※修正前です。誤字脱字。完成品にする前に修正は入りまくります。文法や文体がしっちゃかめっちゃかなのだけは仕様で一生変わりません。すごいね。

※ゲーム作成用のシナリオを少しだけ手を入れてコピペしただけなのでそれなりに読みづらいです。

不完全版です。2018.01.04に完全版になります。……たぶん。

2018.01.04に完全版になりました。それでも修正は入ることになると思われます。修正12回目。現在Ver.1.3.2らしい……。(2019.08.02)

TOPページに戻るのはこちらからだね。

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ーこの道をともに第2部

【配布予定(今後のコミケ)ゲームシナリオ】

※転載はしないでください。

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#ナレーション

朝、8時00分。

#ナレーション

二学期の始まり。

いつも通りの通学路である。

#ナレーション

きつい残暑にふさわしい太陽の存在感は歩くたびにさらにその存在感を増していく。

#ナカミチ

「あっつい」

#ナレーション

口から意識せずでてくる言葉。しかしどうする事も出来ない。学生は歩くしかないのだ。

#ナレーション

彼は何もなかった夏休みに思いをはせるしかなかった。カムバックサマーバケーションである。

#ナカミチ

(去年より熱い気がする)

#ナレーション

それはそうだろう。午後に向けて気温は上昇していくのだから。今年は去年より1時間遅い登校であるようだ。

#ナカミチ

(去年は夏休み明け早々騒がしかったな)

#ナレーション

暑さに耐えかね、ふと見上げた空には晴れ渡る青空しかない。去年にはくぜ先生が飛んでいた事を思い出し、どこか寂しく感じる。

#ナカミチ

(なにもないとそれはそれで寂しいものだな)

#ナレーション

どこまでも身勝手な意見である。喉元過ぎれば熱さを忘れるというやつだろう。しかし残念ながら目下の熱さは暑さであり、暑さは肌の外にある。だがそっちこそは、しかしどうすることもできない。というやつだ。少しでも暑さを逃れたいなら1時間早く家を出てみることである。

#ナレーション

通学路も半分を超し、後7、8分というところだろう。

#

――――――シャァァァァアアア――――――

#ナレーション

後ろから自転車の音が聞こえる。

#ましろ

「おはようナカミチ君」

#ナカミチ

「うん。おはよう」

#ナレーション

後ろから来た自転車に乗った人物が声をかけて、

#ナレーション

そしてそれだけのあいさつを交わし通り過ぎていく。

#

―――シャアアアアア!!―――

#みしろ

「まってよー!ましろ姉ぇー!」

#ナレーション

びゅーん。

#ナレーション

後ろから勢いよく自転車が通り過ぎた。

#ナカミチ

(あいかわらずみしろは俺に気づかないな……)

#ナレーション

ナカミチ君としては気付いてほしいようである。双子が早朝から学校に行く必要がなくなり、普段のナカミチ君の通学時間と重なるようになってからもうだいぶ経つ。

#ナカミチ

(1年の時と比べて変わったな)

#ナレーション

通学時に何度も自転車で追い抜かれるようになって、どうもみしろは自転車に乗っている時は誰を追い抜かしているかまで気を回す余裕はないようだということに気づいた。無視されているわけではないようである。

#ナレーション

決して彼が自分にそう言いきかしている訳ではない。

#ナカミチ

(とにかく早く学校に着こう)

#ナレーション

早く学校について欲しい。暑さの下、切実な願いである。もちろん早く着きたいからと言って早歩きなどという余計熱くなる事はしない

#ナカミチ

(自転車か……)

#ナレーション

去年から変わらないもの。変わらない方が良いものもある。自転車通学の決まりごとは去年からなにも変わっていない。変わる気配もない。

#ナカミチ

(……徒歩通学はつらいな)

#ナレーション

深く考えるべきではない事もある。

#ナカミチ

(通学方法か……)

#ナレーション

ふと情景が思い浮かぶ。校門を視覚認識した時に思い浮かぶのは1年前の始業式。

#ナレーション

この時間帯、学生たちはぞろぞろと学校に入っていく。一体どこにこれだけ学生がいるのか。そう思わずにはいられない。そんな事を考えながら頭に浮かべている光景には3人しか学生がいなかったあの日。タクシーで通学してきたあの子。

#ナカミチ

(ちゃんと学校に来るんだろうな?このみは)

#ナレーション

さぁ?まぁ来たらいいな。ナカミチ君としては来てほしいという事はよくわかった。

#ナカミチ

(……まぁ来るか)

#ナレーション

1学期、このみちゃんの姉である、ともみさんが卒業した事もあり本当に学校に来るのかクラスはたいそう心配したそうな。結局ぐでーっとした顔で来たのだが。だからといって2学期も来ると思うのは願望が過ぎるのではないだろうか。そうでもないだろうか。

#ナレーション

結局というか当然タクシーも止まることなく。ナカミチ君は学校へと入って行った。

#ナカミチ

(……)

#ナレーション

あの日の少し憂いな目をした姿を思い出しながら。

#ナカミチ

(……暑いな)

#ナレーション

そうだなぁ。

#ナレーション

時過ぎて、場所変わり、靴箱前。

#みしろ

「あれ?おはよう、ナカミチ」

#ナレーション

クラスの靴箱前にてナカミチ君、双子と本日2度目の邂逅を果たす。

#ナカミチ

「あぁ、おはよう2人とも」

#ましろ

「えーっと。おはようナカミチ君」

#ナレーション

1人とは本日2度目の挨拶であった。お得感がある。

#みしろ

「双子だと何でもかんでもひとまとめにされる事が多くて。あんまり好きじゃないんだよね、それ」

#ナカミチ

「……おはよう、みしろ。おはよう、ましろ」

#みしろ

「うん。おはよう。ありがとうね。まぁやっぱり長くなるから次からはひとまとめでいいかな」

#ナカミチ

「……。」

#ましろ

「えーと。あはは……、ありがと。おはよう、ナカミチ君」

#ナレーション

2.51.5の挨拶を手に入れた2人であった。ちなみにナカミチ君は合計で5の挨拶を手に入れた。ましろちゃんから3、みしろちゃんから2である。いいペースだ。

#みしろ

「とりあえず教室に向かおう!9月だってのに暑いんだからほんとーに」

#ナカミチ

「毎年残暑が厳しいわけじゃなく涼しい年もあるはずなんだがな。まぁ印象に残ってないな」

#ましろ

「中学生の時に冷夏だって言う年があったと思うけど。どうだったかなぁ」

#ナレーション

大事なのは今である。いま涼しいかどうかが大事だ。そんなもんである。涼しい夏に祝福を。

#ナカミチ

「夏は暑くて冬は寒いのが正しい姿だからほんとはいい話なんだろうけどな」

#ナレーション

経済活動も活発になるらしい。消費活動が大事。貯蓄活動が大事だと叫ばれたのも今は昔。いや、今も大事である。何がって貯蓄の話。夏の太陽の輝きもお金の輝きの前では霞むと言うのか。怖い話だった。

#ナレーション

熱い経済論評を語っていると教室に着いたようである。

#ナレーション

教室に入ると解説がさえぎられるような阿鼻叫喚な修羅場は見受けられなかった。

#ナカミチ

(去年は凄まじかったな)

#ナレーション

思い出を語る程には時間を過ごしてきた。そういうことだろう。

#みしろ

「おはよー」

#ましろ

「おはようございます」

#ナレーション

教室に入るなりクラスメイト達に挨拶をする2人。今年は今年。去年とは違う日々が始まるはずだ。

#???

「朝から女の子と通学なんてナカミチ君もやりますねぇ」

#ナレーション

後ろから声をかけられるナカミチ君。どうやらついに彼女のご登場のようである。

#このみ

「いやー。熱いですー。いやいや、気温の話ですよ。外はお熱い限りで」

#ナレーション

後ろからにゅーっとご登場。このみちゃんである。

#このみ

「おはようございます。約1月ぶりですねー。寂しくありませんでしたかぁ?」

#ナカミチ

「……おはよう。寂しかったのはこのみの感想じゃないのか?」

#このみ

「自意識過剰ですねー。相変わらずのようで」

#ナカミチ

「それはこっちのセリフなんだが……?」

#ナカミチ

(……?なにか違和感?そういうのを感じるな)

#このみ

「まぁ実のところ少し早く学校に着いてしまった事は報告しましょう。このみちゃんは正直者ですからね」

#ナカミチ

「それは珍しいな」

#ナレーション

いつもはもう少し遅い時間に登校してくるのである。そういうナカミチ君もいつもはこのみちゃんと同じ様にもう少し遅い時間の登校である。どっちも寂しかったのか始業式だから早く来たのか。寂しかったからという理由にしとこうか。

#ナカミチ

「あ、今日は寝ぐせがおとなしいのか」

#このみ

「……。」

#ナレーション

この男、違和感の正体に気づく。気付くのは良い方だが言い方がどうも悪い。挙げて落とすテクニックだろうか?そういうのは感心しないぞ。

#このみ

「おとなしいんじゃないです。女の子が身だしなみを整えるのは当然でしょう」

#ナカミチ

「いや、今まで身だしなみを整えるのは面倒だとか時間がないとかだったかな。そう言ってただろう」

#このみ

「へーえ。そうですか。そこまで覚えていただけていたとは。ではその上での感想が寝ぐせがおとなしいですか」

#ナカミチ

「いや、それ以外に何があると」

#ナカミチ

(すごいな……は違うよな。普通に褒めたらいいんだよな?)

#ナレーション

知らん。寝ぐせを直すだけですごいならクラスメイト全員すごい。

#ナカミチ

「……すごいな」

#ナレーション

なぜそれでいったのか。

#このみ

「でしょう」

#ナレーション

最適解だったらしい。

#ナレーション

席にかばんを置きながらこのみちゃんと会話を続ける。

#ナカミチ

「今回は宿題終わってたようだな」

#このみ

「まあ2度寝したら起きれないぐらいには夜更かししましたね。昨晩、後少しの所で寝落ちしてしまったんですよ」

#ナカミチ

「今ちゃんと終わっているんだろうな……。」

#このみ

「大丈夫ですよ。朝、机の上でおきてから終わらせました」

#ナレーション

なんとなく机に突っ伏して寝ている姿が想像できた。寝ぼけながら起きるこのみちゃんもナカミチ君は想像できた。授業中寝てる姿を何度も隣で目撃してればそうなる。しかしその想像しているパジャマ姿は完全にナカミチ君の趣味ではないだろうか。

#ナレーション

灰色に適度な横のストライプがはいっただぼっとしたTシャツにこれまただぼっとした灰色のズボンをこのみちゃんが着ているパジャマとして想像しているようだ。

#ナレーション

色気も女の子らしさもないパジャマである。これがナカミチ君のこのみちゃんに対する評価だと言うならさすがに可哀そうという気もおきなくはない。

#このみ

「あれー?どうしたんですか?私の寝起きでも想像されましたか?でも残念ですが私のパジャマは灰色の柔らかいTシャツとズボンですよ。残念でしたね。そんなもんですよ。あっはっは」

#ナカミチ

「いや、そんなもんだと思ってたぞ」

#このみ

「……。」

#ナレーション

可哀そうという気がおきてきた。

#このみ

「ね、姉さんは紺色のパジャマに猫のワンポイントがついてますから」

#ナカミチ

「別に聞いてないが」

#このみ

「うぅん。今度フリフリのパジャマを勧めてみましょうかねぇ。でも姉さんもフリフリ邪魔としか思っていない節がありますからねぇ」

#ナレーション

うーん。と悩みだしたこのみちゃんであるが解決する事はないだろう。自分で着るつもりは全くないようであるし。

#ナカミチ

(結局なんの話だったんだ)

#ナレーション

寝ぐせのはなしだったはずだ。

#

どしゃっ。

#ナレーション

なにかが落ちたような音がした。どうやらさいかちゃんの机からのようである。机に突っ伏した反動で本が机から落ちたようだ。

#このみ

「おっと。さいかちゃんの危機でしょうか。このみちゃんが今行きますよー」

#ナカミチ

「首を突っ込むだけで終わらないようにな」

#ナレーション

このみちゃんがすっ飛んで行く。ナカミチ君も向かうがさいかちゃんの席ではすでにネネちゃんが落ちた本をいそいそと拾っている。

#ナカミチ

(行かなくても問題解決しそうじゃないかな。というかネネさんの落ち着き具合からなにも問題ないんじゃないかなぁ)

#ナレーション

そう思ってそれでも向かうたぁ面倒見が良いのだろう。

#ナカミチ

「どうしたんだ?」
#
ネネ

「あ、ナカミチ君おはようございます」

#ナカミチ

「おはよう。さいかさんはどうしたんだ」

#このみ

「おっといけませんよナカミチ君。いまさいかちゃんはお休み中です。静かに、静かにです」

#ネネ

「さいかさん今までかかってなんとか夏休みの宿題が終わったんです。今年も塾等が忙しかったみたいで」

#ナカミチ

「去年と違って1人で終わったのか。忙しさが減ったわけでもないだろうに」

#ネネ

「宿題はちゃんとやってこそですがその辺はさいかさんですし問題ないでしょう」

#このみ

「いやー。めでたいですねぇ」

#ナカミチ

「ちゃんとやったのか?宿題」

#このみ

「終わらせました」

#ネネ

「まぁやらないよりはいいんでしょうかね……。」

#ナレーション

なんでもかんでもやるには人生は短すぎる。そういうこともある。

#ネネ

「ですのでさいかさんの事は何も心配しなくていいですよ。どうも終わったので眠気が一気にきたみたいです」

#ナカミチ

「ネネさんはずっと見守ってたのか」

#ネネ

「見守ってたというより前の席ですからね。自分の席に居てただけです」

#このみ

「いえ。ネネさんは気を使っていたように見受けられましたよ」

#ネネ

「そういうふうに感想が言えるぐらいに見守っていてくれていたみたいですね」

#ナカミチ

「そのようだな」

#このみ

「あっはっは。私の事はどうでもいいんですよ」

#ネネ

「このみちゃんは私が来るよりも前から気を使ってたんじゃないんですか」

#このみ

「そうでしょうか?」

#ナカミチ

「……まぁ良い事だろ。とくに隠さなくてもいいんじゃないか。」

#このみ

「そうでしょうか」

#ナレーション

そうじゃない?気づいてくれる人がいる事も気遣える人がいる事も良い事である。

#ネネ

「でも今日はこのみちゃんと変わって風紀さんが遅いですね。普段からぎりぎりに学校に着く様ですけど始業式や行事ごとの日は早く着いているイメージなんですが」

#ナカミチ

「噂をすると来るんじゃないか?」

#ネネ

「失礼じゃないですか、それは。……いえ。すみません。たしかに来そうですね」

#このみ

「そうですねー。久しぶりですから。早く会いたいですー」

#ナレーション

ホームルームは後5分もすれば始まりそうな時間である。

#ネネ

「そういえばナカミチ君、このみちゃんの変化には気づいてますか?」

#ナカミチ

「うん?えーっと。髪型の事か?綺麗に整ってるな。」

#ネネ

「なんというかさすがですね。そっけなさも含めて。」

#このみ

「まったくです。ですが物事は正確に言うべきです。寝ぐせがおとなしくなって、身だしなみを整えるようには見えなかったんですよね」

#ネネ

「そんなふうに言ったんですか?」

#ナカミチ

「そんな悪意に満ちたいい方はしていない!」

#さいか

「うぅん」

#ナレーション

思わず叫ぶナカミチ君。そんな大声ではさいかちゃんが起きてしまわれるぞ。起きてないが、よほど眠いのだろう。

#このみ

「しー。しーっ」

#ナカミチ

「……。」

#ネネ

「まぁその辺りは相変わらずなんですね」

#ナカミチ

「どういうことなんだ……。」

#ナレーション

変わるものもあれば変わらないものもあるということだろう。深いなぁ。

#

ガラッ―――

#ナレーション

教室のドアが開く、担任のくぜ先生のご到着である。

#くぜ

「席に着きなさい」

#このみ

「おっと。さいかちゃん、ホームルームですよ。起きてください」

#さいか

「うぅん。おはよう。このみちゃん」

#ナレーション

半覚醒のようである。さいかちゃん覚醒モードまで後少しのようだ。

#ナカミチ

「じゃあ席に戻るな」

#ネネ

「はい。今学期もよろしくお願いします」

#このみ

「……こちらこそです。では席に戻りましょう……うん?」

#ナレーション

席に戻るとともに気づく。

#???

「…………。」

#ナレーション

くぜ先生の後ろをついてくるように静々と女の子が入ってきているのだ。教卓に立つくぜ先生の横でにこやかに笑っている。

#みしろ

「わぁ……。綺麗な子」

#クラスメイト

「お、大人っぽい……。」

「転校生か?珍しいな。」

「1年前にもこんなこと無かった?」

#ナレーション

クラスがざわつきだす。あと1年前にあったのは断じて転校生ではない。不登校児が生活態度を改めただけである。歴史的瞬間であったな。

#ミサキ

「この学校に転校生っていうのがまず珍しいよね」

#ネネ

「みなさんホームルーム中ですよ。」

#さいか

「……すう。すう。(うとうと)

#このみ

「女の子ですよナカミチ君。打ち解けてもらうためにも優しい言葉をかけてあげたらどうです?」

#ナカミチ

「そういうイメージを勝手に持つな」

#このみ

「しかし転校生の事も気になりますが結局風紀さんはお休みでしょうか……」

#ナレーション

ナカミチ君の右の席から空席になっている左の席を見ながらつぶやく。2年生が始まってすぐの席替えでもこのみちゃん、ナカミチ君、風紀さんのラインは崩れなかった。その時ナカミチ君は頭を抱えたみたいである。

#ナレーション

だが変わったこともある。一番前の席から一番後ろの席に変わった。変わらなかった事に比べるとあまりに些細なことであったが。

#ナカミチ

(こういうイベントの時、一番生き生きしてはしゃぐのが風紀さんなんだがなぁ。はしゃぎながら騒ぎをまとめる役だからな……)

#ナレーション

まとめてさらに大きくするわけであるが。まとまりなくざわつくよりも良いのはあきらかである。

#???

「……。」

#ナカミチ

「……ん゛?!」

#このみ

「おっと。急にどうしました?」

#くぜ

「……私は席に着きなさいと言ったはずです。遅刻扱いで構わないという事ですか」

#ネネ

「えっ。全員席にはついていると思いますが……。」

#ナレーション

騒がしいだけで席から立ち上がっている生徒はいないように見える。

#???

「……(とてとて)

#ナレーション

1人いた。

#???

「……。」

#ナレーション

にっこりと笑みを浮かべてナカミチ君の隣、風紀さんの席に座る。

#このみ

「……えっ」

#ナカミチ

「ふ、風紀さん?」

#???

「…おはよう!ナカミチ君!」

#クラスメイト

「  。」

「……。」

「え、」

#ネネ

「え゛えええぇえっ!?」

#ナレーション

ネネちゃんおどろき一番乗り。

#さいか

「うええええぇえ!!?な、なに!?」

#ナレーション

さいかちゃん、ネネちゃんの大声におどろき完全覚醒を果たす。

#クラスメイト

「えっ。あれ風紀さんなのか?」

「あれ呼びはさすがに……。でも、いや。えぇ?」

「せ、成長?」

#ナレーション

成長と呼ぶにふさわしい変化である。ほら、この時期は成長期であるから。よくあるよくある。

#さいか

「えっ。あれ風紀さんなんですか?」

#ナレーション

覚醒しても寝ていた時間分反応が遅れるのもよくあるよくある。

#ふうき

「やー、やー。どうもどうも」

#ナレーション

各方面へ手を振り、挨拶はかかさず。まさにお披露目式典である。

#くぜ

「静かにしなさい」

#クラスメイト

(しーん)

#ふうき

(ピタッ)

#ナレーション

固定。今はホームルームである。お披露目式典とかではない。

#くぜ

「このみさん、15分後に体育館で始業式です。それまでに体育館に集合しておくように」

#このみ

「は、はい。了解しました」

#くぜ

「配布物、宿題の回収は始業式後に行います。それでは」

#ナレーション

教室を出るくぜ先生。ホームルーム終わり。お披露目式へ。

#ネネ

「な、なんでそうなったんですか!」

#ナレーション

開口一番はネネちゃん。

#ふうき

「い、いや。なんでかっていわれると。成長期?」

#ナレーション

人は自分自身の事でもわからない時があるのだ。

#ミサキ

「初め誰かわからなかったよー。くぜ先生はわかってたみたいだけど……。」

#ふうき

「それはねー。先に廊下で挨拶してたからだねー」

#ナレーション

仕込み発覚。

#みしろ

「そ、そのへんは流石の準備というか。なんていうんだろう」

#ナカミチ

「行動原理は変わっていないようで」

#ましろ

「あの、性格まで変わっていたら怖いからね?」

#ナレーション

多感な時期だし無いとは言えないのであるが。

#このみ

「夏休みに入るまではたしかこの辺だったんですがねー」

#ナレーション

手を自分の目線辺りでひらひらと横に振る。風紀さんの身長がその辺だったのであるが。

#ふうき

「今やおそろい!」

#このみ

「わーい」

#ふうき

「わーい」

#ナカミチ

「なぜ同じ変化でもこう急に変わるのか。……まぁ風紀さんらしいか」

#ふうき

「ん?同じ変化?」

#ナレーション

風紀さんきょろきょろ。

#ふうき

「おぉ。このみちゃん。その髪型にあってるね」

#このみ

「ふふー。そうでしょう。そうでしょう」

#ナカミチ

「髪型という程のものか……?」

#クラスメイト

「えっ。なにか変っているのか?」

「そういうことらしいな」

「……あっ。寝ぐせか」

#クラスメイト

「まぁ気づくのは難しいレベルだけど……。」

「そこで気づけないといけないのよねー」

「女の子も大変だけど、男子も大変ねー」

#ネネ

「ナカミチ君は早々に気づいていたみたいですけど」

#クラスメイト

「そこまでなるつもりはないな」

「そこまでなってほしいとは思っていないわ」

「変わるべきとまでは言わないけど」

#ナカミチ

(なぜ気付いたのに評価が下がるんだ……)

#ナレーション

別に下がっちゃいないとは思う。

#ふうき

「まぁいつも通りのナカミチ君は良いとして変わったって言ったらくぜ先生、また一段と目の下のくまがひどくなってなかった?」

#このみ

「へ?い、いや。どうでしたかね」

#ミサキ

「また急だね。多分だけどみんなくぜ先生よりも横の風紀さんにしか目がいってなかったから分からないと思うけど」

#ふうき

「まぁこういう時はナカミチ君に聞こうか」

#クラスメイト

「節操無いな」

「誰でもいいのか」

「誰もかれもか。尊敬するわ」

#ましろ

「ナカミチ君の評価ってやっぱりこんな感じになるの?」

#ネネ

「うーん。まぁ騒動の中心が数名の女性陣なんですけど、巻き込まれているようで起点にいるのがナカミチ君ですから。ああいう評価になるんです」

#ナカミチ

「騒動の起点が数名の女性陣で巻き込まれて中心に追い詰められているんだ」

#ナレーション

いつもの譲れない一線。全部背負って見せてほしいものである。大体背負っているわけではあるが。

#このみ

「で、どうなんです?」

#ナカミチ

「えーと。ああ。たしかに1学期よりやつれてたな」

#ナレーション

結局、答えてくれるナカミチ君。

#ふうき

「どうやらついにくぜ先生の研究も大詰めなんじゃないかな。と思うんだけど」

#このみ

「おお。くぜ先生が10年追い求めているという噂の」

#ミサキ

「学校に渡されている研究費の半分以上が注がれているという噂なんだっけ。本当とは思えないんだけど……。」

#ふうき

「まぁ色々言われているよね。いろいろ筒抜けになるこの御時世でこの国の唯一と言っていいブラックボックスだもんね。それが近いうちに完成するんだよ。在学中に完成を見れるんじゃないかな?」

#みしろ

「へえー、そんなにすごいものなんだ。あ、もしかしてなんだけど。去年、1年生の間は私たちの魔法訓練にくぜ先生がつき合っていたから、それがなくなって一気に進んだのかもって思うんだけど」

#ましろ

「早朝の時間からホームルームの時間まで大体はお時間を取っていただいてましたから。見る事が出来る時間はちゃんと見ます。って言ってくれたの」

#さいか

「時間がとれるようになってさらに忙しくなったんですね……。でも、そもそも本当に完成間近なんでしょうか。ここまで全部推論だけですけど……。」

#ネネ

「くぜ先生が寝不足っていうところからずいぶん飛んできましたね」

#ナカミチ

「……まぁ、推測は推測だからな。考える分にはいいんじゃないか」

#ミサキ

「というか、そもそも公開されるの?その研究結果って」

#ふうき

「……うん?」

#ナレーション

推測してなかったらしい。

#クラスメイト

「研究結果なんだから公表されるだろ。公表しないなら何のために研究しているんだ」

「いや、最先端の研究は企業ですら秘密にするだろ。ましてこれは国家機密だ」

「国家プロジェクトというやつか」

#このみ

「そういえばうちの学校に渡されている研究費が魔法研究費からではなく国防費から出ているとか何とか」

#ナカミチ

「いや、文部科学省から研究費が出ているって話だろ。教育の研究開発費が研究費に流れているとか」

#ふうき

「え?農林水産省から出ていたんじゃなかったっけ。研究活動費が流れ込んだとかなんとか」

#みしろ

「複雑すぎない?」

#ましろ

「多方面から研究費用が注がれているということかな?」

#ナレーション

結局どうなっているのか。

#ネネ

「結論は魔法学校という特殊性が生んだものだと説明されたはずですが。魔法という分野が未だ応用研究にたどり着かない未熟な分野である為に基礎研究費が学校運営の基本的な運転資金だということで説明がありましたよ。基礎研究費であるため多方面から援助を受けているようです」

#このみ

「そうでしたっけ?そういうの疎いものですから。ニュース見ないもんで」

#ふうき

「あー。そうだった、そうだった。結局よくわかんなかったから忘れたんだっけ」

#ネネ

「私たちが入学する1年前に騒がれた事なんですからもう少し自分が行くかもしれない学校という感じで興味を持ってください」

#ナカミチ

「迷惑かけます……。」

#みしろ

「でもなんで基礎研究費だと多方面からお金を集められるの?よくわからないんだけど。」

#ましろ

「うーん。そう考えるよりも魔法という分野、技術が多方面に影響を与えるかもしれない。可能性があると認めていただいているからお金をいただけていると考えた方が良いかも」

#ふうき

「そう考えられて数十年」

#ネネ

「身も蓋もない一言はやめてください」

#ふうき

「でもついに日の目を見る日が来たと言えるよ。なんせ、それこそ10年規模のくぜ先生の研究テーマだからね。くぜ先生が生徒として在学している時からの特別研究!いやー。それを在学中に見れるかもしれないんだよ?」

#ナカミチ

「おい。話が戻ったぞ」

#このみ

「いろいろ筒抜けになるこの御時世、この国の唯一と言っていいブラックボックスですからね」

#ナカミチ

「続けるな」

#ふうき

「だめだよ、ナカミチ君。やっぱり人生には余裕がないと」

#このみ

「そうですそうです。別に急ぐ用事もないんですから。時間を無駄にぜいたくに使えるのは若者の特権ですよ」

#ナカミチ

「そうは思わない」

#ナレーション

思想の違い勃発。

#このみ

「まぁできれば有意義に使いたいですよね」

#ナレーション

思想の違い終わり。有意義に使いたいものだ。使いたいものがあればの話であるが。少年老い易く学成り難し。夢を持ちたい。

#さいか

「……あの。今ってそんなに時間ありましたっけ」

#ましろ

「……なかった」

#ナレーション

体育館に到着まで後5分。5分で到着しないといけないのだから到着までは後5分。5分以上かかりそうだとしても後5分で到着するのである。それ以外の選択肢など無い。

#ナレーション

選択肢がない時と言うのは現時点で詰んでるからである。過ぎ去った日々に乾杯。このゲームは開始時点から選択肢がない訳であるが。やらずに積まないでください。これからの日々に乾杯。

#ふうき

「まぁ有意義な時間だったからセーフ」

#ナレーション

体育館というベースを踏んでから言うべきである。

#ネネ

「アウトですよ!」

#ナレーション

アウトカウントが出た。

#ミサキ

「なんにしてもまず動こうよ。ナカミチ君。このみちゃん。いつも通りお願いね。」

#このみ

「はーい。教室の戸締りやっちゃうんで廊下にならんどいてください」

#クラスメイト

「あー。こういう感じ久しぶりだよなー。夏休み明けの感覚が抜けきったぜ」

「本当にいつもどおりって感じ」

「こういうのも安心感っていうんだろうな」

#ナカミチ

「なにを感じるにしてもなんにしてもまず出てくれないか」

#みしろ

「なんでこうひと騒ぎ起きるのかなあ」

#ましろ

「なんだかんだで慣れちゃったけど」

#ナレーション

このみちゃんにナカミチ君、急いで教室の戸締りをし、体育館へ。

#ナレーション

クラスを先導する2人は去年から引き続き委員長と副委員長を務めているようである。

 

#ナレーション

あわただしくはあるが何か物事が遅延するわけではなかった。結局のところ、始業式には遅れなかったし、その後のホームルームも宿題回収ぐらいしかなかったし、それも、誰も忘れた人がいない、もしくは忘れたということにした人はいなかったのであるからすぐに終わったのである。

#ナレーション

靴箱前。

#クラスメイト

「今日は取りやすかったー」

「誰かの腕がわたしの胸にあたったんだけど……。」

「あたるほどあってよかったですね」

#ナレーション

靴箱に押し掛けるいつもの光景。

#ましろ

「いつも思うんだけどこの混雑で取り出すタイミングっていうのはわからないな」

#みしろ

「ましろ姉さーん。私はー。タイミングわかってきたよー」

#ナレーション

みしろちゃんは人の壁になっている靴箱前から手を入れたり引っ込めたり。とりあえず上履きを直せたようだ。今年からクラス編入した2人は未だこのよくわからない競争に慣れないようである。

#ましろ

「うーん。私もがんばらなきゃ」

#ナレーション

頑張る必要があるのかどうか。

#ナレーション

まぁとにかく1人の少女が決意を新たにしているところ、少し離れた場所で1人の少女、このみちゃんが誰もいない場所を見つめていた。

#ナレーション

手には登下校用の革靴がある。すでに靴箱から取り出している辺り、人波から靴を取り出すのは1年ですっかり慣れたようだ。

#ナカミチ

「帰らないのか」

#このみ

「ふむ。さっさと帰ってほしいということでしょうか」

#ナカミチ

「そう言ったように聴こえたか?」

#このみ

「いつもだとそうは言ってないとか冷淡な感じですよね」

#ナカミチ

「あしらい方も慣れるもんだからな」

#このみ

「……ふーむ。いえ、去年を思い出していただけですよ」

#ナカミチ

「去年、か」

#ナレーション

彼は思った。思い返してみるとあれほど騒々しい日はなかった。実際に忙しかったとか、規模が大きかったとか、騒がしかったとかではなく。記憶の中で、一番騒々しく映る日だった。

#ナカミチ

「ここで家庭科の宿題がある事に気づいたんだったよな。いや、その前にひと騒ぎあった。このみのお姉さん、生徒会長だったともみさんが来て、これもまたひと騒動だった」

#このみ

「そうですね」

#ナカミチ

「あの時はこのみもまだまだおとなしかったかな」

#このみ

「そうですね」

#ナカミチ

「その時のこのみはゲームをしたがって早く帰りたがっていたんだけどな。今はなりを潜めてしまったかなぁ」

#このみ

「……ふむ。やはり早く帰ってほしいように見えます。帰ろ帰ろ。ではまた明日」

#ナレーション

そういうやいなやとんとんと軽快に帰って行った。

#ナカミチ

(いろいろ変わっていってるもんだなあ)

#ふうき

「あれ?このみちゃんは?」

#ナレーション

風紀さんである。

#ナカミチ

「帰ったよ」

#ふうき

「そっかー。久しぶりに途中まで一緒に帰ろうと誘いたかったんだけどなー」

#ナカミチ

「5分もしないうちに帰り道分かれるよな」

#ふうき

「そういうところを時間で考えるなんてひどいねー。じゃあ一緒に帰ろうかナカミチ君」

#ナカミチ

「すいませんでした」

#ナレーション

なにをされるわけでもないはずだが用事もないのにここで一緒に帰るとクラスでうわさされる。ヘタすると学校中で。幼い感じだった女の子が大人っぽくなるや否や一緒に帰る奴。こんな感じで。信用がた落ち。

#ナレーション

そもそも用事も理由もないのに女の子と一緒に帰る不道徳さは持ち合わせていない。というのが今、彼の考えているところだが、はてさてそれが良いのか悪いのか。

#ふうき

「断られちゃしかたないね。じゃあ、わたしも帰るよ。じゃあねー」

#ナレーション

とてとてと帰っていく。成長してもやっぱり言動は変わらないなと歩く風紀さんの後ろ姿を見て思うナカミチ君。

#ましろ

「あれ?ナカミチ君はまだ帰らないの?」

#みしろ

「もう他の子たちは帰ったけど」

#ナレーション

靴箱前の人がいなくなりやっと靴を取り出し終えたましろちゃんがいた。みしろちゃんは無論、姉を待っていたのだろう。仲が良い双子というのはそれだけでいいものである。

#ナカミチ

「いや、もう帰るよ」

#ましろ

「そう?じゃあまた明日」

#みしろ

「じゃあねナカミチ」

#ナカミチ

「ああ。じゃあな」

#ナレーション

双子の後ろ姿を見送り、彼はもう一度このみちゃんが見ていた場所を振り返る。

#ナレーション

あの日の情景が浮かぶ。このみちゃんがクラスメイト達と交流を始めた日。学校に行く事を自ら始め、求めた日。今、しんと静まる校舎でナカミチ君は1人で、少し心配事をいだき始めていた。

 

#ナレーション

一週間後。

#ナカミチ

(あっつい)

#ナレーション

口に出ないだけまだましな暑さであるようだ。去年のような残暑は無いようだと感じながら通学していた。

#ナレーション

靴箱前に差し掛かったところでナカミチ君このみちゃんを発見。

#ナカミチ

「おはようこのみ」

#このみ

「ああ、どうも。おはようございます」

#ナレーション

靴箱の鍵を開けながら返事を返してくれるこのみちゃん。

#このみ

「まだまだ残暑はきびしいですね。まぁ1年前はもっと暑かったですが」

#ナカミチ

「まったくだ。2週間後まで厳しい暑さだったからな」

#このみ

「そうですねぇ」

#ナカミチ

「今年はどうだろうな」

#このみ

「んー?んー。その時になってみないと何とも言えないでしょう」

#ナカミチ

「まぁ。それはそうか」

#このみ

「ほら。早く教室に行かないと遅れますよ」

#ナレーション

予鈴まで後5分だろうか。

#ナカミチ

「いや、まだ靴も取り出していないし。後から行くから先に行っといてくれないか」

#このみ

「わかりましたよ。1人で寂しいですー」

#ナカミチ

「今日だけだから」

#このみ

「……そうですか。じゃあまた教室で」

#ナレーション

このみちゃんが教室に向かうのと同時に校舎を出る。ポケットからスマートフォンを取り出す。電話をかけるようだが。

#ナカミチ

(緊張するな……)

#ナレーション

この学校では携帯、スマートフォンの使用は禁止されていない。もちろんゲームアプリの使用と授業中の使用は禁止されているのだが。

#ナカミチ

(さて、繋がるかな……)

#ナレーション

数秒もしないうちに通話中になる。応答してもらえたようである。

#???

「もしもし?」

#ナカミチ

「もしもし。ともみさんでしょうか?このみさんのクラスメイトのナカミチです。お久しぶりになります」

#ともみ

「お久しぶりです。私が卒業して以来ですね。そちらは……、もうすぐホームルームの時間だと思いますが。……このみになにかありましたか?」

#ナカミチ

「いえ。普通に登校していました。いや、そのこのみの件なんです、いや、このみさんの件なんですが。今、お時間よろしいですか?」

#ともみ

「ええ。講義前ですからね。始まるのはそちらのホームルームより後なぐらいです。場所も問題ありませんよ」

#ナカミチ

「そうですか。まだどうなるか分からないんですが、放課後にまた電話をする時間をいただけませんか?お願いしたい事がおそらくあると思います」

#ともみ

「ふむ。放課後と言うと5時ぐらいと思えばよろしいでしょうか」

#ナカミチ

「そうですね。お願いします」

#ともみ

「ええ。わかりました。お電話お待ちしていますね」

#ナカミチ

「ありがとうございます」

#ともみ

「ああ、それと。私の前ではこのみに敬称はつけなくて良いですよ。このみがそう呼ばれるのを望んでいるんでしょう?」

#ナカミチ

「い、いえ。別にいつのまにか敬称をつけなくなっていただけです。申し訳ありません……。」

#ともみ

「あれ?そうなんですか。……ふむ。まぁそれでも敬称は要りませんよ。このみはきっとナカミチさんによそよそしくされるのを好んでいないと思いますから。ではまた後ほど」

#ナカミチ

「はい。よろしくお願いします。失礼しました」

#ともみ

「いえ。ではこちらも失礼いたしますね」

#ナレーション

ほどなくして通話が切れる。

#ナカミチ

(ひとまずうまくいったかな)

#ナレーション

なにがうまくいって、何をやろうとしているのか。だが、まずはその連絡先。どうやって入手したというのか。

#ナレーション

間違いなく在学しておられた去年まで、この学校一の高根の花。男女人気圧倒的。そのような方の電話番号であるぞ。さぁきりきりはけぃ。

#ナカミチ

(教室に向かうか)

#ナレーション

そりゃそうである。思考の流れとして当然である。よく考えれば説明はナレーションの仕事のような気がする。このままでは無意味なことしかしゃべらないナレーションになってしまうではないか。

#ナレーション

ええと。時さかのぼる事6か月前。ともみさんの卒業式。1年生はお祝いの為に全員出席。その時にこのみの事でなにかありましたら、と連絡先をいただいたわけである。

#ナレーション

姉の心配事は自分より妹であるようだった。ちなみに風紀さんも連絡先をもらって喜んでいた。

#ナレーション

と言ったところである。仕事終わり。存在証明。

#ふうき

「急がないと遅れちゃうよー」

#ナカミチ

「えっ?」

#ナレーション

ぴゅーと横を通り過ぎていく風紀さん。靴箱から手際よく靴を取り出し、直す。

#ふうき

「おはようナカミチ君。じゃ、あとで」

#ナカミチ

「え、あ。おはよう風紀さん」

#ナレーション

挨拶を交わすと校舎奥、教室の方へすーっと向かっていく。

#

キーンコーンカーンコーン……

#ナカミチ

(急ぐか……)

#ナレーション

予鈴が鳴り、本鈴まで後5分である。靴をしっかり履き替え教室に向かう。その後は、なんとかくぜ先生より早く教室に着けたようであった。

#ナレーション

お昼休み。

#ナカミチ

「……。」

#ふうき

「おーい」

#ナレーション

ナカミチ君動かない。完全沈黙である。

#ふうき

「ついに動かなくなってしまった……。」

#このみ

「使い倒したから……。」

#ナレーション

4限目の体育。ドッジボールだった。だったわけだが。

#ナレーション

まぁ普通よりボールが多かっただけである。数4。最後に残ったナカミチ君が4方向からの弾を、じゃなく、球を必死で避けていたわけだが。

#ナレーション

疲れ果てていたところに思いっきり3発ヒット。よろめいたところに1発投げそこなったボールが足元に転がってきて踏んで転倒。ナカミチ君ノックアウト。コンティニューは人生に何回もチャンスがある限りやってくるさ。信じる心。

#さいか

「ごめんなさい、ナカミチ君……。」

#ナカミチ

「……いや、さいかさんのせいではないし。たまたまだよ。怪我もないから」

#さいか

「そう言っていただいても……。」

#このみ

「いやいや、気にしちゃダメですよ。よくあることじゃないですか。ナカミチ君がえらい目にあうの」

#ナカミチ

「よくある事はおかしいと思っているが」

#ふうき

「いやー。うん。みぞおちに入ったのは申し訳なかったけどね」

#このみ

「風紀さんが正面から投げたボールですか」

#ふうき

「うん。なんか思いっきり投げたら回転がかかったみたいで最後にふわってボールが浮いたの。さながらボディーブロー。いや、ストマックブロー?」

#ましろ

「うーん。わたしも張り切りすぎちゃったところはあったかな。ごめんね」

#みしろ

「ナカミチがあまりに避けるからつい」

#ナレーション

つまり、ましろちゃんとみしろちゃんの2人が陣地外の外野から息の合った攻撃にナカミチ君が追い詰められながら避けていたのだが。

#ナレーション

2人が勝負を決めようとしたのに気づいて風紀さんが攻撃を追加。これまた気付いたさいかちゃんも攻撃、体がついて行かず投げそこなってボールが転がって行った。

#ナレーション

もうすでに体力の限界で動けなかったナカミチ君の両サイドから勢いのある球が。押しつぶされるようにはさまれてヒット。ワンテンポ遅れて正面からブロー。ふらついた足の先になげそこなった球がころころと。ナカミチ君、踏みつけて転ぶ。

#ナレーション

ころっ、ビタアァァン!

#ナレーション

まぁそんな感じで、つまり転倒は大きなけがにつながる事もあるから気を付けようということである。

#ナカミチ

(転んだ痛みは体勢が良かったのか無かったけど肺の空気が全部無くなった気がしたのがきつかったな……)

#ナレーション

両サイドから押されて正面から押されて。きつい。

#ナカミチ

「とにかくもう大丈夫だから」

#ナレーション

平静さを見せつける為にかばんからお弁当を取り出す。食べ盛りだし。よく食べると良い。

#さいか

「うぅ……。やっぱり大丈夫じゃなかったんですね……。ごめんなさい……。」

#このみ

「あ、ナカミチ君ミスりましたね」

#ナカミチ

「いやいや。こけた痛みは無かったから。こけ方が良かったんだな。倒れた時、受身の体制になったんだろ」

#ふうき

「あぁ。ごめんなさいナカミチ君。私の一撃が……、致命傷に……。」

#このみ

「なんていう悲劇なんでしょう。こんなことになるなんて」

#ナレーション

誰かを救おうとしたら誰かが傷つくことになってしまった。一体ナカミチ君はどうすればいいのだろうか。

#ナカミチ

「なんの痛みもなかったから」

#ましろ

「さすがだね」

#みしろ

「さっきまでそんなふうには見えなかったのが難点だけどね」

#ナレーション

ナカミチ君はつらさを背負う。

#ふうき

「じゃ、お昼食べよっと。やっぱご飯は憂いなく食べないとおいしくないからね」

#このみ

「まったくです」

#みしろ

「ましろ姉さん。私たちもお昼食べようよ」

#ましろ

「そうだね」

#さいか

「私も早く食べなきゃ。失礼しますね」

#ナカミチ

(まあ心配してくれてたんだよな?)

#ナレーション

そう思いながらお弁当を開けていく。まぁ、なにも思ってなきゃ集まってこないだろうしそう思っても良いかもしれない。違ったらどこまでも悲しいが。

#ナレーション

ナカミチ君のお弁当はお肉の煮付けや采物等に白ごはん、和食っぽい。

#このみ

「お肉が足りませんね。あげます」

#ナレーション

人さまのお弁当を横から興味のままのぞいたこのみちゃん。白米の上にぺちっと豚の生姜焼きが置かれる。

#ナカミチ

「あ、ありがとう」

#ナレーション

のぞき返したこのみちゃんのお弁当は生姜焼きにブロッコリー、プチトマトが少量。あと卵焼き。ご飯。見ているだけでおなかが減ってきそうな出来だった。

#このみ

「じゃあなんかください。そのお弁当の横、小さなパックに入ってるやつだといいですね」

#ナカミチ

「……別にかまわないけどな」

#ナレーション

トレイを開けるとデザートの羊羹である。これまた鮮やかな羊羹。

#このみ

「じゃ、1個もらいますねー」

#ナレーション

一切れ自分のお弁当のふたに乗せ換える。

#このみ

「前からおいしそうだと思ってたんですよ」

#ナカミチ

「普通に催促できないのか」

#このみ

「いえいえー。女の子ですからー。浅ましいまねはできないですー」

#ナカミチ

「普通に言ってくれ」

#ふうき

「あんまりゆっくりしてるとお昼休み終わっちゃうよ?」

#ナレーション

気づけばお昼休みも後20分ほどだった。

#ナレーション

お昼ご飯もなんだかんだ味わって食べ終えてそろそろ午後の授業。

#ナカミチ

(絶対寝てしまう……)

#ナレーション

起きていたい。授業を聞きたい。理想は高く、現実の前に滅びる。今までの十数年という歴史を振り返ってもなんとかできた事がないのがわが身であると気付いているのに。それでも自分を信じたいのだ。それを愚かと思うか。それこそ人の価値感である。

#ナカミチ

(このみより先に寝てしまうのは負けた気がするからいやだなぁ)

#ナレーション

勝手に勝負しているがいいのだろうか。

#ナレーション

とにかく自覚あるなし別にして落としたハードルは乗り越えられるだろう。このみちゃんよく寝るし。

#

キーンコーンカーンコーン……

#ナレーション

鳴った。5限ファイト。

#ナレーション

相手はなぜか寝る気配がなかった。ナカミチ君は気づけば負けていた。

#ナレーション

6限目も終わったり清掃時間も過ぎ去ったりしてホームルームである。

#くぜ

「連絡事項はありません。気をつけて帰るように」

#このみ

「きりーつ」

#ナレーション

終わった。

#ナレーション

教室に帰りのあいさつが響き今日も終わっていく。そんな物である。

#このみ

「ふんふーん」

#ナレーション

机の中のものをかばんにドサドサとほうりこみながら帰る準備をするこのみちゃん。

#このみ

「さて帰りましょうかねー」

#ナレーション

準備万端。家に帰ってゲームである。多分であるが間違いないだろう。

#ふうき

「たまには一緒に帰ろうかー」

#ナレーション

ひょこっと表れる風紀さん。

#このみ

「おっと、風紀さんどうしました?」

#ふうき

「どうしたもこうしたも2学期に入ってから一緒に帰ってないからさ」

#ナカミチ

「一緒に帰りたいなら毎回誰かが靴箱前で数十秒待てばいい話なんだがな」

#ふうき

「いや、靴箱から素早く靴を取りだして素早く学校から出る遊びなんだから待っちゃだめじゃん」

#ナカミチ

「なんであの遊びが競技みたいになってるのかわからないんだが」

#このみ

「それでもつい続けちゃうんですよね。全員参加するから面白いんでしょうか」

#ナカミチ

「聞かれても困るんだが」

#ふうき

「遊びか競技かは分からないけど自然発生したものがうちのクラスにはいくつかあるからねぇ」

#ナカミチ

「言ってなんだけど競技じゃないな」

#このみ

「競ってるんだから競技じゃないんですか」

#ナカミチ

「……そういわれたらそうとしか言えないな」

#このみ

「というかナカミチ君も一緒に帰る気満々なんですねぇ」

#ふうき

「いつだったか女子2人と一緒に校舎を歩くのすら拒否した事があったねぇ。あれももう半年前かぁ」

#ナカミチ

「俺にも言葉をかけられた感じがしただけだったんだが」

#このみ

「そうなんです?」

#ふうき

「まぁかけるつもりではあったんだけど」

#このみ

「自意識過剰ですって」

#ナカミチ

「曲解だろ」

#ふうき

「さぁ?」

#このみ

「答えが無くなりましたね」

#ナカミチ

「ややこしくしてるだけじゃないか」

#ふうき

「そう?」

#このみ

「さて、お誘いはありがたいんですけどね。どうしましょうかね」

#ナカミチ

「とりあえず教室も閉まるだろうし靴箱前に行こうか」

#ナレーション

教室にはすでに戸締りをしている日直しかいない。

#ふうき

「今頃靴箱はごったがえしかなぁ」

#このみ

「今日は不戦敗ですね」

#ナカミチ

「不参加じゃダメなのか?」

#ナレーション

そんな事をしゃべりながら靴箱前に。すでに戦の後、静けさが漂っている。跡地にて何の障害もなく靴を入れ替える。

#ふうき

「なんだかんだで学校の3年間も半分が過ぎようとしているね」

#ナカミチ

「……あっという間なんだよな」

#このみ

「ざっとふり返るからですよ。1日1日ふり返って見るといろいろあったと思います」

#ナカミチ

「……そっか。今日も色々あったもんな」

#ふうき

「ナカミチ君はいろいろある事全部に関わっているからね。人生が豊かだね」

#このみ

「豊かな人生を歩めるのは素晴らしい事ですよ。大事にして行ってください」

#ナカミチ

「休息も欲しいんだが、いや、そうだな。大事にはしたいかな」

#このみ

「がんばってくださいー」

#ナカミチ

「他人事でいられる立場でもないと思うんだが」

#このみ

「そうですかねぇ。私たちのクラスが動くエンジンってナカミチ君なんですよ?かじ取りが風紀さんなんです。気付いていますよね?」

#ふうき

「まぁ他人事ではないにしても立ち位置が違えば感覚というか体感は全然違うよね」

#ナカミチ

「いやいや。計画、指揮があって賛同が得られればうちのクラスは動く。過剰な評価を持ってくれるのはうれしいけど代わりにクラスメイトに悪い気がしてくるからやめてくれ」

#ふうき

「うわ、すっごい模範解答」

#このみ

「誰からも高得点をもらえそうな答えですねー。満点は誰からももらえなさそうですが」

#ナカミチ

「なんで責められているんだ」

#ナレーション

さぁ?なんでだろうな。まぁなんにしても。いつか原動力とか、かじ取りとか、リーダーとかが誰の役目とか関係なくなるといいな。

#ふうき

「でもこのみちゃんもどっちかっていうと、というよりナカミチ君の言った考えってナカミチ君よりこのみちゃんの方が近いんじゃないの?」

#このみ

「…えっ。そうですかねぇ」

#ナカミチ

「そうか?」

#ナレーション

ちょうど分かれ道に着く。帰る方向が分かれる。まだ話は途中だから立ち止まる。延長戦。

#ふうき

「そうだよー。このみちゃん今年も委員長引きうけてくれたじゃない」

#このみ

「委員長だと、計画、指揮があって賛同が得られればうちのクラスは動く。という考え方になるんですか?」

#ふうき

「それはナカミチ君がいつもの自己評価に対するへりくだった言い方だから好ましくないんだけど」

#ナカミチ

「じゃあ引き合いにだすなよ」

#ふうき

「賛同を得るのは委員長の仕事だからね。計画も指揮も動く先も、動くクラスメイトも信じてるんでしょ?」

#このみ

「……ええ、もちろん」

#ふうき

「じゃあやっぱり委員長を引き受けてくれたこのみちゃんの考え方だねー」

#このみ

「いえ。そう聞いてわかりました。やっぱりそれはナカミチ君の考え方ですよ。そして風紀さんもそうだと思います」

#ふうき

「いやー、そう?そうだよねー。うん。そうだね」

#ナカミチ

「もう少しぐらい悩むとかへりくだってもいいんじゃないか」

#このみ

「いやいや。お二人とももっと自信持っていいですよ。……さて、そろそろ帰りましょうかね」

#ふうき

「えー。もうちょっといいじゃんー」

#ナカミチ

「いや。また明日でいいだろ」

#ふうき

「んー。まぁそうだね。そうしよっか」

#このみ

「ま、そういうことで。では風紀さん。失礼しますね」

#ふうき

「うん。また明日」

#ナカミチ

「またな」

#このみ

「ナカミチ君、さようなら。じゃ、帰りますー」

#ナレーション

言うや否や分かれ道を右に曲がって去っていく。すぐに見えなくなる。

#ふうき

「だめだね。20点ぐらいかな」

#ナカミチ

「狙って盛り上げるってのはやっぱり無理だなぁ」

#ふうき

「やっぱりわかってるとは思ってたけどどうするの?きっとこのみちゃんもう学校行かない気だよ?あれでよかったの?」

#ナレーション

風紀さんがナカミチ君に問い詰める。

#ナカミチ

「う、うん。すこし任せてほしい」

#ふうき

「ふーん。せっかく切りこんで話しようと思ったのにー。3人でー。2人でいいんだー。仲間はずれー」

#ナカミチ

「いや、……。ごめん。」

#ふうき

「別に軽いノリで返してくれてもよかったんだけど」

#ふうき

「まあいいや!ナカミチ君が何とかしてくれるんでしょ?」

#ふうき

「じゃあ大丈夫だね」

#ナレーション

ふうきさんが分かれ道を左に曲がる。

#ナカミチ

(どうしてそこまで)

#ナレーション

信用してくれているのかって?評価である。きっと至極正当な。

#ふうき

「じゃあまた明日」

#ナカミチ

「……。ああ、またな」

#ふうき

「うん!これからもよろしく!」

#ナレーション

最後にふり返って帰っていく。ナカミチ君は風紀さんの表情がどこか不安に見えた。

#ナカミチ

(そりゃ不安だよな)

#ナレーション

もしかしたら自分が勝手にそう解釈しているのかもしれない。自分自身の中にある不安がそう見せているんじゃないかと彼は思った。不安に思っているのは彼か彼女かあの子か。

#ナレーション

ポケットからスマートフォンを取り出し電話をするか思い悩む。すぐにでも電話をしてしまいたかった。普通、躊躇や二の足を踏むものだと思ったがさっさと用件を話してしまいたかった。

#ナカミチ

(早く帰ろう)

#ナレーション

ちゃんと話さないといけない事だから。と、帰ってから電話をすると自分を戒めた。先延ばしにしようとしてないよな、と自分に問い詰めたくなりながら、わかれ道をまっすぐ歩いて行く。

#ナレーション

彼は自分を信じたかった。まちがっていない理由が欲しかった。だけれども一番信じたいことは他にあるような気がして、

#ナカミチ

(俺のわがまま、聞いてもらうからな)

 

 

#ナレーション

朝、8時00分。

#ナレーション

あれから1日後。昨日の明日。今日の今日。

いつもとは少し違う景色。

#ナレーション

ナカミチ君はスマートフォンの地図アプリを見ながら歩く。ながら歩きは危険だと言いたいものである。

#ナカミチ

(ここ、か)

#ナレーション

立派な一軒家だ。ナカミチ君は自分がどこまで緊張しているのか分からなくなってきていた。

#ナレーション

意を決してインターフォンを押すようである。手を出して、引っ込めた。

#ナレーション

ピンポンダッシュでもしたいのだろうか?

#ナカミチ

(まず電話だ……。その前に深呼吸か)

#ナレーション

人目を気にせず深呼吸をする。まぁ周りに誰もいないが。

#ナレーション

電話をかける。

#ナカミチ

(何とかなる……。何とかなる……)

#ナレーション

何とかする。が正解だと思うが、まあいいか。

#ナレーション

電話をかける。

#ともみ

「もしもし」

#ナカミチ

「もしもし。ナカミチです。おはようございます」

#ともみ

「おはようございます。もう家の前でしょうか?」

#ナカミチ

「そうですね。早朝から申し訳ありません」

#ともみ

「いや、こちらの、このみの事で動いていただいているのですから。さて、」

#ナレーション

門の奥、玄関のドアからともみさんが出てくる。私服バージョンである。

#ともみ

「私はこれから大学の講義に向かいます。とりあえず電話切らせていただきますね」

#ナレーション

言い終わり、スマートフォンを操作するともみさん。通話が切れる。

#ナカミチ

「お、おはようございます」

#ともみ

「おはようございます、ナカミチさん。2回目ですけど実際に顔を合わすとあいさつしたくなりますね」

#ナカミチ

「あの、このみは……?」

#ともみ

「だだをこねています。学校に行かないそうです」

#ナカミチ

「そうですか」

#ともみ

「理由は聞きましたけど結局聞き出せませんでした。まぁその辺りはナカミチさんが何とかして下さると思っていましたので強く聞いたりしていません」

#ナカミチ

(え?信頼しすぎじゃないか?)

#ナレーション

評価が高い。いいことである。人生の難易度も上がる。リターンもきっとあるんじゃなかろうか。

#ともみ

「さて。ナカミチさん。もうこのみとお話しする準備はできていますか?」

#ナカミチ

「……。」(できている?できているのか?わからない。できているしかない、でも。だけど)

#ナカミチ

「できます」(わからないけどできているはずなんだ……)

#ともみ

「……できます。ですか。ナカミチさんは私に何か返事を返す時、とても印象深いです」

#ナカミチ

「……そうなんですか?」

#ともみ

「そうですよ。このみは幸せ者ですねぇ。ではこのみをよろしくおねがいします」

#ナレーション

そう言いながらスマートフォンに何かを打ち込むともみさん。

#ともみ

「このみの部屋はあの部屋です。カーテンが閉まっている窓の位置ですね。ナカミチさん、もう少し離れてください」

#ナレーション

ナカミチ君を門から少し離れさせる。よくこのみの部屋が見える位置だ。

#ともみ

「ああ、そうです。その辺りに立っておくといいと思います。さて、では失礼しますね。とりあえず、家の門は閉めさせていただきます。また近いうちにお会いできれば」

#ナカミチ

「えっ。あ、はい。ありがとうございます」

#ともみ

「繰り返しになりますが今日はこのみのことでありがとうございます。できたらこれからも仲良くしてあげてください」

#ナレーション

毅然としたあるき姿なれど、そそくさと立ち去るという表現が似合う感じでこの場を離れるともみさん。取り残されるナカミチ君。

#ナカミチ

(ここで待ってればいいのだろうか?)

#ナレーション

そう言われたのだからそうなのだろう。ともみさんを信じないというなら行動してもいいが。ともみさんが間違っていると判断するなら、その判断自体が間違っている方が多い事は間違いないと思うが。

#ナレーション

なんにしても歩道のど真ん中に立っている姿は見ている側にとってはシュールである。

#ナカミチ

(とにかく待ってみよう。でもそんなに時間は無いんだが。)

#ナレーション

学校までの距離を考えたら突っ立っているのも後10分が限度だろう。それ以上は遅刻待ったなし。

#ナカミチ

「……!このみ。」

#このみ

「……!」

#ナレーション

カーテンのところ。このみちゃんである。1日ぶりであった。片手にスマートフォンを手にしてこちらを見ている。

#このみ

「……。」

#ナカミチ

「……。」

#このみ

「……。」

#ナレーション

すぅっと奥の方へこのみちゃんの姿が消える。

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

もはや1人。孤独再び。

#ナレーション

どうすればいいか分からないまま門前に移動する。インターフォンを押すかどうか悩んでいるようである。

#

がちゃ。

#このみ

「……おはようございます」

#ナカミチ

「おはよう、このみ」

#ナレーション

玄関からこのみちゃんが出てくる。門を挟んでこのみちゃんとナカミチ君が対峙する。

#ナレーション

ところでその姿はパジャマであろうか。パジャマシーン。いわゆるサービス回。

#このみ

「姉さんが想定よりもあっさり引き下がったなぁーと思っていたんですよ」

#ナカミチ

「学校に行くべきと?」

#このみ

「そうですね。朝、学校に行きませんと言ったら。まぁそりゃあもう。なんやかんやと。ただ部屋にこもったらわりとすぐにドアからいなくなったもので。ナカミチ君のおかげですかね」

#ナカミチ

「そんなふうに言われたくないが」

#このみ

「そうですか」

#ナレーション

さほど気にしていない様子である。内心はわからない。

#このみ

「で、どうするんですか?学校遅れますよ?」

#ナレーション

散々な言いようである。

#ナカミチ

「後10分は大丈夫と思っているんだが」

#このみ

「まぁ走ればもう少し大丈夫でしょうね。タクシーなら後15分か20分居てられるかもしれませんね。私と話せるならお安いお値段ですか?」

#ナカミチ

「タクシーの代金を払えるほどの金額を学校には持って行かないようにしているからそもそも答えられないな。このみと2人で割勘なら払えるけど」

#このみ

「かっこつけれる場面を差し上げたんですが。なんにしても私も払えるほどのお金はありません。使う用途はすでにゲームと決まっているんです。最近立て続けに発売してまして。嬉しいんですが所持金がね」

#このみ

「もっとも遊ぶ時間が足りてない方が私としては問題なんですがね。……それはこれから改善されますか」

#ナカミチ

「なぜ学校に行かないんだ?」

#このみ

「姉さんにも言わなかった事をナカミチ君が聞き出せるとでも?」

#ナカミチ

「ともみさんは俺が聞き出せると思っているようだったが。だから強く聞かなかった。というよりわざわざ残してくれたようだったんだが」

#このみ

「……はぁそうですか。じゃあ、そうですね。お答えします」

#このみ

「学校に行くより家でゲームをしていた方がたのしいと思ったからです」

#ナカミチ

「今まで行ってたじゃないか。昨日も。行こう。学校へ」

#このみ

「昨日も行きました。おとといもまた行きました。そうして1年たちました。1年って長いですよね。そう思いません?」

#ナカミチ

「思うよ。いろいろあった。ちゃんと振り返ったら長くなる」

#このみ

「毎日。昨日みたいな今日。おとといみたいな昨日。長いですね」

#ナカミチ

「……。」

#このみ

「もういいでしょう。焼き直しみたいな日々。続ける必要はありません」

#ナカミチ

「そう、そうか。なぁ、ごめんなこのみ。さすがに不快だよ」

#このみ

「そうですか」

#ナカミチ

「そう思っていない事も。本当はつらいと思っているかもしれないってことも。そう思っているけど。そんなふうに言うのはやめてくれ。聞く方もつらい」

#このみ

「あなたが。……いえ、ナカミチ君が相手の事を考えてくれているのは知っています。いつもみてました。1年前からみんな知っているようでした。人の為に、他人の為に。それだけのために」

#このみ

「それでいいと思います。ただ私はもう十分です。もうけっこう。私の考えはさっきの通りです」

#このみ

「ゲームをしていた方が楽しいです。いろんなゲームの数だけ世界があります。そして1年も同じゲームをするタイプじゃないんです」

#ナカミチ

「学校に行くよりゲームをしている方が楽しい。1年前そう聞いた」

#ナカミチ

「あの日、学校に来たこのみが言っていた。そして、学校に来始めた」

#ナカミチ

「今日。今日、学校に行くよりゲームをしている方が楽しい。そう聞いた」

#ナカミチ

「そして学校に来なくなる」

#このみ

「ええ、行かなく、なります」

#ナカミチ

「このみが学校に行きたくないのはつらいからだよ」

#このみ

「そりゃそうでしょうね」

#ナカミチ

「そんなに気にしなくていいんだ」

#このみ

「なにがでしょうね」

#ナカミチ

「1学期の体育祭。負けたの気にしているんだろ?」

#このみ

「なに言ってるんですか。負ける事は想定していたじゃないですか。結局、他クラスへの対抗策でなかったんですから」

#ナカミチ

「でも負けるつもりなくて、全力でやったな」

#このみ

「そうですね」

#ナカミチ

「でも気にしているんだろ?」

#このみ

「ナカミチ君がそう思うのならあっているんじゃないですか?答えは教えませんが」

#ナカミチ

「それと、無理している。このみはもっと自分を中心に考えていて、自分を大事にしてた」

#このみ

「……はあ。そうですか」

#ナカミチ

「だからな。このみは学校が楽しくなくなったわけじゃないんだ。つらい事が多くなったんだ。今日が昨日と同じだって構わないんだ。楽しいはずだ」

#このみ

「はず、だろうが絶対だろうがどうでもいい。行かない理由が楽しくないだろうがつらいだろうが、どっちでもいいです」

#このみ

「私は行きたくないんです。ナカミチ君。それでいいでしょう?」

#ナカミチ

「俺は、」

#このみ

「!」

#ナカミチ

「このみに学校に来てほしい。居てほしい」

#ナカミチ

「行くべきだとかじゃない。俺のわがままとして、学校に……。」

#このみ

「…………。」

#このみ

「……そう言えば……っ。……。」

#このみ

「……そう言えば、私 が… 、学校に 行く と思って……言ってるんでしょう ?」

#ナカミチ

「俺のわがままだから当然そうだな」

#このみ

「……。」

#ナカミチ

「学校行こうよ」

#このみ

「……待っててください」

#ナレーション

家の中へゆっくりと戻っていく。見えなくなるとドタドタと音が聞こえてくる。急いで用意しているのがまるばれであるぞ。

#ナカミチ

(よかった……)

#ナレーション

塀にもたれかかりながら額の汗をぬぐう。緊張が解けると汗が一気に出てきたようだ。

#

ガチャ!

#このみ

「ほら!用意できましたよ!ナカミチ君がお願いするから行くんですよ!?うれしいですよね?ほら!行きますよ!」

#ナレーション

好き勝手言って駆け出していく。

#ナカミチ

「おい。ちょっと、鍵閉めたのか!?」

#このみ

「ふわあああぁ!」

#ナレーション

駆け出しじゃないな。浮足だった。

 

#ナレーション

さぁ学校へ向かって駆け足である。楽しそうに歩くだけで駆け足になるものだ。

#ナカミチ

「こ、このみ。もういいだろ。もうじゅうぶんに間に合う」

#ナレーション

学校前。いつもと同じような時間。勝ち取ったものである。

#このみ

「あれ?もうへばったんですか?」

#ナカミチ

「このみが朝から元気すぎるんだ……。」

#ナレーション

早朝から緊張して、考えて、お疲れ様である。その上走ったわけで。

#このみ

「ふふふ。そうですかね?」

#ナレーション

ごきげんである。なにかいいことあったんだろう。なんやかんやと。

#ナレーション

おなじみ靴箱前。ナカミチ君が靴を履き替える。

#このみ

「ナカミチ君」

#ナカミチ

「なんだ?」

#このみ

「朝はごめんなさい。ひどいことばっかり言いました」

#ナカミチ

「今も朝だけどな」

#このみ

「茶化していいと思ったんですか?」

#ナカミチ

「ご、ごめん。改めて謝ってほしいとは思ってなかったし、恥ずかしかったんだよ」

#このみ

「そうですかぁ?じゃあいいです」

#このみ

「さぁ行きましょう。昨日と同じように今日も楽しい事があるんでしょう?早く行かなきゃ損ですよ」

#ナレーション

駆け出すこのみちゃん。とりあえず廊下は走らないように。

#ナカミチ

「ちょっとまて!このみ!革靴のままだぞ!」

#このみ

「ああっ!」

#ナレーション

くるっとUターンこのみちゃん。未だ浮足立っている。浮いてたら履き替え無くてもよかったがそうもいかない。あわてて履き替えるこのみちゃんを見ながらナカミチ君はめずらしくわかりやすく柔らかい笑顔を浮かべていた。

#ナレーション

ちゃんと靴も履き替えて教室へ向かう。その距離を長いとも短いとも感じながら2人が教室前に着くとグラウンドに面した開いた窓の枠にもたれかかりながらグラウンドをただ眺めている少女が1人。風紀さんである。

#ふうき

「……。」

#ナレーション

待ち人がいるのだろう。ナカミチ君もこのみちゃんも話しかけづらかった。待ち人である自覚があったからだろう。思い当たる節が無いわけがない。

#ナレーション

後はナカミチ君もこのみちゃんもどっちが話しかけるべきか悩んでいるのだろうか。

#このみ

「…おはようございます。風紀さん」

#ナレーション

このみちゃんは自分で話しかけることにしたようだ。一連の説明を引き受ける為に。

#ふうき

「…おお、このみちゃん!おはよう!ナカミチ君もおはよう!」

#ナカミチ

「おはよう、風紀さん」

#ナレーション

挨拶は終わった。次はどうするのか。

#このみ

「昨日迷惑かけましたね」

#ふうき

「え?どうしたのこのみちゃん?何か私したっけ?」

#ナレーション

気を使ってくれているのだろう。風紀さんはこうすると決めていたのだろう。このみちゃんは気を使わなくていいよ、と。

#このみ

「ええ。私が学校に行かなくなる事を心配してくださったんですよね」

#ナレーション

無い事にはしないらしい。

#ふうき

「そうだっけ?」

#ナカミチ

「そうだろ」

#ふうき

「ふーん。まあ私が何かしたわけじゃないよ。ナカミチ君が何とかするらしかったから任せたわけだし」

#このみ

「ありがとうございました。風紀さん」

#ふうき

「……その感謝は受け取っておくよ。なにに感謝されているのか曖昧のままにね」

#ナカミチ

「なんだそりゃ」

#ふうき

「ひとつひとつ感謝されるのも恥ずかしいということじゃないの?しらないけどね」

#ナカミチ

「風紀さんが知らなかったら誰もわからん」

#このみ

「ナカミチ君。たまには誰かが困っている時以外でもなにを考えているのか考えてもいいんじゃないですか?これからはわがままに生きるんでしょう?」

#ふうき

「へえ!そうなの!面白い事を考えるようになったねえ」

#ナカミチ

「いや、わがままに生きるつもりなんて思ってない言った覚えもない」

#ナレーション

ナカミチ君までわがままだとクラスは混沌である。これからも秩序のため苦労を一身に背負う。さすがに誰か助けくれるとは思うが。

#ナレーション

しかしナカミチ君が不在だと混沌組はおとなしいのではないかという学説と思想派閥が、あるとかなかったりとからしい。であるからナカミチ君はクラスに必要不可欠というクラスの共通意思が、あるんだとかないとからしい。

#ナレーション

まあ、つまり、よかったね。

#ふうき

「そうだね。ナカミチ君が放棄したら。そうだなぁネネちゃんが苦労人になりそうだなぁ」

#このみ

「大丈夫ですよ。ナカミチ君が我々に無茶させるんですから。今日も朝から走りまわされました」

#ふうき

「ううぅ……、このみちゃん不憫だよぉ」

#ナカミチ

「教室はいっとくから」

#ナレーション

久しぶりの無視である気がする。

#このみ

「おお。わがままですねぇ」

#ふうき

「今後に期待だね」

#ナレーション

引き続いて無視を決め込んでドアを開ける。

#

ガラガラガラ

#みしろ

「あ、おはようナカミチ」

#さいか

「おはようございます。ナカミチ君」

#ナカミチ

「おはよう。みしろ。さいかさん」

#このみ

「おはようございますー」

#さいか

「おはようございますこのみちゃん」

#みしろ

「おはよう。このみちゃん」

#ふうき

「おはよう!みしろちゃん!さいかちゃん!」

#さいか

「え、あの。はい。おはようございます」

#みしろ

「おはようー。……2回目だよね、風紀さんと挨拶するの」

#ふうき

「何度やってもいいもんだよねー。挨拶は基本っていうし」

#ナカミチ

「2回も3回もする必要はないだろ」

#ふうき

「そうだね。迷惑だったね。消えるよ」

#ナカミチ

「そこまで言ってない」

#ふうき

「そこまで言うならしかたないね。残ってあげよう」

#ナカミチ

「……。」

#さいか

「あはは……。」

#ナレーション

苦笑いである。そんな彼女の机に写真がいっぱいの雑誌が載っているのに気づく。

#ナカミチ

「ん……?これは?」

#ナレーション

普段は問題集やら教科書やらといった宿題置き場になるさいかちゃんの机に雑誌である。写真いっぱいの。

#ナカミチ

「これはみしろのか……?いや、これは……。」

#ナレーション

ファッション雑誌か何かと思ったナカミチ君だがそもそもそれも考えにくい。学校に雑誌を持ってきたりしないタイプの子なのだ。姉の目があるためかみしろちゃん自身が真面目なのか。

#ナカミチ

「いや、そもそもファッション雑誌っぽくはないな。それにみしろは学校に不要物持ってこないしな」

#みしろ

「えへへ。まあね。うしろめたさ感じてみるより家で見た方が楽しめるし。ましろ姉さんにいろいろ言いながら見るのが楽しいしね」

#ナカミチ

「ましろは雑誌とか頼らずに買いそうだな」

#みしろ

「うん。ましろ姉さんセンスはあるでしょ?色の合わせ方とかうまいからその辺はいいんだけどね、ファッション用語がね。ジーンズとかスラックスとか、果てはハーフパンツとかも全部合わせてズボンとしか言わないから。もうちょっと知識つけてほしいんだよねー」

#ましろ

「やめて」

#ナレーション

困り顔でズボンという系女の子が割込み、つまりインターセプトでカットという話。

#ネネ

「せっかくこっちはこっちで話してたんですけどね」

#ミサキ

「ましろちゃんが持って行かれちゃうから私たちもついて来たよー」

#ナレーション

別の場所で話していた3人が合流。1つの席を囲み8人集合。

#ナカミチ

「ああ、おはよう」

#このみ

「おはようございますー」

#ふうき

「おはよー」

#ミサキ

「うん。2人ともおはよー」

#ましろ

「おはよう。あんまり噂しないでね」

#ネネ

「おはようございます……。風紀さんは少し前にもうあいさつしましたよね」

#ふうき

「挨拶は何度やっても基本だよ」

#ミサキ

「どういう意味なの?」

#ナカミチ

「こりてないって事だ」

#ふうき

「こりた。合わせる顔がないからどっか行こう……。」

#ナカミチ

「……そこまで言ってない」

#ふうき

「そこまで言うんなら考え直したげよう」

#さいか

「私もさきほど挨拶しましたよね……?」

#ミサキ

「そこは自身もとうよ!憶えてるから、ちゃんと!」

#ましろ

「さっきまで一緒に情報誌見てたの。大学についての情報誌なんだけど」

#ナカミチ

「へぇ」

#ナレーション

全員が机の上の雑誌を覗き込む。

#さいか

「ぁ、あの、すごい圧を感じるんですけど……。」

#ナレーション

自分の席なので座っているさいかちゃんのまわりには7人のこわーい人達が立ちながら囲んでいる。

#このみ

「人気者っていいことですよ」

#さいか

「うう、別に望んでないですし、話題の本は私のですけど人が集まったのは絶対私が起点じゃないですよね……。」

#ナレーション

いったい誰が起点と言うのか。

#ふうき

「他のページも見てみていい?」

#さいか

「ええ。いいですよ」

#ナレーション

机に置いたままぺらりぺらりとめくって見ていく。

#ナカミチ

「……名だたる大学ばかりだな。というより国立しか載っていないのか、これ」

#さいか

「それは国立版の雑誌ですから、私立版はあるんですけど持ってきていなくて」

#ミサキ

「それでまぁすごすごと私たちは引き下がったんだけど」

#ネネ

「ひどい言い方ですがそうかもしれませんね。大学受験……。」

#このみ

「急用を思い出しましたので失礼しますね」

#ナカミチ

「まて。逃げるな」

#このみ

「うぐぐ。なんて現実はつらいんでしょう。思いがそのまま力になればいいのに」

#ナレーション

そしたらきっとみんなハッピーであるな。

#ましろ

「みしろはちゃんと考えているんだね。私はどうしようかなぁ」

#みしろ

「え?いや、ましろ姉さんとおんなじ大学に行くつもりなんだけど。別に考えてみてたわけじゃないよ?」

#ナレーション

怖さを感じていないからずかずか踏み込んだようだ。

#ましろ

「え?そ、そう?じゃあ今度2人で考えてみるのもいいかな」

#ナレーション

仲良き事、美しきかな。

#ネネ

「いや。将来のことなんですから安直に考えず、最後は1人1人で考えるべきでは」

#ナカミチ

「いい。と思う。ましろとみしろなら思い付きでバラバラになるよりは一緒にいたほうが一緒に何かできるし」

#みしろ

「そうそう」

#ましろ

「うん。そうだね」

#ネネ

「……安直なのは私みたいですね。そうですね。みんな考えてるんですよね。押しつけみたいになったようです。ごめんなさい」

#みしろ

「気に障ったりはしてないけど、受け取っとくね」

#ましろ

「わたしもそうだよ」

#ふうき

「よきかなよきかな」

#このみ

「美しきかな美しきかな」

#ナカミチ

「……。」

#このみ

「なにか?」

#ナレーション

何かというと何もかもで何も言えないナカミチ君である。

#ミサキ

「このみちゃんはどうするの?って言いたいみたいだよ?」

#ナレーション

おっと、珍しくナカミチ君側にアシスト。

#このみ

「ぐふう」

#ふうき

「一撃か。おのれ、この仇、あ、いいこと思いついた」

#ナレーション

思いついたではなく考えついたである。

#ナカミチ

「おとなしめにしといてくれ」

#ネネ

「止めたらどうですか?……無理ですね」

#ましろ

「なにかやるの?」

#みしろ

「なに?」

#クラスメイト

「なにかやるって?」

「乗り遅れたらかえって恐ろしいからな」

「なにをやるんだ?」

#クラスメイト(追加)

「久しぶりに何かやるの?」

「なにかやるってー」

「まじでー」

#ナレーション

ぞろぞろとあつまってくる。

#このみ

「おお。全員集合です」

#ナカミチ

「復活はやいな」

#このみ

「コスト少ないですから」

#さいか

「うぅぅう……。絶対、私が起点ではないです……。」

#ナレーション

クラスメイトに囲まれながらいっそう肩身を狭めるさいかさんであった。えらい目にあうというより気にしすぎである。圧と喧騒はわりとあるが。まあ気にしてないふりでもいいと思う。

#

ガラガラガラ―――

#くぜ

「席に着きなさい」

#ナレーション

集会解散。喧騒なくとも圧で圧倒すればよい。

#ナレーション

気づけば皆、姿勢正しく着席している。なお、さいかちゃんは唖然としている。

#くぜ

「全員いますね。配布物、連絡はありません。では各自1限目の準備をするように、」

#ふうき

「先生!ご質問が」

#くぜ

「あ゛ん?」

#ナカミチ

(あ゛んって……)

#ナレーション

めんどくさそうな顔が隠しきれていないクゼ先生である。

#ふうき

「いえいえ、決してお時間は取らせませんから。へっへっへ」

#ナレーション

めんどくさいノリである。

#くぜ

「簡潔に」

#ふうき

「はっ。実は大学の文化祭に参加しようと思っているんですがいいですか?」

#ナレーション

最後砕けた感じになったがそれこそいいのだろうか。

#ナレーション

なんにしてもクラス内はざわつく。

#クラスメイト

「大学の文化祭?」

「おもしろそうじゃない」

「学外で何かやるのは初めてだな」

#ナレーション

ざわつきが大きくなっていく。

#くぜ

「静かにしなさい」

#クラスメイト

「。」

「。」

「。」

#ナレーション

静かになった。

#くぜ

「文化祭、つまり学園祭、大学祭と呼ばれるものについての質問ですか」

#ナレーション

名称について指摘が入ったようである。風紀さん若干しまったなぁという顔をしている。思い付きは準備がないゆえ。だがまぁ知らないことも聞けばいい年頃である。気にするこたぁない。

#くぜ

「常識的な服装と常識的なふるまいをしていればかまいません。筆記用具と適当なお金は持っていきなさい」

#ナレーション

シンプルイズベスト。つまり馬鹿なことはしないようにという当たり前のことだ。

#ふうき

「常識的という当たり前は世間基準でしょうか?」

#くぜ

「他に質問は?」

#ナレーション

無視された。

#さいか

「服装って制服のほうがいいんですよね?」

#くぜ

「教授、つまり先生方や関係者に会わないなら私服のほうが良いぐらいです」

#ミサキ

「先生に会えたりするんですか?」

#くぜ

「自分で調べるように」

#ナレーション

まぁもっともである。

#このみ

「姉さんはゼミの先生というのに会っていたみたいですが」

#くぜ

「……わかりました。長くなりますが説明します」

#ふうき

「まじで?!」

#ナレーション

普段聞かないような口調になった風紀さん。クゼ先生が長い説明をするのもそれだけめずらしいということなのだが。

#くぜ

「このみさんのお姉さんというと前生徒会長ですね。彼女が言うゼミというのはおそらく講義のことです。大学では各自この講義を決められたルールの下、自分で選択します」

#くぜ

「つまり講義というのは高校の授業にあたるわけですが、その授業の内容が担当される先生ごとに、言い換えれば講義の内容が担当される教授ごとに内容が違うわけです」

#くぜ

「普通の講義は約半年、長くても1年で学び終えることになっています。ですがゼミというのは2年、3年といった長い期間、担当教授とゼミの生徒で学びます」

#くぜ

「推測になりますが、前生徒会長さんは非常に優秀でした。おそらくですが今後学びたいゼミ、学びたい教授がいらっしゃったのでしょうが非常に定員に対しての応募者が多いゼミなのでしょう」

#くぜ

「そこで学びたいのであればゼミに対しての志望動機、入試時の点数、入学後の成績、今までの活動内容。それらが重要になってきます」

#くぜ

「当たり前ですがほかの講義ならともかくより高度な学業を師事していただきたいという場で応募者から抽選などということはありえません。教授による選抜です。ゼミの生徒としてふさわしいか否か」

#くぜ

「その際に入学前からアポイントを取ってご挨拶に伺い、好印象を持っていただけていたら。まぁそれは非常にほかの生徒たちに比べアドバンテージがあるでしょうね。もしくはそこでやっとスタート地点かもしれませんが」

#くぜ

「以上です。他に質問は」

#ネネ

「……。」

#みしろ

「……。」

#さいか

「……ぁ。……。」

#ナレーション

全員唖然である。ナレーションもびっくり。

#くぜ

「聞くことは大事です。授業以外のことも。学生にとって先生方も教授方も教えるために在学しているのですから」

#くぜ

「そして研究するために」

#くぜ

「では質問もないようですし戻ります」

#ナカミチ

「先生。質問が」

#くぜ

「何でしょう」

#ナカミチ

「それはすべきことなんですか?」

#くぜ

「……人によります。大学に行くこともしてもいいですししなくても構いません。歴史を振り返れば高等学業を修めなかった、いや、修めれなかったかもしれませんが、実業家は有名な方が多いですし、学者であっても、数奇な運命というのはあります」

#ナカミチ

「つまり……?」

#くぜ

「聞いても答えが返ってこない質問ですね。それでも答えるなら、まぁ、自分が幸せになるようにすべきことをするようにということです」

#くぜ

「何であっても来年……、」

#くぜ

「勉強しなさい。来年は受験です。2年生が始まった時のアンケートでは全員受験希望だったはずです。では」

#ナレーション

クゼ先生が教室を出て静けさが漂う。

#ふうき

「ふっふっふ」

#ナレーション

まったく関係ないと言わんばかりの人の発言。

#ふうき

「やっぱり『みんなで考える大学潜入!』の企画は間違っていないようだね!」

#ナカミチ

「なんだそりゃ」

#このみ

「おお。ナカミチ君よ。学校は楽しいものじゃなかったんですか?」

#ナカミチ

「勉強するところでもあるからな」

#このみ

「……騙された?」

#ナカミチ

「なにも騙してないが」

#ナレーション

右も左も思い思いに発言するなぁと思うナカミチ君。はさまれている彼は心労が2倍。

#ナレーション

風紀さんはうんうん唸りながら何か考え、このみちゃんは机に伏せる形で突っぷし惰眠を開始したようで、ナカミチ君は平静を装いながら自分の進路を悩むのであった。

#クラスメイト

「どうしたもんか」

「考えてこなかったがそろそろタイムリミットなのかもしれない」

「漠然とこのあたりでってとは考えてたんだけどなぁ」

#クラスメイト

「このあたりって偏差値?どの大学なの?」

「いや、場所的な話」

「実家から通える範囲でって?今時だなぁ」

#クラスメイト

「今時って言っても昔の事なんか知らないだろ」

「なんだとー」

「徹底的に話してやるー」

#ナカミチ

(意味がわからない)

#ナレーション

騒がないとやってられない時もある。1限目の予鈴もこの喧騒の中ではなんのその。だが、ちゃんと話し合うようであるから意味はあった。

#ネネ

「ナカミチ君は何か考えているんですか?」

#ナレーション

ふと表れたネネちゃんに聞かれる。

#ナカミチ

「私大だろうな」

#ナレーション

簡潔。シンプルはいつでもベストである。グッドかは微妙である。

#ネネ

「あの。それだけですか?」

#ナカミチ

「それ以外考えてなかったんだ」

#ナカミチ

「いや、話を終わらせようとかしたわけじゃないぞ」

#ナレーション

ふぉろーふぉろー。せーふせーふ。

#ネネ

「でもそうなんですよね。私も私大かなっていうぐらいで、全然考えてなくって。でも決めないと」

#ナカミチ

「今この場で決める事は無理だよ。今話題に上がってよかったと思おう」

#ネネ

「えっ。……そうですね。だから話題にしたんでしょうね」

#ナレーション

うんうん唸っている子を見ながら言う。

#ナカミチ

「いや、結果そうなっただけだな」

#ナレーション

うんうん唸っている子を見ながら言う。

#ナカミチ

「むしろ話題になった理由は」

#ナレーション

うつ伏せで机に突っ伏しているこのみちゃんを見る。机と腕で隠されたその表情を知ることはできない。ただ寝ているだけである。

#ナカミチ

「いや、結果そうなっただけだな」

#ネネ

「辛辣すぎませんか?」

#ナカミチ

「そうかなぁ」

#ナレーション

彼自身もわからない。

#ナカミチ

「偶然にしてもそういう時期だったっていうのはあるだろうな」

#ネネ

「そうですね。でもナカミチ君は将来の事考えているんですよね?」

#ナカミチ

「え?」

#ネネ

「実家の和菓子屋さんは継がれないとおっしゃられてましたよね?」

#ナカミチ

「ああ、うん。そうだな。そういえばなんとなく話した事があった気がする。でもそれは継がない事を決めただけで、だからなにをするか決めたわけじゃないからな」

#ネネ

「それでも決めたんですよね。私は将来について考えた事あったかなぁ?」

#ナカミチ

「いや、なんとなくしか考えてない方がいけない気がしてきたよ。俺もちゃんと考えてみるよ」

#ネネ

「ふふっ。そうですか」

#ナレーション

なんとなくで生きていける。生きているって何なのであろうか。悩む年ごろ、何とかできると信じれる年ごろ。誰もわからない全世代。なんとか自分のことぐらいわかりたいものである。

#ナレーション

そうこうしていると国語の担当教師がご到着。蜘蛛の子を散らすように自分の席に戻る。散らすように戻るって何だ。

#ナレーション

ナカミチ君に起こされたこのみちゃんの号令も終わり授業が開始される。学業は学生の本分である。

#ナレーション

授業が始まるとこのみちゃんは睡魔に負けた。

#ナレーション

教科書の音読が教室に響く。音読の為ナカミチ君が教科書に視線をくぎづけにされている。そんなに魅力的なお話か。

#ナカミチ

「――けれども未だ結論は出なかった」

#ナレーション

指定個所まで読み終えるとさっさと視線を外す。遊びであるか。所詮都合のいい時だけであるか。

#ナレーション

椅子を引いて腰をかけると呼応したかのように隣の椅子が動く。教師からやめ、の合図があるまで続く連鎖。

#このみ

「そもそもスタート地点が理想論であり、感情を――」

#ナレーション

何時の間に起きたと言わざるを得ないがタイミングとしてはナカミチ君がしゃべり始めたあたりからである。必死で読まれている文章をサーチしていた。

#ナレーション

サーチが間に合わない時はナカミチ君に泣きつくわけだが。そんな時が稀であるのも事実だった。あってはいけないわけだが、それを言い始めるとそもそも寝るなという話で。

#ナレーション

その後読み終えたこのみちゃんがペラペラと読み進めていく。音読より黙読の方が早いのが一般的である。先の話が気になって読み終えた。もはやこの話終わるまで暇だと言わんばかりに机にべたー、ともたれかかったこのみちゃんである。眠気はもうない。

#ナレーション

国語はこんなのばっかりである。しかしこの国語は最弱、問題を伴ってさえいればこうはいかない。次は覚悟しておきたまえ。

#ナレーション

そんな感じで1限目も終わり号令のもと授業終了。休み時間へ。

#ナレーション

10分という時間は何も考えないとすぐ過ぎてしまう。精一杯生きないと。することもないのだが。

#ナレーション

一方する事があると言わんばかりの風紀さんはスマートフォンで何かを調べながらノートに書いている。

#ナレーション

書き終わったのかビーっとノートから1枚ちぎってぴらぴらさせながらクラスメイトを回って何かをお願いをしている。

#ナレーション

自分の席に座る。

#ナカミチ

(絶対後で何かある)

#ナレーション

風紀さんが自分になにも言ってこないのは後々何かしてもらうためであろうと思っているナカミチ君。横目で風紀さんを見る。

#ナレーション

しっかり目があった。ナカミチ君、どうも信頼されていたらしい。

#ふうき

「……。ふひひ」

#ナレーション

満足げに笑い、また作業に戻る風紀さん。

#ナカミチ

(まあいいか)

#ナレーション

作業的な振り分けはうまい方だしな、とナカミチ君も信頼しているらしい。

#このみ

「な、ナカミチ君。助けてくださいー」

#ナカミチ

「大丈夫大丈夫。ほらできるだろ」

#ナレーション

一方、これまたよこで忙しそうなこのみちゃん。次の授業、英語の宿題をやっているところだ。

#このみ

「休み時間が無くなりますー」

#ナカミチ

「無くなるってことは2限目までにやれば終われるってことだな」

#このみ

「し、しまった。誘導尋問ですっ」

#ナカミチ

「かってに自滅まで突っ走って行っただけだろ」

#ナレーション

信頼しているなぁ。

#ナカミチ

「単語は憶えているほうだろ。ほらさっさとやれば終わるんだろ本当は」

#このみ

「できるからってやりたいかどうかは別問題ですー!それにわからないものも多いですー!」

#ナカミチ

「なおさらちゃんとやれ」

#このみ

「……あれ、もしかして墓穴掘りました?」

#ナカミチ

「とっくにな」

#ナレーション

このみちゃんの机に自分の英和辞書を置いてあげるナカミチ君。手助けはここまでと言う明確な意思も詰まっているような気がする。

#このみ

「わー。ありがたいですー。ロッカーから引っ張り出すのも一苦労ですからね」

#ナレーション

あのごちゃごちゃに詰め込まれたロッカーであるためだろう。学校で必要な全てのものが放り込まれているといわれている。

#このみ

「いやいや、もっと素直になりましょうよ。可憐な少女を助けられるのは男冥利じゃないですか。うれしいでしょ。ね」

#ナカミチ

「可憐な少女?」

#このみ

「あ、可憐な美少女です。まちがえました」

#ナカミチ

「ほら。時間無くなるぞ」

#このみ

「うぬぬぬー!」

#ナレーション

やるしかない事はやるしかない。宿題を開ける、問題を解く、宿題を閉じる。それしかないのが世の真理だ。

#ナレーション

気合いで乗り切れればいいが。

#ナレーション

時間と気合が戦っているのを横目に見ながら復讐を兼ねて自身の宿題を見直すナカミチ君であった。

#ミサキ

10秒前だよー!」

#ふうき

「ということは今5秒前だね!」

#ミサキ

「そうだねー」

#ナレーション

心が広い。余裕がある。てきとう。ミサキちゃんの合図で風紀さん指示の下なにかやっていた組の机のうえが授業モードへ変貌する。

#このみ

「ふっ。できました」

#ナレーション

別ルートの授業を受けれる体制も整ったらしい。わざわざのご連絡である。

#ナレーション

2限目のチャイムと同時に教室のドアが開く。

#くぜ

「席に着きなさい」

#ナレーション

英語を担当されていらっしゃるクゼ先生である。生徒たちはすでに席に座っている。それはまさに生徒と教師の信頼関係といえるだろう。ろくでもないことをやっているところを見られないためでは決してない。そもそもなぜろくでもないことだと決めつけるのか。

#くぜ

93ページ。宿題の英文和訳。このみさんから」

#このみ

「はい。ええと、」

#このみ

「バイオテクノロジーの発展が人類の人口増加に――」

#ナレーション

流れるように授業が開始される。英語の長文は環境うんぬんといった話が多い気がするのはなぜか、そんな話はいいとして問題なく訳せているこのみちゃんである。

#このみ

「―――食糧増加が戦火につながるのは、えー、」

#くぜ

「……テクノロジーは戦争の火薬をも産みだした」

#このみ

「ええと、テクノロジーが戦争の火薬をも生み出し、科学、科学者の倫理性を―――」

#ナレーション

ぼろが出始めた。が、つぎはぎながら何とかするのがこのみちゃんである。本当に何とか出来ているのかはわからないがとにかく乗り切る。

#ナレーション

和訳と指定された範囲の問題の答えを回答し終わり席に着く。どうですか、と言わんばかりの顔をナカミチ君に向けてくるが疲労が見て取れる。即興をこなした後、グロッキー状態である。

#ナカミチ

(どう対応しろと)

#ナレーション

すごいね。か、別に大した事じゃないね。か、だろう。興味ある、ない、だけだ。そもそも一々対応する必要があるのか疑問であるが。

#ナレーション

ちなみにすでにこのみちゃんは教科書に視線を戻している。自慢することだけできれば満足だったらしい。だがまぁ、即興の力があるというのはうらやましいと思う人もいるのも事実だろうか。

#ナレーション

毎回即興を求められるような行動をまずやめるべきではあるが。

#ナレーション

その後長文内の単語やら熟語やらなんやかんや。英語はやることが多い。

#くぜ

「では今回はここまで。次までに99ページから始まる長文を和訳してくる事。また授業の初めに和訳する長文内に出てくる単語と熟語のテストをします。以上です」

#このみ

「きりーつ!」

#ナレーション

号令と共にチャイムが鳴る。授業後の号令はするのというのがクゼ先生との暗黙の折衷案である。間髪いれずに号令がないとさっさと出て行かれる。感謝したい、別に結構、互いのエゴの摩擦も終わり平和な休み時間。

 

 

#ふうき

「ううー。しまったなー」

#ネネ

「ほら、早く出ましょう」

#ふうき

「はーい」

#ナレーション

次の授業は理科であるがこれが今日は実験。教室移動である。立ちあがろうとして力尽きてべちゃー、と机に顔を置く。貼りつくと言った方が近い感じだが。

#このみ

「特殊イベントですね。ここから覚醒して立つんですよ」

#ふうき

「ショックで立てない。ショック、かっこ異常状態かっことじる、だね」

#ナレーション

通常戦闘だった。もちろん、力尽きたふりでしかない。

#このみ

「ナカミチ君がおんぶしてやろうって言ってますが」

#ナカミチ

「言ってないな」

#ふうき

「いーやー。せーくーはーらー」

#ネネ

「なんでもいいから早く出てください!遅れます!」

#ふうき

「ナカミチ君。ネネちゃんが悪い影響受けているよ。ナカミチ君みたいなこと言いだした」

#ナカミチ

「風紀さんの影響がないと思っているのか?」

#ふうき

「私そんなにお手本になるかなー?まぁみんなのお手本になってこその風紀委員の風紀さんだしねー」

#ネネ

「……ふ、う、き、さ、ん?」

#ナレーション

そろそろ限界かもしれぬぞ。

#ふうき

「ごめんごめん。出るから、出る」

#クラスメイト(日直組)

「いやー。やっぱり専門業者は早いな」

「任せて安心ってやつ?」

#ふうき

「いやいや、さすがに遅れそうになるまで教室にいたりしないよ。ちょっと信用なさすぎじゃないかな」

#このみ

「え?」

#ナカミチ

「ん?」

#ふうき

「おっと!前科あったね!あっはっは」

#ネネ

「……。」

#ナレーション

しょうもないと言わんばかりの顔をむけている。

#ふうき

「よ、余裕持とうよ……。」

#ナレーション

ネネちゃんはナカミチ君より生真面目であるから。余裕を持てるようになるのも大事だ。基本は、まぁ、とか、別に、とか、そんなもんで、とかいう感じの意識というか思想というか。やっぱり真面目に生きるべきである。

#ナレーション

ネネちゃんの顔のおかげでようやく風紀さんが動く。動けば早い。あっという間に準備を終わらせてしまう。

#ふうき

「さあ行こうか。青春は待ってくれないぜ!」

#ネネ

「ええ。私たち以外待っていませんしね」

#ふうき

「……つらい」

#このみ

「いえいえ、風紀さん。よく考えてみてください。なんと5人も風紀さんを待っていたのですよ?」

#ふうき

「おお!ホントだ!愛されているね!」

#クラスメイト(日直組)

「とりあえず廊下に出よう」

「カギ締めたいからさ」

#ナレーション

廊下へ。

#クラスメイト(日直組)

「じゃあ先に行くから」

「あとは4人でどうぞ」

#ネネ

「わかっていると思いますが私は風紀さんが私たちの実験班だから待っていたんです。そうじゃなかったらいつも通りナカミチ君が何とかしてくれていたでしょう」

#ふうき

「がーん!」

#ナレーション

口で言うあたりこたえていない。

#ナカミチ

「代わりにやってくれたらやっぱり助かるなあ」

#ふうき

「ひどい!」

#このみ

「わたしにも同じ感じので一つ」

#ふうき

「えーと、えーと。ぐあー!」

#ナレーション

ぐあー、は同じ分類なのかどうか。

#ナレーション

とにかく実験室に向かい始める。

#このみ

「それでどうするんですか?1日ずらします?」

#ふうき

「いや、こういうのは持ち帰りたくないな。素体だけもらってお昼休みを使って仕上げるよ。今日のお昼睡眠は無しにしよう」

#ナレーション

さらっと予定を立て直す。どうやら本日は風紀さんの睡眠シーンは無いようである。

#ナカミチ

「それで手は足りるのか」

#ふうき

「足りるよ。足りなかったら手を借りてるじゃん。いつも」

#このみ

「最初に時間が足りないから手を借りたんじゃないんですか?ええと、なんでしたっけ?」

#ふうき

「『みんなで考える大学潜入!』だよー。情報の収集は時間がかかるから」

#ネネ

「結局それはなんなんですか?」

#ふうき

「ふふふふ。気になるようだねぇ。気になるよねぇ。なんであっても、まず興味を持ってもらわないと話にならないからね。ネーミングは大事だよ」

#ネネ

「そこはどうでもいいんですが」

#ナカミチ

「その名前さっき憶えられていなかったの聞いてただろ」

#このみ

「今は言えますよ。ええと、……。ああ、『みんなで考える大学潜入計画』ですね」

#ふうき

「『みんなで考える大学潜入!』、だよ!」

#ナレーション

相変わらずのこだわりネーミングである。

#ふうき

「んー。説明するなら、えーと文化祭じゃなくてなんて言ったかな?ああ、学園祭。いくつかの大学からその日程と、そして学園祭で開催される体験型のイベントを主にピックアップした情報誌を作っているんだよ」

#ネネ

「またどうしてそんな事を」

#ふうき

「参加自由だけど多人数で行くんだからはしゃぐものがないとね。そう思ったんだよ」

#ナカミチ

「はしゃぐのが目的なのか?」

#このみ

「まあナカミチ君ははしゃがされている事が多いですから慎重にもなるでしょう。ですが!楽しい事はなにごとよりも優先されるべきなのです!」

#ナカミチ

「こうやって大学に引き連れて行くのが目的か」

#ふうき

「まぁそういうことだね。行ってみないと分からないし。今一つ分かっていないからなかなか行ってみようって気にもならないし。とにかくちょっと考える為にも行ってみようって事だね」

#ネネ

「つまりどういう事なんですか……。」

#ふうき

「行ってから考えようって事だよ!」

#このみ

「考えるよりも感じるべきなんだってことですね」

#ナカミチ

「そうなのか?」

#ふうき

「そうそう」

#ネネ

「本当ですか……?」

#ふうき

「疑いすぎというより考えすぎだよ。遊びに行こうよ」

#ネネ

「大学は勉強するところでは」

#ふうき

「さぁ?それを見に行こうって言っているんだよ」

#このみ

「遊びに行く方がいいですー」

#ふうき

「じゃあそっちが主な目的で」

#ナカミチ

「受験先を決める為に行くんじゃないのか」

#ふうき

「ああ、そうそう。それそれ」

#ネネ

「……まともな話ができないんですか?」

#ふうき

「や、ごめん。でも別に目的や答えを1つにする必要もないじゃん。ね?そうだよね?」

#ネネ

「……そうですね。いろんな目的があってもいいかもしれません。きつく言いすぎました。ごめんなさい」

#ふうき

「いいよいいよ」

#ナカミチ

「いや、はぐらかしたりわかりにくくしたりしただろ。最初からちゃんと説明したり、それが答えだと言わんばかりの返答をしたよな」

#ふうき

「お、話している間に理科室に着いたよ。いや、みんなと話しているとよく思うことだけど有意義な時間はあっというまだね」

#ネネ

「……知りません」

#ふうき
「ああー!ネネちゃんごめんってば!でもほら治せるもんじゃないから!理解し合って歩み合うのが人間だよ!ね!こっち向いて!」

#このみ

「基本かまってほしいんでしょうねぇ」

#ナカミチ

「このみもそうだろ」

#このみ

「女の子の事わかったようなふりするのやめたらどうです?」

#ナカミチ

「……理解し合って歩み合うのが……。」

#このみ

「他の人から学ぶ事が出来るのも人のいいとこでしょうね。がんばって私を振り向かせてみてはどうでしょう?」

#このみ

「もちろん。風紀さんがネネちゃんにやっているような感じ、でですね。どんなふうにだと思ったんですか?」

#ナカミチ

「何か思う前にたたみ掛けられてもなぁ」

#このみ

「しまった!早すぎました!」

#ネネ

「……なにやっているんでしょうね。私」

#ナレーション

はたから見れば全員何やってるんだろう。なのであるが。1人だけ波に真っ向からぶつかっているような気分なのだろうか。理科室の扉を開けるネネちゃんは教室を出た時より疲れ気味のようだった。風紀さんは元気になっていた。

#ナレーション

理科室に入り、前もって決められた班分けに従って席に座る。ナカミチ君とこのみちゃんは風紀さんとネネちゃんの班とは別の班だ。名残惜しく分かれる風紀さんとこのみちゃん。茶番を見守る残り2人。そしてようやく席に着く。

#ミサキ

「お、やっときたねー」

#このみ

「間に合えばいいんですよ」

#ましろ

「そういう言い方したらだめだよ。ミサキちゃんが心配してたんだから」

#このみ

「そうでしたか。ごめんなさい」

#ナカミチ

「すまないな」

#ミサキ

「いや、心配したのはどう先生に言い訳しようかなっていうことで。どっちかっていうと遅れるんだろうなー。って思ってたから謝られると申し訳ないというか」

#ナカミチ

「まあ前例があるからな。そんな変なことしなくていいぞ。去年のあれはそもそも風紀さんが原因の一端ぐらいは持っていたから」

#このみ

「もう原因の大元になることは起きませんし」

#ナカミチ

「ホントか?」

#このみ

「ほんとほんと。困ったらナカミチ君に何とかしてもらいますから」

#ミサキ

「もー。ほんとに困ったときだけだよー?」

#ナカミチ

「それは俺のセリフ、というよりなんでまず俺にっていう流れなんだ」

#ましろ

「昔から自分で手を出してるけど」

#ナカミチ

「言い方……。」

#ましろ

「あ、ごめん」

#ナレーション

そんなところでようやくチャイムが鳴る。

#ナレーション

授業開始とともに実験の準備が整っていく。机の上には理科室にふさわしい見慣れたガラスのフラスコなど、器具が置かれていた。あとトウモロコシの種。なぜあるのか。

#ましろ

「なんでポップコーンなんだろう」

#ナカミチ

「ついに言ったな」

#ミサキ

「ほら、一番常識人だから」

#ナレーション

散々な言いようである。しかしなぜポップコーンなのか。

#このみ

「聞けばいいんですよ。聞けば」

#ふうき

「先生ー。なぜ今日の実験はポップコーンなんでしょうかー?」

#ナレーション

少し離れたところから疑問が噴出した。出遅れは挽回するのが難しい。

#このみ

「先越されました。あきらめましょ」

#ナレーション

切り替えも大事だ。

#理科の先生

「カエルの解剖実験をしようとしたらほかの先生方から苦言をいただきまして……。」

#ふうき

「せ、先生。もう少し強気でいかれては」

#理科の先生

「それは私が強気にいけば止められないでしょうけど。ですが私も昔の人間ですからね。科学への接し方は時代とともに変わるべきです。現に生物の実験に対して嫌悪や不快の感情を強く持つ人は昔から居られたのを記憶しています」

#理科の先生

「倫理は科学の根幹にあるべきものですから」

#ふうき

「それでポップコーンなんですか……?」

#理科の先生

「なんか楽しそうでしたので」

#ふうき

「たしかに」

#ナレーション

納得して感謝の意を表明しながら座る風紀さん。

#ナカミチ

(終わりかよ)

#ましろ

「うーん。実際に触れてみたかったっていうのはあるかな。興味本位から始まるのはよくないのかな」

#ミサキ

「……ごめん。あたしグロテクスなの、だめ」

#このみ

「楽しいのがいいというのが倫理なんですね」

#ナレーション

受け取り方は三者三様である。ポップコーンの選択理由に突っ込むものがいれば、じゃあいつ生の生体に触れる機会があるのかと言うものがいれば、グロテクスとこわいがつながっている子がいて、倫理は楽しいと思うものもいる。

#ナレーション

こっちが思う事はナカミチ君、もう少しこうなんというか主人公らしい考えを欲しいとこ、それではただの突っ込み系であるぞ。

#ナレーション

そんなこともありながらポップコーンを作り始める。ビーカーやバーナーとともにサラダ油、ポップコーンの種。科学か料理か。どっちも同じか否か。

#このみ

「加熱しますねー」

#ナレーション

さぁ各班加熱を続々初めて行く。一番最初にどこが、

#

パン!

#クラスメイト

「おお!はじけた!」

「なんか回転するように飛んだね」

「おいしそう」

#ナレーション

1等。手際が良かったということである。よくわかんない事を話していたりこんがらがった話をしてたらそりゃその分結果が出るまで遅くなるわけで。

#

パン、ぱん!パン、ぱん!

#ナレーション

そこらかしこではじけた奴らが発生中。

#このみ

「まだですかねー」

#ましろ

「もう少しだと思うかな」

#ミサキ

「そうだね」

#ナカミチ

「目を離せないな」

#ナレーション

口数が少なくなるほどに集中する。ここまで楽しみにされるとポップコーンの種もはじけがいがあるだろう。実験もしている甲斐がある。

#このみ

「……どきどき」

#ナカミチ

「なぜ擬音を口に出すんだ……。」

#ふうき

「……わくわく」

#ナカミチ

「だからなぜ、」

#

ぱぁん!

#このみ

「おお!来ましたよナカミチ君!」

#ミサキ

「すごい勢い!茶色い種だったのがなんかもう初めからポップコーンだったみたいに真っ白!」

#ましろ

「……あれ?」

#ふうき

「はくりょくがすごいよ!ナカミチ君も見たよね!」

#ナカミチ

「なぜこっちに来ている。なぜ始めからいたかのように居る。そして風紀さんへの突っ込みのせいで見れなかった」

#ふうき

「え?風紀さんに見とれてたから気付かなかった、だって?もー。授業ちゃんと受けなきゃだ、め、だ、よ」

#ナカミチ

「……。」

#ふうき

「なんでもいいから反応するべきだね」

#ナカミチ

「後ろ」

#ふうき

「え?」

#ネネ

「……。」

#ナレーション

ネネちゃん、風紀さんの後ろからその肩を掴む。

#ネネ

「抵抗したら怒ります」

#ふうき

「……。」(ずりずり)

#ナレーション

自身の班へと掴んでひっぱられていく風紀さん。抵抗してはいけない。不安そうな顔をしながらもさよならとぱたぱた手を振る余裕はあるみたいであるが。

#このみ

「火、止めますねー」

#ナレーション

その間にポップコーンはパンパカパンパカ鳴り響いている。

#ナカミチ

「……あ、見れていない!」

#ナレーション

突っ込みと対応に追われて実験が見れていなかったらしい。授業に集中しような。彼に責任がない事が可哀そうだが。

#ナレーション

しかし、そこにははじけ終わったポップコーンのみ。ビーカー内は雪のように真っ白なポップコーン。と言いたいがガラスの内は飛んだ油でべっちょり。祭りの後である。

#このみ

「見れました?」

#ナカミチ

「見れなかった」

#このみ

「授業をちゃんと受けないなんて不良ですよ。不良」

#ナカミチ

「不登校……。いや、なんでもないです」

#ナレーション

引き合いに出したものを引っ込める辺りやさしい。

#ましろ

「ど、どうしよう。悪いことしてる」

#ナカミチ

「不可抗力でな」

#このみ

「あれ?ましろちゃんも見れてなかったんですか?」

#ましろ

「そうだね。まだこのノリというより流れにおいて行かれちゃう時があるかな」

#このみ

「まー、へんな人ばっかりとも言えますから」

#ナカミチ

「1日で馴染みきった奴もいたがな」

#このみ

「しかし!クラスメイトをフォローしてこそ我がクラス!ミサキちゃん!ポップコーンを取り出して下さい!」

#ミサキ

「おっ。なにか策があるんだね。ちょっとまってねー」

#ナレーション

厚手の軍手を取りつけながらビーカーから中身をお皿に移し替える。

#このみ

「さぁ。再実験です。ふふん」

#ナレーション

スカートをもぞもぞとしている。

#このみ

「あ、ナカミチ君。あんまり見ないように」

#ナカミチ

「勝手に見せ付けているだけだろ」

#このみ

「変質者みたく言わないでください。さぁこれが予備として自発的に入手していたポップコーンの種です」

#ナレーション

ぽつんと1つだけこのみちゃんの手に乗っている。

#ナカミチ

「くすねたのか」

#このみ

「予備。もしくはさらなる真理追及の為に手に入れたものです。はーい、加熱しますよー」

#ミサキ

「点火ー」

#ましろ

「勝手に2回やっていいの?」

#ナカミチ

「知らん」

#

ぱあん。

#ナレーション

少し離れたところでようやくはじけ始まったところがあるようだ。

#ナカミチ

「ん?」

#ナレーション

見れば風紀さんがうごめいている。

#このみ

「風紀さんのところがようやくはじけ始まったようです。うふふ。あのはじけ音に紛れ込ませます」

#ナカミチ

「無理あるだろ」

#このみ

「1個だけです。押しとおしますよ。それより見ておかないと」

#ミサキ

「そうだよ。ましろちゃんはもちろんナカミチ君の為にこのみちゃんが危ない橋を渡っているんだからね」

#ましろ

「ミサキちゃんものりのりで点火って言ってたよね」

#ミサキ

「ほら、泡ではじめたよ」

#ナカミチ

「いいのかなぁ」

#このみ

「ばれなきゃってとこですね」

#ナレーション

つまりよくない事をやっているのである。

#ナレーション

班の4人が今度こそ集中してジーっとフラスコの横から観察していると、

#

パーン!

#クラスメイト(全体)

「ん?」

「お?」

「の?」

#ナレーション

世界中の視線をくぎ付けに。

#ましろ

「……。」

#このみ

「……。火、消しまーす」

#ナレーション

机の中心にあるフラスコに視線を集中させ周りの視線に気づいていないふりをして平常心を装う悪い子たち。

#ナカミチ

「取り出すぞ」

#ナレーション

平静を装いつつ軍手をはめた手でフラスコ内にある一個のポップコーンを取り出す悪い主人公。すでに取り出しておいた中に紛れ込んでしまえば証拠消滅。あとは知らんぷりである。

#ナレーション

なお先生は黒板に状態変化やらなんやら記入中であり、そもそもこっちを見ていなかった。

#このみ

「勝った」

#ましろ

「なぜこんなことに」

#ナカミチ

「原因ならなんか椅子の上で正座しているみたいだから許してやってもいいんじゃないか?」

#ナレーション

椅子の上で正座してうなだれている風紀さんの後ろ姿が見える。その机の対面には無言で圧を放つネネちゃんがいた。

#ミサキ

「あー、どうしてああなっちゃってるのか」

#ナカミチ

「知らん。ただ、風紀さんよりネネさんの方がかまって欲しいのかもしれないな」

#ましろ

「なに言ってるの」

#ナカミチ

「いや、思った事を言っただけで、」

#このみ

「ナカミチ君が言うなら案外そうかもしれませんね。で、急になに言ってるんです」

#ナカミチ

「いや、ふとそうじゃないかと……。」

#ミサキ

「ナカミチ君のいいとこだけどたらしに使うのやめない?」

#ナカミチ

「使ってないから……。」

#ナレーション

本来老若男女問わずほっとけない気質であるのだが。たらしに見られるのは、その辺はギャルゲーでキャラゲーだからゆえ、許して。ナレーションはそこらへんの責任者じゃないので石投げないように。

#ナレーション

まったく問題なく実験も終わり。学生は次に向けて動く。

#ナレーション

教室に戻ってきたもののあわてて体操服を持って出ていく。次は体育らしい。

#このみ

「2日続けて体育とかこの学校の時間割おかしいんじゃないですかねぇ」

#ナレーション

意外とある話である。

#ナカミチ

「そうだな。はやく行かないと間に合わなくなるぞ」

#ナレーション

しかし学生にとって時間割は自分のクラス内にしかないものである。他のクラスの時間割など認識しているはずもない。

#このみ

「帰ってすぐ洗って乾燥ぶんまわしですよ」

#ナカミチ

「ふーん。急がないと着替える時間無くなるぞ。そしてぶんまわしたのって絶対にご両親かともみさんだろ。自分でやったのはよくて洗濯機に放り込んだといったところか」

#このみ

「ふん。女の子がだれしも着替えるのに時間がかかると思ったら大間違いです。覚悟しておいてください」

#ナカミチ

(反論そこだけかよ)

#ナレーション

教室を出たこのみちゃん。女子更衣室へと向かって行ったのだろう。ナカミチ君も更衣室へ向かう。むろん男子更衣室である。

#ナカミチ

(わりと大人しく引き下がったな)

#ナレーション

ナカミチ君に男子更衣室と女子更衣室のどちらに入りたいかとか聞きそうなもんである。

#ナレーション

むろんナカミチ君に男子更衣室と女子更衣室のどちらに入りたいかと聞けば、その選択肢がそもそもおかしい。だの、選んでやる必要がない。だの、さらには無視というような大人の対応が出てくる。だがこれらは答えているも同然になる。

#ナレーション

こういう質問がそもそも子供っぽい可能性は否めないのだが。

#ナレーション

体育館。生徒を見るとジャージだったり半そでだったり。どっちもそれぞれの良さがある。主に温度調整の話だ。

#ナレーション

遠い昔に言ったこともあったがプール期間は1学期で終了である。

#ふうき

「今日はなにしようかなぁ」

#このみ

「日向ぼっこ体操とかどうです?」

#ナカミチ

「先生は認めてくれないだろうなぁ」

#ふうき

「自主的に運動する事がいちばんいいって先生認めてくれてるよ」

#ナカミチ

「日向ぼっこが体操になるとは思えないんだがって話なんだが」

#ナレーション

なんだかんだで体育館前で出会って、クラスメイト達が集合している場所へと足を運ぶ3人組。

#ナレーション

集合してチャイムが鳴り準備運動に軽い筋力トレーニングという流れ作業をこなして作戦タイムである。

#クラスメイト

「バスケットボール!」

「ドッジボール!」

「バレーボール!」

#クラスメイト

「ネットボール!」

「ポイズンボール!」

「キンボール!」

#ナレーション

急に変なのがわいてきた。解説役の仕事になるのだろうか。

#ふうき

「だいたい屋内でできるゲームし尽くしちゃったね」

#ナレーション

いままでにネットボールとか何とかやらはやったらしい。ということはナレーションから解説することになる。非常に簡単にではあるが。

#ナレーション

ネットボールとは、バスケットに近い競技である。

ポイズンボールとは、ドッジボールに近い競技である。

キンボールとは、バレーボールに近い競技である。

#ナレーション

以上。

#ナレーション

だと怒られそうである。もう少し詳細に言えば、ネットボールはバスケットボールからドリブルをなくし、選手によって動けるエリアが決まっており、ゴールへのシュートができる選手が限られているというような競技である。

#ナレーション

ボールを持っている選手から90センチ離れなければならないというようなルールとかもある。この調子で残り2つの解説だ。

#ナレーション

ポイズンボールはドッジボールを内野と外野陣営にし、外野のみがボールを投げ、ボールに当たったものは外野陣営に参加する。一定時間後という明確なルールがある場合もあるが、だいたいは気まぐれに攻撃のボールが増えたりする。

#ナレーション

最後に内野に残ったものが勝者である。というルールだがまれによくある気まぐれで最後の1人が当たるまでゲームが続く。

#ナレーション

キンボールはバレーボールからネットをなくし3チーム制で1チーム4人、そしてボールが直径122センチ1キログラム。3人でボールを支えて1人が打つ。この際にオムニキン!――(攻撃するチームの色)!と言って攻撃。

#ナレーション

チームの色はピンク、グレー、ブラックの3色と決まっているらしい。国際大会ではピンクがブルーに変わる。攻撃を受けたチームがボールをレシーブできれば攻撃権がうつる。できなきゃ他の2チームに1点。

#ナレーション

どれも面白そうだと思う。やったことはないが。

#ましろ

「キンボールはボールがないからできなかったはずだけど」

#ナレーション

やったことがないらしい。

#このみ

「やっぱり買ってもらいましょうよ」

#ネネ

「1クラスが使うからと言って買ってもらえると思いませんが」

#このみ

「言うだけならタダってやつです」

#ネネ

「言うだけ無駄ってやつじゃないですかね?」

#ナレーション

言うだけ無駄というのはそうそうない。失礼のない限り言ってみることだ。たとえばこれからやりもしない競技の説明をしたところで、それは無駄だ。という方はいない。そういうことだ。

#ふうき

「だめだったよ」

#ネネ

「言ったんですか……。」

#ふうき

「職員会議の議題にすら上がってない気もするけどね」

#みしろ

「バレーボールでいいんじゃない?最近バスケットとドッジやったし」

#このみ

「……。」

#ふうき

「せっかくだから」

#さいか

「それは……。」

#みしろ

「え?せっかくだから?」

#ふうき

「そうそう。せっかくだからってやつ」

#さいか

「ナカミチ君がよく言いますよね」

#ナカミチ

「よく言ったりはしていない。……2、3回言ったか?」

#このみ

「よくおぼえていますね。つまり決め台詞だと」

#ナカミチ

「ちがう」

#みしろ

「そういえば何か聞いた憶えがあるなー」

#ましろ

「どこだったかな」

#クラスメイト

「あー、あれか」

「でもやっぱり1番印象深いって言ったらねー」

「あのねー、みしろさん、ましろさん」

#このみ

「その話はいったん避けてですね。授業中ですから。なんの競技をするかという話です」

#ましろ

「そうだった」

#ミサキ

「思いっきり話そらしてない?」

#ネネ

「ほ、本当にまじめな方がつられましたからついて行くべきです」

#みしろ

「え?せっかくだからバレーボールをするの?」

#クラスメイト

「こんがらがったぞ」

「案の定だろ」

「想定内。解決役は身から出たさびみたいなものだし名乗り出るだろ」

#ナカミチ

「なぜなんだ……?」

#ふうき

「大丈夫大丈夫。なんだかんだみんなで議論するよ。ほら、進行役ぐらいやって」

#ナカミチ

「このみ。委員長だろ」

#このみ

「委員長としてはせっかくですから副委員長にもしっかり頑張ってもらいたいですね」

#ミサキ

「いつもの体制が整ったね」

#さいか

「議題は今日やるスポーツです……。」

#クラスメイト

「実際バレーボールはいいと思うんだよ」

「ただ消去法だったっていうのがなぁ」

「言ってみれば気に食わないってことだねぇ」

#みしろ

「そ、そうなんだ。気に食わないんだ」

#クラスメイト

「そうなんだよなあ」

「去年ひと悶着あったんだ」

「みしろちゃんに今度ちゃんとお話しないとね。ましろさんも一緒にどうぞ」

#ましろ

「ありがとう。聞かせてね」

#ネネ

「しかし私たちはバレーボールを本当にやりたいのですか?」

#さいか

「たしかバレーボールの案を出した人がいたはずですが……。」

#クラスメイト(バレーボール発案者)

「……あ、私!い、いや。流れるように言ったから、やりたいかって言われると」

#クラスメイト

「おいおい。まずいぞ。そもそもこれがやりたいって答えが出るのか?」

「日々を漫然と生きた報いだな。やりたいことすらないのか」

「それならスポーツは全部、全力で取り組めば楽しくなるんじゃ?」

#みしろ

「バレーボール始めてみる?」

#このみ

「いや、だめです」

#ましろ

「だ、だめかあ……。」

#ふうき

「バレーボールがやりたいと自己暗示しようか。この流れるような曲線の体で強烈なスパイクを決める!」

#このみ

「すっごいうさんくさいです」

#ネネ

「なんかとたんにやりたくない気になりました」

#ナカミチ

「ジャージで曲線美もなにもないだろ」

#ふうき

「うーん。やっぱりバレーボールから離れるか、ってまさかナカミチ君ここでジャージを脱げと!そういうこと?」

#このみ

「目線が気になるのでジャージ取ってきます」

#ましろ

「そもそもバレーをするのにジャージは合わないでしょ」

#ナカミチ

「そ、そのとおりだ」

#ましろ

「でも今のでバレーをしたくない子は増えたからね」

#このみ

「あーあ」

#ふうき

「あーあ」

#ナカミチ

「俺のせいじゃないと思う……。」

#ふうき

「じゃあ誰のせいだって言うのー」

#ネネ

「話を戻してください」

#ふうき

「私のせいです。で、解決策は持ってないよ」

#ミサキ

「なにも話が進んでないよ」

#ナカミチ

「なにか競わないスポーツがいいな」

#ふうき

「え……?き、競わないスポーツかぁ」

#ミサキ

「そもそもスポーツって競技という意味だよね。自主的なものは運動じゃないの?」

#ネネ

「娯楽という意味がありますが……。運動もスポーツの意味に入ってましたね、たしか」

#このみ

「競わない…、競わないですか……。あっ!」

#ナカミチ

「どうした」

#このみ

「まさかここで日向ぼっこ体操の伏線が回収されるのでは?」

#ナカミチ

「みんな無視していいぞ」

#このみ

「うぐぐ」

#ネネ

「そういえばスポーツには冗談やからかうといった意味もありましたね」

#さいか

「ナカミチ君で遊ぶというイメージでナカミチ君をからかうといった意味に繋がりますね。あ、いえ!?決してナカミチ君をからかうとかからかいたいとかそんな事は思ってないですからね……?」

#ナカミチ

「これ以上からかう奴が増えると困るから……」

#ふうき

「まったくだね」

#ナカミチ

「……。本当に困るから……。」

#さいか

「は、はい」

#このみ

「それではどうしましょうねぇ。競争のないスポーツなど……。」

#ふうき

「おててつないでみんなでなかよく1等賞!」

#ましろ

「さすがにそれはばからしいね」

#みしろ

「いいすぎじゃない?ましろ姉さん」

#クラスメイト

「おててつないで、かー」

「手をつないでのかけっこは無しとしても何かいい感じだな」

「手をつなぐ……。まいむまいむ?」

#ネネ

「まいむまいむ?ああ、踊りの」

#さいか

「マイムマイムですか。振付をよく覚えていないのですが」

#みしろ

「やったことないかなー」

#ましろ

「私も。やったことないな」

#このみ

「うーん。お手上げというやつ、お手上げ、おてあげ、おどり、……かけっこ?」

#ナカミチ

「2人3脚……。」

#このみ

「!さんじゅう、きゅう人!40脚!」

#クラスメイト

「おっしゃ!おもしろそうだな!」

「まただいぶ異色だな」

「あとは必要な道具を集めるということになるが」

#ナカミチ

「え?いいのか?2人3脚で」

#ましろ

「発案者がなに言ってるの。それに3940脚でしょ?」

#ふうき

「よーし。体育倉庫に突撃するぞー」

#ナレーション

わらわらと体育館からつながっている倉庫へ入って行く39人集団。当然あふれた。いろいろあさり、運び出す。体育大会で使う2人3脚用のマジックテープがついた紐から、ただのぬの紐、なわとび。

#ナカミチ

「このぬの紐、ハチマキなんじゃないか?頭につけるものを足に結んでいいのか?」

#ふうき

「これはただの布だよ。使用用途わからないし」

#ナレーション

わからないものはわかる限りで分類される。

#ふうき

「それに使ったら洗って返す。当然でしょ!」

#このみ

「風紀委員の鏡!さ、ならんで結んでください!」

#ましろ

「風紀委員がいると違うね。普段から教室も綺麗だし」

#みしろ

「ほんとだよね、ましろ姉さん」

#ナカミチ

(清掃委員みたいなもんだけどなぁ)

#ナレーション

体育館を横にずらーっとならんでいく。足はマジックテープのついたカラフルな紐と赤や白のただの布紐で隣と結ばれている。

#ふうき

「それじゃーいくよ!せーの!」

#ナカミチ

「ちょっとま、」

#ましろ

「えっ?ちょ、」

#さいか

「どっちの足を、」

#

びたん。べたん。どたん。

#ネネ

「きゃ!」

#このみ

「ぐえ」

#ナカミチ

「ぐあ」

#クラスメイト

「いた」

「うぐ」

「うげ」

#ふうき

「はぎゃ!」

#ナレーション

一斉に体勢を崩して転んでいく。

#ふうき

「顔うった」

#ナカミチ

「わざとだよな?ちょっとあやまろうか」

#ナレーション

転ぶというのは案外大きなけがに繋がるものです。やめとこう。

#ふうき

「つ、つい!出来心なんです!」

#ミサキ

「次は無いよね?」

#ふうき

「ないです」

#ネネ

「はぁ。次はしっかり行きましょう。掛け声は……。」

#このみ

「では、わたしが。掛け声はせーのの後の、いち、に、いち、に、で足を動かすという感じで行きましょう」

#ナカミチ

「動かす足の確認するぞ。左から順に動かす足を言ってくれ」

#クラスメイト(全員)

「右 左 右 左 右 左 右 左 右 右 左 右 左 右 左 右 左 右 左 右 左 右 左 右 左 右 左 左 右 左 右 左 右 左 右 左 右 左 右―――」

#このみ

「せーの!」

#クラスメイト(全員)

「いち!」

#ナレーション

一斉にすっ転びだす。

#

びたーん。べたーん。どたーん。ずたーん。

#さいか

「ひゃ!」

#このみ

「ぐえぁ」

#ナカミチ

「ぐぁ」

#クラスメイト

「いて」

「ふぐ」

「ぐは」

#ふうき

「ぷぎゃ!」

#ナレーション

全員うつ伏せに床に寝っ転がっている。日向ぼっこだろうか。日向でもないが。

#ふうき

「また顔うった……。」

#このみ

「も、もう一回!」

#クラスメイト(全員)

「右 左 右 左 右 左 左 右 左 右 左 右 左 右 左 右 左 右 左 右 左 右 左 右 左 右 左 右 左 右 左 左 右 左 右 左 右 左 右―――」

#このみ

「せーの!」

#ナレーション

当然すっ転んでいく。ぐえー、だとか。ぴぎゃ、だとか。断末魔の声だろうか。

#ふうき

「うぬああぁぁ。顔が痛いー」

#ナカミチ

「なんで全部顔からこけに行くんだよ」

#このみ

「すぐそこのゴールが遠すぎますねぇ」

#ナレーション

長方形の体育館。短い距離をそんなに急いでどこへ行く。行けない。

#ふうき

「むぎぃ!ほふく前進!」

#このみ

「え?」

#ネネ

「はい?」

#ふうき

「おりゃあ!」

#ナレーション

うでだけで進んで行こうとする風紀さん。

#ナカミチ

「ちょっ。うおぉ」

#ナレーション

先行する風紀さんに結ばれた足が引っ張られる。つられて前進。

#ネネ

「ちょっと!引きずられてます!」

#このみ

「ほ、ほふく前進すら。お、思うように進みません」

#ナレーション

そりゃそうである。ましてジャージなんか着ていたら床とひっつかない。苦手ならおとなしく引きずられていた方が全体としては前進しやすいかもしれない。

#ネネ

「ああ!もう!わかりました、進めばいいんでしょう!まったく……!」

#ましろ

「な、なんとか腕の力で……。」

#クラスメイト

「意地だー!意地でも進むぞー!」

「手だー!床に貼り付けて進め―!」

「進まないいいぃ!」

#ナレーション

そりゃそうである。

#ナレーション

無理に進んでようやくゴールに定めていたラインに届く。

#このみ

「ふひぃー」

#ふうき

「……。」

#みしろ

「おとなしく2人3脚したほうがよかったでしょ。これ……。」

#ましろ

「みしろ。3940脚でしょ」

#みしろ

「ね、姉さんはやっぱり体力あるね……。」

#さいか

「うう。疲労感がすごいです」

#ナカミチ

「なぜこんなことに」

#ナレーション

原因なら目をまわして倒れている。

#このみ

「さて、ちゃんと3940脚も成功させますよ」

#ふうき

「そうそう。ちゃんと達成したいからね」

#ナカミチ

「元気そうだな」

#ふうき

「あひー」

#ナレーション

元気そうな人は別にして、それなり以上の疲労感は少しの休息を必要とした。

#このみ

「じゃあ改めていきますか」

#クラスメイト(全員)

「右 左 右 左 右 左 右 左 右 左 右 左 右 左 右 左 右 左 右 左 右 左 右 左 右 左 右 左 右 左 右 左 右 左 右 左 右 左 右―――」

#クラスメイト(全員)

「せーの!」

#ナレーション

全員の掛け声で進んで行く。進んでしまえば当たり前にほふく前進より早い。すぐに反対側の壁際まで到着する。

#ナレーション

そのまま壁にぶつかる。思い思いの小さな断末魔が聞こえる。

#ナカミチ

「と、止まるタイミングを考えていなかった……。」

#このみ

「あいたー……。ふ、ふふ。ぶつかって止まればいいんですよ」

#ふうき

「まず進む事が大事だからね。ナカミチ君はそれを教えたかったんだよ。これからも私たちを見守ってくれるはず」

#ましろ

「なるほど。考えさせられるね」

#みしろ

「ましろ姉さん。本気にしてない?」

#ナレーション

おわり。

#ナレーション

後片付けもあり、お昼休み前と言う事も鑑みて少し早く終わる体育。よく運動したのは間違いない。

#ナレーション

さっさと着替え、お昼休み。それぞれがそれぞれお弁当だったり、購入したおにぎりだったりパンだったり。ちなみに学校には購買部もあれば食堂も存在する事は存在している。ちなみに描写予定はないのだが。

#ナレーション

そして早々にご飯を食べ終えた数人が何か作業をしている。

#このみ

「なんか思ってたより早く終わりましたね」

#ナカミチ

「風紀さん作業時間を多く見積もるからなぁ」

#クラスメイト

「それじゃできたのここに置いとくな」

「まだお昼食べてなかったのよね。ちょっと時間ずらしたから食堂もすいてるでしょ」

「あ、じゃあ私も食べに行く」

#ナレーション

自分の席で手伝ってくれていたクラスメイトからも用紙を受け取る。紙にはもちろん大学の学園祭についての情報があるていど定めたレイアウトに沿って記入されている。

#

ガラガラガラ―――

#ふうき

「いやー、おまたせ!さ、てつだうよ。……あれ?」

#ナレーション

かごを頭に載せて片手で支えながら教室のドアを開けて突入してきた風紀さんである。

#ふうき

「もしかして終わった?」

#ナカミチ

「製本作業があるけどな」

#このみ

「クリアファイルのフォルダーに入れるだけですけどね。製本作業だなんて大層な事いいますねー。よっ、製本作業マスター」

#ふうき

「じゃあ製本は製本屋さんというし、製本作業マスターに任せてこのみちゃん、ハチマキを教室に干すから手伝ってくれる?」

#ナレーション

頭の上のかごを下ろす。中には洗ってしぼられたハチマキがあった。

#このみ

「もちろん構いませんよ。ファイルに紙を入れるより楽しいですから」

#ナカミチ

「べつに初めからファイルに紙を入れるのに2人も必要ないとは思っているけども。……ところで結局それはハチマキになったのか」

#ナレーション

布かハチマキかそれが問題だ。

#ふうき

「学校備品のハチマキを洗って干す。よくできた生徒だよね」

#このみ

「学校一の模範生」

#ふうき

「2人一緒に学校一!」

#このみ

「おててつないで一等賞!」

#ナカミチ

「製本はやってもいいがハチマキを干すロープはあるのか?」

#ナレーション

ただの布からハチマキになったり使用用途に合わせて形を変えるのはまさに布。布を使いこなしていると言える。

#ふうき

「え?」

#ナカミチ

「別にロープとか紐じゃなくてもいいが干す場所はあるのか?」

#ふうき

「……そうだ!もちろん考えてあるよ」

#ナカミチ

「今、そうだ、って言ったよな」

#このみ

「さすが風紀さん。ちゃんと解決策を考えてるんですね」

#ふうき

「もちろんだよ。そう。ハチマキの端と端を結んでいくんだよ。するとそこにはなんとロープが!あとはそのロープに残ったハチマキを干すんだよ」

#このみ

「天才ですね。どこにも穴がありません」

#ナカミチ

「教室に干すとして今日中に乾くのか?結んだ部分は乾きにくいんじゃないか?」

#ふうき

「では軽めに結ぶという事で」

#ナカミチ

「ほどけたらどうするんだ」

#ふうき

「洗い直したらいいでしょ!」

#ナカミチ

「今日中に乾かしたいって体育が終わった時言ったの風紀さんだよな」

#ふうき

「どうしたらいいんだ……。」

#このみ

「ナカミチ君が無慈悲なばかりに風紀さんが追い詰められました。私も悲しいです」

#ナカミチ

「そりゃあ思い付きだけど至極ふつうの懸念を述べただけだと思う」

#ナレーション

一応、問題解決に向け協力し合っている姿である。通常運転だ。ちなみに布にも干した場所にもよるが5、6限が残っている現在、室内干し2時間で乾くかと言われれば結んだところは乾かない可能性が高い。

#このみ

「屋上はどうです?」

#ナカミチ

「最近は昼休み中、くぜ先生つかまらないしなぁ。そもそもどうやって屋上の使用許可を得るのか考えないといけないなぁ」

#ナレーション

クラス内ではわりと噂になっている話のようだ。

#ふうき

「研究室にいるっぽいんだけどねぇ。引きこもり手前になってるね。うーん。屋上の鍵はきっと開いていると思ったりしているけど、あんまり無断使用したくないんだよねー」

#ナレーション

鍵は閉める為に存在していれば当然開ける為にも存在している。無断で開けるか、無断で開いているかという違いぐらいしかない。そして今日は無断で開ける、ではなく開いてる気分ではないらしい。

#ふうき

「別に屋上じゃなくても風通しがあればいいんだよ。ただ5、6限が魔道実習だからね。風通しの為に教室を開けっぱなしにできないってのがね」

#ナレーション

魔道実習は名目上、魔力向上と魔道研究のためにある。そのため教室にいる事は認められない。生徒用汎用魔道研究室や運動場での魔動機実験だとかを行うわけだが。

#ナレーション

で、結局一番人気が図書館での魔道研究である。名目上、魔道研究の為に図書館にいて勉強するのである。魔動機械を作るため数学を勉強し、世界の魔道論文を読むため英語を勉強し、魔法の発生理由を歴史から読み解くため社会の勉強を、うんぬん。

#ナレーション

名目なんてなんでもいいわけである。所詮、名目などというのは初めから名目であり、その程度のものだ。

#このみ

「あ、家庭科室に干しとけばいいんですよ。家庭科室ならいつもナカミチ君だけですし」

#ナカミチ

「まあ構わないけど」

#ふうき

「起死回生のひらめきだね、このみちゃん。よっ、主人公」

#このみ

「ふふー」

#ナレーション

で、結局ナカミチ君が家庭科室にかごに入ったハチマキをもっていくことになった。

#ナレーション

5限目になり、いつものように家庭科室にいるナカミチ君。

#ナレーション

いつもと違うのは後ろで間を一つはさんだ左右の机2つの上で1つづつ逆さに置かれている椅子に結びつけられた赤と白色のロープである。目立って仕方がない。

#ナレーション

そして窓は全開で異様な感じである。

#ナカミチ

(さてと、)

#ナレーション

いつも通り魔道具としての料理を作ろうとする。

#このみ

「手伝いに来ましたよー」

#ナレーション

邪魔されたような気になったナカミチ君であった。

#ナレーション

ひょっこりとドアから覗き込むように表れたこのみちゃん。うしろに、もはや飾り付けのように存在するロープを見て驚く。

#このみ

「あら、もう干し終わったんですか」

#ナカミチ

「もってきた時にはもう1本のロープになっていたんだ。おそらく昼休みの間に風紀さんが結んでたんだろうな」

#このみ

「じゃあ後は吊るすだけだったというわけですか。それならそうと言ってくださいよ。感謝されないじゃないですか」

#ナレーション

感謝されたいから手伝う。健全な思考ではないだろうか。

#ナカミチ

「俺もさっきまで知らなかったし。代わりに風紀さんに感謝の言葉を言うことになるから」

#このみ

「じゃあいいですけど」

#ナレーション

よくわからない理論である。当人間しか分からない価値観という奴だろうか。汎用的な価値観に頼らないというのも健全な思考なのだろうか。

#ナレーション

その後は、まぁせっかく来ましたし。ということでこのみちゃんも何か作っている。

#このみ

「ナカミチ君最近はあんこ系のお菓子作ってませんでした?今日はなにか違うようですが」

#ナレーション

ナカミチ君は一心不乱にお鍋の中身をかき混ぜていた。とろとろの飴であるようだが。

#ナカミチ

「まあな。飴は一番魔力をこめれる練る作業が多いから試行錯誤をして作っていたんだけど、食べてから補給されるまでの時間が長いのに気づいてから補給しやすい食べ物を作るようにしたからな」

#このみ

「で、あんこですか」

#ナカミチ

「生あんが、つまりこしあんの元があれば沸騰して練るだけだから割とこしあんが簡単にできる。それであんこ系のお菓子を作ってたんだけどな」

#ナレーション

お鍋の火を止めながら答える。

#このみ

「へぇ。もらった奴おいしかったですし自分で作ってみましょうかね」

#ナレーション

よくもらうらしい。おそらく露骨にせがんでるはずだ。

#ナカミチ

「せっかくだから生あんから作ってみたらどうだ?」

#このみ

「なんか悪い顔してますね」

#ナカミチ

「……え?そうかな?」

#このみ

「なにかたくらんでるんじゃないですか?」

#ナカミチ

「そんなことないけどなぁ」

#ナレーション

じーっと見つめられる。

#ナカミチ

「……ただ生あんを作るのはわりと大変というだけで、」

#このみ

「やっぱりたくらんでたんじゃないですか。慣れてないことするから顔に出るんですよ。いつも表情に出ない事の方が多いくせに」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

おそらくぐうの音も出ないのだろう。おそらくこのみちゃんよりあっさり詰みまで追い詰められている。慣れてない。

#このみ

「そういうのは初めからある程度ばれるとか追及されると分かってやるもんですよ。覚悟が足りませんね」

#ナカミチ

「もうしない」

#ナレーション

追い詰めるスキルが上がっても追い詰められる側のスキルは上がらないようである。

#このみ

「追及するのも楽しかったですので、たまにはやってほしいですね」

#ナレーション

叶えてあげてもいいとは思うが。

#このみ

「で、そうじゃなくてですね。なんで今日は飴を作っているんですか?口の中はあんこが欲しくなってるんですが」

#ナカミチ

「欲しいなら冷凍庫に生あんが入っているから自分で作ればどうだ。そんなに時間はかからないぞ」

#このみ

「ほんとうですか?じゃあ、じゃなくて。なんで久しぶりにあんこを、じゃなかった。飴を作っているんですか」

#ナカミチ

「え?ああ。昨日くぜ先生から必要だから作ってほしいって言われたんだ。で、出来上がりそうな辺りで取りに来てくれるらしい」

#ナレーション

できた飴を軍手で布の袋、いわゆる巾着袋に入れる。

#このみ

「前は色つきだったというのに。どうして手を抜いたんですか。くぜ先生の好感度を上げたくないんですか?ナカミチ君が?信じられません。あの美人さんを前に。……寝不足は顔に出てますけど」

#ナレーション

目の下のくまが心配するレベルの人である。

#ナカミチ

「色つきって、よく覚えてるな……。そのくぜ先生が耐久性のある物がいいっておっしゃったから装飾をはぶいただけなんだが」

#このみ

「……飴の耐久性って何です?硬いって事ですか?長時間舐めれるって事ですか?」

#ナカミチ

「飴の場合、硬さと持続性は比例するから特に気にしなかったが」

#ナカミチ

「そもそも学校の設備で作れるのはべっ甲飴にちょっとアレンジするぐらいのものしかできません、って言ったら。わかりましたそれでお願いします。って言われたし」

#このみ

「つまり結局いつも通りという事ですか」

#ナカミチ

「まあそういうことになるな」

#ナレーション

飴の入った巾着袋を閉める。

#このみ

「わぁ。素敵な巾着袋ですね。普段よりいいやつです。点数稼ぎですか。はーやだやだ。下心、下心」

#ナレーション

淡い赤色に綺麗な模様が入っている。

#ナカミチ

(一気に渡しづらくされた)

#ナレーション

だがきっと家でわざわざ綺麗な巾着を選んだのだろう。やだやだ。

#ナカミチ

「ほら。このみのぶん」

#ナレーション

素敵で綺麗だと称賛された巾着袋を差し出す。

#このみ

「……いただきます」

#ナレーション

固まった顔で受け取るこのみちゃん。自分で自分の首を絞めた。いつものこのみちゃんクオリティ。クリエイティブ。

#ナレーション

続けてシックな少しだけ大きめの巾着袋に飴を入れていく。クゼ先生に似合いそうな巾着袋である。

#このみ

「……つ、ついでじゃないですかぁ!」

#ナレーション

急に叫ばれて驚くナカミチ君。

#ナカミチ

「な、なにが」

#このみ

「巾着袋ですよ!」

#ナカミチ

「巾着袋?」

#ナレーション

誰もが一番になりたいお年頃。お年頃は関係ないだろうか。

#ナカミチ

「いやいや、いや、えーと。別に巾着袋を選んだとかそういうのは、」

#このみ

「はい?」

#ナレーション

引きつった笑顔である。

#ナカミチ

「りょ、両方ちゃんと選んだものだから」

#このみ

「どうだか。ふん。まぁいいです。ありがたくいただきます」

#ナレーション

そっぽをむくこのみちゃん。そっぽをむかれるナカミチ君。

#このみ

「……ん?」

#ナレーション

そっぽを向いた先に色鮮やかな布たちがその存在を主張している。

#このみ

「ナカミチ君。くぜ先生いらっしゃるんですか?」

#ナレーション

このみちゃん向き直る。仲直りが早く、よろしい事で。

#ナカミチ

「ん?ああ。昨日そう聞いたけど。取りに行くって」

#このみ

「あれ、あのままじゃダメじゃないんですか」

#ナレーション

あれ。机の下に直す椅子を机の上に逆さにおいて色鮮やかなロープを結んで繋がっている、あれ。

#ナカミチ

「……まずい」

#ナレーション

2人とも動き出す。

#このみ

「とりあえず廊下の、」

#ナレーション

廊下を窓から顔を出すこのみちゃん。

#このみ

「あ、くぜ先生ですー。待ってましたよー」

#ナレーション

教室側に残っている手がばたばた動いている。急げ!という意味でまちがっていないだろう。

#ナカミチ

(すぐそこかよ!)

#ナレーション

模範的ツッコミ用語である。汎用性も高い。

#ナレーション

なんとか片方の椅子からロープに扮した布をほどいて腕で巻き取って行く。急げ急げ。

#くぜ

「―――――な――。――――ってるんですか」

#ナレーション

クゼ先生の声である。ナカミチ君はかごにロープをほおりこんで机の陰に隠す。椅子を下ろす。

#このみ

「ナカミチ君からくぜ先生が来られると伺ったものですから。もう来るのかなーと思いまして。あ、ちょっと待ってくださいね。ドア開けますので」

#ナレーション

ナカミチ君準備完了。机の上に置いたシックな巾着袋を掴む。

#くぜ

「そこまでしていた――なくて結構です。自分で―――――。」

#ナレーション

ガラガラとドアが開く。

#ナカミチ

「ああ、くぜ先生。飴ですよね。できてい、」

#ナレーション

距離感を間違えてドアの直近に立っていたためクゼ先生と間近で目が合う。あわてて2、3歩引き下がる。鋭い目つきに後ずさったわけではないとナカミチ君を信じたいぐらいの鋭い目つきである。

#くぜ

「……どうかしましたか」

#ナレーション

目がしらを抑えながら言う辺り、目つきのせいで後ずさられたと感じているのではないだろうか。

#ナカミチ

「いえ、単純に距離が近すぎたので」

#ナレーション

信憑性皆無である。

#ナカミチ

「こちらがお願いされていたものです」

#ナレーション

飴の入った巾着袋を手渡す。

#くぜ

「ありがとうございます。……本当に申し訳ありません。こちらのわがままで」

#ナレーション

クゼ先生はじっと巾着袋を見ながら言う。

#ナカミチ

「別に何も謝られるようなことじゃあありませんよ」

#くぜ

「いえ、善意に寄りかかっているだけです。対価をお渡ししたいとも思いましたが先生から生徒にお礼の品を渡すわけにもいきません。この品は善意に付け込んでいただきました。申し訳ありません」

#ナレーション

言葉を受け取るナカミチ君は考えていた。そんな言葉は欲しくないと思った。

#ナカミチ

(なにか、)

#ナレーション

なにかクゼ先生に遠慮せずに受け取ってもらえるような言葉はないか。そうナカミチ君は考える。

#ナカミチ

「この品はお礼です」

#くぜ

「お礼……?」

#ナカミチ

「生徒から先生に対して、です。日ごろお世話になっています。そのお礼です」

#ナレーション

実際ナカミチ君にはそういう思いがあったのだろう。だからクゼ先生からのお願いをされた時ふたつ返事で了承したのかもしれない。その時の感情は憶えていないけどきっとそんな思いだったはずだと彼は感じていた。

#くぜ

「……。そんなに立派な先生ではないと分かっています。それでは」

#ナレーション

結局廊下から飴の入った巾着袋だけ受け取って去っていく。

#ナカミチ

「帰られたか」

#このみ

「名残惜しいんですか」

#ナカミチ

「いや、お礼を渡せてよかったなとしか」

#このみ

「じゃあこれはなんのお礼になるんですかね」

#ナレーション

自分が貰った巾着袋の紐をつまみあげる。飴で膨らんだ布部分が空中でぷらぷらしている。

#ナカミチ

「むしろなんのお礼になるのか待つ側なんだが」

#ナレーション

導き出した答えは最悪だった。

#このみ

「飴で見返りを要求するとは。きっと鞭がふさわしいでしょうね」

#ナレーション

もはや踏んだり蹴ったりである。

#ナカミチ

「なんのお礼でもないし、なんの見返りも要らない」

#このみ

「なんでそんなに見返りを求めないんでしょうねぇ」

#ナレーション

さぁ?普通見返りは欲しいものである。照れているんじゃないだろうか。もうちょっと押してみてほしいところではあるが。

#このみ

「まあいいです。それよりなんでくぜ先生がいらっしゃる事を知っててのんきにハチマキを干していたんですか。普通気づきますよ。そもそもなんでそのまま家庭科室に干す事を了承したのか。なんかいろいろ言いたいんですが」

#ナレーション

話題は変えられてしまった。代わりに出てきたのは疑問のあらし。

#ナカミチ

「そうなんだよな。このみに言われるまで全然気にしなかった」

#ナレーション

本人もわかっていない。考え込む。

#ナカミチ

「……わかった」

#ナレーション

わかったらしい。きっと衝撃の事実でも出てくるのだろう。こう、誰かからの認識阻害とか。意識誘導とか。そういう感じのやつが。で、超能力対決。トーナメント。長期連載。悪い組織。裏トーナメント。コンテンツの最大活用である。

#ナカミチ

「ここ数カ月魔道実習の時間1人だったから今日もそうだと」

#ナレーション

ただの思い込みだった。

#このみ

「ああなるほど。水曜日の感覚の金曜日みたいな」

#ナカミチ

「それはよくわからないがそういう感じなんじゃないかなあ」

#このみ

「私もそんな感覚になったことがないのでよくわかりませんよ」

#ナレーション

よくわからない会話である。ナカミチ君も慣れたもので特に気にしていない。再度ハチマキを干すため、椅子を机に上げて2人でハチマキの紐の両端を持つ。

#このみ

「しかし何でわざわざくぜ先生はナカミチ君に飴を作ってもらったんですかね」

#ナレーション

椅子に紐をくくりつけながらこのみちゃんは不思議な顔を浮かべる。

#ナカミチ

「魔動料理はめずらしいし手元になかったんじゃないか」

#このみ

「それでも取り寄せればいいじゃないですか。わざわざちょっとしか魔力が補充されないナカミチ君のお手製魔道料理はいらないでしょう」

#ナカミチ

「それを誰かからはよくねだられるんだが」

#このみ

「おやつとしてねだっているだけです」

#ナレーション

本人談。本人がしゃべっているからと言って本当かどうかはわからないもので。

#このみ

「魔力が少しだけ込められている魔道料理が欲しかったんでしょうかねぇ」

#ナカミチ

「できるだけ魔力をこめてくれと言われたけども」

#このみ

「込めたところで一緒みたいなもんでしょう」

#ナカミチ

「そんなことは……ない」

#このみ

「やれやれ。難儀なもんです」

#ナレーション

ハチマキを干し終える。

#ナカミチ

「手伝ってくれてありがとう」

#このみ

「結んだだけです。が、感謝は受け取ります」

#ナレーション

感謝をゲット。

#このみ

「さて、もう少しで乾くといいですが」

#ナレーション

伸びたロープをぺちぺちと触りながらつぶやくこのみちゃん。

#このみ

「触った感じは結んでるとこが後ちょっとって感じですか」

#ナカミチ

「じゃあ大丈夫だな」

#ナレーション

6限目も後30分程だ。

#このみ

「じゃあ私もさっさと作り上げますか」

#ナレーション

手を洗いながら意気込むこのみちゃん。

#ナカミチ

「俺はレポート書いてるよ」

#このみ

「毎度同じような内容でしょう?それよりこしあん作ってください」

#ナカミチ

「なんで」

#このみ

「今からドーナツを揚げるんですよ」

#ナレーション

このみちゃんの前にはボウルが。中には白い生地が入っているようだ。

#このみ

「砂糖を後がけしようと思ったんですが。あんドーナツにします。あげた後に切って中にあんこを塗ればかんたんでしょう?いやー、いいあんです」

#ナレーション

あんだけに。である。解説する身にもなってギャグをしてほしい。

#ナカミチ

「いや、そんな簡単に言わないでほしいが。……電子レンジ使えばいけるかもなぁ」

#ナレーション

主人公はスルー。突っ込み役から脱するつもりか気づいていないだけか。

#このみ

「行けそうならやりましょう。ほら」

#ナレーション

どうもギャグは意識していなかったらしい。解説し損である。これではこっちが笑われる側だ。苦労人である。あ、ねぎらいのお言葉ありがとうございます。ありがとうございます。

#

ガラガラガラ―――

#ふうき

「ちわー。越後屋でーす。ハチマキ取りに伺いましたー」

#ナレーション

急な来訪である。来訪された側は固まっている。

#ふうき

「おや?このみちゃんもいる。どうしたの?2人とも固まっちゃって」

#ナレーション

ひきつった顔で入ってきた風紀さんを見つめている。

#ナカミチ

「いや、風紀さんが来たと思わなくて」

#ふうき

「あれ?待ち人じゃなかった?お呼びでない?こりゃまた失礼」

#このみ

「ナカミチ君はくぜ先生が来たと思ったんですよ」

#ナレーション

教室の後ろで存在感を放っているあれを見られる訳にはうんぬん。同じ説明ばっかりしている気がする。

#ふうき

「あー。ごめんね。そりゃ比べられたら勝ち目は薄いね」

#ふうき

「ってなんであやまらないといけないの!ひどい!」

#ナレーション

ひどい主人公である。

#ナカミチ

「さっきくぜ先生がいらっしゃったからまた来られたのかと思っただけだ!」

#ナレーション

大声に大声で返すナカミチ君。

#このみ

「さすがに窓全開で叫ばれると誰か来ると思います」

#ナレーション

冷静な指摘が入る。

#このみ

「私にツッコミさせないでくださいよー」

#ナレーション

だれもかれもがボケに回りたがる。

#ふうき

「ごめんごめん。ついね。おっ。これなに?ドーナツつくるの?」

#ナレーション

ラップを敷いた机の上にわっかの生地が並んでいる。

#このみ

「そうです。あんこのトッピングつきです」

#ナカミチ

「もう俺が作るのは決まっているのか」

#このみ

「そう言いましたよ」

#ナカミチ

「言ったかなぁ」

#ふうき

「言ったと思うけど」

#このみ

「ほら風紀さんもそう言ってるじゃないですか」

#ナレーション

フライパンになみなみと油を注ぎながら、してやったという顔をしている。

#ナカミチ

「いや、知っている訳ないよな」

#ナレーション

そりゃそうである。風紀さんはさっき来たばっかりだ。だが今重要なのはそんなことではない。ドーナツの揚がり具合だ。良い感じに出来上がりそうだ。

#ふうき

「あ、このみちゃん。その油使い終わったら貸してー」

#このみ

「はい、終わりましたよ。どうぞ」

#ナレーション

スムーズに手渡る。

#ふうき

「ふふ。これこそ私が来た真の目的。ほらっ」

#ナレーション

スカートから何かを取り出す。透明な袋にどこかで見た覚えのある種が入っているようだ。

#ナカミチ

「ポップコーンの種じゃないか。勝手に取ったな」

#ふうき

「ちょっとは信用してよ。あまりそうだったから自発的に処分しようと思っただけだよ。有意義にね」

#このみ

「さすがです。地球にやさしいですね」

#ふうき

「えーと。甘いポップコーンにしようと思ってたんだけど……。」

#ナレーション

ちらっとこのみちゃんの方を見る風紀さん。

#このみ

「ん?良いと思いますよ」

#ナカミチ

「ドーナツをみんなで食べるならポップコーンは塩の方がいいんじゃないか?どっちも甘いっていうのもな」

#このみ

「ああ。そういう。いや、そうですね。あんドーナツは甘いですし」

#ふうき

「うんうん。そうしようか」

#ナレーション

言い終わるや否やちゃっちゃと用意を始める風紀さん。

#このみ

「ほら、あんドーナツ作るんですからあんこお願いしますよ」

#ナカミチ

「わかったよ。しかしスカートからあっさり物を取り出していたな。取り出しにくいもんだと思い込んでた……あっ」

#このみ

「そうですね。取り出すのに時間かかった子がいましたからね。普段どこみてるかよぉーくわかりました」

#ナカミチ

「動いているところに目が行くのは普通の行動だ……」

#ナレーション

冷凍あんを取り出しながら弁明している。冷凍あんを手にしながら謝る人というのもなかなか見れない光景である。別に見れなくても困らないだろうが。

 

#このみ

「では、頂きましょうか。手を合わせて、いただきまーす」

#ふうき

「いただきまーす」

#ナカミチ

「いただきます」

#ナレーション

机に各自並べられたあんドーナツとポップコーン。この組み合わせは合うようなそうでもないような。

#ふうき

「わりとポップコーンの音しなかったね」

#ナレーション

器用にお箸でポップコーンを口にほおりこみながら何か言っている。

#このみ

「ぽん。って音でしたね」

#ナレーション

スプーンでポップコーンをすくう。食べる。ほおばる。

#ナカミチ

「ガラスのふたをしててもそれだけ音がすることに驚いたけどな」

#ナレーション

フォークにポップコーンを載せて食べている。ドーナツもこのフォーク一本で行くようだ。

#ふうき

「それでこれがあんドーナツだね。……ふむ」

#ナレーション

言い終わるや、口に入れる風紀さん。

#ナカミチ

「どうした?」

#ふうき

「いや、これ魔道料理じゃないんだと思って。魔力補給されないなって」

#このみ

「くぜ先生にあげる魔道飴を作ってたからもう魔力空っぽなんですよ」

#ふうき

「ほーう。ふーん。やるねぇナカミチ君も」

#このみ

「私も貰いました」

#ふうき

「はー。見さかいない、という言い方はちょっと……。うーん。あ、節操がないね!」

#このみ

「節操なしです!」

#ふうき

「じゃあ私の分もあるよね。ほら。はやくー」

#ナカミチ

「ない」

#ふうき

「へ?なんで……?」

#このみ

「風紀さんになんて仕打ちを……鬼畜です」

#ナレーション

鬼畜生である。鬼畜外道の類である。乙女の純情をもてあそんだ罪である。そんな感じの鬼畜ぐあい。

#ナカミチ

「来るって聞いてなかったし。そもそもなぜ、……わかったよ。ほら」

#ナレーション

ポッケから地味な巾着袋をとりだす。

#ナカミチ

「自分用のやつだけどあげるよ」

#ふうき

「いえーい。やったー」

#このみ

「今日はすきやきですー。お祝いですー」

#ナレーション

お祝い事にはすきやき。伝統である。

#ふうき

「ありがたく食べるよ。ところでなんでくぜ先生はこの魔力補給の面でありがたみがない飴を欲しがったの?」

#ナレーション

そのくだりはさっきもやった。結局よくわからないものは情報不足から来ているので結論は出ない。推論よりあてずっぽうと言った方が近い。

#ナレーション

結局3人で不思議だね。という結論しか出なかった。その結論が出た時には急いで片づけをはじめないといけない時間であるという結果が残った。

#ナレーション

風紀さんは干してあったハチマキをたたんでかごに入れ頭に乗せ抱えて体育倉庫にすっ飛んで行き、このみちゃんは調理具、食器類を洗って拭いて棚に直してお片づけ。

#ナレーション

ナカミチ君は自分とこのみちゃんの分の実験レポートをA4用紙に1枚づつまとめる。ちなみに風紀さんのレポートは自分で終わらせていた。

#ナレーション

いつだって物事は最後にドタバタしがちである。わざとやっている可能性はあるが。ぎりぎりまで遊んでいたいのかもしれない。

#ナレーション

無事に終わって清掃も終わり、ホームルーム前。

#このみ

「えー、では風紀さん前に」

#ナレーション

黒板前にはこのみちゃんとナカミチ君が。

#ふうき

「はーい」

#ナレーション

クラスメイトがそれなりにちゃんとすわっている中とてとてと前に出てくる風紀さん。

#ふうき

「えー。ただ今ご紹介にあずかりましたみんなのアイドルこと風紀委員の白野、白野風紀ちゃんでございます。くぜ先生が来られるほんのわずかなお時間をいただきまして、」

#ナカミチ

「おそらく後2分もしたらくぜ先生がいらっしゃるだろうな」

#ふうき

「本題です。『みんなで考える大学潜入!』の資料が皆さまの協力の元、完成いたしました」

#ふうき

「こちらの資料には大学の学園祭について記述されています。興味のある大学がありましたら資料を製作した担当者に連絡してください。担当者については資料右下に記入されております」

#ふうき

「つまり」

#ふうき

「大学へ遊びに行こう!」

#クラスメイト

30秒かかってない」

「普段からこんな感じで、できないんだろうなぁ」

「性格というより性質というか。さっきのあまりに違和感あったもんな」

#ふうき

「補足すると資料は今日スキャンしてグループのチャット板に貼り付けとくよ。原本は明日またもってくるから実際に見たい人は明日まで待っててね」

#ナカミチ

「はい。ありがとうございました。お戻りください」

#ふうき

「はーい」(とぼとぼ)

#クラスメイト

「なんだその事務的な発言は」

「許せない。風紀さんがしょんぼりしてる」

「吊るせ!」

#ナカミチ

「誠意をこめた結果だ!」

#このみ

「まぁそういうわけで、えーと、『みんなで考える大学潜入!』が開催中になりました。基本的には担当者が行きたい大学を担当しています。見に行きたい人は一緒に行きましょう」

#ネネ

「あの」

#このみ

「はい!ネネちゃん!どーぞどーぞ!そのままで!はい!みんな聞きましょう!」

#ナカミチ

「うるさい」

#このみ

「はい」

#ネネ

「今の話を聞いて思ったのですけど担当者の中にはしっかり大学を見ておきたい方もいらっしゃると思うのですが。私たちが邪魔になったりしませんか?」

#ふうき

「はい!」

#このみ

「はい!風紀さん早かった!ですが別にこっちが答えてもよかったんですよ?」

#ふうき

「まーまー。企画者だからね。うん。その点は大丈夫。ちゃんとご理解いただきました。協力してもらっているのは確かだよ。ありがたいことにね」

#ネネ

「それでいいんですか?」

#ふうき

「そのへんは結論が出ないよ。個人的に企画に賛同してもらえてよかったとはね、思っているけれどね」

#ネネ

「……素敵な企画だと思います。風紀さんありがとう」

#ふうき

「きゃー。そう言われるとまいっちゃうなー」

#ナレーション

わざとらしく照れながら照れ隠しをする風紀さん。しかしそんな和やかな場に終わりを告げる影が忍び寄る。その異変を最初に気づいたのはさいかちゃんだった。

#さいか

「あのー、くぜ先生来られました」

#ナレーション

議論終結。あわてて黒板前から自分の席に戻る2人。

#ナレーション

廊下側ゆえのさいかちゃんのファインプレーから10秒後。クラスメイトは引き締まって座っていた。

#

ガラガラ―――

#

キーンコーンカーンコーン

#ナレーション

完璧なタイミングでの御到着であった。

#くぜ

「ホームルームを始めます。配布物と連絡事項が1点づつあります」

#ナレーション

なにかあるようである。生徒たちに封筒が配られる。

#くぜ

「中には文化祭について、保護者様向けのご連絡用紙が1枚と入場券が4枚入っています」

#くぜ

「ご家族の参加者が5名以上いる場合などの理由で入場券が足りない場合は、ホームルーム後等に私に言うように」

#くぜ

「何か質問は?」

#ナレーション

シンプルイズベストという言葉も関心するような説明がなされる。

#ナレーション

ナカミチ君は先生の話に耳を傾けていたが、横でうんうんと悩んでいる風紀さんの声が耳に入ってきた。

#ナカミチ

(無理やり質問を考えなくてもいいだろうに)

#くぜ

「では次。連絡事項です」

#ナレーション

風紀さんタイムアウト。がーんというような顔を作って机に倒れ込む。

#くぜ

「連絡事項は生徒会長立候補者についてです。立候補する人はいますか」

#ナレーション

そんな時期だったとナカミチ君は思った。彼はこのみちゃんの方へ視線を向ける。優しい顔で首を振るこのみちゃんを見る事が出来て。彼は自分がようやく安心できたと気付けたのだった。

#くぜ

「………いませんか。わかりました。ではホームルームは以上です。号令を」

#このみ

「はい!きりーつ!」

#ナレーション

クラスメイトたちが立ち上がる。今日の学校もついに終わりが近づいてきたと感じさせる。

#このみ

「れーい!」

#クラスメイト(全員)

「ありがとうございましたー!」

#このみ

「かいさーーん!」

#ナレーション

わらわら、わしゃわしゃと教室から人が出ていく。

#クラスメイト

「今日も終わったなー」

「いつも以上に長い一日だった」

「充実していたと言ってもいいと思う」

#このみ

「かえろー。かえろー」

#ナレーション

軽そうなかばんを肩にかけてこのみちゃんも帰る。ナカミチ君も帰る。

#ナレーション

帰り際にちらりと目を向けたこのみちゃんの机の中は置きっぱなしの教科書類でいっぱいだった。

 

 

#ナレーション

数日後。

#このみ

「えー、ではまず魔道祭のステージについて話し合おうと思います」

#ナレーション

おなじみ、放課後の話し合いである。後ろでクゼ先生が立ち、このみちゃんとナカミチ君が教壇に立つ。

#クラスメイト

「今年はステージでの出し物だよなー」

「今の時点でその理解度は流石にないよな?」

「さすがに確認だろう」

#ナカミチ

「前回の話し合いで徹底的に低予算で行くことにした。その上で劇を行うところまでは決まった。それを踏まえたうえでなんの劇を演じるか考えて来てもらっているはずなんだが……。」

#クラスメイト

「大丈夫だぜ。ちゃんと考えて来ているぞ」

「当たり前だな。考えてきたぞ」

「完璧な案だ」

#このみ

「というわけでナカミチ君に黒板に書きだしていただきますので案のある方は、」

#ふうき

「一斉にどうぞ!」

#クラスメイト(多数)

「赤ずきん!一寸法師!シンデレラ!いなばのしろうさぎ。たにし長者!金太郎!さるかに合戦。じゅげむ!北風と太陽。幸せの王子。源氏物語!」

#ナレーション

一斉に放たれた言葉は当然混ざる。

#ナカミチ

「聞き逃したから風紀さん1つづつ言ってってもらえるか?」

#ふうき

「大変反省しております。つい言葉が口から出てしまうものでして。あとで私自ら懲らしめておきましょう」

#ナカミチ

「別に懲らしめなくてもいいからもう一回確認してくれ」

 

 

 

 

 

#ナカミチ

「という感じに話が進みまして。またそこからあれはいやだこうしよう、だったらこうだとか。こうしたいああしたいとか。そういう感じで」

#ともみ

「それでオリジナルの戦隊ヒーローを演じることになるのが面白いクラスですね」

#ナレーション

どこかのベンチに座りながら談笑している2人。どこかの大学のようだが、どうやら思い出話をしているようである。さっきの話はナカミチ君の回想だったようである。

#ナカミチ

「低予算の話も撤廃したり復活したり難航しました。最終的に低予算で行くことになりましたけどね」

#ともみ

「それは楽しみです」

#ナレーション

くすくすと笑うともみさん。ナカミチ君も気を張っていないと見とれてしまうようだ。というよりなぜこの2人だけでいるのだろうか?ナレーションにもわかるように説明してほしい。解説が推論ばかりになっている。

#ナカミチ

「楽しみという事は見に来て下さるんですか?」

#ともみ

「ええ。ややこしくてかわいい妹の晴れ舞台ですから。もちろん見に行きますよ」

#ナレーション

そのややこしくてかわいらしいこのみちゃんは今どこにいるのだろうか。

#ともみ

「それにみなさんも学園祭に来て下さいましたし、私が皆さんの魔道祭に行かないのは不義理でしょう?」

#ナカミチ

「だれも不義理とは思いませんよ」

#ともみ

「まぁそうとは思いますけど。結局、純粋に舞台を楽しみにしていますから」

#ナレーション

どうやら今はともみさんが通う大学の学園祭の日らしい。という事は風紀さんが企画した……、えー。『みんなで考える大学潜入!』だったか、の関係だろう。

 

#ともみ

「でもその前に2学期中に文化祭がありますよね?その話はどうなっているんですか?このみからもその話は全然出ませんし。聞いてもはぐらかされるんですが……。」

#ナレーション

そういえばそうである。時系列が崩壊したわけではない。

#ナカミチ

「……まだ決まってないんです」

#ともみ

「……え。……いやいや。後1週間後でしたよね?まだ決まってないんですか?!」

#ナレーション

1週間後の文化祭の出し物が決まっていないらしい。

#ナカミチ

「一応表面上は縁日系なんです」

#ともみ

「えーと。それは屋台で遊ばれるようなものということでしょうか?」

#ナレーション

ボールすくい、人形すくい、金魚すくいといったところか。

#ナカミチ

「ええ。あえて表現を濁して準備開始前に決めようという魂胆だったのですが」

#ともみ

「……決まらない、と」

#ナカミチ

「次の議論で決まらない場合はスーパーボールすくいにしようとは決まっています。労力を最小限にしようと」

#ナレーション

ボールを買って水に浮かべる。終わり。確かにすぐ終わる。すくうための「ポイ」もいる。水槽はどうしようか。労力はどんなものにもいる。

#ともみ

「……中途半端にするよりは。いや、やはり学校行事ですし。ですが決まらないのであれば。いえ、本来どうであろうと決めるべき……。いえ、しかたなくやるのは意味がない……。」

#ナカミチ

「……。と、とにかく文化祭よりは魔道祭に来ていただいた方がうちのクラスとしてはいいかなと思います」

#ともみ

「ま、まぁ。悔いのないようにしてくださいね」

#ナカミチ

「そうします……。」

#ナレーション

どうなる事やら。

 

 

#ともみ

「ところで、一つお聞きしたいことがあります」

#ナカミチ

「なんでしょう?」

#ナレーション

言ってからなにか大事な事を聞かれる気がするナカミチ君。感が働くまでになったか。

#ともみ

「今日来られる、ナカミチさんを含めて8名の方はどういう経緯でこの学園祭に来てみようと思ったのですか?」

#ナカミチ

「ええと。まずこのみはお姉さんのともみさんがいらっしゃるからだと思います」

#ともみ

「まぁ、きっとこのみはそうでしょう。言ってくれはしませんが」

#ナカミチ

「あとは……、さいかさんと言う子がこの大学に受験するので見学に来ます」

#ともみ

「そうですか。たしか一度お会いしていますね」

#ナカミチ

「去年の文化祭でしたか。たしかにお会いしていましたね」

#ナレーション

よく覚えているものである。ナカミチ君も確認されるまで忘れていたようだ。

#ナカミチ

「それで、5名。風紀さんとミサキさんとネネさんにましろさん、みしろ、さんですが。……興味本位だと思います」

#ナレーション

なにも悪いことはしていないがいたたまれない気持ちになる。

#ともみ

「学園祭ですから気軽に来ていただける方が準備している方もうれしいですけどね」

#ナカミチ

「いや、なかなか日本で1番の難関校へ気軽に遊びにというのはなかなか……。」

#ナレーション

難関な大学らしい。ハイレベル。

#ともみ

「苦手意識を持たれているのはうちの大学の弱みでしょうね。それでナカミチさんは?」

#ナカミチ

「…私は昨日急に来れないかって風紀さんに呼ばれました」

#ナレーション

ナカミチ君が私という1人称を使うと違和感がある。

#ともみ

「……ふふっ。別に1人称まで無理に敬語にしなくてもいいですよ。私相手にいちいち気を使うとこれから大変ですよ?」

#ナカミチ

「ですけど……、普段は俺って言ってますし」

#ともみ

「かまいません」

#ナカミチ

「はぁ。そうですかね?」

#ナレーション

はぁ。ではない。どうしてどうなってこうなったのか。

#ナレーション

そんな感じで話していると見知った顔が1つ2つ、いっぱい来た。

#ミサキ

「おはようございます。ともみさん、ナカミチ君」

#ナレーション

ミサキちゃん。続いてネネちゃん、ましろちゃんみしろちゃんにさいかちゃん。がやってくる。女性6に男性1。

#ナカミチ

(帰りたくなってきた……)

#ナレーション

さすがにわからなくはない。さらに2名追加予定。

#ナレーション

さらに待つこと数分。

#ともみ

「……。このみは毎日学校に遅れていませんよね?」

#ましろ

「遅れてはいませんね」

#ネネ

「ぎりぎりの時が多いですけど」

#さいか

「まぁ、ちょっと多いけど……。」

#ともみ

「毎回ぎりぎりだとそのうち遅刻しそうなものですけど」

#ナレーション

集合時刻まであと5分を切ったあたりである。

#ともみ

「朝は余裕を持って起きるんですけどねぇ」

#みしろ

「えっ。そうなんですか?」

#ましろ

「みしろ……。その言い方は少し失礼だよ……。」

#みしろ

「あっ。ごめんなさい」

#ともみ

「いや、イメージとしてそう持たれるのは仕方ないと思いますよ……。」

#ナレーション

肩を落としながら呆れた顔である。

#ナカミチ

「ではぎりぎりまで家を出ないんですか。……遊んでいる?」

#ともみ

「そうですね。ぎりぎりまでゲームばかり……。」

#ミサキ

「すごいイメージがわく……。」

#ナレーション

朝、半開きのカーテン。部屋の中で御満悦にゲームをやっているこのみちゃんは、なんというか似合っている。

#さいか

「あ。連絡が来たんじゃないでしょうか」

#ナレーション

スマートフォンに連絡が届く。来ているみんなに連絡が回ってきているようである。

#ナカミチ

「えーっと。「もうちょっとです。」か」

#ともみ

「もうちょっとってなんですか」

#ナレーション

むずかしい顔をしている。

#ましろ

「遅れないみたいですし。集合時間通りならなにも問題ないですよ」

#ともみ

「妹が原因で皆さんを待たせることになっているこの場の姉のことどう思っているんでしょうね」

#ナレーション

かなり難しい顔をしている。

#ミサキ

「と、ところで風紀さんはどうしたんだろうね。大丈夫かな」

#ナカミチ

「遅れる時は早めに連絡すると思うしそのうち来るだろ」

#ネネ

「来なかったらむしろ怖いという気が起きそうです」

#ともみ

「変わらずエネルギッシュなようですね」

#みしろ

「ものは言いようだよね!」

#ましろ

「言いようは考えるべきだけどね……。」

#ナレーション

妹のことで頭を抱える子がもう一人。健やか度が高いから問題ないと思うが。

#ナレーション

全員なんとなく2人の来る姿が見えないものかと門の方を見る。

#ナレーション

手を振る女の子1人。このみちゃんである。

#このみ

「いやー、おはようございます皆さん」

#ナレーション

にこやかな挨拶である。

#ともみ

「このみ。ぎりぎりですよ」

#このみ

「遅れていないのでセーフです。それにぎりぎりに到着するのは私のアイデンティティともいえます。皆さんのご期待に添えてという感じです。えっへん」

#ともみ

「わざと、ということですか?」

#このみ

「い、いえ、わざとというかそっちの方がいいかなーと思ったわけです。それに今日はお祭りですし。ほら、パーティーはあまり早く着くとマナー違反ですし。ね?」

#ともみ

「主にホームパーティーの話でしょうそれは……。」

#ナレーション

あわてて取り繕うこのみちゃん。だが、そんなに強く攻め立てるつもりもともみさんにはないようである。まあプライベートな場であるし遅れたわけでもなし。

#みしろ

「これでこのみちゃんも合流できたけど、風紀さんは本当にどうしたのかな」

#ミサキ

「うーん。ちょっと電話してみる」

#ふうき

「そう?電話だと伝えやすい事もあるかもしれないしいいと思うよ。話の内容によってはダメかもしれないけどね」

#さいか

「ひゃっ」

#このみ

「おおっと」

#ともみ

「ええと。失礼ですがあなたは?」

#ふうき

「お久しぶりです。謎の美少女です」

#ともみ

「え?ええと。……もしかして風紀さんですか?」

#ナレーション

そういえば見た目がずいぶんと変わったのであった。

#ふうき

「ええ。お久しぶりです。謎の風紀委員です」

#ともみ

「……。風紀さんみたいですね。お久しぶりです」

#ナカミチ

「おはよう。風紀さん。いったいどこから来たんだ」

#ナレーション

少なくとも入り口の門から来た様子は無かったが。

#ふうき

「その辺から湧いたんだよ。ええっとPOP(ぽっぷ)?だっけ?」

#このみ

「その言い方であってますよ」

#ナレーション

Post Office Protocol(メール受信の通信規約)でもPoint of purchase advertising(広告媒体の1種)でもない。ゲームでなにもないところからキャラクター(主に敵)が出現する意味だろう。

#みしろ

「ぽっぷ、ってなに?」

#このみ

「突然出てくるという意味でいいですよ」

#ナレーション

そんな程度である。普通は知らない。

#ふうき

「いやー。ちょっと早く着いてぶらぶらしてたんだよね。そしたら。ちょっとね」

#ふうき

「迷って」

#ナレーション

わりとぐったりした感じで言う。

#ふうき

「そこから出てきてみんなの姿が見えた時はほっとしたよ。入り口近くのはずなのに自分がどこにいるかわかんなかったから。連絡しようかしまいかも悩んじゃってね。えらい目にあった」

#ナレーション

近くの建物の非常口なのか出入り口なのかよくわからない扉を示しながらやれやれと言った顔を浮かべる。

#ネネ

「自業自得な気もしますけど災難でしたね」

#ともみ

「大学の敷地と言うのは初めての方にはわかりづらいものですから」

#ナレーション

建物が何個もあり、どの建物がなんという名称なのもわかりにくい。それでいて敷地が広い大学だともう手に負えない。こっちだろうか、いやこっちだ、やれこっちだ、さてこっちだ、どっちだ。

#ふうき

「時間間際、建物を上り、上から地形判断。これは英断だったと言えますよ。いや、ほんとにね」

#ナカミチ

「早く着いたならじっとしてればいいと思うんだけどな。というか俺達より、ともみさんより早く来ていたのか?」

#ふうき

「いやー。なんか待ちきれなくてね」

#さいか

「早く到着するほどというのも風紀さんにしてはめずらしいですね」

#ふうき

「そう言われるとそうだね。慣れない事はするもんじゃないよ」

 

#ともみ

「さて、皆さんも着いたばかりですし1度休憩しましょうか」

#みしろ

「えー。着いたばかりだし早速屋台を回るのがいいと思いますよ」

#ナレーション

きっといろんな屋台が彼女の頭の中を回っているのだろう。ぐるんぐるん。

#ましろ

「……。みしろ?」

#ナレーション

空気を読めと言いたいようであるが止まることはなし。

#みしろ

「?なーに。ましろ姉さん?」

#ましろ

「……私はちょっと疲れちゃったかな。休憩しない?」

#ナレーション

軌道修正をちょこちょこと行う。

#みしろ

「そうなんだ。じゃあ1度休もうよ」

#ナレーション

そんな感じでうまく回れば別にいいのである。

#ふうき

「あー。私は別に何ともないよ?気遣ってくれているなら一応言っておくけどね。つかれたりはしていないよ」

#みしろ

「そうなんだ?どうしようか」

#ナレーション

どうしようかなぁ。

#ともみ

「慣れないところに行くだけで割と疲れるものですよ。動き回る前に休んでおきましょう」

#このみ

「……。身内にも普段からもう少し甘く接していただきたいものですー」

#ナレーション

姉の後ろで何か言っている。

#ナカミチ

「際限なく調子に乗るからだろう」

#ともみ

「ナカミチさんがいると代わりに言っていただけるのでありがたい限りです」

#このみ

「あ!思い出しました!去年も妙に息を合わせていましたね!あぁ。このみはまた悲惨な立場です……。」

#ナレーション

原因はどこにあるのだろうか。

#ミサキ

「えーと、でどうするの?」

#ネネ

「休みましょう。休めるときに休んだほうがいいと聞きます」

#ナレーション

話をまとめる役割は大変である。

#ふうき

「さっき私が出てきた建物内に長椅子があったからそこで休むのがいいと思うよ」

#ナレーション

まとめだすと早い人。そこまで長いが。

#ふうき

「各自屋台で食べ物か飲み物買った後その建物前で集合にしようか。じゃあ解さ……。」

#ふうき

「やめとこー」

#ナレーション

急なキャンセルである。

#ともみ

「そうですね。また迷われる方が出かねません」

#ミサキ

「ああ、そうですねー」

#さいか

「全員で行きましょうか」

#ナレーション

各自何がいいかと屋台を見ながら動く。大人数で。

#ましろ

「焼きそばにたこやき、フランクフルト。いろいろあるね」

#ふうき

「あったかいものがいいかなー」

#ネネ

「珍しくおとなしい選択肢ですね」

#ふうき

「あれ?評価がひどいことになってる」

#ナカミチ

「日頃の積み重ねだな」

#みしろ

「ましろ姉さんは何食べる?」

#ましろ

「うーん。みしろが食べたいものを一緒に買おうかな」

#さいか

「2人は本当に仲いいですね」

#みしろ

「ましろ姉さんが優しいからね。ちょっと遠慮が過ぎるとは思っているんだけど」

#ましろ

「みしろのほうが言い合いになったときすぐ折れるからなんだけどね」

#ミサキ

「2人が言い争う場面なんて想像できないけど」

#みしろ

「最近なにかで言い争ったっけ?」

#ましろ

「えーと、お風呂の温度を39度にするか41度にするかでけんかしたね」

#さいか

「へ、平和すぎます……。」

#みしろ

「あれはなかなか解決しなかったね」

#ミサキ

「最終的に40度にしたとか?」

#ましろ

「いや、みしろが本当は39度がいいのに気を使って最初に40度にしない?って言ったもんだから私が読み違えて38度にしたの。そしたらみしろが私から陰湿な嫌がらせされたと思いこんでひどいショック受けちゃって」

#みしろ

「で、まぁ言いあらそちゃったんだよね。これから別々に入るか一緒に入るかで」

#ましろ

「だいぶ話がこじれたよね」

#さいか

「……え?」

#ミサキ

「ああ。そっか。一緒に入ってなきゃお風呂の温度でそもそもそんな話起きないよね。入る前に温度変えたらいいんだから」

#ナカミチ

(え?こんな感じのガールズトークに今日1日付き合わされるのか?)

#ナレーション

そうである。乗り切れ。

#このみ

「仲のいい姉妹だと一緒にお風呂入るぐらい普通ですよ。ねぇ姉さん」

#ナレーション

話に合流してきた。

#ともみ

「それだと家は仲良くはない姉妹ということになりますけど」

#このみ

「それはいけません!今日から一緒に入りましょう!」

#ともみ

「遠慮します」

#ネネ

「即答ですね」

#ともみ

「このみ長風呂なんですよ。泡の出る入浴剤入れて遊ぶもんですから」

#さいか

「泡……?」

#このみ

「あれ?さいかちゃんは知りませんか?泡風呂ですよ」

#さいか

「あぁ、炭酸のあわがでるやつですね」

#このみ

「違います違います」

#ナレーション

よくわかっていないらしい。

#ナカミチ

「なにを買うか決めて休むんじゃなかったのか?」

#ましろ

「あ……。」

#ふうき

「盗み聞きはよくないなぁー」

#このみ

「結構本気で居ることを意識していませんでした。ナカミチ君にはちょっと刺激が強すぎましたかね」

#ナレーション

お風呂シーンは青少年の健全なうんぬん。なんちゃらかんちゃら。

#ともみ

「そういえば前回の文化祭でナカミチさんとお会いした時も女性5人にナカミチさん1人でしたね。大変ですね」

#ナカミチ

「ともみさんもいらっしゃったので女性6人でしたけどね……。」

#ナレーション

思い出して苦い顔をするナカミチ君。今は8人いる。

#みしろ

「苦い顔されるいわれはないけど」

#ナカミチ

「そうだな」

#ナレーション

気苦労は察するが。

#さいか

「暖かいものを食べようかという話でしたけど」

#ふうき

「いやいや、チープでジャンクなものこそ屋台の醍醐味。やきそば、たこやき、フランクフルト!」

#ナレーション

うきうきと候補を並べる風紀さん。

#このみ

「おっと、風紀さんにしては手堅くまとめすぎじゃないですか?」

#ふうき

「な、なんだとー。このみちゃんから手堅くまとめたと言われる日が来ちゃうとはね……。」

#このみ

「ふふん。わかっていません。こういう場所では変わった食べ物が――、」

#ナレーション

何かに気づくこのみちゃん。

#このみ

「きゃー、カラースプレーチョコのソフトクリームですー!」

#ナレーション

カラフルなチョコがまぶされたソフトクリームを見つけるこのみちゃん。

#ましろ

「聞くだけで寒いよ」

#ともみ

「このみあれ好きなんですよ……。」

#ナレーション

あれとはもちろんカラフルなソフトクリームだろう。

#このみ

「私あれ買ってきますねー」

#ナレーション

てくてく歩いていく。

#ふうき

「……あれ?変わった食べ物の話は……?」

#みしろ

「ましろ姉さん。あそこに甘酒があるよ」

#ましろ

「じゃあそれにしようか。私たちも買ってきますね」

#ネネ

「私もそれにします。一緒に行きましょう」

#さいか

「ええと、あ、焼きそば買ってきます」

#ナレーション

ソースのにおいにつられてついにさいかちゃん自発的に動く。

#ミサキ

「あたしその横のから揚げにしようっと。さいかちゃんまってー。一緒にいこー」

#ふうき

「あれ?変わった食べ物の話は?」

#ナレーション

もう一度。

#ナカミチ

「……。あ、綿菓子屋があるぞ」

#ナレーション

ナカミチ君的に綿菓子は変わった食べ物判定であるようだ。

#ふうき

「今時綿菓子が珍しいわけないでしょ!」

#ともみ

「あ、カルメラ屋がありますよ」

#ふうき

「むしろ今時珍しいですけど!」

#ナレーション

カルメラ、別名カルメ焼き。大変においしい。お砂糖を重曹でふくらましたお菓子。卵白を使う事が多いのでちょっとマイルドな、といっても基本お砂糖だけ。多量に食べるとくどい味になってくる訳であるが。しかしやはりおいしい。

#ふうき

「まぁ久しぶりにやる突っ込み役もいいものだね。さてとはいっても私もあったかいものがいいんだよね。でも飲み物と言うより食べ物がいいんだけど」

#ナレーション

きょろきょろといいものがないかと探す風紀さん。

#ナカミチ

「おうどんとかか?」

#ふうき

「ああ。そうだね。屋台だとおうどんよりおラーメンの方がありそうな気がするけど」

#ともみ

「おらーめん?」

#ナカミチ

「まともに聞かなくていいですよ」

#ナレーション

ラーメンの丁寧語だろうか。もちろん風紀さんによる造語である。

#ふうき

「変わった食べ物……。変わった食べ物……。」

#ともみ

「結局変わったものを探すんですね……。」

#ナレーション

周りにおラーメンやおうどんの類のものがなかったためである。

#ふうき

「ない……。」

#ナレーション

しょんぼりする風紀さん。

#ナカミチ

「手堅くまとまっているもんなぁ」

#ナレーション

ナカミチ君自身も周りを見渡しながら答える。

#ともみ

「あなたたちの中では甘酒やカルメラは手堅いんですか……。」

#ナカミチ

「……あれ?」

#ナレーション

毒されている。先にこのみちゃんが買いに行ったソフトクリームも時期を考えればおかしなものである。

#ふうき

「ふむ。たこ焼きがあるね。あれにするよ。チーズトッピングがあるといいなー」

#ナレーション

とてとてと歩いて行く風紀さん。残ったのは堅物2人。

#ともみ

「さて、どうしましょうか。ナカミチさん何か屋台で買いたいものありますか?……実は私、特にないんですよ」

#ナカミチ

「俺もそうなんですよ」

#ナレーション

大丈夫だろうか。

#ともみ

「お茶が飲みたいとは思うんですけどね」

#ナカミチ

「……実は俺もそう思ってて」

#ナレーション

散々しゃべっていた訳であるし。その理屈はわかる。しかしもうちょっとこうなんというか。ジュースだと屋台、もしくは露天販売も多いだろうに。周りにはないが。

#ともみ

「……どこかの自販機で買って戻ります?たしか近くにあったはずですから」

#ナカミチ

「……そうですね」

#ナレーション

気のきいた案も出てこない。

#ナカミチ

「こういう場でこのみたちみたいに、はしゃぐ力があればもっと楽しめるんでしょうけど。ともみさんはどう思いますか?」

#ナレーション

はしゃぐ力。ナカミチ君が日々感じて命名した謎の力である。

#ともみ

「はしゃぐ力ですか……。いい言葉ですね」

#ナレーション

いい言葉らしい。ともみさんが言うとそう聞こえてくるんだからすごい。逆に言えばナカミチ君が言うとチープでジャンクっぽい。ともみさんと比べて相対的に。なぜか。

#ともみ

「私は冷静な方が物事をうまく判断できると信じているところがありますから……。」

#ナレーション

冷静沈着はなんとなくどんな時でも役立つという感じがある。

#ともみ

「私自身がはしゃぐという事をどう思っているかと言われれば、必要なこと。いえ、うらやましいのかもしれません」

#ナカミチ

「そうですか……。いえ、そうですね。なんだか活動的というか活発で……。」

#ナレーション

羨ましい事は誰にでもあるらしい。2人とも羨ましがられる事の方が多いだろうに。

#ともみ

「このみは本当に最近はしゃいでばっかりで」

#ナレーション

嬉しそうに語る。

#ともみ

「冷めた子だったんですけどねぇ」

#ナレーション

やさしい顔。

#ともみ

「ナカミチさんのおかげですかね」

#ナレーション

にやりと。

#ナカミチ

「今のこのみに似てましたよ」

#ともみ

「姉ですから」

#ナレーション

にっこり顔である。

#ともみ

「ナカミチさんのおかげだと思っていますよ」

#ナカミチ

「そうですかね?風紀さん達の影響じゃないですか?」

#ともみ

「最近は本当にはしゃいでいるみたいで。……きっとそこに居るだけで楽しいものなのでしょうね」

#ナレーション

珍しくかみ合わない答えが返ってくる。

#ともみ

「それはやっぱりこのみがナカミチさんとお付き合いを始めてからだと私は思いますよ」

#ナカミチ

「…………え?」

#ナレーション

え?なんだそれ。

#ともみ

「このみのことをよくわかってくださっていると思っていますから。私は応援しています。このままいけるとこまで行っちゃってください」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

どうするんだろうか。

#ナカミチ

「えぇっと。あのー」

#ともみ

「あれだけ、なんていいますかベタベタしておいて気づかないとでも?」

#ナレーション

つまり、付き合っていることに気づかないとでも?と言いたいのだろう。ともみさんも恋愛方面には疎いらしい。いや、読み違えても仕方ないような。彼のせいにしておくと八方丸く収まるような。

#ナカミチ

「……その。このみさんとお付き合いとかはしていません……。」

#ナレーション

口調が変だ。こわばった顔をしている。

#ともみ

「いえ。このみも隠し切れない感じが出ていますし。学校の話をするときナカミチさんの話題が中心なんですよ。かわいいとこあるでしょう?いえ、言うまでもないですかね」

#ナレーション

一刻も早くこの話を辞めて差し上げるべきだ。情報漏洩がはなはだしいぞ。

#ナカミチ

「……お付き合いしていません。……まったくそのようなことは」

#ナレーション

若干風紀さんのような言い回しで弁明するナカミチ君。居たたまれない顔である。

#ともみ

「……え」

#ナカミチ

「付き合っていません……。」

#ともみ

「……いえ、去年あれだけベタベタしていましたよね」

#ナレーション

引っ付かれていたというほうが近いが。まぁベタベタしていた。暑い時期もあったし。肌が。そう、ベタベタと。そういえば最近は引っ付いてくる場面を見かけていない。

#ナカミチ

「付き合っていません……。」

#ナレーション

それしか言えないらしい。謝れないし、弁明も失礼な気がするといった上でだと思われる。これ以外に手がないのだ。詰み。

#ともみ

「……うちに来ましたよね」

#ナレーション

このみちゃんを学校に来てほしいといった日のことであろう。

#ナカミチ

「……行きましたね」

#ともみ

「彼女でもない女の子のお家に来て一緒に学校登校して付き合っていない?」

#ナカミチ

「はい」

#ナレーション

なんだろう。屑に見えてきた。苦労人のはずであるが。

#ともみ

「じゃあ誰と付き合っているんですか。まさかこのみとは遊び……?」

#ナレーション

遊びだったとは。畜生である。それよりともみさん静かに怒り始めていないだろうか。

#ナカミチ

「別に遊びとかっ!違います!違いますから!」(こわい!こわい!)

#ともみ

「じゃあ誰と付き合っているんですか……?」

#ナカミチ

「付き合っていません。付き合っていませんから……。」

#ナレーション

かわいそうな子である。どのくらいかというと、励ましのお便りが届きそうなレベルだ。

#ともみ

「はい?」

#ナカミチ

「いや。そう問い詰められましても。こちらとしては。なんとも……。」

#ナレーション

あわれ。信じてもらおうにも相手が聞く耳持たない相手だと厄介極まりない。まさかともみさんがそうなるとは思わなかったが。いや、最初に遭遇した時もこのみちゃんのことでかなり無茶苦茶になっていた気がする。

#ナカミチ

「……信じていただけませんか」

#ともみ

「う゛……。」

#ナレーション

止まった。このまま冷静になってくれたらいいね。

#ともみ

「……では、このみとは……?」

#ナカミチ

「このみが友達だと思ってくれていれば友達でしょうか」

#ともみ

「……。」

#ナレーション

微妙な顔だ。

#ともみ

「……。」

#ナレーション

次第に顔が心配になるような不安な顔に。

#ともみ

「早合点……?」

#ナカミチ

「こちらも非常識な事をしていましたし。勘違いなされるのも当然だと思います。すみませんでした」

#ともみ

「……私やらかしました?」

#ナレーション

したというしかない。

#ナカミチ

「いえ、別にそういうことは」

#ともみ

「……ああ!違うんです!このみのために動いてくださったのに!あぁ、なんてことを!」

#ナレーション

まわりがちらりと様子をうかがうほどの声であわて始める。

#ともみ

「申し訳ありません……!申し訳ありません……!いったい何時から付き合っていなかったんですかぁ……!」

#ナレーション

無茶苦茶である。

#ナカミチ

「いえ。ですからお付き合いとかしていませんから。いったい何時から付き合っていると思われたんですか?」

#ナレーション

聞くの?それ。

#ともみ

「そう思ったのはやはり家へ来てくださったときですね……。それまでも付き合っているのでしょうか、とは思っていたんですが……。それできっと魔道祭のあたりから付き合っていたのでしょうねとばかり……。」

#ナレーション

やっぱり彼が悪いのでは?

#ともみ

「お願いします……。このみのことは嫌いにならないでくださいぃ……。いい子なんです……。」

#ナレーション

周りの人から誤解されそうな発言である。それも非常にめんどくさい方向に。

#ナカミチ

「き、嫌いになるわけないですから。ともみさん、お茶買って戻りましょう?」

#ナレーション

なるわけないらしい。が、ナカミチ君はそんなことよりこの場にとどまり続ける事、周りの目がいたたまれないようだ。

#ともみ

「本当に申し訳ありません……。どうしてこうナカミチさんにはご迷惑ばかり……。」

#ナレーション

おちこむともみさん。迷惑をかけたりしてしまう理由はなんとなくわかる。このみちゃんが絡む話だからであろう。そうなると評価はよくできた姉というものになるのだろうから不思議な話である。

#ナカミチ

「別にめいわくな事などありませんでしたよ」

#ナレーション

少なくともこわがっていたようではあるが。そのような素ぶりは見せないのが見栄、伊達。頑張っているというやつだ。

#ともみ

「すいません……。いや、しかし……、ナカミチさんがおっしゃられていたように非常識とは言いすぎかもしれませんが、そこまでしてくださってこのみのことをただの友人であるというのは……。」

#ナレーション

まったくである。

#ナカミチ

「それは……、このみでなくとも手助けしますよ。友だちなら。困っているのがわかってほっとくのは自分自身が嫌なだけです。ともみさんもそう思いませんか?」

#ともみ

「……思います。ですが今話しているのはどの程度までかかわるかという話です」

#ナカミチ

「それは自分で決めます」

#ともみ

「……なるほど。そりゃあいろんな人から好かれるわけです。それともこれが今時の若者の距離感という奴なのでしょうか……。」

#ナレーション

ふぅ、と息を吐く。

#ナレーション

達観しているような年相応のような乙女のような。さまざまで楽しいとでも思っておくのがいいのではないだろうか。別に思わなくてもいいが。

#ナカミチ

「いや、2つしか年離れていませんよね。それに好かれているんじゃなくて絡まれているといったほうが近いんですが」

#ともみ

「あ。自販機が見えてきました」

#ナレーション

赤色や青色の自販機が並んでいるのが見える。

#ともみ

「ナカミチさんも温かいお茶でしたね」

#ナカミチ

「そうですが……。」

#ともみ

「ナカミチさんの分も支払わせてください。迷惑をかけたというよりもお礼と言う事で」

#ナカミチ

「いいんですか?」

#ともみ

「このお茶だけでお礼がすむとは思っていませんから安心してもらっていただければ。それにこのようなものこちらの自己満足のようなものですから」

#ナカミチ

「こっちがやっているのも自己満足みたいなもんですよ」

#ナレーション

見栄、伊達、かっこつけ。

#ともみ

「ふふっ。そうですか。そう言っていただけるとありがたいですね」

 

#ナレーション

そんなこんなでお茶を持って待ち合わせの場所にしていた建物前に到着した2人。

#ナレーション

しかしナカミチ君は結局立ちっぱなしである。

#このみ

「疲れません?」

#ナレーション

すでに長椅子に座りながらソフトクリームを食べ、ご満悦中のこのみちゃん。

#ナカミチ

「席が空いているわけでもないし」

#ナレーション

そもそも座る席が残っていなかった。4人用の長いすが背を向けるように2つ。ぴったりナカミチ君だけ余るように作られていると言っても過言ではない。

#ふうき

「まぁナカミチ君が好き好んで席を譲っているわけだし、ありがたく受け取っておこうよ」

#ナレーション

女性から席を奪うなどナカミチ君のことだ、できまい。きっと譲られても拒むだろう。

#このみ

「では私が姉さんのお膝に座って、空いた席にナカミチ君が」

#ともみ

「嫌です」

#ネネ

「即答に慣れを感じますね……。なんだかナカミチ君を見ているような」

#ともみ

「なるほど。さすがナカミチさんといったところでしょうか」

#ネネ

「……そうですね。よく考えたらお姉さん並みにあしらえているほうが変なんですよね」

#ナカミチ

「言いすぎだろ」

#このみ

「私あしらわれているんですか……。」

#ネネ

「あ。いえ。お姉さんのほうがなんでしょうか。愛がこもっていると思いますよ」

#このみ

「そうでしょう。そうでしょう。ネネちゃん。ソフトクリーム、一口食べてもいいですよ」

#ナレーション

差し出されるカラフルなチョコまみれソフトクリーム。

#ネネ

「い、いや。結構です」

#このみ

「口をつけていない横から食べていいですよ?」

#ネネ

「いや、冷たいのは結構です……。」

#このみ

「じゃあ、このカラースプレーチョコを……。」

#ナレーション

ソフトクリームを持っていないほうの手に握られている小さな紙コップにはカラフルなチョコが3分の1ほど入っている。

#ネネ

「いや、なんというか本当に結構ですんで」

#ナレーション

カラーチョコだけとはどのぐらい甘いのだろうか。遠慮したい子がいてもおかしくない。

#ともみ

「というか、このみ。そのチョコどうしたんですか」

#このみ

「追いトッピングとかいうものらしいです。トッピングがかかったとこを食べて、またトッピングをかけて食べる。というコンセプトだそうです」

#ともみ

「そうですか。また無理言ってもらったりしてきたんじゃないかと思ってしまいました」

#このみ

「信用されていませんね」

#ナカミチ

「俺もそう思っていたけどな」

#ふうき

「追いトッピングなんて発想はなかったなー」

#ネネ

「お店の人からおまけでもらったのかなと思ってました」

#ナレーション

ここまでで約1名、自分の考えを言っていない。

#このみ

「たこやきにチョコレートって聞いた事がありますけど」

#ナレーション

ばれた後に待ち受けるはいつの世も制裁である。

#ふうき

「容赦ないね。これチーズ入りなんだけど」

#このみ

「あとお茶うけにチョコレートって意外と合うらしいですよ」

#ナカミチ

「カラースプレーのチョコは合わないだろうなぁ」

#このみ

「あとネネちゃん。これ別料金なんですよ。プラス50円でした」

#ネネ

「商売上手ですね……。」

#ナレーション

三者三様の意見。三者三様の使い方が違う気もするが。

#ふうき

「あらかじめ追いトッピングとやらをソフトクリームの値段に反映したうえで、サービスとして売って売り上げ比較してみたいなー」

#このみ

「去年の文化祭を思い出しますねー。それで風紀さんはどうやって私がチョコを貰ったと思ったんですか?」

#ふうき

「お、おまけしてもらったのかと……。」

#このみ

「レディにプレゼントは世の常と言いたいわけですね」

#ふうき

「まー。レディというかガールというか」

#このみ

「最近は温度差スイーツと言うのが流行っているらしいですよ」

#ふうき

「最近だっけそれ?あ、ちょっとこのみちゃん!このチーズたこやきはスイーツじゃないよ!きゅ、休戦協定!休戦協定!」

#ナレーション

なぜか協定というのは守られる感じがしない。基本的な信用があった上で成り立つものだからだろうか。であるからして今回は守られるだろう。おそらく。

#このみ

「いえ、そもそもこちらは争っていないという立場ですから」

#ナレーション

前提が違った。

#ふうき

「じゃあ安心だね!」

#ネネ

「どういう話の流れなんですか……?」

#ナレーション

信用という口約束の上で平和は成り立っているのだろう。

#ともみ

「なんというか……。愉快な会話ですね」

#ナレーション

うわべだけの評価である。内心は引き気味かもしれない。

#ナカミチ

「いつものことです」

#ナレーション

特に何も思っていない所まで来てしまっている子もいる。

#ふうき

「ナカミチ君はもうちょっと愉快でもいいと思うけどねー」

#このみ

「姉さんは愉快な時もありますから及第点です」

#ともみ

「思うところはありますがこのみに及第点とか言われる立場ではありませんね」

#ナレーション

怒っている。

#このみ

「おっと。いけません。ナカミチ君、ここで場を和ませる愉快さを披露する時です」

#ナカミチ

「それは俺の役目じゃないなぁ」

#ふうき

「人の役目を取ったらいけないという考え」

#ネネ

「……。」

#ナレーション

我関せず。

#ふうき

「容器捨ててくるよ」

#ナレーション

逃げた。たこやきが入っていた容器を持ってゴミ箱へ向かって行く。

#このみ

「おや?」

#ナレーション

自分で何とかするしかない。

#みしろ

「ねぇ。この後はクイズ大会に出るんだよね?」

#ナレーション

後ろの椅子に座っていたみしろちゃんが声をかけてきた。

#このみ

「ナイスタイミングですね!まさにその話を今からしようと思っていたんですよ!」

#ともみ

「していませんでしたが」

#ナレーション

していたことになったようだ。後ろの長いすに座っていた4人が会話に参加してくる。

#ネネ

「たしか2人か3人のチームで挑むんでしたよね」

#さいか

「高校生以下だけのチームは3人で挑めるはずでしたよね。大学生以上の方が含まれるチームは2人で参加だったと思います」

#ともみ

「つまり、チーム分けとしては2、2、2、3と分けるしかないですね」

#ましろ

「えーと。そうですね」

#ミサキ

「そうなの?」

#ともみ

「全員で参加する条件だとそうなります」

#ナレーション

なるそうです。

#このみ

「しかし姉さんをサポートできるようなハイスペック人間がいないので姉さんは1人で参加するのが正解なんですよねー」

#ナレーション

悲しい事実である。

#ともみ

「そうですか。ではナカミチさんにサポートしてもらいましょう」

#ミサキ

「あら」

#ナカミチ

「え、俺ですか」

#ネネ

「え。ナカミチさんとともみさんがですか!?」

#みしろ

「ちょっと戦力が片寄りすぎてるんじゃない?」

#さいか

「同意見です……。」

#ましろ

「ナカミチ君、ともみさんからの評価高いんだね」

#ナレーション

様々なご意見が出た。

#このみ

「ちょ、ちょーっとまってください?姉さんの隣は私ですから」

#ナレーション

ここでちょっと待ったが入る。

#ともみ

「このみは自分から力不足だと認めてませんでした?」

#このみ

「いーえ。ナカミチ君じゃ役不足です」

#ナカミチ

「誤用、誤用」

#ナレーション

板ばさみのナカミチ君。とりあえずつっこんでいる。役不足の現代の意味は事実どうこうとかややこしい事は解説しない。

#ミサキ

「まぁその辺はいいとしてどうしようか」

#ふうき

「なにが?」

#ナレーション

戻ってきた風紀さん。

#このみ

「お姉ちゃんのとなりは誰がふさわしいのかについてです!」

#ふうき

「……それはまた難儀なお題だね」

#ナレーション

勘違いされそうなものいいである。

#ナカミチ

「クイズのグループ分けについて話していたんだ」

#ふうき

「ああ、それなら。なにかいい案あったの?」

#ネネ

「いえ、話している最中です。というよりもまだなにも決まっていません」

#ふうき

「基本的には勝ちに行くということでいいんだよね?」

#このみ

「当然です!対戦ゲームですからね!ゲームは本気でやってこそ楽しめるんですし!勝てるように分けますよ!」

#ナレーション

ゲームなのでいろんな楽しみ方がある。つまり、いわゆる個人の感想です。

#さいか

「このみちゃんらしいですね」

#みしろ

「でも参加するからには勝ちに行くべきだよね」

#ナレーション

個人の感想です。

#ナカミチ

「クイズは対戦ゲームだったか?」

#ふうき

「さぁ?」

#ネネ

「全員参加型のクイズゲームじゃありませんでしたっけ?」

#ふうき

「うん。上位1組は表彰されるって」

#ナカミチ

「さっき、さぁ?って言ったよな」

#ふうき

「さぁ?そうだっけ?」

#ましろ

「全員参加型っていうのはどういう意味なの?」

#ネネ

「制限時間内に出題される問題をクリアすればいいらしいです」

#ともみ

「1つの問題を解くと次の出題場所を教えていただけるといったものだと伺っています」

#このみ

「姉さん詳しいですね。フライングですか?」

#ともみ

「そんなつもりはありませんよ。……しかし在学生ですからね。情報が入ってきやすかったのかもしれません」

#ネネ

「そういうのを考慮したうえでのチーム人数なんじゃないんですか?在校生は2人チームなんですよね?」

#ともみ

「1番の理由は年齢によるものでしょうけど、それもあると思いますね」

#ふうき

「そもそもちょっと調べたらルールぐらい書いてあるよ」

#このみ

「今知れましたから問題ありませんよ。あっはっは。じゃなくて!ですね!チーム分けの話なんですよ!チーム分け!」

#ふうき

「あれ?そうだっけ?」

#ナレーション

このみちゃんが話していた内容はともみさんのサポートを誰にするかという話ではなかっただろうか。

#ナカミチ

「そうだ」

#ナレーション

そうらしい。

#ともみ

「上位を狙うとして、各チームを相乗的に強くするか1チームに戦力を集めるかにわかれるとおもいます。が、まず、勝ちに行くという前提でよろしいんですか?このみが勝手に言い始めた事ですよ。」

#このみ

「勝手に、という言い方は良いんですか?」

#ともみ

「事実でしょう」

#ミサキ

「つまりどういうこと?」

#ナカミチ

「他の前提と言うと勝つわけじゃなくてクイズを解くことに重点を置いたチーム分けということだと思う」

#ふうき

「つまり、詰み、手詰まりを防止するチーム分けだよ。まぁ、つまり。ともみさんと私とさいかちゃんとネネちゃんが同じチームに被らないようにするということだね」

#ナレーション

よくできる子4人衆である。

#ともみ

「……そういうことですね」

#ネネ

「私はその中に入らないと思いますけど?!」

#ナレーション

英語のテストがクラストップなだけ。といえばそれはそれでとてもうらやましい話ではある。ちなみに英語の会話ができるというわけではないというのがまたなんとも。

#ましろ

「風紀さんが入っていいの?その中に」

#ナレーション

そういえば風紀さんも勉強が特別にできるわけではない子である。なんでもできるイメージが付きまとうのはなぜか。よってよくできる子3人衆に変更。

#みしろ

「そうだそうだ!私と同じくらいじゃない!」

#ナレーション

双子は教科関係なく、よく出来る分風紀さんより少し上である。日々ちゃんと勉強しているよい子なのである。

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

黙っているしかない子。

#このみ

「……。」

#ナレーション

その2。

#ナレーション

2人とも基本的に平均越えであることはテストから間違いないが。いかんせん勉強を試験前と宿題しかしないようだ。するだけよい子ではあるが。風紀さんもこの分類上である。が、2人より点数はいい。

#さいか

「私としては他の3人と並ぶほど出来るとは思っていません……。」

#ナレーション

もっと自信を持っていい子である。最近は他に比べて苦手だった数学もできるようになったようだ。だが受験に必要な教科だけ高得点だったりするから自信が持てないのだろうか。

#ミサキ

「そんなことないよ!英語とか社会とかいっつも90点台じゃない!」

#ナレーション

9の部分をひっくり返したぐらいの子。平均以下だけど今日もよい子です。

#ふうき

「まぁそんなすごい人たちの中に私が居るのには理由がちゃんとあるのでした……。」

#ナレーション

よい子?まぁ風紀さんはいい子とかそういう感じ。

#ともみ

「……でしたと終わられても困るのですけど。理由ですか?」

#ナレーション

なんかすごい人。文武両道。才色兼備。笑顔も優しさがあふれている。すごい。

#ふうき

「これです!さぁどうだ!」

#ナレーション

ノートパソコンをかばんから出す。

#ネネ

「ノートパソコン?」

#ナレーション

ノートパソコンである。

#ふうき

「ノートパソコン」

#このみ

「それがどう関係あるんですか?」

#ふうき

「ネットにつなげてあるからインターネットサーフィンもお手の物の一品」

#みしろ

「それができなきゃパソコンの意味ないと思うけど」

#ナレーション

そんな事は無いと思うけど普通の感性で言うとそういうものなのかもしれない。

#ましろ

「外でもパソコンでネットができるんだ」

#ふうき

「うん。といってもスマートフォンの電波を使っているだけだけどね。じゃなくて」

#ともみ

「クイズの答えをインターネットで探すんですか?」

#ふうき

「そのとおりです!クイズなんて結局は知識量を問うもの!機械の前にひれ伏せー!」

#ネネ

「いやいや!普通、クイズでは電子機器の使用は禁止でしょう!」

#ふうき

「ふひひ。どうかな?ネネちゃん確かめたの?」

#ネネ

「え?いや、それは普通そうだと思います」

#ナカミチ

「その口ぶりだと使えるのか?」

#ふうき

「さぁ?」

#ネネ

「話が進みませんけど」

#ナレーション

流石に怒り始めた。

#ふうき

「み、みんなに送ったチラシを見ていただければと思うよ」

#ともみ

「画像で送ってくださったものですね。しかしたしか注釈で使用禁止というような文章があった気がするのですけど……。いや、まさか……。」

#ナレーション

各自スマートフォンで確認する。このみちゃんは姉のスマートフォンを横から覗き込んでいたり、みしろちゃんは姉が操作しているのを一緒に見たり。3人向かいあって操作していたり、こんなこと1つでも個性が出る。

#ふうき

「誰か1人確認してくれればよかったんだけど……。」

#ナカミチ

「風紀さんがみんな見てほしい感じで言ったからじゃないのか?」

#ナレーション

1人で操作しているナカミチ君。

#ふうき

「そ、そんなつもりはなかったよ……。」

#ミサキ

「あ、あった。えーっと?※()クイズに対し電子機器等の使用は禁止致しません。ませんだって……。」

#ネネ

「ええぇ……?」

#さいか

「ネネさんのそんな口調初めて聞いたよ……。」

#ネネ

「いや、今突っ込む所はそこじゃないでしょう」

#このみ

「いえいえ、ナカミチ君でもそこですよ」

#ナカミチ

「そもそも突っ込まない」

#ともみ

「まぁそれは置いといてですね。確かに電子機器の使用を許可していますね。しかしこんなにも小さな注釈に紛らわしい事を描いて大丈夫なのでしょうかね……。」

#ふうき

「まぁ狙ってやっているんでしょうね。ですが!これに気づいた私はすでに優位に立っているんです!つまり!ともみさん、さいかちゃん、ネネちゃん、私の4人を並べて考えて大!丈!夫!」

#ネネ

「だから私をそこに並べないでください」

#さいか

「私も……。」

#ナレーション

謙虚さと傲慢さが見事に分かれている。

#このみ

「まぁ姉さんは2歩ぐらい飛び出ているはずですが」

#ともみ

「いい加減そういう持ちあげ方をやめなさい」

#このみ

「しかし風紀さんもお人が悪い。教えて欲しかったです。ずるいです」

#ふうき

「今知れたから問題ないじゃん」

#このみ

「ぐぬっ!」

#ナレーション

さっき自分の言った言葉を使われてはひとたまりもなかった。

#ふうき

「ほら。このみちゃん。ゲームは本気でやらなきゃっていうのは私も一緒だよ。テクニカルに勝ちたいって願望は持っているけど。それにもし私と一緒のチームだとこのみちゃんもアドバンテージ持てるよ」

#このみ

「そこまで考えてとは、さっすが風紀さんです。では姉さんと私と風紀さん……。無理じゃないですか!」

#ナレーション

3人ではともみさんは入れない。

#ましろ

「1人で困惑されても」

#ナカミチ

「こっちとしては楽だけどな」

#ナレーション

一般時の常識枠のご感想。

#このみ

「まぁなんにしてもずるいというのは間違ってましたね。ごめんなさい」

#ふうき

「別にいいよこのみちゃん。事実だし。私が勝つから問題なーし」

#ナレーション

なごやか。しかし勝負はし烈である。

#ミサキ

「すごいやる気だね」

#ネネ

「空回りでなければいいですけど」

#ふうき

「私のやることに空回りなんてないからね。やる事、言うことすべてに意味を持たせてしかるべきだよ」

#このみ

「なるほど。勉強になります」

#ナカミチ

「まねするなよ」

#ともみ

「まぁおっしゃっている事は間違っていませんが。ところで少し思った事が」

#ふうき

「はい?何でしょう?」

#ともみ

「電子機器の使用を許可しているという事は電子機器の使用を想定してもある程度クイズとして成り立つ問題が出るということではないでしょうか」

#ふうき

「……あ」

#ナレーション

詰めがあまかった。

#このみ

「アドバンテージが……。私のアドバンテージが……。」

#ナカミチ

「勝手に自分のものにするな」

#ネネ

「もう少し詳しくお願いできませんか?よくわからないのですけれども」

#ともみ

「そうですね。つまり風紀さんが最初に言ったような単純に知識があれば解ける問題は出ないという可能性が高いという事です」

#このみ

「なるほど。姉さんは説明も一級品です」

#ミサキ

「わかってなかったのね……。」

#ナレーション

わかってなかったらしい。わからないままでも問題ない可能性はあったが、考え方とか大事かもしれない。

#ふうき

「ま、まぁアドバンテージが無くなったわけじゃないよ。ね」

#ナレーション

そう言いながらこのみちゃんとナカミチ君の方を向く風紀さん。

#このみ

「……。」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

だんまり。気まずそうにはしてくれている辺り気の毒とは思っているのかもしれない。

#ふうき

「い、言えばいいじゃん!そのアドバンテージは他の3人に追いつけるものなのか?もしくは追いつけるものなんでしょうか?って!」

#ナレーション

自分で言って、

#ふうき

「ぐわーっ!」

#ナレーション

自分でとどめを刺した。御苦労さまという表現が正しいだろうか。

#ともみ

「落ち着かない人ですね……。」

#ナカミチ

「そうですね」

#ナレーション

それ以外の感想はなかった。

#さいか

「けどひとまず落ち着きましたね……。」

#ナレーション

まったくである。

#ネネ

「まったくです。なぜこうも話がややこしくなるのか」

#このみ

「一件落着ですね」

#ナカミチ

「このみはわかってて言っているだろう」

#ましろ

「チーム分けは何も決まってないよ」

#ナレーション

いつもの衝撃の事実。何も決まっていない。

#ともみ

「そもそもなんですけど、今回のクイズ、学校の勉学がどこまで役立つのかという疑問があります」

#ふうき

「まぁ漢字問題みたいなのは出ないでしょうね」

#ネネ

「じゃあ今までの話は何だったんですか」

#ふうき

「と、ともみさんに私たちのことを知ってもらえたしいいんじゃないかな」

#ともみ

「え?ま、まぁそうですね」

#ふうき

「あれ?そうでもありませんでしたか?」

#ともみ

「いえ、よくわかりましたよ。仲がよろしいことがよくわかりました」

#ふうき

「やったね!」

#ネネ

「身内の恥を見られている気しかしないんですが」

#ミサキ

「素直に喜べばいいのに」

#さいか

「それはそれでいいのですけど……。チーム分けはどうするんですか?」

#ともみ

「一つの案として聞いていただきたいのですが」

#ナレーション

まとまりそうである。

#このみ

「ごくり……。」

#ナカミチ

「邪魔しないようにな」

#ともみ

「チーム分けは私たちを一番知っている人に任せるというのがいいと思っています」

#このみ

「はぁはぁ。なるほど。流石姉さんの案です。いやー。ナカミチ君、大役ですね」

#ナカミチ

「……。」

#ふうき

「だれが決めるかは置いといて、いい案ですね。私は賛成です」

#ネネ

「私も賛成です。誰かが決めるっていうのが1番だと思います」

#さいか

「どういうチーム分けになるのか楽しみです」

#ミサキ

「お、さいかちゃん。そこに注目するのも面白そうだよね!」

#ましろ

「うん。私も賛成」

#みしろ

「もちろん私も」

#ナレーション

賛成一致。可決。無投票1。

#このみ

「さ。大変ですねナカミチ君」

#ナカミチ

「とりあえずともみさんの案は俺も賛成です」

#ふうき

「全会一致だね。さ、大変だね。このみちゃん」

#このみ

「そうですねぇ」

#さいか

「あの。このみちゃん」

#このみ

「ん?なんですか、さいかちゃん」

#さいか

「多分だけどこのみちゃんが選ぶんだと思うよ……。」

#このみ

「え?」

#ナカミチ

「え?じゃないぞ。大役だな」

#ふうき

「大役だね」

#ネネ

「あれ?そうなるのですか?」

#ましろ

「ああ、このみちゃんが選ぶことになるんだね」

#みしろ

「楽しみー」

#このみ

「あれ?……はっはっは。それは姉さんに聞いてみるまで分かりませんよ。ねぇ、お姉さまー」

#ともみ

「もしですね」

#このみ

「はい?」

#ともみ

「ナカミチさんがチームを分けるのにふさわしいと私が言ったらどうなると思います?」

#このみ

「はっはっは。姉さんがそういうためしかたをしてくるなんて珍しいですね。良いでしょう。たまには妹の出来るところを見せないといけませんからね」

#ミサキ

「授業参観みたいだね」

#ナカミチ

「それだとほほえましいんだがなぁ」

#ましろ

「辛辣すぎるよ?2人とも」

#ミサキ

「え!?今の辛辣なの?」

#このみ

「あの。一応考えているので配慮してください」

#ミサキ

「あ、ごめん」

#ナカミチ

「あやまらなくていいぞ」

#ナレーション

辛辣。

#このみ

「ええい!つまりですね!」

#ネネ

「つまり?」

#このみ

「……ナカミチ君が選ばれると、えーと。私たちを一番知っているのはナカミチ君となります。私が選ばれると、まぁ皆さんを一番知っているのは私となるわけです」

#ふうき

「まぁそうだね」

#このみ

「むぐぅ……。やはり知っているなら素直に教えていただきたいですが……。」

#ナカミチ

「ほら。もう少しだから」

#さいか

「あ、やさしくなりました……。」

#ましろ

「最初から優しくしてればいいのに」

#みしろ

「でも、今さら変わられてもって感じしない?」

#ネネ

「しますね」

#このみ

「ナカミチ君が他の人たちからよくわかられているって事はよくわかりました」

#ナカミチ

「今そういう話していないからな……。」

#ともみ

「大変ですね」

#ナレーション

なにがどう大変か明言されないあたりこわい。

#このみ

「とにかくナカミチ君より私の方が詳しいという事ですけど……。あ」

#このみ

「姉さんのことを一番知っているのがナカミチ君ということになるんですか」

#ナカミチ

「ああ。それはないからこのみに選んでもらおうということになる」

#ふうき

「そうだったとしたらどうなるの?」

#ナカミチ

「知らない」

#ナレーション

家族並みの関係ということに。

#ともみ

「まぁ実際はナカミチさんがどれだけこのみ以上に私以外のことを知っているかというところまで把握していませんから。このみが乗り気でないのならナカミチさんにお願いしてもいいんですけれど」

#このみ

「ぐうぅ……。あ、姉の配慮に妹は苦労するばかり……。」

#ともみ

「たまにはいいでしょう」

#このみ

「ぐぅ……。ナカミチ君の影響です。姉さんが不良になりました」

#ナカミチ

「俺のせいじゃないなぁ」

#ミサキ

「で、どうするのこのみちゃん」

#このみ

「やりますよ!できますから!」

#ナレーション

できなくても引けない時である。

#ましろ

「サポートはもちろんするからそんなに力まなくても大丈夫だよ」

#ふうき

「そうだね。気楽にいけばいいよ。ほら、このみちゃんを選んで任せた私たちに責任があるんだから。ほら気楽になったでしょ」

#ネネ

「ふ、う、き、さ、ん?」

#ふうき

「最近怒りすぎだよ!いつも私こんなでしょ!あ。ごめんなさい。改めていきます。だからほら怖い顔は似合わないぜ。ってやつ?」

#このみ

「気楽になりましたー」

#さいか

「なったんだ……。」

#ナレーション

さぁどうだか。どうも顔の表情は少し硬いが。

#このみ

「ま、ここは決めるところです。びしっと決めましょう」

#ともみ

「ふふっ。立派になって……。」

#ナカミチ

「まだなにもし始めてませんよ」

#ナレーション

やる気を出してくれているだけでうれしいものなのだろう。

#このみ

「……。ええと」

#ナレーション

詰まってしまった。まぁ選ぶという行為はなかなかに負担が大きいものである。

#ナカミチ

「……。」

#ふうき

「まずどうやって分けるか、だね」

#このみ

「……どうやって、ですか?」

#ともみ

「ええ。一般に言うコンセプトになりますね。どうやってチーム分けをするのかという基本的な理念がないと大変だと思いますよ」

#ましろ

「大変……?」

#さいか

「選ぶ理由がないと選べないという事ですか?」

#ミサキ

「他の考えが邪魔しちゃうんじゃない?」

#ともみ

「そうですね」

#ましろ

「なるほど……。」

#このみ

「なるほど……。」

#ネネ

「このみちゃん……。今は少し真面目に……。」

#ふうき

「あれ?私の時より言い方柔らかくない?」

#ナレーション

当然である。

#みしろ

「けど、それがわかれば解決だよね。どういうコンセプトがいいかな」

#ナカミチ

「いや、それはさっき話した気がするな。えーと、確か…………。」

#ともみ

「そうですね。出ていましたよ」

#ふうき

「ええ。確かこのみちゃん自身が決めていましたね」

#このみ

「あ。そうです。そうです。えーと、」

#ナカミチ

「たしか一番楽しめるように決めるんだろ?」

#このみ

「……。」

#このみ

「はい。そうです」

#ナレーション

ようやくどうするのかきっちりと決まったのである。

#ともみ

「ではこのみ。そのコンセプトで考えましょうか」

#このみ

「ではまず姉さんはナカミチ君とペアです」

#ナレーション

迅速である。

#ともみ

「……。理由は?」

#ナレーション

ともみさんも流石に困惑気味であった。

#このみ

「いやですねぇ。姉さんが自らそれがいいと言ったんじゃないですか。忘れたんですかぁ?」

#ともみ

「そんなことで決められたくはないんですが」

#ナカミチ

「さすがにともみさんのペアは荷が重いなぁ」

#ネネ

「誰でもそうだと思いますよ」

#ナレーション

もっともである。

#ふうき

「だねー」

#ネネ

「風紀さんは行けそうですけどね」

#ナレーション

もっともである。

#このみ

「姉さんのわがままなんて珍しいですから。姉のわがままを叶えてあげたいんですよ妹としてはね」

#ともみ

「……。」

#このみ

「ほ、本気ですよ。そう怒り気味になられても困ります」

#ナレーション

妹の善意か悪意か。おそらく両方だろう。開き直って面白がっているのかもしれない。

#このみ

「ほら、ナカミチ君も是非にと言っていましたし」

#ナカミチ

「それは言ってないな」

#このみ

「いや、まったく。光栄ですね。泣いて喜んでもいいレベルですよ?」

#ふうき

「まったくだね」

#ともみ

「……。そんなに持ち上げないで頂けますか?」

#ナレーション

ともみさんの心境は御輿に担がれている気分と言えば近いだろうか。

#ともみ

「しかし……。せっかくこのみが提案してくれている訳ですしチームを組みますか。もちろんナカミチさんさえよろしければですが」

#ナレーション

正式にお誘いである。

#ナカミチ

「もちろんです。お願いします」

#ナレーション

もちろんだってよ。当然ではあるが。

#さいか

「結局というとよくないですけど、一番強いチームが出来ましたね……。」

#ネネ

「ともみさんと風紀さんより安定度は高そうですね」

#ふうき

「言われたい放題だよ」

#ナカミチ

「いつもは言いたい放題だよな」

#ふうき

「これからもそうするから」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

わりとナカミチ君も言いたい放題である。そして言われたい放題である。

#このみ

「まぁ最強のチームを考えたら姉妹の絆で私と姉さんになりますけどね」

#ナレーション

譲らない。

#ましろ

「姉妹の絆ならこっちにもあるけど」

#みしろ

「しかも双子だし」

#ナレーション

姉妹と双子が合わさって相乗的に倍率が乗算されて手がつけられない強さになる。もちろん理想論である。

#このみ

「もちろん理解しています。というわけで……。ましろちゃんとみしろちゃんチームです!」

#ナレーション

非常に安定感のあるチーム。この2人趣味嗜好は結構ばらつきがある。広い範囲でカバーができそうだ。

#みしろ

「よし!頑張ろうね!ましろ姉さん!」

#ましろ

「うん。そうだね。……でも突破力が不安だよね」

#みしろ

「姉さん!?」

#ナレーション

さっそく懸念が。まぁもっともである。すごくできる事がないと言えてしまうかもしれない。そこは双子的な姉妹パワーでなんとかするように。

#みしろ

「姉さんには1流の剣術が……クイズ関係なかったね」

#ましろ

「1流でも2流でもなければ、やっていたのは剣術じゃなくて剣道だから」

#ナレーション

とりあえずクイズとは関係なかった。

#このみ

「え?」

#ましろ

「え?ってなに。このみちゃん……。」

#ナレーション

このみちゃんがましろちゃんの剣の前に立った事もあった。1年ぐらい前のような気がしてくる。そんな彼女が思うに少なくとも3流ではないらしい。おそらく剣術がないというのも信じられないのだろう。

#ナカミチ

「いや、だってましろ剣を片手で振り回してたし。迫力もすごかったし」

#ナレーション

戦った人の感想。

#みしろ

「でしょー?」

#ましろ

「でしょーじゃないよ。それに剣道でも片手の技はあるんだから。もう、このみちゃん次は?」

#このみ

「え?剣道って片手でやってもいいんですか?そもそも剣道と剣術って違うんですかね?」

#ましろ

「そこは難しいからまた今度にして……。」

#ナレーション

その辺りを言いだすとナレーションも説明しきれないからやめていただきたい。そもそも剣道の元には剣術があり、突き詰めると剣によって人を殺める面と向き合い。殺人刀(せつにんとう)と活人剣(かつにんけん)うんぬん。

#ナレーション

つまり社会の平和をどう作るかにまでも話が膨らみ非常にややこしい。いや、複雑であるからしてここに書くには余白が少なすぎるというあれである。少なくとも面倒だとかそういうあれではない。

#ともみ

「ほら、話を戻してください」

#このみ

「はーい。えーと、次のチームはですねー。次はさいかちゃんとネネちゃんにミサキちゃんを添えたチームです」

#ネネ

「さいかさんとミサキさんですか。安心感のあるチーム構成ですね。私にとっては一番うれしい組み合わせかもしれません」

#ナレーション

大絶賛である。何人かややこしい人がいると暗に言っている感じもするが。

#さいか

「そうですね。そう言っていただけると嬉しいです。がんばりましょう」

#ミサキ

「あれ?私添え物?」

#ナレーション

色どりにした方がいいかもしれないが他の2人も色どりある乙女であるからしてデコレーションが適切かもしれない。そうでもないかもしれない。

#このみ

「いえ、さいかちゃんやネネちゃんでは不安であった俗的な知識をカバーできる方はミサキちゃんしかいませんとも」

#ミサキ

「そう?まぁ褒められている気はしないけど……。」

#ネネ

「私はちゃんとそういう知識も持っていますよ」

#ナレーション

私は、というのはつまり。

#さいか

「え?ネネさん……?」

#ナレーション

こうなる。

#ネネ

「あ、いえ。すみません……。」

#ミサキ

「まーまー!きっとさいかちゃんに苦労かける事が多いだろうし。サポートできていいじゃない!」

#さいか

「うぅ……。そうですね。そう考えます。しっかりサポートしますね」

#ネネ

「いや、サポートするのは私たちの方、あれ?私が一番頼りにならない……?」

#ナレーション

出来る事が少ない事が頼りにならないとは言わない。やる気がある事はそれだけでプラスだと思って。え?そういうことではない?

#ミサキ

「私よりかしこいじゃない」

#ナレーション

悲しい慰め方ではなかろうか。

#ネネ

「一応慰めとして受け取っておきますけど」

#ナレーション

立ち直った。

#ふうき

「そして残るは真打ち」

#このみ

「大トリを飾る今回の目玉」

#ナカミチ

「残っている目玉商品ほど悲しいものもないなあ」

#ふうき

「容姿端麗、才色兼備!」

#ナレーション

無視された。

#このみ

「眉目秀麗、月下美人!私ことこのみと風紀さんのチームです!」

#ネネ

「眉目秀麗は10歩譲っていいとして、月下美人は褒め言葉なのでしょうか?」

#ナレーション

そもそも花の名前である。美しい花であるから比喩表現として褒め言葉にはなれる。だが1夜で萎れてしまう花ゆえに美人薄命や儚い美といった意味さえある。

#ミサキ

「暗がりで美人に見えるみたいな感じで褒め言葉に聞こえないよねー」

#ナレーション

そもそも話相手に伝わるよう話をするべきだ。わかりにくい言い方はよくない。ナレーションとしても常にわかりやすく簡潔な説明は大事にしたいところだ。

#このみ

「かっこいいから良いんですよ」

#ミサキ

「それもそうか」

#ナレーション

比喩では受け取る側の感性も重要だ。結局、比喩など遊びぐらいで使うのが一番いいのだろう。そういう意味では2人は使いこなしているのかもしれない。

#ともみ

「自分に使っている分にはいいですけれど他の方に間違った言葉を使わないように。今も風紀さんに間違った比喩がかかっていますよ」

#ナレーション

そういうことである。

#ふうき

「まぁ気にしてないですよ。流れの方が大事ですから」

#このみ

「じゃあ問題ないですね」

#ともみ

「……。」

#このみ

「な、仲間内だけにしておきます」

#ともみ

「それは当然の話です。……ですがそういう考え方もありますか。ほどほどにするように」

#ナレーション

身内ののりが他人にとってどれだけ面白いのかというのは当人たちの根底の力量が試されるものだ。

#ましろ

「とにかくこれでチーム分けは決まったね。出場者受付も始まりそうだしもう向かう?」

#ナレーション

スマートフォンの画面を見ながら提案するましろちゃん。画面には受付開始時間が書かれている。後10分後といった時間だ。

#ナカミチ

「そうするか」

#このみ

「ふふふ。ついに始まりますね。トップは渡しませんよ」

#ふうき

「ふひひ。前評判が一番弱いチームが勝つのが王道ってものだよ」

#ネネ

「一番弱いチーム?」

#ナレーション

厄介なチームである事は間違いない。しかし、誰がクイズが得意かどうかわからない現状、学力だけで見ると確かにチームとしては一番弱い。

#ナカミチ

「どうせ手ごわいんだろうな」

#ましろ

「だろうね」

#ナレーション

誰もそう思っていなかったが。

#さいか

「私たちも1位目指すんですか?」

#ミサキ

「お!やる気だね!じゃあ狙っちゃおうか!2人とも頼りにしてるから!」

#さいか

「目指すのか聞いただけだったんですけど……。」

#ネネ

「私は初めから狙ってますよ。それより頼りにする前にミサキさんもがんばってください」

#ナレーション

やる気があるのは良い事である。

#ましろ

「……。まぁ姉妹の絆とか双子の絆とか言っちゃったし。むずかしいクイズだと不安だけど2人でできるとこまでやってみようか」

#みしろ

「そうだね、ましろ姉さん。楽しまなくっちゃ」

#ナレーション

せっかく参加する以上楽しまなくては。往々にして楽しんでいるものに幸運の女神はやってくるはずである。勝利の女神の方は知らない。

#このみ

「うんうん。私の采配は間違っていませんでしたねぇ」

#ナレーション

御満悦である。

#ともみ

「では行きましょうか」

#ナレーション

各自、食べたり飲んだりしたゴミをゴミ箱に捨てて出発する準備をする。

#ともみ

「さて、ナカミチさん。私たちもしっかり頑張りましょうね。わかっているかとは思われますが油断したら他の方に負けますよ」

#ナカミチ

「それは承知していますが……。あえて言っていなかったんですけどこの日本最高位の大学で1位なんてとれるんですかね」

#ましろ

「それなんだよね……。」

#ナレーション

もっともな意見だった。ましろちゃんの懸念もそこから来ていたようだ。

#ネネ

「……そうじゃないですか!普通に考えたら無理です!」

#さいか

「え。わかった上での心意気の話だと思っていたんだけど……。」

#ミサキ

「そ、それは寂しすぎる意見……。」

#ナレーション

ちゃんとわかった上で気概で負けていなかった分さいかちゃんが一番真剣に考えていたとも見れる。

#このみ

「…………。」

#ナレーション

固まっている。

#このみ

「ぐぬぅ」

#ナレーション

解決案は出なかったようだ。

#みしろ

「そう言えばテレビとかでよくクイズ得意な大学生を見るよね……。あれ?だいぶきつくない?」

#ナレーション

事態を把握したようだ。だいぶとか言っている辺り、危機の規模を低く見積もっている気がするが。

#ともみ

「そこは大丈夫だと思います。もちろん始まってみるまで分かりませんが」

#ふうき

「そうそう」

#ナカミチ

「なにかまだ話していない事があるのか」

#ナレーション

あるらしい。

#ともみ

「すみません。さきほどの電子機器の話の時に同時にお話ししておけばよかったですね」

#このみ

「……ナカミチくーん。ねぇさんにしつれいじゃないですかぁー?」

#ナカミチ

「ともみさんにはなにも悪いところはありません!風紀さんに言っています!」

#ふうき

「人によって態度を変えるんだ。ひどーい」

#ナカミチ

「話せ」

#ふうき

「はい。すみません」

#ナレーション

なぜ素直に話せないのか。人が人であるからとかいう深い感じだろうか。

#ましろ

「とりあえず向かいながら説明してくれる?」

#このみ

「そうしましょうか」

#ナレーション

この休憩は休めたと言えるのだろうか。とにかく休息を終えて動き出す一行。

#ふうき

「まぁつまり、マイナーなクイズ大会に参加するんだよ」

#みしろ

「マイナー?」

#ナレーション

マイナーとは鉱山労働者の意味である。嘘ではない。有名ではないという意味もある。

#ともみ

「同じ時間帯に別の場所、大ステージにてクイズ大会が開かれているんですよ。歴史も古く聞くところによると毎年盛り上がっているようです」

#ましろ

「じゃあ私たちが参加するのは?」

#ふうき

「どこかのサークルが開催するクイズ。今回が第1回だって」

#ネネ

「……胡散臭いですね」

#ナカミチ

「同感だが失礼だぞ」

#ともみ

「わざわざ有名なクイズ大会の時間にかぶせてくるあたり変わっているとは思いますよ」

#ナレーション

はっきり言えば普通ではない。

#ともみ

「まぁ先ほども言いましたがそちらのほうのクイズは個人競技ですしコンセプトが違うと言えばそうですが」

#ふうき

「個人でやるよりみんなでできたほうがいいからこっちを選んだんだよ。ほら、さっき怒ったんだから今度はほめていいよ」

#ナカミチ

「……。」

#ふうき

「まぁそんな度胸なかったね」

#ナレーション

さっきのやり返しだろうか。

#ふうき

「まぁとにかくそういう訳だからクイズ王みたいなのはそっちに流れるだろうしチャンスはあると思うよ」

#みしろ

「参加者が少ないのならいけるかもしれないね」

#ましろ

「ここだと普通の参加者も強いと思うんだけど」

#ナレーション

理想に燃える方が強いか現実を見ている方が強いのか。互いに補い合える形だから良いのか。

#ともみ

「皆さん、集合場所の建物が見えてきましたよ。」

#ネネ

「少し近代的な建物ですね」

#このみ

「正直古いより新しい方が好きです」

#ともみ

「……まぁわからなくはないですね」

#ナレーション

ともみさんも思うところはあるらしい。

#ともみ

「ですが歴史というのは威厳を感じる事が出来ます。身を引き締め勉学に励むのには向いているとよく感じますよ」

#ナレーション

フォローを忘れない在学生である。事実そう思っているのだろう。

#ともみ

「黒板が多い建物や特徴的な並木道、風情あふれる池の周辺やカフェテリアなど。なかなか他では見れないものだと思います」

#ふうき

「そのへんは流石だと思いますよ。さて、そろそろ目的地のはずなんだけど」

#ともみ

「前方、左のあの建物ですよね。おや?」

#ナレーション

建物前に数人が並んでいる。

#ナカミチ

「……クイズ受付の並びだな」

#ナレーション

列の先にある長机の後ろの壁に体験型全員参加形式クイズ大会受付所と貼りつけられている。

#ましろ

「……参加者多そうだね」

#ナレーション

まだ受付開始段階である。開始はおよそ30分後からだ。この調子だと参加者が上限人数を超えるかもしれなかった。とりあえず早めに来た彼らは正解だったかもしれない。

#ナレーション

無事に受付を済まし、受付で教えてもらったスタート場所へと足を運ぶ一行だった。

 

#ミサキ

「ここは……、パソコン室?」

#ナレーション

ずらーっと並んだ席ごとにパソコンが置かれている。

#ともみ

「そうですね。主にパソコンを使う学習時に使用する教室です」

#ましろ

「広いですね」

#ともみ

「それでも授業によってはほとんどのパソコンが使われますけどね。1人1台使うんですからこれでも足りない時があるとかいう話も聞きますよ」

#ナレーション

その後各チームごとに席へ誘導される。つまりもはや敵どうし、情け無用、待ったなし。人生は分かればかり。さよならだけがなんとやら。世知辛い世の中である。

#ナレーション

そんな事よりも部屋の前で司会者らしきスーツを着た、おそらく在学生であろう女性2人が準備をし始めた。そろそろだろうか。

#司会者1

「えー。現在参加していただいている皆様にご連絡申し上げます。ゲームはおよそ10分後から開始いたします。始まるとゲームの都合上、第1問目を解かれるか、タイムアップの時間まで退出していただく事ができません」

#司会者2

「その為、始まるまでにトイレ等はすませていただきますようお願いいたします。並びに受付時にも説明させていただきました通り教室内の飲食は硬く禁止させていただいております」

#司会者1

「発覚した場合にはただちに失格として御退出していただくことになりますのでご了承願います。そして受付にてお配りした参加者ナンバーの缶バッチを必ずお付けください」

#司会者2

「このアナウンスは3分間隔で再度お伝えいたしますのでご了承願います」

#ナレーション

そう伝え終わると教室前の隅にある教員用のものであろう少し大きなパソコン台のほうに引っこみ何か準備をし始めた。

#ともみ

「私少し行っておきます。ナカミチさんも行っておいた方がいいですよ」

#ナカミチ

「あ、はい」

#ナレーション

堂々として気品のあるトイレ行ってきますである。妹の方はナカミチ君をからかう材料にするだろう。気品は無いが愛嬌は、ない。トイレへ行くことででる愛嬌とはなんだ。言っておいて意味がわからない。

#ナレーション

席を立つ二人に合わせてその妹もついてきた。

#このみ

「御一緒させていただきます。お姉さま」

#ともみ

「結構です。恥ずかしいので本当に勘弁してくれませんか」

#ナレーション

そりゃそうである。そうなる。

#ナレーション

その後を風紀さんもついて来てトイレに行く。なんであろうこの集団は。

#ナレーション

ナカミチ君は早々に離脱。速足でトイレに向かう。

#ナレーション

終わって洗った手をハンカチで拭きながらクイズの教室へ戻る廊下を歩く。

#ましろ

「あ」

#ナカミチ

「あ」

#みしろ

「え」

#ナレーション

どこかへ向かおうとする双子とどこかから教室へ戻ろうとするナカミチ君と。どこに行くつもりだろうか。聞いてみても面白いんじゃないだろうか。普通の神経をしていたら聞くとは思わないが。

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

何か気の利いた言葉を言う事は出来ないのだろうか。

#ましろ

「く、クイズ負けないからね」

#ナカミチ

「お、おお」

#みしろ

「うぅー……。」

#ナレーション

愛嬌があるなぁ。

#ナレーション

教室へ戻るナカミチ君。

#司会者1

「…の時間まで、」

#ナレーション

教室ではアナウンスが再度行われていた。

#ナレーション

そして仁義なき戦いが始まるのである。

#司会者1

「お待たせしました!」

#司会者2

「お待たせいたしました!」

#ナレーション

司会者2人の元、クイズ大会の開催が宣言される。協賛がどうとかなんとか説明されながら進んで行く。

#司会者1

「まずは参加上限を上回る程の参加希望者がいた事に感謝を述べさせていただきます!」

#司会者2

「並びに参加していただく事が出来なかった方々にお詫び申し上げます。大変申し訳ありませんでした」

#司会者1

「本大会を運営させていただいております現代クイズサークルの規模が非常に小さい弱小サークルでありますゆえどうしても上限が必要でした」

#司会者2

「そのため現在第1大ステージ上で行われておりますクイズ大会の陰でひっそりと開催させていただく流れになったのですが、このようにたくさんの興味を持っていただけた事、大変うれしく思います」

#司会者1

「さて、続いて大会上の諸注意にうつらせていただきます」

#司会者2

「諸注意を守れない方がおられた場合にはそのチームは失格にさせていただく事があります。ご注意ください」

#ナレーション

ほれぼれするような司会である。このナレーションも見習わないといけない所があるかもしれない。ないかもしれない。ちなみに現代クイズとは現代アートのような意味を持たせた造語だということである。よくわからない。

#ナレーション

大会上の注意事項が済みいよいよクイズ開始が近付く。

#司会者1

「また、開催要項に書いていました通り電子機器の使用は許可、して、おります」

#司会者2

「使用しなくてもクリアできる内容ではありますし、まったく電子機器が役に立たないようなクイズと言えるかわからないものもあるかもしれません。新しいクイズの形を模索する私たちのサークルのクイズ、お楽しみください」

#司会者1

「ですが、他チームや外部といった、人への連絡や通話は、認めておりません。ご注意ください」

#司会者1

「ちなみに今大会のテーマは文武両道です」

#司会者2

「何事にも精通している方が有利かもしれません。そうじゃないかもしれませんが」

#ナレーション

ちなみにこの司会者方のお話が終わるまでいつものメンツはだんまりである。

#司会者1

「最後に2つ。まずは受付時にも連絡させていただいた通り本大会は2つの動画配信サイトにて生中継、生配信されております」

#司会者2

「並びに参加者の人気投票も配信サイト上にて行われております。大会終了近くに1番クリアの早かった優勝者と合わせて発表させていただきますのでそちらもお楽しみいただければと思います」

#ナレーション

そんなこともやるらしい。俗的である。参加者の胸についている参加者番号から人気投票するのだろう。

#司会者1

「もう1つは皆さまの目の前にあるパソコン。マウスを動かしていただけますか?そうするとロック画面、パスワード入力が求められます」

#司会者2

「このパソコンはセキュリティー対策の為今大会用に独自のOSを走らせております」

#司会者1

「つまりいつもお使いのようなパソコンのように使い勝手はよくありません。また、この形になったのは主にセキュリティー上によるものです。まったくクイズとは関係ありませんので深読みしないでください」

#司会者2

「パソコンに入力できる文字はアルファベットの小文字に算用数字とひらがな、および句読点のみです。お手元のキーボードからローマ字入力でお願いします」

#司会者1

「さて、お待たせいたしました。これから発表いたしますパソコンのロックを解除するコード番号を入力していただいた時点でクイズ開始となります!」

#司会者2

「ロックを解除していただきますと画面左上から4つアイコンが表示されます。上の3つが問題、1番下のアイコンが回答用のアプリケーションです」

#司会者1

「回答用のアプリケーションは開いていただくと3つの問題の回答欄と送信ボタンがあります!」

#司会者2

「全て記入していただいた後に送信ボタンを押していただくと採点結果が返信されます」

#司会者1

「3つ正解していると次のステージ場所と合言葉が出てきますので次の場所に行き合言葉をおっしゃってください!回答時間は12分です!回答時間を超えますと失格になります!」

#司会者2

「各ステージごとに足切りの時間があります、マラソンを思いうかべていただくと分かりやすいかもしれません、が、再度のご連絡になります。学校内の移動では決して走らないようお願いいたします。……それではおまたせいたしました!」

#司会者1

「解除コードは……!」

#司会者1&

0000です!入力してください!0が4つです!」

#ナレーション

すごく単純なセキュリティーだった。

#ナレーション

参加者があわただしく動き始める。ナカミチ君達も動き始めたようでパソコン上には広げられた3つの問題が。英語、数学、国語。あと右下に生放送中のこの教室が写っている。

#ナカミチ

「……なんですか。これは」

#ともみ

「……おそらくうちの大学の入試問題ですね。どこか見覚えがあります」

#ナレーション

右下については無視のようだ。ではなくて、国のトップ大学の問題をどうやって解けと言うのか。いや、解ける人はいるか。

#ともみ

「うぅ。入試前なら答えまで覚えていたでしょうけどさすがに思い出せません。ナカミチさん、国語をお願いします」

#ナレーション

そう言いながらスマートフォンで数学と英語の問題を写真で取る。各自解いて行く作戦だ。

#ナカミチ

「で、できますかね?」

#ともみ

「あれ?やれないなんて言うんですか?このみの前だときっとやるっていうんでしょうね?」

#ナレーション

ともみさんが挑戦的である。勝負を前に高ぶっておられるのかもしれない。

#ナカミチ

「……。や、やります……。」

#ナレーション

がんばってくれたまえ。解けるか知らないが。

#ナレーション

さて、ぱっと見た感じではあるが国語が長文読解に数学が2つの放物線に囲まれた領域の面積回答、英語が空欄が多い英文の穴埋め。どうせどれもむずかしいのだろう。

#司会者1

「さて、ついに始まりました。第1問目は直球の学問クイズです!さて、この問題どんな点に注意したらいいんでしょうか?」

#ナレーション

画面右下の動画が司会者の2人の映像へと変わる

#司会者2

「そうですね。実は10分後には1つ間違っていた場合でも合格になります。完走を目指すだけなら2つに的を絞るのもいいかもしれません」

#司会者1

「おっといきなり悪魔のような誘惑です!トップを目指せる方は目指して下さいね!」

#ナレーション

良いコンビである。性格も。

#ナカミチ

「……。」(下線部がなぜそう言えるのか答えよ。と言われても)

#ナレーション

やれ。

#ともみ

「私も5分ぐらいかかりそうですから焦らないでください」

#ナカミチ

「は、はい。……。」(ん?そちらは両方合わせて5分だというんですか?ともみさん)

#ナレーション

天上人は無茶ばかり言いなさる。ぐっとこらえたナカミチ君は偉い。まぁ横の天上人は実際できるのだろうしナカミチ君ならできると思っているのだろう。期待にこたえたまえ。出来る範囲で。

#司会者1

「さて!さっそく配信担当から情報が届いております!」

#司会者2

「どこでどういった出来事が起こったのか伝えていただくことで司会者もわかるようになっています。盛り上げていきたい所ですね」

#司会者1

「また配信自体も出来うる限り追いかけますのでお楽しみに。さてさて、配信担当からによりますと……。おおっと!なんと我々司会者が解除コードを言うよりも先にセキュリティーを突破した方がいるようです!」

#司会者2

「まぁ0000ですからねー。勘のいい方がいたものです」

#司会者1

「はい!勘のいいと言ったように実は想定範囲内になっております。我々は解除コードを入力した時点で開始です。とお伝えいたしました」

#司会者2

「私たちが解除コードを言うのを待っていただかなくてもよかったわけですねー」

#ナレーション

ひどい話だ。で、そのチームだが風紀さんとこのみちゃんのチームであるようだ。右下で必死に解いている姿が映っている。いや、解いているというか必死にノートパソコンとスマートフォンをいじっている。解いてはいると思う。

#司会者1

「まぁ入力した時点で開始と言うよりも前はこちら側でセキュリティーを握っていたのでパスコードを入れても入れなかったんですけどね」

#司会者2

「ちゃんとバランスも考えております」

#ナレーション

すごい技術力だ。

#司会者1

「おっとここで最初の回答者が出たようです!採点中です!しばらくお待ちください!」

#司会者2

「国語の採点が少し時間がかかります。ですが単純な漢字問題にはしたくなかったので長文読解になりました」

#司会者1

「一応漢字問題は私が考えていたんですけどねー。相方に怒られまして。相方は理系だったので代わりに燃焼物質の名称を答えさせようとしていたので文系の私が止めました。文系が軒並みクリアできなくなってしまうと思ったので」

#司会者2

「結局、国語、英語に申し訳程度の数学を入れました」

#司会者1

「申し訳程度とはなんですか。由緒正しい文理共通の数学問題ですよ!」

#ナレーション

これは地味にヒントなのであろうか。この問題が過去の入試問題だという事が伝えられたに等しい。

#司会者1

「おっと。採点結果は、あー。残念。間違っているようです。再度解き直してください」

#司会者2

「どの問題が間違っているのかは5分経過以降までお伝えいたしません」

#司会者1

「つまり5分を過ぎますとどの問題が間違っているのかまでお伝えいたします!」

#司会者2

「ちなみに問題の採点者は5人います。回答中に回答時間を過ぎた場合その時点で採点している物が最後の採点になります。採点待ちの方も失格になるのでご了承願います」

#ナレーション

どんどん情報が出るが回答者に聞いている余裕があるのだろうか。

#司会者1

「おっとぽつぽつと回答者が出てきているようです」

#司会者2

「先ほどので解き直し可というのがわかりましたからね。とりあえず答えを出した方が多いのではないでしょうか。それでもそろそろ回答者が出てきてもおかしくありません」

#司会者1

「この3問、難しいのは英語と数学が人によって違うと言った感じです」

#司会者2

「あ、そこまでもう言っちゃう感じですか」

#司会者1

「私たちは皆さんの見方ですから」

#司会者2

「そうですね。さて、なんの話でしたでしょう?」

#司会者1

「なかなか苦労を求めますね。英語と数学の傾向についてですよ」

#司会者2

「そうですね。数学は知っているか知っていないかというところがありますが時間がかかる可能性がありますね。しかし英語の長文はスラング、いわゆる俗語が入っています」

#司会者1

「あっさり言いましたね。そうです。単語の意味や文法だけでは解くのが難しいかもしれません。しかもこの英語だけ入試で使われていたものを穴埋めにした問題ですからオリジナル問題です」

#司会者2

「解けなかったらこちら側のせいかもしれませんね」

#司会者1

「ちなみに苦情は受け付けていません。時間のかかる数学か、わかりにくい英語か」

#ナレーション

狙ってかどうかは知らないが配信の画面には必死にパソコン上の数学の問題を解いているさいかちゃんとおそらくわからない英文があるのだろうか、苦悩の表情でスマートフォンで単語を調べるネネちゃん。

#司会者1

「ちなみに国語はどうなんでしょう」

#司会者2

「うちの大学の問題ですからね。まぁ難しいですよ。どれだけ早く正確にとけるかが重要ですね」

#ナレーション

暗に他より難しくないと言われたようなものだ。さいかちゃんとネネちゃんの横で同じく苦悩していたミサキちゃんがショックを受けていた。もちろん我らがナカミチ君も。

#司会者1

「それは全ての問題に言えますけどね」

#ナレーション

追い打ち。

#司会者1

「おっと!ついに正解者が出ました!番号は、」

#ナレーション

まったく知らない奴らだ。我々は無視でいいだろう。

#ナカミチ

「と、解けました」

#ともみ

「こちらももう少しなので先に答えを打ち込んでおいてください」

#ナレーション

手元のメモ帳に計算式を描きこみながら答えるともみさん。英語は解き終わっているようである。

#ナレーション

不安な顔で答えを打ち込むナカミチ君。自分の答えが不安なのだろう。横がすごい分余計に。

#ともみ

「よし。解けましたよ。ナカミチさん私が打ちこみますので交代してください」

#ナカミチ

「はい。了解です」

#ナレーション

了解と言うと物々しいというか緊張しているのだろう。こればっかりは仕方ないだろうか。

#ナレーション

周りを見ると数グループが正解しているようであるが1位を目指すならそろそろクリアしたいとはだれもが思うはずである。

#ともみ

「よし、打ち込み終わりました。国語の方も確認しましたので私が解いた分も打ち込みミスがないかナカミチさんもチェックしていただけますか?」

#ナカミチ

「ダブルチェックですか。えーと。(数学の答えが2で英語がlemon〈レモン〉?)オッケーです」

#ナレーション

ダブルチェックって大事であるがナカミチ君、流れるようにチェックに移った辺りわかっていたのだろう。その辺りは風紀さんからの良い影響を受けたのだろうか。

#ナレーション

そんな事より画面を覗き込むナカミチ君の顔が微妙にともみさんに近い位置だ。気づいていないようなので気付かないまま離れたまえ。

#ともみ

「わかりました。では送信、と」

#ナレーション

送信ボタンをクリックすると画面に新たなウインドウが表示される。採点中……。しばらくお待ちください。との表示と、その下で正座してお辞儀をしている司会者らしき2人のイラストが動いている。

#ともみ

「ひとつひとつ凝った作りですね……。きっと来年からは話題でもっとすごい人数が参加する事でしょうね……。」

#ナカミチ

「今、大ステージで行われているクイズよりもですか?」

#ともみ

「さすがにいきなりそうなるとは思いませんが、作っている人たちの本心は案外。いえ、本気でその位置を狙っているかもしれませんね」

#ナカミチ

「それはまたなんとも……。」

#ともみ

「やるからには1番を狙う事はいいと思います。それに楽しそうにやっているのならなおさら。……なのでしょう?」

#ナカミチ

「……。そうですね」

#ナレーション

考えに芯がある人は強く見える。それが正しい理念ならばなおさら。

#

「……ぅぅ」

#

「……みちゃん。もう…ょっとだよ。……ばれー」

#ナレーション

ナカミチ君が聴こえる限りその理念を掲げた人は今追い詰められているようであるが。

#ともみ

「!来ました。次の場所と合言葉です」

#ナカミチ

「あ、あってましたか。よかったです」

#ナレーション

お手柄であるなぁ。ナカミチ君はよく頑張った。他と比較してはいけない。

#ともみ

「おや?次の目的地が分岐していますね。デジタルと……アナログですか」

#ナレーション

地図に示された2つの目的地にはそれぞれアナログ、デジタルと書かれている。そしてどちらか好きな方へ、と書かれている。

#司会者1

「おおっと、ここでついに高校生以下の参加者が第1問目をクリアしたようです!」

#司会者2

「1人は大学生の混合チームですがついに突破者が出た模様です。さて、高校生以下のみのチームで最初に突破するチームも見ものですね」

#ナレーション

ナカミチ君の事が取り上げられているようだ。

#ともみ

「クイズに参加していて言うのもよろしくないのですが、あまり目立つのも悪目立ちしてしまいます。合言葉を確認して早く行きましょうか」

#ナレーション

ともみさんは地図の画像をスマートフォンで写真を撮りながらテキパキと動く。

#ナカミチ

「そうですね。合言葉は、シューティング、ですか」

#ともみ

「シューティング?あぁ、それでデジタルとアナログと言う事は……。とりあえず出ますか」

#ナレーション

そういうことだろう。おそらくデジタル的なシューティングかアナログ的なシューティングかということだと思われる。好きな方へ行けばいい。さっそく第1ステージを後にする。

#ナレーション

廊下に出るとその静かさに驚く。外から盛り上がる音楽や人の声が聞こえても建物内は一定の静かさがある。

#ナカミチ

「あの場所かなり騒がしかったんですね」

#ともみ

「司会の方が盛り上げていましたからね。問題を解くにはなかなかに適さない環境でした。狙ってやってはいるんでしょうけど」

#ナレーション

司会が邪魔をしてくるというのも珍しい。今時はこう言う方が流行るのだろうか。意外と調べればひと昔前にそういうクイズ番組でもありそうだが。

#ともみ

「さて、ナカミチさんがデジタルの方が得意というわけではなかったらアナログの方へ向かいたいのですが」

#ナレーション

明確な提案だ。アナログの方がいいと絶対的な自信がある事がわかる発言である。

#ナカミチ

「ではアナログにしましょうか」

#ともみ

「ありがとうございます。きっと後悔させませんので」

#ナレーション

話がスムーズに進む。基本的に相性がいいのだろうか。性格的に。いや、他がなかなかに厄介な、いや、難儀な、あ、いや、個性的な性格だからだろう。

#ナレーション

建物から出ると流石に騒がしさは高まる。人も時間帯によるものだろうか増えているようだ。

#ともみ

「講堂を出ると流石に賑やかですね。場所はわかるのでついて来ていただけますか?」

#ナカミチ

「ありがとうございます。お願いします」

#ナレーション

ナカミチ君、エスコートできない。地理的に不利であるから流石に仕方ない。ともみさんは道すがら各建物や施設を簡単に、かつ特徴的な話まで教えてくれながら先導してくれる。完璧なエスコートである。

#ナカミチ

「ちなみにさっきの問題で答えのレモンってなんだったんですか?果実の話ですか?」

#ともみ

「ああ、あの問題ですか。車の話ですよ。レモンカーと言うと不良の中古車の事を示すんです」

#ナカミチ

「なるほど中古車の話だったんですか」

#ともみ

「いや、そういうわけではなく日本人2人が英語で車の数え方について話すんですよ」

#ナカミチ

「なぜ日本人2人集まって英語で話すんですか?」

#ナレーション

当然の疑問だった。

#ともみ

「さぁ?そこは知りません。日本生まれ海外育ちかもしれません。でも話している場所は日本っぽい描写なんですよね」

#ナレーション

答えは出なかった。というより元からなさそうである。

#ともみ

「日本語で言うところの1台、2台といった台というものが英語にはないんです。他だと鳥の1羽2羽とかですね」

#ナレーション

いわゆるうさぎの1羽2羽といったやつだろう。

#ともみ

「それをなんとか英語で表そうとするんですよ。そこでカートンを使うんですね。ここがジョークなんですけど。いちばんのヒントになっていました」

#ナカミチ

「なんでカートンがジョークでヒントなんです……?」

#ナレーション

そりゃあそう思う。素朴にそう思う。

#ともみ

「問題は回答部分以外にも英文の様々な場所が虫食いになってまして、黒く塗りつぶされていました。何の話かつかむのに表記されている部分で一番有用だったのがカートンだったんです。レモンの数え方がカートンなんです」

#ナカミチ

「はぁ。つまり……、不良中古車の数え方にカートンを使ったんですか?」

#ともみ

「いえ、普通の車の数え方にカートンを使っていまして、そこがジョークなんです。わりと真面目な話が途中でジョークに変わるのでまたややこしい英文なんですよ」

#ナカミチ

「……車を数える時に使う、台、を英語で表記するにはどうしようか。という話からじゃあカートン使ってみる?という笑い話なんですね?で、英文では車やレモンと言った単語は全て塗りつぶされて表記されていなかった」

#ともみ

「そうですそうです。そこまでわかるならナカミチさんに任せてもよかったかもしれませんね」

#ナカミチ

「いや、今レモンの意味とか数え方を知りましたから!無理です!」

#ともみ

「まぁレモンの数え方と言ってもこれも1個、2個というものではなく、レモン1箱分というような表し方なんです。言うまでもありませんがレモン1個という表記は英語でone lemonです」

#ナレーション

そこらへんの説明はナレーションに任せていただいてもかまわないのだが。やる事が無くなってしまう。

#ともみ

「結局この話は日本人が英語で話す時ぐらいにしか起こらないものでしょうね。最後の落ちはアメリカ人らしき人が、いや、その場合はユニットを使うんだよ。と教えてくれて終わりです。ユニットにあたる部分も英文では穴あきですが」

#ナレーション

ワンユニットで1台という感じか。

#ナカミチ

「日本人が考えるアメリカンジョークみたいなものなんでしょうか……。」

#ナレーション

グロッキーのようだ。難しい話だからしかたないか。

#ともみ

「ああ、きっとそういうことでしょうね。流石ですねナカミチさん」

#ナカミチ

(なんか褒められた)

#ナレーション

よかったな。報われたと言ってもよいだろう。

#ともみ

「私からも1つ聞いておきたい事がありまして、少し前の話なのですが」

#ナカミチ

「なんでしょうか」

#ともみ

「いえ、朝にも少しお話したことなのですが。ナカミチさんがこのみを学校へつれて行ってくださった日の事です」

#ナカミチ

「いや、それはその。来なくなると分かっていてなにもしないのも居心地が悪いだけで」

#ともみ

「あ、いや。そこは色々あると思います。先ほどはその私が先走ってしまっただけです」

#ナレーション

探り合いも大変である。遠慮しまくっているだけとも言えるが。

#ともみ

「私は、その。このみが学校へ行かなくなりそうだという事はわかっていたんです。学校の話を避けるようになっていましたので。しかし……。」

#ナレーション

妹の事でもわからないことぐらいある。自分の事でも他人の事でも知るという事は大変なのだ。一般的にそう言われている。本当にそうなのかは知らない。

#ともみ

「あの日、行かなくなる日まできっちりとわかっていたのはなぜなんですか?このみがナカミチさんに何か言っていたのでしょうか?」

#ナレーション

相手の事を全て知りたいと思うのは人の性(さが)であろうか。それ以上の思いというものがあるのだろうか。

#ナカミチ

「このみは……。無理をしていました」

#ともみ

「そうですね。このみが無理をしていたのはわかっていました。でもそれは止めない方がいいと思いました」

#ナカミチ

「ええ。そもそも自分が自分の為に動く事を大事にしているんだと思っています」

#ともみ

「それが自分の為に他者の為に動くようになりました。これがこのみが自分の為に自分を押し殺してやった、無理、です。……ナカミチさん。すみません。まずうちの教育方針を聞いていただけますか?」

#ナカミチ

「教育方針ですか?ええ、かまいませんが……。」

#ともみ

「うちは子供の事は親よりも子供がわかっているという方針で育てられました。つまり、自分の事は他者である親よりも子供自身の方がわかっているというものです。でも決して放任主義ではありませんでした」

#ナレーション

このみのことはこのみの親よりもこのみのほうがわかっているということだろうか。

#ともみ

「両親は私たち子供のやりたい事に寛容でしたし、何かをしようとした時いつも喜んでくれていました。私はそんな両親の愛と立派な姿を見て育ちました。このみも一緒です」

#ともみ

「しかしどうもこのみはインドア、というよりゲームとネットにはまって行ってすこし変わった方向に才能を開かせました。……開いたというより興味を深めたという感じですかね」

#ナレーション

評価を少し修正。身内のひいき目はあっても仕方ない、かわいい妹であればなおさら。もちろんナレーションには妹とかそういうのもない立場なのでよく知らないが多分そういうものなんだろう。

#ともみ

「それでまぁ、少しひねくれた部分も出ましたがそれはそれでいいのだろうと思いましたしひどい時は私が注意すればいいと思っていました」

#ともみ

「そして高校にこのみが入ることが決まったある日。このみは学校には行かない事にしましたと言って、私は迷いました」

#ナレーション

すっごい重い話になり始めた。重い話の時とかはナレーションは逃げて引っ込むが、逃げそびれた。しまったなぁ。

#ともみ

「しかし、それでもこのみが選んだことです。このみが進みたいと思った先はこのみは見るべきなんだろうと思ったんです」

#ナレーション

だがそうなると我々がこのナカミチ君達を見始めた1年、2学期の始まりとあまりにそぐわない。なんというかがんばって引きずって連れてきましたという感じだった気がする。

#ナカミチ

「それがどうしてこのみを連れて来てくれることになったんですか」

#ナレーション

そこである。

#ともみ

「あの学校は特殊です」

#ナカミチ

「大抵やる事は浮いたり水を飛ばしたり火を出したりするだけですけどね」

#ともみ

「えーと、まぁそこはそうなんですが、このみもなにか面白い事があるかもと入学希望を出したみたいなんですが、そんな感じですから。入学前には興味が無くなっていたようです」

#ナレーション

散々な言われようである。

#ともみ

「しかし、このみが入るクラスはあの学校においてはただ1つのクラスでした」

#ナカミチ

「……うちのクラスですね」

#ともみ

「私はこのみを学校へ行かせた方がいいと思いました。……当時、生徒会長だった私にはあなた方のクラスがよく目に入りました」

#ナカミチ

「それは、褒めていただけているんですかね」

#ともみ

「……全般的には。全部とは言えません」

#ナカミチ

「そうでしょうね」

#ナレーション

そうだろう。

#ともみ

「私はあなた方のクラスが目につくたびに、あのクラスにこのみは入れるのに入っていないなんて。そう思いました」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

ともみさんはそう見てくれていたらしい。ナカミチ君は嬉しい限りだろうか。こっちまで嬉しい。

#ともみ

「両親は学費を払い続けてくれていました。このみは必要な分はきっちり勉強しているのを知っていました」

#ともみ

「私はこのみに学校へ来てほしかった」

#ナカミチ

「……このみが入学届を出した理由はともみさんが通っていたからだと思います」

#ともみ

「……少しはそうかもしれません。でも来てくれる事は無かった」

#ナカミチ

「来てほしいとはその時まで言わなかったからですよ」

#ともみ

「…………そうですかね。いえ、きっとそうなのでしょうね」

#ともみ

「私は……、このみを学校へつれて行って良かったと思いました。だから……、その結果として、途中として、いつかこのみが苦しくなって、学校へ行かないと決めたなら。それは必要なことなのだと思いました」

#ともみ

「どうすればいいのか自分なりに判断できた時、また学校へ行くと思いました。だからまた行く日まで、それまで私は学校に行きなさいと言うのがいいのだろう。と思っていました」

#ナレーション

言葉通りに受け止めないとこであろう。この場合学校に行きなさいとはつまり、ええと。き、きっと心配してますよ的なことだ。

#ナカミチ

「学校へ行くのが正しいってこのみも信じたかったでしょうし。きっと正しいと思います」

#ナレーション

つまり心配しているということだ。きっと。

#ともみ

「しかし結果はもっと、すごい。としか言いようがありませんでした」

#ナカミチ

「そこまで言われると落ち着きませんが」

#ともみ

「いえ、このみは本当にいい友人を持てていました。わたしはまだあなた方とこのみが一緒に学生生活を送るべきだという評価を過少に判断していたのだと思いました」

#ともみ

「ですが、いつか行かなくなるとはわかったとしてもその日にちまでわかる事は、ついに私にはありませんでした。なぜですか。どうしても私にはどうしてもぬぐえない懸念があるんです」

#ナカミチ

「懸念……?」

#ともみ

「誰かがこのみの限界を操作した、と思う懸念です」

#ナレーション

恐ろしい話である。負荷がかかっているならその負荷を、限界が来る日を操作して都合のいい日に最大値になるようにしようというものだ。

#ともみ

「その様な事は無かったでしょうか?」

#ナカミチ

「ありません」

#ナレーション

なかったかと聞かれて、ないと答える。そもそも信用するしかない事である。それでも聞きたい。聞かせてほしいのだろう。誰かの為に。

#ナカミチ

「あの日が限界の日になったのはこのみが決めて、俺が望んだからです。あの日、2学期が始まって1週間まではがんばってみよう。と、このみは決めていました」

#ナカミチ

「1年前の2学期にともみさんがこのみへ自宅の鍵を渡したその日までは」

#ともみ

「……私に配慮してくれたんですかね」

#ナカミチ

「そうだと思います。別に学校へ行かないと決めるのはあの日より前でもよかったはずです。それこそ2学期が始まっても行かない方が自然ではあります」

#ナカミチ

「まぁ無理すればもっと後まで学校に行けたのだろうしそもそもこのみの自己満足のようなものともおもいますが」

#ともみ

「そのへんはこのみらしいですね」
#
ナレーション

にこやかに笑うともみさん。

#ともみ

「それでナカミチさんが望んだというのは?」

#ナレーション

真顔。

#ナカミチ

「ぜ、前日に風紀さんが説得しようとしたところを俺が何とかすると言って止めてもらって次の日の朝に説得しに行きました」

#ナレーション

これは操作か否か。ともみさんによる判決待ち。

#ともみ

「……。まぁ何とかしていただいたわけですし。大変感謝しています」

#ナレーション

セーフ。信頼されている。

#ナカミチ

「ぎりぎりまで普段通りの生活を楽しんでもらえるようにとは風紀さんも俺も考えていたところはありました。風紀さんの考えは直接聞いたわけではありませんが。でも後から思うとかえってぎくしゃくしていましたけど」

#ナレーション

ぎくしゃくしてたとしても人間関係というものは過程というものが大事なものなのではないだろうか。いろんな人がそう言いそうなものだ。もちろんよくはわからないが。

#ともみ

「あぁ、そういえばその風紀さんの事でお聞きしたい事がありました。と、そろそろ次のステージの場所につきますね。この話は後にして次のクイズに集中しましょうか」

#ナカミチ

「わかりました」

#ナレーション

ついに次のステージである。どんな問題が出されるのか。

#ともみ

「第1ステージを踏まえると1位はじゅうぶん目指せそうです。勝負にならないほど強い相手は居ないようでしたから。ここで巻き返しましょう」

#ナレーション

巻き返しを狙っている方が多い中さらに上を狙い続ける。いつだって追いかける方は大変なものだ。

#ナカミチ

「そうなんですか?じゅうぶん他のチームも早かったと思いますが」

#ナレーション

たった3問のクイズで数分の差が出るほどに上位層は手ごわいと言うナカミチ君の感想。

#ともみ

「いえ、1分以内に1人で解ききれる人がいてもおかしくない場所ですし。もしあの問題を憶えている人がいたら230秒台もあり得た話です」

#ナレーション

3問のクイズをたった数十秒で解けるほどに真の上位層は手ごわいと言うともみさんの感想。真の勝者には未だ遠く。狙う事は無いが。同じ土俵に立ってはいけないやつだ。エンカウント自体が敗北系である。

#ともみ

「おっ。ナカミチさん。やはりエアガンで何かするみたいですよ」

#ナレーション

視線の先にはエアーガンシューティングという横書きの看板が掲げられている。10歳に満たない方はプレイすることができません。と書かれているあたり、よく出し物として許可が下りたものだ。

#ともみ

「ただいまイベント貸し切り中、と出ていますしここで間違いないでしょう」

#ナレーション

ブース前の受付らしきカウンターにはなにかの生放送中らしき映像が映るノートパソコンが見えるように置かれていた。どこか最近見た司会者たちの姿が映っている。ここで間違いない。

#ナレーション

案内役と思わしき方にクイズ参加者である旨と合言葉を告げるとルールの説明をしてもらえた。15発の弾を2人で分けて全10個の的を全て撃ち倒せばクリアとなるようだ。その後禁止事項と危険行為の禁止の説明。すごく大事。

#ともみ

「ナカミチさん。10発、私に、いえ。11発渡していただけませんか」

#ナレーション

つまり11発あれば……というやつである。お楽しみに。

#ナカミチ

「はい。構いません。お願いします」

#ナレーション

頼りにならん男だ。銃の一つも女の子に負けるとは。いや、男だからとかそういう軽視はナレーションはしていない。

#ナレーション

それを聞いていた説明員が最初に1発照準確認の為、余分に撃てる事を伝えてくる。

#ともみ

「では10発で」

#ナレーション

自信がありすぎる。

#ナカミチ

15発全てこの人に渡して下さい」

#ナレーション

ナカミチ君が案内役で説明役な人へ伝える。

#ともみ

「いいんですか?」

#ナカミチ

「構いません。決めちゃってください」

#ナレーション

全任せ。信頼か押しつけか。判断は相手次第。

#ともみ

「ミスしたところをフォローして下さったりはしないんですか?」

#ナカミチ

「そういう機会があればそうします。でもそんな機会はなさそうですし」

#ナレーション

ないだろうなぁ。

#ナカミチ

「全部お渡ししますのでミスしてもかまいません。素早くお願いします」

#ともみ

「ふふっ。わかりました。そう期待していただけているのでしたら」

#ナレーション

期待にこたえたいと思うのは誰の為か。大体自分の為だったりする。保身って大事。

#ナレーション

玉の数の確認を取った後、案内役が玉から目を守るためのゴーグルを手渡し、去っていく。

#ともみ

「ここは互いの1位の為にしっかり決めさせていただきます」

#ナレーション

やっぱり自分の為に、そして相手の為にってやつが大事だ。そもそも自分の為だけに期待にこたえるなんておかしな日本語ではなかろうか。そうでもないかもしれない。

#ともみ

「ところで今からやるこれはクイズなんですかね」

#ナレーション

シューティングがクイズとは初めて知った。

#ナカミチ

「現代クイズですし、現代とついているからいいんじゃないですか?」

#ナレーション

免罪符みたいなものか。自称とかそういう。

#ナレーション

案内員に場所があくまで待っていて下さいと言われ少し待つ。2つスペースがあるようだが両方とも先に入ったチームがゲーム中のようである。言ってる間に1つ開いた。クリアは出来ていないようで2人の後に再挑戦らしい。

#ナレーション

スペースは透明質の厚いビニールに覆われおり、裂け目から中に入る。跳弾が外へ出るのを防ぐ使用なのだろう。入る前に目の保護にゴーグルの着用を確認され。準備万端。いざ戦場へ。

#ナレーション

机の上にチェーンで机の脚と繋がれているエアガンが置かれていた。盗難対策ばっちりである。

#ナレーション

各自1発撃ってみてくださいと言われ練習用と書かれた大きな的が出てくる。ナカミチ君ぎりぎり当たる。ナカミチ君これで出番終了。ともみさんは中心の赤く塗られている場所から少しずれて当たる。

#ともみ

「やっぱり上に大きくずれますね……。」

#ナレーション

やっぱりとか言い出した。出番の終わったナカミチ君一歩引いて見守る。するとスペース入り口の外から観客が覗いているのに気づく。おそらくこの場所を運営している方々だろう。ミリタリーっぽい恰好であるし間違いない。

#ナレーション

口々に噂し合っている。10発でクリアできるらしいとか何とか。いや、それは無理だろうとか。的小さく作りすぎたからとか。半径を直径と間違えたからとか。センチメートル表記をミリメートル表記と間違えなかっただけましだとか。

#ナカミチ

(大丈夫かな……)

#ナレーション

心配したところでなにもできないが。自分で選択したことである。責任を持つとよい。

#ナレーション

最後に10個の的が一気に出てくる。たしかに思っているより小さかった。想像の2分の1ぐらい。制限時間は一応1分程度だと言う事が伝えられスタートのベルが鳴る。わりとジリリリリリとうるさいタイプのベルだった。

#ナレーション

ようやくベルが落ち着いた。

#ともみ

「終わりました。確認していただけますか?」

#ナレーション

終わった。何もかも。ベルが鳴り終わる頃には全て。何もかも遅かったのだ。

#ナレーション

と言うように的は全て倒れていた。早い。

#ともみ

「期待にこたえられました」

#ナレーション

そう言ってビニールの隙間から外へと出る。ハイタッチを控えめな高さで求めてきたのでナカミチ君はそれに答えた。軽いタッチの音をならすと観客達からどよめきと拍手が送られた。

#ともみ

「おっと。わりと見られていたんですね」

#ナカミチ

10発で決めれると噂になっていましたよ」

#ともみ

「わりと危なかったですけどね。思っているよりも少し的が小さくて緊張しました。10発だと緊張で外していたかもしれません」

#ナカミチ

「と言う事は全部当てたんですか」

#ともみ

「全弾必中でした」

#ナレーション

誇らしげ。ともみさんは珍しく謙虚さが出ておらず、嬉しそうである。

#ともみ

「さぁ合言葉と次の場所を教えてもらって次へ行きましょうか」

#ナカミチ

「そうですね」

#ナレーション

次の場所と合言葉が書かれた紙を手渡される。

#ともみ

「場所は……。ふむ。今度は分かれていませんね。それで合言葉は……。」

#ナカミチ

「フレンド オブ ア フレンド……?」

#ともみ

「友達の友達?よくわかりませんね」

#ナレーション

フレンド オブ ア フレンドについて。ナレーションが皆さんの役に立つ時が来たようだ。

#ナレーション

友達の友達が言うには。といった情報の信憑性が全く上がっていないのに上がったように思う事を示したり、お試しサンプルを送りますといった商品の広告を他の知人に知らせても良いとする広告を示したりする。

#ともみ

「とりあえず向かってみましょうか。っと、その前にナカミチさん、少し現在の状況を見て行きませんか?」

#ナレーション

カウンターに置かれたノートパソコンに映されている実況を示してともみさんが提案する。今も画面には最初のステージと司会者たちの姿が見えている。

#ナカミチ

「いいですよ。トップがどこにいるか気になりますし」

#ナレーション

さっきから賛同しかしていない。ナカミチ君からも提案してみたらどうだろうか。いや、変に動いたら邪魔にしかならないだろうか。現実はつらい。とか言っていたら画面が変わる。

#ナカミチ

「あ、このみと風紀さんの姿が映っていますよ」

#ともみ

「あ。ほんとですね。場所はどこでしょうか。もうひとつの第2ステージですかね」

#ナカミチ

「そのようですね。ゲームセンターでしか見ないようなものが置いてありますし」

#ナレーション

いくつものゲーム機体が見えるなかこのみちゃんと風紀さんは座りながら何かを待っている。おそらく順番待ちだと思われるが。

#ナレーション

画面は再び司会者たちに移り変わる。周りの景色は変わり外を歩いているようだ。

#司会者1

「さぁ、そろそろ第1ステージはタイムアップが近づいてきました」

#ナレーション

画面が移り変わりもう一人の司会者が映る。場所は違うようだがこちらも外を歩いている。

#司会者2

「そうですね。現場からの情報ではまだ頑張っている人たちがいると言う事で最終ヒントが出ています。数学の問題で使う公式が全て開示されました」

#司会者1

「数字を当てはめれば足し算と引き算、掛け算、割り算で何とかなるはずです!頑張ってください!」

#ともみ

「あれ?今あのミサキさんとネネさんにさいかさんが映りましたね」

#ナレーション

司会者の前方に映っていたように見えていた。

#ナカミチ

「え?あ」

#ナレーション

ナカミチ君は画面が切り替わる前に少し見えた気がした。気がしただけなのではっきりしなかった。まぁ映っていた訳であるが。

#ナカミチ

「見えた気がします」

#ナレーション

いま画面は第1ステージを映している。

#ともみ

「えーっと、私たちが座っていた辺りは……。誰もいませんね。皆さんクリアしたようです。すごいですね……。」

#ナレーション

早々に解いた人からの称賛である。

#ナカミチ

「ともみさんにすごいと言われましても……。」

#ともみ

「卑屈に受け取りすぎですよ……。」

#ナレーション

そう言われるとつらいと思うが。

#ナカミチ

「とにかく全員クリアしているようで何よりです。行きましょう」

#ともみ

「そうですね。引き続いて頑張りましょう」

#ナレーション

やる気満々である。行こうとした2人にパソコンから大きな声が聞こえる。

#司会者1

「おおっと!ここで情報が飛び込んできました!さきほどついに第2ステージを突破したチームがあった模様です!」

#ナレーション

2人の足が止まりパソコンへ振り返る。

#司会者2

「おっと!それはすごいです!たしか第2ステージは想定より難しくなりすぎていたはずですが」

#司会者1

「はい。もう3分程でどんどんクリアハードルが下がって行く予定です。難しく作ってしまったなら最初ぐらいはそのまま挑戦してもらおうとこちらからの粋な計らいでした。それをクリアするのはすごいですね」

#ナレーション

粋な計らいと言いのける根性。見習いたいものが。見習わない方がいいのか。

#ともみ

「つまり私たちですよね?」

#ナカミチ

「ですかね?」

#ナレーション

そうですね。ほら。次行かないと追いつかれるぞ。

#司会者1

「クリアした時の映像があるようなのでご覧ください!」

#ナレーション

と司会者が言うと監視カメラからのような視点から予想通りの2人が映っている映像が流れる。ベルが鳴り終わりハイタッチまで。仲がいい。

#司会者1

「いや、なんというかすごいですね」

#司会者2

「信頼関係まで見えるお2人でした。さて、この後はどうなるんでしょうか。まだまだトップ争いは白熱しそうです!」

#ともみ

「私たちでしたね」

#ナカミチ

「でしたね」

#ナレーション

ここから追い上げられる側である。トップにはトップの苦労があるものだ。さぁ早く行きたまえ。

#ナレーション

そして変わらずともみさんに道案内をしてもらうナカミチ君。

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

何か思い出しそうなナカミチ君。

#ナカミチ

「半年ぐらい前にこのみから聞いたんですけど、ともみさんFPSしたことあるんですよね?」

#ナレーション

言っていたような気もする。どうだったか。もう一度見直しても良いと思う。ただの提案だが。もちろん見なくても何の問題もない。

#ともみ

「えっ!このみそんなことまで言っていたんですか?」

#ナカミチ

「魔道祭の時にともみさんの事で話題に上がりました」

#ともみ

「ああ。あのステージフィールドの事から私の話になったのでしょうか?あの形を提案したのが私ですからね……。ナカミチさんこちらの事どれだけ知っているんですか……。」

#ナレーション

クラス対抗戦のフィールドを考えたのがともみさんであったという話だったか。実際には試合中に話題が出ていたはずだ。

#ナカミチ

「さっきそちらの家の内情まで教えてもらえましたが」

#ともみ

「……。ひ、必要な事ですから」

#ナカミチ

「充分に教えてくださるのは大変ありがたいです。まわりによく知らせずに巻き込もうとする奴もいますし。ありがとうございます」

#ナレーション

説明不足な事ばかりの世の中。いつだって不確かなところで判断しないといけないのは誰の罪だというのか。もしかして説明役のナレーションの罪だろうか。いや、そんなはずはないか。

#ナカミチ

「それでその時にともみさんサバイバルゲームもしたんじゃないかという話が出まして。……さっきすごく狙撃上手でしたよね」

#ともみ

「そ、そうですかね?」

#ナカミチ

「サバイバルゲームもした事があるんですか?このみすら想像しきれていませんでしたよ」

#ともみ

「……。まぁ似合わないというか、私のイメージとは違うでしょうね。ではそこはやっぱり内緒という事で。私も少しぐらいはミステリアスなほうがいいでしょう?」

#ナレーション

そんな事を言われてしまえばナカミチ君でなくても太刀打ちできないと思う。ナカミチ君ももう深く聞くつもりはないようだ。さてその上でどう切り返すか。と、やりとりする2人に割込む影が。

#司会者2

「おっと。どうにか間に合いました。現在トップのお2人です!現在1位のお2人から一言いただけないでしょうか?」

#ナレーション

司会者とノートパソコンに繋がれたビデオカメラを向けるカメラマンの割込みである。移動する道が偶然か故意かどちらにせよかぶっていたようである。急な質問に対応する。

#ナカミチ

「大変楽しませていただいてます」

#ナレーション

先鋒ナカミチ君。露払い。前座。おあとがよろしいようで。

#ともみ

「この後のステージも非常に楽しみです」

#ナレーション

真打ちともみさん。本丸。主役。華。そしてなにより品格がある。

#司会者2

「ありがとうございます!急いでるなかありがとうございました!なんとも期待できそうなチームでした、ここからも目が離せません!」

#ナレーション

そういうと第2ステージの中へ入って行った。

#ともみ

「……まぁ行きましょうか」

#ナカミチ

「そうですね……。」

#ナレーション

ハイテンションに合わせるのも大変なのだろう。合わせるべきは場であるし楽しいのは事実なのだ。ただあんなにテンションがあげれるかはもう人による。2人には酷であるようだ。

#ともみ

「それでナカミチさん。もともと話そうとしていた事なんですが」

#ナレーション

ともみさんから話しておきたい事だったか。聞いておきたい事だったか。

#ナカミチ

「たしか風紀さんの事でしたか」

#ナレーション

よく覚えていた。

#ともみ

「ええ。ちょうど先ほど話をしていた魔道祭のクラス対抗戦の話です。結局あの時に私からなにもアドバイスをする事はありませんでした」

#ナカミチ

「生徒会長でしたから当然だと思っています」

#ともみ

「その時にはもう元生徒会長でしたけどね。競技の運営側を務めた人が肩入れする事は当然好ましくありません」

#ともみ

「あの大会はあまりにも1つのクラスにとって不利なものでした。ですのであの競技の本来の意図を発展させる形で戦略性を求めたんです」

#ナレーション

ともみさんが求めた戦略性、それが入り組んだフィールドだったのだろう。

#ともみ

「一応毎年同じ戦略で勝ちやすくならないようにステージの形は考え直すよう言ってはいたのですが難しかったようですね」

#ナレーション

過去の流用は楽だ。この場合アレンジすらしていなかったわけだが。

#ナカミチ

「今回はそのおかげで少し長く戦略を考えられたようです」

#ともみ

「風紀さんが、ですか?」

#ナカミチ

「……そうです」

#ナレーション

どうもあまり良い話が出る感じではないと彼は確信を持つ。

#ともみ

「あの対抗戦、もちろん私も観客席で見させていただいていました」

#ナレーション

たしか家族で行くという話だった。

#ナカミチ

「御家族と見てくださっていたんですよね」

#ともみ

「ええ、そうです。そして始まった時のナカミチさんたちの動きを見て私が想定していた戦略に沿っていると思いました。だからあなた方に優勢な形で試合は運ぶと思いました」

#ナカミチ

「最後に想定外が起きましたが」

#ナレーション

双子のことである。なかなか盛り上がったところだろう。

#ともみ

「そこはさすがに想定外ですからひとまず置いておいてください。まぁ、私としてはその後にこのみがナカミチさんに抱きついていたところの方が衝撃でしたけどね……。」

#ナレーション

あったあった。そしてやはり見られていたようである。ナカミチ君気まずい。

#ナカミチ

「ただ勢い余っただけだと……。そこは試合が終わった後の話なので置いておいてください」

#ともみ

「そうですね。まったく……。」

#ナレーション

まったくである。何に対してまったくなのかはよくわからない。言いたくなる時もある。毎日大変であろうし。

#ともみ

「とにかくあの対抗戦ですが最初、私はあなたたちの勝利はほぼ間違いないだろうと思いました」

#ともみ

「しかし、いくつか間違っていた個所がありました」

#ナカミチ

「間違っていた、というと本来の想定……。もっといい方法があったという事ですか」

#ともみ

「そうですね。まずはチームの分け方です。動き方にもかかわるのですが、見ていた限りではチーム分けの基準は早さでしたよね」

#ナカミチ

「……はい、そうでした。100メートル走の順位で分けました」

#ナレーション

ナカミチ君が風紀さんにお願いされ、クラス全員の記録を調べていた。そりゃ本人はよく覚えている。

#ともみ

「あの戦いは殲滅戦です。どちらかが倒されきるか、時間切れ時に残っている人が多い方が勝ちです。相手側の陣地取りではありませんし、どこかのエリアを確保するものでもありません」

#ともみ

「皆さんは真ん中の開けたエリアを相手が超える前に自分たちが超えてしまおうとしました。しかしそもそもその必要はなかったのです」

#ナカミチ

「開けたエリアよりも手前、自分たちのスタート側で待っておくのが良かったという事ですか」

#ともみ

「そうです。他の戦法は同じです。相手に出会い次第、裏を取るように動けばいい、というように考えられています。となるとチーム分けは早さを合わせるよりも持久力で合わせた方がいいはずです」

#ナカミチ

「持久力……。」

#ナレーション

ナカミチ君も一つ思い当たる。チーム内で体力の限界に差があったことに実際に直面していたからだ。

#ともみ

「ええ。持久力の差で担当する戦闘エリアに差をつけるのが私が考える最もいい方法です」

#ナカミチ

「……もしその方法をとっていたらましろとみしろが本気を出す前に倒せていたかもしれません」

#ナレーション

ましろちゃんとみしろちゃんは最初から空を飛んだりフルオート銃で戦っていたわけではない。その時に出会っていれば普通に倒せてしまっていただろう。予想ではあるが。

#ともみ

「そうですね。その可能性はあります。……。しかし1番の問題は……。」

#ともみ

「なぜ全体がまた集合したのかというところです」

#ナカミチ

「……。」

#ともみ

「先ほどの問題は小さな読み違えというものですし、ましろさんやみしろさんの件は特殊な話です。本来ならそこまで大きな問題にはならないでしょう。とくに後半になればその問題も薄れてきます」

#ナレーション

実際最後の方は押しきれてしまいそうだった。そこからましろちゃんとみしろちゃんが出てきたわけだが。しかしその押し切る前に確かに彼らは1度集合していた。

#ともみ

「ですがあそこで1度集合する理由は本来全くないはずです。一体どういう理由で集まったのでしょうか?」

#ナカミチ

「……相手人数の確認の為、そう言っていました」

#ともみ

「風紀さんが、ですか」

#ナカミチ

「……。」

#ともみ

「決して短くない時間全員が集まるデメリットはあまりにも大きいはずです。それに気づかないとは思えません。少なくとも風紀さんが気付けないとはどうしても思えません」

#ともみ

「そして相手の人数把握はもちろん自分たちの人数も集まって確認する必要はないようになっていました」

#ナカミチ

「アナウンス。ですね」

#ともみ

「……。そうです」

#ともみ

「さて、次の場所が近づいてきましたし、続きはまたこの後にしましょうか。またこの話、後回しになりましたね」

#ナカミチ

「わかりました。なんかいろいろありましたし。インタビューとか」

#ともみ

「FPSの話だとか。ですね」

#ナレーション

苦笑いしながら次の場所を見る。建物の入り口に案内役であろう人物と現代クイズ第3ステージは2階と看板が出ている。そのまま2階に進んで下さい、合言葉もそこで伝えてくださいという案内に従ってとりあえず2階へ。

#ナカミチ

「あれみたいですね」

#ナレーション

いくつかの教室とおもわれる部屋が様々な文化系のクラブやサークルに割り振られているようだ。そんな中にクイズの部屋と描かれた看板が掲げられている部屋がある。

#ナレーション

近づくと第3ステージとの張り紙とその下に現在、現代クイズ大会参加者のみの立ち入りをお願いしております。他の一般来場者の方は大変申し訳ありませんが午後1時以降足を運んでいただければ幸いです。と書かれていた。

#ともみ

「では入ってみましょうか」

#ナカミチ

「入った瞬間何か起こったりしませんかね」

#ナレーション

ドアに手をかけながら不安を口にするナカミチ君。実際ありえそうだ。なかなかわかっているじゃないか。

#ともみ

「年上として私が先に入りましょうか」

#ナカミチ

「いやいや。入ります。俺が」

#ナレーション

ドアを開ける。何も起きなかった。が、妙に少し熱い。中には6つの長机とそれぞれに椅子が3つ。あとはその長机に向かいあう形で少し離れた場所に机とパソコンと運営側らしき女性が1名座っている。

#ナレーション

よく見るとパソコン用のモニターは1つなのに無造作に置かれた据え置き、いわゆるタワー型のパソコンは3つも置かれている。

#女性

「い、今、手が離せない……。どこか机に座ってくれ……。そしたら机のノートパソコンの指示の通り進めてくれたまえ……。」

#ナレーション

言われてみれば長机に閉じたノートパソコンが置かれている。が、2人としては猫背のせいでモニターの陰に隠れて何かをやっている方にどうしても気が散る。

#ナカミチ

「な、なんか大変そうですね」

#ともみ

「おそらく放送関係はあの人が一括しておこなっているんだと思います」

#ナカミチ

「そういえばどこかで配信担当がいるみたいなことを司会者が言っていましたね」

#ナレーション

つまりどこで何が起こっているのかというのを把握しながら司会者に連絡しているのが今モニターの裏でカタカタとキーボードを打ちながらもそもそ動いている人なのだろう。大変な役である。

#ともみ

「……ぎりぎりの人員ですね」

#ナレーション

学生の出し物ではよくある話だろう。もっとも無駄に人がいてもやる人とやらない人が出ると意味がないが。

#ナレーション

すると、あ、しまった。とかいう不穏な声がモニターの後ろから。ビデオカメラをモニターの上に取りつけるとレンズが2人の方に向けられる。同時にモニターの上から手だけを出して指で3、2、1と示してくる。

#ともみ

「撮られ始めたようですね……。」

#ナカミチ

「司会者の声がここまで聞こえてきそうな気がしますよ……。」

#ナレーション

そういいながら手元のノートパソコンを開ける2人。よく見かけるようなOSのデスクトップ画面が映る。

#ナカミチ

「このノートパソコンは普通のパソコンなんですね」

#ナレーション

普通のOSといった方がいいがいわゆる普通の認識としたらそうだろう。モニター陰の人物はピクッと動いたが訂正したかったのだろう。訂正したらめんどくさい人認定は間違いない。だからやめたのだろう。

#ナレーション

ナレーションはナレーションの仕事をしただけであってめんどくさい者ではない。こっちをみないように。

#ともみ

「おそらくサークルの私物なのでしょう。おっと。何か勝手に動き始めましたね」

#ナレーション

おそらくアプリケーションが動き始めているのだろう。第3ステージという文字が浮かんでいる。少しして合言葉をカタカナで入れてくださいというウインドウがでる。

#ナレーション

ちなみにモニター影の人はまたピクッと動いた。勝手に動くものなど無い。動くようにしているから動いたんだと言いたいのだろうか。本格的にめんどくさい人だ。そう思っているのかはしらないが。

#ナレーション

合言葉を打ち込むと人物名を答えてくださいという文字と共に6人の画像が出てくる。画像をクリックしてからその人物の名前を打ち込めばいいらしい。後は右下に人物入れ替えと書かれたボタンがある。2分ごとに押せるようだ。

#ナカミチ

「一気にクイズらしくなりましたね」

#ともみ

「ホントですね。ええと。左4人はわかるんですが」

#ナレーション

その4人は歴史上の人物だろうか。白黒の写真や人物画である右2つは現代の人らしい恰好でカラー写真だ。歴史に残るかはまだわからない。

#ナカミチ

「たしか右から2人目の人は海外の歌手ですね。うろ覚えですがフルネームはネットで調べてみます。一番右はたしか俳優さんだったはずです。出ている映画の名前はわかるのでそこから調べてみます」

#ともみ

「わかりました。こちらは今わかっている人物の名前を書いて行きます」

#ナレーション

順調のようだ。ともみさんがカタカタと打ち込む。ナカミチ君はスマートフォンをいじっている。遊んでいる訳ではない。情報の海へダイブしているのだ。遊んではいない。

#ナレーション

その後時間が空いたともみさんは映画の名前をナカミチ君から聞き、調べてくれたようである。しかしナカミチ君のお手柄であることに変わりはない。そうしておこう。

#ナレーション

全て打ち込んだ後にしたの判定ボタンをクリックする。判定中の文字と共にその下でドット風の絵が動いている。パソコンの機械が靴を履いて右や左へ調べ物をしながら動いているような感じである。

#ナレーション

そして再度出てくる人物の画像。上に高らかと2問目、と書かれている。

#ともみ

「2問目?」

#ナレーション

もう1問追加だった。つまり後6人。もしかしたら後ろにまだ控えているかもしれない。

#ナカミチ

「3人わかりますけど……。」

#ナレーション

さっきより1人増えた。しかしわかっているところが互いに被らない事が重要なのである。意外と友人同士だと被るものなのかもしれない。単純に見えたがやはりやっかいな問題である。

#ともみ

「大丈夫です。今度は全員わかります」

#ナレーション

本物は隙がない。小細工が通用する者ではなかった。カタカタと打ち込んで行く。

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

半分わかったのだからすごいと思う。うん。

#ナレーション

もう一度判定ボタンを押す。心なしか判定中の下で動き回っているパソコンの絵が早く動いているような気がするナカミチ君。

#ナカミチ

「もう1問ありますかね?」

#ともみ

「1つでもわからないと2分のペナルティがあるようなものですからね。このあたりで終わってほしいとは思いますが……。」

#ナレーション

と言っているときらびやかにステージクリアの文字が出る。

#ともみ

「ふふっ。順調ですね。次の方もまだ来ていませんし」

#ナレーション

たしかに後続が来ていない。独走状態という奴だろうか。

#ナカミチ

「あ、次がラストステージのようです」

#ナレーション

画面に地図が出ている。次の指定場所に丸がつけられ、ラストステージと鮮やかな色文字で書かれていた。合言葉はエンターテイナーとこれもまた地図にきらびやかに書きこまれていた。

#ナレーション

一応写真に撮っておきましょう。と、ともみさんがスマートフォンを画面に向けて写真を撮る。

#ナカミチ

「じゃあ画面を消していきましょうか」

#ともみ

「そうですね」

#ナレーション

パソコンのウインドウを閉じ、パソコン自体も閉じる。結局2位以下のグループとは合わなかった。

 

 

#ナカミチ

「これ2位以下のステージ場所は俺達のと違う場所とかだったりしませんかね……。」

#ともみ

「さ、さすがにあれだけの場所を用意していてそれは無いと思いますよ」

#ナレーション

大きくリードしているはずだが拭えぬ不安。実際にはそんな事は無い。2位以下は今ごろ必死に第3ステージに向かっている。走って向かったりはしていない。

#ともみ

「しかしこれまでのルートを見ると簡単にではありますがキャンパスを、この大学の敷地をひとまわりしていますね。在校生以外にも学校を知ってもらうにも良いルートです」

#ナレーション

そこまで考えてのルートかはわからない。しかしそうだといいなとふとナカミチ君は思うぐらいであった。

#ナカミチ

「めずらしいところはともみさんに教えていただいたりできましたからね。非常に楽しかったです」

#ナレーション

描写はされていないがそういうこともあった。大学の名所を横切ったときにともみさんはナカミチ君に説明していたりということがあった。あったといえばあったのだ。

#ともみ

「おや、まだ終わっていませんよ。それにこの後も皆さんでまだ回る予定ですしね」

#ナレーション

ありがたい限りである。

#ナカミチ

「全員で回るこの後はあわただしい限りになると思いますが。……それで先ほどの話の続きですが」

#ともみ

「ええ。最後に1つ。なぜあの対抗戦で、集まったのか」

#ともみ

「先ほどナカミチさんもおっしゃいましたが、双方の残り人数確認は必要ないんです。なぜなら運営側からアナウンスが入るためです」

#ナカミチ

「……確かに流れていました。しかも俺達が人数確認をしたすぐ後に」

#ともみ

「あのアナウンスは双方のチームが10名という人数を切ると流れるものです」

#ともみ

「本来の意図は最終盤に互いの人数が少なくなるとお互いに広いフィールドで出合わなくなる可能性があるため、劣勢のチームに逆転を狙った積極的なゲームを促すためのものですが……。」

#ナカミチ

「そのアナウンスがあるのになぜ人数確認を行ったのか、ですか」

#ともみ

「そうです」

#ナカミチ

「……。たしか、たしか風紀さんの作戦に入っていました。中盤時に人数の把握をしておくべきだと」

#ともみ

「それに対して批判的な意見はありましたか?」

#ナカミチ

「はい。そもそも風紀さんが懸念していたのを覚えています。そのため集合時間を区切っていました。……風紀さんが」

#ともみ

「となるとあの作戦は全て風紀さんのもとで監修されたんですね」

#ナカミチ

「……全員の賛成で可決されたものです」

#ともみ

「……そうなると全員の責任ですか」

#ナレーション

そういうことである。全員で考えて決めると、その様に決めたのだから。風紀さんもよくわかっているはずである。

#ナカミチ

「本来は全チームの再編成も行われるはずでした。敵の乱入があったのでうまくいきませんでしたが」

#ともみ

「……。それでもやはり人数確認が前提なんですね」

#ナカミチ

「……。そうだと思います」

#ともみ

「ナカミチさん。風紀さんはあの集合が必須だと考えていたはずです」

#ナカミチ

「……。」

#ともみ

「なぜ?普通逆なんですよ。チームの再編成を行えば後半戦が楽に進む。だから集まろう。なんです。そのついでに人数確認をする。それなら普通の作戦ミスです」

#ナカミチ

「きついですね」

#ともみ

「もし次の魔道祭でこの作戦を行うのなら良いでしょう。去年のあなた方の戦法を見て、相手も同じ戦法をとって来る可能性を考えた上で、アレンジで対応するのならいい事です」

#ともみ

「ですがこの戦略が行われたのは1回目。変わった事はせず、基本に則って一番効果のある方法で良かったんです」

#ともみ

「話を戻しますが普通はチームの再編をしようという思惑が先なんです。しかし集まるという行為が先に来ている。そして人数確認が思惑の位置にありチームの再編成がついでのように存在している」

#ナカミチ

「……わかりませんね」

#ともみ

「本当に?」

#ナカミチ

「……。」

#ともみ

「私はナカミチさんならわかると思って話しています。風紀さんはどうしても途中で皆さんを集める必要があったんです」

#ナカミチ

「……(風紀さん)。」

#―――

ごめんなさい。ごめんなさいナカミチ君…………。

#ナレーション

彼がいつだって風紀さんの事で思い出すのはあの日の言葉。つらそうに謝って来たあの日のかお。どれだけ日々を重ねても。その悲しそうなかおがいつも浮かぶ。

#ナカミチ

「ともみさんが考えている事は多分あっていると思います」

#ともみ

「……まだ理由について何も話してはいませんよ」

#ナカミチ

「いえ。その理由は話す必要がありません。なんとかします」

#ともみ

「1人で?」

#ナカミチ

「そうです」

#ともみ

「無理です。無理なものは無理です。どうしたいのかもどうすればいいのかも決まってないのでしょう。なんともなりませんよ。なんにもなりません」

#ともみ

「ナカミチさん。あなたが歩んでいる道は苦難の道などではありません。楽な方へ流れてしまっています。なにもしないでいるだけなんですよ」

#ナカミチ

「でも……。それでも……。」

#ナカミチ

「全員クラスメイトなんです」

#ともみ

「……まったく答えになっていません。私がナカミチさんのクラスに何か問題があるんじゃないかと感じたのはあなた方が1年生の時に起きた発火です」

#ナカミチ

「体育祭の時にはもうそう感じていたんですか」

#ともみ

「偶然です。あの発火が魔道機械の誤作動、故障による機械的な発火なのかそれとも魔道機械による恣意的な魔法的な発火だったのかとふと疑問がわいた事でした」

#ともみ

「……残念ですが疑念は正しかったようです」

#ともみ

「……いつか同じ様な事をナカミチさんに聞いた気がします。ナカミチさん、」

#ともみ

「私はそんなことにこのみを巻き込ませるつもりはありません」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

答え自体は単純である。彼はその実まだ何も認めてなどいない。やっぱりともみさんの考えは間違っています。考え過ぎですよ。と言えば追及できない。しかしそこに誠実さは欠片もない。

#ナカミチ

「ともみさんは俺に先に話をしてくれました。本来なら先にこのみに話をしても良いのに」

#ナカミチ

「ともみさんの懸念はあっています。風紀さんはまたおかしなことが起こってしまうのが怖かったんでしょう。だからなにもおかしなことが起こっていないか途中で確認したかったんでしょう」

#ともみ

「ナカミチさんはどこまで知っているんですか」

#ナカミチ

「全部です。誰がやったのかまで」

#ともみ

「……。」

#ナカミチ

「ともみさん。この問題はうちのクラスの問題です。それにおかしなことはもう起きないはずです」

#ナレーション

少なくとも彼はそう聞いた。もうじゃましたりしないと。

#ともみ

「だから私に見て見ぬふりをしてほしい、と?」

#ナカミチ

「それを認めるわけじゃないんです。でもなんで起きて、なんで起こしてしまったのか理解できないわけじゃないんです」

#ナレーション

知っているからこそくだせない判断というものだろうか。ともみさんは少し考えるような姿を見せる。

#ともみ

「このみはどこまで知っているんです」

#ナカミチ

「何が起こったのかまでは」

#ナレーション

結局彼はこのみちゃんに誰かが引き起こしたものだという事までは教えなかった。伝えたくなかった。

#ともみ

「まぁ……、そこまで知っているならもう良いでしょう」

#ナカミチ

「え?」

#ナレーション

引き下がってくれた。

#ナカミチ

「いいんですか?」

#ナレーション

あれもこれもともみさんにとって大事なことのはずだ。

#ともみ

「いいんですよ。あの日におきた罪に対する罰はあなたたち全員で支払ったんですから」

#ともみ

「このみが巻き込まれるのは不安です」

#ともみ

「それでも私はこのみにあなたたちのクラスに、学校へ行って欲しいと思ったんですよ」

#ナカミチ

「ともみさん……。」

#ともみ

「私は意外とスパルタですから」

#ナレーション

そこは意外じゃないですけど、とナカミチ君は思う。もちろんこちらも同じ意見。

#ナカミチ

「すみません、ともみさん。黙っておいてもらって」

#ナレーション

見て見ぬふりをさせてしまった。それはきっと彼女にとって大きな決断だっただろう。

#ともみ

「……ん?」

#ナカミチ

「……ん?とは?」

#ともみ

「私はまだ疑念も懸念も言ってませんよ。疑問がわいてただけです。確信していた疑念も違う気がしますし。きっとナカミチさんが何か考え過ぎていただけでしょう」

#ナレーション

見て見ぬふりというより知らぬ存ぜぬである。大きな決断を下せる人である。

#ともみ

「ナカミチさんが私の考えをせかすものですから想定よりも深く聞いてしまって。ふふふ」

#ナレーション

にこにこしている。うれしそうだ。

#ナカミチ

「えぇと。いいんですか?」

#ともみ

「いいもなにも、私はなにも口に出していません」

#ともみ

「いいですか、ナカミチさん。あなたの罪は未だ払われていません。それでもあなたがした事はどうしようもない無理を通そうとして未だに続いています」

#ともみ

「なにもできないまま続いている今の状態というのは自分にとって、そして誰かにとって、もしかしたら全員にとって楽な道なのかもしれません。幸せなのかもしれません」

#ナカミチ

「違います。……それは違うんです」

#ともみ

「ええ、知っていますよ。だってナカミチさんは口に出しましたもの。なんとかします、って」

#ナカミチ

「……。」

#ともみ

「私は口に出していませんから何も知りません。という事にします。だからこそナカミチさんは口に出した事は守ってくださいね?」

#ナカミチ

「なんだかこのみと話してる感じがします」

#ともみ

「前にも言った気がしますが姉ですし」

#ナレーション

姉が妹に似てきたのか妹が姉の影響を受けて育ったのか。知れば知る程に仲のいい姉妹なのだと思うナカミチ君。同時にましろとみしろもうかうかしてられないとよくわからない事を思った。

#ナカミチ

「なんだかイメージが変わりました」

#ナレーション

いい方向にと付け加えないとはいい根性である。

#ともみ

「あだ名が正道で王道の正統派生徒会長でしたからね」

#ナレーション

正道、王道、正統派、いつのまにか呼び名が混ざっている。そして聞いた事のない称号がある。いつ増えたのか知る由もない。

#ナカミチ

「その呼び名あんまり好きではなかったように思うんですが」

#ともみ

「……呼ばれなくなった今となって、いや、今になってわりと気に入っています」

#ナカミチ

「考えた奴が知ったらよろこびますよ」

#ナレーション

大喜びだろう。

#ともみ

「実は正統派とか王道とか評価してもらえるような生徒会長ではないんですけどね。ナカミチさん、高校にある靴箱わりと新しいでしょう?」

#ナレーション

急に話が変わって驚くナカミチ君。

#ナカミチ

「え?うちの学校のですか?ええ。たしかともみさんが資金を募って鍵つきの靴箱に入れ替えたと伺っていますが」

#ともみ

「そこまで知ってらっしゃったんですね。いや、ますます恥ずかしい話なんですが……。」

#ナレーション

言いにくい事なのだろう。

#ともみ

「今時靴箱に鍵がついてないのもどうなのかと思いまして議題にあげたんです。それまでは鍵の無い扉付きの靴箱だったんですがそれを変えるとなると当然予算の話になりまして」

#ともみ

「それでバザーをしようという事で魔道祭の日に生徒会としてすることもありませんでしたし、その日に合わせてバザーを行ったんです。事前に生徒と保護者の方々から不要物を募らせていただいて」

#ナカミチ

「それはすごい事だと思いますけど……。」

#ともみ

「それでまぁやりすぎてしまいまして」

#ナカミチ

「はぁ。やりすぎですか?」

#ナレーション

一杯お金が集まったのだろうか。

#ともみ

「お金が集まって国から学校への支援金が一部打ち切られました」

#ナカミチ

「……よくわからないんですが」

#ナレーション

わからないなら考えたらいいとおもう。待ってれば教えてもらえるので考えるつもりはないが。

#ともみ

「学校に集金能力があると判断されて支援する必要はないと判断されたそうです。お金の話って噂がたちやすいですからね。どこかから漏れたんでしょう。ある日私の耳にふと入って来た時は引きつりましたよ。心が」

#ナレーション

笑えない。

#ナカミチ

「えーと。で、どうなったんですか?」

#ともみ

「いや、どうにもなりませんでした。いち生徒の考えでやった結果が数年単位の援助打ち切りです」

#ナカミチ

「あの。聞いていいんですかその話」

#ナレーション

むしろ知らないままの方がいい話だろう。

#ともみ

「いいですよ。むしろ知ってもらえたらと思って話しているんですから。当然このみすら知らない話ですけど。話すの恥ずかしいですから」

#ナカミチ

「なんでそんな話聞かされているんでしょうか……。」

#ともみ

「なんでしたっけ。せっかくですから?」

#ナカミチ

「それ別に決め言葉でも特別な言葉でもないんですが……。」

#ナレーション

普通に使われているから特許とかないし別にかまわないだろう。ナカミチ君にとめる権利は無かった。こうなると配慮を求めるしかない。

#ともみ

「しかも噂でしかありませんからちゃんと知っている人も少ないでしょうね」

#ナレーション

さらに希少性が増した。レアリティが倍率で跳ね上がりさらに倍のような気持ちだろう。価値がどんどん上がって行く。

#ともみ

「でも最後には普通に許していただけました」

#ナカミチ

「許してもらえたんですか」

#ナレーション

許してもらえなかったら生徒会長の座は降りていただろう。そりゃそうである。というよりもバザーをする時点で止めなかったのだから学校側の責任だ。ともみさんはそう思いきれなかったのかもしれないが。

#ともみ

「校長先生に時間を取っていただいて謝りに行ったんです。そしたら君のせいではないし君が動かなかったら靴箱が変わる事は無かったでしょう。と言っていただきました」

#ナカミチ

「やった事は間違いじゃなかったんですね」

#ともみ

「いや、間違いではあったと思いますよ」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

ナカミチ君のフォロー0点。ともみさんは今でも戒めていらっしゃるのだろう。後悔ではなく経験として。えらい。つよい。すごい。

#ともみ

「学校が予算をつけたら靴箱にお金が回る事は無かったのでしょうし。設置された靴箱を見て納得する事にしました。必要だと思ってやったんだから、と」

#ともみ

「それにとってもユニークに靴箱を使ってくださっているクラスもいますしね。始めてみた時はそれはもう驚きました。つい笑ってしまって。ようやく救われたというか憑きものが落ちました」

#ナカミチ

「あー。それは、その、よかったです」

#ナレーション

それはそれはもう毎日のようにユニークな事が靴箱前でおこっているらしい。とりあえず褒められたようだ。よかったな。

#ともみ

「まぁ、そんなとんでもない生徒会長から最後に助言を」

#ともみ

「知っているかもしれませんが誰かの側に立つというのは誰かと対立するという事です。それを拒むなら誰の傍に立つこともできません」

#ともみ

「ナカミチさん気をつけてください。誰の側にもつかなかったら最後に孤立してしまいます。だからせめて誠実であり続けてください。最後にあなたが孤立しないように」

#ともみ

「そしていつか全ての清算をしないといけない時。きっと罪を最後までしっかり見つめる人はいますから。その時は本当になんとかしないといけないですからね」

#ナレーション

いつか来るだろうその日は彼にとってどんな1日になるのだろうか。

#ナカミチ

「今日はその予行演習ですか」

#ともみ

「いえ、ただのお話ですよ。ちょっと邪魔が入らないようにお話がしたかったのでペアになってみようかなと」

#ナカミチ

「それは俺にとって運が良かったです」

#ナレーション

幸運を束ねて行けるとこまで行くといい。

#ともみ

「興味があったから聞いてきたんだとぐらいに捉えといて下さい。楽しかったですよ。このみが羨ましいです」

#ナレーション

ふと出た羨む言葉にどんな思いがあったのかナカミチ君には計りきれなかった。

 

 

#ナカミチ

「ついにつきましたね」

#ナレーション

約束されし決戦の地である。みんなでここに集まると決めたのだ。おそらく。我ら生まれし日は違えどうんぬん。そんな感じの場である。つまりファイナルステージについた。正確には建物前。

#ナレーション

入り口前にはクイズ案内役と書かれた看板をぶら下げている案内役がいた。

#ともみ

「お決まりのように建物前で待ってくださってますね」

#ナレーション

それ以外にいい連絡方法がないのだろう。地図にでも書いとけばいいと思うがこだわりだろうか。こだわりはどんな時でも持ちたいものだ。臨機応変、柔軟対応はその上であるべきものだ。

#ナレーション

3階の2号室が会場とのことで入る際に合言葉をおっしゃって下さいとのこと。とりあえず建物へ入る。

#ナカミチ

「ちょうどエレベーターきましたね」

#ナレーション

どこかから来て開いて人が出てきて人が入りどこかへ行くものである。クイズ風味の解説。

#ナレーション

ナカミチ君先に入る。エレベーターのエスコートは先に入るのがマナーだとどこかで聞いたんだろう。抜け目ない。階指定のボタンのところに立つ。

#ナカミチ

「どうぞ」

#ナレーション

そこは言わなくていいかもなぁ。

#ともみ

「あぁ、すみませ、」

#

 

#ナレーション

なんか見えた。

#ナカミチ

「……!」

#ナレーション

ともみさんの腕をとり引き寄せる。急いで閉めるのボタンを押す。ところで閉めるのボタンが日本だけだというのはよく聞く話だ。まぁ普通に海外にも大体一応閉じるボタンはついているのだが。

#ともみ

「へっ?」

#ナレーション

引き寄せられるともみさん。迫る2人組。

#ナレーション

扉が、閉まった。

#ナカミチ

「ゾンビ映画みたいだったな……。」

#ナレーション

思わず声に出る。真顔で迫ってくるもんだから余計に怖かった。走れない中全力で距離を詰めてきたのだろう。あれで手でものばされていたら完全にホラーだ。

#ともみ

「あ、あの。ナカミチさん」

#ナレーション

腕の中に収まるともみさん1名。ついに一般受けしそうなギャルゲ主人公みたいな行動を。ナカミチ君も日々成長してくれているようで。意外と人の成長とは見ているだけでうれしいもののようであるなぁ。うんうん。

#ナレーション

まぁエレベーター付近で変な行動は危険だからしないように。

#ナカミチ

「あ」

#ナレーション

あ。ではない。

#ともみ

「あ。ではなく放していただけますか?」

#ナレーション

一筋縄ではいかない。ともみさんには正攻法しか効果がないのではないだろうか。

#ナカミチ

「し、失礼しましたっ」

#ナレーション

とっさに手を広げ、大げさに開放する。この場合離したくないとでもいうのが正攻法なのだろうか。正直わからない。とりあえずナカミチ君の方がともみさんより内心はパニックであろう。

#ともみ

「いきなりなのでびっくりしました」

#ナレーション

そう見えない。今までもともみさんがあわてるのは自分が騒動の起因や原因であることが条件であるようにみえる。もっとも本当の原因はこのみちゃんかもしれないが、その辺りは家庭の事情というやつだろうか。

#ともみ

「とにかく私も見えました。2人とも来ていましたね。そんなに距離を詰められていたとは」

#ナレーション

最後に見たのは第2ステージクリア時である。パソコンに映っていた。その時にはまだクイズ待ちだったはずだ。もっともあの第2ステージでクイズと呼ぶような事をやっていたのかは微妙だが。

#ナカミチ

「第3ステージも俺達はスムーズに通過しましたしね……。」

#ナレーション

わからなかったが扉は開いた3階である。出る。ステージ会場を探す。

#ふうき

「ひぃ。ひぃ。げっほ」

#ナレーション

探しているとエレベーターの横側に併設されている階段から疲労困ぱいのゾンビが1つ。

#このみ

「うえぇ……。げほっ」

#ナレーション

2つ。

#ふうき

「ふひひ。主役は遅れてやってくるんだよ……。げっほ!」

#ナカミチ

「とりあえずまず水でも飲んだらどうだ」

#このみ

「お、お茶しか持ってないんですよねー……。残念でしたねー」

#ともみ

「行きましょうかナカミチさん」

#ナカミチ

「そうですね」

#ふうき

「あぁ!まってまって!待ってください!別にもう抜こうと思ってませんから!」

#このみ

「ここからだと走るしか抜く方法がありませんからね。禁止されている以上ファイナルステージでの巻き返ししかありません。というか階段をゆっくりとはいえ3段飛ばしでのぼってもう体力が0に近いですし」

#ナカミチ

「だとしても待つ必要がないからなぁ」

#ともみ

「ですね。行きましょうか」

#ふうき

「ひ、ひどい!共に決勝を夢見た仲間なのに!このかっこつけ!すけこまし!なに抱きしめてるの!ひとたらし!」

#ナレーション

決戦前の場ですら非情の地である。勝負とはこれほどまでに残酷だというのだろうか。どちらの方が非情なのかは判断がつきにくいが。

#ナカミチ

「その言葉で待つ気は起きないなぁ」

#ナレーション

これで起きたらこわい。が、勝負じゃなかったらきっと待つのがナカミチ君だろう。

#このみ

「というかお姉ちゃんもお姉ちゃんです!なんですか!ミステリアスな方がいいでしょう?って!私おどろきましたよ!」

#ともみ

「な、なんでこのみが知ってるんですかぁぁ!」

#ナレーション

なぜ知っているのか。謎は深まるばかり。一応ミステリ(推理小説)ではないと弁明を表す。自称純文学であるから。自称。今なら現代でも可。現代純文学。とにかく今後理由が語られなくても少なくともナレーションの責任ではないので。

#このみ

「なぜって配信されてるの見てましたし」

#ともみ

「配信……?あっ!」

#ナカミチ

「そういえばその話のすぐ後にインタビューされましたね」

#ナレーション

その前からカメラは回っていたと考えるのが自然だ。音声も拾われていたのだろう。

#ともみ

「ぜ、全世界に……。」

#ナレーション

痛恨のミス。

#ナカミチ

「ぜ、全世界はいいすぎでは」

#ナレーション

言いすぎだといいが。どうなるのかわからないようでわかりやすいようで結局どうにもならないのが人の動き。

#ともみ

「そ、そうですね。そう思っておきましょう」

#ナレーション

それが一番いい。歩き出す2人。

#ふうき

「うう……。薄情だよー。ごほっ。あぁ、目がかすんできたような気がしないでも……。あぁこのみちゃんどこにいるのー」

#このみ

「ふ、風紀さん。私も今はわりときついんで……。」

#ナレーション

聴こえる声を背に歩く2人。向かうは目的地。幾多の犠牲を越えて進む姿である。

#ともみ

「ここですね」

#ナレーション

扉を開ける。いざ。終着点へ。だが入り口には司会者の1人が立ちはだかっている。穏便に行くかそれとも穏便に行くか。

#司会者1

「お待ちしておりましたー。合言葉を……。おや?2組も来られていますね」

#ナレーション

後ろには当然風紀さんとこのみちゃんが。よろよろと。

#司会者1

「2組とも第3ステージを通過しているのは確認しておりますが一応ルールなので。合言葉を半分づつ答えてください」

#ナレーション

合言葉を半分づつとはどういうことだろうか。

#ともみ

「エンター」

#ふうき

「テイナー」

#ナレーション

理解力が早いようで何よりである。部屋にどうぞと通される。部屋にはもう一人の司会と運営スタッフが数名。おそらく残存戦力が全て注ぎ込まれている。ひとつ前はワンオペだったが。

#司会者1

「皆さま!ついに最終戦!最終盤!なんと2つのチームがほぼ同時に到着されました!」

#司会者2

「司会としては複数で競い合っていただける方が盛り上がるので大変うれしい限りです」

#ナレーション

司会者からこちらへ。と黄色や赤、青といった色で塗り分けられた各回答席へ案内される。立った状態で腰の位置まで高さのある机にタブレット端末が置かれ、机の側面を色のついた板で囲っているようだ。前から足が見えない。

#ナレーション

で、その板だが前から見ると色鮮やかだが後ろは段ボールそのままだった。みかんとか書かれている。ナカミチ君達の回答席は黄色なので裏もだいぶ黄色と言えば黄色ではある。オレンジ色ではないところにこだわりがあるのかもしれない。

#このみ

「なぜみかん……?」

#ナレーション

横の回答席はピンク色である。こだわりもへったくれもなかった。

#司会者1

「さて、長きにわたるクイズ大会にもついに終わりが近づいてまいりました」

#司会者2

「1時間ぐらいですけどね。この時間をもちまして参加者への人気投票を打ち切らせていただきます。たくさんの投票ありがとうございました」

#ナレーション

たくさん投票されたようである。集計側の発表であり本気にしてはいけない。

#ともみ

「たくさん……。」

#ナレーション

見られていたようである。そりゃあもうあの発言もたくさんに見られていた可能性がある。

#司会者1

「さて、それではいよいよ最終問題ですが!とりあえずルール説明から!」

#司会者2

「はい。最後のクイズは最終ステージにご到着されたチーム順に回答していただきます」

#司会者1

「回答制限時間は1分!到着されているチームが全員回答された場合再度1位から回答権が回ってきます!」

#司会者2

「たとえば2組目の方が回答中に3組目が到着された場合、次の回答権はその3組目が持つことになります。到着したチームはその時の回答が終わった時点で入場していただきます」

#司会者1

「最初の正解者が出た時点でそのチームを最優秀チーム。つまり優勝者といたします!」

#司会者2

「なおその時に最終ステージにおられる方は自動的にクリアーとなります。そしてその後到着されるチームにつきましても同じ問題が出ます」

#司会者1

「答えを知るために配信にかじりつくもよし、先に進むのもよし。でーすーがー、歩きながらのスマートフォン等は大変危険ですのでご遠慮ください!」

#司会者2

「……それではおまたせいたしました!最終問題です!」

#ナレーション

お決まりのような、ででん。というSEが響く。最後であるからだろうか音響設備もばっちりのようである。ナカミチ君も緊張気味だ。

#ふうき

「わくわく」

#このみ

「どきどき」

#ナレーション

緊張感はどこかへ行った。

#司会者1

「……今大会の人気投票で1位になった方の参加者ナンバーをお答えください!!」

#ナカミチ

「……はい?」

#ナレーション

机の上にあったタブレット端末が動き出す。映し出された画面には大会中に放送されていた場面からピックアップされたのであろう様々な角度からではあったが各個人の顔写真とその下に番号が割り振られていた。

#このみ

「なるほど新しいですねー」

#ふうき

「……趣味が良いのか悪いのか」

#ナレーション

風紀さんがそういうとはよっぽどである。

#ともみ

「……私たち自身が問題で答えになってしまったというわけですか」

#司会者2

「そのとおりです!素晴らしい!私たちのクイズを理解していただけている事は大変喜ばしい!問題回答時間を今からスタートにいたしましょう!」

#ナレーション

感極まっている。最後の盛り上げどころだからであろうテンションも上がり気味だ。

#司会者1

「……結局、一番の常識人は私なんだよなー。……じゃなくて!回答は画面右上の表示されている回答と書かれたボタンを押した後に口答にてお願いいたします!」

#ナレーション

司会者側からぼやきが聞こえた気がする。

#ナカミチ

「……どうしましょう」

#ともみ

「どうしましょうではありませんよ。クイズは答える以外ないんですから。しかし……。」

#ふうき

「クイズである以上答えには一定以上の理屈があるべきですよね」

#ナカミチ

「……。」

#ともみ

「……。」

#ふうき

「ん?」

#ナレーション

横から口を挟まれた。

#司会者1

「残り約30秒です!ちなみに回答時間を超えた場合は強制的に回答していただきます!」

#司会者2

「その際は数秒以内で回答願います」

#ナカミチ

「し、しまった!」

#ナレーション

風紀さんにより思考が止められていた。

#ともみ

「き、禁止されていない以上今の行為はセーフなんですね……。ではなく!ええと、普通に考えるなら1位の私たちに票が集まるはずです」

#ナレーション

トップを走って来たという意味だろう。

#このみ

「ですよねー。注目されている人に票が集まるはずですもんねー」

#ふうき

「そこは違うというように誘導してほしかったなー」

#このみ

「あれ?」

#ナレーション

さっそく仲間割れ、伝達不足、付け焼刃、もろ刃。

#ナカミチ

「じゃあともみさんですね」

#ともみ

「ですね、じゃないですよ」

#ナレーション

まぁ理屈上ならそうだろう。ナカミチ君の可能性?ない。

#司会者1

「さぁ!後15秒です!そろそろ意見をまとめてはいかがでしょうか!」

#司会者2

「そこまでアドバイスしていいんですか?」

#司会者1

「まぁ最初の回答者ですからこのぐらいは」

#ともみ

「……わかりました。でも私が答えるのは流石に嫌という気持ちがあります」

#ナレーション

私が一番人気者!など言おうものならこのご時世、笑い物にしようとされる。世知辛い。そのための2人参加という配慮なのかもしれない。

#ナカミチ

「じゃあ俺が、」

#司会者1

「時間です!お2人で元気良くお答えください!」

#ナレーション

世の中は世知辛く、そしてたくましい。

#ともみ

「……。」

#司会者2

「さぁ!」

#ナレーション

盛り上げる事が一番大事なのだ。司会者として正しい姿。参加者の態度が求められる。やはり世知辛いとしか言えない。

#ナカミチ

「ともみさん……?」

#ともみ

「わかりました。わかりましたよ。ここまで来たんですから1位を取りたいですし」

#ナレーション

たくましく生きる。

#司会者1

「ではどうぞ!」

#ともみ&ナカミチ

11番!」

#司会者1&

「残念!!」

#ナレーション

ともみさん机に伏せる。

#ふうき

「うわぁ。えげつな」

#ナレーション

もっともなご意見。

#このみ

「ええ?!お姉ちゃんじゃないんですか!?」

#ナレーション

もっともなご意見。

#ナカミチ

「と、ともみさん大丈夫ですか?」

#ナレーション

ご意見ですらない。

#司会者1

「初めから感じてはいたんですが両チームともお知合いなんでしょうか?」

#このみ

「え?ええ、そうです。今突っ伏しているのが姉さんでその腰巾着は学友です」

#ナカミチ

「だれが腰巾着だ」

#ともみ

「このみぃ……。」

#ナレーション

怒っていらっしゃる。

#このみ

「こ、このへんにしておきましょう。ナカミチ君命拾いしましたね」

#ナカミチ

「なんでいつももう一歩を踏みこむんだ」

#ナレーション

捨て台詞ともいう。

#司会者2

「お2人。姉妹そろって射撃が上手な印象を持ちましたが。なにかやってらっしゃったのですか?」

#このみ

「あ、そうです。それも思い出しました。姉さんあんなに上手なの初めて知ったんですけど。なんですかあれ。知らない一面が2個も3個も出てきて、」

#ふうき

「このみちゃん、このみちゃん」

#このみ

「ん?何でしょうか、風紀さん?」

#ふうき

「時間稼がれてるよ。これ」

#このみ

「へ?時間?」

#ナレーション

別名、尺のばし。誰が稼いでいるというのか。

#司会者1

「おっと。質問にうつる前に1つ。今回の最終ステージ間でもそうなのですが、ステージからステージの移動が全ていらっしゃるのがとても早かったように把握しています。どのように来られたのでしょうか」

#司会者2

「移動時に走っているのではないかとコメントがいくつか届いてまして。疑惑をもたれたまま進めるのも良いものではありません。こちらではそうではなかったと確認できているのでただお答えいただければ大丈夫です」

#ともみ

「……たしかにどうしてあそこまで距離が詰められたのかがわかりません」

#ナカミチ

「そうですね」

#ナレーション

いま。謎が。解き明かされる。おおげさにいうとそれに見合ったカラクリでないとたたかれる。

#ふうき

「いやー、たくさん興味をいただいているようでー。単純な事です。校舎内やら細道やらを突っ切って行きました。目的地まで直線距離で向かったんです」

#このみ

「さすがでしたねー。校舎の裏口から、この人ごみの中まったく人がいない道まで、よく知っているもんです」

#ふうき

「戦う前に地理を頭に入れておくのは基本だからね」

#ナレーション

ただの地理だった。こんなギミックではたたかれそうだ。いや、ナレーションをたたかれても困る。

#ナカミチ

「地理……?」

#ナレーション

よくまぁそんな事を知っているものだという感想だろう。

#ふうき

「……ま、戦いは始まる前から始まっているというわけ。それにいつだって物事の基本はフィールドワークだよ」

#ナカミチ

「……あ」

#ナレーション

今日の朝、一番遅れてきた風紀さんを思い出す。

#ナカミチ

「……ちょっと早く着いただけなんじゃなかったのか?」

#ふうき

「ちょっとはちょっとだよナカミチ君」

#ナレーション

なぜ信じてあげないのか。女の子のいうことぐらい信じてあげればどうだろう。

#ふうき

「まぁ迷ったのはホントでかなり焦ったんだけどね……。」

#ナレーション

嘘をいう時はホントの事を混ぜるとばれにくいとかいうやつだろうか。意識して言ったのか疲れて漏れ出た心の声かは判断がつかないが。

#ともみ

「……。すみません、ナカミチさん」

#ナレーション

ともみさん苦い顔。在学中の身としては地理で後れを取りたくは無かっただろう。そしてその状況が生まれたのは勝負以外の事を考えていたからだろうか。

#ナカミチ

「大丈夫です。次、答えて優勝しましょう」

#ナレーション

敗因にしてはいけない。そう思うナカミチ君。しかし未だ答えわからず。無力は罪か。

#ふうき

「うーん。残念だけど次ではないだろうね」

#このみ

「ここで決めてしまいますからね。あっはっは。残念でしたね」

#ふうき

「いや。そういうことじゃなくてね、このみちゃん」

#このみ

「え?」

#司会者1

「おっと!ここで新たなチームが到着したようです!」

#司会者2

「これでまさにみつどもえ!勝負はわからなくなってきました!」

#ふうき

「……。ほらね?」

#ともみ

「確かに盛り上がるでしょうね」

#ナレーション

盛り上がりは作るものだった。それも司会の腕だと言えばそうだ。

#司会者1

「ではまだ回答も始まっていないですし入場を、」

#ふうき

「させるかー」

#ナレーション

単調な口調で手元のタブレット端末を操作する風紀さん。

#

ぽーん。

#ナレーション

どこか気の抜けそうなクイズ独特な回答音が鳴る。

#ふうき

「このみちゃんはどう思う?」

#このみ

「正直姉さんだと思ってたのでそれ以外となると……。正直わかっていません」

#ナレーション

流れるように考えだす2人。内心考え続けてはいたのだろう。

#司会者1

「回答ボタンを押した以上答えていただきましょうか」

#司会者2

「あと10秒以内でどうぞ。新チームの入場はその後にいたしましょう」

#ナレーション

実質10秒与えられた。

#ふうき

「私はともみさんが違う理由はわかったんだけど、だからと言ってじゃあ誰かっていうと分からない……。」

#このみ

「ナカミチ君ですかね?」

#ナレーション

先ほども言ったが違うと言っておこう。

#ふうき

「それも違うと思う。理由はともみさんと一緒なんだけど」

#このみ

「となると私たち?」

#ふうき

「そう考えるのが順当なんだけ、」

#司会者1&

「回答をどうぞ!」

#このみ

「ぐぅっ!わ、私で!」

#ふうき

「そういうとこすごいよね。自己犠牲だと思っているけど、じゃなくて!12番!」

#司会者1&

「残念!」

#司会者1

12番さんではありませんでしたー」

#このみ

「ぐおぉ……!」

#ナレーション

机に突っ伏すこのみちゃん。大ダメージである。いつもの自爆といえばそれまで。風紀さんいわく自己犠牲。姉妹そろってご苦労様としか言えない。

#ふうき

「違うのか……。」

#ナレーション

意外らしい。

#ともみ

「違うんですか……。」

#ナレーション

そう思っていたらしい。

#このみ

「うぬー……。」

#ナレーション

立ち直るのに時間がかかりそうだ。

#ナカミチ

「ほ、ほら、2人ともそう思ってくれているらしいから」

#このみ

「……。」

#ふうき

「ナカミチ君はそう思ってなかったみたいだね」

#ナレーション

2人と言っていたしそうなんだろう。

#このみ

「ナカミチ君がいじめてきますー」

#ナレーション

突っ伏しながら非難してくる。ナカミチ君横からの強烈な視線を感じる。ともみさんからの圧力だ。

#ナカミチ

「お、俺もともみさんじゃないならこのみだと思っていたぞ」

#ナレーション

本当だろうか。

#このみ

「要するに私は2番目の女だっていってるんですね」

#ナレーション

復活。タイミングを狙っていたかもしれない。

#ふうき

「さいてー」

#司会者1

「面白い人たちですねー。司会としてはありがたい話ですが」

#司会者2

「一応言っておきますが放送されてますからね」

#ナレーション

身内のノリ、全国一斉配信中である。

#司会者1

「さて!お伝えしていました通り次のチームが到着しております!」

#司会者2

「はい。なんと双子さんだという事です。司会もクイズ中に見かけていましたが本当にそっくりですよ」

#ふうき

「双子かー。どんな人たちだろうねー」

#このみ

「そっくりさんですって。たのしみですねー」

#ナレーション

思い浮かぶのは1組しかいなかった。

#ともみ

「おもっていたんですけど皆さん優秀ですよね」

#ナカミチ

「……。ましろとみしろだと思いますけど、違う気がするんですよね。なぜか」

#ともみ

「え?でも双子さんは他にいなかった気がしますが」

#ナレーション

手元のタブレット端末を見る。たしかに参加者に双子らしき人物は他にいない。

#ナカミチ

「そうなんですけどなにか違和感がずっと……。」

#司会者1

「では入場していただきましょう!」

#ナレーション

撮影が入り口の方向へ向き万全の入場態勢である。普通に2人が入って来た。もちろん予想通りにましろちゃんとみしろちゃんである。

#みしろ

「やっぱりこの2組だったね」

#ましろ

「まぁそうだよね」

#ナレーション

回答席に突っ立っている4人を見ての感想だった。

#このみ

「それはこっちのセリフですよね」

#ふうき

「そうだねー。ほらこっちこっち」

#ナレーション

横の回答席へおいでと言わんばかりの手招きをする。

#司会者1

「案内はこっちがしますから。司会の仕事を取らないでくださいね」

#司会者2

「先の2組はお知り合いどうしという雰囲気が出ていましたが、あなた方もお知合いなんでしょうか?」

#みしろ

「え?あ、はい」

#ましろ

「高校のクラスメイトです」

#司会者1

「え。高校生?全員ですか?」

#ましろ

「あ、いえ。1人卒業されてこちらの大学に在学されている方がいますけど。男性とペアをくんでいる女性の方がそうです」

#司会者1

「あぁ!そうなんですか!いや、すごいですね!3組ともお知り合い!」

#司会者2

「一応大学のメンツが立ってよかったですね」

#司会者1

「あえて流したのにどうしてこの相方は言うんですかねー」

#ナレーション

トップ勢が全員高校生というのは思うところもあるだろう。

#司会者1

「さて、最初の問題を幸運で突破したこのチーム!そこから互いの実力を見事に発揮し、怒涛の追い上げを見せてついに最終問題までたどり着きました!」

#ナレーション

まるで用意していたかのようなセリフが出てきた。実際盛り上がるようなセリフを考えていたのだろう。

#このみ

「幸運?」

#ナカミチ

「あ。違和感はそれか」

#ふうき

「正直不思議には思っていたんだよね」

#ましろ

「……正当な評価ありがとう」

#みしろ

「運も実力だから問題ないね。このまま勝っちゃうから」

#このみ

「?ナカミチ君どういうことです?」

#ナレーション

1人話の内容がよくわかってなさそうである。

#ナカミチ

「なぜ俺に聞く」

#このみ

「なんか失礼な事のようですし、ナカミチ君に任せようと」

#ナカミチ

「……。」

#ともみ

「……つまり、」

#ナカミチ

「いや、俺が言いますから」

#ナレーション

ともみさんに貧乏くじは引かせられなかった。元から選択肢など無かったのだ。どっかの自称ノベルゲームみたいである。

#司会者2

「こちらとしては準備していたものが使えて大満足でした」

#司会者1

「途中から見始めた人もいるでしょうし少し解説を!」

#ましろ

「解説されるのかぁ」

#ナレーション

それが彼らの役目である。とにかくナカミチ君はすんでのところで解説をしなくて良かった。今回は解説役がいるからであろうか。

#ナレーション

ナカミチ君はと言うと説明ができないというのも微妙らしく、何とも言えない顔をしている。解説役としてはわからなくはない。このみちゃんは、ちぇー。と残念そうな顔をしていた。

#司会者1

「最初の問題はわが校の入試問題でした」

#司会者2

「入試ですから特別枠があってしかるべき!そう考えるのはわが校としては当然ですよね」

#ナレーション

なにが当然なのかよくわからない。が、とにかくその特別枠でクリアしたらしい。

#司会者1

「そこで今回用意したのが……、見切り特別枠!」

#司会者2

「わからない問題を早々に切り上げることも重要。そう考えた我々は最初のリタイア宣言をしたチームに合格を得る権利をお渡しする事に決めました!」

#みしろ

「全世界に頭が悪いことが放送された気がする」

#ましろ

「さすがに日本全国でとどまっているはずだけど……。」

#ナレーション

多数の人間が恥を流している。トップを走っているチームであるはずなのだが。生きる事は恥をかくこととかいうやつだろうか。それは嫌だろう。

#このみ

「そんな物があったんですね」

#ましろ

「うん。リタイアしてみんなの活躍を見ようと思ったの。全然わかんなかったし。で、運営の人にリタイアしたいと言ったら、司会者の人が座っていた机の前の板がいきなり外れてね」

#みしろ

「で、その板の後ろからあたりって書かれた板が出て、始め何の事かわかんなかったんだけど特別正解者が出ましたとか言われて。というかみんなよくあんなの解けたよねー」

#ふうき

「いや、解いたというより探したんだけどね、答えを。過去問という事はわかったから」

#このみ

「2人で電子書籍を買ったんですよ」

#ナレーション

いわゆる課金勢とかいうやつだろうか。プレイヤーの対決であるしPv(Player versus Player)系のゲームだ。

#ともみ

「お金まで使ったんですか……。」

#このみ

「大丈夫ですよ。スマートフォンの通信費に上乗せしときましたから」

#ふうき

「うらやましいなー」

#ナレーション

2人で共有ではなく2人とも買ったらしい。うらやましがる風紀さんは通信費を自分で払っているのだろうか。お小遣いから引かれるとかいう残虐非道なシステムかもしれない。

#ともみ

「両親に言っておきますから」

#このみ

「参考書みたいなもんですし大目に見てもらいましょう。はーっはっは」

#ともみ

「……やっぱり帰ったら怒りましょうか」

#ナレーション

このみちゃんはもう開き直っているようである。こうなると厄介かもしれない。

#司会者1

「本気で取り組んでくれたみたいで大変うれしいです」

#司会者2

「楽しんでもらえているようでなによりです。さて、今最終問題が行われていますがルールは待っていただいている間に説明いたしました通りです。問題内容は知っていますでしょうか?」

#ましろ

「え?知りませんけど……。」

#司会者1

「わかりました!ご説明いたましょう!」

#司会者2

「と言いましても単純です。お手元のタブレットに参加者のお写真が映っています今回のクイズと並行しておこなわれていた参加者の人気投票で1位を取った方を写真の下に書かれた参加者番号でお答えください」

#みしろ

「え?そんなことわかるの?」

#司会者1

「制限時間は1分!」

#司会者2

「ではスタート!」

#みしろ

「え?え?姉さんどうしよ?」

#ましろ

「そ、そういわれてもなぁ。どういうことなんだろ」

#ナレーション

これが普通の反応だろう。前2組がこの変な問題に順応しすぎだ。悩む2人。

#ましろ

「うーん」

#ナレーション

こうなってしまうと詰まる。考えるというのはアイデアを出すのに近い。わからない以上悩んでも仕方ないのだ。発想を変えたり目を向けるところを変えたりするのが良い。それで答えられたら苦労しないのではあるが。

#みしろ

「……というかさ」

#ましろ

「……わかるけど。いつもよくしゃべるのにこういう時ばっかり黙るんだからね」

#ふうき

「どきぃ」

#このみ

「ナカミチ君。なんで黙ってるんですか」

#ナカミチ

「俺はあんまりしゃべる方じゃないし」

#ましろ

「……よくいうよ」

#ナカミチ

「ええ?いや、このみや風紀さんがしゃべってくるのを返してるだけだろ?」

#このみ

「おお。よくしゃべりますね。さすが邪魔するのも巧妙です。いやがらせに見せない」

#ナカミチ

「いや、そんなつもりは、」

#司会者1

「後、約30秒です!」

#みしろ

「……戦いになると容赦しないよねナカミチって」

#ましろ

「そんな気はしてる」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

落ち込むナカミチ君。さらにこのみちゃんへ無言で眼圧を強めるともみさん。

#このみ

「やりすぎました。あ、あとでフォローしときますから」

#ナレーション

おとしめたりなぐさめたり大変である。

#ましろ

「ううん。でも2組前にいるって事は2回回答が間違えられたっていうことだよね」

#ナレーション

問題を見る目線が変わった。

#みしろ

「同じ間違いをしたのかな?」

#ましろ

「どうだろ?到着時間が一緒だったら答えを聞いてる気がするけど……。もうこっち見ようともしないから顔から判断もできないし」

#ナレーション

目線をあからさまに合わせない2組。

#みしろ

「顔を見て判断するのすごいよね」

#ましろ

「いや、大体しかわからないし。しかも風紀さんはなぜかあからさまに顔に出すからね」

#ナレーション

目は口ほどに物をいう。されど自分の目はなかなか確認できない。顔をそらす相手の目と同じように。

#司会者1

「後10秒です!」

#ナレーション

残り時間も意識しないと確認できないものである。最近は時計を見につけないし。全てスマートフォンでできる。スマートデバイス万歳。

#ましろ

「とにかく、4人が考えた1番手は違ったの。だとすると、」

#みしろ

「ともみさんではなかったということ?」

#ましろ

「そうだよね。じゃあ2番手は?と言うことになるんだけど……。」

#ナレーション

早口に意見をまとめ合う双子。ともみさんの評価が高い。本当になぜともみさんではなかったのか。

#みしろ

「うーん」

#ナレーション

詰まった。

#司会者1

「時間です!」

#司会者2

「回答をお願いします!」

#みしろ

「ね、姉さん!どうしよう?!ナカミチかなぁ?」

#ナレーション

違うというように製作側からナレーションは聞いている。これでそうだったら唐突な路線変更だ。

#ましろ

「ええと、ナカミチ君の番号は……!」

#ナレーション

横を見るましろちゃんとそれに合わせて見るみしろちゃん。確かに本人がいるのだから胸につけられた番号を見る方が手っ取り早いと言えばそうだ。かしこい。

#ナレーション

大げさなまでに視線を遮らないように大げさに回答席の隅による風紀さんとこのみちゃんがいた。むしろ目がそっちに行ってしまいそうだが。

#ましろ&みしろ

10番!」

#ナレーション

これでナカミチ君の選手番号が実は10番でなかったら叙述トリックになる。しかし本作品はミステリーではないためそんな大それたトリックは用意されていない。というか本当にナカミチ君が答えだったらどうしようか。

#司会者1&

「残念!」

#ナレーション

違った。

#司会者1

「残念。そこの彼ではありませんでしたー」

#司会者2

「これで1位の2人は違うということに、あ」

#ナレーション

いきなりどうしたのか。

#司会者1

「あ」

#このみ

「?どうしたんですか?」

#ふうき

「ましろちゃんとみしろちゃんは本当にともみさんが答えと違うのかわかっていない状態だったんだけどね」

#ましろ

「ともみさんはそうじゃないということがはっきりわかったんだけど……。」

#ナレーション

長い司会人生そういうこともある。ましてや普通の大学生が司会になれているなんて事は無いだろうし。

#ともみ

「そういうこともありますから」

#ナレーション

慣れていそうな人がフォロー。

#みしろ

「公然の事実みたいなものだからいいですよ」

#ましろ

「まず決めるのは私たちじゃないし、公然とするのも失礼だよ」

#みしろ

「なんで?」

#ましろ

「あとでね」

#ナレーション

後で説明するようなのでここではナレーションが説明しよう。基本的には利益を受けなかった方が許すか許さないか決めるのが先だろう。公平な試合ができなかったとごねる分には問題なし。

#ナレーション

で、公然としたらともみさんが1位じゃないのは世間的に正しい評価だということになる。事実そうなっているのではあるが失礼だ。しかしなんで1位じゃないのか。

#ともみ

「なんで皆さん私が1位とることが前提みたいに話をするんですか……。」

#ナレーション

誰もが1位に自分を置きたがらない。それは1位を主張するよりわがままなのだろうか。だからといって才色兼備、文武両道に真っ向面から挑む度胸を持つ人はいないだろう。先には定められた敗北しかない。

#このみ

「こうなってくると私が1位の可能性が高くなってきますね」

#ナレーション

されど立ち向かう勇士。さっき負けたが。おそらく双子へのブラフ(嘘による心理誘導)で発言しているのだろう。

#ふうき

「……さっき違ってたけどね」

#このみ

「なんでいうんですか?!」

#ふうき

「いや、なんかいらっとしちゃって。てへっ」

#このみ

「うーん。正直なので許しましょう。裏切りはゲームの華ですから。現実でされたらどうなるかわかりませんが」

#ナレーション

今ここでやっているのは現実のゲームだから、であるから……、よくわからない。人の心というものは解説できないものがあるものだ。だがきっと何も考えちゃいない。

#司会者1

「いや。こちらの不手際だったんですが進行上問題がないレベルと許していただけたという事で。一つお願いいたします」

#司会者2

「失礼いたしました。では続いて4組目の入場にうつらせていただきます」

#ふうき

「いるんかい!」

#ナレーション

突っ込む風紀さん。

#このみ

「ひえっ、びっくりしましたよ風紀さん。いきなり」

#ふうき

「突っ込みは普通の2倍体力を消耗する……。」

#このみ

「わかります……。サボっている人がいるから……。」

#ナレーション

元気な2人組といつも通りで無反応な残り2組。

#司会者1

「今度の方々は3人組!」

#司会者2

「そして全てのステージを最高難易度の状態で突破した最後のチームです!では入場をどうぞ!」

#ナレーション

時間経過による難易度現象のルールは確かにあった。見る事は結局なかったが。しかしもう入ってくる3人組が予想できるというか、なんのひねりもないのだろうな。入り口から入場してくる。

#ネネ

「やっぱりこの3組なんですね」

#ナレーション

予想通りだった。一つぐらいひねりを入れることもできないのだろうか。

#さいか

「そうなるよね……。」

#ミサキ

「あー。やっぱり?」

#ふうき

「それはこっちのセリフだよ。なんか不安になってくるレベルなんだけど」

#このみ

「私のチーム分けが良かったんですよ!」

#ましろ

「まぁそれは言える事ではあるよね」

#みしろ

「私たちは最初の問題危なかったけど」

#さいか

「最初……。あれはびっくりしました……。」

#ミサキ

「いきなり音がしたら特別枠だっていうし」

#ましろ

「3人の目がただまっすぐこっち向いてきたからホラーだったかな」

#ナレーション

ホラーがこんなところにも。人からの恐怖はいつの世も鉄板。未知の恐怖もがんばってほしい。

#ネネ

「申しわけなかったですけど死に物狂いの横でそういう事が起きてしまうとそうなります」

#ナレーション

それはそうだろう。他人の幸運に人は何を思うのか。聖人君子でありたい。

#司会者2

「そこは申し訳なかったです。今後の課題にいたします」

#司会者1

「ところで、またお知り合いですか……?」

#ナレーション

身内の回答回しである。

#さいか

「え……?確かに知り合いですが……?」

#ネネ

「ああ。たしかに知り合いしかいませんね」

#ミサキ

「みんなすごい」

#ナレーション

すごいなぁ。

#司会者2

「それこそこちらのセリフではあるのですが。さて、問題内容はご存知ですか?」

#ミサキ

「え?聞いてないですけども?」

#さいか

「えぇっと……。言っていましたっけ?」

#司会者1

「いえいえ!まだです!それではご説明いたしますね!」

#司会者2

「と言いましても単純です。お手元のタブレットに参加者のお写真が映っています今回のクイズと並行しておこなわれていた参加者の人気投票で1位を取った方を写真の下に書かれた参加者番号でお答えください」

#ミサキ

「え?なにそれ?そんなのわかるの?」

#ナレーション

ほとんど同じやり取りをましろちゃん、みしろちゃんもしていた気がする。

#司会者1

「制限時間は1分!」

#司会者2

「ではスタート!」

#ナレーション

相変わらずこの辺は容赦がない。

#ネネ

「ええっ?どうしましょうか?さいかさん」

#さいか

「え?!えっと……。とにかく問題を考えるべきだと思う……。」

#ミサキ

「なるほどね。どんな問題なのか考えるって事?」

#さいか

「は、はい……。」

#ナレーション

クイズである以上何か解き方はある。それがあるべき姿ではある。

#このみ

「ほうほう……。」

#ナカミチ

「ふむ……。」

#ナレーション

他のチームも一緒になって考える。そして裏切る。戦の華よ。

#ネネ

「……。静かだと何か不気味ですね。いつも騒がしいメンバーなのに」

#ましろ

「な、何かしゃべるのも邪魔してしまいそうな気がして……。」

#ナレーション

相手の側にたって初めてわかる苦悩。その苦悩を持っていたのかは微妙だが。

#さいか

「大事なのはだれに投票が多かったのかという事。集まった理由があると思います」

#ミサキ

「なるほどねー」

#司会者1

「残り約30秒です!」

#ナレーション

お約束のアナウンスである。しかし3人だと話が進む。1人より3倍速いとはならないが飛躍する。そこにこそ価値がある。されど答えはいまだ見えず。

#ネネ

「もう時間があまりありません。答えとしては誰でしょうか。私としてはともみさんではないかと」

#ナレーション

やはりそこに行きつく。普通に考えればそのはずなのだ。ただの人気投票。組織票も考えられない。1位に存在するカメラ映えする人。

#ミサキ

「いや、それは普通すぎない?たとえばそれじゃあ前の3組が間違えたとは思えないかな」

#ネネ

「では誰ですか?確かにその理屈だとともみさんは違うと思いました。だとするともうわかりませんよ?ナカミチ君でしょうか?」

#ミサキ

「いや、考え続けないと。ナカミチ君は何か違う気がする。1位でともみさんじゃなかった。じゃあナカミチ君という感じがしないね」

#司会者2

「残り15秒を切りました」

#ネネ

「じゃあ誰だというんですか。一番注目されたのは」

#ミサキ

「何か一番注目された事をしたグループ。だと思うけど。そんなの見かけなかったし。ううん」

#ナレーション

悩む。悩める時間があるのは贅沢だ。子供に与えられた権利。まぁ今は無いのだが。大人になると悩むのも自分で時間を作らなければならなくてつらい。

#ともみ

「……なるほど。後のチームほど情報的にはかなり有利なんですね」

#ナカミチ

「みたいですね」

#ネネ

「一番映っていたのは?」

#ミサキ

「1位、次点で2位だと思う。感覚で」

#ナレーション

先を急ぎ続けたチームと違いステージの待ち時間等で配信を見続けた。1位と言うのはもちろん到着順位の事だろう。ともみさんとナカミチ君。2位は風紀さんにともみちゃん。

#さいか

「では、……2位のどちらかということですか?」

#ネネ

「というか2位でいいんですか?」

#司会者1

「残り5秒!」

#ミサキ

「私はどっちかが答えられていないと思う!」

#ナレーション

どっちか、風紀さんかこのみちゃんのどちらかがまだ回答として出されていないということだ。確かにまだ風紀さんは答えられていない。

#ネネ

「風紀さんではないと思います!知らない人が多いとおかしなことをしません!目立たない!」

#ふうき

「……。」

#ナレーション

なんか言えばいいのに。

#司会者1&

「時間です!回答をどうぞ!」

#ミサキ

「さいかちゃん!どう?」

#さいか

「そうですね。このみちゃんでは、ないでしょうか。このみちゃんの番号は12番です」

#ナレーション

手元のタブレットから番号を探るさいかちゃん。

#ネネ

「わかりました!」

#ネネ&ミサキ

12番!」

#司会者1&

「残念!」

#ナレーション

答えが被ってしまった。

#ネネ

「違いましたね……。」

#ナレーション

しょんぼり。頑張った分だけ強くなれる。そう思おう。

#ミサキ

「残念……。」

#さいか

「うぅ……。残念です……。」

#司会者1

「いや、残念でした。しかしぎりぎりの回答でしたね」

#司会者2

「回答ボタンを押してから考える姿はクイズの醍醐味です。基本的には5秒前後取っております」

#司会者1

「こちらの判断で上下させますが基本5秒です」

#ナレーション

10秒もあった。

#司会者1

「……さて。ここまで回答のたびに新しいチームが参戦していましたが……。」

#司会者2

「なんとここでついに途切れました。よって!もう一度到着順に回答していただきます!」

#ナレーション

衝撃の展開。いったもん勝ち。しかし実際には衝撃の展開ではある。

#このみ

「身内しかいない……。」

#ましろ

「いいことじゃない……。」

#ネネ

「そうなんですかね……。」

#ミサキ

「なんで素直によろこばないのかなぁ」

#みしろ

「代わり映えしないからじゃない?」

#ナレーション

好き勝手言いなさる。

#司会者1

「と、いうわけで!再度チャンスが回って来たお2人様!準備はよろしいでしょうか!?」

#ナカミチ

「……ともみさん」

#ともみ

「なんでしょう?」

#ナカミチ

「おそらく次の回答は回ってきません」

#ともみ

「……あぁ。なるほど。もうわかっている人がいるんですね」

#ナレーション

ちらっと横の風紀さんを見るともみさん。風紀さんは貼りついた笑顔のままである。

#ナカミチ

「ええ。意外と寡黙になるんですよ。風紀さんは」

#ナレーション

気配が消えていた。ずーっと黙っていた。考えている答えがあるのだろう。表情に一切出ていない。

#ともみ

「……勝算は?」

#ナカミチ

「あります。1つ」

#ともみ

「上等ですね。答えは1つしかないんですから」

#ナカミチ

「ええ。……負けてあげることはできない」

#ナレーション

ブーストがかかって来たようだ。最後に出し惜しみとかそういうのは無しである。

#ともみ

「では……。こちらはいつでも構いません」

#司会者2

「どうやらクライマックスが近いようです」

#司会者1

「次の1順はもうない。クイズに関わるものとしての勘がそう告げている!さぁ!制限時間は1分!」

#司会者1&

「ではスタート!!」

#ナカミチ

「まずこの大会、誰が一番配信された映像にうつっていたかです」

#ともみ

「そうですね。投票するにしても配信をまず見ます。そこにうつっている人へ投票を入れる。この流れです」

#ナカミチ

「ええ。そこは絶対です。配信を見ている人たちが投票するには映像を見てその人がつけている参加者番号を見て投票するしかない。投票は番号のみで行われたはずですから」

#ともみ

「手元にある参加者の画像は大会中の映像から取り出したものですしね。顔も知らない人へ投票をする事はありません。だからこそ私たちじゃないのが不思議なんです」

#ナカミチ

「1位の人が参加者の中では1番うつっている……。普通に考えればそうです。しかし、実際にはそうではなかった」

#ともみ

「!たしかに私たちは配信を全然見ていない……。いや、ですが!配信を見ていたグループが、……っ!!ま、まさか!」

#ナカミチ

「そうです。先ほど到着した3人のグループは他と比べて圧倒的に配信を見ていた。しかしそこでも俺達が1番うつっていたと言っていました。1つのグループを除いた状態で」

#司会者1&

「残り30秒!」

#ともみ

「自分たちのグループ……!ですがいったいなぜ?!」

#ナカミチ

「彼女たちのグループが1番うつったと考えた場合思い出す事があります」

#ともみ

「あ、司会者と一緒にうつっていた……!」

#ナカミチ

「そうです。俺達が配信を見た時、司会者の後ろにさいかさん達の姿を見かけた気がしました。彼女たちの進行ペースは司会者の人たちとほとんどおんなじだったんです」

#ともみ

「そうなると配信にうつる頻度は跳ね上がり、場合によってはクイズに挑んでいる姿が配信されている可能性すらあります!」

#司会者1&

「残り15秒!」

#ナカミチ

「となるともはや後は3人のうちだれが1番目立ったのかという事になります。3人の中心人物。リーダー。頼られた人」

#ともみ

「……さいかさん。ですね」

#ナカミチ

「そうです。特に1問目は彼女の力によって解かれたところが大きいでしょう。他の2人に比べても解いた早さは早かったはずです。そうなれば自然にその後も引っ張る事になる」

#ともみ

「……頼りにはするでしょうね。……なるほど。全部わかりました」

#ナレーション

手元に持つタブレットの画面からさいかちゃんの番号を調べる。15番だ。

#司会者1&

「それでは回答をどうぞ!!」

#ナカミチ&ともみ

15番!!!」

#ナレーション

一瞬の静寂。審判の時。

#司会者1

「……。」

#司会者2

「……。」

#このみ

「どきどき」

#ナレーション

待ってられない子もいるみたいであるしそろそろ答えてあげるべきだ。

#司会者1&

「…………正解です!!!」

#ナレーション

ファンファーレと共にクラッカー4つがパァンと鳴らされる。司会者2人と撮影カメラの左右で2つ。配信を見ている人にはクラッカーから飛び出る紙テープやら紙吹雪が盛大に見えている事だろう。特撮さながら。

#ともみ

「ふふっ。やりましたね、ナカミチさん!」

#ナカミチ

「ええ!」

#ナレーション

見事的中された。今栄光は彼らの手へと収まる。彼らの笑顔は勝者にこそ与えられた特権である。喜ぶべきだ。

#ミサキ

「さ、さいかちゃんが1位だったとは……。」

#ナレーション

別の1位も今その手の中へと収まった。

#さいか

「信じられないです……。」

#ナレーション

信じる心を持ちたい。

#司会者1

「続いて表彰式にうつらせていただきます!さぁさぁ、優勝者のお2人、前に出てきてください。フィナーレです!」

#司会者2

「大会と司会はまだまだ続きますが、一度締めへと入らさせていただきます。他の参加者の方も前へどうぞ」

#みしろ

「うぅ。またナカミチのチームに負けたぁ。今度は姉の方にぃ」

#ナレーション

感想は十人十色。

#ましろ

「同じ気持ちだけど言い方……。まぁいいか。同じ気持ちだし」

#ふうき

「ぐわー」

#このみ

「ああ、風紀さんが断末魔を」

#ナレーション

茶番。前に出てきながらやっているので動作すらない。もはや義務感からだろうか。いや、求められていると信じてやる姿こそ美しいのではないだろうか。

#ふうき

「結局負けちゃったねー。ナカミチ君とともみさんのチームだという時点で嫌な予感しかなかったんだけどねー。手が届きそうだった分余計にねー」

#このみ

「いまだ姉の壁は高く……。」

#ナレーション

その壁はどんどん高くなるやつだろう。それはもうすごいスピードで。

#ともみ

「抜かれたら姉として立つ瀬がありませんから。抜かされませんよ。ふふっ」

#このみ

「ぐぬぅ……。上機嫌ですねぇ……。」

#ナレーション

きっと目標にされているのがうれしいのだろう。そんなものだ。

#司会者1

「お2人はどうぞこちらへ」

#ナレーション

さらに一歩前へうながされるナカミチ君とともみさん。ちょっとだけ高いお立ち台に立つ。目立つ。上に立つ者の責務というやつだろうか。司会者たちはカメラ前で総評を話し始めている。

#ともみ

「前に出て何かをするというのも久しぶりですね」

#ナカミチ

「久しぶりですか」

#ナレーション

そう言って横を見る。今を微笑むともみさんの目は過去を見ていた。人が過去を見る時、彼にはその瞳はどこまでも透明に見えた。

#ともみ

「……間違ってても良い。ただ、いつも私の案が全部だなんて寂しかった」

#ナレーション

彼は思った。それは『愚痴』だったのだろうか、と。どこまでも正しい案を示し続けた彼女が持った思い。

#司会者1

「それでは優勝者のお2人に感想をいただきたいと思います!」

#ナレーション

もう少し余韻が欲しかった。そう思うが、されど世の中は常に動いている。司会者からマイクを向けられ、撮影用のカメラが少し近づく。ちなみにこのマイクは形だけのダミーであるようだ。実際はカメラが直接音を拾っている。

#ともみ

「まず優勝できて大変うれしいです。そして面白かったです。それに2人で解いて行くクイズはすごいと思いました。互いに協力し、信頼し合うことで補いあい乗り越える。遊んだゲームからその事を大事にされていたように感じました」

#ナレーション

クイズはどこか個人競技というイメージがたしかにある。

#司会者1

「そ、そこまで言っていただけるなんて。大変うれしいです」

#ナレーション

感激している。大会運営、苦労はあるはずだ。続いてナカミチ君、答弁。

#司会者2

「続いてご感想をいただけますか?」

#ナレーション

前がすごいとこういうのはつらい。チームな相方として最後の試練だ。クイズの後にご苦労様なことだ。決めてほしい。

#ナカミチ

「そうですね。クイズを解くのには協力が、回答までの早さを求めるには信用が求められていた気がします。そして大会に参加してこの大学の事をよく知る事が出来たと思います。最後に優勝できてよかったです。うれしいです」

#ナレーション

うまく乗り越えた。ともみさんのお手本もあったしうまく自分の考えを言えたようだ。

#司会者2

「……この大会では大会を通じて大学の事も知ってもらおうと思っていました。そしてクイズの根幹に添えた文武両道という事への答えとして協力する事を求めていました。まさに全てに回答してもらえたと思います」

#ナレーション

締めにふさわしい。うまくいったようだ。

#このみ

「……相変わらず口がうまいですねー」

#ナレーション

ナカミチ君の後ろからぼそっと聞こえた。きっとともみさんも聞こえている事だろう。めでたしめでたし。

#司会者1

「ではトロフィー授与です!」

#ナレーション

扉が開いて片手にで持つには少し大きいトロフィーが2つ来た。別室に置いていたのだろう。おなじみ金色タイプ。

#司会者1

「いやー。いいものを選んだと自負しています」

#ナレーション

しっかりと受け取る。確かに作りが良い。

#司会者2

「先ほどトロフィーに第1回現代クイズ大会のプレート板を貼りつけましたので正真正銘ペアグッズです。優勝者が3人の場合はもう1つ作る予定でした」

#ナレーション

細やかな心遣い。粋である。

#ともみ

「ありがとうございます」

#ナレーション

笑顔である。よかったよかった。

#ふうき

「…………ん?」

#ナレーション

締めたかったのだが、何かあるようだ。

#司会者1

「続いて人気投票で1位になった15番さんへ記念トロフィーです!どうぞ前へ!」

#ともみ

「なるほど……。上位層が人気投票1位になる事はほとんど間違いがないので一緒に表彰しやすいというわけですか」

#ましろ

「えぇと。流石に偶然じゃないですか?」

#ともみ

「ですかね」

#ナレーション

鮮やかな青色をしたトロフィーが送られる。

#司会者2

「さて、人気投票を1位で勝ち抜いた15番さんにもぜひ今大会についてコメントをいただきたいと思います」

#さいか

「え、えっと。……私はこの大学についてよく知れてうれしかったです。一緒のチームだった2人と優勝できなかったのが残念ですけど。全部のクイズで協力し合えたのが、楽しかったです。ありがとうございました」

#ナレーション

こういうコメントも良いものだ。心から湧きあがったと感じるようなものがある。

#司会者1

「ありがとうございます!楽しんでいただけて本当にうれしいです!来年以降も継続して開催していきたいのでぜひリベンジしてくださいね!」

#さいか

「い、いえ。競争率跳ね上がりそうなのですが……。」

#ナレーション

どんどん規模が大きくなっていくだろう。参加する人も増えるだろう。

#司会者2

「きっともっとおもしろくしてみせますのでぜひ」

#さいか

「か、考えておきます……。」

#ナレーション

考慮して検討して判断する。

#司会者1

「さぁ!長きにわたる大会もここで1回締めさせていただきます!」

#司会者2

「この後は第3ステージの配信にうつらせていただきます。私たち司会は今から10分間席をはずさせていただきますので。10分後再度お会いいたしましょう」

#司会者1

「もちろんお時間が許すのであれば、です。ではまたお会いいたしましょう!」

#司会者1&

「ありがとうございましたー!」

#ナレーション

カメラ係が手をふってくれている。おそらく全員がうつっているのだろう。そっちを向いて拍手がいいのかもしれない。ここでの主役は司会なのだから。それでもカメラ映りは気にしたい。

#ナレーション

その後カメラが下されてついに終了である。

#司会者1

「いや、本当にありがとうございました!想像以上に見せ場があって、クイズも想定していたギミックも全部網羅していただいて……。」

#司会者2

「期待していた反響を越えて話題になりました。期待は超えないものだろうなと思っていましたので……。感謝しています」

#ナレーション

運営側と参加者。互いに全力を尽くす。そうすることでようやく完成する。準備するだけではどうにもならないというのは不安だっただろう。

#ともみ

「いえ、こちらこそ。失礼ながら想定をはるかに超えたクオリティに驚かされました」

#このみ

「楽しかったですー」

#ナレーション

楽しいことしかしたくない人のお墨付きである。

#司会者2

「ところで優勝のペアカップともうお一つの優勝カップはいかがいたしますか?」

#司会者1

「この後学園祭を回るのでしたらこちらで一時お預かりさせていただく事も出来ます。一応紙袋もご用意しておりますが」

#ともみ

「そうですね。では紙袋をいただけるのでしたら、」

#みしろ

「……ん?」

#ナレーション

みしろちゃん反応。ついさっき同じような反応をした人がいた気もする。気のせいか否か。

#ましろ

「え?どうしたの?みしろ」

#ふうき

「あ。いや。なんでもないよー」

#ナレーション

さえぎる風紀さん。

#ましろ

「なんで風紀さんが答えるの」

#さいか

「いや、そんなことしてくれなくていいですよ……。私も気づきましたし」

#ナカミチ

「?」

#ナレーション

何かが進行している。何かわからないが。

#このみ

「何かあるんですか?みしろちゃん」

#みしろ

「えっと。ペアカップってペアルックみたいな感じだよね?」

#ナレーション

ペアグッズという言葉があるのでどっちかというとペアルックというよりはペアグッズだろう。

#ともみ

「……あ゛」

#このみ

「姉さんがめったに出さないような声を」

#ナレーション

よっぽどだ。

#司会者1

「な、なにかありました?」

#ナレーション

最後の最後に何かあったら嫌だろう。そりゃ嫌だ。

#ナカミチ

「……。ま、まさか」

#ナレーション

真実のその先へ。

#ともみ

「あの、私たちはお付き合いとかそういうのはしていませんよ……。」

#司会者1

「へ?」

#ネネ

「え?それはそうです。していたら大騒ぎです」

#ふうき

「うん。相方の男性は川に浮かぶだろうね」

#ナカミチ

「そんな事にはならない」

#ネネ

「でもなんで急にそんな話を?」

#このみ

「……げえっ。まさか」

#ナレーション

げえっ。は、女の子が使う言葉づかいではないなぁ。

#さいか

「ええと。1位のチームは私たちより放送にうつっていたのではないでしょうか」

#司会者2

「……そうですね」

#ナレーション

隠しても何ともならないし。という判断だろう。

#ましろ

「つまり?」

#ナカミチ

「俺とともみさんがつき合っているように見えたら票は少なからず違うところに行くだろうなぁ……。」

#ナレーション

いま全ての謎が解き明かされた。

#さいか

「ですよね……。」

#ましろ

「うーん。そりゃ何も知らない人からしたらカップルでクイズに挑んでいるようにしか見えないね……。その結果最後の問題で私たちの予想がずれていたんだ……。」

#司会者2

「カップルにしか映っていませんでしたよ」

#さいか

「その結果私に票が集まった訳です……。」

#ナレーション

真実は優しさを見せない時もある。

#このみ

「いやいや、さいかちゃん。落ち込む必要はありません」

#さいか

「いえ、別に落ち込んではいませんが。そんな感じなんだろうなと感じていましたし」

#ナレーション

せつない。大げさに考え込むこのみちゃん。何か思いついたようだ。

#このみ

「ほら。口のうまさで何とかして下さいよ」

#ナレーション

ナカミチ君に仕事を割り振るこのみちゃん。放り投げ。

#ナカミチ

「……。まぁ、ちゃんと自身の手で手に入れた結果だ。……まちがいなく」

#このみ

「そうですよ。定められたルールで戦うのがゲームなんですから。こうだったら負けていたとか勝った人が考えてちゃだめですよ。せめて負けた方がこうだったら勝ててたとか考えましょ」

#ナカミチ

「それはどうなんだ……。というより自分で言えるんだったら俺に振るなよ」

#このみ

「なんとかできないとは言ってませんしー」

#ナレーション

誰でもできるからと言って誰がしても良い訳ではない事もある。

#さいか

「まぁ、そうですね。せっかくですから。素直に喜んでおきますね」

#このみ

「そうそう。それでいいんですよ。それでこの後なんですけどまたシューティングに行きませんか?デジタルの方の!ちゃんとクリアしたいんですよあのゲーム!」

#ナカミチ

「あのゲーム?」

#ナレーション

いつもながら急なわがままである。

#ともみ

「そういえばデジタルの方のゲーム内容知りませんね。今から行って遊べるのかもお聞きしないといけませんが」

#司会者1

「あのステージはアナログもデジタルも協力していただいた別サークルさんですから平常時は参加費払ってくださいね。もうすぐクイズの為にお借りしている時間を過ぎますから普通に遊んでいただけますよ」

#司会者2

「内容は遊んだ方からお聞きくださいね。私たちは休憩の為失礼いたします。ありがとうございました。あ、こちら紙袋です」

#ナレーション

ご丁寧にどうも、と、ともみさんが受け取る。これでお別れである。お分かりかと思うがもうでてこない。そうなると寂しいところもあるがありがとうと思いながら先に進もう。さらばだ。

#ナレーション

廊下に出てエレベーターへ向かう。

#ましろ

「それでどんなゲームだったの?デジタルの方は?私たちも知らないんだけど」

#ふうき

「あれかぁ……。」

#このみ

「すごいんですよ!あって機体型だと思ったら機体型だったんですよ!大型の!」

#ナレーション

よくわからない。

#ふうき

「撃つゲームするんだと思って行ったらカーアクションしてた」

#ナレーション

よくわからない。

#ナカミチ

「何だそれ」

#ふうき

「いや、よくわからないからこのみちゃんに2つとも拳銃任せたよ」

#みしろ

「よくそれでクリアできたよね。でもよく考えたら私も姉さんに任せたしみんなそんな感じなのかな」

#ナレーション

ナカミチ君達もそうだった。

#ネネ

「私たちは3人でやりましたよ」

#ふうき

「3人だとそうなるのか……。」

#ナカミチ

「わからないなぁ」

#このみ

「まぁまぁ。今からやりに行くんですから」

#ふうき

「私たちもそのゲームのステージ2までしかやってないからね。ゲームオーバーにならずそこまで行けたらクリアだったんだよ。多分アナログより時間はかかるけどクリアーはまだしやすかったんじゃないかな」

#ナレーション

そんな感じでこの後も学園祭を楽しむ一行だった。描写も終わりである。

#このみ

「エレベーターきましたよー」

#ナレーション

もうちょっと続くらしい。エレベーターに乗り込んで1階へ向かおうとする一行。

#

ビーーーー。

#ナレーション

重量オーバー。全員が乗ったエレベーターから音が鳴り響く。

#このみ

「ナカミチ君。お先にどうぞ」

#ナレーション

お先に降りていいと言われたのだ。降りたまえ。

#ナカミチ

「……まぁ俺が下りた方がいいのはわかるけどさ」

#ナレーション

レディーにおりろとは言えない。

#このみ

「階段でどうぞ。待たせないように」

#ともみ

「このみが決めることじゃないでしょう……。」

#さいか

「あはは……。」

#ナレーション

苦笑いである。とりあえず降りるナカミチ君。

#

ビーーーーーーーーー。

#このみ

「女の子8人背負えないとかナカミチ君以下ですね」

#ナカミチ

「……褒められているのか?どっちにしろ別に背負ったりしていないから」

#このみ

「背負ってるとか自意識過剰ですよ」

#みしろ

「ほんとに」

#ふうき

「はいはい。とりあえず降りよう。私が下りるよ」

#さいか

「いえ、私がおります……。」

#ナレーション

降りるさいかちゃん。重量オーバーの音もなり止んだ。

#このみ

「このエレベーター失礼なやつですねー。さいかちゃん。無理せずエレベーターでゆっくり来てくださいね」

#ナカミチ

「扱いの差が、」

#このみ

「区別ですよ。区別。ナカミチ君だけ階段でもいいんですよ」

#ナレーション

区別は大事だ。文句は言えない。

#ともみ

「……ほら、このみ。ドア閉めますよ」

#このみ

「はーい。ではまたー」

#ナレーション

ドアが閉まり下へ向かって行く。エレベーターの現在位置を示すランプが1階へと動いて行く。

#さいか

「……。」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

この2人だけになるとシリアスに突入するからナレーションはいつも黙るしかない。というか真面目にやらないと。

#さいか

「……それで、本当はどうやって気づいたんですか」

#ナカミチ

「なにが」

#さいか

「最後のクイズ問題ですよ……。」

#ナレーション

紙袋からトロフィーを取り出す。

#ナカミチ

「もうちょっと自信を持っても良いんじゃないか?」

#さいか

「回答になってませんね……。」

#ナレーション

ナカミチ君から距離をとる。というよりかはどこかへ足を運ぶ。その先にはゴミ箱が。

#ナカミチ

「……何をしようとしている」

#ナレーション

険しい表情をうかべる。

#さいか

「……べつに。今後見るたびにみじめになりそうですし。それよりちゃんと怒れるんですね。意外です。おどろきました。あはは」

#ナレーション

トロフィーを持った手でゴミ箱のふたをこんこんとたたく。捨てる気なのだろうか。蓋付きの四角いゴミ箱。もし捨ててしまえば外からは見えない。

#さいか

「それよりちゃんと答えてください。どうなんですか」

#ナレーション

トロフィーでゴミ箱のふたを上からとんとたたきながら興味なさそうに聞く。回るタイプのふたは、きゅこきゅこ、と音を鳴らし、さいかちゃんはそっちの方が興味があるような素ぶりだ。

#ナカミチ

「……。さいかさんが最後の問題で黙っていたから変だと思ったんだよ」

#さいか

「私が黙っているのはいつものことじゃないですか……。」

#ナカミチ

「いや、さいかさんはそこまで協力して来ていたはずなのに急に消極的になったはずなんだ。そうじゃなきゃ最後のゲームまでこれていなかったはずだから」

#ナカミチ

「その理由は自分の答えに自身が無かったから。そこまで分かったら後は答えの予想がついた。それで俺も答えがわかった」

#さいか

「……やっぱりそうでしたか」

#ナレーション

トロフィーでカンッ、とゴミ箱のふたをたたく。ふたはくるくると回りながら音を立てる。少し耳障りな音が2人だけの廊下に響く。

#さいか

「……気にいりません」

#ナカミチ

「ネネさんもミサキさんもさいかさんが答えを示していたら賛成してくれたと思う。たとえ間違っていても責めたりはしない。だからさいかさんが自信を持っていたら勝てていたと思う」

#さいか

「……。」

#ナレーション

カァン、とふたをたたく。今までで一番強く。くるくると回るふたは金属がすれるような、それでいてどこか不快ではない音を響かせる。

#さいか

「まぁいいです。ナカミチ君が相方をサポートしたみたいですし。ちゃーんと誰かの味方したようですし。……私も今回はただ聞きたかっただけです」

#ナレーション

手に持ったトロフィーを紙袋にしまい、エレベーターのボタンを押す。

#さいか

「……上の階まで行ってしまいましたね」

#ナレーション

エレベーターはナカミチ君達のいる階を通り越し、なお上に向かっているようだ。

#さいか

「階段で先におりてます」

#ナレーション

ついてくるなと言っている。1人になりたい時もあるのだろう。

#ナカミチ

「俺はトイレに行ってるとでも言っといてくれ」

#さいか

「女性にそんな事いわせないでください……。もうすこしなにかなかったんですか」

#ナレーション

あきれて階段の方に行く。姿が見えなくなった。

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

未だにゴミ箱の音はなれど静まり返る雰囲気。

#ナカミチ

「ん?」

#ナレーション

階段から元気な足音が。

#このみ

「あ、なにやってるんですか。早く行きましょうよ」

#ナレーション

このみちゃんひょっこりと表れる。

#ナカミチ

「このみこそなんで」

#このみ

「遅いからですよ。1階に下りてからエレベーターが動かない。動いたと思ったらいてるはずの階を通り過ぎていく。早くしてください。さいかちゃんもう降りてますよ。ほんとなにやっていたんですか」

#ナカミチ

「いや、トイレに」

#このみ

「さいかちゃんからは忘れ物を取りに行ったって聞きましたよ。どうなってるんですか。あぁなるほど。2人ともトイレ……。なにをいわせるんですか」

#ナカミチ

「1人で言っているだけだろ」

#このみ

「ほら、行きますよ。いろいろまわりたいんですから」

#ナカミチ

「わかったから。押すな。もうエレベーター着くみたいだから乗って降りたらいいだろ」

#ナレーション

さっき、さいかちゃんがぼたんを押したエレベーターはそろそろ今いる階へ到着しそうだ。

#このみ

「それ待ってたから遅くなったんですか。さいかちゃんは階段で向かってくれていたというのに……。」

#ナレーション

下がって行く好感度。ひどい主人公だ。

#ナカミチ

「……たまたまだよ」

#このみ

「そうですかねぇ」

#ナレーション

エレベーターがついて扉が開く。満員。というか見おぼえがある。

#司会者1

「あれ?まだいらっしゃったんですか?」

#ナレーション

また会えた。クイズの運営の人たちでいっぱいである。

#司会者2

「すいません。いっぱいです。……いえ、降りるので代わりに乗ってください」

#ナレーション

きっと上の階に控室みたいなスタッフルームがあるのだろう。休憩するとか言っていたはずだ。また今からどこかへ司会をしにいくのだろう。

#ナカミチ

「いやいや!結構です!階段で下りますから」

#ナレーション

このみちゃんの腕をひっぱって階段に向かうナカミチ君。

#このみ

「ちょ、ちょ。ひっぱらないでください。わかりました、わかりましたから!」

#ナレーション

そんな感じで学園祭を楽しんだ一行。日が落ちそうになるまで遊びつくしたのだった。風紀さんいわく『みんなで考える大学潜入!』?だったか。それは終わったのだった。

 

#ナレーション

時は飛んで12月初頭。いわゆる数日後。学校はにぎわいを見せている。どうやら文化祭が始まっているようだ。

#ナレーション

やはり文化祭となると賑やかである。教室の外はもちろんナカミチ君達の教室内もそれなりににぎやかだ。出し物はちゃんと決まり繁盛しているのだろう。

#ナレーション

しかしにぎやかだ。ちゃかぽこ、やら。かんかん、やら。とーんてーんこーん、やら。ぽちゃんぽちゃん、やら。

#ナレーション

……いったいなんの出し物を出しているのか。

#クラスメイト

「スーパーボール追加したほうがいいか?」

#ナカミチ

「ああ。20個ぐらいお願い」

#ナレーション

了解、という声と共にぽちゃぽちゃと白い水槽へ。ボールすくいのようだ。ボールすくいでちゃかぽこ音が鳴るわけない。わからなくなってきた。

#このみ

「ビラ配ってきましたー」

#ナカミチ

「おつかれ」

#ネネ

「では次は私が配りに行きます」

#このみ

「おねがいしまーす」

#ナカミチ

「よろしくなー」

#(一般来場者)

「ここがビラのお店かぁ」

「あれは変わってるなぁ」

「写真でもとっとくかぁ」

#ナレーション

廊下から写真を撮ってくる。

#ふうき

「ボールすくい1回300円でーす。遊んでいただくとボール2個のお土産に10個以上すくえると少し大きめのスーパーボールをプレゼントでーす。30個以上で大きなスーパーボールのプレゼントでーす」

#ナレーション

教室の入り口で客引きをやっている風紀さん。やはり出し物はボールすくいのようだ。しかしこの音はなんだろうか。

#ふうき

「あと楽しいお菓子もありまーす。100円でーす。ながーいグミとはじけるわたがしの2種……。あ、あれ?お久しぶりです」

#ナカミチ

「ん?」

#このみ

「おっと。来ましたね。ふふふ」

#ナレーション

誰か来たようだ。予想はつく。

#ともみ

「お久しぶりです風紀さん」

#ナカミチ

「ともみさん?このみが呼んだのか?」

#このみ

「当然でしょう。妹いるところに姉は来るのです」

#ナレーション

呼んだから来たのだろう。それでも仲睦まじい事に変わりはないが。

#ともみ

「これは……。すごいですね。このみが呼ぶ理由もわかります」

#ふうき

「このみちゃんなら中にいますのでどうぞお入りください」

#ともみ

「そうですか。ありがとうございます」

#ナレーション

教室の奥へ入ってくるともみさん。このみちゃんの方へ。

#ナカミチ

「あ」

#このみ

「あ。姉さん。そこはかがんで通らないと、」

#ともみ

「えっ?」

#ナレーション

横からスーパーボールが飛んでくる。直撃。

#ともみ

「痛、くはないですね」

#ナレーション

速度は無かったからだろうか。落ちて跳ねたボールをひろうともみさん。

#このみ

「姉さん。次きますよ」

#ともみ

「えっ?」

#ナレーション

横からスーパーボールが飛んでくる。直撃。

#ともみ

「……。」

#ナレーション

ひろう。

#このみ

「姉さん。次、」

#ナレーション

ともみさんさっさとこのみちゃんのところまで移動する。よく見るとボールは教室中を跳ねている。

#ナカミチ

「大丈夫ですか?」

#ともみ

「大丈夫ですよ。別にただ跳ねたボールが当たっただけですし」

#ナレーション

教室で跳ねているボールは金物類に当たって音を鳴らし最終的にタオルに当たり勢いをなくしお客さんがボールすくいをしている水槽へ。

#ともみ

「……よくつくれましたね。これ」

#このみ

「詳細な計算と綿密な計画によるものです」

#ナカミチ

「おとといまでは普通のボールすくいの予定だったんですが。その時にボールの投入時に跳ねて水槽に入ったら面白いだろうなとこのみがいいだしましてね。跳ねる方向は昨日微調整で試行錯誤でした」

#ともみ

「昨日帰ってくるのが遅いと思っていましたが……。迷惑かけたようで」

#ナカミチ

「いや、やると決めたのは全員なので」

#このみ

「そうですよ。私は常に望まれることしかしません。えっへん」

#ともみ

「……。とにかく急にこのみが呼んだ理由もわかります。いい出し物です」

#ナレーション

おとといか昨日になっていいものが出来たので急にこのみちゃんが来てほしいと駄々をこねたのだろう。

#ともみ

「特にこの滑車。よくできましたね……。」

#ナレーション

ゴムのベルトに取りつけられた網のかごが水槽のボールを上の方までもちあげている。上でひっくり返りながら再度水槽へ。ボールは上でかごから出て受け皿を転がり教室中を跳ねまわって再度水槽へ。

#ナカミチ

「あ。近づかないでください。これなんで動いているのかよくわからないので」

#ともみ

「えっ?」

#ナカミチ

「モーターで、正確にはギアボックスで回しているんですが水で滑ったりしてまともに動かなかったんですが今は何かがかみ合っているのかひっかかっているのか動いているんです」

#このみ

「昨日ナカミチ君が1人で格闘してました」

#ナレーション

努力と不合理の塊のようだ。いや、動いているから合理的なのだろうか。とにかく万が一にでも止まったら困るだろう。

#ともみ

「やはり迷惑をかけたようで……。」

#ナカミチ

「一応昨日はこれだけやっていたようなものですから大丈夫ですよ。大変でしたけど」

#ナレーション

うまく動かない機械を動くようにする。動けばいい形にする。動けば完成。そして仕様書は最後。

#ふうき

「私的には水槽も見てほしいですね」

#このみ

「おや。レジ係お疲れさまでした」

#ふうき

「疲れてないよ」

#このみ

「流石です」

#ともみ

「なんですかそのめんどくさい上司と腰巾着の部下みたいな流れ」

#ふうき

「うちの平常運転を見ていただこうと思いましてね。うちのクラスに来ていただいたからには。郷に入れば、」

#ナレーション

話をこのみちゃんにふる。

#このみ

「なんとやらです」

#ナレーション

完璧だった。

#ともみ

「やはり日々ご迷惑をかけているようで」

#ナカミチ

「そうですね」

#ナレーション

完璧だった。

#ともみ

「それで水槽でしたか。確かにこんな大きな水槽よく用意できましたね」

#ナレーション

教室の一角を占める大きさと言えるぐらいの水槽である。20人ぐらいが遊んでも問題ない大きさである。近づいていく。

#このみ

「あ、姉さん。そこもボールの軌道上……。」

#ともみ

「おっと」

#ナレーション

飛んでくるボールを手で受け止める。なれたらしい。

#ともみ

「やはりちょっと危ないですね」

#ナレーション

スタッフ以外が入っては行けないスペースは常に飛び跳ねている。最初にボールが通る道がランダムのようでボールが飛ぶ軌道は2、3通りあるようだ。

#このみ

「さすが我が姉よ……。もはやものともしませんか」

#ふうき

「いやはや」

#ナレーション

そのぐらいの感想しか出てこない。

#ナカミチ

「跳弾の軌道も見えるんですか」

#ともみ

「いや、たまたま見えたからですよ。そもそも軌道上に出ること自体が危ないですし」

#ナレーション

反省点が違う。後は普通に歩きながら水槽に近づき、先ほど手で受け止めたボールを返しながら覗く。

#ともみ

「それで水槽は、なる程。ブルーシートで水を張っているんですか」

#ふうき

「ええ。まわりを板と柵で囲ってブルーシートを敷きました。安心の2重構造です」

#ナレーション

水漏れを恐れて2枚敷いているのだろう。

#ともみ

「良い発想ですね。外側は布で覆って綺麗に見せていますし」

#このみ

「最初安っぽすぎましたからね。モーターを買いに行くついでに布の端切れを買ってきましてテキトウに繋ぎ合わせました」

#ふうき

「あっはっは。……忙しかったねぇ」

#ナカミチ

「突貫工事だったからなぁ……。」

#このみ

「自転車を借りて、制服で、3人で、繁華街で……。楽しかったですねぇ……。」

#ナレーション

3人で買い出ししたらしい。1人感想が違うが。

#ふうき

「……うん。そうだね。楽しかったってやつだろうね」

#ナカミチ

「……まぁそうだな」

#ナレーション

3人の気持ちが今1つに。

#このみ

「まぁつらい事は忘れるから記憶は美化されるんですけどね。あっはっは!」

#ふうき

「……。」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

今1つの心が3つに。

#ともみ

「青春ですねぇ」

#ナレーション

ともみさん的には好印象らしかった。

 

 

#ナレーション

ともみさんも去り文化祭も終盤になる。

#ふうき

「しかし、(もぐもぐ)わりと、(もぐもぐ)儲かったね。(もぐもぐ)

#ナカミチ

「食べながら話すんじゃない」

#ナレーション

スタッフ用スペースで休憩中の3人。風紀さんはどっかから買ってきたのだろうフランクフルトやソースたっぷりの玉子せんべい。焼きそば。買い過ぎである。ではなくて、それらを食べている。

#ナレーション

ちなみに玉子せんべいとはえびせんべいにソース、目玉焼き、マヨネーズ、天かすといったトッピングが映える食べ物である。甘いおせんべいの方ではない。そっちにソースは味が怖い。

#このみ

「今現時点で約32万ぐらいだそうです。売り上げで」

#ふうき

「1人あたり?」

#このみ

「約8千」

#ふうき

「クラス全員分で?」

#このみ

「約32万です」

#ふうき

「いやー。(もぐもぐ)食が進むなー。(もぐもぐ)

#ナレーション

話は進んでいない。

#このみ

「結構1人で2回遊ぶ方とかいらっしゃいましたし。在庫ひとまとめ分余分にかっておいてよかったですね」

#ナカミチ

「ほんとにな。最後の500個入りも開けたし。駄菓子はもうすぐ売り切れるし」

#ナレーション

スーパーボール500個入りである。

#ふうき

「よかったよかった。あと駄菓子じゃなくて面白いお菓子だから。購買意欲って大事だよ。うん」

#このみ

「えぇー。無くなっちゃったら持って帰る分ないじゃないですか」

#ナカミチ

「品物に手をつけるのは良くないらしいぞ」

#このみ

「余ったのなら仕方ないとは思いませんか?いや、仕方ない仕方ない」

#ふうき

「よかったよかった」

#このみ

「しかしポイの方はどうします?使う場面がないともはやただのゴミになってしまいますが」

#ナレーション

ポイとはボールをすくうあれだ。まるいわっかに薄い紙が張り付けられ持ち手がある奴だ。知らない事は無いと思われるが一応解説役であるから。

#ふうき

「いやー。今回私たち他の人より少し多く動いたじゃない?」

#このみ

「え?えぇ。そうですね」

#ふうき

「その分現物支給で補うね。好きなだけポイ持って帰ってよ。あ、私はいらないから」

#ナレーション

お菓子は余らないらしい。

#このみ

「おとなしく廃棄しましょうか」

#ナレーション

商売であるから廃棄より在庫がなくなる方がよくない。で、大量の廃棄ロスが出る。大量生産大量消費大量廃棄。しかし捨てる事は大事だ。人が1人で抱えられるものは多くないとか言うあれである。

#ふうき

「もうちょっといろんなお菓子かっときゃよかったかなぁ。いや、缶ジュースを少し。いや、競合クラスが。やっぱりコーヒーを販売したかったなぁ。調理申請1年生以外出せないのがなぁ……。」

#ナレーション

商売意欲が高いようで何よりである。1人で唸っている。

#ナカミチ

「しかし文化祭も後1時間か。後1か月で今年も終わるしなぁ」

#このみ

「そうですねぇ。そしてこれが終わったらもう冬休み!終わるまではしっかり学校で遊びますよ!」

#ふうき

「その前にテストが、」

#このみ

「冬休み!」

#ナレーション

聞いちゃいない。

#ナレーション

最終的な売り上げは322400円。経費を抜いての1人あたり利益は7051円だった。準備含め大体7時間ぐらい働いたらしく、ネネちゃんの計算だと時給換算で約1007円だということだった。3人の買い物時間は含まれなていない。

#ナレーション

そのかわり余った大きなスーパーボールをもらったのでこのみちゃんは大満足。残り2人もわりとうれしかったのではなかろうか。どうだろうか。

#ネネ

11円余りました」

#このみ

「どうしましょうかね?」

#ナカミチ

「募金箱に入れるか?」

#ふうき

「じゃあ森林募金に」

#ナレーション

これが文化祭の最後の出来事だった。これで文化祭が中心に起きた出来事の一部始終である。

 

 

#ナレーション

12月末。終業式。

#このみ

「ふっゆやっすみーふっゆやすみー」

#ナレーション

うきうき気分だ。長期休暇。まぁ自分探し期間である。存分に遊ぼう。

#ミサキ

「いいよねー。浮かれられて。こっちは成績表が怖いっていうのにー。ねー?」

#ネネ

「え?」

#ナカミチ

「ん?」

#ふうき

「ふっゆやっすみー」

#さいか

「……………。ま、まぁそうですね」

#みしろ

「そう?」

#ましろ

「……うーん」

#ナレーション

どいつもこいつも優秀なようである。

#ミサキ

「なんでみんな優秀なの?!」

#ナレーション

世の不思議だ。直視してはいけない。

#クラスメイト

「話し振る方を間違えているだけだよなぁ」

「結局ミサキさんのミスよね」

「あのグループじゃ変人力も一番弱いし」

#ミサキ

「……おかしくない?」

#ネネ

「もう私は一緒のグループでまとめられているんですね……。」

#ナレーション

そんなもんだ。

#このみ

「でもうちのテストは難しい方だってこの前姉さんにあった時言ってたじゃないですか。そこまで気にしても仕方ないですよ」

#ナレーション

前とはおそらく大学学園祭の方である。描写はされていないので見返さないように。

#ミサキ

「そうかなぁ」

#ナレーション

つかの間の安心。

#ましろ

「難しいから出来るならある程度の入試問題は大丈夫だって話だったよね。出来ないと落ちるよ。もう1年後だからね」

#ミサキ

「バッサリいかれた!」

#クラスメイト

「……。」

「……。」

「黙るなよ……。」

#ナレーション

真実は空想を打ち砕き現実を見せる。願わくばその現実があなたにとって優しいものであれ。まぁそんな感じである。

#

ガラガラガラ―――

#ナレーション

扉が空いてくぜ先生が入ってくる。

#くぜ

「席につきなさい」

#ナレーション

成績表や配布物が配られていく。いつも通りすぐ終わった。

#このみ

「きりーつ!れーい!」

#クラスメイト(全員)

「ありがとうございましたー!」

#ナレーション

冬休みの開始である。家に帰るまでが学校だとは誰が思うものだろうか。それは遠足の特権である。

#ナレーション

思い思いの冬休み。クラスのチャットに毎日のようにコメントが出る。そこに勉強の話題が出る事が多くなったのはやはり時期によるものだろうか。

#ナレーション

そして冬休みが終わり―――

 

 

#ナレーション

時はいっきに飛んで2月。全然とんでいない。1、2か月後のレベルだった。体感では230秒かもしれない。とにかく場所は学校のようである。230秒ぶりかもしれない。

#このみ

「ましろちゃーん。進捗どうですかー?」

#ナレーション

進捗確認。納期とセットで表れる。どのぐらい恐ろしい言葉かわからない人に説明すると魔王みたいなものだ。絶望という言葉にも近い。しかし一体何の進捗確認なのか。席に座りながらましろちゃんが答える。

#ましろ

「え?進捗って……。昨日写真で送ったじゃない。今日には出来るよ」

#ナレーション

優秀であれば終わるのも早い。納期を設定する側も優秀だったのだろう。もしくは始動が早かったか。はたまた暇だったか。次もこの早さでできるだろうか。それは無理と思っておいた方がいい。

#このみ

「いえ、あまりに優秀なので何度も聞きたいというか」

#ナカミチ

「まず本題からだろ。お金のことだから真面目にしてくれ」

#ナレーション

まじめ2人にこまったちゃん1人。このみちゃんが不利だ。こうなると不利な方を応援したくなる。判官びいきとかいうやつだ。たぶん。

#このみ

「わかっているんですけど、それじゃ淡々としているじゃないですか。ビジネスライクは嫌です。いわゆるお金以上の関係ってやつです」

#ナレーション

素晴らしい演説である。人の心も動く。

#ましろ

「それで?本当の用事は何?」

#ナレーション

別に動かなかったからと言って人で無しといいたいわけではない。人の意見に惑わされない賢人だろう。

#このみ

「いやいや、ましろちゃん。急いては事を、」

#ナカミチ

「くぜ先生から衣装のお金をもらってきたから渡しに来たんだ」

#ましろ

「ああ。そうなんだ。ありがとう」

#ナレーション

ましろちゃん、わざわざ席を立って受け取ろうとする。それに合わせてこのみちゃんあわててスカートのポッケを探る。

#このみ

「えーっと。あ、ありましたありました」

#ナレーション

ポッケから金額の書かれた茶封筒を渡す。

#このみ

「中身確認してくださいね。まったく、ナカミチ君がせかすからあわててスカートを探ってしまいました。品のない事をさせないでください」

#ナカミチ

「俺のせいではないと思うなぁ」

#ナレーション

女性に恥をかかせるとは。ましろちゃんは封筒の中身を取り出しながら確認している。このみちゃんのこんなノリにも慣れたのだろう。成長のあかしである。

#ましろ

「……うん。ぴったり2人分入ってる。みしろにも渡しておくね」

#このみ

「?2人分ですか?」

#ましろ

「え?う、うん。封筒に書かれた金額の2人分だけど」

#ナカミチ

「……。ミス、か」

#ましろ

「え?」

#ナレーション

なにかあったらしい。お金のことだ、ややこしくならなければいいが。

#このみ

「私たち封筒は2つあずかっているんです。ましろちゃんの分とみしろちゃんの分と1つづつ。この後みしろちゃんにも渡す予定だったのでその封筒には1人分のお金しか入っていないはずなんです」

#ましろ

「でも2人分入っているよ。ほら」

#ナレーション

机にお金を広げる。たしかに封筒に書かれた金額より明らかに多い。ちゃんと数えたらきっと封筒に記入された金額の2倍だ。きっと。

#このみ

「お金の事なのでちょっとこっちでも確認しますね。…………たしかに2人分入ってます」

#ナレーション

2倍入っていた。

#ナカミチ

「一度返した方がいいな」

#このみ

「そうですねぇ。すいませんましろちゃん。一度返していただきますね」

#ましろ

「うん。それはいいんだけど……。これくぜ先生が渡してくれたんだよね」

#ナレーション

ましろちゃんは手元で再度お金を封筒に戻しながら不安げな顔をする。

#このみ

「そうですね。くぜ先生から研究室の前でお預かりして持ってきました」

#ナカミチ

「そこで確認するべきだった。もうしわけない」

#ましろ

「別にそこまで他人行儀に謝らなくていいけど」

#このみ

「いえ。私たちが経理を担当しているので私たちの責任です。すみません。ですが本人以外が封筒の中身を確認するのもどうかと思っていたので、とりあえず次からは確認します」

#ナレーション

経理。おそらくナカミチ君達の学校で行われる魔道祭のなにかだろう。そういえばなにかをやるとかともみさんになにかナカミチ君が言っていたはずだ。とにかくその準備でなにか費用が発生したのだろう。なにかが。

#ましろ

「いや、そこじゃなくてね。……最近くぜ先生おかしくない?」

#ナカミチ

「……おかしいとは?」

#このみ

「いや、ナカミチ君が気付いてないわけないですよね。人の顔色ばっかりすぐ気がつくのにそれはないですよ」

#ナカミチ

「……疲れているだけだろう」

#ましろ

「そこだよね。結局わかってるんだ」

#ナカミチ

「なんで責められるんだ……。」

#このみ

「知らないふりするからですよ」

#ナレーション

わからないとしらないとわからないふりとしらないふり。使い分けていくべきだ。ばれていちゃ世話がないが。

#ナカミチ

「とにかく、くぜ先生も忙しいんだろう。うわさじゃ研究が大詰めらしいし」

#このみ

「そのうわさどこからの情報ですか」

#ナカミチ

「……俺が思うに大詰めだと思う」

#ましろ

「信憑性高いような低いような……。」

#ナレーション

見知らぬ誰か、友人の友人から聞いた話よりは信憑性があるだろう。50100歩かもしれないが。

#ましろ

「でも私が言いたいのはそういうことじゃなくて、さっきナカミチ君も言ったじゃない。疲れているって。大丈夫なの?最近くぜ先生の不調、日常生活にまで影響が出ているじゃない」

#このみ

「……まぁたしかにそうです。このお金の事に限らず、まぁこのお金の事もそうです。もともと学校側から補助金が学生に渡されるという話もくぜ先生は忘れていらっしゃいましたし」

#ナカミチ

「もともと補助のお金が出るわけでもないから低予算でステージをしようという話も出たんだしな。議論のやり直しもあり得た。……とにかくそれはくぜ先生も強く謝って来たし俺達も納得しただろう」

#ましろ

「費用があるからってあるだけ使う必要はないって風紀さんがまとめたからよかったけど。先生としてかなり危ないミスだよ?そういう意味で大丈夫なのかって心配なんだけど」

#ナカミチ

「……先生に大丈夫なのかって言うのも変だろう。生徒が先生に注意するのも……。それにくぜ先生だって俺達が初めての担当だしな。優秀でも初めてならわからないことだってあるだろう」

#ナレーション

そうなのである。去年からクラス担任として働いているのである。歴戦に見えるが。いや、別にふけて見えるとかではなくて。

#このみ

「たしかに2年時は文化祭と合わさってややこしそうですねぇ。あっちは生徒の実費ですし」

#ナレーション

行事が重なるとややこしいだろう。

#このみ

「しかしナカミチ君。この前の授業も……。覚えていますよね?」

#ナカミチ

「……。」

#ましろ

「あれ完全に気を失ってたよね?黒板の方向いてたからわからないけど」

#このみ

「立ったまま寝てたってやつですよね。動かなくなったと思ったら手に持っていたチョークを落とすんですもん。くぜ先生がチョークを落とすところも始めてみましたが。全員チョークの落ちた音に驚いてました」

#ましろ

「風紀さんが先生を呼んでようやく動いたけど……。」

#ナレーション

その後は普通に授業が進行したのだろう。そういえば風紀さんはどうしたのだろうか。いつもしゃしゃり出てくるのに。

#ナカミチ

「まぁそういうこともあるだろう」

#ナレーション

ナカミチ君風紀さんの机を見る。机に突っ伏して寝ていた。寝ていない話をしているなか堂々と。とにかくどうやら今は昼休みらしい。風紀さんが寝る時間帯だ。

#このみ

「……ナカミチ君がこういう時なんとかするんでしょう?ほら麗しい女性を助けれるチャンスですよ。……まぁ最近さらに目のクマがひどい事になっていますが」

#ナカミチ

「とにかく、今からくぜ先生に会うのは難しいし6限目の魔道実習でくぜ先生と会う約束しているからその時一度お金を返しておく。いいよな」

#ナレーション

くぜ先生と会うのが難しい。何か理由があっただろうか。

#このみ

「会う予定があるならお任せしますよ。今、くぜ先生は研究室でしょうし」

#ナレーション

そういえば普段は研究室に閉じこもっているのだった。

#ましろ

「じゃあこれ、よろしくね」

#このみ

「あぁ、こっちのもです。どうぞ」

#ナレーション

2人からお金を受け取る。つまり女性からお金を収集する姿。別に他意はない。

#みしろ

「姉さーん。あったかい飲み物買ってきたよ―」

#ナレーション

帰って来たみしろちゃん。

#ましろ

「ありがと。それじゃご飯にしよっか」

#みしろ

「うん。姉さんのご飯おいしいから楽しみ」

#ましろ

「おいしいって、料理はみしろも同じぐらいできるでしょ」

#みしろ

「私はあんまり手間かけないから」

#ナレーション

姉妹の差があるようでないような感じだった。

#このみ

「そうですよねぇ。姉さんのご飯ってなんであんなにおいしいんでしょうかねぇ」

#ナレーション

こっちは姉妹で差があった。

#ナカミチ

「まざるな、まざるから」

#ナレーション

姉さんがかぶる。ちなみに基本、みしろちゃんは姉をねえさんと呼んで、このみちゃんは姉をねぇさんと呼ぶ。またひとつ差がある事がわかった。

#みしろ

「むっ。勝負する?このみちゃん」

#このみ

「我が姉は簡単には破れません。思い知らせてやります」

#ましろ

「本人の了承を得ず勝手なことしないで」

#このみ

「まぁまぁ。ここに公平な審判がいますから。昔、姉さんのお弁当を食べた事のある……。あ、逃げた」

#ナレーション

ナカミチ君自分の席に戻る。彼に審判を依頼してもどっちもおいしいみたいなことしか言わないだろう。ちなみにナカミチ君の席にはなぜか風紀さんが突っ伏して寝ていた。面白そうだから逃がさないという意思表示だろう。

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

かばんからお弁当を取り出してどこかへ。食堂とかで食べるつもりだろうか。

#ふうき

「あー。いや、よく寝たなぁ。おや?席間違えていたみたいだね。ごめんごめん」

#ナレーション

急いで立ち上がって席をナカミチ君へ返す風紀さん。とてもすがすがしい態度だ。風紀さんも押し切らない所があるから。まぁこうなる。こうしてナカミチ君は平穏なお昼休みを手に入れたのだった。

#ナレーション

まぁそんな感じで日々が過ぎて行った。

 

 

 

 

#ナレーション

そして、学校がにぎやかな日。日本国立魔術研究特殊高等学校。その威信がかかる日がやってくる。

#ナレーション

魔道祭である。

#ふうき

「いやー。予想はしてたけど」

#ふうき

「ほんと誰も来ないね」

#ナレーション

教室にポツンと3人いる。風紀さんとナカミチ君、ミサキちゃん。教室内は展示物らしきものが並んでいる。他には誰もいない。

#ミサキ

「外は盛り上がってるのにねー」

#ナレーション

廊下先のグラウンドからは歓声が聞こえる。おそらく去年から察するに現1年生たちの魔道対抗戦中なのだろう。

#ふうき

「ステージは変わっていない。戦法は去年出た。大きな番狂わせも起きないだろうに。ご苦労な事で」

#ナカミチ

「他人事すぎるだろう……。」

#ふうき

「そういわれてもねー。ステージは変えるべきだって現生徒会に一応進言したのに」

#ナカミチ

「俺とこのみが、な。変えるのにも苦労があるんだろ」

#ふうき

「変えるより新しく始める方が大変だと思うけどね。ともみさんの苦労よりは楽だと思うけど」

#ミサキ

「ともみさんは大きな壁だねぇ」

#ナレーション

比較対象が大きすぎる。

#ナカミチ

「あんまり愚痴を言うもんじゃない」

#ふうき

「それもそうだったね。言うだけの私たちが批判できる事でもないか。反省しよう」

#ふうき

「それにつけても暇だねぇ。ミサキちゃん」

#ミサキ

「そうだねぇ」

#ナレーション

反省はわずか1秒ももたなかった。まぁ時間が長ければいいというものでもないか。

#ナカミチ

「まぁ来るやつは本当に全部の展示を見て回ろうとしている奴ぐらいだろうしなぁ」

#ふうき

「いやぁ。うちの学校も大変だね」

#ミサキ

「そうだねぇ」

#ナレーション

本当に心配しているのは何人いるのか。学生に求める事かどうかは微妙だが。

#ふうき

「もうちょっと発表も自由にさせてくれたらいいのにねぇ」

#ナカミチ

「というと?」

#ふうき

「代案は無いけど」

#ナレーション

どうしようもなかった。というよりもいったいどんな展示物や発表なのか。

#ふうき

「少なくとも学生の工作物やお料理の展示じゃねぇ」

#ミサキ

「そうだよねー」

#ふうき

「……ミサキちゃん、もしかして眠い?」

#ミサキ

「えっ?い、いくら暇だからって2人いるのに眠たくなるわけないよ!いやだなー!」

#ナレーション

さっきから、そうだよね。としか言っていない。

#ふうき

「私は眠いよー。暖房に日差しにナカミチ君に外から聞こえる一定の雑音」

#ナカミチ

「なぜ混ぜた」

#ナレーション

眠たい奴とかいうあれだろうか。

#ミサキ

「そうだよねー。眠いのも仕方ないよねー」

#ナレーション

あっさり認めた。

#ふうき

「……。ま、まぁとにかく。市販の魔動機械をばらしてみましたとか温度計の温度を魔力で上げてみましたとか。ましてや飴を作ってみました。で人が来るわけないよ。うん」

#ナカミチ

「わるかったな」

#ナレーション

飴を作った人だろう。

#ふうき

「おいしいとはおもうけどね。もごもご」

#ナレーション

机に置かれた飴を口にほおりこむ。

#このみ

「ただいまですー」

#ふうき

「おかえりー。はやいねー」

#このみ

「あんまりやることもありませんしね。この後の事を考えるとあまりはしゃいで疲れるのもいけませんし」

#ふうき

「……うん。そうだねぇ。ところでなんかそわそわしてない?」

#このみ

「そうですか?」

#ナレーション

そわそわというかきょろきょろはしているように見える。そわそわしていると言われればそっちの方が近い気もしてくる。

#ナレーション

そうしていると教室のドアがガラガラと開く。ともみさんだった。最近よく見かける。いや、実際には3か月ぶりぐらいではあるのだが。

#ともみ

「おじゃまします。お久しぶりですね皆さん」

#ナレーション

お久しぶりである。具体的には3か月ぶりぐらい。皆様の体感ではどのぐらいだろうか。

#このみ

「あ、姉さん。偶然ですね」

#ともみ

「行くと言ってましたよね。さっきメールも送りましたし」

#このみ

「そうでしたっけねぇ」

#ナレーション

どおりでそわそわしていたわけである。

#ふうき

「お久しぶりです。このみちゃんが待ちきれなさそうにしていましたよ」

#このみ

「してませんよ」

#ナレーション

していなかった。

#ナカミチ

「それで教室に戻って来たのか」

#ナレーション

どおりで教室に戻ってきたわけである。

#このみ

「勝手な想像ですね」

#ナレーション

勝手な想像だった。

#ミサキ

「お久しぶりです。今日はこのみちゃんの舞台を見に来られたんですか?」

#ともみ

「えーっと。まぁそうですね。一応皆さんの舞台を見に来てはいるつもりではあるのですが」

#ナレーション

舞台。劇でもやるのだろう。そういう話が出ていた気もする。

#このみ

「私の存在は目を引きつけますからね。同じ舞台に立つ人には少し気の毒です」

#ナカミチ

「そりゃどうも」

#ともみ

「まぁそういうのは無いにしても一応身内ですから注目はしますよ」

#このみ

「ふっ。罪な女です……。」

#ともみ

「褒め言葉のように使わないでください」

#ナレーション

呆れていらっしゃる。

#ともみ

「それで劇を見に来たわけではあるのですがその前に皆さんの展示物を見せていただこうと思いましてね。少し早目に来たわけです」

#ナカミチ

「ええっと。それは……。飴の作り方ぐらいしかなくて……。」

#ふうき

「もうちょっと自信持てば?」

#ミサキ

「さっきと逆みたいになってる」

#ナレーション

確かに同じ様な流れを見た。

#ナレーション

ひと通り見てまわった後は風紀さんがともみさんと自分の研究について質問していた。どうもともみさんの研究を掘り下げているらしい。

#ナレーション

そうしていると教室にクラスメイト達が戻ってくる。

#クラスメイト

「おーす。そろそろ用意、って生徒会長?!」

「生徒会長?!」

「私服の生徒会長!?」

#ともみ

「いえ。生徒会長だったのはもう2年前の話ですけど」

#ナレーション

彼らの中では生徒会長のイメージが強いのだろう。

#ともみ

「そろそろ舞台の用意もあるでしょうし失礼しましょうか。風紀さんその方法を使えば確かに魔力は平均化するとおもいます。やはり後は実現方法になってくるわけですが……。」

#ふうき

「……まぁないものは無いんでしょう。さすがに見つけられるとは思っていません」

#ナレーション

ともみさんも去りクラスメイト達はどんどん帰ってくる。

#このみ

「皆さん準備できたみたいですし更衣室向かいますよー。更衣室にはまだ入らないでくださいねー。前のクラスが使っているはずなのでー。日直さんは戸締りお願いしますー」

#ナカミチ

「廊下に並ばなくていい。各自更衣室前まで向かってくれ」

#ナレーション

教室は閉められ、展示は一時中断。2年生のもう1つの出し物が始まる。

 

#ふうき

「はははは!その程度か!我らが首領様の手を煩わせるまでもないようだ!ここで朽ち果てるがいいっ!」

#ナレーション

ふかぶかと帽子をかぶっている風紀さん。急なイメージ変更である。話のジャンルまで変わっている。ナレーションも驚かざるを得ない。ではなく、体育館の舞台で演劇中。おそらく戦隊物のはずだ。変更がなければ。

#このみ

「いいえっ!そうはいかない!!みんなの平穏は守って見せます!イエロー!ピンク!グリーン!ブルー!」

#ナレーション

赤いハチマキをつけて、いつか見た赤いスカートをはいている。おそらくこのみちゃんがレッドなのだろう。ヒーローみたいな事を言っているし間違いない。

#ましろ

「ああ!今こそ僕たちの力を1つに!」

#ナレーション

違和感がすごい。なぜ僕っ子にしたのかハチマキが緑だしグリーンだろう。下のスカートは赤色だが。

#みしろ

「行きますわ!」

#ナレーション

ピンクのハチマキに赤いスカート。おそらくこのスカートは去年の文化祭のものを併用したものだろう。どうりで見かけた覚えがある。立ち絵じゃ見えないとか言われても困る。

#ナレーション

いや、しかし去年のスカートということは双子のスカートは無いはずである。その時にはクラスが違ったのだ。つまりこれは設定ミスか。はたまた前に話していた進捗の件がこのスカートのことだったのか。おそらくそういうことだろう。

#クラスメイト

「さぁ。どこまで合わせられるか」

「行ける所までだろ!遅れるなよ!」

#ナレーション

青いハチマキと黄色のハチマキ。そして紺色のベストを着ている。ベストは上に着るものだからハチマキと一緒に見えているだろう。見えないなら心で見るしかない。

#このみ

「やぁっ!!」

#ナレーション

舞台の上で戦闘が始まる。殺陣(たて)とかいうやつだろう。

#ナレーション

このみちゃんが中心となって風紀さんとアクションを繰り広げる。ましろちゃん、みしろちゃんが追撃をあわせてそれを全て風紀さんが腕と手で受け流しているように見えるがもちろん当ててはいない。

#ナレーション

ブルーとイエローは後方から狙撃を行うようだ。ブルーは見た目が長方形に近い変わった銃を構え、左肩で支える。安定した構え方だ。イエローはいかにも漫画チックな緑色の巨大なバズーカ砲を構えている。

#クラスメイト(ブルー)

「そこだっ!」

#ナレーション

パシィ!!と音が体育館に響く。銃口からは光と少量の煙が立ち上る。本格的だ。客席から見えないよう銃の後ろで指をつけたりはなしたりして、その指先から煙が出ているように見える。きっと魔法だと思いたい。

#ふうき

「ぐうぅ!こしゃくなっ!!」

#ナレーション

肩を抑え少し後ずさる風紀さん。

#クラスメイト(イエロー)

「こっちも準備オッケーだ!3人とも離れろ!」

#ナレーション

バズーカから少量の煙が漏れ出ているように見える。

#ましろ&みしろ

「「やあっ!」」

#ナレーション

息のあった見事な足払いが風紀さんの左右から迫る。

#ふうき

「おのれ!」

#ナレーション

ジャンプ。見事にかわす。

#このみ

「とおっ!」

#ナレーション

すかさず正拳突き。見栄えが全てと言わんばかりの構えであるが。

#ふうき

「ぐうっ!」

#ナレーション

よけきれず当たる。いや、もちろん演技である。当たっていたら痛い。よろけて後ずさる風紀さん。

#クラスメイト(ブルー)

「うおおおお!」

#ナレーション

タパパパパ、と音が響く。援護射撃だろう。銃口から光が点滅している。煙はもう出ていない。

#クラスメイト(イエロー)

「今だ!」

#ナレーション

ドシュウ!と音が鳴りバズーカから大量の煙が噴き出る。漏れ出るという方が近い感じもするが。どちらかというと噴き出ると言った感じである。ひいき目ではなく。

#

ズドーン!

#ナレーション

音が鳴り響く。おそらく風紀さんに直撃したのだろう。バズーカが人に直撃というとだいぶひどい表現と言わざるを得ない。もはや戦隊物と言うより戦争ものだろう。それでも悪趣味な表現だろう。

#ふうき

「ぐあああああああっ!!!お許しください首領様ー!……っ?!」

#ナレーション

叫びながら舞台袖へ勢いよく引っ込む風紀さんだったが、勢いよくやりすぎたのだろう。ふかぶかと被っていたぼうしが外れ落ちる。転がって舞台の上に残った。風紀さんとしては痛恨のミスだ。

#このみ

「……!やった!勝った!」

#ナレーション

舞台は続いている。悪目立ちする帽子が舞台に残っていたとしても。誰かが舞台から持ち出さない限り。知らぬ存ぜぬで進めた方がいい。

 

 

#ナレーション

急に音楽が鳴り始める。おどろおどろしい雰囲気だ。

#???

「ぐはははは!所詮は役立たずか!」

#このみ

「えっ?」

#ナカミチ

「多少みどころがあると我が力を分け与えてやったというのに。結局このざま!所詮は人間!この程度の奴らに敗北するとはっ!笑いしか起こらんな!」

#ナレーション

マントをはおり、少なくとも正義の味方が使いそうにはない禍々しい長い杖を持って出てきた。ナカミチ君が。外道悪役として。おそらくラスボス。主人公がラスボスという展開。これは間違いなく熱い場面だ。

#ナカミチ

「そうは思わないか!?ぐははははっ! 」

#ナレーション

狂気まで入っている。これはさらに熱い展開。舞台の中心まで歩きながら落ちていた帽子を拾い。かぶりながら大絶叫。帽子回収任務完了。これは間違いなく冷静だ。

#このみ

「……。あなたがボスね!私たちの国をどうして支配しようとするの!」

#ナレーション

おそらく既定路線に戻った。後は台本通りだ。

#ナカミチ

「国ぃ?支配ぃ?ちがうなぁ!世界の破壊!それこそが我が目的!」

#ナレーション

どうもラスボスの首領は魑魅魍魎(ちみもうりょう)、妖怪の類(たぐい)らしい。それも悪霊。ヒーローが容赦なく倒せる相手が出てきた。その後、話は順調に進みナカミチ君舞台袖へ退場。やられたのだろうか。

#ナカミチ

「みせてやろう!これが私の本当の姿だ!」

#ナレーション

叫ぶと同時にわずかに暗くなる。

#このみ

「な、なんですって!」

#みしろ

「あれが……。あれが、首領の本当の姿ですの?!」

#ナレーション

おそらくだが彼らの名前は首領だとか幹部だとかレッドだとかいう名称しかないのだろう。固有名詞はおそらく無い。暗くなった舞台でヒーローたちもナカミチ君達とは逆の舞台袖へ引っ込む。

#ナレーション

すると同時に舞台袖で待機していたクラスメイト達が小声で声をかけあって何かが舞台袖から舞台へと押し出していく。

#クラスメイト

「よーし。いくぞー」

「おー」

「ゆっくりなー」

#ナカミチ

「ぐはははは!もう手も足も出まい!」

#ナレーション

真の姿を現し巨大化した。張りぼてだが、足元にはこれまたベニヤ板に書かれたビル群が。巨大化した大きさを表現しているようだ。おそらく40メートルから50メートルぐらいの設定だろうか。声も加工されたものだ。続いて舞台袖からだとは思われるがどこかから聞こえた2人の声が響く。

#ましろ()

「レッド!」

#このみ()

「ええ!巨大ロボ出動要請!」

#ナレーション

ロボットものだった。巨大首領とは反対の舞台袖からロボットが出てくる。張りぼてだが。後はなるようになるのだろう。多分ヒーロー側が勝つ。

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

舞台袖で休憩するナカミチ君。首領役もおわったのだろう。さっきの巨大首領の声も加工ボイスであったしもう用済みだ。悲しい。舞台では録音された声が流されている。ヒーロー側の声も録音になっている。

#ふうき

「お疲れ様ナカミチ君。帽子ありがとうね」

#ナレーション

風紀さん登場。ナカミチ君から帽子を受け取る。

#ナカミチ

「なんとかできて良かったよ」

#ふうき

「個人的にはもう巨大化の暗転時に取りに行くまであのままだと思ってたから。すぐに回収してくれた時は安心したよ。ありがとう」

#ナレーション

後は無事に舞台が終わるのを見届けるだけである。クラスメイト達も舞台袖から眺めている。今忙しいのは舞台演出だろう。光ったり煙が出たり。張りぼてが動いたり。

#ましろ(録音)

「魔動エンジン機構稼働率100%!これ以上はオーバーヒートしちゃうよー!」

#みしろ(録音)

「でも緩めるわけにはいきませんわ!それでも押し負けている感じですのに!」

#ましろ(録音)

「でももうエンジンに限界がくるよ!」

#このみ(録音)

「エンジンさらに稼働をあげて!限界が来る前に決着をつけます!」

#ナレーション

クライマックスも近いようだ。

#ナカミチ

「なぁ風紀さん」

#ふうき

「なぁに?ナカミチ君?そうやって改まって聞かれる時ってあんまり良い記憶がないんだけどね。私の気のせいかなぁ?」

#ナカミチ

「……そうかな。……そうかもしれないな。……風紀さん。前の魔道祭で聞きたい事があるんだ」

#ふうき

「こっちには話したい事は無いよ?それ聞いてどうするの?ねぇ?そっちの方が聞きたいなぁ」

#ナカミチ

「あの日風紀さんは一度全員を集合させるという作戦をとった。あれは本当に必要だと思ってやったのか?」

#ふうき

「うん、そうだよ?そう言ったじゃん。忘れたの?」

#ナカミチ

「いや、すまない。そういうことじゃないんだ。そうじゃなくて。……そう、風紀さんは何を恐れていたんだ?」

#ふうき

「ナカミチ君?」

#ふうき

「わかってて聞かないでくれる?気分悪いよ」

#ナカミチ

「そうか」

#ふうき

「ナカミチ君が何を思っているかは私にはわからないよ。でもきっとあってると思うよ。よかったね」

#ナカミチ

「……。」

#ふうき

「あぁごめん。いいすぎたかな。でもさ、おかしいよね。なんで私だけこんなに追い詰められなきゃいけないの?ほかにさ。あると思わない?ねぇ」

#ナカミチ

「追い詰めたい奴が、か?」

#ふうき

「……。あのねナカミチ君」

#ふうき

「私ナカミチ君に嫌われてるのかな?」

#ナカミチ

「そんな事は無いよ」

#ふうき

「……うん、そうだよね!」

#ふうき

「いつも助けてくれるからね。ナカミチ君は」

#ふうき

「でも味方にはなってくれないよね」

#ナカミチ

「……そんな事は無い」

#ふうき

「……そうだね。でもね、そう、なにかな、わからないんだよ。私も。思い返すとね。わからないの」

#ナレーション

風紀さんは目線を舞台に向ける。舞台はクライマックスだ。風紀さんはもうしゃべらない。

#ましろ(録音)

「エンジン限界!」

#このみ(録音)

「心臓部の前方ハッチ開けて!突っ込む!」

#みしろ(録音)

「その後は?!」

#このみ(録音)

「エンジンを上限はずして全回転!エンジン自体の熱で倒しきるっっ!!!」

#クラスメイト(ブルー)(イエロー)

「文字通り最終兵器だな」

「もう後がない、やるしかないか!」

#総統(録音)

「おのれええええっ!!!!貴様らごときがっ!私を倒せると思うなあああああっ!」

#ナレーション

総統の張りぼてとロボットの張りぼてがぶつかる。動かしていた演出組は舞台から引っ込む。同時にましろちゃんとみしろちゃんが這いながら舞台の中央に。ビルの書かれたベニヤ板で観客からは見えないだろう。

#ヒーロー達(録音)

「おおおおおおおおおお!」

#総統(録音)

「ぐおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」

#ましろ(録音)

「制御機関破損!爆発する!」

#このみ(録音)

「全員脱出!」

#ナレーション

ばしゅばしゅばしゅ、と5人分の脱出音が響く。ビル群のベニヤ板が舞台袖へ引っ張られる。瞬間残される2つの張りぼて。その後ろにはましろちゃんとみしろちゃんが隠れている。

#ましろ&みしろ

「「――――」」

#ナレーション

閃光と共に炎がまきあがる。おそらくフレイムの魔法だろう。舞台の上で激しく燃え盛る。

#ナレーション

張りぼてで作られた2つの物体は燃えて消える。わずかに骨子だったのだろう、木の棒が床に落ちる。

#ナレーション

同時に一気に煙、いや、水蒸気が膨れ上がる。おそらく2人のどちらかが魔力による水生成を行ったのだろう。まき散らされる水は高温の熱により一気に水蒸気となり舞台が霧に包まれる。

#クラスメイト

「行くぞー」

「モップ隊出動ー」

「できるだけ列を乱すなー」

#ナレーション

霧にまぎれて舞台が片付けられる。床をモップがけするだけだが。残ったのはましろちゃんとみしろちゃんだけ。2人が立ち上がると、残ったヒーロー役が舞台袖から出てくる。

#ナレーション

それぞれ決められているのであろう位置に立ちスポットライトが当てられる。残っている霧も合わさり幻想的だ。

#このみ

「私たちの勝利です!」

#ナレーション

声高らかに宣言する。同時に舞台の幕が下りてくる。終幕だ。

#ふうき(録音)

「こうしてヒーローたちの活躍によって世界の平和は守られました。彼女たち、ヒーローがいる限り悪は栄える事は無いでしょう。めでたしめでたし」

#ナレーション

最後の締めは風紀さんによるナレーション。いいナレーションだった。

#(放送)

「以上で2年101組機械科の演目を終了いたします」

#ナレーション

客席から大きな拍手が聞こえる大成功だろう。

#クラスメイト

「よっしゃ、大成功だぜ!」

「想像以上だったね!」

「演出がばっちり合わさっていたな」

#ナレーション

幕が完全に降り、舞台袖にいたクラスメイト達が全員舞台に出て成功を分かち合っている。

#このみ

「……やりました。文字どうり私たちの勝利です」

#ナカミチ

「何に勝利したんだ」

#このみ

「……自分?」

#ふうき

「はーい、感想は教室に戻ってからだよー。汚れた舞台を一気にかたずけてー」

#このみ

「ほら、片づけますよ」

#ナカミチ

「わかったわかった」

#ナレーション

風紀さんがばらまいたぞうきんを拾ってまだ濡れている床を完全に拭く。

#このみ

「いやー、さすがうちの学校の体育館です。魔術系の炎で焼けたりはしていませんね」

#ナレーション

床は濡れたり残っている煤を拭き取れば綺麗なフローリングが見える。

#ナカミチ

「別に魔法以外の炎も耐えるものを使っているだけらしいけどな」

#このみ

「まぁ魔術の炎だけを防ぐ素材とか聞いたことないですしそうでしょうね。じゃあなんで普通の火は使用許可でないんでしょうか」

#ナカミチ

「やけどする可能性があるからだな」

#このみ

「なるほど」

#ふうき

「魔法学校のメンツを保つためじゃない?」

#このみ

「なるほど!」

#ネネ

「掃除終わりましたからさっさと舞台からはけてください」

#ナレーション

舞台から出て教室へ。やるべき事は成功に終わった。となると後は打ち上げである。

 

#ふうき

「えー。この度は大変ご迷惑をおかけしました」

#ナレーション

反省会だった。

#クラスメイト

「?あぁ帽子の事か」

「すっぽ抜けていったんだって?舞台袖からじゃ良く見えなかったけど」

「ナカミチが急にアドリブで取ってくるって言ったからびっくりしたけど」

#このみ

「舞台は何が起きるかわかりません。大事なのはカバーできる仲間だってどっかで聞いた気がしますしなんとかなってよかったじゃないですか。帰りに廊下であった姉さんも絶賛してましたし。つまり大成功ですね。あーっはっはっは」

#クラスメイト

「そういうことだな」

「しかし高笑いを聞くと思いだすな」

「あぁ。ナカミチ君の高笑いね。ぐははは、だって。もう配役がぴったり過ぎて。くすくす」

#ふうき

「……そうだね。いや、まったく」

#ナレーション

そんな事を言っているとふいに教室のドアが開く。くぜ先生が入って来た。

#くぜ

「皆さんお疲れさまでした」

#ミサキ

「あ、くぜ先生!舞台どうでした?!」

#くぜ

「すごかったですね。よくあそこまで考えたものです」

#ネネ

「見に来て下さってうれしかったです」

#くぜ

「……練習は見てあげれず申し訳ありませんでした。それにお金の件も」

#ふうき

「まぁたまには休息を取ってほしかったんですよ。楽しんでいただけたのならクラス一同感謝の極みです」

#くぜ

「……そうですか」

#このみ

「ましろちゃんとみしろちゃんのスカート費用も経費でちゃんと落とせましたしそれで十分です。いや、順調順調!さて、そろそろ解散して私たちも魔道祭楽しみましょうか!」

#くぜ

「……解散の前に、1つ」

#ナレーション

教室の扉が開く。勝手に開いたように見えた。勝手に段ボール箱が入ってくる。どうやってといわれると、こうふわふわと浮いて入ってくると言った感じである。

#みしろ

「え?なに?浮いてる?」

#ふうき

「わーい。ジュースだー。くぜ先生からの差し入れだー」

#ネネ

「え?そうなんですか?!たしかにジュース類の段ボールに見えますが?!」

#くぜ

「……まぁ、仕方なく。今日はもう魔法を使う予定もありませんし」

#ナレーション

何がどう仕方なくなのかわからない。多分体力面だが。ただ魔法を使う予定がないというのは浮遊がすごい魔力を使うということだろう。もう今日は何も魔法は使えないという消耗レベルかもしれない。

#このみ

「……やっぱり間近で見るとすごいです!おとぎ話に出てくるような魔法!」

#ナレーション

大興奮であった。

#くぜ

「…………そしてもう1つ」

#さいか

「ま、まだなにか……?」

#くぜ

「ええ。……私の研究。完成したら、あなたたちに初めに体験してもらおうと思います」

#ミサキ

「え?いいんですか!?」

#クラスメイト

「えぇっ?!くぜ先生の研究見せてもらえるんですか?」

「何やっているのかもわからなかったのが見れるの!?」

「す、すごいんだろうなぁ」

#ナカミチ

「く、くぜ先生の研究を……?」

#ふうき

「こ、国家機密……。ブラックボックス……。」

#ナレーション

正しく規模を理解している2人。

#このみ

「あ、あんな魔法が使えるくぜ先生の研究。期待が高まります!ですが、とにかくまずはいただいたジュースで乾杯しましょう!」

#ナレーション

反省会から始まったが、お疲れ様会、いわゆる打ち上げに変わった。乾杯と同時に解散が宣言された。食べ物を買いに行ったり、飲み干して遊びに行ったり、打ち上げ会場兼展示室に成り果てた教室の次の待機担当だったり。自由だ。

#ナレーション

くぜ先生は、疲れているので帰って寝ます。戸締りだけきっちりお願いします。といって帰った。くぜ先生が寝ると言ったら誰も止める気にはならなかった。目を見たら寝た方がいいと誰もが思う。

#ふうき

「ナカミチ君」

#ナレーション

風紀さんがやってくる。

#ナカミチ

「なんだ?」

#ふうき

「さっきはごめんね。私全然進歩してないね。いつもナカミチ君のせいにして」

#ナカミチ

「進歩していないっていうのは良くわからないが、べつに風紀さんが俺のせいにしたことなんてないよ」

#ふうき

「そう?思い返すだけで2、3回はあった気もするけど」

#ナレーション

あった気もする。

#ナカミチ

「……いつもの冗談はカウントしてない」

#ふうき

「カウントしないんだ。覚えておくよ」

#ナレーション

何時か使う気だろう。

#ふうき

「私まだ昔の事にとらわれている。そういうことだよね」

#ナカミチ

「俺も前はとらわれていると思っていた。……でも昔の事じゃないと思うようにしたよ」

#ふうき

「え?どういうこと」

#ナカミチ

「いつか全部清算する」

#ふうき

「!」

#ナレーション

過去を忘れたくても忘れられない。だから彼は。

#ふうき

「……しなくていい。しなくていいよ。そんなことしなくてもきっと何とかなる。何時か」

#ナカミチ

「そんなことにしたくない。この日々を。1日だって」

#ナレーション

忘れてしまいたいような過去にしないと決めた。

#ふうき

「なってしまったものをなんとかするなんておとぎ話の魔法使いでも無理だよ」

#ナレーション

風紀さんは誰かの机に置かれた缶ジュースを見ながらつぶやく。

#ナカミチ

「一応魔法使いだからなんとかなるかもしれないな」

#ふうき

「……なんでかな。いつも最後に意見が食い違う。最後の最後に。いつも」

#ナカミチ

「……。なんでだろうな」

#ナレーション

いつかわかる日が来るだろうか。相手の考えている事以上の事が。

#このみ

「ナカミチくーん。風紀さーん。遊びに行きましょー」

#ナレーション

えへらえへらとこのみちゃん。

#ナカミチ

「誰と」

#ナレーション

そこをなぜ確認しないといけないのか。

#ふうき

「このみちゃんにネネちゃん、ミサキちゃんさいかちゃん。ましろちゃんみしろちゃん。そしてみんなだいすき風紀ちゃん!で、あとナカミチ君」

#このみ

「あ、私もみんなだいすきこのみちゃんみたいなの欲しいです」

#ふうき

「うーんとねー。みんな目を引くこのみちゃん!とか」

#このみ

「うーん。もうちょっとこうメルヘンな感じの……。」

#ナカミチ

「他の奴と回るから」

#このみ

「去年も言ってましたよね。それ」

#ふうき

「進歩ないよねー。ナカミチ君も」

#ナレーション

さっきまでその言葉は深刻に使っていなかっただろうか。

#ナレーション

結局8人で練り歩いた。他のクラスの人からだけでなく同じクラスメイトからも少し避けられていたのは気のせいではないだろうとナカミチ君は思ったのであった。

#ナレーション

そして―――

#ナレーション

また1つ忘れることのできない日が近づいて来ている。

 

 

#ナレーション

あれから1週間がたち、もうすぐ3年生は卒業である。ナカミチ君達も最上級生になる。長かったようなそうでもないような。

#ナレーション

彼らはどうだろうか。過ぎ去った年月はふり返ればまるで一瞬のよう。もしくはふり返りつくせないような毎日だっただろうか。それだと日々があっという間に過ぎて。……結局一瞬だろうか。

#このみ

「こ、これが先生の研究室」

#ナカミチ

「足の踏み場が……。」

#ナレーション

まぁ当の本人たちは今日を全力で生きるのみである。今は本来、週に1度の魔道実習の時間。今日はくぜ先生の研究室にお邪魔しているようである。床は機械から伸びているコードの束が占領している。

#くぜ

「別に踏んで構わないのでとにかく全員入ってください」

#ふうき

「ほら。早く入ってよ。後ろ押されてるから」

#クラスメイト

「け、研究室はどんな感じなんだ」

「どうなの?すごい?」

「み、見えん」

#ナレーション

待ちきれないご様子。とにかく研究室の奥まで全員が入る。部屋の中心にはVRゴーグルのようなものが大量に置かれている。くぜ先生に言われ1人1個づつ配られていく。

#このみ

「くぜせんせー。配り終えましたー」

#くぜ

「わかりました。ではその辺に座ってください」

#ナレーション

床というかコードの束というか。全員しゃがんで座る。

#くぜ

「ではこれから私がこの部屋に魔力を充満させるのでそれに合わせて各自ベクトル操作をゴーグルに向けて使ってください。皆さんにしていただくのはそれだけです」

#クラスメイト

「ベクトル操作って何だ?」

「知らない事は聞くしかない。教えてくれ」

「知らない事は知らない」

#くぜ

「……重力操作。浮遊魔法と呼ばれるやつです」

#クラスメイト

「そういえばそういう呼び名だったよね」

「普段使わないからね」

「大丈夫かしら」

#ナレーション

普段魔法を全然使わないため名称すら覚えていなかった。恩恵がないから忘れたのだろう。

#このみ

「浮遊魔法なんて久しぶりにやりますね」

#ふうき

「浮かんだりした事なんて一回もないけどね。そういう意味ではむしろ私たちの方が浮遊魔法なんて呼ばず重力操作とかベクトル操作って呼ぶべきだね」

#ミサキ

「かなしくなるよ」

#ナレーション

せめてもうちょっと実生活に役立たばいいのだが。

#くぜ

「一度練習しましょう。ゴーグルに向けて少し魔法を使ってみてください」

#ナレーション

言われるままに魔力を使ってみる。

#このみ

「おっ、これは、」

#ましろ

「きゃあ!」

#みしろ

「ひゃあ!」

#ナカミチ

「な、なんだ?」

#ナレーション

声がした方を見ると上から小さな機械の部品や破片が降り注ぐましろちゃんとみしろちゃんの姿が。

#くぜ

「あぁ。そこを気をつけないといけなかったですね……。」

#ましろ

「きゅ、急にゴーグルが飛んで行って」

#みしろ

「ちょ、ちょっと魔力を使っただけだったんだけど?!」

#くぜ

「そのめがねは私の魔力が込められているのでちょっとした魔力で最大限その力が働くようになっています。ましろさんやみしろさんの魔力だとちょっとではなく本当にわずかに使っていただくだけでいいですから」

#ふうき

「確かに想定以上に軽くなって驚いたけど……。」

#このみ

「その驚きも霞みました」

#ナレーション

ものが軽くなって喜んでいたらものを吹っ飛ばしてしまったものを見た。力の差を痛感。どうしてこうも天は人に差をつけたがるのか。そういう感じ。

#ましろ

「す、すみません。壊してしまって」

#みしろ

「ご、ごめんなさい」

#くぜ

「ゴーグルは予備がありますから構いません。もう一度やってみてください」

#ナレーション

机に残っているゴーグルから2つ渡す。

#ましろ

「……はい。大丈夫です」

#みしろ

「だ、大丈夫だと思います」

#ナレーション

2人とも浮かび上がっているゴーグルを引きとめているように持っている。

#くぜ

「まぁゴーグルが起動するまでの現象のはずですから。皆さんも魔力をこめてください」

#ナレーション

みんな集中しだす。くぜ先生が全員の状態を1人1人確認するとどこからか長い杖を取り出して構える。

#くぜ

「……。」

#ナレーション

くぜ先生が目をつむり集中しだす。同時に生徒たちはくぜ先生に注目する。くぜ先生の髪の毛が揺れ動く。杖が青く光りだして、床もくぜ先生を中心として青く光りだしていく。

#ふうき

「こ、ここまでとは……。」

#ナレーション

つぶやく風紀さん。全員同じ気持ちだろう。周りの機材まで青い輝きを帯び出し各自が手に持つゴーグルも光を放ちだす。

#くぜ

「……ふふふ。ひとまず成功のようです」

#ナレーション

生徒たちの手元には青く光るゴーグルが握られている。

#このみ

「こ、これは何なんでしょうか」

#ナレーション

かけてみようとするこのみちゃん。

#くぜ

「あぁ、ちょっとまってください。最後に仕上げがあるので、全員目を閉じてください。魔力はもうゴーグルに通さなくて結構です」

#ナレーション

言われるまま目を閉じる。

#くぜ

「全員閉じてますね。……。」

#ナレーション

辺りがまばゆく光った気がした。目を閉じているのでわかりずらいがおそらく強い光があったと閉じたまぶたの先から感じた。

#くぜ

「目を開けていただいて構いません」

#ナレーション

ゴーグルは光るのをやめた。その代わりに所々青いラインが浮かび上がっている。

#ふうき

「おお!青いラインが出た!」

#ナレーション

出ただけである。

#このみ

「わかります。少しごつごつしていた方がいいんですよね。こういうゴーグルは。それでこれはなんなのでしょうか」

#くぜ

「かけてゴーグルに魔力を注いで見てください。最初は驚くかもしれませんが私が音声でガイドしますのでそれに合わせてください」

#ナレーション

言われるままに動く。

#ネネ

「きゃあっ!?」

#クラスメイト

「うおっ!?」

「なっ!」

「どこだここ?!」

#ナカミチ

「洞窟?!」

#ナレーション

見知らぬ場所。見しらぬ人はいない。ナカミチ君が言ったように洞窟のような場所である。土のような床が広がっている。

#このみ

「な、ナカミチ君?!し、しらない場所にいます!?」

#ネネ

「いったいどうしたらいいんですか?!」

#みしろ

「ナカミチー!ここどこー?!」

#ましろ

「ここどこなんだろう?!ナカミチ君!」

#ふうき

「さぁ!答えてもらおうか!」

#ナカミチ

「知らん!」

#ナレーション

かえって冷静になった。

#ミサキ

「でも本当にどこなんだろう……。」

#さいか

「く、くぜ先生はどこですか……。」

#ミサキ

「あ、そうだね!くぜ先生なら知ってるかも!」

#ふうき

「知ってなきゃ困るんだけどね。というかいない気がするんだけど」

#このみ

「なんですってー!?」

#ミサキ

「あとなんか服変わってない?」

#ネネ

「え?」

#ナレーション

服装はなんというか布の服である。ぬののふく。下は布のズボン。男女問わず。あとスニーカー。足だけ現代。簡素な布の服と合わさるともはや未来風である。足だけ。

#???

「あー、あー。聞こえますか?」

#このみ

「ひゃあ?!」

#ナカミチ

「うわっ!?」

#クラスメイト

「ど、どこから?」

「なんか不気味な声が?!」

「いやー!おばけー!」

#ナレーション

耳元から囁かれるような声が聞こえる。くぜ先生の声だと思われるが。

#くぜ(音声)

「少し小さいようですね。どうですか?声のボリュームはこのぐらいでしょうか?」

#ナレーション

声のボリュームが上がる。相変わらず耳元でしゃべられている感じはするが。

#ふうき

「くぜ先生ぽいけど?」

#クラスメイト

「へ?あ、ほんとだ」

「え?あ。いや、ほんと、すみ渡るような声」

「あ、ほんとね。聖職者」

#ナレーション

先ほどの発言を打ち消そうとしている。聖職者でおばけを打ち消せるかは知らないが。

#ましろ

「せ、先生!ここはどこなんですか?」

#くぜ(音声)

「仮想現実です」

#さいか

「か、かそうげんじつ……?」

#このみ

「か、仮想現実!?わ、私たちの体は?!ええと?!本来の私たちは?!どこなんでしょう?!」

#ふうき

「なんかうれしがってない?」

#このみ

「ま、まさかぁ」

#くぜ(音声)

「のみこみが早い方もいますが。わからないと思うので説明から入ります。その場所は魔法を実体験してもらうために作った作りものの世界です。その場所ではどんな人でも魔法を使う事が出来る事を目的に作られた場所です」

#クラスメイト

「どんな人でも?」

「どんな人って言うのは魔法を使えない人でもって事か?」

「そういうことだろうな」

#くぜ(音声)

「将来的に、ですが。今はあなたたちのように魔力を持っている人でないとまともに使えません」

#ふうき

「……その魔法が使えるというのはどのレベルで、でしょうか」

#くぜ(音声)

「それは後でお話しようと思ったんですがね。まぁいいでしょう。いつもと同じように使ってみてください」

#このみ

「ま、まさか……。」

#みしろ

「えーと。フレイム!」

#ましろ

「あ」

#ナレーション

元から魔力の高いみしろちゃんが真っ先に使う。大惨事。かとおもいきや。手から炎がわきあがるだけにとどまる。

#ましろ

「いつもより使えなくなってる……?」

#みしろ

「あれ?」

#くぜ(音声)

「あなたたちにとってはそうなりますね」

#ネネ

「あなたたちはということはまさか……。」

#このみ

「シュート」

#ナレーション

手から水が飛び出る。ナカミチ君にかかる。

#ナカミチ

「うわっ!ってあれ?」

#ナレーション

かからなかった。通り抜けて地面に水が落ちる。

#このみ

「すごい!こんなに勢いよく水が出ました!」

#ナカミチ

「いや、それより今、通り抜けた。というか俺に向けて撃ったよな」

#ナレーション

どちらかというと通り抜けた方が重要だと思うが。

#くぜ(音声)

「味方には当たらないようになっています。最終的にかなり強力な魔法が使えるようになるので」

#クラスメイト

「最終的に?」

「というか今このみちゃんシュート撃ててたよね」

「私たちもできるの?」

#ナレーション

やって確かめたらいいだろうに。

#さいか

「そ、それでどうやったらもどれるんですか?」

#ナレーション

戻れなかったらこわいお話。ホラー。

#くぜ(音声)

「基本は現実の体を動かしゴーグルを取れば戻れます。強く現実の体を動かそうと思うか、魔法で現実の自分の体を動かすか、誰かにゴーグルを取ってもらうか、もしくはシステム的にそちらでアイコンをタッチして終了させるか」

#ナレーション

同時に何人か姿が消える。おそらく戻ったのだろう。あとは魔法で遊んでいたり辺りを探っていたり。

#ふうき

「ふむ。意外と簡単に戻れるみたいだよ」

#ナレーション

風紀さんは一度帰って戻って来た。急にあらわれるのはびっくりする。

#くぜ(音声)

「まだセッティングが残っているのでそちらにいといて下さい。一度通信を切ります」

#ナレーション

そういうと声が聞こえなくなった。

#このみ

「見てください水蒸気ですよ。水蒸気」

#ナレーション

手からもくもくと煙が出ている。水蒸気と言うからには湯気だろう。

#ナカミチ

「ましろたちの見た事あるしなぁ」

#ふうき

「あれは規格外だったね。2回ほど見たけど」

#このみ

「まわりにはすごい人ばかり、ではなくて!」

#ふうき

「同時展開ね。そこまでできるのかぁ」

#ナカミチ

「火と水の生成か。どこまでできるんだろうな。くぜ先生は最終的にもっとすごい事が出来るみたいな事をいっていたが」

#このみ

「冷静すぎやしませんかね。もっとはしゃぎましょうよ」

#ふうき

「よっと」

#ナレーション

風紀さんの手から火が矢のように飛ぶ。

#ふうき

「できるのか……。」

#このみ

「えっ?今のなんですか風紀さん。火を飛ばすなんて魔法聞いたことないですよ」

#ナカミチ

「フレイムに重力操作を合わせたのか?」

#ふうき

「うん。本当はファイアボールみたいなのをイメージしたんだけど。ファイヤアローと言った方が近くなったね。フローと呼ぶか……。」

#ナカミチ

「おとなしくアローにしとけ」

#みしろ

「ナカミチー。風を起こせたんだけどー」

#ナカミチ

「ん?みしろなら風ぐらいもともと起こせたんじゃないのか?」

#ナレーション

新登場の風魔法であるがこの世界には普通に存在している。存在しているだけだが。トップクラスの魔法使いは強い風という感じまで出せる。普通科でうちわ以下。機械科は手であおぐレベル。水のシュートのような特に固有の名称は無い。

#みしろ

「なんか水と合わせたらスプリンクラーみたいになった」

#ナカミチ

「使い勝手限られそうだなぁ」

#ましろ

「ナカミチ君。飛べなくなってる」

#ナカミチ

「普通は飛べないんだけどな」

#ましろ

「いや、まぁそうなんだけど」

#ネネ

「ナカミチさん。特に何もせずともすごく速く走れるんですが……。」

#ナカミチ

「……。え?どういうことだそれ?」

#ナレーション

何人かのクラスメイト達が走りまわっている。はやい。

#くぜ(音声)

「おまたせしました」

#ましろ

「ちょっと驚くよねこれ」

#ナレーション

急に耳元でしゃべられるわけであるからそれは驚くだろう。

#くぜ(音声)

「全員揃っていますね。では今から最後の調整とテストを行います。各自、現実の左手でゴーグル上部にあるスティックを操作して下さい。スティックは右に倒すように」

#ナレーション

言われるままに体を操作してみる。つられて仮想のはずの今の体の左手が動く辺り今の方を現実と認識している感覚が起きているきがしているのだろう。手にゴーグルの感触がしたのでスティックを探し右に倒す。

#ナカミチ

「これは……?」

#ナレーション

目の前にオレンジ色をした半透明の枠が出る。パソコンやゲームで見かけるウインドウ表示だ。その中で白い文字が浮き出ている。初期設定という文字の下にいくつか項目が並んでいる。

#このみ

「剣士、武闘家、魔法使い、僧侶……。これは……!」

#ナレーション

目が輝きだすこのみちゃん。

#ふうき

「いよいよゲームじみてきたね」

#くぜ(音声)

「今回は皆さんにわかりやすいようにセッティングしました。一般のイメージから外れていないと思うのでどれでも好きなものを選んでください。選んだら変更はできませんので」

#ネネ

「え?結局これはいったい何をさせられるんですか?」

#くぜ(音声)

「何、と言われるとテストプレイですね。先ほど言ったようにこの世界で魔法が問題なく動くか確認してほしいんです。今回はゲーム風にしていますが」

#このみ

「わーい!やっぱりゲームですー!私はやっぱり魔法使いです!」

#クラスメイト

「俺は剣士かな」

「魔法使いはなー」

「僧侶は必要だぞ」

#ふうき

「剣士や武闘家が魔法と関係が……?」

#ナカミチ

「おおよそ真逆のイメージだよな。僧侶はなんなんだろうか」

#くぜ(音声)

「剣士や武闘家は動きに魔法がサポートをかけます。僧侶はシステム的なものです。気にしないでください。また浮遊は魔法使いのみが行えます」

#ネネ

「よくわかりません……。」

#ふうき

「私も……。」

#くぜ(音声)

「わからないのでしたら魔法使いが良いかと。魔法を使う以外にすることが少ないと思いますから」

#ふうき

「……。ゲームでよくある敵が出てくるんですか?」

#くぜ(音声)

「上層には配置していますね。この後ここで1度戦ってもらいますが。……そろそろ決めていただきます。予定の時間も押しているので」

#ネネ

「では魔法使いで」

#ふうき

「では僧侶で」

#ナレーション

各自決めていく。

#ナカミチ

「……。うぅん」

#ナレーション

決めかねている。

#ふうき

「僧侶はダメだよ。もう私がとったから」

#このみ

「魔法使いはダメですよ。やりたいのはわかりますが被ったら目立ちません。わたしが」

#ナカミチ

「いや、被ってもいいだろ。これだけ人数いるんだから被るに決まっている」

#みしろ

「私魔法使いにしたけどみんなはどう?」

#ナレーション

みしろちゃんがやってくる。

#このみ

「魔法使いを選ぶとはお目が高いですね!一緒に頑張りましょう!」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

そろそろ決めたらどうだろうか。

#このみ

「ましろちゃんは何にしたんですか?やっぱり剣士ですか?」

#ましろ

「ううん。武闘家にしたよ。剣士より速そうだから」

#このみ

「そ、速度重視とは玄人のにおいがしますね……。」

#ナレーション

まったくである。

#ナカミチ

「速度か……。」

#ナレーション

人の意見に左右されるとは。人の意見に耳を傾けるとは。なんにしても決定は自分の意思でしよう。というわけではやく選んだらどうか。

#ナカミチ

「回復も重要だよな……。」

#さいか

「あれ?僧侶にしたんですか?一緒ですね」

#ナカミチ

「いや、決めかねている。意外と僧侶も多そうだしな」

#ナレーション

僧侶は一定数必要である。ナカミチ君には合いそうという人は多いかもしれない。そうじゃないという人もいるかもしれない。というわけで早く選んだらどうか。

#ナカミチ

「……。そういや剣士がいないな」

#ナレーション

ナカミチ君のまわりが、だろう。剣士は男の子の人気を集めるはずだ。

#ミサキ

「よんだ?私剣士だけど」

#ナカミチ

「いや、何にするか迷っててな。剣士が少なそうだしそれにしようかなと思って」

#ミサキ

「やりたいものをやればいいと思うけど……。実際は剣士が多すぎると思うけど、まぁナカミチ君は剣士が良いと思うなー」

#ナカミチ

「それはなんでだ?」

#ミサキ

「ナカミチ君がグループを組みそうな子たちが剣士をやってないみたいだったよ。ほら」

#ナレーション

このみちゃんとネネちゃんとみしろちゃんが魔法使い。風紀さんとさいかちゃんが僧侶。ましろちゃんが武闘家。で、ミサキちゃんが剣士。

#ナカミチ

「……。そういう選び方は嫌だなぁ」

#ミサキ

「じゃあやっぱり自分がやりたいのでいいんじゃない?」

#ナカミチ

「うーん」

#ナレーション

早く選んだらどうか。

#くぜ(音声)

「迷っている方はそろそろ決めてください」

#ナレーション

実質ナカミチ君だけだと思われる。まわりを見ると選んだものの特徴を掴むために各自遊んでいる。気を利かせて不特定多数にアナウンスを送ってくれたのだろう。やはりはやく選ぶべきだった。

#ナカミチ

「……うん。やっぱり剣士にしておくか」

#ナレーション

パーティーを組んだ時にいないと困りそうであるし。それがいいだろう。

#くぜ(音声)

「全員決まりましたので最後にチュートリアルをしておしまいにします」

#このみ

「チュートリアル!いよいよ戦闘ですね!」

#くぜ(音声)

「そうです。実践を行いながら説明します。とりあえず敵を出すので待ってください。最初なので簡単なものを……。」

#さいか

「戦闘ですか……。怖くないといいんですけどね」

#このみ

「なぁに。ゲーマーの私に任せてください。こういうジョブを選べるものはいつも魔法使いで最初はプレイするんですから」

#ふうき

「ジョブ……?」

#このみ

「職業です」

#ふうき

「職?えーっと。つまり魔法使いって職業なの……?うぅん、ファンタジック」

#ナレーション

ファンタジック。

#くぜ(音声)

「……ん。……。」

#ナレーション

待機待機。

#くぜ(音声)

「……できました。想定よりかなり難易度が上がりましたが。まぁ負けてもチュートリアルですから。ちなみに負けるとゲームが終了します。負けたペナルティはほとんど無く、次の開始場所がいまのこの場所になります」

#このみ

「やはりレベルアップ要素があるんですね!」

#ナレーション

ワクワクである。

#くぜ(音声)

「このみさん、ふうきさん、ましろさん、みしろさんのデータを使用しました。4対39ではありますが1人あたりそちらより2倍ほど強いと思ってください」

#ナレーション

中心にこのみちゃん、ふうきさん、ましろちゃん、みしろちゃんが出てくる。増えた。いや、おそらく敵である。よく見ると色素が薄いというか灰色がかっているというか。

#このみ

「げえっ?!わたし?!」

#ナレーション

自分を見てそういうコメントを言う女の子もなかなかいないだろう。

#ふうき

「なんだ、あのちょうスーパー美少女は!」

#ナレーション

自分を見てそういうコメントを言う女の子もなかなかいないだろう。

#このみ

「それは私です!」

#ふうき

「私だ!」

#ナレーション

内乱勃発。戦闘開始。

#くぜ(音声)

「始めます」

#ナレーション

始まった。

#このみ

「げっ」

#ふうき

「あ。まずい」

#ナカミチ

「っ!離れろ!」

#クラスメイト

「え?」

「ん?」

「え?なんて?」

#ナレーション

敵の中心から炎が巻き上がる。

#このみ

「超デジャブですー!!ぐへっ?!」

#ナレーション

空を飛んで逃げるこのみちゃん。というより吹き飛ばされるように逃げていった。そして壁に顔からぶつかる。

#ふうき

「あっつ!あっつ!……くはないね。うん。これであっているみたいだし」

#ナレーション

炎の中から逃げ出てくる風紀さん。体のまわりには緑色のオーラが出ている。僧侶の何かだろうか。

#ナカミチ

「っとと。ぐっ」

#ナレーション

すごいスピードで走り逃げたナカミチ君。止まり損ねて軽くこける。

#ましろ

「大丈夫ナカミチ君?みしろは……。だめ、か。いないね」

#ナレーション

同じくすごいスピードで走ったましろちゃん、問題なく止まる。見渡せば誰もいない。

#このみ

「み、みんなは?!」

#ふうき

「……おそらく負けたと判断されてゲームが終わったんじゃない?」

#ナカミチ

「そうだろうなぁ。というか熱いはずのものが熱くないとかこけたのに痛くないとかすごい違和感なんだが」

#このみ

「そうですね。私も顔から突っ込んだのに何もないんですから」

#ミサキ

「ちょっとー!てつだって!こっちー!気づいてー!」

#ナカミチ

「え?」

#ナレーション

ミサキちゃんが敵のこのみちゃんと風紀さんの2人と戦っている。いま敵のましろちゃんが突入。1対3。敵みしろちゃんが魔法をうちこんでいる。1対4だった。敵のこのみちゃんが下がり魔法攻撃に移行。戦闘継続中。

#ましろ

「いけない!助けにいかなきゃ!」

#ナレーション

ましろちゃん突っ込む。

#くぜ(音声)

「想定以上に強かったようですね……。これではチュートリアルになりませんか……。」

#このみ

「初っ端から負けイベントですか?!いや、王道パターンとも言えなくはないですか……。」

#ふうき

「負けイベントとやらはわからないけど助けに行ってあげた方がいいんじゃないかなー」

#このみ

「それもそうだった!」

#ナカミチ

「俺も行くから魔法使いと僧侶はサポートしてくれ。それであってるよな?」

#このみ

「そうですね!前衛と後衛はそれでいいかと!」

#ふうき

「うぅん。参謀役が前にいってしまった」

#ナカミチ

「風紀さんの仕事だろ」

#ふうき

「しかたないなぁ」

#ナレーション

ナカミチ君突っ込む。

#ナカミチ

「はあっ!」

#ナレーション

手に水で剣を作り、握る。そして特攻。ちなみに水で剣を作れたのはミサキちゃんが握っていたから出来るのだろうとやってみた結果である。

#ナレーション

結果、ましろちゃんにぶつかる。味方の。

#ましろ

「……。」

#ナカミチ

「……。このみの方行くよ、相手側の」

#ましろ

「そうしてくれると助かるかな」

#ナレーション

足手まといだった。

#くぜ(音声)

「あ゛ー。一応チュートリアルです。集中しているようでしたら聞き流してくれて構いません。敵との距離が一定以下になった場合や攻撃を与えたり受けたりすると戦闘開始と判断され視界の右上に自身のライフポイントが表示されます。上限は100です。これは今後も変わりません」

#くぜ(音声)

「その代わり敵を倒すごとに受けるダメージ量が減ります。頑丈さが上がると考えてください。頑丈値の上昇は職業により違います」

#くぜ(音声)

「あと魔法を使うとライフポイントが表示される場所の下にマジックポイントが表示されます。こちらも上限は100です」

#くぜ(音声)

「魔法使いは敵を倒し成長していくと同じ威力の魔法を使った場合のマジックポイント消費量が減って行きます。またそれに合わせて消費量を多くすれば魔法も強力になって行きます」

#くぜ(音声)

「最後に僧侶はマジックポイントを消費することで自分を含めた視界にうつる人物のライフポイントを回復させる事が出来ます。消費は魔法使いと同じで成長すれば同じ回復量でも消費量は減っていきます」

#くぜ(音声)

「また、僧侶のみ視界にうつっている全ての敵と味方のライフポイントがわかります。相手の頭上に数字が表示されているはずです」

#くぜ(音声)

「そんなところでしょうか。あとは攻撃力や速さも敵を倒すごとに上がって行きます。上昇値は職業ごとに違いますので」

#ナレーション

解説ご苦労様です。ナレーションも解説するならナカミチ君達はもうそろそろやられそうになっているとかいうところだろうか。

#ふうき

「もう回復できる魔力残ってないよ!相手のライフポイントはほとんど100!あ、今全員100になった」

#ナレーション

だめそうである。

#このみ

「やはり先にヒーラーを落とすべきです!」

#ふうき

「え?私?」

#このみ

「相手の風紀さんのヒットポイントを0にするべきです!」

#ふうき

「ヒットポイント?」

#このみ

「ライフポイントの事です」

#ナレーション

もうだめだろう。

#ミサキ

「私もうそろそろやられる!」

#ふうき

「うーん。どうすれば」

#ナレーション

悩みどころだ。しっかり考えて正確な一手を打たなければならない。

#ましろ

「私あと3分の1!」

#ナレーション

ヒットポイントの話だろう。もしくはライフポイント。ちなみにましろちゃん回復されずにこれである。それはもうよけるよける。プレイヤースキルとキャラクタースキルががっちり合っているのかもしれない。早く何とかしてあげなければ。悩んでいる場合ではない。

#ナカミチ

「こっちは、あと2分の1!」

#ナレーション

とりあえず言っておこう。情報は多い方がいい。考える余裕のある風紀さんには見えているはずだが。

#ふうき

「このみちゃん、私に攻撃しよう。物理的に」

#ナレーション

なんか怖い事を言い始めた。

#このみ

「て、敵のですよね」

#ふうき

「そりゃそうだよ」

#ナレーション

そりゃそうである。

#ふうき

「ナカミチ君!ミサキちゃん!2人で相手のこのみちゃんとみしろちゃんの魔法を引き受けて!他に打たせないで!ミサキちゃん!これ最後の回復!」

#ナレーション

ミサキちゃんのまわりに緑のオーラがわきあがる。回復魔法なのだろう。

#ミサキ

「ありがとう!ナカミチ君、私がみしろちゃんを引き受けるから!」

#ナカミチ

「わかった!」

#ふうき

「ましろちゃん!何秒持つ?」

#ましろ

「2分!」

#ふうき

「まじか」

#ナレーション

おそらく想定よりはるかに長かったのだろう。ましろちゃんは疲れたそぶりなど見せていない。まだまだいける。

#ふうき

「うーん。じゃあナカミチ君が落ちる方が早いか」

#ナカミチ

「聴こえてるぞ」

#ナレーション

敵がしゃべらないものだから意外と声が通る。訳ではなく、戦闘が始まってから互いの声が聞こえやすい。機械的なサポートが入っているのだろう。

#ふうき

「このみちゃん。なんとなくだけど僧侶は倒しやすそうなイメージがあるから2人で殴り倒そう」

#このみ

「その言い方をされるとすっごく気が引けるんですが。まぁ実際僧侶はやわらかいでしょうね」

#ふうき

「柔らかいってのが何かはわからないけどその友情であの私も報われるよ。たぶん。さぁ偽物はぼこりましょう」

#ナレーション

突撃する2人。飛び蹴り。追撃。フルボッコ。

#このみ

「やはり気が引ける。剣とかじゃなくて手で殴るというのは。いや、拳(けん)なんですけど。うぅん。血が一切出なくてもこれは全年齢ゲームには出来ませんね。いやはや」

#ナレーション

言いながらフルボッコである。

#ふうき

「あと半分だね。あ、回復しだした」

#ナレーション

敵の風紀さんから緑のオーラがでる。

#ふうき

「手を緩めるなー。こいつは敵だー」

#このみ

「やはり心が痛い!あ、残ってるMPで手に火をまとってパンチしてみましょう。ダメージを与える量が増えるかもしれません」

#ナレーション

容赦ない。人の発想とは時に残酷である。

#ふうき

「おっ。回復量を上回るダメージ量が出てるよ!」

#このみ

「早めに決着できそうで何よりです」

#ナレーション

ついに倒しきったのだろう。霧散して消える。

#ふうき

「よーし。数的優位だー」

#このみ

「もう楽勝ですねー」

#ナカミチ

「はやく助けてくれ」

#ふうき

「え?ナカミチ君からでいいの?」

#ナカミチ

「……。ミサキさんからで……。」

#ナレーション

つらい。

#ナレーション

その後は敵である灰色のみしろちゃんとこのみちゃんを倒し、残るはましろちゃん。

#ふうき

「さて、どうしたものか」

#ナレーション

ヘタに手を出せば邪魔になる。かといって遠距離からの魔法と言ってもさっきナカミチ君とミサキちゃんはシュートを一発撃ったらマジックポイントが空になった。つまりもう誰も使えない。

#ましろ

「だいじょうぶっ!さっき敵のみしろが消えてから急に動きが鈍くなったから!」

#ナレーション

ましろちゃんが言うには、である。一般的には対応できなさそうな速さで殴り合いと蹴り合い、そして避け合っている。武闘家を選んだ恩恵だろうか。初戦闘であるしあんまり関係ないかもしれない。

#このみ

「あちらの2人はこちらの世界でも魔力が繋がってたみたいですね」

#ナカミチ

「じゃあ魔力の半分が無くなったって解釈でいいのか?」

#ふうき

「そういうことじゃない?もしくは格段に落ちたか。どっちにしろ力が移譲されたとかじゃなくて良かったね」

#ナレーション

そうなってたら勝てなかっただろう。

#ましろ

「っ!?」

#ナレーション

相手のましろちゃんが水の剣を出す。一瞬伸びた相手の間合いをしゃがんでかわす。

#ましろ

「武闘家だってのにそういうこともっ!できたのねっ!!」

#ナレーション

しゃがんだついでと言わんばかりに足払い。飛んでかわされる。

#ましろ

「終わり!」

#ナレーション

瞬時にましろちゃんも剣を生成し、相手が飛んだところをそのまま切って終わった。敵は霧散し、勝利の栄光が。

#ミサキ

「やっぱりすごいね!」

#ナカミチ

「すごいというかすさまじいんだよな」

#このみ

「わかります」

#ふうき

「しみじみと言われても」

#ナレーション

勝利の余韻に浸っているとクラスメイト達がぞくぞくあらわれる。敵ではない。色鮮やかである。もしくは色が濃いと強いタイプの敵かもしれない。

#みしろ

「さすが姉さん!偽物にはものともしなかったね!」

#ましろ

「途中危なかったの見てたよね?」

#ナレーション

危なかったらしい。

#クラスメイト

「いやー。これでクリアだな」

「自分自身との戦いがラストバトルか」

「いいラストだ」

#ナレーション

そうだろうか。

#ミサキ

「自分自身のバトルって言うのかな?あれは」

#ナカミチ

「そもそも俺達は出なかったしな」

#ナレーション

その理論で言うとみしろちゃんが自分に負けたことになってしまうのであれは自分の存在ではないと考えた方が全員幸せになる。

#くぜ(音声)

「身体データだけしかうつせませんから自分自身ではないです」

#ナレーション

違った。

#くぜ(音声)

「後終わられては困ります」

#ナレーション

それはそうだろう。

#ナカミチ

「というか外から戦い覗けたのか?」

#ネネ

「研究室のモニターで見てました」

#ふうき

「じゃあ自分で自分を殴るあの感動のシーンも」

#ナレーション

自問自答の表現技法として自分を殴るシーンとかだったら感動的だろう。

#ネネ

「猟奇的でした」

#ふうき

「だろうね」

#ナレーション

やはりこの物語はホラー作品かもしれない。他のホラー作品から怒られそうだ。

#このみ

「しかしやはり知っている人が敵と言うのは……。」

#ナレーション

だいたい知っている人は殴りたくないものだろう。大体。

#くぜ(音声)

「ではこれが最後です」

#ナレーション

言うとどうじに一か所、壁が崩れ落ち、土の階段があらわれる。上に続いているのだろうか。

#くぜ(音声)

「あなたたちにはこれから1週間で次のフロアで遊んでいただこうと思います」

#ましろ

「フロア?」

#くぜ(音声)

「ええ。今度は敵もよく見かけるようなモンスターを設定しています」

#このみ

「スライムとかコウモリとかですか!?」

#くぜ(音声)

「ええ。少し外見は怖いかもしれませんが人形(ひとがた)はスケルトンしかいませんし楽しんでいただけるかと」

#このみ

「洋風の方ですー!難易度が高いー!」

#ふうき

「洋風……?」

#ナレーション

和製のスライムは弱いらしい。スケルトンは和訳でがいこつだと思う。よくは知らないが。

#さいか

「つまり具体的には……?」

#くぜ(音声)

「あなた方に1週間そのゴーグルを貸します。もう起動は終わったのでどこでも遊ぶ事が出来ます。1週間後に最後の敵を出し、それに勝てればクリアということになります」

#ふうき

「クリアした暁にはなにか?」

#くぜ(音声)

「次のフロアも同じような洞窟ですが、洞窟の外へ通じる道があります。その先の外を見せてあげます」

#このみ

「外?」

#くぜ(音声)

「空があります」

#このみ

「自由に飛べるという事ですか?!」

#くぜ(音声)

「そのぐらいの時間は差し上げましょう」

#クラスメイト

「外って何だ?」

「外は外だろ」

「ファンタジーの世界の、な」

#このみ

「これはクリアせざるを得なくなってきましたね。ふふふ」

#ナカミチ

「……。」

#このみ

「なんかさっきからずっと黙ってますけどどうしたんですか?」

#ナカミチ

「うん?いや、上のフロアってどんなのだろうなって」

#ナレーション

その後ホームルームを研究室で終え、その日は解散。その日からゲーム攻略が始まった。

#ナレーション

ちなみにくぜ先生からネットワークを介して、研究について話すことと学内でのゴーグルを使用する事を禁止された。結果、学校ではこのゲームの話が無い休み時間帯は無くなりクラス内で決定的なブームになった。

#ナレーション

誰が遊んでいるかというのはゴーグルのスティック操作から出るウインドウで把握でき、グループで遊ぶのが基本であった。

#ナレーション

広大なフロアのマッピング、敵の動きや弱点と言った傾向、全員が取得できるように設定されている宝箱の場所。反対に先着順、もしくは1人だけ取得できる宝箱から出るレアアイテムや装備の自慢。

#ナレーション

その情報とアイテム、装備、レベルの先頭に立っていたのはもちろんこのみちゃんであった。ナカミチ君が把握している限り、夜の12時までと朝の6時以降で遊んでない時間帯は無かった。

#ナレーション

特に土曜日と日曜日は当然すごかった。全員参加している時間帯が2日ともあったのである。明らかにクラス全員がこの自由度が高いゲームに夢中になっていた。

#ナレーション

そして今日は最終日の1日前。あれから6日後のお昼休み。

#ナカミチ

「風紀さん」

#ふうき

「すぴー、すぴー」

#ナレーション

寝ている。

#ナカミチ

「風紀さん?」

#ふうき

「すぴー。……すー。ぴー。すぴー」

#ナカミチ

「寝た振りされても困るんだが」

#ふうき

「私がお昼寝ているのを知っての狼藉かー。おのれー。ねむらせてやるー」

#ナカミチ

「風紀さんがお昼にしてくれって言ったよな」

#ふうき

「長そうな話だったからね。それであのゲームについてでしょ?うん。私もよくわかってないよ。ナカミチ君が疑問に思っているのと同じレベル」

#ナカミチ

「やっぱりあのゲームは本来の用途ではないよな」

#ふうき

「そこはそもそもくぜ先生が言ってらっしゃったとおりだと思う。本来の用途をカスタマイズしてゲームみたいにしているんでしょ」

#ナカミチ

「何のために」

#ふうき

「さぁ?私たちに楽しんでもらうためじゃない?」

#ナカミチ

「だといいんだが。そもそもあの機械は本当に安全なのか?」

#ふうき

「まさか。試運転や検査もしていないような製品を生徒に渡すと思う?」

#ナカミチ

「しかし渡されただろう」

#ふうき

「そうだね。だからあの機械は安全なんだよ。もしくはあの機械がくぜ先生にとって何よりも大事なものなのか」

#ナカミチ

「……。ふぅ」

#ふうき

「どうする?何よりも大事なあの機械が誰よりも大事な機械だったら」

#ナカミチ

「もとより国家機密だろう。くぜ先生以外にとっても見知らぬ誰かよりは大切なんじゃないかなぁ」

#ふうき

「そりゃまぁそうだろうねぇ。それを私たちの手に渡しているのはなぜだろうねぇ」

#ナカミチ

「……。わからないな」

#ふうき

「わからないよねー。やっぱり同じレベルの疑問だったね」

#ふうき

「で?どうするの?」

#ナカミチ

「くぜ先生が望んでいることだ。最後までやってみようと思う」

#ふうき

「どうせ明日までだもんね。で?何で私に声をかけたの?」

#ナカミチ

「さっきこのみに声をかけたんだがな。このみは今日も家に帰ったらすぐあの世界で遊ぶということだ。一緒に遊ぶ約束をしたから風紀さんも来てくれ」

#ふうき

「それでできるだけレベルを上げておこう、ということ?」

#ナカミチ

「そうだ。明日少なくともあの世界でくぜ先生が用意したボスとやらが出る。おそらく倒さないとくぜ先生は満足しないはずだ」

#ふうき

「倒さない方がいい可能性は?」

#ナカミチ

「じゅうぶんある」

#ふうき

「わかった。私も大体同じ意見だし、とりあえず学校が終わったら帰ってすぐにゲームといこうか」

#ナレーション

不安な事がありつつも自分が思う最善をつくす。されど結果は出てみるまで分からない。

#ふうき

「ところでこのみちゃんはナカミチ君と2人で遊ぶと思ってるんじゃない?」

#ナカミチ

「ん?あぁ、そう思われているか、……も」

#ナレーション

最善手は微妙に打ち間違えたらしい。

#ふうき

「おやすみー」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

打ち間違えたなら待った、である。盤面を戻してもらおう。白い目で見られる事は間違い無しであるが。まぁそんなこんなでついに最終日である。

#ナレーション

こんな日々も。

 

#ナレーション

実験と称されたこのゲームも最終日。

#くぜ(音声)

「さて、準備はいいですか?」

#このみ

「いつでも」

#ナレーション

大きな鉄の格子で閉ざされた上へと続く階段。その前の大きな広場にクラスメイトたちが集まっている。最後という雰囲気か、クラス全員が浮ついて話をしあっている。

#ネネ

「やっぱりここが最終地点だったんですね」

#ナレーション

この場所自体は彼女たちはそうそうに見つけていた。上へと続く階段はあきらかにあやしかったがその行く手を阻む鉄格子はどうやっても壊れる事は無かった。

#ふうき

「やっぱり無理矢理にでもあけた方がよかったかな?」

#このみ

「いや、イベントが起こるまで開かないですよ。こういうのは」

#ふうき

「それここを見つけた時も言ってたけど、じゃあなんでわざわざ無理をしたら開けられそうな鉄格子にするの?なんかこうもっと何ともできなそうな扉にしたらいいじゃん」

#このみ

「それここを見つけた時も言ってましたけど、じゃあ風紀さんはわざわざ通れない場所を仰々しく止めますか?こんなもんでいいと思いません?」

#ふうき

「うーん。思う」

#このみ

「でしょう?」

#ミサキ

「ぜんぜん解んないなー……。」

#ナレーション

彼女たちがよくわかるようなわからないような話をしている間にくぜ先生の用意は終わったようだ。クラスメイトたちのざわめきもくぜ先生から何かを感じたのか収まっていく。

#くぜ(音声)

「……。…………やりましょう。最後の相手は……。」

#ナレーション

クラスメイトたちの前にあわやかな色が風を思わせるように舞い上がる。その中心地にいつもの格好をしたくぜ先生がはっきりと現れ、そして、

#くぜ

「私がお相手します。あまりに弱いと失望しかねません」

#くぜ

「がっかりさせないで下さいね。……みなさん」

#ナレーション

くぜ先生が言い終わると即座に切りかかるましろちゃんとナカミチ君を水の魔法で作り出したのであろう鮮やかな青色の剣ではじき返し。そして彼女の周りに朱色の火がいくつも揺らめきだして、くぜ先生を赤くてらす。

#ナレーション

くぜ先生が言っていた最後の相手は彼女自身だった。

 

 

#ナレーション

戦闘が始まり数分が経つ。

#ふうき

「体制が整ったよ!」

#さいか

「こちらも!」

#ナレーション

一番後衛の僧侶たちは時折飛んでくる衝撃波によるダメージをうけては自分を回復し、前衛の見方の回復をし、と凄まじいダメージコントロールを要求されている。

#ナレーション

その上で自分へ『バフ』好効果を与える魔法をかけていく。システム的な立ち位置にいる僧侶の特権である。成長にあわせていくつか解禁されていった。

#クラスメイト

「こっちはまだだ!」

「俺は無理だ!次かその次の衝撃波で落ちる!」

「私はもう少しで自動回復が張れる!」

#ナレーション

もっとも、そもそもそこまで手が回らない者もいれば、手が回せても数個、及び低効果なバフしか使えない者もいる。

#ふうき

「やっぱりバフ?だっけ。それは戦闘前に使えないとおかしくない?難度が大きく変わるよ?」

#このみ

「だからそういうものなんですって!それに使えたとしてもそういうゲームはその前提の難易度ですから結局一緒ですよ!」

#ネネ

「このみちゃん!横から!」

#このみ

「うわああああっと!休む暇なんてありゃしません!」

#ナレーション

横から凄まじい勢いで朱色の火が迫る。ネネちゃんの声をたよりになんとかかんとかよけきる。前衛から少し距離をとって魔法使いが箒などにまたがって洞窟内を飛び回っている。このみちゃんは竹ぼうき、ネネちゃんは掃除機にまたがり。みしろちゃんはデッキブラシ。

#ナレーション

飛び回っているのは魔法使いだけではない。飛び回っている魔法使いを撃ち落とさんとすべく、くぜ先生が操作しているのであろう朱色にきらめく火の玉が魔法使いを狙って飛んでいる。

#このみ

「ちょっとー!ナカミチ君!ちゃんとフォローして下さいよー!」

#ナカミチ

「フォローするのはそっち側だと思うんだがな!」

#ナレーション

前衛はもっと凄まじい。朱色の火の玉は常に生み出され続け、それを剣や水をまとった拳でつぶしている。しかし、ナカミチ君は別の事、灰色がかったくぜ先生と戦闘している。

#ナカミチ

「偽物を相手している場合じゃないんだが」

#ナレーション

オリジナルのくぜ先生では無いようでコピーであった。なんとか倒したようだ。もう1つ灰色がかったくぜ先生がいるようであるが、そちらはミサキちゃんが相手をしている。

#ミサキ

「これだけ動いても疲れないって言うのもすごいよね。なんだか不思議な気分」

#ナカミチ

「ゲームだからな。精神の方が先に限界が来そうだ」

#ナレーション

助けに入る、ナカミチ君。

#ミサキ

「そっちは私は大丈夫な方かなー。あ、おかわり来たみたいだよ」

#ナカミチ

「早いなー」

#ミサキ

「ほら、風紀さんみたいな言い方しないで。また私が新しい方行くからそっちよろしくね」

#ナレーション

この偽物のくぜ先生増えるようである。くぜ先生が増える。うれしい事ではあるが、攻撃してくるのでやつけるのがいいだろう。で、どこから増えているのかというと本体のくぜ先生からのようだ。

#ナレーション

くぜ先生の影が徐々に立ち上がっていく、色がつく、増える。うれしい。ではなく、大変になる。そしてそのくぜ先生自体はましろちゃんと格闘中だ。その後ろでみしろちゃんがサポートしている。

#みしろ

「姉さん!右、撃ちもらしが1!」

#ましろ

「くっ!本当に的確です、ね!」

#ナレーション

彼女たちの周りは朱色の密度がいっそうに濃い。2人に迫る火の玉をみしろちゃんが魔法で1つ1つ撃ち落とす。だが数が多すぎる。撃ちもらしがあきらかにましろちゃんを狙うあたり、くぜ先生の思惑通りに動かされている。

#くぜ

「しかし打撃面ではぜんぜん及ぶ事ができません。どれだけ強いのか解りませんね」

#ナレーション

見た目ではくぜ先生は防戦一方ではあるのだ。しかし、ましろちゃん側は攻撃がしっかり防ぎきられている上にましろちゃんは魔法の攻撃を食らっている。後衛からの回復が無ければ長い時間は決して持たない。

#くぜ

「このままでは押されてしまうのは確かです」

#ナレーション

一定のレベルに届いていなかった生徒は序盤に一気に落ちた、しかし今残っているのはそれなりになんとか食らいつけるメンバーである。簡単には落ちない。そして、生徒側は徐々に後衛の準備が整い始めている。

#くぜ

「もう少し落とせると違ったんでしょう。しかし回復役のかなめが優秀すぎる」

#ナレーション

2人いる。準備が整った2人だ。前衛へのサポートを増やし始めている。くぜ先生が考えるようにこのまま行けばくぜ先生は不利になっていくはずだ。

#このみ

「なんとかなりそうですね」

#ネネ

「本当にそう思っているんですかね……。」

#このみ

「まさか。次の何かは確実にあるでしょうね。こんなすばらしいゲームのすばらしいラスボスが第一形態で終わるとはとてもとても」

#ナレーション

先に行っておくがあったとしたとしても衣装チェンジとかはない。

#ふうき

「さて、どうでようか」

#ナレーション

有利なうちにもう一歩踏み込みたいとどんな者でも思うだろう。

#くぜ

「いいえ。その場で足踏みしていただきます」

#ナレーション

たいてい何ともさせてくれないのが強者が強者たるゆえんなのだろう。

#みしろ

「あっ!火が!後ろへ!」

#ましろ

「みしろ!こっちが優先!そっちは他で何とかしてもらうしかない!」

#ナレーション

前衛を飛び交っていた火がその密度を急激に落とし、風紀さんの所へと飛んでいく。

#ふうき

「うわっと!」

#さいか

「ひやっ!」

#ナレーション

よける。が、よけれない者の方が圧倒的に多い。もともと前衛が直接相手にしないといけないような威力である。後衛はよけるしか無い。あたれば一気にライフを持っていかれる。

#クラスメイト

「ぐっ!」

「きゃあああ!」

「ま、まだ!」

#ナレーション

後衛は一気にその数を減らしていく。

#ましろ

「やああああああああああっ!」

#みしろ

「たああああああっ!」

#ナレーション

当然前衛は攻勢に出れる。防御に回していたみしろちゃんの魔法も攻撃へ回される。今度はくぜ先生がみしろちゃんによる火や水の攻撃でライフを減らす。

#くぜ

「本当なんでこんなに最適な行動を起こすのか。ほんの1年前までどこか詰めが甘いとおもっていたんですがね」

#ましろ

「相手が悪かっただけです」

#くぜ

「なるほど」

#ナレーション

くぜ先生には納得できる答えではあったらしい。

#くぜ

「これ以上はまずいですが、かといって後衛を減らさない事には。……しかたありません」

#ナレーション

そう言い終わると一気に朱色の火が増える。

#くぜ

「……数はそろっているはず。総力戦です」

#ナレーション

そして全員へと一気に向かっていった。

 

#このみ

「あー!きついですー!回復まだですかー!」

#ふうき

「むり。ぜんえいへまわすのでていっぱい。よけて」

#このみ

「冷たいですー!こころなしか事務的な声にきこえましたー!」

#さいか

「こっちもむりですよ……。言っておきますけど……。」

#このみ

「わかってて言っただけですからー!気にしないで下さいー!」

#ナレーション

既に後衛は2人を残すのみ。回復はすべて前衛と彼女たち自身に注がれている。前方支援の魔法使い組は自力で回避。できなければライフが減っていくだけである。

#ナカミチ

「底が見えなさすぎる。本当に魔力切れがあるのか?!」

#このみ

「私たちにあるんですからくぜ先生もあるはずです!ボスだから無いとか言われたらおしまいってだけです!」

#ミサキ

「終わりが見えない苦難って一番大変じゃないのかな……。」

#ましろ

「たしかに……。でもそろそろのはず」

#ミサキ

「それは確かにそう思うけど。こっちもねー。どっちが早いのか」

#ナレーション

魔力切れのサインは明確に出始めている。今、くぜ先生を相手にしているのはましろちゃんとミサキちゃんである。今までミサキちゃんが相手にしていたくぜ先生の偽物はその生成スピードが格段に落ちている。今はナカミチ君だけが対処している状態だ。

#くぜ

「……。駄目です。このままではリソースで負けてしまいます。そもそも私の魔力がもう足りていない……。これでは。こんなはずには」

#ナレーション

つぶやきながら何かを取り出す。

#ましろ

「それは……。」

#くぜ

「……知っている所が何とも言えないですね。そうです。ナカミチさんが作ったアメですよ」

#ナレーション

そう言って口に含む。

#くぜ

「これが終わったらあなたも1つ素直にほしがってもいいんじゃないでしょうか。面白い事がおきるかもしれませんよ」

#ナレーション

さっきまでの勢いを超えるペースで火が生み出される。生み出され続ける。

#ふうき

「……いや、あれはおかしいでしょ。どういう……。」

#ナカミチ

「ふうきさん!回避だ!全員回避!」

#ましろ

「駄目!!これが最後のチャンス!」

#ナカミチ

「なっ?!」

#さいか

「もう全体を回復する余裕はありません!」

#このみ

「回復前衛に!我々は全総力を攻撃へ!前衛!」

#くぜ

「本当!どこまでも!いや!それで!これでいいっ!!」

#ナカミチ

「……。」

#ミサキ

「ナカミチ君。どうしたらいい?」

#ナカミチ

「……俺が行く」

#ミサキ

「了解、じゃあ交代。私たちは続けて火の密度を減らしてくね」

#ナレーション

それぞれの総力戦は終わり、残力が最後の火花を上げる。後の無いその火はこの一瞬に集められていく。そして、くぜ先生へ突撃するナカミチ君、ましろちゃんと攻撃を合わせて加速させてゆく。

#くぜ

「まだだ、まだ足りない……!」

#ふうき

「残りライフ後3割!押し込んで!!」

#このみ

「これで第2形態とかあるとかはやめてくださいよ?!」

#ネネ

「なんか先ほどと言っていること逆になってませんか!?」

#くぜ

「くっ!もう少しなのに!落とされていく!」

#ナレーション

火の玉の密度は上がるほどにその間隔が近くなる。それに伴ってミサキちゃんたちがその火を叩き潰していくスピードが上がるのは必然だった。

#くぜ

「なら!こうする!」

#ナレーション

2人からの攻撃に対応していたくぜ先生がその動きを止める。同時に前衛でうごめいていた火はその速度を急激に早め、クラスメイトたちに直撃していく。

#クラスメイト

「うおおっ!」

「だめだ!対応できない!」

「スピードで追いつかれる!」

#ナレーション

前衛はその圧倒的な量に、後衛の魔法使いはそのスピードに、火力に落とされていく。

#ふうき

「私は前衛をやる」

#さいか

「わかりました。みしろさんも前衛としますから」

#ナレーション

残った回復役の僧侶2人が回復の担当を決める。回復の振り分けが始まった。回復役もこれが最後の力である。

#ナカミチ

「まだかっ!」

#くぜ

「いいえ」

#くぜ

「おまたせしました。そして本当に。待ち遠しかった」

#ナレーション

すべての魔法が止まって、景色が割れるようにひびが入る。

#ナレーション

そしてくぜ先生の魔法が収束して、

#ナレーション

視界が白く染まった―――

 

#ナレーション

視界が元に戻っていく。

#ナカミチ

「くっ。ど、どうなったんだ?」

#ナレーション

周りを見渡すと数人残っている。ナカミチ君を含めおなじみの8人。そして、どこかへ歩いていくくぜ先生。

#くぜ

「あの火力をデータ上のものとは言え耐えるとは。……それでもあなたたちは最後まで残るとどこかそう思っていました」

#ましろ

「ライフポイントの表示が消えてる……。戦闘は終わり……?いや……。そういう感じはしない」

#ふうき

「うん。油断しない方がいいよ」

#このみ

「スタッフロールが流れたって油断するべきじゃないですね。せめてエンディングムービー。できればタイトルに戻るまではコントローラーを手放しちゃいけませんよ」

#ミサキ

「なんかちょっと今の言葉、重みがあったね」

#このみ

「痛い目にあった事があるので。もう一回ラスボス戦することになりました……。」

#ナレーション

実体験だった。

#くぜ

「いいえ。ゲームクリアです。あなたたちがここでするべき事はすべてしてくれました」

#ナレーション

くぜ先生が向かう先にはその先に行く事を拒んでいた鉄格子がつぶれて、ひねられ、ひしゃげていた。

#くぜ

「だから。後に残っているのはゲームオーバーだけ」

#ナレーション

くぜ先生との間に大量の人が出てくる。外見はクラスメイトたちだ。しかし、その色は灰色がかっている。コピーだ。

#くぜ

「ありがとうございます、みなさん。そして、……ごめんなさい。ログアウトしていただきます」

#ナレーション

コピーが大量に押し寄せてくる。

#くぜ

「さようなら」

#ナレーション

鉄格子の残骸を越え、くぜ先生が階段を上って消える。

#さいか

「……。」

#ネネ

「……え?」

#ナレーション

立ち去ったくぜ先生。残された8人。迫ってくる集団。

#ナカミチ

「全員戦闘準備だ!」

#このみ

「ど、どうするんですか?!何をしたら……。どうなってるのかよくわかりませんし!」

#ふうき

「全部くぜ先生に聞けばわかるでしょ。やることはかわらない」

#ましろ

「あの通路の先に行けばいいというわけ……。じゃあ全部倒す必要はないか」

#みしろ

「突っ切るというわけだね。姉さん」

#ネネ

「え?なんで?それでいいんでしょうか?」

#このみ

「またなんか勝手に悪だくみしている気はしてましたけど。こういうことになるってわかってたんですね?」

#ナカミチ

「どうなるかなんてわからない。ただ、くぜ先生の様子がおかしかったのは以前からだっただろ」

#このみ

「だからって……。」

#ましろ

「ナカミチ君。戦闘準備ができない。ライフポイントが表示されない……!」

#ナカミチ

「え?あれは準備とかそういうものじゃなかっただろ?敵と一定以下の距離になったら勝手に……。」

#ナレーション

コピー集団との距離はじゅうぶん近い。表示されていてもおかしくない距離だ。

#ましろ

「普段はもうこのぐらいの位置なら出てた。戦闘が出来なくなってるんじゃない?」

#このみ

「ええっ?しかし魔法ぐらいは?」

#ナレーション

そういってこのみちゃんが集団に向けて火をほおり投げる。当たった。

#このみ

「出ますよ?熱さえ感じる程です」

#このみ

「……。」

#ナカミチ

「……。」

#ふうき

「……。今なんて……?」

#このみ

「……。えっ?!いやっ?!そんな……。」

#ナレーション

もう一度火を出す。手元にとどめる。

#このみ

「……。わずかに熱を感じます」

#みしろ

「ほ、ほんとだ」

#ナレーション

魔法使い組が自分の手に火をとどめる。熱を感じるらしい。この仮想の世界で。

#ふうき

「ログアウトしたほうがいい」

#ナカミチ

「そうだな。……そうしよう」

#ふうき

「そうしよう、じゃないよ。まずナカミチ君から」

#ナカミチ

「俺はくぜ先生に話を聞いてくる」

#ましろ

「……もうくるよ。敵」

#ナカミチ

「わかった」

#ナレーション

敵へと駆け出す。

#このみ

「ナカミチ君!」

#ナレーション

集団の中から放たれた火にぶつかる。

#ましろ

「そこまでじゃないみたい。夏の暑さの方が強い感じかな」

#ナレーション

ナカミチ君へ放たれた攻撃はましろちゃんが受け止めていた。追随で追いついたらしい。

#ナカミチ

「あ、ありがとう」

#ましろ

「別にいいよ。この先に行くんでしょ。全員手伝うと思うけど」

#ナレーション

そう言って2人とも下がる。

#さいか

「そ、そうなんですか?」

#ネネ

「そうなんじゃないですかね……。帰った方がいいとは思いますけど……。」

#ふうき

「止めるなら帰ってみんなのゴーグルはずせばいいだけだよ?」

#ネネ

「わ、わかりましたよ!ついていきます!ここで帰ったらだめな気がしますから!」

#ミサキ

「じゃあさっさと行こう!長居するべきじゃない気がするし!」

#ナカミチ

「……そうだな。そうしよう。それでライフポイントはやっぱり出ないのか?」

#ましろ

「うん。出てないね。」

#さいか

「こちらでは皆さんのライフが見えます。ましろさんは今、5分の1ほど減ってますね……。」

#ふうき

「回復はこっちでやるからライフポイントは気にしないで。魔力は満タンある感じがするし」

#このみ

「ラスト前に回復されたというわけですか。わかりました。とっとと外に出ますよ!作戦は?!」

#ナカミチ

「突っ切るだけだ!全員倒してられるか!」

#このみ

「まぁ無限湧きっぽいですもんね」

#ナレーション

集団の数は今も増えて取り囲まれていく。見知った同人物の顔が2人、3人。

#ネネ

「わ、私っぽいのがいますね」

#みしろ

「姉さんが見当たらないね」

#ましろ

「みしろはちらちらと見えるけど」

#さいか

「なんか自分の顔が複数いるのもいやですね……。」

#このみ

「表情が一定なのが……。無表情のこのみちゃんは確かにレアです。深窓の令嬢って感じです。でも見当たらないですねー」

#ふうき

「私の深窓令嬢バージョンはどこかな?」

#ナカミチ

「後方にいるんだろ。回復役だし」

#ミサキ

「……。あたしっぽいのもいるね。とにかく行くんならさっさと行かない?」

#ナレーション

もっともだった。敵から魔法が飛んでくると同時にかけだす。敵の人によって差はあれど1人1人はそれほど強くは無い。ミサキちゃんコピーのように強いキャラは避けて通ればいい。問題は数だ。無数に攻撃が飛んでくる。

#ましろ

「勢いが落ちたら魔法で集中攻撃をくらっちゃう!とにかく前方へ攻撃を集中させて!」

#ナカミチ

「わかった!魔法使いは上空から援護してくれ!」

#このみ

「絶対飛んだら狙い撃ちにされます……。」

#ネネ

「また避けるんですね……。」

#みしろ

「まぁなんとかなるでしょ」

#ふうき

「当たらない攻撃が増える事はいい事だからがんばってー」

#ましろ

「回復役が一番頑張って!誰か減ったら大変なんだから!」

#ふうき

「は、はい!もちろんです!前進全力で務めます!」

#さいか

「1人も落とさないのが条件ですか。……頑張ります」

#ナレーション

全力で前方へと進んで行くが、それでも徐々に勢いが落ちてくる。

#ナカミチ

「敵が硬すぎる!敵の回復役が多すぎるからか?!」

#ふうき

「回復役からしても羨ましい話だよ!あー。ライフ把握大変」

#ナレーション

もう敵の集団内にいると言った方がいい場所だ。横からも後方からも上からも攻撃が飛んでくる。

#ナカミチ

「!今、敵に風紀さんが見えた!」

#ふうき

「誰が敵だ!失礼しちゃうね!まったく!」

#ナカミチ

「忙しい時にやめろ!敵の後方が近い!そこまで行ったら敵も柔らかくなるはずだ!」

#ふうき

「だれがぷにぷにだ!……いや、これは褒め言葉?もちもち肌?」

#さいか

「あ。今、私っぽいのも見えました……。」

#ナカミチ

「魔法集中砲火!そこにたどり着くまで回避より攻撃優先!」

#このみ

「了解!」

#ナレーション

敵の前衛部隊を抜けて後衛へ突入。敵を倒すスピードが一気に上がる。集団を抜けて階段が続く通路が見えた。

#ましろ

「見えた!うわっ!……うわぁ」

#ナカミチ

「どうした……。うわぁ」

#ナレーション

ひしゃげた鉄格子の前に少し色の薄いコピーましろちゃんとコピーこのみちゃんが塊でいる。各5人づつだろうか。

#ましろ

「うわぁ、ってひどい」

#ナカミチ

「自分でいった……、いや、ごめんなさい」

#このみ

「げえっ!?前衛最強と後衛最強が!」

#ましろ

「……。」

#このみ

「あ。すみません。やりなおします。……超美少女前衛と勝るとも劣らない超美少女後衛が!」

#ナカミチ

「……。や、やることも変わらないよな」

#ましろ

「わかってるよ。突破するしかない。しかないけど……。」

#ナレーション

出口はせまい。当然回りこみなんて無理である。しかしましろちゃんのコピーを正面突破するには火力が足りていない。止まればこのみちゃんコピーの魔法で高火力をあびる。

#ナカミチ

「倒せないならどかそう。横から攻撃して後ろへ押し込んで出口を開ける。魔法は右片方へ集中砲火!前衛も右から押しこむ!突撃!」

#ナレーション

敵は集中砲火を浴び、押し込まれる。

#ふうき

「なるほど。場所を守りながらだから回避行動に制限があるのか」

#ナレーション

押し込みきるよりも先に敵のましろちゃんのうち1つが倒された。その隙間からなだれ込む。

#ましろ

「駆け上がって!」

#ナレーション

ましろちゃんが最後に駆け上がる。しんがりである。

#このみ

「と、飛んでるんですが!」

#ネネ

「ここで冗談とか余裕ありすぎません?!」

#ナレーション

どんな時にでも余裕は持ちたい。階段通路を走ったり飛んだりして駆け上がる。

#ナカミチ

「出口が見えた!」

#このみ

「あれが!」

#ナレーション

外からの光が見える。洞窟内の明かりとはまた違う強い光。

#ナレーション

そして。

 

 

#ナレーション

草原と山々と青空。そして、吹き抜けるような風。

#このみ

「これが……。洞窟の外」

#ふうき

「風が感じられる。もうなにも現実と変わらない」

#ネネ

「これが……。いや、これはなんなんです……?」

#ふうき

「現実と変わらない世界。だね。これがくぜ先生の求めたものだと思う」

#みしろ

「すごい……。」

#ナレーション

どこまでも続いているような世界だという予感が彼らにはあった。

#くぜ

「少し違いますね……。」

#ネネ

「先生!」

#このみ

「くぜ先生!どうして!」

#くぜ

「どうして、とは?」

#このみ

「ど、どこかへ勝手に行ってしまいますし。急にいなくなりますし……。」

#くぜ

「そうですよ。今日で皆さんとはお別れです」

#このみ

「……えっ」

#みしろ

「お別れ?」

#ナカミチ

「それはなぜですか」

#くぜ

「私はこの世界へ帰ります。私の生まれた世界に」

#ふうき

「う、生まれた世界……?」

#くぜ

「そう。この世界は現実に存在します」

#ミサキ

「違う世界……。」

#くぜ

「そういう言い方の方が正しいのかもしれません。あなたたちの世界とは違うところが多いはずですから」

#ましろ

「魔法の事でしょうか」

#くぜ

「ええ。こっちの方が圧倒的に魔力を使う事が簡単なはずです。空気中の魔力量が圧倒的ですからね」

#このみ

「ファンタジーの世界……。」

#くぜ

「そうですね。……もっと喜んでも良いですよ。来たがっていたじゃないですか」

#このみ

「……。だって。あんなに突き放されて。もうお別れだって言われて」

#くぜ

「……。」

#このみ

「楽しくないです……。」

#くぜ

「そうですか。では、やはりはやく帰るべきですね」

#ナカミチ

「くぜ先生はどうされるんです」

#くぜ

「さっきも言いましたよね。この世界に残ります」

#くぜ

「あなたたちも通った鉄格子。あれはこことあなたたちの世界を遮るものです。おそらくですがそのうちまた閉じます。そうしたらそこにある洞窟の入り口と共に消えるでしょう。もう戻れなくなります」

#ナカミチ

「先生は?」

#くぜ

「ここに残ります。もうそちらには戻らないでしょう」

#ふうき

「私たちを置いていくんですか。くぜ先生が」

#くぜ

「そうだと言っているんですが」

#ネネ

「ひどい……。なぜ、こんな急に」

#くぜ

「私にとっては急ではありません。ずっと前から考えてきた事です。それがようやく今日叶っただけです」

#くぜ

「急だったとしたら。それは、それは私の方が……。」

#ナレーション

そう言いかけて。急に地面が揺れる。

#

ゴ、ゴゴゴゴゴゴゴゴ―――

#このみ

「な、なんですか?!」

#ましろ

「地震!?」

#ナレーション

ナカミチ君が立っている地面が割れる。

#ナカミチ

「な、」

#くぜ

「っ!あぶない!」

#ナレーション

突き飛ばされる。割れた地面は盛り上がり―――

#

「おおおおおぉおおおおおおおおおおおおお!
おぉぉ。おおおおおおおおおおおぉ……!」

#ナレーション

網目のような血管を伴った巨大な塊が地面から勢いよく出てくる。その大きさは人の3倍である。

#くぜ

「がっ―――!」

#ナレーション

くぜ先生は空高くはねとばされて、地面に落ちて。そのまま動かない。

#このみ

「く、くぜ先生っ!」

#

「おおぉ……。おおおおおおおお

おお、おおおおおおおおおおぉぉぉ!」

#ナレーション

地面に降り立ったその巨大なものは網目のような細い糸をいくつも地面に伸ばして、立っているという表現が正しいか。そしてその中心部にはその巨大さの割に小さな目が1つある。

#ネネ

「な、なに。なんですか……。」

#ナレーション

へたり込む。

#ましろ

「立って!こっちに来る!」

#ナレーション

ましろちゃんがネネちゃんを担ぎあげる。

#みしろ

「なに!?なんなのあれ?!」

#ナカミチ

「攻撃……。したら刺激してしまうか?!」

#ふうき

「いや、明らかに攻撃してきそう。さっさと攻撃するべきじゃない?」

#ミサキ

「うん……。正気の生き物という感じがしない」

#ナレーション

気分が悪そうである。たしかグロテクスなものが苦手だった。

#このみ

「それよりくぜ先生が!」

#ナレーション

倒れたままだ。

#

「おおおおおおおおお!」

#ナレーション

瞳孔が開いたような目の傍で何かが光る。光の線が向かってきて、このみちゃんの足元の横に当たる。土が赤くなる。焼けているようだ。

#このみ

「……ひっ」

#さいか

「少なくとも2、3000度ですね。あは、あははは。はははは」

#ナレーション

単調な意見しか出せなかったようだ。

#ふうき

「……回復魔法は出せないね。あれはゲーム上だけのものか」

#ネネ

「帰ろう!帰りましょう!」

#ましろ

「それが……。帰れないみたい。向こうの体を動かせている感覚が無いの」

#ナカミチ

「こっちの世界に来ているからか?!」

#ましろ

「そうかも。どうすれば……。」

#ナカミチ

「洞窟に戻るべきだ!あそこは俺達の世界に通じているはず!」

#ネネ

「そ、そうか!そうですよね!」

#このみ

「く、くぜ先生は……?」

#ネネ

「っ!連れて帰るべきです!こんな所いるべきじゃありません!」

#ふうき

「あの化け物の横を通ることになるよ」

#ナカミチ

「しかし見捨てるわけには」

#ふうき

「今このメンバーが残っている訳わかる?」

#ナカミチ

「……。っ」

#このみ

「風紀さん!私たちには助けれる可能性があるんです!」

#ふうき

「助かる可能性を捨てることになるよ。そうやって回復だって振り分けてこのメンバーが残ってるの」

#このみ

「馬鹿な事いわないでください!くぜ先生が死にます!」

#ナカミチ

「俺たちだって死ぬかもしれない」

#このみ

「でも!」

#みしろ

「私が飛んで回収してくる!」

#ましろ

「やめて!!それなら私が行く!」

#ふうき

「とにかく洞窟に戻るべきだと思う」

#さいか

「……私もそう思います」

#ナカミチ

「決定だ。戻るぞ」

#このみ

「いやです!くぜ先生が死んじゃいます!」

#ナレーション

いやがるこのみちゃんの腕をとって洞窟へと向かう。

#このみ

「離して!離せ!」

#ナカミチ

「……。」

#このみ

「どうすればよかったんですか……!何もできなかった!」

#ナレーション

ナカミチ君の隣で引きずられながら叫ぶ。

#ましろ

「このみちゃん……。ともみさんが待ってるよ。だから帰らないと」

#このみ

「おねえちゃん……?おねえちゃんだったらなんとかできたんでしょうか……?私だから何も……。」

#ネネ

「どうすれば……。どうしたら……。」

#このみ

「どうしたら……。」

#ナレーション

洞窟内へと入る。外に出る前にその道を阻んでいたクラスメイト達のダミーは1つもなく消え失せていた。入り口から外を覗く。

#ナカミチ

「敵は?」

#ふうき

「こっちに向かってきてるね。速度が遅くて助かったよ」

#ナレーション

ゆっくりとこっちへ向かってきている。目の傍が光る。光の線は風紀さんの横をかすめる。

#ふうき

「……。まぁここで当たっても元の世界に戻れるでしょ。多分」

#ナレーション

冷や汗を流しながら発言する。

#ナカミチ

「……。それだ」

#ふうき

「えっ?なにが」

#このみ

「!そうか!ここなら大丈夫なんですね!」

#ましろ

「あぁ。そうかもしれない」

#ふうき

「……ここで戦うつもり?」

#ミサキ

「ここでならやられても元の世界に戻るだけだね。良い考え」

#みしろ

「本当に大丈夫なのかな?」

#ふうき

「確証がないね」

#ネネ

「やりましょう!風紀さん!」

#ふうき

「……私は良いけどね。それでいいの?」

#このみ

「はい!」

#ふうき

「わかったよ。じゃあこっちに呼び込もう……。あれ?」

#ナレーション

敵はこちらを見ていない。辺りを見回しているようにも見える。

#ふうき

「……ライフポイントが1000あるね。あいつ」

#ましろ

「倒すのは無理なの?」

#ふうき

「わからないけど。とりあえず誘い込むためにも魔法を打ち込んでみて」

#このみ

「はい!強烈なの行きますよ!」

#ナレーション

強い赤色の炎が飛んでいく。当たった。

#ふうき

「減ってないね。そして敵はこっちを見てない気がする」

#ナカミチ

「……この洞窟自体が見えていないのか?」

#ふうき

「いやいや。さっき攻撃してきたじゃん」

#ましろ

「急に見えなくなったからテキトウに打ったんじゃないかな」

#このみ

「え?では結局くぜ先生は助けれないんですか?!」

#ナカミチ

「……。ん?ちょっとまて!さっきライフポイントが見えたって言ったよな!!」

#ふうき

「……!くぜ先生のライフポイント!みえた!回復させる!!」

#さいか

「!私も!」

#ナレーション

回復が始まる。くぜ先生の周りにまばゆい光がたちあがる。

#ふうき

「8、1215192432、」

#ナレーション

同時に周りに雨が降り始める。そしてくぜ先生がよろめきながらも立ち上がる。

#このみ

「く、くぜ先生!!」

#ネネ

「くぜ先生……!」

#ふうき

「よかった……。」

#ナレーション

くぜ先生は立ち上がり杖を構えると辺りが一気に暗くなりだす。強い風が吹き、雨が勢いよく振り続ける。雷も光り始めた。

#さいか

「きゃあ!」

#みしろ

「これは、くぜ先生の魔法?!」

#ましろ

「そうだと思うけど……。」

#

「おおおおおおお!」

#ナレーション

もともと大きさの割にそんなに重くは無いのだろう。風に巻き上げられ、その巨大な体が宙へと浮く。さらに風が強くなりその網目状の体がちぎれていく。

#ふうき

「ライフポイントの上限自体が下がっていってる……。800780……。」

#ナレーション

そして細切れになって、中心であろう目の部分に巨大な雷が落ちて、

#

「おおおおおおおおおおお……。おぉ、お、お、お……。」

#ナレーション

消滅した。

#このみ

「や、やった!」

#ふうき

「あれがこの世界でのくぜ先生の力……。」

#ナレーション

このみちゃんが外へ出ようとした瞬間、辺りが綺麗な赤色に光り出す。

#くぜ

「お別れみたいですね。本当に」

#ミサキ

「わ、私たちの体が透明になっていってるよ!」

#くぜ

「大丈夫です。元の世界へ戻るだけですよ。こっちの世界とつながりが消えようとしているだけです」

#ナレーション

ミサキちゃんが消える。

#このみ

「せ、先生は!くぜ先生は!そっちの世界は危なすぎます!」

#くぜ

「わかっていますよ。もともと住んでた世界です。幼いころですけどね」

#ナカミチ

「残される俺達はどうすればいいんですか」

#くぜ

「あとは校長先生にお願いしています。なんとかなりますよ」

#ナレーション

ましろちゃん、みしろちゃん、さいかちゃんも消える。

#ふうき

「なんでそっちにそんなに戻りたいんですか。私たちを置いて」

#くぜ

「ふうきさん。こっちの世界には私のお父さんやお母さんがいるんです」

#くぜ

「会いたくて仕方ない」

#くぜ

「あの日急に目の前が白く光って!あの世界へ飛ばされた日から!ずっと。ずっと!」

#ふうき

「……そう、ですか」

#ナレーション

風紀さんも消えてしまった。

#ネネ

「それでも……。それでもくぜ先生に担任でいてほしい……。そう思っているんです……。」

#ナレーション

ネネちゃんも消える。

#ナカミチ

「くぜ先生。戻ってきてくれませんか」

#ナレーション

くぜ先生の方へ足を運ぶ。

#くぜ

「来てはいけません。戻れませんよ」

#このみ

「くぜ先生!ぐうっ?!」

#ナレーション

すごい勢いで後ろへ引っ張られる感覚が来る。何かが限界に達し始めている。もう時間は少ない。

#ナカミチ

「くぜ先生!」

#ナレーション

手を伸ばす。

#くぜ

「ナカミチさん。本当に戻れなくなりますよ。それとも」

#くぜ

「一緒に来てくれますか?」

#このみ

「っ!」

#ナレーション

このみちゃんがナカミチ君の腕を掴む。

#ナカミチ

「このみ……。」

#このみ

「それは。嫌です……。」

#くぜ

「冗談ですよ。……最後に申し訳ないんですが1つ校長先生に伝えといて下さい。いままで本当にありがとうって」

#ナレーション

くぜ先生の姿がどこまでも遠くなっていく。

#くぜ

「さようなら。みなさん……。」

#ナレーション

泣いていたように見えた。

#ナカミチ

「くぜ先生!」

#このみ

「くぜ先生!」

#ナレーション

辺りが暗くなり。腕を掴むぬくもりだけが残っていた。

 

 

 

 

#ナレーション

1週間後―――

#ナレーション

今日は終業式。壇上では校長先生のお話が続いている。

#ナレーション

あれからはいろいろあったが何もなかったと言ってしまえるほどくぜ先生の出来事は大きすぎた。

#ナレーション

あの日、ゲームの世界のようで、そうではなかった出来事はクラスメイト全員が知ることとなった。そもそも洞窟内での出来事はモニターで映っていたし、ナカミチ君とこのみちゃんでクラスメイト達に説明した。

#ナレーション

そして今、壇上にいる校長先生が担任になった。校長先生が言うには教え子が迷惑をかけたから私が担当を受け持ちます。とのことだった。この先生は理科も教えているので大変多忙なはずなのだが。

#ナレーション

結局くぜ先生はあれから戻ってこない。体ごとこの世界から消えてしまったようだ。

 

 

#ナレーション

終業式も終わり、ホームルームも終わった。帰る時間、クラスの雰囲気は元気がない。

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

机の中を整理するナカミチ君。もう明日は春休みだ。全ての荷物を持って帰らないといけない。

#ナレーション

机の中で覚えのない大きさのものが手に当たった。封筒だと彼は感じた。実は今日2通目である。朝、靴箱から1通落ちてきた。鍵はかけていたはずであるが。

#このみ

「ナカミチくん。帰りましょー」

#ナカミチ

「今日用事があるんだ。先に帰ってくれ」

#このみ

「えー。今年度最後ですよー。最後に一緒に帰るチャンスなのにー。風紀さんもさっさと帰ってしまいましたし。……こんなのいやですー」

#ましろ

「このみちゃん一緒に帰る?」

#みしろ

「たまにはゆっくり帰ろうと思ってるんだ。最終日だしね」

#このみ

「わーい。もうナカミチ君はポイですね。ポイ」

#ナカミチ

「わかったから帰れ」

#このみ

「はーい。ではまた」

#ましろ

「じゃあね。ナカミチ君」

#みしろ

「またねー。ナカミチー」

#ナカミチ

「ああ。3年になってもよろしくな」

#ナレーション

帰って行く3人。時間を少しだけ置いて廊下へ出る。

#ナレーション

封筒の中に書かれた紙には、放課後校舎裏で待っています。と書かれていた。定番の場所だ。カツアゲだろう。ちがうか。

#ナレーション

もう1つ、靴箱に入っていた手紙には、放課後屋上へ来て下さい。と書かれていた。定番の場所だ。不良に絡まれる。間違っているかもしれない。

#ナレーション

ナカミチ君は校舎裏へと足を運ぶ。大事な話だろう。ナレーションも真面目に行こう。

 

 

#ナカミチ

「風紀さん。来たけども」

#ナレーション

着いた先には風紀さんがいた。

#ナカミチ

「待たせたみたいだったな」

#ナレーション

たしか早々に帰ったという話はあった。

#ふうき

「いや、こっちが呼んだんだからね。来てくれてうれしい」

#ナレーション

3月のまだ寒い季節。ほほの赤さはそのせいかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

#ふうき

「あのね。ナカミチ君にお願いがあるんだ」

#ナレーション

わざとらしくもじもじしながら間を詰めてくる。

#ナカミチ

「……ああ」

#ナレーション

くるりと後ろを向いて。いつもより小さな声で精一杯に話し始めてくれる。けれども。後ろ姿を見せる彼女のその表情は彼には計り知ることができなかった。

#ふうき

「……あのね。……あのね。私ナカミチ君の事が好きなんだ。その。付き合って下さい」

#ふうき

「―――――お願い」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

ふうきさんは沈黙に耐え切れなかったのだろうか。くるりと振り向いて、矢継ぎ早に言葉を並べていく。

#ふうき

「……あのね!私たちが一緒だったらきっと楽しいだろうって思う!それにちょっとだけだけど似てるとこもあると思うし。だから。だから……。」

#ふうき

「お願い。ナカミチ君……。」

#ナレーション

つらそうな顔だった。どこまでも耐えてきた彼女の。

#ナカミチ

「風紀さん。ごめんなさい。風紀さんとお付き合いはできない」

#ふうき

「……。……………。」

#ふうき

「うぅ……。ぐすっ……。」

#ナレーション

涙がほほを伝う。

#ふうき

「……そっか。私、本当にナカミチ君の事が好きだったんだ……。」

#ナレーション

涙を流しながら笑顔になる。

#ふうき

「良かった……。」

#ナカミチ

「風紀さん……。」

#ナレーション

ほほを流れていた涙を自分でぬぐい、しっかりと目を合わせて話をつづけた。

#ふうき

「うん。ごめんね。困らせたよね。勝手でごめんね。どうしても耐えきれなかったんだ。でもね。きっともう大丈夫だよ」

#ナカミチ

「そうか……。3年になってもよろしくな」

#ふうき

「うん。じゃあね。また。」

#ナレーション

そう言って去って行った。その後ろ姿を見届けて。

#ナレーション

屋上へ。

 

#ナレーション

屋上の鍵は開いていた。普段は閉まっているはずではあるのだが。

#ナカミチ

「来たぞ。さいかさん」

#さいか

「……ちょっと遅くないですか。ナカミチ君いつもあんまり待たせたりしないのに。屋上って寒いからね?」

#ナカミチ

「そう言われてもここを指定したのはさいかさんだしな」

#さいか

「うん。そうですね。どうしてもお伝えしたい事が出来てしまって」

#ナレーション

そう言って距離を詰めてきて、

#さいか

「私ね。やっと気付けたの。ナカミチ君。アナタが。一番、キライ」

#ナレーション

正面から笑顔で。

#さいか

「うん。……うん。ちゃんと言えた。良かった」

#ナカミチ

「……それで」

#さいか

「うん。そういうところが嫌い。なんとかしようとして。なんとかできるなんて。……憎い」

#さいか

「だから1つ謝らないといけないの。これが1番伝えたい事」

#ナカミチ

「……。」

#さいか

「私、みんなにちゃんと説明するね。そしてその為に台無しにしてあげる。あなたがこのクラスの為に動いてきたって言うなら。このクラスを」

#ナカミチ

「なんで。なんでそんな事をするんだ」

#さいか

「わかりませんか!?わかりますよね!?貴方が得意なことじゃないですか!」

#さいか

「それでもわからないならお詫びです。教えてあげます。気にいらないんです!あなたみたいに思い通りに何かをできる人が!だから」

#さいか

「去年邪魔をしないって言いました。これを取り消します。これが私が謝る事、言いたかった事。……今日はこれで失礼しますね」

#ナカミチ

「ああ。またな」

#さいか

「ええ。では、また」

#ナレーション

そう言って屋上を出て行った。

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

正午を少し過ぎた空を見上げる。青い空を見るとくぜ先生が帰った世界のどこまでも先が見渡せる空を思い出す。

#ナカミチ

「帰ろう……。」

#ナレーション

誰にも聞こえないぐらい小さな言葉でつぶやいて屋上を出ると鍵穴にいつか誰かが使っていたような気がする簡易の鍵あけが差し込まれていた。

#ナレーション

鍵を閉めて校舎を後にする。次にみんなと会う時は3年生だろう。鍵あけを普段入れてある誰も使っていない靴箱へ戻しておく。

 

 

#このみ

「あー。やっときましたー」

#ナカミチ

「このみ?」

#ナレーション

学校前の校門でこのみちゃんが立っていた。他にもぞろぞろ。

#ましろ

「やっぱり最終日だし一緒に帰る事にしようってこのみちゃんが。だから待ってたの」

#ネネ

「ミサキさんと一緒に帰ろうとしていたら引きとめられました」

#ミサキ

「うん。私たちは校門でたらすぐに帰り道別になるのにね」

#みしろ

「遅かったけど何してたの?」

#ナカミチ

「……。わからない問題があったからな。職員室に行ってたんだ」

#ふうき

「えー?でも私が行ってた時は見当たらなかったけどなー」

#ナレーション

なんか平然といた。

#ナカミチ

「ぐ?!げっほ!げっほ!」

#ナレーション

おどろく。そりゃあおどろく。さっき交際をお断りした女の子が断った男の子の帰りを待っていたら。怖いと見るか、健気と見るか。

#ましろ

「だ、大丈夫?ナカミチ君?」

#ナカミチ

「き、気管につばが……。」

#ふうき

「なにしてるんだか」

#さいか

「何か驚くような事でもあったんでしょうか」

#ナカミチ

「……。おかしいなぁ」

#ナレーション

真顔にならざるを得ないナカミチ君。うん。こわいものだ。絶対わざとである。

#ナレーション

こうして2年生最後の1日は終わって行った。楽しかったことも、どうにもできなかったことも過ぎて行った。そしてついに。

#ナレーション

最後の年が始まる。

 

 

#ナレーション

3年生1学期―――

#ナレーション

春休み中はグループチャットが多かった。どこか寂しい気持ちを埋めたかったのだろうか。

#ナレーション

教卓には校長先生が立っている。

#校長

「配布物は以上ですね。それでは委員長と副委員長を決めたいと思います。誰か」

#ナレーション

このみちゃんが手を上げる。

#校長

「うん。わかった。それじゃあ続いて、」

#このみ

「違います。校長先生。私は委員長に推薦したい人がいます。そして、副委員長も」

#ナレーション

クラス内がざわめく。

#クラスメイト

「このみさんはしないのか?」

「推薦……。」

「このみちゃんがやってほしい人、か」

#校長

「他に立候補がいなければ聞きましょう。副委員長も含めて、いませんか?」

#ナレーション

誰も手を上げない。だれもが1つの予感があった。

#校長

「うん。では聞きましょうか」

#このみ

「はい。私は。風紀さんに委員長をしてほしいと思います」

#ふうき

「……。」

#クラスメイト

「風紀さん……。」

「もうあれから2年か」

「そうか……。すごく前のように感じる」

#ネネ

「でも風紀さんは……。」

#ましろ

「……委員長になるのは難しいんだよね」

#ナカミチ

「いや……、今年はそうでもない。1人許可をもらえばいいんだ」

#ミサキ

「1人?」

#ふうき

「……担任が校長先生だからね」

#ナレーション

権力者。

#校長

「皆さんで決めた事に反対するつもりはありませんよ。みんなで話し合ってみてください」

#みしろ

「つまりみんなでオッケーが出たら」

#クラスメイト

「久々の風紀さん、ナカミチ体勢か」

「そうなるな」

「そうですね」

#ナカミチ

「なんか話が飛ばなかったか?」

#クラスメイト

「そうか?」

「いや、もうそれに決まっているだろう」

「あきらかってやつだ」

#このみ

「実際そのつもりですよ」

#ふうき

「どのつもりかはわからないんだけど。なんで私なのか聞いていい?」

#ナカミチ

「いや、まずなんで俺は確定みたいに、」

#このみ

「体育祭です」

#ふうき

「……。」

#ナレーション

全員が黙りこんだ。

#ナカミチ

「聞いて」

#ナレーション

全員シリアスな表情だ。

#ましろ

「……しないの?」

#ナカミチ

「……わかったよ」

#ナレーション

こうなる。

#このみ

「今度は勝ちます。その為には風紀さんの指揮がいるはずです。そしてなにより風紀さんの指揮のもとで勝ちたい」

#ふうき

「それはどうかな」

#このみ

「きっと勝てます」

#ふうき

「そうじゃないよ。私が委員長なんて認められない。迷惑かけたしね。もうやらない」

#ネネ

「迷惑だなんてもう思ってません。あの時はまだお互いの事がよくわかってなかっただけです」

#ふうき

「そうかな。案外昔の方がちゃんとわかっていたりするもんだよ」

#クラスメイト

「もうやってくれないのか?」

「やりたくない事は誰にだってある」

「あんなことがあったんだしな」

#ナカミチ

「風紀さん。今度はちゃんとサポートできると思うから。やってほしい」

#ふうき

「……ナカミチ君のせいじゃないよ。私がろくでもなかっただけ」

#このみ

「お願いします風紀さん」

#ふうき

「……。」

#ナカミチ

「俺もやってほしいと思ってるよ」

#ふうき

「……。ちなみに私がどうしてもやらない。いや、やりたくないって言ったらどうするの」

#このみ

「ナカミチ君を委員長にして私が副委員長をやります」

#ふうき

「そこまで脅されたんならやるしかないね」

#ナカミチ

「今のどこに風紀さんにとっての脅しがあったんだ」

#クラスメイト

「と、ということは」

「風紀、ナカミチ体勢か」

「さー。忙しくなるな」

#クラスメイト

「頑張って風紀さん!私たちも手伝うからね!」

「ナカミチ君に何かされたらすぐ言ってね」

「さー。忙しくなるわ」

#ナカミチ

「何か1つおかしなの混ざってなかったか?」

#みしろ

「でも本当どうなるんだろ」

#ましろ

「騒がしくなるとは思うけど」

#このみ

「協力するのみですよ。今年こそ絶対体育祭勝つんですから!」

#さいか

「そうですね。私も勝ちたいと思ってます」

#ナレーション

久しぶりに元の活気が戻ってくる。それでも前とは違う。新しい日々。

#ナカミチ

「またよろしくな。風紀さん」

#ふうき

「……うん。よろしく。ナカミチ君」

#このみ

「さぁ!さっそくどうするか考えましょう!最後の1年!絶対楽しいものにします!」

#ナレーション

最後の1年が動き始めた。全力で走る彼らの道のりは静かに最後へと向かう。できればその道のりが納得できるものであるように――――

 

 

#

The strange second memories. END.

#

―――つづく。

 

 

 

 

 

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著作・製作 二ツ橋 のめり

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