭……。やりすぎたかな。どうも。そりゃ文句言ってる奴らの方が間違ってるけど。間違ってるって言ってわかる奴なら初めからそういうことは言わないから」

#ましろ

「私たちは、ごめんね」

#ナカミチ

「わかってる……。」

#ナレーション

2人が、ましろちゃんが教科書を借りに来てみしろちゃんが返しに来たあの日から。

#ナレーション

彼女たちは他に借りれる相手がいない。忘れ物をしたという弱みも見せれない。

#みしろ

「……。」

#ましろ

「……。」

#ナレーション

ナカミチ君はいつもとすこしなにか、たたずまいだけが違うような。そんな雰囲気。

#ナレーション

もしかしたら。怒っているのかもしれない。

#ましろ

「うん。じゃあ私たち教室に向かうね。またね、ナカミチ君」

#ナカミチ

「ああ。またな」

#みしろ

「私も行くから。じゃあね」

#ナカミチ

「ああ。……またな」

#みしろ

「またね」

#ナレーション

去っていく2人。向かう方向は途中まで一緒のはずである。だが、分かれるタイミングが今だと言うならそれを尊重しよう。ただ立って待つだけである。

#ナカミチ

(そういえば。なんであいつらはこの時間帯に来てるんだ?)

#ナレーション

始業式の、それもホームルームが始まる1時間以上前である。用事もない学生が来るには早すぎる。だがそれを言うとナカミチ君もなぜこんなに早く来ているのか。だれか女の子に会いたいとかでナカミチ君が早く来たりするわけはないし。

#ナカミチ

(うちにはクラブ活動もないし……)

#ナレーション

全ての生徒には魔術に対しての向上と研究が推奨されている。クラブ活動はその推奨と反するため一般的には認められていない。当然、日本で学生に強制などできない。明確な理由を添えて強く押せば通る。というわけで実質通らないわけである。

#ナレーション

ところがこれを逆手に取ると。逆手というかは微妙だが、研究、能力向上も強制ではない。学校の為、国庫から吐き出されたお金はすべからく子供たちの為に。全てではないのだが。

#ナレーション

特に機械科。ナカミチ君達のクラスでは放課後に残って研究をするものはいない。魔術というものの特性が能力向上に相性が悪く。研究も機械科にとって相性が悪い。これも詳しくは後ほどかなぁ。

#ともみ

「―――。――――――!」

#ナカミチ

(あれ?この声は)

#ナレーション

声の方を振り返り、ふり返った事を後悔したほうがいいのか、いや、さすがにそれは失礼なのかと思いながらももう少し早く教室に向かえばよかったと思わずにはいられない。

#ナレーション

校舎前、下駄箱付近の入り口に凛々しくともみさんがいる。生徒会長の期間も終わり一般の生徒である。しかしその凛々しさ、誠実さは何も変わっていない。どうも生徒会長という役職すら名前負けしていたのかもしれない。

#ナレーション

その横にはそのなんもかんもが真反対のかわいらしい、ぐでーっとよりかかるこのみちゃんがいる。我がクラスの委員長だ。肩書きはこのみちゃんの前で砕け散っている気がする。

#ともみ

「―――。―――!」

#ナカミチ

(大変だなかいちょ、いや、ともみさんも)

#ナレーション

次は君の番である。

#このみ

「―――寒い」

#ナカミチ

(そうだな)

#ナレーション

未だ声が聞こえるような距離ではないが家からずっと思っている言葉だったからかスッと耳に入ってきた。校舎内とはいえ下駄箱前は寒い。早く教室に向かうべきではあるが。

#このみ

「ああ、寒いです。――――、――――――と思いませんか」

#ともみ

「いい加減にしなさい!だからといって姉を湯たんぽ扱いするような妹がいますか!はなれなさい!怒っているのがわかりませんか!」

#このみ

「いやー。ぬくいですー」

#ナレーション

かいちょう、あ、いや、ともみさんが校舎のドアを開ける。冷たい風と共に声がよく聞こえるようになった。

#ナカミチ

(見て見ぬふりは、まずいよな)

#ナレーション

ともみさんには見られていないと思っていたのに見られていたことがあった。だからというわけでもないのだが。あのこのみちゃんを相手にするのは朝からしんどそうである。気乗りがびっくりするほどしない。

#このみ

「おやぁ?」

#ナレーション

気付いた。

#このみ

「うふふふふふふ」(手をふりふりしながら)

#ナレーション

手を大きく振ってきた。ロックオンである。撃墜されるしかない。

#ともみ

「ああ、これはナカミチさん。おはようございます」

#このみ

「おはようございますナカミチ君」

#ナカミチ

「おはようございます」

#ナレーション

2人に向かって挨拶するのだからともみさんへの返答が基準となり丁寧なあいさつになる。しかし、このみにおはようございますっていうのは違和感があるなぁ。と彼は思う。いつもならおはようだけである。どうもこのみちゃんのおはようございますは丁寧に感じないというか敬意が0というか。そういう感じ。

#ナカミチ

(かわりに親しみが感じられるが……)

#ナレーション

ナカミチ君はそんなあいさつが嫌じゃないようである。無理してる挨拶よりいいのかもしれない。

#このみ

「今日は寒いですねー。休みは旅行以外、全然家を出なかった私にはなんともきついですよ」

#ナレーション

ともみさんにもたれかかりながらぬくぬくとした顔でのたまっている。

#ともみ

「このみ!!」

#このみ

「はい。離れます」

#ナレーション

危機管理能力の高さ。これ以上はお説教に入りそうだという判断は経験によるものであろう。一朝一夕ではこうはいかないはずだ。

#ともみ

「だめです。帰ってからお説教です」

#このみ

「あれえ!?」

#ナレーション

姉と妹。わかりあえている。一朝一夕ではこうはいかない。妹のあさましい考えなど読めているらしい。根気よくお説教をしてあげてください。

#ナカミチ

(仲いいなぁ)

#ナレーション

そう見ておくべきだろう。

#このみ

「ナカミチ君、どうです、今晩うちでご夕食でも」

#ナカミチ

「いかない」

#ともみ

「このみ。あなた家に男の子をよぶつもりですか?」

#このみ

「あっ。いやいや!冗談ですよー。じょ、う、だ、ん。もちろん風紀さんにも声をかけましょう」

#ともみ

「……。」

#このみ

「じょ、冗談です。すみませんでした……。」

#ナカミチ

「いつもあやまってるな」

#このみ

「ぐうぅ……。」

#ともみ

「ほんとにもう。ところでナカミチさん、なぜこのような時間帯に来られているんでしょうか。このみも私が出る時間帯に合わせて家を出てきましたし」

#ともみ

「あぁ、おたずねする前に私の理由を先にお話しするべきですね。図書館で受験勉強をしようと思っているんです。冬休みも学校の図書館を使わせてもらっていたのでその延長です」

#ナレーション

朝から勉強。学生の鏡である。冬休みもこの時間帯からしっかり勉強していたのだろう。

#ナカミチ

「あれ?このみから聞いていないんですか?」

#ともみ

「……ええ。このみからは、そういう日もありますよ。としか答えてくれませんでした」

#このみ

「ははは……。」

#ナカミチ

「そうですか……。」

#ナレーション

盛大にやらかしてしまうナカミチ君。そもそも先に自分が早く学校に来た理由を述べるあたりともみさんは退路を断ってきている。

#ナレーション

ナカミチ君はこのみちゃんが学校に早く行く理由をすでに述べている(でっちあげている)と思ってそれに乗っかろう、違うことを言わないようにしようと訪ね返したわけだが、このみちゃん理由はないと説明していたらしい。

#ナレーション

で、ナカミチ君が、理由を聞いていないんですか。と聞いたため理由があることが表面化。大体予想がついていると思われるがナカミチ君達が早く来ている理由は褒められたものではない。受験勉強で朝早くから学校に来られている方の前ではその神々しさに溶けてしまいそうなぐらいしょうもない理由だろう。

#このみ

「いやー、姉さん。そろそろ図書館のほうに行かないと勉強しやすい席、取られちゃうんじゃないですか?」

#ナレーション

神々しさとか意にかえさない子には意味がないみたいだが。

#ともみ

「ここ下駄箱ですよね?」

#このみ

「……はい」

#ともみ

「さっきから誰も通っていませんね」

#ナレーション

登校時に全生徒が通る場所である。靴の履き替えをせずに図書館に行く理由がない。

#このみ

「……いやー、姉さんの勉強のお時間とらせてしまっては申し訳が立ちません。そろそろ行きましょうか」

#ともみ

「今更ですね」

#このみ

「……。」

#ナレーション

ぐぅの音も出なくなったこのみちゃん。登校時に散々もたれかかったりした人の発言ではあまりに説得力がない。

#このみ

「ナカミチ君。説明してください」

#ナレーション

まるなげ。

#ナカミチ

(考える時間を作ってくれたと考えとこう……)

#ナレーション

人が良すぎる。すっごいポジティブ思想である。

#ナカミチ

(じゃないとやってられない)

#ナレーション

おっしゃるとおりで。

#ナカミチ

「……他言無用でお願いします」

#ともみ

「それは内容によりますが。まあ余程のことでもなければ先生方に言ったりはしません。内容がひどい場合はまず私からこのみや後輩に注意しましょう」

#ナカミチ

(自分の時間を割いてまで説得してくれるんだもんなぁ。心が痛む)

#ナレーション

この先輩は本当にお優しい。このみちゃんはどうかというと優しい以上に自分に優しい。そして心が痛む優しい後輩のナカミチ君。

#ナカミチ

「魔道祭についてこのみと話そうとしてたんですよ」

#ともみ

「!―――魔道祭ですか」

#このみ

「実はそうなんですよね。……続きナカミチ君お願いします」

#ナレーション

もはや置物になっているこのみちゃん。

#ナカミチ

「2年生方がステージによるクラス成果発表。3年生方が個人研究発表。そして私たち1年生が成果披露」

#ともみ

「……私たち3年生は文化祭に発表したものをそのまま流用していますので参加しているとはいいがたいんですが。そして2年生はクラスでの研究発表と学外の方への舞台発表をします」

#ともみ

「そして1年生の成果披露。通称、クラス対抗戦。ナカミチさん。やめておくべきです」

#ナカミチ

「それはクラス内で決めます。俺はやるつもりです」

#このみ

「?」

#ナレーション

急なシリアスについていけないこのみちゃん。早朝に学校に来た理由をでっちあげるだけのつもりだったのですが。とでも思っているのだろうか。

#ともみ

「まず私はあの催し物自体、改善すべきところがあると思います。まず生徒自体が見世物になっています。そして競技、スポーツというにはあまりに公平さが保たれていません」

#ナカミチ

「……なるほど」

#ナレーション

そういう考え方をしたことはなかったと思いながらも彼の決意は変わらない。1年生成果披露。通称、クラス対抗戦。学校で日々行っている(としている)魔法訓練の成果を世間にお披露目する場である。魔道祭自体が世間に対しての学校の成果披露なのである。

#ともみ

「ですがそれは私の勝手な言い分です。ナカミチさんが魔道祭に本気で臨まれるというのは学校行事に真摯に取り組む生徒として褒められる行為でしょう」

#ナカミチ

「……はぁ」

#ナレーション

ナカミチ君なにか強烈に嫌な予感を感じているようだ。

#ともみ

「先に謝っておき……、いや。それこそ卑怯ですね」

#ともみ

「ナカミチさん、あなたのクラスは一度1学期の体育祭で注意を受けています。もう一度ルールに反したことを今度は外部の方、保護者の方が見られている前で行うつもりですか?そして、このみをそんなことに巻き込むつもりですか……?」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

よく考えなければいけない。たとえ間違った答えを出したところで、ともみさんにナカミチ君の行動を止めることはできない。今ともみさんが話したことは言ってしまえば邪推である。

#ナカミチ

(誠実さを答えなきゃ)

#ナレーション

求められているのは誠実さである。答え自体は単純である。ルールに則って行います、と言えばともみさんは信じるしかないし、信じるべきなのである。

#ナカミチ

「ルールに反したことは行いません」

#ともみ

「……そうですか、わかりました」

#ナカミチ

「そして、このみのご両親とともみさんにはこのみのクラスが勝つところをお見せいたします」

#ともみ

「……。」

#このみ

「いつもの癖が……。」

#ナレーション

かっこつける癖は彼にとって大事なものなのだろう。

#ともみ

「わかりました。両親と必ず観戦しに行きますね」

#ナカミチ

(よし、まぁ何とか納得してもらえたかな)

#ともみ

「その話をこのみにするために1時間前に学校へ着くのは不自然ですが、わかりました。納得しましょう」

#ナカミチ

(あれ?)

#ナレーション

始まりから積んでいたらしい。

#このみ

「それより高校生になって両親が観戦に来るのは恥ずかしいんですが」

#ともみ

「私が1年生の時、いけー。そこですー。おねぇちゃーん。と呼ばれ続けたことよりは恥ずかしくないと思いますが」

#このみ

「そういう突っ込み方は2人だけの時にしてください!」

#ナレーション

恥ずかしいらしい。

#ともみ

「ではこのみのことよろしくお願いしますね。私は靴を履き替えて図書館に向かいます」

#ナカミチ

「試験勉強、頑張ってください」

#このみ

「私がよろしくされることなどありませんね。姉さん。勉強頑張ってください」

#ともみ

「まったく。それではナカミチさん失礼します」

#ナレーション

去っていった。厄介ごとを残して。

#このみ

「まぁったくもぉ。私がナカミチ君に迷惑をかけると思っているのでしょうか。それにしても寒いですね。こんなところで立ち話なんてしてる暇なんてありませんよ」

#ナレーション

靴を履き替えながらぶつくさ言うこのみちゃん。あきれている顔のナカミチ君。

#このみ

「さ、行きましょう。私がまだ数学の宿題を終えていないのを知っているのはナカミチ君だけなんですからね」

#ナレーション

早く学校に来た理由が予想通り過ぎるお答えである。昨夜ナカミチ君にたすけてくださいという内容の連絡でもしたのだろう。これに付き合うナカミチ君は聖人君子か何かであろうか。

#このみ

「ふいー」

#ナカミチ

「も、た、れ、かかるな……!」

#このみ

「寒いので仕方ありません。ぬっくぬっく。ほら、行きましょう」

#ナレーション

もたれかかるにこにこ顔のこのみちゃん。だらーん。これがいつも通り。

#ともみ

「このみ?くれぐれもなか……、」

#このみ

「あっ」

#ナレーション

靴を履き替えたともみさん。2人の声が聞こえたのだろうか?再度1年生の靴箱の付近に現れる。ナカミチ君に迷惑をかけないようにとでもいいに来たのだろう。

#ともみ

「……こぉのぉみぃぃ!」

#ナレーション

怒っていらっしゃる。

#このみ

「ナカミチ君!逃げますよ!」

#ナカミチ

「俺が逃げる必要はなにもないぞ」

#ナレーション

そういいつつ後ろをついて走るナカミチ君。過度なやさしさではないだろうか。

#ナレーション

ともみさんは廊下を走ったりなされないのでもちろん逃げ切れる。このみちゃんは帰るまで平穏無事でいられることになった。帰った後は知らない。

 

#ナレーション

そして職員室前。

#このみ

「おはようございます」

#ナカミチ

「失礼します」

#ナレーション

二人とも職員室に入る。出頭ではない。教室のカギを取りに来たのだ。このみちゃんが言うには姉さんは荷物を持ったまま直接図書館に向かうはずだから職員室は安全地帯らしい。

 

#このみ

「おや。カギがありませんね」

#ナカミチ

「だれかもう来ているのかもしれないな」

#ナレーション

脳裏に浮かぶのは1学期の光景。クラスメイト全員もう学校についているんじゃないだろうなとナカミチ君が思ったのも無理はないだろう。

#このみ

「くぜ先生もいらっしゃいませんし、とりあえず教室に行ってみますか」

#ナカミチ

「この時間帯は、というかくぜ先生は研究室だろうなぁ」

#ナレーション

失礼しました、と言って職員室を後にする2人。

 

#ナカミチ

「おそらくもう、さいかさんが来てるんじゃないかな」

#このみ

「ああ!きっとそうです!いやー。2週間ぶりに会えますね」

#ナカミチ

(喜んでいるようで、いいことだな)

#ナレーション

2学期の初めには学校に行くよりゲームしているほうが有意義といっていた子が、まぁなんと成長したことか。これはなかなかうれしいことである。

 

#このみ

「おはようございまーす」

#ナカミチ

「おはよう」

#さいか

「あ、このみちゃん。ナカミチ君。おはようございます」

#ナレーション

教室に入るとさいかちゃんが宿題をやっていた。隣には風紀さんもいた。

#ふうき

「ふひひ。この時間帯に来るなんて、もしかして宿題をしていないのかなぁ?」

#ナカミチ

「してるぞ」

#このみ

「してませんよ」

#ふうき

「正直が一番!2人ともおはよう!ちなみに宿題殲滅シリーズはもうしないよ」

#このみ

「うぅ。悲しいです。派生シリーズしか体験していないわが身としてはってところです」

#ナカミチ

「宿題は基本自分でするもんだからな。さいかさん手伝おうか?」

#このみ

「うわー!ひどいですー!ひどいですー!」

#ナカミチ

「ひどくない。手助けするとして順番としては何も間違っていない」

#さいか

「もう少しで終わるから大丈夫だよ。お正月は祖父母のお家に帰省していたから、そのタイミングで宿題ができたの」

#ナカミチ

「さすがに帰省の時まで家庭教師とかの宿題は出なかったのか」

#さいか

「そうですね。ゆっくりしすぎちゃって宿題が残っちゃった」

#ナレーション

涙が出そう。教室に入ったこのみちゃんとナカミチ君はロッカーにコートをかけたり放り込んだりして戻る。

#ふうき

「いやー。みんなチャットに宿題達成のコメントするの見て安心したよ。……その、まぁ1人を除いて」

#このみ

「あと数学だけですから」

#ふうき

「あと30分もないけど大丈夫なの?」

#このみ

「あと8ページ。16問です」

#ふうき

「制裁のキックかな?」

#このみ

「なぜ!?」

#ふうき

「まぁ冗談は置いといて早くやろうね」

#このみ

「うぅ。やりますよぉ。ナカミチ君、宿題見せてください」

#ふうき

「終わる量でしょ?1人でやろうね」

#ナカミチ

「勘違いしているようだが俺は監視のために来たんだぞ。下手につきはなすとほかの人に頼る可能性もあるし」

#このみ

「あれ?」

#ナレーション

衝撃。ナカミチ君、敵だった。

#ナカミチ

「ところで風紀さんはなんでこんな早くから?」

#ふうき

「うん。このままだと魔道祭でうちのクラスが1組と戦うことになるからどうしようかって話をしようと思ってね。今日はナカミチ君は早く来ると思ったからちょうどいいなーって」

#ナレーション

ナカミチ君とこのみちゃんの行動まるばれである。

#ふうき

「2人より早く来て驚かせようとしたんだけど思いのほか遅くてこっちが驚いちゃった」

#このみ

「あれ?もしかしてこのまま放置?ふ、風紀さん。そういう話はまず委員長の私に、」

#ふうき

「委員長は忙しそうだから副委員長のナカミチ君に話を聞こうと思って」

#このみ

「うぅ。ごめんなさい。ごめんなさい。宿題します……。」

#さいか

「ちょっときついんじゃ……。」

#ナカミチ

「きつくないきつくない。風紀さん冬休みに10回ぐらいこのみに連絡入れてる」

#ふうき

「あれ?このみちゃんに個人チャットで連絡したんだけど何で知ってるの?」

#ナカミチ

「昨日このみがチャットで泣きついてきたときに忠告を聞いとくべきでしたとか何とか、なんか語ってた」

#このみ

「なんかじゃないですー……。宿題漬けで話をしないとやってられなかったんですー」

#ナレーション

自業自得である。ナカミチ君がとばっちりを受けたようだ。

#ナカミチ

「しかし1組か。……ちょうどいいな」

#ふうき

「うん?ちょうどいい?」

#ナレーション

ナカミチ君のつぶやきに不思議そうな顔をする風紀さんだった。

 

 

 

#このみ

「えー。魔道祭についての連絡です」

#ナレーション

ホームルームが終わり、始業式の開始まであと20分。ホームルームは宿題回収も含めて5分もかからなかった。このみちゃんの宿題も提出できる形には出来たようだ。4問ぐらい空白に近いが。

#ナレーション

くぜ先生はいつも通りさっさと教室を出て行き、教卓の前にはこのみちゃんとナカミチ君の2人。

#クラスメイト

「魔道祭?」

「まだなんの話も出てないじゃん」

「くぜ先生の連絡より前に話す必要があるのか……。あんまりくぜ先生に迷惑かけたくないというかやり合うのが怖いという」

#ナカミチ

「いや、くぜ先生相手に何かやるわけじゃない。そして俺もやり合いたくない」

#ふうき

「ナカミチ君の場合は発端にかかわりがないのに解決に首突っ込むからやり合うことになってるだけだよ。わかっててやってるんでしょ?文句言わない」

#ナカミチ

「……。」

#このみ

「副委員長のナカミチ君がぐうの音も出せなくなったので私がお話しするとですねー、」

#このみ

「よく考えたら私も詳しい事知らないじゃん」

#クラスメイト

「……。」

#このみ

「い、いや!なぜか1組とうちのクラスが戦うことになりそうだと聞いてはいるんですよ!なんでそんな話になっているのかがさっぱりわかってないだけです!」

#クラスメイト

「つまりほとんど知らない、と」

「1組?何で1組が機械科と戦うんだ?1組なら2組とかと対戦するはずだろう」

「そして機械科は7組とかと対戦だな。魔力の力が近いものどうしで戦うのが普通じゃないか。まぁそれでもこっちが不利だが……。」

#ナカミチ

「それがなぁ……。文化祭でうちのクラスが客を持って行ったとか言われているんだよ」

#ふうき

「ちなみに今回の文化祭、総来場者数はだいたい7000人と発表されてたね」

#クラスメイト

「日本唯一の魔法学校というネームバリューにしては少ないような多いような」

「生徒数は約1000人だから十分な人数だろ」

「来場者数は年々減ってるらしいがな」

#このみ

「うぅ……。子供たちが魔法に興味を持てない時代なんですね。この学校に身を置く私たちとしては悲しい限りです」

#クラスメイト

「いや、俺たちみたいに魔法を使えるほうが魔法に意味を見いだせないというか」

「おとなしく科学の発展に従事するべきというか」

「くぜ先生のようにすごい人がへたにいるからそうはならないというか」

#ネネ

「話がずれてますが」

#このみ

「おっと、ありがとうございます。そうですね。結論から言わないといけません。えーっと。えーっと。……ナカミチ君、おねがいしますね」

#ナレーション

まるなげ。

#ナカミチ

「そもそも模擬店で客の取り合いをしたのがいいのか悪いのかで言えば、悪くない。としか言えない。いろんな人に聞いて、その全員が素晴らしい行為だとは言わないとおもう。しかし悪者にされるのは気に食わない。特に1組にはな」

#クラスメイト

「ナカミチが気に食わないとかいうとはな」

「まぁたいしたことないのにたいしたことしてるみたいな感じだもんな」

「しかしなぁ」

#ふうき

「まぁこの学校自体がたいしたことない魔法そのものをすごいって言い張っているとこあるし……。」

#さいか

「風紀さん。それ言っちゃダメです……。」

#ナカミチ

「で、悪者は成敗するということらしい。1組の中で今年は機械科と対戦しようって話が出ている……と。まぁ実際にそうなるのかしらないし、そもそも本当にそんな話が出ているのかも微妙だが」

#ふうき

「私は去年のうわさと推測でそうなるんじゃないかって思ったんだけどねー。でもナカミチ君はなんか知ってるみたいでー。なんかー、お願いしたいことがあるんだってー。私たちにー」

#ナカミチ

「言い方がひどくないか?」

#ふうき

「早く言って?すけこまし」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

すけこましとは女性をたぶらかすやつという意味だ。ナカミチ君、風紀さんにまだ朝何があったか詳細までは伝えていない。ところが女性関係だって思われているらしい。日頃の行いの成果だ。

#クラスメイト

「すごい言われようですね」

「結局、物事の爆心地はナカミチ君になってるのかしら」

「なんかかっこつけたのかなぁ」

#このみ

「あー、それは私のせいでもありますからねー。私のほうから説明しましょう」

#ふうき

「……えっ?」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

いやな汗が噴き出してくるナカミチ君。

#このみ

「じつは私の姉さんがナカミチ君に問い詰めちゃいましてねー。まぁ私のせいなんですが。それでナカミチ君がルールに則った上で勝つって宣言しちゃったんですよ。ですので皆さんにも協力していただけないかということなんです」

#クラスメイト

「ナカミチらしいなー」

「まぁいいんじゃないの?というか勝負なんだから勝ちに行くのは普通のことだし」

「それに向こうから勝負吹っ掛けられてるみたいだしな」

#ナレーション

好印象である。これから爆弾が転がってくるのだが。

#さいか

「あの……。今のお話だと別に1組に勝つは必要ないんじゃ……?」

#ミサキ

「いやいやさいかちゃん!やっぱトップに勝たなきゃ意味ないよ!2組以降に勝っても魔力の高い1組には勝てないんだろうなって思われちゃうじゃん!」

#さいか

「え?いや……そうかな?」

#クラスメイト

「どうなんだ?」

「さぁ?」

「一番目指したらいいんじゃないか?」

#ナカミチ

「あ、あの……。いや、さいかさんの言う通りです」

#ふうき

「ナカミチ君。なんか同情するよ。すけこましだとさらにおもうけどね」

#このみ

「うん?なんかほかにありましたっけ?1組じゃないといけない理由」

#ナカミチ

「あー。知り合いが1組にいてな」

#ふうき

「2学期にナカミチ君に教科書借りに来た子でしょ?忙しい時に来たから覚えてるよ。1組だったんだねぇ」

#ナカミチ

「はい。そうです」

#ネネ

「ナカミチ君タジタジになってますね」

#ナカミチ

「い、いや。で、だな。その子らが1組でどうも不遇な立ち位置みたいでな。魔力が少ないからだと思うんだが」

#クラスメイト

「はぁ。えーっと?あ!懲らしめたいんだな!」

「魔力が弱い我々が1組を倒せば魔力が弱いその子のかたき討ちにもなるのか」

「しかしなんで1組に魔力が弱い人が入ってるんだ?そもそもの話」

#ふうき

「双子?」

#ナカミチ

「そうだ」

#クラスメイト

「ああ。双子で魔法が使える奴がいるって聞いた事はあるな」

「たしか魔力総量が2人で共有されてるっていう噂だよな。特別珍しいから1組ってことか。よく考えりゃ魔力が強い奴ってのも珍しいから1組ってわけか」

「そう考えると価値の低い側が見下しているのか、滑稽だな」

#ふうき

「うわさは聞いてたけど、そっか。やっぱりあの子がそうなのか」

#このみ

「なーるほど。はー、なるほどねぇ」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

ナカミチ君横からの目線に耐え切れない。自業自得ということにしとこう。

#さいか

「あのー。そろそろ結論を出さないと始業式始まります……。」

#このみ

「うわっ!あと3分で開始時刻じゃないですか!」

#ふうき

「結論は後で出そう!つまり、1組と戦って勝つか、ほかのクラスと戦って勝つか、そもそも勝ちにいかないか。の3つなんだよ!今まで話に出た内容を加味してホームルームが終わったら議決とろう!よし、おっけー!」

#ナカミチ

「廊下に出て男女別にだけ分かれて列になってくれ!すぐグラウンドに出る!」

#クラスメイト

「あわただしいなぁ」

「うちのクラスがあわただしい原因って何だろう」

「なんだろうなぁ。いくつもありそうだなぁ」

#ナカミチ

「わかったから!あやまるから早く出ろ!」

#ナレーション

最終的に1組とやりあうことで可決。どうなることやら。

 

#ナレーション

数週間後。家庭科室。

#このみ

「ふーん♪ふふふふんふんふんふんふんふーんふーふふふふーん♪」

#ナレーション

なにか口ずさみながら料理しているこのみちゃん。ほかにはナカミチ君しかいない。

#ナカミチ

「なんの曲だそれは」

#このみ

「さぁ?昨日インターネットラジオで流れてきただけの曲です」

#ナカミチ

「そうか」

#ナカミチ

「で、なんでここにいるんだ」

#ナレーション

こことはもちろん家庭科室の事だろう。時間帯としては6時間目である。

#このみ

「別に機械科が魔道実習の時間にどこにいようがいいじゃないですか。毎週家庭科室にいる人に言われたくないですねー」

#ナカミチ

「俺は魔動具としての料理を作ってるんだが」

#ナレーション

週に一度ある5限目、6限目を使う魔道実習である。魔法の向上のため実際に魔法を使ったりする時間であるが実質、自習時間のように使われている。様々な教室が使われているだろうが一番人気は図書室だろう。普通に勉強している。

#このみ

「魔力が回復する料理だっていうのは何度も聞いてますよ。僅かすぎる回復量も毎回体験してますし」

#ナカミチ

「食材を混ぜるときに魔力を注ぎ込む量で回復量が変わると言われているんだから仕方ないだろう」

#このみ

「機械科ってホント何のためにあるんですかねー」

#ナカミチ

「地域貢献」

#このみ

「悲しくなってきますねー。悲しさで満たされそうです」

#ナカミチ

「3%ぐらいか?」

#このみ

「んー。おまけで5%ぐらいですかね」

#ナカミチ

「そりゃずいぶん悲しんでいるようで」

#このみ

「結局魔動具を作る会社とかも魔力の高い、普通科ぐらいの人しか採用しませんしねー。そして機械科の入学基準は一定以上の魔力の有無ですもんねぇ。魔動具に興味ある人は魔力があれば普通科に行きますし、少なかったり無かったらそもそも魔動具作れませんしねぇ」

#ナカミチ

「で、結局機械科に入学するのはこの学校に近い非常に中途半端な魔力量を持った人たち。入学理由は基本的な学費がいらない。おもしろそう。拘束時間が少ない。多々あるけどな。共通点は機械についてほとんど知らないということだな」

#このみ

「おもしろそうってのは風紀さんだとして、拘束時間が少ないってのはあれですか。さいかちゃんですか」

#ナカミチ

「ああ。塾に専念しやすい学校だからだって。でもさいかさんに限らず意外と多いぞ。塾通いは大体そんな理由だったな」

#このみ

「なんてことでしょう。学校教育では足りないというのでしょうか。学校教育が信じられていないのでは?あぁ。私は悲しいです」

#ナカミチ

「学校教育で何とかしようとしているならそもそもこんな変な学校には来ない」

#このみ

「いやー。まったくです。宿題が少なそうだからと選んだ私の感は当たってましたね!」

#ナカミチ

「それでもやってこないやつがいるよな」

#このみ

「ちゃんとやってきてるじゃないですか。夏休みの時の印象に引きずられすぎです」

#ナカミチ

「それだけインパクトが強かったんだよ……。冬休みの宿題も危なかったじゃないか」

#このみ

「終わったのでセーフです。っとできましたー」

#ナレーション

魔道実習の時間でただの料理作りを行うこのみちゃん。料理スキルの向上は魔法スキルよりよっぽど役に立ちそうである。

#このみ

「いやー。一度作ってみたかったんですよねー。パンプキンスープ」

#ナカミチ

「実習レポートはどうするんだよ」

#このみ

「そんなものは失敗したということを書いとけばいいんです。液体に魔力を保持させるにはパンプキンスープでは粘度が足りないとでも書いときますよ。さ、試食です!試食!」

#ナカミチ

「試食とは言わん。そういうのは」

#このみ

「実験後の食材をちゃんと食べる!科学者にとって倫理は大事です!」

#ナカミチ

「魔法学校の生徒が科学者っていうのはもはやなんなんだ」

#このみ

「あぁー。あったまりますー。冬寒し、パンプキンスープ暖かしです」

#ナカミチ

「なんなんだそりゃ。大体ここは暖房きいているだろう」

#このみ

「体の中からあったまるのは大事です」

#ナカミチ

「白湯でも飲んどけ」

#このみ

「心が冷たい人がいますねー。やだやだ。回復効果の安定しない料理も失敗みたいなもんでしょう?」

#ナカミチ

「なんて心の冷たい発言なんだ」

#このみ

「ナカミチ君の分のスープもありますよ。よかったですねぇ。心が温かいからですよ」

#ナカミチ

「はぁ。こっちももうできるからそのあとにもらう」

#ナレーション

細長い棒状のものがまな板に載せられている。うす緑色。そして軍手をしたナカミチ君の右手に握られた包丁。刃物を持っている以上惨劇は免れないかもしれない。

#このみ

「作ってたの見てましたけど、それあれですよね。金太郎飴。パンプキンスープに飴はあわないですよー」

#ナレーション

惨劇に雨はつきものである。飴は……、どうであろうな。

#ナカミチ

「なんでそっちに合わせて作らないといけないんだ」

#ナレーション

とんとん。と切られていく飴。切り口には金太郎飴特有といえる絵が見え……なんだろうか。これ。

#このみ

「なんです?このよくわからない模様は」

#ナカミチ

「うさぎ」

#ナレーション

緑や白色で幾何学模様ができている。これをうさぎと言い張るか。

#このみ

「あっはっはっ!失敗してるようですね!まぁこういう芸術品は難しそうですし仕方ありませんよ!まぁ?そちらも終わったようですし私のきれいにできたスープでも飲んでください。そもそもうさぎを作るのに緑がベースって何ですか?」

#ナカミチ

「りみてっどえでぃしょん」

#このみ

「はい?急に何ですか?りみてっどえでぃ……。」

#ナレーション

『うさぎさんりみてっどえでぃしょん』なつかしい響きである。どこで聞いたことやら。なんにしてもどうやらナカミチ君のほうが一枚上手だったようである。

#このみ

「むぎぎ……。」

#ナカミチ

「思い出の品だな」

#このみ

「もうちょっといい思い出はないんですか!」

#ナカミチ

「さぁな」

#ナレーション

実際のところ、そもそも学校の設備でまともな飴が作れるわけがない。緑と白の飴を混ぜて伸ばしただけである。その割によくできているのがすごいのだが。

#このみ

「もう知りませんー。いろいろあったのにー。あれとかこれとかー。……。」

#ナレーション

いろいろはあっただろう。思い返せばいろいろ大変だった。楽しかっただろうか。助けられたほうは楽しかっただろうか。助けたほうは楽しかっただろうか。うまくいって楽しかっただろうか。

#ナカミチ

「そうだな。思い返せばいろいろあったな。あの、だからさ。次の魔道祭も別についでに勝とうとしているわけじゃないぞ?」

#このみ

「はい?」

#ナカミチ

「ついでにやろうとなんてしてない。どっちもついでじゃなくて、なんとかしたいって思ったからやると言ったんだ。都合がいいとは思ったけど……。」

#このみ

「えー?ずっと気にしてたんですかー。いいですよ。別に気にしてないですよ。いやですねぇ」

#ナカミチ

「いや、あれからずいぶん付きまとってくるからそろそろ許してくれと思ったんだが」

#このみ

「えー?許してもらおうと思って並べられた言葉なんか信用できませんね」

#ナレーション

なかなか辛辣である。いつも自分が許してもらおうと適当に言葉を並べるからだろうか。

#このみ

「ですから、本当は最初から信用しています。信用しているんですから付きまとったりする必要なんてないんです。それなのにひどい邪推です」

#ナカミチ

「よくわからないんだが」

#このみ

「勝ってくれなきゃやだー。ってわがままですよ。信用問題です。頑張ってください」

#ナカミチ

「いや、わからないんだが」

#ナレーション

小さな布の袋に入れた飴をこのみちゃんにわたすナカミチ君。

#ナカミチ

「もう大丈夫ではあるけど、飴はまだそれなりに熱いからな」

#このみ

「ありがたく頂きますよ。やっぱり味は抹茶味とかなんですか?」

#ナカミチ

「いや、着色しているだけだから砂糖の味だな」

#このみ

「いつもより凝ってると思ったら結局、色以外一緒ですか……。」

#ナカミチ

「ふぅ。スープもらうぞ」

#このみ

「どうぞどうぞ」

#ナレーション

スープに口をつけるナカミチ君。クリーム系が混ざっているため飲みやすいが、かなり濃厚な味わいである。

#ナカミチ

「おいしいな。作る手間は飴のほうがめんどくさいのにスープとかのほうがおいしいと感じるよな」

#このみ

「無駄に凝るからです」

#ナカミチ

「まったくだ。普通に作れば30分ぐらいだしな」

#このみ

「こっちは慣れてないのに50分ぐらいですけどね。さて、飴ももらいましたんで教室に戻りますね。……来週の魔道祭、楽しみです」

#ナレーション

にっこりとほほ笑んで家庭科室から出ていく。

#ナカミチ

(まぁ許してもらえただろう)

#ナレーション

かなり理不尽な気もする一方そりゃあ怒るよなというようなことをしたような。とりあえずはそんなことを悩む日々は終わったかなと思うナカミチ君はすがすがしかった。変に付きまとわれることももうないだろう。

#ナレーション

残ったナカミチ君は1人思った。

#ナレーション

あとこのみちゃんが飲んでたカップと使われたお鍋と使われたミキサーと使われた包丁となんやかんやも家庭科室に残った。

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

後始末はナカミチ君の得意技であろう。

#このみ

「うふふ。付きまとってあげましょうかぁ?」

#ナレーション

教室に向かったはずのこのみちゃんが引き戸を少し開けて覗き込んでる。今度はこのみちゃんのほうが1枚上手だったようである。

#ナカミチ

「わかったからなんにしても片づけはしてくれ……。」

#このみ

「了承と受け取ってあげますよ。さーて、さっさと後始末までしちゃいましょう」

#ナレーション

2人黙々と片づけをする。なにも言わずとも連携しているようなスムーズさで片づけられていく。

#このみ

「ふーん♪ふんふんふふーん♪」

#ナレーション

沈黙は破られた。

 

 

#ナレーション

次の日。お昼休み。

#このみ

「おーい、風紀さーん。行ってきましたよー」

#ナレーション

廊下で窓越しにグラウンドを見ていた風紀さんに声をかけるこのみちゃん。横にはナカミチ君もいる。グラウンドには大量のパイプやベニヤ板がトラックから降ろされている。普段は学生の声であふれている場所は作業中の人たちの声であふれている。

#ふうき

「ご苦労様です!ナカミチ君も御苦労さま!で?どうだった?」

#ナカミチ

「予定通り1組と対戦することになったが……。まぁ、予想以上だったな。まさか宣戦布告されるとはなぁ」

#このみ

「なんでしたっけね。えーっと?先の体育祭、文化祭を筆頭に君たちの行いには目に余るものがあるから1組が機械科の相手をするとかなんとか、えーっと?後は……なにをしようが1組は負けないそうです。そう向こうの委員長が言ってましたね」

#ふうき

「うわぁ。正義は我にあり、かぁ」

#ナカミチ

「ひいてやるな」

#ナレーション

魔道祭の対戦相手は学年内の代表による話し合いで決められる。もっとも、力の差が少ないように魔力量の近い組どうしで戦うのが例年の事であり、そうなるように話し合いの場にいる先生方から助言という名の強制力が働く。その話し合いが先ほど行われていたのだ。

#ナレーション

その話し合いの場でもっとも魔力の高い1組が普通科で魔力の低い組を希望するどころか機械科という魔力の格が違う格下を希望すれば当然教師は止めに入るのだが、

#ナレーション

まぁまぁ先生方。いいですよ。若きウエイテルの過ちってやつです。やりましょうとも!と機械科の委員長が言えばもはや先生方は苦笑いと温かい目で見てあげる事しかできない。一方、横にいた機械科の副委員長は若きウェルテルの悩みだぞ。とどうでもいい事を修正、それを聞いた我らが委員長は引きつっていた。

#ふうき

「他クラスの心配というか指導をする前にする事あるんじゃ……。ま、言えた義理じゃないかぁ。じゃあ、あと頼んでた質問はどうだった?」

#このみ

「注意事項は去年と同じなんですかって聞きましたよ。全部同じですってくぜ先生がこたえてましたね」

#ふうき

「あぁ。くぜ先生が……。頭上がらないやぁ……。」

#ナカミチ

「上がらないのに迷惑掛けまくってるよな?」

#ふうき

「若さゆえのなんとかだね」

#このみ

「若いので仕方ありません。若き我々の過ちです」

#ナカミチ

「そうやって混ぜて遊ぶから変にまちがって憶えることになるんだよ」

#このみ

「その話は無しでおねがいします……。」

#ナカミチ

「今、自分からその話題、振ってきたよな?」

#ふうき

「またなんか面白い事でもやらかしたの?こりないねぇ」

#ナレーション

一番こりなさそうな風紀さんに言われるほどではない気もする。

#ナカミチ

「それで?質問してきたのはいいけどもどういう意図だったんだ?」

#このみ

「後で教えてくれるって言ってたんでなんでか考えずに聞いてきました。教えてくださいー」

#ふうき

「おおぅ……。本当に正直者だね。それはねグラウンドで作られているステージについて知りたかったからなんだよ」

#ナレーション

いつもとは違う騒がしさで満ちたグラウンドを見ながら風紀さんが言う。

#ナカミチ

「ステージ……。フィールドか」

#このみ

「フィールド……。ステージですね」

#ナカミチ

「戻すな」

#このみ

「なるほど。地理を知り、戦いに活かす。孫子ですね!」

#ナレーション

孫子(書物)のことだろう。

#ふうき

「このみちゃん。孫子読んだ事あるの?」

#このみ

「ありません!」

#ふうき

「だろうね。孫子は基礎というか思想というか非常に広範囲をカバーしているから戦略、戦術の話が出たらだいたい孫子って言ってればいいって聞いた事があるよ」

#ナカミチ

「……ん?聞いた事がある?」

#ふうき

「私も孫子読んだことないよ!」

#このみ

「仲間ですね!」

#ふうき

「わーい」

#ナカミチ

「もう行くからな」

#ナレーション

教室に戻ろうとするナカミチ君。付き合いきれないレベルはナカミチ君にもある。

#ふうき

「待った待った。話を戻すから許してね」

#このみ

「わたしも謝ったほうがいいでしょうか?」

#ふうき

「いや。私の分でじゅうぶんだよ」

#このみ

「じゃあ後の為に置いておきましょう」

#ナカミチ

「で?なんでフィールドの事を聞くのにわざわざ注意事項について聞いたんだ」

#ふうき

「聞けるぎりぎりのラインだったんだよ。他のチームには絶対地理的な戦術を考えてこられるわけにはいかない。直接的に去年と同じステージで戦うんですかとは聞けなかったんだよね」

#このみ

「ふむぅ。ということはくぜ先生が全部同じですって答えたということは」

#ふうき

「おそらく去年の使い回しだね。多分去年の戦いの写真や動画をネットにアップしている人がいるからフィールドがどんな形なのかわかるよ。うふふふふ!」

#ナカミチ

「来週の頭にはどんな形かだいたいのぞけるだろうに」

#ナレーション

ナカミチ君ステージになるグラウンドを見ながらいう。来週にはある程度の形にはなっているだろう。

#ふうき

「最後の土日を前に知っておきたかったの!それになんか去年から急にステージが凝った形になったって聞いて不安だったのもあるし」

#ナカミチ

「そりゃ失礼」

#このみ

「……ん?去年から?」

#ふうき

「うん。それまでグラウンドに土嚢が積まれているぐらいだったらしいの。それが急に入り組んだものになったって」

#このみ

「ふむ。……姉さんの仕業ですかね」

#ふうき

「かいちょ……。いや、ともみさんが?」

#このみ

「去年、姉さんが急にゲーム機を貸してほしいって私に頼んで来たんですよ。そしたら次の日からどこからかFPS、いわゆる対人戦のシューティングゲームを買ってきてリビングのテレビでやり始めたんです」

#ナカミチ

「ともみさんが……。FPS?」

#ナレーション

何とも想像がつかない。ともみさんがテレビを凝視してやっているところはなにか想像したくないものがある。

#このみ

「しかもいくつかの種類のFPSを買ってきてノートになにか書きながらFPSやってたのを見た時はあわてましたね。私のせいで姉さんが道を踏み外したのではないかと」

#ふうき

「どのゲームが自分に合っているかを確かめながらノートに感想かなんかを描いているように見えたんだね。いわゆるガチプレイヤーってやつになろうとしているんじゃないかって」

#このみ

「さすがに困りました。後にも先にもゲームを止めようと考えたのはあの時だけでしたね。私が辞めたら姉さんも考え直してくれるんじゃないかと思いました」

#ナカミチ

「でもそれは、ともみさんのゲームは続かなかったんだな」

#このみ

「ええ。1週間後ぐらいにゲーム機を返してもらいました。お礼とか何とかで姉さんが買ってきたFPSとお菓子をもらえました。あ、いや、まぁそれはいいとして今考えるとあれは……。」

#ふうき

「なるほど、魔道際のクラス対抗戦にふさわしいフィールド構成を学んでいたんだね……。そういう所から学ぼうとするなんて、大正解なんだろうけどなんていうかもうすごいね」

#このみ

「そうでしょうそうでしょう」

#ナカミチ

「みならえよ」

#このみ

「人それぞれにいい所があるんですよ。全く一緒じゃ寂しいじゃないですか」

#ふうき

「一理あるね」

#ナカミチ

「理屈があるのと納得するのは別物だろ。しかも思いついた言葉を並べた感じがすごくするし。それよりも、ともみさん監修のフィールドとなると」

#ふうき

「うん。間違いなく戦略性の高い、私たちにとってはチャンスが大きいもののはずだよ」

#このみ

「さすがお姉ちゃんです!えっへん!」

#ナカミチ

「えっへんって……。」

#ふうき

「でね。このみちゃん」

#このみ

「はい?なんですか?」

#ふうき

「わたしは次の土日の休日を使って作戦を考えてくるけど任せてくれる?」

#このみ

「んふふー。それはいい案ですねー」

#ナカミチ

(あぁ。そういう……。風紀さん、それでいいと思ってるのか……?)

#このみ

「でもダメです。それじゃあまたいつかのようになってしまいます」

#ナレーション

いつか。あの日。あの体育祭で起こしたルール違反。また起こすわけにはいかないと言っているのかもしれない。ルールに則ると約束したのだから。

#ふうき

「……。」

#ナカミチ

「このみ。それじゃあどうするつもりなんだ」

#このみ

「そりゃもちろんみんなで考えるんですよ!地形把握と作戦立案に分かれてです!来週私たちでまとめますよ!忙しくなりそうですね、うふふふふ!」

#ふうき

「……。そっか。その日か。いやー。まいったねこりゃ」

#ナカミチ

(まだまだとらわれているのかもしれない。俺も風紀さんも)

#ナレーション

いつか。あの日。文化祭の出し物を決める為に話し合ったあの日。もう1人任せにはしないのである。そうみんなで決めたのだった。

#このみ

「ん?ダメでしたかね?」

#ナカミチ

「いや。風紀さんは信用してもらえてうれしいんだよ。ダメじゃない」

#ふうき

「ちょっと!勝手に言っちゃだめだよ!ひどい!作戦時に一番過酷な役回りにしてやる!」

#このみ

「うん?んんー???」

#ナレーション

よくわからないこのみちゃん。このあと家に帰ってふと気付いたようで次の日に風紀さんに謝っている姿をナカミチ君は見かけることになる。あわてている風紀さんを見ながら、このみが悪いわけじゃないんだがなー。と思いながらとてもうれしい気分になったようである。

 

#ナレーション

時間が進んで週明けのお昼休み。提出された予測フィールドマップや作戦内容を描いた紙を机に並べながらうなっている2人となやんだ顔の1人。

#ふうき

「むぎぎ……。」

#このみ

「うぬぬ……。」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

当日戦うことになるであろうフィールドマップは日曜日には完成した。インターネット上に去年のフィールドを校舎の3階から俯瞰(ふかん)的に取った写真があったため作業が順調に進んだのだ。問題は作戦のほうである。

#ナカミチ

「……なやんでいるっていうのはその実、考えているわけではないって話を聞いた事があるな」

#ふうき

「……。」

#このみ

「……。」

#ナレーション

3人は大いに悩んでいた。勝てる見込みのある作戦がないのである。勝負あったか。

#このみ

「そもそも攻撃射程が相手側と違いすぎるんですよ。これはきっついです」

#ふうき

「こっちは剣で向こうはピストル使っているようなもんだしね。いやー。わかっていたけどこれで勝負しようって言うナカミチ君はすごいや」

#ナカミチ

「風紀さんは同類だろ。しかし考えれば考えるほどシューティングの世界に近いな……。」

#このみ

「ああ。ダメですナカミチ君。FPSと言ってください。どうしてもシューティングっていうと縦、横スクロールか、ガンシューティングのイメージを持たれちゃいます」

#ふうき

「私はいんべーだーのイメージだよ……。」

#このみ

「まさかの固定派がいらっしゃったとは」

#ナカミチ

「話を戻すがこの対抗戦本当にどうすりゃいいんだ」

#ふうき

「基本的には水魔法と分類される『シュート』の打ち合いなんだけど……。」

#このみ

「通称、水鉄砲ですね」

#ナカミチ

「馬鹿にされてるよな、その名前」

#このみ

「事実そんなもんですし」

#ふうき

「私たちはそれすらできないんだよ!どうするの!」

#このみ

「むぐぅ」

#ナカミチ

「ぐぅ」

#ナレーション

八方ふさがりかもしれない。

#このみ

「こ、攻撃のレンジが、攻撃範囲が違いすぎます。やはり基本は相手の懐に飛び込むしかありません」

#ナカミチ

「俺達の魔力量だと水をいくつも打ち出すなんて贅沢な魔法の使い方はできない。1発撃ったら終わりなんて攻撃手段は現実的じゃない。よって水の生成と同時に手元に保持。切りつける感覚で相手にヒット判定を与えるわけだが」

#このみ

「通称、水の棒ですね」

#ふうき

「現実的な選択肢がそれしかないっていうのがまずいんだよ。距離をとって攻撃を相手は行おうとするはずだし」

#このみ

「後の攻撃手段は火魔法ですね。あれ怖いらしいんですよねー」

#ナカミチ

「そうだろうなぁ。人体に全く影響がないから火傷はしないというのはわかるが火に包まれるんだもんな。服は焦げるからにおいはすごいらしいし。服が焦げたらヒット判定だな」

#ふうき

「攻撃手段は以上だね。ヒット判定が出たら当たった人をくぜ先生と校長先生がフィールド外まで飛ばすんだよね」

#このみ

「空を飛ぶ感覚が味わえるらしいですよ。あれ」

#ナカミチ

「重力操作だもんな。だが他者まで運ぶほどの魔力量なんて俺には想像もつかないな」

#ふうき

「空を飛べるほどの魔法使いが学校の生徒にいないことは確認済みだよ。というかいたら話題に上るしね」

#このみ

「浮ける人はどうなんです?」

#ふうき

「補助魔動具使ってやっとの人が何人かじゃない?例年通りだしそのレベルじゃ対抗戦で使う理由がないよ。移動できるとしてもせいぜいほふく前進レベルだろうし」

#ナカミチ

「飛べる奴がいても下から狙い撃ちだろうな。もしくは降りてくるのを待ち続けることになるが。魔術の同時展開ができるのはくぜ先生レベルじゃないとできないし、上から攻撃が来る可能性はないか」

#ふうき

「地上にいる生徒に対しての攻撃では水魔法の上空発射による降り注ぎのヒット判定と壁や地面に対して当たった水の跳ね返りによる、いわゆる跳弾のヒット判定は認められていないし、上方向の攻撃を心配しなくていいのは良かったのか攻撃手段が狭まって悪かったのか……。」

#このみ

「いわゆる上に向けての壁越し、放物線の攻撃、つまり砲撃は昔から禁止されているみたいです。認めると一瞬で終わっちゃうからだそうです。なお空を自由に飛べて他の魔法の同時展開ができる生徒の場合はほうきにまたがって上から水魔法のシュートを打つ事が認められたそうですね」

#ナカミチ

「誰だよそんな規格外……。」

#このみ

「紅世 朱里という生徒がはるか上空から水の塊を撒き散らして開始3秒で終わった試合が10年程前にあったらしいですよ。魔道祭について調べてたら出てきました」

#ふうき

「偶然にもくぜ先生と名前が一緒だね!」

#ナカミチ

「つっこまねーぞ」

#ふうき

「というかくぜ先生なら火魔法の『フレイム』でフィールド全体を包み込めるんじゃないの?」

#このみ

「学校側から止められたんじゃないですか?フレイムの使用は当てられた方の服が燃えちゃいますし、下着は学校側から不燃用のものが支給体操着と一緒に渡されるらしいですが、つまり高火力なら下着以外は燃えちゃいます。ナカミチ君、楽しみですか?」

#ナカミチ

「フレイムも厄介なんだよな。1組の場合は魔動具を使って自身を中心に1メートル前後が火の出るヒット範囲だろう。魔動具がなければ20センチぐらいだから使う奴はいないだろう」

#このみ

「おっと。スル―ですか。許しましょう」

#ふうき

「魔動具は水汎用型が35、火汎用型が5ぐらいじゃないかなぁ。風汎用型はまあないだろうし」

#このみ

「魔動具の持ち込み機械科だけにしてくれませんかねー」

#ふうき

「代わりに自作魔動具の持ち込みが許可されてるじゃない」

#このみ

「安全審査に通らないですし、支給される魔動具の方が圧倒的に性能が良いですし。意味ないですー……。もうどうしましょうかねー」

#ナカミチ

「せっかく去年、ともみさんがフィールドを凝ってくれたのにこれでもきついんだもんなぁ」

#このみ

「このフィールドって私たちにとってほんと有利なんですよね。遮蔽物が増えてますからシュートの魔法に狙われにくいですし。壁は不燃素材なのでフレイムも壁越しなら当たらないですし」

#ふうき

「有利になったからと言って優位に立ったわけじゃないのがきついよ……。ううん」

#ナレーション

未だ解決策などでない。しかし出すしかないのである。

#クラスメイト

「おーい。お前らずっと考えてるけど大丈夫かよ」

「少し休まないとね」

「俺らがもう少しまともな作戦が出せればよかったんだがな。しかし、休み時間は休む時間だぞ」

#ふうき

「うん。提出された作戦に覚醒とか友情パワーとか書かれてなかったらもう少し楽観視したんだけどね」

#クラスメイト

「えー。そんなことかいたかなー」

「憶えてないぞ」

「やっぱそういうのって定番だろ」

#ふうき

「あのねぇ」

#ナレーション

風紀さんがあきれるのはめずらしい。

#さいか

「まぁまぁ……。私も必勝法を探してますから。少しだけゆっくり考えましょう?」

#ネネ

「そうですね。全員で考えているんですからきっと1つぐらいはいい案が浮かびます」

#ミサキ

「なんとか考えつきたいけど私じゃ思いつかないかも……。」

#このみ

「うーむ。煮詰まっちゃってますし1回お開きにしましょうかねー」

#ナレーション

休息は必要である。悩んでいると考えているは別物なのだ。リラックスしてみよう。

#ナカミチ

「……。さいかさん。さいかさんはどうやって作戦を出そうとしているんだ?」

#ナレーション

休息が遠のいた。しかしタイミングというのは重要である。

#さいか

「えっ?別に普通に考えているけど。あっ。ごめん。しっかり考えるね……。」

#このみ

「ナカミチ君ー?ちょっと言い方があるんじゃないですかー?」

#クラスメイト

「ひでえ奴がいるぞ!」

「なんて奴だ!」

「吊るそう!」

#ナカミチ

「まてまてまて!ちがうちがうちがう!」

#ネネ

「ナカミチ君にしてはめずらしいミスですね」

#ミサキ

「ねー。なんかかっこわるいー」

#ナカミチ

「ちがう!いや!言い方が悪かった!謝る!そこはあやまるから!」

#ふうき

「…………。あっ。いや、でも。えぇー……。」

#このみ

「?どうしました風紀さん。……まさか。ナカミチ君!かっこつけずにどういう意図でさっきの発言したのかいうんです!そうやってかっこつけるからなにが言いたいのか分からないんです!どうせなんか気づいたんでしょう!」

#クラスメイト

「つまりナカミチが悪い!」

「なんて人なの!」

「晒せ!」

#ナカミチ

「待て待て待て!そしてどうせっていうな!さいかさん!探しているっていったよな!必勝法を!どうして探そうと思ったんだ!」

#さいか

「え?それはかいちょ、あ、いや。ともみさんが残してくれたんだから大事なんだろうって思ったから……。」

#このみ

「姉さんが?姉さんが残したのってフィールドですよね?」

#さいか

「うん。だから考えてるんだけど……。」

#ふうき

「必勝法を?」

#さいか

「うん……。」

#ふうき

「これは……。」

#ナカミチ

「そうだ。俺達も所々で気づきかけてたんだがフィールドを利用して作戦を作りだそうとしてたのがややこしくしてしまってたんだ」

#このみ

「どういうことですかね。もうちょっとだけわかりやすく。ヒントを」

#ナカミチ

「いや、答え言うから……。まぁいいか。じゃあヒントだが、ともみさんがフィールドを作った理由はなんだった?」

#ふうき

「はい!」

#ナカミチ

「おとなしく待っとくように。わからない人にゆずろうな」

#ふうき

「わかりました!」

#このみ

「理由ですか……。たしか対抗戦を戦略性の高いものにしようとしたんだと思います。うん。そうです」

#ナカミチ

「それはなぜだ」

#このみ

「えっ?ええとー」

#ネネ

「魔力量が少ないクラスでも勝てるようにするためですか?」

#このみ

「あぁっ!姉さんの事は私が一番わかってると思ったのに!」

#ネネ

「いや、そう言われましても……。」

#ナカミチ

「その理屈で言うと既にさいかさんと風紀さんに後れを取って……、それよりもネネさんの言うとおりだな。それこそ俺達、機械科が勝てる事が前提。フィールドが作られたコンセプトであるはずなんだ」

#クラスメイト

「ありがたいなぁ」

「すごいなぁ」

「女神だなぁ」

#ネネ

「ええと。結論としては。フィールドは私たちでも勝てるように作られている。……えっ?!」

#このみ

「ね、姉さんが作ったフィールドにはすでに勝つための作戦が練りこまれているということですか」

#ナカミチ

「そもそも力の差があるものどおしの戦いだ。自由なフィールドで戦えば力のある方が勝つ。それをどうにかしようとしたら力の差が関係なくなるような作戦を使えるフィールドでなきゃいけない」

#ミサキ

「だからさいかちゃんは探しているって言ったんだね」

#ナカミチ

「そうだ。案を考えているという中で探しているとさいかさんが言ったから気付いたんだ。さいかさん考え方はあっているよな?」

#さいか

「え、ええ。先週このみちゃんがお姉さんの事を自慢していましたのでそうなんだって。あ、そうなんだっていうのは勝てるフィールドなんだって思ったんです。それでお姉さんのともみさんがなにを考えていたんだろうって探してたんです。まだわからないんですけどね」

#ナカミチ

「このフィールドがなぜこの形なのかを理解できればおのずと作戦が出来上がる。いや、本当にたすかったよ。あとはもう風紀さんがなんか気づいているっぽいし聞けばいいだろ。ほらしゃべっていいぞ」

#ふうき

「おこるよ?」

#ナカミチ

「すいません。おねがいします」

#ふうき

「いや、まぁほんとともみさんすごいよね……。しかしフィールドが人工物である以上、作り手が想定した使われ方っていうのはあるはずで気付くべきだったけど難しいよ。まぁ使い方は使い手によって決まっちゃうものだけどね。作り手がすごいんだから使い手が想定外の変なことしちゃいけないんだよね」

#ふうき

「とりあえず私ももうちょっと考えたいから放課後まで待ってくれる?考えをまとめてから話すよ。それまでに100メートル走のタイム順の名簿作っといて。必要だから。よろしくナカミチ君」

#このみ

「ここまでくればいつもの流れですー」

#ナレーション

ナカミチ君の後始末である。作業が渡された。

#クラスメイト

「こりないよね」

「かっこつけて失敗するからすごいファインプレーも帳消しでマイナスだもんねえ」

「ナカミチの貢献度はかなり高いはずなんだけどなぁ」

#さいか

「わたしもちょっとこわかったし、たまには怒ろうかな……?」

#ナカミチ

「いや、ほんとうにごめんなさい」

#さいか

「いいですよ。残り5限と6限の間の10分休みしかありませんが頑張ってタイム順名簿作ってくださいね」

#ナレーション

チャイムが鳴る。5限目まで後5分を知らせる予鈴だ。タイムリミット制である。

#ナカミチ

「……。」

#このみ

「がんばってくださいね!」

#ナレーション

その後、必死でリストを完成させたナカミチ君。放課後の風紀さんによる作戦説明会で無事リストが活躍。作戦は全員賛成で可決。そして日は流れ、週末。ついに魔道祭がやってくるのである。

 

 

 

 

#ナレーション

朝。教室前の廊下からナカミチ君は1人グラウンドを見る。幾人かの観戦者がすでにちらほらと見える。想定通り去年と全く同じ形のフィールドだ。作戦はきっとうまくいくだろう。ナカミチ君はそう思いたかった。

#ナレーション

結局のところ作戦は作戦。うまくいくかはわからないし、地力に差がある以上最後まで詰めきれるか分からない。

#ナカミチ

(本当、ともみさんはすごい人だ。ちゃんとゲームになっている)

#ナレーション

最後までどうなるかわからないみたいだ。見ている分には白熱した面白いものになると期待できる。もっともやる側は不安でいっぱいであろう。

#ふうき

「おはよー。ナカミチ君ー」

#ナレーション

風紀さんご登校である。いつもどおりのにこにこ顔である。愉快。楽しき。いとおかし。

#ナカミチ

「おはよう。風紀さん。いつも通りだな」

#ふうき

「うん!緊張はしない方が良いって思っているからね!適度な緊張をこのむ人もいると思うけど私は余裕持って行きたい人だからねー。さてさて教室はー?」

#ナレーション

ちらっと廊下の窓から教室をのぞく風紀さん。

#ふうき

「……うわぁ」

#ナレーション

ピリピリムード。ふだんしゃべっているような子たちもおとなしく席に座っている。腕を組んだり。そわそわしてたり。フィールドマップ見てたり。作戦内容をつぶやいていたり。みんな違って十人十色。

#ふうき

「テスト前よりピリピリしてるねー。ナカミチ君、何とかしてくれたらいいのに」

#ナカミチ

「自分から全員に働きかけるのは得意じゃないんでな」

#ふうき

「よく言うよ。まぁ私が入ればちょっとぐらい空気もやわらかくなるでしょ」

#ナカミチ

「騒がしくなる、だろ」

#ふうき

「ナカミチ君の話題で盛り上がっておくから入るの覚悟しといてね」

#ナレーション

そういいながら教室の扉を開けて入っていった風紀ちゃん。

#ふうき

「おはよー。うっわぁ。テスト前とおんなじ空気。そりゃナカミチ君も廊下に逃げるわー」

#クラスメイト

「おはよー。テスト前って、テスト前はこんなに緊張してないだろ」

「テスト前はもうちょっと静かにしてほしいんだけど」

「ほんとだナカミチいねーじゃん」

#ナレーション

教室の扉が閉められてもやいのやいのと声が聞こえてくる。廊下にいるのに緊張が抜ける思いがしてくる。いいのかわるいのか。

#このみ

「おおー。ナカミチ君。おはよーございますー。どうしたんですか廊下にたたずんで、かっこつけるのはこれまで通り口だけにしといたほうが良いですよ?」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

全ての緊張が消えた。もはや空虚すら感じ入る。

#ナカミチ

(いつも通り過ぎる。ん?)

#ナレーション

このみちゃんの後ろ。廊下の少し先からこちらを見る2人の姿が見える。

#ナカミチ

(ましろとみしろ……?)

#ナレーション

双子ちゃんである。こちらを見据えているましろちゃんと少し眉をひそめて見ているみしろちゃん。目が合うとましろちゃんは少し微笑み去って行った。自分の教室に向かうのだろうか、みしろちゃんもあわてて後をついて行く。

#ナカミチ

(さて、どこまでうまいこといくだろうか)

#ナレーション

別に2人から手助けが欲しいとも言われていない。自分たちが勝って少しぐらいは2人の立ち位置はよくなるのだろうか。勝手な事をしているだろうか。

#このみ

「ナーカーミーチーくーん?おーはーよーうーごーざーいーまぁーすぅー?」

#ナカミチ

「あ、ああ。ごめん。おはよう、このみ」

#このみ

「まーた考え事ですか?考える前に動くこのこのみちゃんを少しは見習ったらどうです?」

#ナレーション

見習う要素ゼロの発言である。

#ナカミチ

「このみは思いついた事をやるって感じだろ。その思いつくことが毎回ろくでもないというか、振り回されるというか」

#このみ

「高評価として受け止ってあげましょう。このみちゃんは寛大ですね!」

#ナカミチ

「寛大ねぇ……。まぁ、思いつきで動いた方が良い時もあったかもな。そういうのはこのみに任せとこうか」

#このみ

「じゃ、ナカミチ君には考えて動く方を任せましょうか。大変でしょうけどねー」

#ナレーション

そういいながら教室のドアを開けるこのみちゃん。教室の喧騒が聞こえる。対抗戦に向けて士気がしっかりと高まっているようである。

 

 

 

#ナレーション

フィールド。ついに魔道祭がはじまり、初戦として戦う機械科と1組はすでにそれぞれのスタート位置に集まっていた。観戦している生徒や親族、関係者の声がよくグラウンドに響いていた。

#ふうき

「いやー。はじまるねー」

#ネネ

「もう少し緊張感のあるしゃべり方が欲しかったです」

#このみ

「まーこのくらいが良いんですよ。さて、みなさん魔動具持ちました?」

#クラスメイト

「おー」

「ちゃんと動作確認もしたぜー」

「完璧ですよ」

#このみ

「ふむ。それじゃあがんばりましょっか」

#ナカミチ

「もうちょっとこう掛け声とかだな……。」

#このみ

「この戦いの言い出しっぺが何か言ってますね」

#ふうき

「掛け声するタイプじゃないから許してあげたら?」

#クラスメイト

「ナカミチよりこのみさんにお願いしたいぜ」

「適材適所だな」

「ナカミチ君の大声はちょっかい掛けられている時、専用だね」

#ナカミチ

「……らしいから」

#このみ

「さすがに哀れです……。」

#ナレーション

いじり始めた子が何か言ってる。

#このみ

「ではでは。僭越ながら。…私たちは本気でこのゲームに臨んでいます。ゲームは本気で挑まなきゃ楽しくありません。つまり私たちが勝ちます!」

#ふうき

「そうだそうだ!」

#ナカミチ

「そ、そのとおりだ!」

#さいか

「え!?そうなんですか!?」

#ミサキ

「な、なんか最後つながって無くない!?」

#ネネ

「ええーっと。そ、そうです。勝ちましょう!」

#クラスメイト

「このノリは乗ったもん勝ちじゃない?」

「そうだな!」

「そうか……?」

#このみ

「大丈夫です。かちますよ」

#ナレーション

ちらりとナカミチ君をみるこのみちゃんはとても柔らかい笑顔をしていた。

#このみ

「さて!グループに分かれてください!えーっと、後2分で開始です!くれぐれも怪我しないように!」

#ナレーション

今日の魔道祭の為に備え付けられた大きな液晶画面に映る時計を確認してこのみちゃんも動きだす。

#ナカミチ

「さて……。」

#ミサキ

「頑張ろうね!」

#クラスメイト

「今日勝たなきゃ準備も意味ねーぜ!」

「勝ちたいから始めたことだからな、勝つぞ」

「ま、本気でやるさ。そしたら勝てるんだろ?」

#ナカミチ

「ああ」

#ナレーション

ナカミチ君もグループのメンバーと軽く声をかけあう。

#ナレーション

計画通り6つのグループに分かれ、そして進行ルートの最終確認をして。

#ナレーション

クラス対抗戦が始まる。

 

 

 

#ナレーション

開始時刻、スピーカーから開始の笛が鳴ると同時に一気に駆けだしていく。

#クラスメイト

「じゃーな!またすぐ後であおーぜ!」

「うるせえ!前見ろ!」

「会えなきゃ終わった後なぐってやるわ!」

#ナレーション

最後に別グループと声をかけあい、分かれたグループごとに別の道へ進んで行く。風紀さんの提案による足の速さを元に決められたグループはそれなりにまとまりながら走って進んで行けた。

#ナカミチ

(とにかく真ん中のスペースをこえなきゃ話にならない!)

#ナレーション

いくつもの仕切りによって作られたフィールドは一定以上の通路の広さはあるものの、いくつもの通路や区画を生み出していた。特に真ん中付近はいくつか大きなスペースが出来ている。

#クラスメイト

「そろそろだ……!」

「了解……!」

「走り抜けるぞ……!」

 

 

#ナレーション

一番の懸念がこの広いスペースだ。水の剣。クラス内で水の棒では恰好がつかないと水の剣と呼ばれるようになった、この剣しか持たない、持てない機械科では広いスペースでは1組のシュート、水鉄砲、クラス内でシュートはそう呼ぶことに決めた。その水鉄砲で狙われると多方面から撃たれひとたまりもない。

#クラスメイト

「よしっ、抜けた……!」

「こっからだぞ……!」

「まて!スピードを緩めろ……!」

#ミサキ

「はあっ!はあっ!ぐうう……!だいぶきつい……!ごめん……!」

#ナカミチ

「いや、大丈夫だ。ここから先はある程度のスピードがあればいい」

#ナレーション

駆け足で決めたルートを走る。

#ナカミチ

(体力の面は想定外だろうか、っ?!)

#クラスメイト

「うおおっっ!?」

「ひるむな!つっこめ!」

「いいから切れ!」

#ナレーション

会敵である。出会いがしら先頭のクラスメイトが相手を切る。

#ナカミチ

「下がるぞ!」

#ナレーション

ヒット判定を受けた相手が宙に浮きステージ外へと運ばれる。

#

ばしゃ!ばしゃ!

#ナレーション

相手側の大声が聞こえるがそれよりも撃たれている水が壁や地面にあたる音が鮮明に聞こえる。これに当たればヒットなのだ。

#クラスメイト

「うおおっと!」

「2人で対応する!」

「いや、数が多かった!俺も残る!」

#ミサキ

「ナカミチ君!」

#ナカミチ

「もう少し……!よし!ルート決まった!行くぞ!」

#ナレーション

他のメンバーが魔動具を持っているのに対しナカミチ君が持っているのはフィールドマップが書かれた紙とペンである。魔動具は腰にかけているようだ。

#ナレーション

ナカミチ君とミサキちゃんが駆け出す。

#ナカミチ

(ここを右、左……!)

#ナカミチ

(くそっ!なかなか思っている以上に遠い!)

#ナレーション

全力で走る2人。始まった時の全力疾走とは別の疲労が来る。ミサキちゃんは限界だろうか。だがやるしかない。

#ナカミチ

(このクラスの女子は根性ある奴ばっかりだな……)

#ナレーション

根性のあるなしは男女区別付けていいのかは知らない。しかしおそらくはこのクラスの雰囲気に全員染まっているのではないだろうか。

#ナカミチ

(次曲がったら!)

#ナレーション

ナカミチ君、腰の魔動具に手を伸ばす。ペンと地図を片手に握り、もう片手に金属でできた手でしっかり握れるそれなりの大きさの杖を持つ。先は水の汎用魔動具であることを示すように水色に染まっている。

#ナカミチ

(よし!)

#ナレーション

水を生成。そのまま保持しながら走り抜ける。敵の後ろ姿が見える、裏取り成功である。

#ナカミチ

「数は3!」

#ミサキ

「了解!」

 

#ナレーション

声がした方向に気を取られる相手チーム。

#ナカミチ

(確かに棒立ちだな……)

#ナレーション

このみちゃんが、人って慣れてないと撃つ時立ち止まっちゃうんですよ。あと視点が非常に狭くなります。と言っていたのをナカミチ君は思い出しながら切りつける。

#ナカミチ

(う……!くそっ!位置が悪い!)

#ナレーション

ミサキちゃんと共に2人切りつけたが、奥に1人残っている。切りつけた相手はいくつもの監視カメラによる審判のヒット判定で魔動具の使用はすでに止められている。が、宙に浮き運ばれていくには若干のタイムラグがある。

#ナカミチ

(まずい!)「っ!」

#ナレーション

ヒット判定が出た場合運ばれるまでその場で待機がルールである。ヒットした相手の向こう側で魔動具を構える姿が見える。水鉄砲による攻撃は剣と違い人の隙間から打ち込めるだろう。

#ミサキ

「ナカミチ君!」

#ナカミチ

「!」

#ナレーション

ナカミチ君の前に出るミサキちゃん。同時に奥で足どめを行っていたクラスメイトが飛び出す。

#クラスメイト

「くっ!おりゃあ!」

#ナレーション

切りつけてヒット判定。

#ナレーション

このフィールドは裏取りを重視しているというのが風紀さんの結論だった。曲がり角が多く、会敵した時の間合いが狭い。出会いがしら攻撃、曲がり角まで下がりつつ見えなくなるところまで下がったら数人で回り道をして裏取り。これが基本だよ。と風紀さんは言った。

 

#ナレーション

そしてこれで五分五分だねぇ。というのが風紀さんの結論だった。

#ナカミチ

「ミサキさん!」

#ミサキ

「うぅ……。大丈夫?ナカミチ君?」

#ナレーション

相手がナカミチ君をめがけて放った水鉄砲はミサキちゃんにあたっていた。

#クラスメイト

「くそっ!……すまん。こっちも2人やられた」

#ナカミチ

「そうか……。」

#ナレーション

相手4人に対してこちらが3人ヒットであった。非常に厳しい結果である。

#ナレーション

切りつけた相手が宙に飛んでいくとすぐにミサキちゃんの体が宙に浮き始める。

#ナカミチ

「ごめん。ミサキさん……。」

#ミサキ

「別に謝らなくってもいいよ。……あのね、ナカミチ君。このクラスにはナカミチ君が必要な子が多すぎるの。わかっているとは思うんだけど。……がんばってね!」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

飛んでいくミサキちゃん。残されるナカミチ君。あともう一人。

#クラスメイト

「あのー、ナカミチ、最後の頑張ってねって俺にも言われてるんだよな……?」

#ナカミチ

「……と、とうぜんだろ。励まされたことだし目的地まで行くぞ」

#ナレーション

再度走り出すナカミチ君達。立ち止まっている時間はないのであった。わかっているとは思うが誰も怪我したり痛い思いとかしていない。基本は水である。心が傷ついちゃった子はいるかも。

 

 

 

#このみ

「あっ。第3班来ましたよ!ナカミチ君こっちです!」

#ナカミチ

「つ、ついたか」

#クラスメイト

「ふひー。もう走れねぇ。ひとまず休憩だな」

#ナレーション

少し小さめのスペースにクラスメイトが集まっている。どうやらここで一度集合らしい。インターバルであろうか。

#このみ

「ナカミチ君の所もなかなか厳しいみたいですね……。倒した数は何人ですか?」

#ナカミチ

「4人だ」

#このみ

「3人やられて4人倒しですか……やはり厳しいです」

#ナカミチ

「今どんな感じなんだ?」

#このみ

「あと風紀さんがリーダーを務めている2班が到着していません。その上での報告だと今うちのクラスが15名と1班生存者、相手側が残り16名引く1班殲滅分です。相手側は倒した相手の数え間違いがなければ、ですが。多分数え間違いはありません」

#ナカミチ

「ううん。きついなぁ」

#ナレーション

対抗戦のルールは殲滅戦である。この後も基本は同じであるがスペースが広い所で戦うことが懸念されている。数で押し込みたい所であった。

#ナカミチ

(風紀さんのグループに期待したいがおそらく同じぐらいだろう)

#ナレーション

他もグループも自分たちと同じぐらいなのだから風紀さんのグループも同じぐらいのはずである。当然の推測である。期待はしたいが願望を入れて予測してはいけない。

#ナカミチ

「とりあえず一息つくか。まだ中盤戦とみた方が良いだろうしな」

#このみ

「そうですね。でも予定ではあと2分後にはここを解散です」

#ナカミチ

「なっ!?もうそんなに時間がたっているのか!?」

#ナレーション

校舎の時計を確認するナカミチ君。確かに解散時刻が迫っている。ここに集合できない班がいる可能性もある。まとまっているところを狙われる可能性もある。情報交換は必要だが解散時刻は厳守だ。

#ナカミチ

(戦闘が長引きすぎた?いや、予想が甘すぎたか?)

#ナレーション

結論としては人数の差である。1組は40名クラス。機械科は37名クラス。誰もがたった3名ぐらいの差だと考えていたのだ。数人であっても人数の差というのは大きいもので、いたるところに読み違えの影響が出ているのである。

#ナカミチ

「とにかく休めるときに休もう」

#このみ

「それがいいですよ」

#ナレーション

ナカミチ君はポケットから飴玉を取り出す。

#ナカミチ

「うぐっ。喉がからからのところに飴玉はきついな」

#このみ

「そうでしょうね……。あれ?ナカミチ君。魔動具の持ち込み許可されたんですか?」

#ナカミチ

「ああ。食品に衛生観念以上の安全面も何もないしな。他人に攻撃とか影響するものでもないし。無いよりはましかと思ってな。うーん。このみも今、飴いらないよな?」

#このみ

「さすがに今はいりませんよ……。同じく喉からからです」

#ナレーション

結局、機械科が製作した魔動具で持ち込みが許可されたのはナカミチ君の飴玉だけであった。というよりもそもそもそれ以外申請されていない。紙やペンなどの筆記具はルール上で持ち込みが最初から許可されていた。もちろん去年からのルールだ。

#ナカミチ

(やめとくか)

#ナレーション

ポケットに戻しながら空を見る。観戦者のざわめきが聞こえる。何を言っているかなんてわからないがおそらく機械科が普通科の1組と拮抗している事にざわついているのだろう。

#ナカミチ

(そんなに意外か……)

#ナレーション

勝ったらさぞざわついてくれるはずだ。がんばれ。

#このみ

「ん?あっ!風紀さん!」

#ふうき

「はあっ!はあっ!」

#ナレーション

1人であった。

#ふうき

「1生存……6排除……。ごほっ。はあ、はあ」

#ナカミチ

「だいじょうぶか!風紀さん!」

#ナレーション

座りこむ風紀さん。

#クラスメイト

「一番の激戦だったみたいだな」

「1生存。6排除って事は……。こっちが16生存、相手が10生存か」

「一応有利には進んでいるのかしら……。」

#ふうき

「……。」

#ナカミチ

「……懸念してたダブルブッキングか?」

#ふうき

「そうだね……。班を分けて裏取りしようとしている時にもうひと組と当たったよ」

#ネネ

「……。」

#ナレーション

ネネさんが何か言いたそうである。ダブルブッキングは予約を2重で引き受けてしまうことの意味である。1つの座席に2人の予約者が存在するような状態なのでダブルブッキングの使い方として間違っていると言いたいのだろう。というか今までさんざん言ってきたのであろう。

#このみ

「とりあえず少し休んでくださ、」

#クラスメイト

「敵だ!」

「えっ?」

「複数きてる!?」

#ネネ

「!火の魔動具!」

#ふうき

「っあああああ!!!解散!ばらけて!」

#さいか

「ひゃああああああ!」

#ナカミチ

「くっ!以降は出会いがしらの切りつけを基本に立ちまわれ!」

#このみ

「全部で3人来てます!」

#ナレーション

想定より早い敵の到着である。いくつか理由があった。1つは火の魔動具を持つ敵であった事。広い範囲で攻撃するフレイムを使う魔動具での立ち回りは相手が多い、集まっているところだけを集中して探す事を予期していなかった。

#ナレーション

そしてひとつは観戦者にあった。1か所に集まっていれば見えている側からすればあまりにも目立つ。その場所を集中して見ながらしゃべる観戦者から無意識的に情報が入ってきて集団を探すという行動に影響が少なからず発生したのだ。

 

 

#ナカミチ

(くそっ!悪い方向に回ってないか!?)

#ナレーション

幸運の問題か、それとも予測不足か、それでも何とかするしかない時である。

#ナカミチ

(発動したか!)

#ナレーション

逃げた場所から一瞬、弱い光が発生する。フレイムである。発動者を中心に火が巻き起こる。

#ナカミチ

「……そうだ!」(あれだけの範囲で発動されたなら使った奴の魔力はもうないはずだ!)

 

 

#ナレーション

来た道を戻る。フレイムによるヒット者が数名。敵は3体のはず。

#ナカミチ

(1人処理されている!残り2人、なっ!)

#ナレーション

集合していた場所の中心地に風紀さんがいる。複数のフレイムを重ねて受けたのか他のクラスメイトのヒット者より服がより焦げている。

#ナカミチ

(一番早く解散の指示を出してたはずだが……)

#ナカミチ

(いた!)

#ナレーション

逃げようとしている2名を発見。敵だ。切れ。

#ナカミチ

「はあっ!」

#ナレーション

1人を飛びかかるかかるように切る。

#ナカミチ

「くそっ!」

#ナレーション

もう1名に届かない。1人で逃げようとする2人を処理するのは難しい。1人が通路に入りこもうとする。いりこんだ道に入られれば追うことは難しいだろう。

#このみ

「よっと。出会いがしらからの切りつけですー」

#ナレーション

敵は入りこもうとした道からひょっこり出てきたこのみちゃんに切られた。

#このみ

「いやー。気付けて良かったですー」

#ナレーション

おそらくこのみちゃんもナカミチ君と同じ様に考えて戻ってきたのだろう。

#クラスメイト

「さすがだな」

「あとたのむな」

「ごめんね。おねがいするよ」

#このみ

「おっけーです。なんとかしましょう!」

#ナレーション

フレイムによるヒットで飛んでいくクラスメイト達。

#ふうき

「……。」

#ナカミチ

「こういう時はなにか言ってもいいんだぞ」

#ふうき

「私が逃げなかったのは相手の目的が私の排除が第一目標だったからだよ。3人をできるだけスペースの真ん中に誘導するにはこれが一番良かったんだ」

#ナカミチ

「ああ。おかげで逃げられる前に倒せたよ」

#ふうき

「あと、1人倒してたのは私が切りつけたからだよ。あと。あと、あっ」

#ナレーション

風紀さんの体が宙に浮きはじめる。運ばれていくのだろう。

#ナカミチ

「ああ。託された分しっかりこなしたな」

#ふうき

「……。いつもさ、なんでわかるの?……キライ。イヤ……。」

#ナカミチ

「俺もここに来るまで後を託されてたどり着いた」

#ふうき

「……ごめんなさい」

#ナカミチ

「後を任せてくれてもいいぞ」

#ふうき

「かっこつけないで。…わかった。じゃあ後任せるから」

#ナレーション

飛んでいく風紀さん。

#ふうき

「あと嫌いじゃないよおぉぉぉぉ」

#ナレーション

飛ばされながら叫ぶ風紀さん。見えなくなった。

#ナカミチ

「ふぅ。さてどうしたもんかな」

#このみ

「どうしたもこうしたもありません。この、すけこまし。うちのクラスでヒットしたのは合計5名です」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

残り11名。相手側が7名。このみちゃんさすがのカウンティングである。ゲーマーの鏡。

#ナカミチ

「と、となるともうすぐ放送が来るか。とりあえず通路に入りこもう。ここじゃ目立ちすぎる」

 

#ナレーション

入り組んだ通路に入ると同時に放送が入る。

#放送

「1組残り5名。101組残り8名」

#このみ

「きましたか……!」

#ナレーション

双方のチームが10名を切るとスピーカーからアナウンスが流れる。殲滅戦の終盤をスムーズに進めるためのものである。えっ?101組って何かって?機械科は100番代を付け加えられている。機械科の1組目で101組である。ちなみに機械科は1組分しかないため102組以降はない。

#ナカミチ

「なんとか押し込めればいいが」

#ナレーション

観客からのざわめきが大きくなってくる。機械科の優勢によるものだろう。

#放送

「1組残り3名。101組8名」

#このみ

「あれっ?もう私たちの出番ないんじゃ……。」

#ナカミチ

「いいことだな」

#ナレーション

観客のざわめきが大きく、静まり返る。どよめきにかわっていく。

#ナカミチ

「ん?」

#ナレーション

スッと、前を影が横切る。反射的に上を見るナカミチ君。なにもない。このみちゃんは気づかなかったようだ。

#放送

「い、1組残り3名、101組残り6名!」

#ナレーション

観客のどよめきが大きくなりまるで喧騒のようになっていく。

 

#このみ

「な、なんでしょう?雰囲気が、」

#放送

「1組残り3名!101組よん…3名!」

#このみ

「なっ!?」

#ナカミチ

「おかしい!このみ!スペースのあるところに出るぞ!」

#このみ

「ええっ!?な、なにを言って、」

#放送

「1組残り2名!101組3名!」

#このみ

「スペースのあるところは私たちにとって不利なはずです!」

#ナカミチ

「そこにいるやつらが全員やられているんだ!」

#このみ

「ぐっ……!」

#このみ

「……っ!わかりました。どうもあわてると頭が回りませんね」

#ナカミチ

「それぞれに得意な事があるんだからいいんだよ!ほら!行くぞ!」

#ナレーション

得意な事があって。それぞれ助けあって。影響を与えあう。行きつく先はきっと素晴らしい結果である。勝つしかない。

 

 

#ナレーション

ついさっきまでみんなで集まっていた場所に三度(みたび)戻ってくる。

#ナカミチ

「予定では1回しか集まらない場所だったのにな」

#このみ

「1回も集まれなかった方もいます。ここで終わった方もいます。そして、ここから離れられずにいた方もいます」

#ナカミチ

「……そうだな。やっぱり勝つしかないな。この戦い」

#ナレーション

少しだけ広いスペースの中央に無造作に置かれた廃車に近づく。

#ナカミチ

「ところでなんで車が置いてあるんだ?」

#このみ

「サバイバルゲームというエアーガンで撃ち合うゲームのフィールドには廃車がよくあるらしいですよ?そう聞いた事があります」

#ナカミチ

「……ともみさんもサバイバルゲーム参加したのか……?想像つかないというかイメージが壊れるんだが」

#このみ

「いやいや。まさか。……いや、でも。……腕にあざを作って帰ってきたことが……時期がゲームを借りた時と……。」

#ナレーション

思い当たる節があるらしい。

#このみ

「いやいや。ないです。あっはっはっ」

#ナレーション

認めなかった。

#ナカミチ

「ん?」

#ナレーション

水の跳ねる音がいくつも聞こえる。複数のシュートによる水のあたる音だろうか。

#

ばしゃ!ばしゃ、ばしゃ、ばしゃ、ばしゃ!

#???

「―――。―――右に―――、そこを左―――。」

#ナレーション

声が聞こえる。

#このみ

「近いですね……。」

#ナカミチ

(この声は……?!)「!来たか!?いや!?さいかさん!?」

#ナレーション

走り出てくるさいかさんの姿が見える。

#さいか

「ナカミチ君!?ともみちゃんも!?っ!隠れて!!」

#ナレーション

叫ぶさいかちゃん。さいかちゃんの言葉に突き動かされるように車の陰に隠れる。ほぼ同時にいくつもの水の弾が車に当たる音がする。

#放送

「1組残り2名!101組2名!」

#さいか

「勝ってください!」

#ナレーション

広い場所。残り人数も少ないた為かすぐにフィールの外へ飛んでいくさいかちゃん。

#このみ

「か、勝ちますから!!!待っててください!!!!」

#ナレーション

飛んで行った方に声を叫ぶ。同時に水の射撃が止む。

#ナカミチ

「な、なんだ!?今の水の弾の量は?!2人で撃ったにしても多すぎる!」

#???

「残り2人。残っているのはナカミチと、ともみちゃん?という子だって、姉さん。声が聞こえたから2人とも車の後ろだよ。あーあ。もう私の仕事無いじゃん、これじゃ」

#ナカミチ

「みしろの声!?後1人はましろか!」

#ましろ

「そうだよ。ナカミチ君」

#このみ

「!件(くだん)の双子さんですか……。なっ!!?」

#ナレーション

車のガラス越しに見える2人。1人が、みしろさんがほうき型の風の汎用魔動具に乗って宙に浮いている。

#ナカミチ

「なっ!!?」

#ナレーション

同じ反応をするナカミチ君。

#このみ

「ナカミチ君!お2人の魔力は弱いっていう話じゃなかったんですか!?と、飛んでますよ!?」

#ナカミチ

「い、いや。生徒であんなにしっかり飛べる奴がいれば学校中の噂になっているはずだ。つ、つまりあれは……。」

#ましろ

「隠してたの。今日が初お披露目」

#みしろ

「ようやく安定した魔力放出ができるようになったからという事で学校側からもお披露目の許可が出たしこのタイミングで発表したんだけど驚いてもらえたよーでなによりってとこ」

#このみ

「で、では先ほどのたくさんのお水はー……。」

#ましろ

「私のシュートだよ」

#このみ

「ま、マシンガン。いや、フルオートみたいなもんじゃないですか!な、ナカミチ君!」

#ナカミチ

「……俺が何とかしようなんて思う必要なかったな。2人で乗り越えられるか。いらん世話だったか……。」

#みしろ

「ほんとにそう。あの時私たちを下に見たのはお前も一緒。そんな奴らを見返すために私たちは朝早くから毎日練習したんだ!」

#ましろ

「……みしろ?」

#みしろ

「え?ましろ姉さんどうかした……?」

#ましろ

「そんなふうにナカミチ君達が私たちを見てたと思っているの?それはだめ。私たち責め立てるような言われ方されて嫌じゃなかった?あとお前って言い方する相手なの?ナカミチ君は」

#みしろ

「あ、あう。ごめんなさいましろ姉さん」

#ましろ

「私は諭しただけだよ。謝る相手じゃないよ」

#みしろ

「ご、ごめんなさい。ナカミチ……えっと、あとこのみさん?」

#このみ

「このみちゃんでいいですよー!いやー。親近感がわきます。私の姉さんもあれぐらいやさしかったらいいんですがねー」

#ナカミチ

「ともみさんもこのみがあれぐらい聞きわけがよく、素直だったらそうするだろうな」

#このみ

「みしろちゃーん!ナカミチ君も聞きわけが良くて素直なみしろちゃんは許すも何もないってかっこつけてますから心配しないでくださいー!わたしも気にしてませんから心配しなくてもいいですー!」

#みしろ

「えっ!?そ、そう?」

#ましろ

「……。」

#

バババババ。

#ナレーション

無言で水の弾が打ち出される。車に打ち込まれ跳ねる水がふりそそぐ。

#このみ

「きゃー。冷たいですー」

#ナカミチ

「言ってない!言ってないぞ!俺も気にしてない!心配するな!」

#ましろ

「姉として謝らないといけないって思ったけどその必要はないね」

#ナレーション

かわいい妹の失敗は何とか肩代わりしてあげたいというやさしさだろう。あとちょっかいをかける者の排除も姉の役目か。とりあえず跳弾による水しぶきはヒット判定ではない。セーフだ。

#ナカミチ

「れ、練習で魔力総量が上がるなんて聞いたことないぞ!どういうことだ!」

#ましろ

「……。」

#みしろ

「魔力総量は前から一緒!私たちは2人で一緒の魔力量を持っているのは知ってるよね?」

#このみ

「ええ。聞きました。つまり1つの魔力総量を2人で使ってるんですよね?」

#みしろ

「そうそう。でも私たちの間の魔力循環がうまくいってなかったみたいでさ」

#ましろ

「魔力を使える量が魔力総量じゃなくて私たちの間にあるとされる魔力の通る量に依存していたの。魔力が通る道にいかに魔力を流しこめるかの練習をしていたの。本来あるはずの力を使うためにね」

#ナレーション

いわゆるボトルネックである。ボトルに入った水が多くてもはその排出量は出入り口の大きさで決まる。感覚としてはそのネック部分を広げたという感じだろうか。

#ましろ

「さて。ナカミチ君。時間稼ぎはまだある?」

#みしろ

「時間稼ぎ?えっ?」

#ナカミチ

「うぐっ」

#このみ

「あっ。シンキングタイムだったんですか。いやー。聞き入っちゃってました。ごめんなさいナカミチ君」

#みしろ

「ひどい。私たちの努力を聞きたかったんじゃないの?」

#ましろ

「ナカミチ君はナカミチ君の為に戦ってるから責めてあげないで。私たちも私たちの為に戦ってるでしょ?ナカミチ君。私たちの魔力が尽きる事はないよ。ついさっきから魔力を使い始めてこの調子だとあと20分程は大丈夫。なぜか最初の会敵が遅かったから助かったかな」

#ナカミチ

「タイムアップまで余裕か……。」

#ナレーション

長引いた際の判定による決着まで後10分を切っている。

#みしろ

「本当助かったね。最初から飛んでたら魔力が足りなくなるから前半上空からの索敵が行えなかったからね。出会いがしらに切られでもしたら目も当てられないしクラスからは魔力の弱い順からフィールドを攻めさせるって作戦をさせられるし。出会わなかったのは私たちの日ごろの頑張りのおかげってところかな!」

#ナカミチ

「いや、おそらく俺達が避けたど真ん中の大きなスペースを通り抜けて行ったんだろう。ちょうど俺達が大きなスペースを避けつつ他の場所でフィールドの真ん中を過ぎたあたりで。出だしも始まってすぐで俺達と同じだしな」

#このみ

「向こうのクラスの作戦ひどいですね」

#ナレーション

2人で身を縮めながらぼそぼそしゃべっている。

#ナカミチ

「……そうだな。さて。いい案が浮かんだ」

#このみ

「まじですか。案が出るにしてもいつもより余裕がありませんか?」

#ナカミチ

「ふむ。なんでかなぁ」

#ナレーション

いつもぎりぎりであった。今日もいつも通り追い詰められているが何か違うようだ。

#ナカミチ

「このみがサポートしているからかもな」

#このみ

「いつもはちょっかい掛けていますからねー。鍛えられたんじゃないですか?」

#ナカミチ

「それだな」

#このみ

「そうでしょうね」

#ナカミチ

「あの2人の心配もなくなったから後はこのみに約束した分だな」

#ナレーション

ましろちゃんもみしろちゃんももう大丈夫だ。1組の最後の2人として残っていて、もう実力がないなんて事もない。そもそも2人は不条理な扱いに負けたりなんてしてなかった。

#このみ

「……姉さんに約束したんじゃないんですか?」

#ナカミチ

「うん?まぁそうもとれるか」

#このみ

「あと、もうそれだけじゃないはずですよね」

#ナカミチ

「ああ。そうだったな。そうだった。ごめんなこのみ」

#このみ

「……たまには私の方からあやまらせてくれてもいいじゃないですか」

#ナカミチ

「あやまるの嫌がるじゃないか」

#このみ

「そうでしたっけ?さてと……。」

#ナレーション

双子を観察するこのみちゃん。

#このみ

「あれ?近づいてきてますよ?」

#ナカミチ

「……フレイムか。ある程度近づいて魔動具無しで放つつもりだろう」

#このみ

「げえっ!あれですか!?」

#ナレーション

このみちゃんの声で止まる双子。

#ましろ

「気付いたかな」

#みしろ

「だとしてもやることは変わらないけどね」

#ナカミチ

「魔動具無しでも4メートルぐらい来そうだな!」

#ましろ

「ふふっ。答えるつもりはないよナカミチ君。今度は気をつけてとも言えないかな」

#みしろ

「言ったら向かってきそうだし」

#ナレーション

どこか嬉しそうに2人とも再度、慎重に距離を測りながら近づいてくる。

#このみ

「信用されてますよ」

#ナカミチ

「まったくだな。だが近づいて来ているのは都合が良いかもしれない」

#ナレーション

再度、縮こまりながらぼそぼそしゃべる2人。悪だくみしているようにしか見えない。

#このみ

「先ほど言ってた案ですか。うふふ。楽しみです。信用できますねぇ」

#ナカミチ

「そりゃどうも。このみにしてもらいたいのはこの先の通路に向かって走ってほしいんだ。ただ俺がこのみについて行くという演技をしてほしい」

#このみ

「ふむ。わかりました。引き受けましょう。では行ってきます」

#ナカミチ

「早いな」

#このみ

「信用してますので」

#ナカミチ

「射線に出るなよ」

#このみ

「まっすぐ行けばいいんでしょう。わかってますって」

#ナレーション

車で射線が隠れるように走り出す。

#このみ

「ナカミチ君!行きましょう!」

#ナカミチ

「よし!」

#ナレーション

走り出すこのみちゃん。動かず返事をするナカミチ君。即興の作戦開始である。

#みしろ

「通路に入っても私が監視するからねっ!」

#ナレーション

車を壁にして逃げようとする2人を追いかける双子。射線を通そうとましろちゃんは横へ動く。そしてみしろちゃんは空中を直線状に動いていく。

#ましろ

「逃がさないよ……っ!ナカミチ君が走ってない!?みしろ!ナカミチ君が!」

#ナレーション

そして逃げているのは1人だけと気づく。

#みしろ

「えっ!?いない!?」

#ナカミチ

「足まで止まるとは思わなかった」

#ましろ

「し、しまった!いけない!」

#ナレーション

結果として呼び止めてしまったましろちゃん。焦って先行したみしろちゃんが車の上で進むのをやめる。

#ナカミチ

「シュート!」

#ナレーション

ぽぉん。と音を立ててナカミチ君の全魔力が車の陰から放出される。ましろちゃんの1玉の半分以下の大きさである。しかしそれで充分だった。

#みしろ

「きゃあ!」

#ナレーション

ヒット。

 

#みしろ

「あ……。濡れて……。ね、姉さん」

#ましろ

「……ごめんなさい。呼び止めてしまったから……。」

#みしろ

「こ、これじゃあ」

#ましろ

「大丈夫。後は任せて」

#みしろ

「でも!」

#ましろ

「大丈夫だから。……見といてね」

#みしろ

「うぅ……。姉さん……。」

#ナレーション

不安そうに飛んでいくみしろちゃん。

#ましろ

「……信じてほしかったな」

#放送

「1組残り1名!101組残り2名!」

#ナレーション

スピーカーの音も喧騒もどこか遠く聞こえる。

#ナカミチ

「今日ばっかりは俺も信じてあげられないぞ。こっちが勝つんだからな」

#ましろ

「……少し堪えるかな。とりあえずもう魔力もないだろうし退場してもらうね」

#ナレーション

ましろちゃんが腰の魔動具を手にとり水の棒を作りだす。

#ナカミチ

「やっぱり2人の距離は重要か」

#ましろ

「うん。ここまではなれちゃうと……ねっ!」

#ナレーション

もうシュートを打つ魔力もないのだろうか。切りつけられようとしている魔力が底をついている人よりはましだが。

#このみ

「まだです!」

#ナレーション

ぐちゅっと水の棒どうしがつばぜり合いをおこす。水どうしがつばぜり合いを起こす姿は何とも不思議である。

#ナカミチ

「このみ!?」

#このみ

「魔力がないんでしょう?助けてあげます」

#ましろ

「かっこいいね。ナカミチ君の影響?」

#このみ

「かもしれません。ゲームはしますがヒーロー願望は無かったはずなんですがね。そういう役目ってのは私の姉さんのような人にこそふさわしいです。一般人がやるとナカミチ君みたいになります」

#ましろ

「いろいろ大変みたいだね。ナカミチ君も」

#ナカミチ

「その場しか助けるつもりないんだけどな」

#このみ

「わたしもそういう人だって思ってました。違いましたけどね」

#ましろ

「うん。最初はそうみえるよね」

#ナカミチ

「……いや。そんなに背負い込めないから」

#このみ

「背負い込めなくなっても私の事は背負ってくださいねっと!」

#ナレーション

行ったん距離をとる2人。

#ましろ

「あの。そういうのって普通は背負ってあげるとか言うんじゃないの……?」

#このみ

「勝手に背負うんですからナカミチ君自身の責任です」

#ましろ

「……。そうかもしれないね」

#ナカミチ

「あれ?」

#ナレーション

いつでもアウェーであった。

#ましろ

「でもナカミチ君には一緒に背負ってくれる人が要るかもしれないよ」

#このみ

「じゃああなたがやりますか?」

#ましろ

「……ううん。私たちとナカミチ君の間柄は終わったから」

#このみ

「そうですか」

#ナレーション

距離を詰める2人。

#ましろ

「はっ!」

#このみ

「うわっと!け、剣さばきが早い!?」

#ナカミチ

「そういやましろは剣道やってたな」

#このみ

「なんですってぇ!?どうして忘れてたんですか!」

#ナカミチ

「単純な剣勝負になるって思ってなかったんだよ!」

#ましろ

「といっても趣味の範囲だよ。段位は取らなかったし高校に入る前に辞めたからね。でも今日は……勝つ!」

#ナレーション

強烈に踏み込んでくる。

#このみ

「段位は取らなかったってそれとれるのにとらなかった人の、うわああ!よ、避ける!避けます!」

#ナレーション

口で言って避けれたらいいが、とりあえずは避けれている。

#ナカミチ

(どうする!?どうしたらいい!?)

#ナレーション

想定以上にましろが魔法を使える。そして強い。このみに通路に入ってもらって出会いがしらに切りつける方向で考えていたがナカミチ君を見捨てるのは考えていないようである。

#ナカミチ

(2人で勝ちぬきたいというのはうれしいが)

#ナレーション

そういうことを考えている場合ではない。

#ナカミチ

(俺が通路に入ってしまえばこのみも通路に入れるか……?いや、ましろを振り切って通路に入る事はこのみには無理だ)

#ナレーション

避けるので精いっぱいのこのみが背中を向けて逃げてうまくいく気がしない。

#ナカミチ

(なにか……!)

#ナレーション

ポケットに飴玉があった。

#ナカミチ

(これだ!)

#ナレーション

口に放り込む。

#

ばきっ!

#ナレーション

噛み砕いてのみ込む。固い飴が噛んだ奥歯に痛みを与えてくる。

#ナカミチ

(これで!)

#ナレーション

ナカミチ君の手持ちに木の枝のような水が生み出される。つばぜり合いもできないだろう。だが当てればヒットだ。ナカミチ君駆け出す。

#ナカミチ

(うしろか…らっ!?)

#ナレーション

ましろとこのみの先にある車のボディにうつったましろと目が合う。

#ましろ

「やああああああ゛!!!」

#ナカミチ

「つうっ!」

#このみ

「ぐうっ!」

#ナレーション

きれいな回転切りであった。ナカミチ君は振るわれた剣先のぎりぎりを踏みとどまり、このみちゃんは剣で受け止めるものの倒れ込む。

#ましろ

「今っ!」

#ナカミチ

「させるか!」

#ましろ

「つっ!」

#ナレーション

飛び込むように水の枝を振るナカミチ君。これでも当たったらアウトである。避けるため横に飛ぶましろちゃん。

#ナカミチ

「くそっ!詰めきれない!」

#ナレーション

届いていない。後少し先にましろちゃんがいる。

#ナカミチ

(もう少し、もう少し先を行くような発想が……!)

#このみ

「飛びましたか……。ジャンプしている時には当たらないっていうFPSは少ないと思いますが……。初心者には当てにくいものですよね」

#ナレーション

このみちゃんの魔動具からぽんっと水が発射される。

#ましろ

「っうああ!」

#このみ

「ですが着地狩りはゲームの基本です。FPSに限ったものじゃありませんしね。ちなみに私は撃つ時に叫んだりしませんよ」

#ナレーション

ましろが着地した位置へと撃ちこまれる。

#ましろ

「ああああああア――!」

#ナレーション

回避行動で大きく体勢を崩している彼女に避ける方法はなかった。

#ナカミチ

「さがれ!フレイムが!」

#このみ

「っ!」

#ナレーション

このみちゃんが飛ぶ。と同時にましろちゃんからすごい密度の火が巻き起こり、止まる。

#このみ

「っあー!」

#ナレーション

上半身から地面につっこむ。すっかりぬかるんだ地面にべしゃあと音を立ててつっこむ。見ていて気持ちいいぐらいのものだった。

#このみ

「た、たすかりました」

#ナカミチ

「その姿は助かってないように見えかねないが」

#ナレーション

どろっどろである。

#ましろ

「……。」

#ナレーション

ましろちゃんは濡れていない。水は届く前に蒸発してしまったらしい。何ともなさそうに見えるが地面に腰が抜けたように座り込んでいた。

#ナカミチ

「じ、人体に影響がないとは言えどんな火なんだ」

#このみ

「当たったら服が燃え尽きそうですね」

#ましろ

「……。」

#ナカミチ

「よいしょっと」

#ナレーション

ぺしっと水の枝でましろちゃんの肩を叩く。

#放送

「試合終了!機械科の勝利です!」

#ナレーション

試合結果が流れるとさらに凄まじい喧騒になる。どこか遠くに聞こえていた声が戻ってきたかのようだ。

#このみ

「……へっ?あっ。な、ナカミチ君!」

#ナカミチ

「勝ったぞ」

#このみ

「……な、なにが、勝ったぞ。ですかあああぁ!すなおに喜べええええ!!!」

#ナレーション

罵りながら抱きついてくるこのみちゃん。

#ナカミチ

「やめろ!おい!!観客がいるぞ!!!このみの親も来てるんだろ!」

#このみ

「えっ。き、きいぃやぁああああああ!」

#ナカミチ

「ぐはっ!」

#ナレーション

突き飛ばされるナカミチ君。きっと照れ隠しだ。許してやるんだぞ。頭から泥につっこんでも、だ。とりあえず立ち上がって泥を払う。

#ナカミチ

「まったく……。」

#ましろ

「……。」

#ナカミチ

「……逃げたらよかったんじゃないのか?少しづつでも魔力が送られてくるんだろう?」

#ましろ

「……うるさい」

#ナカミチ

(うるさいって)

#ナレーション

よく罵られるやつである。それもましろちゃんからである。へたしたらそのうちともみさんにも罵られるのではないだろうか。

#ましろ

「私たちの間にあった魔力全部引き寄せて使ったの。魔法は明日まで多分使えない。それにみしろはもうヒットしてたから。私たちの間にあった魔力を使うのは、あの最後のフレイムは、ルール的にグレーでしょう?」

#ナカミチ

「なぁ。ましろ、」

#ましろ

「ごめん。やっぱりそれ以上はいいよ。またね。ナカミチ君」

#ナレーション

去っていくましろちゃん。試合も終わった。飛ばされず歩いて帰っていく姿はさみしそうである。

#ナカミチ

(大丈夫だろうか)

#ナレーション

ナカミチ君はクラスメイトと自分の心配をまずしたらどうだろうか。

#このみ

「コミュニケーション能力高いですねー。評価バッドもらえますよ」

#ナカミチ

「そうだな」

#ナレーション

否定できなかった。

#ナカミチ

「さて、俺達も帰るか、」

#ふうき

「ぬぅあーカーミーチーくーん!!!!くぉーのぉーみぃーちゃーーん!!!!」

#ナレーション

走ってくる風紀さん。

#クラスメイト

「やったぜええええ!」

「やったなナカミチ!このみさん!」

「よかったなぁ……。ほんとうによかったなぁ……!」

#クラスメイト

「最後は手に汗握ってしまったわ!」

「おふたりのコンビネーションも素晴らしかったです!」

「もう最後までドキドキしっぱなしで……!」

#ナレーション

走ってくるクラスメイト。

#ミサキ

「おっけーだよ!ぐっどだよ!2人とも!やったね!」

#ナレーション

走ってくるミサキちゃん。

#ナカミチ

「……おい」

#ナレーション

そのまま全員ナカミチ君へ特攻。べちゃあ。地面に倒れ込む。

#ネネ

「……えい」

#ナレーション

1名追加。

#さいか

「あの。わ、わたしも」

#ナレーション

もう1名。

#このみ

「どっこいしょ」

#ナレーション

もう1名もう1回。

#ナカミチ

「重いわあああ!」

#ナレーション

跳ね返せるわけもなし。体力ももう残ってない。遠くにましろちゃんが見える。みしろちゃんも一緒だ、迎えに来たのだろう。

#ナカミチ

(うまい事行きすぎたな)

#ナレーション

自分に100点以上をつけたくなるような気持ちだった。よくがんばった。

#ナレーション

その勢いでみんなを跳ね返すのだ。

#ナカミチ

「どけーーー!」

#ふうき

「きゃー!」

#このみ

「わーー!」

#ナレーション

みんな笑顔だった。そしてふと影が。空に何かあるのだろうか。

#くぜ

 

#ナカミチ

(あっ)

#ナレーション

上空で飛んでいるくぜ先生と目が合うとくぜ先生はほほえみながらどこかへ行った。次の試合の準備だろうか。

#ナカミチ

「まぁ、今日はいい日だったな」

#ナレーション

素直に口から出た言葉だった。

 

 

 

 

 

#ナレーション

あれからまた時間は過ぎて―――

#このみ

「おはようございまーす!」

#ふうき

「おはようこのみちゃん!」

#クラスメイト

「おはよー」

「おはよう」

「久しぶりだな」

#ナカミチ

「おはようこのみ」

#このみ

「みなさまおはようございます!ナカミチ君!2年生になっても迷惑かけますんでよろしくおねがいします!」

#ナカミチ

「かけるな。当然という感じで言うな」

#ナレーション

未だ寒い4月もどこか柔らかい空気を持ち始める時期。彼らはもう2年生だった。

#このみ

「春休みは宿題がないのでまずは迷惑かけずにすみましたよー」

#ナカミチ

「朝、ともみさんに迷惑かけたんじゃないのか?」

#このみ

「……。」

#ふうき

「起こしてもらったのか出るのにごねたのか」

#ナカミチ

「どっちもだろうな」

#このみ

「ぐぬぬ……。いいんですよ!おねえちゃんも大学生!高校生の私が迷惑かけたって笑って許してくれます!」

#ナカミチ

(絶対怒られてきたな)

#さいか

「あはは……。おはようこのみちゃん。2年生でもよろしくね」

#このみ

「さいかちゃん!おはようございます!こちらこそよろしくおねがいしますね!」

#さいか

「うん。………ふふふ。やっぱりこのみちゃんはたのしそうにしててほしいな。こっちもうれしくなってくるから」

#このみ

「えっ?そ、そうですか?えへへへ」

#ナカミチ

「……しまりのない笑顔だなぁ」

#ふうき

「春だからね」

#

からからから―――

#ナレーション

教室のドアが開く。

#ましろ

「お、おはようございます」

#みしろ

「おはようー」

#ナカミチ

「!」

#ふうき

「……へぇ」

#このみ

「あれ?ましろちゃんにみしろちゃん。おはようございます。どうしました?うちのナカミチ君がなにかしました?」

#ましろ

「え?あぁえっと。いや、されてないよ」

#このみ

「なにか引き受けたんですか?」

#ナカミチ

「なにもしてない」

#このみ

「なにかしてあげましょうよ!ナカミチ君でしょう?!」

#ナカミチ

「いみがわからない」

#ふうき

「今日から機械科に編入かな?」

#このみ

「えっ!」

#ネネ

「ほう……。」

#ミサキ

「なるほどー。……ええっ!」

#クラスメイト

「えっ!?」

「なっ!?」

「のっ!?」

#ましろ

「うん。そうです。これからよろしくおねがいします」

#みしろ

「よろしくねっ」

#さいか

「よ、よろしくおねがいします?」

#ナカミチ

「来たらいいのにとは思ってたんだがな」

#ましろ

「もともと考えてたの。みしろは初め機械科の予定だったんだけど入学前の精密検査で2人とも1組になったからね。ちなみに私はもともと5組の予定だったんだけどね」

#みしろ

「知り合いがわりとたのしそうにしてるし12月には2人でもう編入しようかなぁってはなしあってたんだけどね。魔道祭であんまりにもみんな楽しそうにしてるから編入したいって思ったんだ」

#ふうき

「ああ。しりあいね。めっちゃ楽しそうな顔するもんね」

#ナカミチ

「なにがいいたい」

#

がらがらがら―――

#くぜ

「席に着きなさい」

#ナレーション

教室のドアが開きくぜ先生が入ってくる。

#このみ

「あっ。くぜ先生!」

#くぜ

「……席に着きなさい。新しく入ったお2人は後ろに席を用意してますからそこに座ってください」

#クラスメイト

「あー。2つなんか増えてると思ったらそれか」

「えっ。いつのまに」

「よく気付いたな」

#ふうき

「いや。気付こうよ」

#くぜ

「全員揃っていますね。今日は全校集会とプリントの配布。その後クラス委員長、及び副委員長を決めます。終わったら寄り道せずに帰りなさい」

#くぜ

「あと今年から機械科に2名編入してきました。みなさんよく知っているみたいなので仲良くするように」

#みしろ

「えっ。あの、先生。自己紹介とかは」

#ナレーション

考えてきたのだろうか。ほほえましい。

#くぜ

「皆さん知っているのにする必要ないでしょう」

#ましろ

「……。」

#ナレーション

驚きの表情である。このノリについて行けるか。

#ナカミチ

(もっともといえばもっともだが)

#このみ

「くぜ先生!せっかくですから席替えをしましょう!」

#くぜ

「あ゛ー。言うと思いました。脈絡も何もありませんが」
#
ふうき

「自己紹介全員でしましょう!」

#くぜ

「……なぜ」

#ナカミチ

「私たちが2人の事を知っていても2人は私たち全員の事を知っているとは思えません」

#くぜ

「……わかりました。とりあえず集会に向かいなさい。あなたたちはいつもぎりぎりだったり人数が少なかったり問題だらけですから」

#このみ

「いやー。お恥ずかしい限りでー」

#ナカミチ

「何も言い返せない」

#ふうき

「まぁ気付かれてるよね」

#ナレーション

柔らかい風が教室を抜ける。新しく入って来た2人は想像以上のなにかを感じていているようだった。

#ナカミチ

(今年は去年より騒がしくなるのだろうか)

#ナレーション

なるよ。話はひとまず区切られることになるが。

#くぜ

「このみさん。ナカミチ君。とりあえず引率をするように」

#ナカミチ

「はい」

#このみ

「了解です!帰ってきたらすぐ席替えしますよ!」

#このみ

「だってもう2人ともクラスメイトなんですから!」

#ナレーション

すこしずつ歩む彼らの道のりはまだまだ途中なのである。

#

The brilliant first memories. END.

#

―――つづく。

 

 

【第2部へ―――】

 

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著作・製作 二ツ橋 のめり

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