※ゲーム作成用のシナリオを少しだけ手を入れてコピペしただけなのでそれなりに読みづらいですね。

※2019年8月12日全て公開されました。これにて完結とするようです。

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ーこの道をともにー第3部

【C96配布予定ゲームシナリオ】

※転載はしないでくださいね。

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#ナレーション
朝、8時00分。
#ナレーション
いつもの二学期の始まり。
いつも通りの通学路である。
#ナレーション
いつものようにきつい残暑にふさわしい美しく舞う桜の花びらの存在感は歩くたびにさらにその存在感を増し、
#ナレーション
桜が散っているなら今は春ではないだろうか。1学期であると思われる。
#ナカミチ
「……。」
#ナレーション
口から意識せずでてくる言葉もない。これでは彼の心情を理解する事も難しい。まぁきっと何も考えてはいない。常に何かを考えるというのは大変であるし。
#ナレーション
ふと彼が上を見上げると咲きほこった桜が目に映る。空には桜の花びらが飛んでいる。風情満点という感じだろうか。しかしそんな四文字熟語はない。
#?
――――――シャァァァァアアア――――――
#ナレーション
後ろから自転車の音が聞こえる。移ろいゆく桜と変わらぬ光景。そんな感じの描写だろうか。なんにしても、
#ましろ
「…………ぁ。」
#ナカミチ
「……ん?」
#ナレーション
後ろから来た自転車に乗った人物が声をかけたような、かけ損ねたような、そんな感じで、
#ナレーション
そして1度振りかえりつつも通り過ぎていく。とりあえず前を見ないと危ない。そんな感想である。
#?
―――シャアアアアア!!―――
#みしろ
「まってよー!ましろ姉ぇー!」
#ナレーション
びゅーん。
#ナレーション
後ろから勢いよく自転車が通り過ぎた。
#ナカミチ
「……あれは」
#ナレーション
相変わらず。変わらないことも大事だろうし、変わらないと今までと同じことの繰り返しだろうし。そんな深刻な話でもないか。
#ナレーション
とにかく学生で主人公たるナカミチ君は歩き続けるしかないのだ。春だろうが夏であろうが、それが通学路というものである。暑くないだけましであろう。ほら、歩け歩け。


#ナレーション
校門を視覚認識。当然タクシーはない。生徒会長は大学へ行き、ともみさんとなったのを我々は見た。
#ナレーション
春だからナレーションも絶好調である。変なのが湧く季節だからとか言わないように。
#ナカミチ
「……。」
#ナレーション
門の前から校舎を見上げる。こんな日々も。あと、1年―――。


#ナレーション
教室へと入るナカミチ君。教室の黒板には席順と思わしき図が書かれていた。机を上から見たと思わしき四角い格子状の図。一つ一つの枠の中に番号が書かれていた。そして図の上にもう一個、四角が書かれ、枠内に教卓と書かれている。
#ナカミチ
「……えっと」
#ナレーション
おそらく出席番号だろう。席を確認するナカミチ君。見当をつけた席にはさいかちゃんとネネちゃんのしゃべっている姿が。
#ナカミチ
「……。」
#ナレーション
もう一度確認。黒板を見る。視覚認識とか意味のわからないことをナレーションは言わない。
#ナレーション
どうもナカミチ君は左右反対に席を認識している。黒板を見て、振り返る。このどこかに左右の認識を逆転してしまう要素があるのだろう。ミステリ文学である。
#
ガラガラガラ―――
#ナレーション
教室のドアが開く。
#ふうき
「おはようございます!」
#ナレーション
風紀さん元気にご登場である。相変わらない元気よさで、
#ナレーション
……。縮んでる気がする。小さい風紀さんにクラスメイトの視線もくぎ付けだ。これだけかわいかったら仕方がない。とてとてと黒板の前へ。
#ふうき
「……ん?どうしたの?」
#ナカミチ
「え?えーっと。席がまだわかっていなくて」
#ふうき
「出席番号は?」
#ナレーション
言われてカバンからクリアファイルに入った書類を取り出す。名前や所属クラス、生年月日やら住所やら。重要そうな情報が。そこに出席番号も書かれていた。
#ふうき
「ほんほん。ふんふん」
#ナレーション
書類と黒板を何度か見る風紀さん。
#ふうき
「あそこでしょ」
#ナレーション
ちょうど先ほど見ていたさいかちゃんたちの場所と左右反対のほうを指さす。
#ナカミチ
「ああ。なるほど。助かったよ」
#ふうき
「いいよ。いいよ。それとちょうど私、君の隣の席みたい。えーと。ナカミチ君?これからよろしくね」
#ナレーション
ナカミチ君の手元の書類を見ながら答える風紀さん。書類には入学案内と記載されている。
#ナカミチ
「よ、よろしく。君は?」
#ふうき
「白野風紀って言うんだ」
#ナカミチ
「白野さん。か」
#ナレーション
自分の席に向かう2人。黒板には席順の並びのほかに入学式の流れといったタイムスケジュールのようなものが書かれていた。
#ナレーション
今日は彼らの入学式らしい。まだ騒がしいけどまとまっていないようなあわただしいクラス。それは少し、ほんの2年前で、
#
ガラッ―――
#くぜ
「席につきなさい」
#ナレーション
そして遠い幻想のような日々―――。そして一つだけ誰もいない机があった日々である。

#ナレーション
体育館で行われた入学式も終わり、教室へ戻ってくる。このぐらい時間がたってくるとある程度のグループが出来上がる。人によってはつらい時間帯だ。製作サイドが呻き始めたのでもう少し描写しようと思う。
#ナレーション
ナカミチ君は元々の知り合いもいないようで1人で座っている。こういうのは早いうちに一歩踏み出した方がいい。出来たら苦労しない。話や趣味の合う人間を見つけるには数を。ナンパの話ではない。どれだけ人をたらしこめるかの話である。いや、そうではなくて。
#ナカミチ
「……。」
#ナレーション
ちらりと横を見る。風紀さんは何かを書いている。今日提出の書類だろう。いわゆる学生の言葉で提出プリント。提出用紙。他にも言い方があるかもしれない。
#ナレーション
少し遠くにはさいかちゃんとネネちゃんの輪にミサキちゃんが話しかけているようだった。こういう時、何か共通の話題でもあれば強いのだが。3人とも楽しそうに話している。強かったらしい。
#ナレーション
そして弱い方。未だ暇そうにしているナカミチ君。隣はちょうどプリントを書き終わったらしい。ごそごそとプリントを直す。ほら、一歩踏み出すべきである。
#ナカミチ
「なぁ。ちょっと聞きたい事あるんだけどさ」
#ナレーション
わりとどうでも良い質問から会話に入る高等テクニックを駆使して突破を図る。
#クラスメイト
「ん?おお、なんだ?」
#ナレーション
そうして彼は前の人へ会話を投げていた。横ではなかった。ただのへたれである。ナンパの一つもできないらしい。主人公としての好感度を上げる前に一応ギャルゲーでもあるここの主人公として女の子の好感度をあげてほしい限りだ。このシーンは早く次へ行ってしまおうと思う。

#ナレーション
その後くぜ先生がやってきて配布物、回収物。諸注意等。淡々と進められる。それでも20分かかったのは最初の日だからだろうか。
#くぜ
「以上で諸注意を終わります」
#ナレーション
終わった。後は帰るだけだ。
#くぜ
「次が最後ですが、クラスの委員長と副委員長についてです」
#ナレーション
初日から決めてしまおうとはなかなか飛ばし気味である。
#クラスメイト
「え。学級委員……?」
「もう決めるのか……?」
「どうする?私はしないけど……?」
#ナレーション
少しづつざわめきが出始める。まぁこういう時は全員が存ぜぬというように黙りこむ事もある。それよりはよっぽどいいのかもしれない。しばらくざわめきが続く。1分程たっただろうか。ついにくぜ先生が動く。
#くぜ
「静かにしなさい」
#ナレーション
もちろんくぜ先生は喧騒の中で物事を決めるのをよしとしないわけで。といってもまだ初日の彼らには知る由もなし。未だざわめきはとどまらず。
#くぜ
「……。いいですか。今無理に決めなさい。とは言うつもりはありません。私が今日伝えるのは委員長の決め方についてです」
#ナレーション
担任の先生がしゃべり始める。ざわついていた教室も先生の話を聞くために少しづつ静かになって行く。
#くぜ
「委員長と副委員長の役職につく方がいらっしゃらなかった場合は私から推薦する形で決めさせてもらいます。という事を伝えたかっただけです」
#くぜ
「委員長も副委員長もクラスの代表として存在するわけですから。その意味を良く考えて立候補する、そして、しないという事を決めてください。明日以降、下校前のホームルームの最後に立候補を聞きますからそのつもりで」
#くぜ
「何か質問は。無い場合はこのまま解散しますが」
#ナレーション
ついに静まりかえる教室。ここでの発言は質問と取られる。不用意な発言は身の破滅をまねきかねない。
#さいか
「……あ、あの。他の、少し違う質問でもいいんでしょうか」
#ナレーション
ここで質問ができるというのは胆力がある。とてもすごい。不安からの質問かもしれないが。
#くぜ
「あなたは、さいかさんですね。……立候補以外の質問ということでしょうか。かまいません。どうぞ」
#ナレーション
さすがくぜ先生である。入学式初日であっても生徒の名前をきっちり覚えていらっしゃるようだ。おそらく全員の名前を覚えておられるだろう。
#さいか
「委員長と副委員長以外の役職は無いのでしょうか?」
#くぜ
「そうですね。この学校ではそれ以外の役職は必要とされていません。特に必要はないでしょう」
#さいか
「そ、そうですか。あ、あと自己紹介とかはやらないんですか?」
#ナレーション
定番である。ここで数々の伝説が生まれて黒歴史とかいうものも生まれる場所である。そして、おおむね主要キャラ以外描写されないやつである。実際、他の人の自己紹介は記憶に残らないものである。自己紹介とは難しいものであるのだ。関わってはいけない類のものだろう。あまりに割に合わない。
#くぜ
「必要ないでしょう」
#ナレーション
やはりくぜ先生はいい先生である。
#くぜ
「これから互いの事を知って行くわけですから、大きく時間を取って急いでする事でもありません。途中からこのクラスにまったく知らない生徒がはいってきたりするなら別でしょうが」
#ナレーション
これがいわゆるフラグという奴なのだろう。時系列的に。ニューフェイス参上まで後約5カ月。
#さいか
「そ、そうですか。わかりました……。」
#ナレーション
準備してくるタイプだろう。実際準備してきたに違いない。聞いてみたくもあるなぁ。
#くぜ
「さて。質問は以上ですか?」
#ナレーション
終わりが見えてきた。気が緩んできたのか少しづつ小さくしゃべる生徒が出始める。命知らずだ。実際のところ何かされるわけでもないのだが。とにかく、これにて今日の1幕は終了だろう。
#ふうき
「先生!私、委員長をしてみたいです!」
#ナレーション
終わるだろう。はフラグらしい。明るい感じの声が教室に放たれる。少し大きめな声はかえって教室を静かにした。
#くぜ
「…………。そうですね。他にしたいという人がいなければしたいという理由を述べてもらい、大きな反対が無ければ委員長をしていただきましょう」
#ナレーション
こういう事柄で風紀さんのようにすぱっと立候補が出るとなんとなく嬉しいものである。しばらく待ってみたが別の立候補者は出なかった。
#くぜ
「では風紀さん。その場で構いませんので委員長をしたい理由を述べていただけますか」
#ナレーション
さっきからではあったが全員の視線が風紀さんに注目される。我らがナカミチ君もさっきから視線は風紀さんの方向を向いている。
#ふうき
「えー、こほん」
#ナレーション
一拍おいて勿体ぶるあたり最初から風紀さんは風紀さんであった。
#ふうき
「私はこの学校で行われる学校行事で他クラスに勝てたらいいなと思っています。そのために全力でみんなを引っ張っていけるよう、委員長を務めたいです」
#ナレーション
やはりというか当然というか。クラスは体育祭へと動き出すようである。あまり良い結末にはならないけれど。それでもどんな事が起こったのか。見る必要がある。そんな時が来たのかもしれない。
#ナレーション
クラス内は風紀さんの言葉に数ヶ所でざわめきがおきている。きっと席の近くで仲良くなったクラスメイトたちだろう。何か理由があればしゃべりたい。それが当然の時期だ。
#くぜ
「……。」
#ナレーション
意外にもくぜ先生は黙ったままである。だんだんざわめきが大きくなるとようやく、くぜ先生が動こうとするが、
#ネネ
「ま、待ってください」
#ナレーション
ネネちゃんからちょっと待ったが入る。もちろん風紀さんに対してだろう。くぜ先生に対してちょっと待って下さいと言ったところで聞いていただけるかどうか。聞いてくれるだろうな。
#ネネ
「それは無理だと思います。普通科が機械科に対して負けた事が無いのは有名な話じゃないですか」
#クラスメイト
「そうだよな……。」
「そうなのか?」
「知らないのか?普通に考えてみろ。無理だろう」
#ふうき
「だからでしょ。あぁ、いや。だからこそだよ。劣っていると思われているんでしょ?そのままじゃずっと舐められっぱなしだよ。だから私は勝ちに行く方がいい。そう思うんだけど」
#クラスメイト
「そうだよなぁ」
「いや、そう言ってもな。理屈的に難しいだろう」
「でも下に見られているのは嫌じゃないの?」
#ナレーション
クラス内がざわついていく。こういうのは徐々に声が大きくなっていく周りに合わせるように、それでいて他よりも聞かせやすいよう一歩分大きな声で。で、際限なく大きくなる。止めれる人がいない限り。
#くぜ
「静かにしなさい」
#ナレーション
これで止ま……らない。こういう時もあったのだなぁ。だが少しづつ収まっていく。担任の先生からの言葉を聞かなければならない。静かになったのを見計らってくぜ先生が話しだす。
#くぜ
「なぜ機械科が負ける事が劣っているという話になるのですか。そもそも機械科が劣っているなどという考え方が間違っています」
#ふうき
「うっ。いや、まぁそうなんですが」
#ナレーション
考え過ぎというか被害妄想というか。そういう類に近い。
#ネネ
「ですが先生。そこは事実としてそうだと思います。なぜ普通科が機械科に負ける事が無いのか。それは機械科に負ける事が恥だと考えられているからのはずです」
#くぜ
「憶測ですね」
#ナレーション
バッサリ。
#ネネ
「し、しかし……。」
#くぜ
「ですが、間違っているのはそこだけでしょう。勝ちたいと思う事を止めるつもりはありません。自分たちでそうしたいと思ったのならそうするといいでしょう。後は自分たちの目で学校の実情を見て判断しなさい。憶測で判断しないように」
#ナレーション
百聞は一見にしかずとかそういうことだろうか。人の評価は自分でしろということだろうか。まぁ、会ってもいない人をまた聞きの情報で判断するのは良くない事である。会えるかどうかは別として。
#くぜ
「それで。風紀さんを、立候補している彼女をクラスの委員長。リーダーにして頑張って行く。どうですか、みなさんはそれで頑張っていけますか?」
#ナレーション
今までになく静かになる。物音すらおきないような。
#さいか
「あ、あの」
#ナレーション
小さな声でもよく響く。全員聞き耳を立てるほどではあったが。
#さいか
「わたしは頑張ってみたいです。だから、えぇっと。風紀さんでしたか?その方が委員長をするのもいいかなって……。」
#ナレーション
賛成が出た。こうなると流れ的に賛成になるだろう。
#くぜ
「わかりました。他に意見は」
#ナレーション
ないようである。
#くぜ
「……わかりました。では風紀さん。1年間頑張ってください」
#ふうき
「了解しました!先生!」
#ナレーション
風紀さんのノリに少なくともネネちゃんやくぜ先生は不安そうな顔をしていた。というより不安そうじゃない顔を見つけるほうが大変なレベルだ。まぁ、いやそうな顔をしてなければいいと思う。
#くぜ
「となるとあとは副委員長ですが。立候補はいますか」
#ナレーション
いない。たしか、というよりもナカミチ君になる。
#くぜ
「一応ですが委員長と副委員長で性別が別のほうが何かをするにしても融通が利くでしょう。ですが推奨するだけです。同性であっても、納得するなら構いません」
#ナレーション
されどいない。そわそわし始める生徒たち。
#ふうき
「いないようでしたら私から推薦したいのですが」
#くぜ
「推薦……?」
#ナレーション
初日に推薦する相手がいるというのも変な話だ。中学時代からの知り合いとかなら別におかしな話ではないかもしれない。
#ふうき
「ええ。さっき知り合いましてね」
#くぜ
「さっき……?」
#ナレーション
先日レベルでもない。数時間前のレベルだ。
#ふうき
「……。」
#ナレーション
立ち上がって前を向いている風紀さんから、ちらりと目線だけを向けられるナカミチ君。目線が合う。ナカミチ君目線をそらす。きっと何か嫌な予感でもしているのではないだろうか。大丈夫である。きっといいことがおこる。
#ふうき
「横の彼に副委員長をしてもらおうと思います」
#ナレーション
いいことがおきた。きっといいことだ。これにはナカミチ君もはや無表情。きっと歓喜のあまりだろう。困惑のあまりの可能性もあり得る。
#クラスメイト
「え?だれだ?」
「知らないな。いや、知らないのが普通か」
「あの子の知り合い、という訳じゃないのよね」
#くぜ
「理由は」
#ふうき
「委員長と副委員長で性別が違うほうが何かと便利なので」
#くぜ
「……。推薦する以上、」
#ふうき
「わかっています。協力してもらう立場ですからね。できる限り負担がかからないようにします」
#ナレーション
互いに視線を交えながらしゃべる2人。
#ナカミチ
「やりますよ」
#ナレーション
なんとも気前がいいものである。今後、多々めんどうに巻き込まれる事を知らないからだろう。
#ふうき
「……。してくれるの?」
#ナカミチ
「白野さんがそう言ったと思うんだけども」
#ナレーション
そうである。それで不思議がるのもおかしい。すんなり引き受けた事が意外だったという感じか。
#くぜ
「わかりました。では今日はここまでです」
#ナレーション
くぜ先生が終わりを告げる。どうせまだなにかある。
#ふうき
「じゃあ席替えをしましょう!」
#くぜ
「は?」
#ナレーション
は?はダメな気がする。が、クラスメイト達は特に聞こえなかったようで思い思いの事を話す。
#クラスメイト
「席替え?」
「へぇ。さっそくかぁ」
「まぁ最初にやる事かもしれないな」
#くぜ
「なぜ席替えをするのですか」
#ナレーション
理由がないと動けないのは責任ある立場だからだろうか。大変だなぁ。しかしもう風紀さんも委員長である。行動に理由が求められるのだ。
#ふうき
「出席番号順だと味気ないじゃないですか。私はもっとこう。ごちゃまぜが好きなので」
#ナレーション
であろうな。よく知っている。この理由は間違いなく可決されるに違いない。
#くぜ
「今やる必要はないですね。明日の朝のホームルームの時間にやってください」
#ふうき
「はい」
#ナレーション
というわけで明日になった。否決されなかっただけましであろう。くぜ先生も甘いところがあるし。こうなるだろう。ナカミチ君はなんていうか困惑気味の顔。これで困惑しないならなんというかすごいというか。
#くぜ
「では解散とします。今日の教室の戸締りは委員長と副委員長が行うように」
#ナレーション
解散宣言が出た。合わせて風紀さんが号令をかける。が、同時にくぜ先生は教壇を後にして出て行こうとする。
#ふうき
「はーい。きりーつ……?」
#ナレーション
教壇から立ち去るくぜ先生におどろく風紀さん。他の生徒も、えっ。みたいな顔である。くぜ先生自体も少し驚いているようだ。
#くぜ
「あー。そうですね。号令がありました。続けてください」
#ナレーション
忘れていたらしい。生徒たちが今の時点で知っているとは思えないがくぜ先生は初担任である。うっかりしていたのかもしれない。
#ふうき
「了解しました!では!あらためまして!きりーつ!れーい!」
#ふうき
「ありがとうございましたー!」
#クラスメイト(全員)
「ありがとうございましたー」
#ふうき
「かいさーん!」
#ナレーション
号令を聞き終えた後、くぜ先生が出ていく。それに続くように我先にと帰宅者が出ていく。
#ふうき
「これからよろしくね。副委員長」
#ナカミチ
「ああ。よろしく、委員長」
#ナレーション
こうして最初の一日が終わった。今のクラスに至るまでの片鱗が見えるような。遠い日の思い出である。

#ナレーション
次の日の朝。時間は7時50分程であるようだ。
#ナレーション
いつもの通学路を軽快に歩いていくナカミチ君。あたたかさが感じられ始めるこの時期は通学には適した時期だろう。もちろん適さなかろうが通学する必要はある。
#ナレーション
いっそのことナレーションで暴風雨に見舞われているとでも言ってみようか。学校が休みになったりするかもしれない。そんな事は出来ないのではあるが。
#ナレーション
しかし学校に行く行かないは結局本人のさじ加減である。今日も軽快に家の中でゲームをしている子もいるかもしれない。というよりもいる。


#ナレーション
言っている間に学校についた。途中に何もなければこんなにも早く着くのだ。実際の通学時間が変わるわけではないのだが。
#ナレーション
まだなれていないためか少し迷い気味に靴箱へ向かう。ナカミチ君は使い始めの綺麗な革靴からこれまた真っ白な使い始めの上靴へと履き替えて教室に向かおうとする。
#ナレーション
彼はさっさと教室へ向かうようだが少し見渡してみるといろんな人がいる。ついさっき学校についたと思わしきともみさんが急ぎ気味に靴を履き替えていたり、少し疲れ気味のましろちゃんとみしろちゃんがしゃべりながら歩いていたり。
#ナレーション
そして我らが主人公のナカミチ君の後ろへそろりそろりと近づく小さめの影。
#ふうき
「やあ!おはよう!」
#ナカミチ
「うわっ!い、委員長。お、おはよう」
#ふうき
「……うわ!だなんて。いや、朝から元気だねぇ」
#ナカミチ
「委員長ほどじゃないよ……。」
#ふうき
「おてんば娘だなんてひどい。一体君がどれほど私の事を知っているのか。うわべだけで判断しすぎじゃないかなー?」
#ナレーション
お転婆とはだれも言っていないが。自己評価はよくできるほうだというアピールかなにかだろう。落ち着きがないだけだが。
#ナカミチ
「出会って二日目に言われてもと思うんだけれど……。」
#ふうき
「ふんふん。まぁそれもそうだね」
#ナレーション
それ以上は特に会話もなく教室へと向かう二人。

#ふうき
「おはようございまーす」
#ナレーション
教室へと入り自分の席へと座る。当然ナカミチ君はその横に。
#ナカミチ
「ところで席替えの用意は何かあるのか?」
#ナレーション
あったらするぞ。というアピールだ。こういう細やかなフォローが大事。主人公として正しい行動だ。
#ふうき
「席替え?ふふふ。それはすでに昨日の話。もう準備は済んでいるよ」
#ナレーション
そういいながら通学カバンを探る風紀さん。取り出して机の上にコップを一つ置く。飲み物をそそいで飲むためのガラスのコップで、大変普通のコップである。ガラスのコップとしか言いようのないコップだ。
#ナカミチ
「それは……?」
#ふうき
「真実は人の手によって隠される」
#ナカミチ
「……えっと?」
#ふうき
「真実は人の手によって隠される。だよ」
#ナカミチ
「……ごめん。何が?」
#ふうき
「……。」
#ナレーション
察しの悪い奴だと言わんばかりに、にこやかに笑顔を向けてくる風紀さん。笑顔が人に伝えるものは実にさまざまであるなぁ。これで風紀さんが言いたいことが何かわかるなら風紀さんマイスターか何かだろう。1年後ぐらいのナカミチ君ならわかるかもしれない。無理か。
#ふうき
「ごめんごめん。説明不足だよね」
#ナレーション
わざとだった。察しが悪くても分かる。ナレーションでもわかる。
#ふうき
「これが真実は人の手によって隠される。だよ」
#ナレーション
そう言ってガラスのコップを手に取る。
#ナカミチ
「そのコップが、真実は人の手によって隠される。なのか?」
#ふうき
「そう!作品名、真実は人の手によって隠される。だよ!」
#ナレーション
作品名だった。
#ナカミチ
「自分で作ったのか」
#ふうき
「いや。既製品だよ」
#ナレーション
それは作品名ではなく名前を付けただけという。せめて自分の名をコップに書いておけば作品と言い張れる可能性はある。
#ナカミチ
「……。」
#ナレーション
まぁもう黙るしかない。出会って2日目の女の子に強く言うことはできないだろう。いいから早く要点を言え。とかいうタイプの主人公ではない。1年後ぐらいのナカミチ君なら言うかもしれない。というか、言う。
#ふうき
「よいしょっと」
#ナレーション
黙ったナカミチ君をほうっておいてカバンからまた何か取り出す。その何かは机の上に置かれた。透明なビニール袋に細い紙束が入っているようで、紙の片側にだけ数字が書き込まれているように見える。
#ナレーション
紙束を取り出す。ひとまとめにするために止めていた輪ゴムを取り外し、紙束がガラスのコップに突っ込まれる。長細い紙束はコップから直立するかのように収まる。はずだったようだが、でろん。と垂れ下がる。
#ふうき
「あれ?」
#ナレーション
予想外のようだった。
#ふうき
「……ま、いっか」
#ナレーション
続行。ナカミチ君はとりあえず見守っている。コップを両手で持ってナカミチ君のほうへ振り向く風紀さん。
#ふうき
「これが本当の、真実は人の手によって隠される。だよ。これで席替えのくじをするんだー。どうだー」
#ナレーション
なにがどうだなのかはわからないが、紙に書かれた数字はコップの内側に入れられており、手で隠されている。確かに人の手で隠されてはいるが。とにかくこれで席替えの場所を決めるらしい。引いたくじに書かれた数字の場所へ席が変わるのだろう。
#ナレーション
前の黒板にはすでに席順と思わしき図が書かれていた。机を上から見たと思わしき四角い格子状の図。一つ一つの枠の中に番号が書かれ……、昨日のままになっているだけだ。席の枠だけ消さなかったらしい。必要のないものは消され、席替えに使うので消さないでね。と書き加えられている。
#ナカミチ
「ちょっと机においてくれるか」
#ナレーション
ナカミチ君がでろん。と紙が垂れ下がったコップを見ながら言う。
#ふうき
「ちょっとだけだよ」
#ナレーション
そういってコップがナカミチ君の机に置かれる。紙束がコップから大量に垂れ下がっている。コップ自体すら見えにくい。
#ナカミチ
「……。」
#ナレーション
何か言いたそうである。
#ふうき
「意外と辛らつだよね」
#ナカミチ
「まだ何も言っていないが」
#ふうき
「くっくっく。だがそう言っていられるのも今のうち。真実が暴かれるのも人の手によって。だからこそ人の手で真実を隠す必要があるんだ。さぁ!暴くものよ!己が手によって真実を明らかにし、そして己が過ちを白日の下へ!」
#ナレーション
くじを引いて。ということだろうか。たしかにくじを引いていけばコップ自体が見えるようになっていくだろう。もちろんガラスのコップの中身も。そうしたらナカミチ君の負けである。勝ち負けがあるような話なのか疑わしいが。
#ナカミチ
「引けばいいんだよな」
#ふうき
「まぁそういうことだね」
#ナレーション
確認が行われた。くじを引くだけの話である。ナカミチ君1枚引く。
#ナレーション
取り出した紙につられて周りの紙が少し持ち上がる。そのまま外側へずり落ちていく。
#
ふぁさ……。
#ナレーション
くじは全部机に漏れ出た。
#ふうき
「……あーあ」
#ナレーション
風紀さんの負け。
#ナカミチ
「間違いは全て暴かれたな」
#ナレーション
追い打ち。
#ふうき
「そういうこともあるよね」
#ナレーション
めげない。というより気にしていない。
#ふうき
「どうしたものか……。」
#ナレーション
考える風紀さん。だが無情にも学校にチャイムが響く。
#ふうき
「もう予鈴かぁ。早く考えないと」
#ナカミチ
「本鈴だぞ」
#ナレーション
無常だった。本鈴が鳴ったということはもちろん、
#
ガラガラガラ―――
#くぜ
「席に着きなさい」
#ナレーション
間を置かずくぜ先生は来るわけで。
#ふうき
「終わりか……。」
#ナレーション
儚かったものである。教室にいる生徒たちが席に座っていく。
#ナカミチ
「短くすればいいだろ」
#ふうき
「ふむ……。」
#ナレーション
くじを短くすればきちんと直立することすらできるかもしれない。
#くぜ
「配布物等はありません。委員長。席替えの準備は」
#ふうき
「え?は、はっ!できています!おります!」
#くぜ
「ではあとは任せました。席替え後は各自1限目の準備をするように」
#ナレーション
そういうと教室を出て行った。
#ふうき
「……あれ?あいさつとかは?」
#ナレーション
気づけば終わっていた。とにかくこれでホームルームは終わった。教室は騒がしくなる。
#ふうき
「……はーい。席替えするからもうちょっとお時間くださーい。くじを引いてもらうから廊下側から引きに来てー。引いたら書いてある番号を確認して黒板に書いてある同じ番号の空いているスペースに自分の名前書いてってー」
#ナレーション
気を取り直してくじをはさみでジョキジョキ切りながら指示していく。席替え1つでもなかなかすんなりいかないものらしい。


#ナレーション
席替え終盤。教卓の横でただのコップを大事そうに両手で包み込みながらその中に入っていたクラスメイトに引いてもらったくじももう残り3枚。
#ナレーション
黒板に書かれた席替え表も空いている席は残り3つ。一番前教卓前の特等席。その左、黒板を向いて左にもう1席。1等席である。そして一番後ろ。廊下逆側。6等席とでもいうべきか。
#ふうき
「くっくっく。ナカミチ君には悪いけど特等席はもらうからね」
#ナレーション
勉強熱心であるなぁ。
#ナカミチ
「まぁ、あの席は魅力的ではあるな」
#ナレーション
そうだろうなぁ。
#ふうき
「さぁ引くといい!一番後ろの特等席は私のものだ!」
#ナレーション
学生の意識なんてこんなものである。先は明るい。結果は、まぁなるようになったというやつだ。
#ナレーション
席移動後。
#ふうき
「き、来ていない子が目が悪かったら交代してもらえるよね……。」
#ナレーション
少し憂鬱そうな顔をしているナカミチ君の横で、机に突っ伏した風紀さんが何か言っているがその待ち望んでいる子が来るのは1学期あとだ。そしてだて眼鏡をつける程の目の悪さである。終わり。


#ナレーション
そんなこんなで数日が過ぎ去って。体育の時間。
#ふうき
「バスケット!」
#ネネ
「ドッジボール!」
#ナレーション
何をするかでもめているようだ。
#ミサキ
「両方やればいいと思うよ?」
#ふうき
「みんなでやるから楽しいんだよ。そうでしょ?」
#ネネ
「全員が楽しくやれるわけではないでしょう」
#クラスメイト
「どうするのー?」
「別にどっちでもいいんだけどな」
「両方とかでいいだろ。早くやろうぜ」
#ネネ
「両方する。これが最適です。そうでしょう」
#ミサキ
「それじゃあそうしようよ。えーとそれじゃあ……。どうしよっかな」
#さいか
「やりたい人で分かれたらいいのではないでしょうか」
#ふうき
「えー。でもなー。それだとなー」
#ナカミチ
「委員長。みんなでやりたいなら別にバスケットじゃなくても良いと思うんだけれども」
#ふうき
「うーん。まぁその通りだね」
#ミサキ
「じゃあドッチボールだね!で、次バスケット!風紀さん。ボール取りにいこ!」
#ふうき
「はーい」
#ナレーション
そう言ってとてとてとミサキちゃんについて歩いていく風紀さん。
#ネネ
「次、バスケットですか……。」
#さいか
「そう落ち込まなくても良いと思いますよ……。バスケットは大変ですし私も好きではありませんがずっとドッチボールとかするわけにもいかないですし」
#ネネ
「確かにそう考えるとおかしいですね。でも疲れるのはあまり好きじゃないんです」
#さいか
「それはわたしもそうですが……。といってもドッチボールもあたると痛いので……。」
#ナレーション
体育はそもそも好き嫌いがあるものである。国語だろうが数学だろうが英語だろうが好き嫌いはあるので体育だけというわけではないが。
#ナカミチ
「今のうちにグループ分けを決めよう。ちょうど5列で並んでいるしこのまま列ごとに分けるか」
#クラスメイト
「良いと思うぜ」
「特に男女が片寄ってもいないしね」
「こっちの班休んでる子がいるから1人足りないんだけど」
#ナカミチ
「俺がそこに回ったらいいかな。こっちは1人多い列だし。あとは総当たりで……、いや、やっぱりトーナメントでやるか」
#ナレーション
順調に決まっていく。そうしてるうちに体育倉庫からビブス、いわゆるタンクトップ型のゼッケンとボールを持って2人が帰ってくる。
#ふうき
「ねぇねぇ!トーナメント形式でやらない?5班に分けて!」
#さいか
「あ、ちょうどそう決めてたところですよ」
#ふうき
「えっ。そ、そうなの?ありがとう決めといてくれて」
#さいか
「い、いえ。私ではないです。副委員長の彼が決めてくれました」
#ふうき
「ああ。ありがとうナカミチ君」
#ナカミチ
「いや、別に。わりと簡単に決まったよ」
#ふうき
「ほんと?それはよかったよ。じゃあさっそく始めよっか!」
#ナレーション
その後白熱したドッチボールが行われ、結局全員疲れ果てたようである。

#ナレーション
午後。家庭科室で1人、火にかけた鍋を見つめているナカミチ君。おそらくはいつもの魔道実習の時間だ。間違いないだろう。もし数学の時間にでもこんなことをやっていたら病院を案内する。
#ナカミチ
「うーん」
#ナレーション
ヘラで鍋の中身をかき混ぜながら何か悩んでいるようだ。
#ふうき
「悩め、青春!」
#ナレーション
青春は人ではないので悩んだりはしない。悩め若人とかがいいだろうか。とにかく家庭科室の扉をあけ放ち風紀さん登場。
#ナカミチ
「……何しに来たんだ」
#ふうき
「用がなきゃ来たらいけないの?……よくはないか」
#ナレーション
ないだろう。
#ふうき
「で?なに悩んでたの?悩んでそうだったから悩め青春とか言って入ってきちゃったんだけど、そもそも、ちわー。越後屋でーす。って言って入っていくつもりだったんだよ?」
#ナカミチ
「なんで越後屋なんだ……。」
#ふうき
「で?なに悩んでたの?」
#ナレーション
本題をずらしてきた方が本題を急かす。
#ナカミチ
「魔力を込める最適な方法を考えてたんだ。それでまぁこれ以上は難しいかなって思って」
#ふうき
「それでこれを作っているの?なにこれ。飴?」
#ナカミチ
「ああ。かき混ぜながら魔力を入れるのが良いと聞いてな。それに固形物に近い方が魔力の保存量も多いだろうし」
#ふうき
「あんまり硬度は関係ないんじゃ。ナカミチ君だってそんなに魔力多くないでしょ」
#ナカミチ
「まぁそれはそうなのだろうと思うけど」
#ナレーション
そう言いながらかき混ぜ続ける。
#ふうき
「おいしくできた?」
#ナカミチ
「普通のべっ甲飴だよ。おいしいだろうとは思うけど」
#ふうき
「ただの催促だよ。ちょうだいっていうアピール」
#ナカミチ
「まだ加熱が終わったばかり……まぁちょうどいいか。薄く広げたらすぐ冷えると思うし」
#ナレーション
クッキングシートを広げ、上にヘラにつけた飴をたらす。のばす。
#ナカミチ
「すぐ冷えるから適当なタイミングでどうぞ」
#ふうき
「わーい。いただきまーす」
#ナレーション
すぐに手を伸ばす。
#ナカミチ
「もうちょっと待て」
#ふうき
「ラジャー」
#ナレーション
そわそわしながら落ち着きなく座っている。これもアピールだろう。
#ナカミチ
「そろそろいけるだろうな」
#ふうき
「いやっほーう」
#ナレーション
手を汚さないようシート自体で飴を挟み持ちながらぺりぺりとシートからはがし。口に放り込む。
#ふうき
「むぐむぐ。うん。べっ甲飴だね。おいしいよ」
#ナレーション
最大限の褒め言葉だった。それ以外言いようのないほどにただのべっ甲飴だった。
#ナカミチ
「魔力の回復量は?」
#ふうき
「ほとんどないようなもんだね。機械科で一番魔力が弱い私が回復しきらないぐらいにはないね」
#ナカミチ
「そうか」
#ふうき
「機械科なんだし魔動機械さわったら、とはいわないけど、大体の子たちは図書館で勉強してたりするよ?ま、半数寝てた気もするけど。ナカミチ君はここにいるの?」
#ナカミチ
「そうするよ」
#ふうき
「そう。じゃあ私は機械科らしく機械さわってくるよ」
#ナカミチ
「え?作れるのか?」
#ふうき
「作れはするでしょ。きちんと動かせないからできたのかどうかわからないだけで」
#ナカミチ
「それは作る意味あるのか……?」
#ナレーション
できたものができているのかわからない。そこに意味はあるのだろうか。
#ふうき
「その飴と同じぐらいにはあるんじゃない?」
#ナレーション
言い返された。
#ナカミチ
「……。いや、そうだな。ごめん」
#ふうき
「別にあやまることじゃないだろうに。じゃあ行くよ」
#ナレーション
そういって駆け出そうとする風紀さん。走ると言ったがここは校舎内であるはずなのだが。駆け出そうとしているようにしか見えない。
#ナカミチ
「あ。ちょっとまってくれ」
#ふうき
「へ?まだなにかあるの?」
#ナカミチ
「この鍋の中に残っている飴なんだが」
#ふうき
「うん」
#ナカミチ
「久しぶりに作ったから量配分誤って50個ぐらいの量を作ってしまって……。」
#ふうき
「……。私は2個あれば充分だなぁ……。」
#ナレーション
余った分は後で教室においておきました。すると不思議。その日のうちに無くなったのでした。


#ナレーション
また、ある日のお昼休み。クラス内ではそろそろ行われる初めての中間テストにそわそわしていた。ピリピリしてないから平和である。つかの間の平和だ。テストが始まってしまえば阿鼻叫喚。地獄絵図待ったなし。ずいぶん平和な地獄である。
#クラスメイト
「テスト勉強してる?俺、全然してなくてさー」
「してるぞ」
「してる」
#ナレーション
さっそく地獄へたたきこまれたものもいるようだが意外とテスト当日の阿鼻叫喚は少ないかもしれない。
#ナレーション
我らがナカミチ君の方を見てみても勉強中のようで。数学の教科書を広げているようだ。その横は机にかじりつくように睡眠学習中。そんな実質的には平和な昼さがりが過ぎて行った。
#???
「……ぅ。ぇっ……。」
#ナレーション
過ぎていかないようだ。早く何とかしてあげて。
#クラスメイト
「い、いや!ちょっとぐらいやってないだろ!」
「ちょっとやっていないってなんだよ」
「全然やってるな」
#ナレーション
お弁当を食べながら会話するクラスメイト達。食べ終わった子たちも思い思いに勉強してたりおしゃべりしてたり。青春を謳歌というよりは学園生活を満喫中である。
#???
「うぁ……。うぅぅ……。」
#ナレーション
満喫しきれていないところもあるようだ。
#クラスメイト
「え?なんか聞こえ……。」
「ん?えっ?」
「え。あ。え?えっ?えっ?」
#さいか
「うぅ、う゛ぇ、うえぇ、ぐすっ」
#ナレーション
初めての事態であるようで戸惑いは大きい。
#クラスメイト
「さ、さいかさん。大丈夫?!」
「どうしたの?」
「何かあったの?」
#さいか
「い、いえ……。なんでもないんです。なんでも……。」
#ネネ
「さ、さすがに何もないとは思えないですよ?保健室に行きましょう?」
#さいか
「い、いや……。本当に何もないんです……!大丈夫ですからっ!」
#ナレーション
強く否定するさいかちゃん。彼女からすればここで保健室に連れて行かれれば机の上に置かれているものは片付かない。いわゆる宿題。
#ナカミチ
「なにかあったのか」
#ナレーション
急ぎ気味にナカミチ君がやってくる。わりと直球で助けに来たらしい。泣く子には勝てないとかいうあれだろうか。と思ったら直接聞きに行っていない。
#ミサキ
「うん……。さいかちゃんがつらそうにしてて。みんな心配しているところなんだけど……。」
#ナレーション
そう言ってさいかちゃんのところへ行くミサキちゃん。そこにひょっこりと風紀さんが。
#ふうき
「どうしたの?さいかちゃん。泣いてるの?」
#さいか
「あ。い、いえ。なんでもないんですよ。ちょっとあわてちゃっただけですから。ごめんなさい。さわがしちゃって」
#ふうき
「ううん。別にさいかちゃんは騒がしくなかったよ。あわてちゃった原因はこれでしょ?」
#ナレーション
そういって机の上にあった参考書を手に取る。
#ふうき
「……うわぁ。難しい」
#ネネ
「えっと、それは?」
#ふうき
「参考書だけど?」
#ナレーション
簡潔。
#ネネ
「そんなのは見てわかります!なんでさいかちゃんがそれで泣くんですか!」
#ふうき
「それは、って聞いたじゃんよぉー」
#ナレーション
言葉を意味通り取るか意味を取って答えるか。各自趣味のいい方でどうぞというものだ。
#さいか
「ちょっと難しすぎて泣いちゃっただけです。心配かけました……。」
#クラスメイト
「勉強が難しくて泣く……?」
「そういう時もあるかもしれないか……?」
「ま、まぁなんかもっと不幸な事かと思ったから安心したな」
#ふうき
「さぁ。じゃあ手伝おうか」
#クラスメイト
「え?」
「手伝うって……?」
「難しいんでしょ?手伝うって言ったって……。」
#ミサキ
「いや。いい案じゃない!みんなでやれば早く終わるでしょ!」
#ふうき
「うんうん。ほら。これが手伝う内容だよ」
#ナレーション
「そういって手元の参考書をミサキちゃんに見せる」
#ミサキ
「て、手伝えないー!」
#ナレーション
難しかった。
#ネネ
「ま、待ってください!それは宿題ですよ!他人が手伝ったらだめでしょう!」
#ナレーション
そうである。まったくもって正しい。
#さいか
「そ、そうです。それにもうすぐで終わりますから。とりあえずその参考書返してくれませんか?」
#ふうき
「うん。じゃあその隅っこに積まれてるの解くよ」
#ナレーション
机には4冊詰まれている。
#さいか
「い、いいですから!返して下さい!」
#ふうき
「わ、わかったよ。ごめんごめん。関わりすぎちゃったね」
#さいか
「いえ……。うれしかったです。ありがとうございます。風紀さん」
#ナカミチ
「後どれくらいの量だと思うんだ?」
#ふうき
「え?えーっと。まぁ。うーん。手に取ったのが数学の問題で、残り3ページぽかったからなぁ。えっと。いまお昼休み20分たってるから。10分で……。うぅん。ずばり12ページ!」
#ふうき&さいか
「……。」
#ナレーション
違うらしい。
#ふうき
「誤差8ページの範囲!」
#ネネ
「誤差ありすぎです!大体そんなに宿題は出ていません!大体今日は塾お休みです!明日提出のは確かに6ページあって大変ですけど……。」
#ミサキ
「塾?塾の宿題なの?それ?」
#ネネ
「そうです。私、さいかちゃんと同じ塾に通っているんですから!」
#ふうき
「……。今さいかちゃんがこまってる問題集ちゃんと見た?」
#ネネ
「言われなくても……。あ、あれ?それ塾の問題集じゃない……。」
#さいか
「自主的に課してる分です」
#ふうき
「家庭教師かなぁ。考えられるところで言えば」
#ナレーション
信じていないらしい。
#ミサキ
「ちょ、ちょっとまって。明日の分っていうのは終わっているの?」
#さいか
「あとちょっとです」
#ネネ
「あ、あとちょっと……?」
#ふうき
「そろそろ手伝うなら手伝うで時間が欲しいから……。手伝える人ー」
#クラスメイト
「て、手伝うけど」
「手伝えるならやるぞ」
「や、やってみせるわ」
#ナレーション
優しさが目にしみる。
#ふうき
「手伝う内容をちょっとだけお見せしようか。ちょっと参考書借りるね。……ほい。こんな感じ」
#クラスメイト
「ご、ごめん」
「無力さを痛感したよ」
「さいかさん……。ごめんなさい……。」
#ナレーション
現実が目にしみる。
#ふうき
「まぁ手伝う人選は考えないといけないけど手伝う人はいるよ?どうするの?」
#さいか
「うぅ……。て、手伝って。て、手伝ってください……!」
#ふうき
「言質とれたー。鑑識に回せー」
#ミサキ
「言質は鑑識に回すものなの?」
#ふうき
「とにかく!まずは英語!得意なのは誰?!」
#クラスメイト
「得意ってほどじゃあ……。」
「お前は苦手な方だろうが。といっても僕もな……。」
「得意な奴って誰か知らないか?」
#さいか
「……。」
#ナレーション
とたんに落ち込んで行く。さて、得意なのは誰だったか。
#ネネ
「……私が出来ます。英語だったらさいかさんと同じぐらいにできます」
#さいか
「あ。ありがとう。ネネさん」
#ナレーション
とたんに元気になっていく。
#ネネ
「別にかまいません。貸して下さい。和訳ならすぐに終わらせます。……そんなに忙しかったんですね」
#さいか
「う、うん」
#ふうき
「えーと。他には……。社会は1ページ?」
#さいか
「そうですね。それは置いといて下さい。あとでやります」
#ふうき
「今たよれるときに終わらせよう。その感じだと最近休んでないんでしょ?じゃ、社会はナカミチ君よろしく。数学は私が引き継ぐよ。さいかちゃんは残りの国語やってね」
#ナカミチ
「え?ちょっと待ってくれ。社会得意じゃないというか手伝えるようなレベルじゃ、」
#ふうき
「やって?やるよね?やりたいよね?てっきりやりたいんだとばかり思ってたんだけど。ちがったかな。そう思ったんだけどなー」
#ナカミチ
「やります……。」
#さいか
「そ、そんな無理やりさせたくありません。私がやりますから」
#ふうき
「ちがうよ。助けたそうにしてたから割り振ったんだよ」
#ナカミチ
「よ、よろこんでやります」
#クラスメイト
「ナカミチ君は委員長に弱いねぇ」
「副委員長はおしに弱そうだしね」
「委員長の押しの強さとかみ合ってるなぁ。いいか悪いか知らないけど」
#ふうき
「ほら!周りの机を借りてさっさとやる!教科書でも何でも使って解きたまえ!」
#ナレーション
その号令をスタートとして宿題の解体が始まる。その後はわりとさっさと終わらせることができた。もちろん1人を除いて。で、なごやかに女の子3人はお話中。
#さいか
「ナカミチさん。私の分が終わりましたので残りは、」
#ふうき
「だめだよー」
#さいか
「で、でも。やっぱり無理やりさせるわけには」
#ふうき
「はい。ナカミチ君」
#ナカミチ
「やりたくてやってます」
#ナレーション
まさに主人公の鏡。ヒーローかな。顔は追い詰められているように見えるが。追い詰められてこそのヒーローであるしこれでいいだろう。
#さいか
「な、なにか怒ってませんか?」
#ふうき
「べつにー。そんなことよりいい事思いついたんだけど」
#ナレーション
そんな事呼ばわりされた。
#ネネ
「いい事……?なにか嫌な予感がします」
#ナレーション
そろそろ風紀さんの事がわかって来たらしいというか遠慮するのも飽きたというか。とにかくいい事が起こる。らしい。
#ふうき
「ここに!『みんなで挑む!中間試験攻略作戦!』を発動するよ!」
#ナレーション
なにか発動された。教室に放たれた言葉はクラスメイトたちの興味を得たようで各人疑問を風紀さんに投げる。それはもうぽいぽいと。
#クラスメイト
「中間テストが何とかなるのか?!なんとか!?」
「中間試験なんかで喜びすぎでしょ。普通にやればちゃんと点数とれるものよ」
「中間考査の為に勉強会でもするのか?勉強は1人でしたいんだけども」
#ナレーション
中間テストが中間試験で中間考査。この子たちは3回やるつもりでもあるのだろうか?もちろん1回しかない。何が1回しかないのかと言われるとテスト、試験、考査の話である。テスト、試験、考査が1回なら結局3回あるのではないだろう……、そろそろやめよう。
#ネネ
「だから!勉強はちゃんと!1人でするものです!」
#ミサキ
「ま、まあたしかにそうだよね」
#ふうき
「そう?教えてもらう側と教える側。これでもう2人だよ?1人で勉強なんていうのは不可能だよ」
#ナカミチ
「屁理屈じみてるなぁ」
#ふうき
「宿題終わったの?」
#ナカミチ
「もうちょっとだから……。」
#ふうき
「つまり!私が言いたいのは勉強も協力することが大事だって言いたいんだよ!勉強は競争?大いに結構!だけど、互いに、より高みへ向かう事が大事!そう思うでしょ?!」
#ネネ
「た、確かにそうかもしれませんけれど……。いや、とにかく何をするつもりなのか聞いてから考えます」
#ふうき
「うんうん。私もあまり回りくどい話はしたくない方だからね。簡潔にしたい事を説明するよ!」
#ナレーション
回り道は人の時間を取ってしまう。風紀さんは相手の事も考えるいい子である。
#ミサキ
「絶対嘘だよね……。」
#ナレーション
だろうね。教室中でもホントかよ。とでも言いたげな顔があふれている。
#ふうき
「話しは簡単!試験の出題を予想するんだよ」
#ネネ
「す、すごい普通ですね」
#ナレーション
普通すぎた。期待値を下回ってしまった。
#ふうき
「普通じゃダメなのか……。」
#ネネ
「だ、ダメじゃありません!いや!ダメです!」
#ミサキ
「ど、どっちなの?」
#ネネ
「な、なんていうか健全じゃありません!」
#ふうき
「なんていうかと言われてもなぁ……。予想するだけだし……。別に予想問題を売りつけようとしたりするわけじゃないんだからさ……。」
#ネネ
「そうかもしれませんが……。」
#ふうき
「うーん。わかったよ。それも正しいんだろうね。確かにこれには1つ問題点があったよ。誰が予想するのかっていう点がね」
#クラスメイト
「予想できる奴がいないのか……。」
「いや、それは君の話だろ……。」
「予想する人の話でしょ」
#ミサキ
「そっか……。予想するのだって大変だもんね。それを誰がやるのかって話……。」
#ふうき
「だから私がするよ」
#ネネ
「え?えっ?」
#ふうき
「でもできれば何人か協力は欲しいと思っているよ。たとえば……。英語とか……。」
#ネネ
「わ、私の事ですか?協力はするつもりはないですって!」
#ナレーション
何かをするには時間がいる。なかなか厄介そうな話。こうなるとなかなか話は進まないわけであるが。
#さいか
「あの……。風紀さん。私に手伝わせて下さい」
#ネネ
「さいかさん?!」
#ふうき
「ほんと?!さいかちゃん!」
#ミサキ
「でもさいかちゃん。さいかちゃん出来る時間あるの?今だってすごく大変みたいだよ?」
#さいか
「大丈夫ですミサキさん。テストがどこが出そうかって考えるのはいつもやっている事です。それに手伝えるなら私も手伝いたいです」
#ミサキ
「そっか……。」
#さいか
「だから頑張りましょうね!」
#ふうき
「う、うん!そうだね!でも気負い過ぎちゃだめだよ。またさいかちゃんが忙しい時は手伝うからね!」
#さいか
「それはそうならないように気をつけます……。」
#ふうき
「遠慮しなくていいのにー」
#ナカミチ
「お、終わったぞ」
#ナレーション
何か来た。
#ふうき
「ありがと。私たちで確認するよ」
#ナレーション
内容はあまり信用されていないらしい。
#ネネ
「本当に大丈夫なんでしょうか……。」
#ナカミチ
「まぁさいかさんが何か忙しかったら委員長が手伝うだろう」
#ふうき
「ひどーい。ナカミチ君も手伝えー」
#ナカミチ
「手伝える事ならな……。正直かなり苦労したんだけれど。それに手伝うつもりなんだろう?」
#ふうき
「わかってるよ。まったく……。うん。多分大丈夫でしょ。これで終わり!」
#さいか
「ありがとうございました。皆さん!」
#ナレーション
嬉しそうだ。余裕ができたのが久しぶりなのだろう。
#ネネ
「大変な時はこれからも手伝います。言ってください」
#ふうき
「私もー」
#ミサキ
「て、手伝える時は手伝うから!」
#クラスメイト
「同じく。さ、お昼ご飯食べるか」
「右に同じ。俺も勉強するか」
「左に同じ」
#ナレーション
右や左ではわかりにくいだろう。文章的には上に同じが一番わかりやすい。表現的には空中を示すことになるが。ひと騒動が終わり各々散会。
#ふうき
「うんうん。クラスの団結が高まって来たようで何より」
#ネネ
「団結って言われましてもね……。」
#さいか
「いい事ですね。それにしてもやっぱり風紀さんって勉強できるんですか?」
#ふうき
「まぁナカミチ君よりはって感じかな」
#ナカミチ
「なぜ引き合いに出した」
#ふうき
「照れ隠し。照れ隠し」
#ネネ
「……すごくできるはずですよね。昔、中学校の時私達が通ってた塾の一斉テストで1度だけ見かけた事があります。その時のトップの名前がたしか、」
#ふうき
「昔の話だよ。もう疲れちゃってね。最近はすっかり勉強しなくなったよ」
#さいか
「風紀さん……。わかります。わたしもそうできれば楽なんでしょうけど。それもできなくて……。」
#ふうき
「いやいや!まねしないでね!?」
#ネネ
「そうです。さいかちゃんは努力家だってこと。私、すごく尊敬してます。昔からです」
#さいか
「そ、そうだったの?……うれしいです」
#ふうき
「いと美しきは友情かな」
#ナレーション
良くわからない事を言い始めた。横ではもう話す事もなく居づらくなったのか自分の席に戻り始めるナカミチ君の姿が。
#ミサキ
「1度でいいから勉強につかれたとか本気で言ってみたい……。」
#ナレーション
たしかに妙に羨ましい発言ではある気がする。そんなお昼休みが過ぎて行った。


#ナレーション
場所は変わって喫茶店。
#このみ
「……ほうほう。なるほど。それで?」
#ナレーション
机に置かれた飲み物をストローで吸い込むこのみちゃんである。緩んだ笑顔で吸い込んでいる飲み物は氷が入っている緑色の飲み物。グリーンティーだろう。青汁かもしれない。抹茶カフェラテだが。
#ナレーション
2杯目らしく横には氷と溶けでた水によってすごく薄まった緑色の液体がグラスの底に残っている。あと空のガムシロップが4個。
#ナカミチ
「いや。そろそろ勘弁してくれないか。ずっとしゃべり続けて疲れたんだが。というよりは思い出しつつ話すのが思っている以上に大変というか」
#ナレーション
ガラスのコップに入ったお水を飲みながら話すナカミチ君。横にはのみ終わったのであろうティーカップが置かれている。底にはわずかに緑色の液体が残っている。ホット青汁でも飲んだのだろうか。抹茶カフェラテだが。Ver.ホットである。空のガムシロップも横に仲良く2個転がっている。
#ナレーション
そもそも今はいつだろうか。誰がいるかと言われればこのみちゃんとナカミチ君の2人だ。場所はカフェだがどこかで見たことがあるような気もするカフェである。
#このみ
「別に急いでませんよ。私は。しかし年頃の女の子の帰りが遅くなったら私の家族はどう思うでしょうねー」
#ナレーション
ストローで何かをつつくこのみちゃん。ストローの液体を吸ってにょろー、と伸びた。ストローの紙を縮めたあれだったらしい。
#ナカミチ
「それ俺が困ることになるのか……?」
#このみ
「さぁ?なるんじゃないですか?姉さんは私が今日ナカミチ君と会う事なんとなく知ってますし」
#ナカミチ
「それはどちらかというと安心できるかなぁ」
#このみ
「なぜ?!」
#ナカミチ
「まずこのみが迷惑かけてないかと思うんじゃないか」
#このみ
「どれだけ姉さんに信頼してもらえていると思っているんですかね」
#ナカミチ
「このみが逆の信用を得ている事もあるんだが」
#ナレーション
信用は大事であるなぁ。
#このみ
「ぐうぅ……。なぜそこまで姉さんからの評価が高いのか……。と、とにかく。今日は1学期の時にあった事を全部話してくれるまで帰りませんからね」
#ナカミチ
「そう言われてもなぁ。後はもう前に話した事があるだろう?」
#このみ
「私が学校に行った初日のあれですか?委員長になった時のあれじゃあ説明不足ですよ」
#ナレーション
なんか少し言っていた気がする。
#ナカミチ
「その日には委員長になってなかったと思うが。というかその日じゃなくてだな」
#このみ
「1年の時の文化祭の打ち上げ後のことでしょう?覚えていますよ。それでも私には説明不足です。飲み物おごった分ぐらいはさっさと話してほしいんですがね」
#ナレーション
奢られたらしい。同学年の女の子に。どうしてやろうか。
#ナカミチ
「断っただろう……。休みに呼んだぐらいで奢ってくれなくていいよ」
#ナレーション
奢りは丁重に断ったらしい。さすがだ。ほめるほどの事ではないか。
#このみ
「ですが、気持ちは受け取りましたよね」
#ナカミチ
「それは、まぁ。気持ちだけ」
#ナレーション
気持ちだけ受け取ったらしい。社交辞令である。
#このみ
「それが一番高いんで」
#ナレーション
当然である。かわいい女の子からの気持ち。値段は付かない。その時々。時価。
#ナカミチ
「タダより高いとかいう話をこえてるな……。」
#ナレーション
実質なにも貰っていない。そこには気持ちだけがあった。いい話に聞こえてくる。
#ナカミチ
「……まぁ俺が話せる事は全部話すよ。そういう約束で来たんだしな」
#このみ
「時間はたっぷりありますし。なんたって春休みですから!」
#ナカミチ
「もう3年生になるんだがな。少しぐらい勉強のべの字が出てもいいはずなんだが」
#このみ
「してますよぉ……。久しぶりのしっかりした休日なんですから思い出させないでくださいぃぃ……。」
#ナカミチ
「……ごめん」
#ナレーション
両方とも深刻な顔である。受験生は大変である。そして今の時期が確定した。2年時の春休み。3年生になるちょっと前のようだ。
#このみ
「そんなに勉強が大事なんですかねぇ……。」
#ナカミチ
「大事なんだろうなぁ……。」
#このみ
「でしょうねぇ……。」
#ナカミチ
「一瞬で立場変えてきたな……。」
#ナレーション
一瞬でお疲れモードである。学ぶ努力をし、学んで結果を出せるか者か。そして人は誰しも一生学び続ける必要がある。地獄か何かだろうか。しかし安心できることに世の中にはたくさん面白い事がある。らしい。よくわからないので自分の目で確かめてください。
#このみ
「しかし!聞いてくださいナカミチ君。すごい朗報があるんです!」
#ナカミチ
「すごい朗報?なんだ?」
#ナレーション
心底うれしそうである。やはり世の中にはたくさん面白い事があるらしい。このみちゃんのワクワクさに少し笑うナカミチ君である。
#このみ
「大学生の春休みは2か月あります!確かな情報です!これはすごいです!」
#ナカミチ
「休みの期間、か……。何にしても来年の話だろう。いや。再来年か?いや。何にしてもまず受験が先だな」
#このみ
「ワクワクしないんですか?!」
#ナカミチ
「ワクワク……か。休みって言っても何をするかにもよるしなぁ。このみは長い休みに何をするんだ」
#このみ
「ゲームですねー」
#ナカミチ
「だろうなぁ」
#このみ
「でも2か月も休みがあったらやるゲームなくなりそうですね……。今年のゲームはやる時間がホントにありませんし、たまってはいるんですけどね」
#ナレーション
大学の休みは多い。すぐに無くなるかもしれないし、なかなか減っていかないかもしれない。
#ナカミチ
「他に何かやりたい事でもできればいいな。……さて」
#ナレーション
ナカミチ君かばんから財布を取り出す。
#ナカミチ
「飲み物注文したらまた話すよ。1学期におきた事を。俺が話せる範囲でな」
#このみ
「ええ。そういう約束ですからね」
#ナカミチ
「飲み物なにがいい?払うよ。最近使う機会が無くてお小遣いが溜まっているんだ」
#ナレーション
羨ましい話である。貯金はとても大事だ。昔からの不変の法則だと言える。使うべき時に使うお金がないなんて目も当てられない。この瞬間はまさに使うべき時だろう。お小遣いで奢るのは学生故致し方なし。心意気が大切である。手持ちも少ないだろうし。
#このみ
「もう飲み物2杯飲んでますし水ものはいいです」
#ナカミチ
「そうか」
#ナレーション
体よく断られたのかもしれない。
#このみ
「ナカミチ君は何を頼むんです?」
#ナカミチ
「まだ決めてなかったが……。さっき飲んだのは甘かったからな……。うーん」
#ナレーション
レジ上に掲げられたメニューを見ながら考え始めた。ちなみに甘かったのではなく甘くしたが正確である。カップの横に転がったガムシロップはちゃんと描写した。2個もあった。
#ナカミチ
「あぁ。スープがあるな。コーンスープとミネストローネか」
#このみ
「じゃあコーンスープですね」
#ナカミチ
「甘いなぁ」
#ナレーション
ガムシロップよりは優しい甘さである。ちなみにコーンスープもわりと塩分が入っている。スープは塩分も栄養もたっぷりの栄養食だ。飲みたくなってきた。
#ナカミチ
「ミネストローネにするか」
#このみ
「ミネストローネですかー」
#このみ
「……ふむー」
#ナカミチ
「……。」
#このみ
「私も欲しいですー」
#ナカミチ
「スープは水ものだと思うんだがなぁ」
#ナレーション
さっき断ったのは普通にいらなかっただけのようだった。
#ナレーション
ミネストローネが楽しみなのか来たる大学生活の休みが楽しみなのかこのみちゃんはニコニコ顔である。ナカミチ君もつられてか笑顔であった。ちなみにたび重なる注文をもらってか店員も笑顔。合わせて5杯目。間違いなく上客であろう。
#ナレーション
そして注文した品を持ち、このみちゃんの元へ戻るのだった。

#ナレーション
場面は再び変わり教室へ。ちんまりとした風紀さんが見えるし1年時であろう。
#クラスメイト
「テスト全部帰って来たなー。赤点回避で点数もそれなりによかったしな」
「それなりってどのくらいだ。まぁうちの赤点は40点だから比較的楽だな」
「いや、テストが想定より難しかった。対策してなかったらどうなっていたか」
#ナレーション
どうやらテストも終わったようで比較的緩やかに過ごしている。
#ナレーション
我らがナカミチ君は掃除当番だったのかほうきを掃除用具入れに突っ込んでいる。この後は床の雑巾がけだっただろうか。と思ったがしない。すでに机が並び直されている。というよりは運ばずに掃除しているのかもしれない。
#ふうき
「ふいー。終わった終わった。お疲れ様」
#ナカミチ
「おつかれ」
#ナレーション
同じく掃除を終えたのか塵取りを用具入れに入れる。
#ふうき
「こういうのはテキパキやっちゃうに限るよ。毎日の事だしね。さ、窓も閉めちゃおうか」
#ナレーション
換気のためだろうか、教室の窓は全開である。心地よい風が通り抜けている。
#ナカミチ
「気温も良いし開けたままにしておかないか?」
#ふうき
「ん?まぁそれも良いかもね。でもこういうのは最後までやったというアピールが、」
#クラスメイト
「委員長ー。ごめん。ロッカーのカギ開けてくれない?帰る前に一度開けたくて」
#ふうき
「いいよ。でもロッカーは靴箱と違って開けるのにコツというか難しいからなぁ……。先生が来るまでに開けられるかどうか。朝開けた時に開けっ放しにしておけば、いやだめだ。ナカミチ君がいるし」
#ナカミチ
「意味がわからない」
#ふうき
「女の子のロッカーが開いてたら覗くでしょ?」
#ナカミチ
「覗かないなぁ」
#ふうき
「本当に?興味わかない?わくと思うけどなー。普通の事だと思うよ」
#ナカミチ
「それで、そうだな。とは言わないから。ほら早く開けに行ってあげろ」
#ふうき
「ふーい。あ、ホームルーム後に決め事あると思うからよろしくね」
#ナカミチ
「決め事?」
#ナレーション
とてとて、と行ってしまった。何かあったかなとでも言いたげな顔をしながら席に戻るナカミチ君である。その前に結局窓は閉めておいた。


#ナレーション
清掃時間の終了を告げるチャイムが鳴り響くと同時にくぜ先生が教室に入ってくる。
#くぜ
「ホームルームを始めます」
#ナレーション
いつも通りの簡潔な言葉に生徒たちはあわてて席に座る。
#くぜ
「配布物はありませんが連絡事項が1点あります。2週間後に迫った体育祭についてです。開催するにあたって各競技に参加者を割り振る必要があります。風紀さん、」
#ふうき
「了解しました!決めておけばよろしいのですね!」
#くぜ
「……そうです。では今週中にこちらの用紙に各競技の参加者の名前を書いて提出してください。あとわかっているとは思いますが全員の参加回数が出来る限り均等になるようにしてください」
#ナレーション
そう言って用紙を風紀さんへと手渡される。
#くぜ
「質問が無ければこれでホームルームは終了です。質問は?」
#ふうき
「はい!」
#ナレーション
質問は元気よく。手を上げて。そう教えられた小学校時代。そろそろ淑やかさが必要というよりも落ち着きを持とう高校生。と言う感じだろうか。
#くぜ
「……なんでしょう」
#ナレーション
めんどくさそうである。誰でもそう思うかもしれない。
#ふうき
「質問ではないのですがー……。」
#くぜ
「かまいません」
#ふうき
「決める為の日程も少ないですし、ホームルームが終わった後に私たちで話し合う時間を取りたいと思います。それでつきましては皆さんにお時間をいただきたいと思いましてー」
#くぜ
「そこまでへりくだらなくて結構です。その辺りは皆さんで話し合ってください。ではホームルームは以上です」
#ふうき
「はい。では、」
#くぜ
「挨拶は結構です。このまま皆さんで話し合ってください。では」
#ナレーション
と言い残して教室を出ていく。同時に風紀さんが前に。
#ふうき
「というわけでみんな明日放課後に2、30分大丈夫かな?」
#ナレーション
急な問いは誰かが声を上げるまでは宙ぶらり。進む事は無い。
#ネネ
「良いと思いますけど。幸い、うちのクラスはホームルームが終わるのが早いですし」
#ナカミチ
「あの。その前に今、明日って言わなかったか?」
#ナレーション
言っていた。書き間違い、ではなくて。言い間違いではないようである。
#ふうき
「さすが目ざといね」
#ミサキ
「めざといって……。」
#ふうき
「褒めてるんだよ。うん」
#ナカミチ
「……それで明日でいいのか?」
#ふうき
「うん。明日詳細を決めるとして今日は別に決める事があるんだ」
#ナレーション
ちなみに目ざといは目聡いとか書いたりする褒め言葉だ。
#ナレーション
しかし、言葉の意味なんていうものは受け取り手次第でしかない。ややこしそうな言葉はやめておくべきだ。そういうややこしい言い回しが好きな人の発言はもう諦めるしかない。つまりあきらめていただきたい。全般的に。
#クラスメイト
「決める事?」
「あぁ。あれじゃないか?学校行事で他クラスに勝つって言ってたあれだろう」
「だろうな」
#ふうき
「そうそう。話が早くて助かるよ」
#ネネ
「遅くしているのは委員長では……。」
#ナレーション
もっともな意見が出たような気もするが教室内はざわめき始める。
#ナカミチ
「じゃあ今日は勝ちに行くか行かないか決めるのか」
#ふうき
「そうそう。話が早いと楽だね」
#ネネ
「いえ。ですから、」
#ふうき
「わかったよ。淡々と行くもん」
#ネネ
「拗ねられても困るのですが」
#ふうき
「と言っても提案側がいうのもなんだけど勝ちに行くのは賛成してもらえると思ってるんだけどねー。どう?」
#ナレーション
普通に考えればそうなるのだろう。対抗戦で勝ちに行くというのは当たり前のことで、ともみさん風に言えば積極的に取り組んでいるということで、ほぼイコールの言葉である。まったく同じ意味ではないのであろうが。
#クラスメイト
「あー。そうだなぁ。正直ほかのクラスには負けたくないよな」
「疲れそうだけど、まぁ今更かな」
「そこは大丈夫みたいね」
#ナレーション
どちらかというと賛成かもしれないという感じの意見が出始める。こういうのは最初の流れが肝心だ。反対が出にくい話でもあるしこんなものだろう。
#ネネ
「しかし、委員長が勝ちたいと言ったところで勝てるものではないはずです。普通科は魔法を使って運動能力をあげています」
#ふうき
「うん。おそらくそうだろうね」
#ネネ
「反対とは言いませんけれどそんな勝つ見込みができない相手に勝ちに行こうとする事に意味なんてあるんですか」
#ふうき
「……もっともだね。まぁ意味ならあるよ。私たちが普通科に勝った。そういう事実が残る。とてもすごい意味だと思うけどなー」
#クラスメイト
「初めて普通科に勝った機械科ということか」
「それは惹かれるものがあるな」
「しかし結局どうやって勝つのかという話になるが……。」
#ナレーション
望んだところでそこへ行く方法が無ければ絵にかいた餅。取らぬ狸の皮算用。というやつだろう。ことわざはやさしい言い方をしてくれているが。
#ネネ
「勝てない勝負に挑みたくはありません。だから、私は反対します」
#ナレーション
教室内はしん、と静まり返る。現実という冷や水は夢の熱をうばう。が、同時に熱狂を沈めさせるものでもある。現実を見て、その上で夢を見たいものだ。
#さいか
「で、でも勝てるならやるつもりなんですよね……?」
#ネネ
「それはそのつもりだと言っています。でも機械科が勝てた事が今までなかった。それが事実じゃないですか」
#ふうき
「じゃあ、つまり勝つ方法があるなら賛成してくれるってことだよね?」
#ネネ
「そうです。そう言っています」
#ふうき
「それは明日話し合うつもりだったんだけどね。とりあえず今日は勝ちに行くか行かないか決めたかったんだけれど」
#ふうき
「じゃあしかたないね。今日は勝つ方法について決めちゃおうか」
#ネネ
「えっ?」
#ミサキ
「何か案があるの?」
#ふうき
「うん。私が考えているのは2つあるよ。魔道機械を使うのと後は私に参加競技の振り分けを任せてほしいということ」
#ふうき
「特に振り分けは1度任せてほしい。個人の希望があれば明日詳細を詰めるという事で少し入れ替えるから」
#クラスメイト
「振り分け?」
「適材適所の所にそれぞれを配置するのか」
「いや。それって……。」
#ネネ
「運動が不得意な人たちを役に立たないからって一か所に集めたりするんですか!?そんなの認められるわけがありません!」
#ふうき
「さすがに邪推されすぎていると思うけど。そう思われるよね。うん。わかってはいたんだけどなぁ」
#ミサキ
「そうじゃないという事?」
#ふうき
「いや。否定しきれないよ。効率を求めだすとどうしても切り捨てるといういい方しかできない事も生まれるからね。もちろん出来る限りしないとは言いたいけど」
#さいか
「そ、それはよくないと思います」
#ネネ
「そうです。認められませんよ。やっぱりやめときましょう」
#クラスメイト
「切り捨てるのは、な……。」
「だめだよね。やっぱりやめる?」
「やめるかどうかは置いといて他の方法を考えようよ」
#ナレーション
犠牲を求めるのは酷な選択である。それで得る勝利に価値があるのか。考え方次第と言ってしまうにはまだ多感な学生であるわけで。得るものが何なのかというところが重要なのであるが、何にしても賛成は出にくい話だった。
#ふうき
「うーん。むずかしいね。やっぱり1日開けようか。明日までに案を考えてきてもらって、それを元に運動会をどうするか考えようか」
#クラスメイト
「そうだな」
「1度あいだをあけるのもいいかもしれないな」
「じゃあ今日は終わりか」
#ナレーション
終わりらしい。これは終わらない気がする。ナレーションの経験上。
#ふうき
「そうだね。今日は用事がある人もいるだろうし。何もなければ解散にしようか」
#クラスメイト
「なにかあるか?」
「いや、ないな」
「そろそろいい時間になってきたな」
#ネネ
「もうこんな時間ですか」
#さいか
「私は少し急がないと……。」
#ふうき
「うん。じゃあー……。解散!また明日ね!」
#クラスメイト
「さー。帰るか!」
「今日もいろいろあったなぁ。っと、早く行かないと混むな」
「そうだな。混んだら大変だしな」
#ナレーション
まったく何もなく、つつがなく終わった。教室から一斉に生徒が放出される。
#ネネ
「少し帰るのをずらすだけで混まないと思うんですけど。じゃなかった。私も急がないと」
#ナレーション
理想的や最適な行為は現実の前で崩れるものだ。余裕を持とう。楽しんでもいい。そうできないのが現実とか言わないように。
#ナレーション
この後、靴箱が混雑したりしたかもしれないが、とりあえず1日が終わったようである。

#ナレーション
次の日。
#ふうき
「うーん?わからないなぁ」
#ネネ
「私もわかりません。ことわざのたぐいではないでしょうか」
#さいか
「別のところを訳しながら意訳を……。」
#ナレーション
3人仲良く英語の長文を見ながら唸っている。その横でまた2人、ナカミチ君とミサキちゃん。こっちは唸る事も出来ないぐらい大変なようでなにも口に出さない。どうやら宿題をやっているようである。おそらくさいかちゃんのだろう。いつもの宿題。
#ナレーション
時間はやはりお昼休みのようで。まわりは気まずそうにお昼を食べていたりする。困っている相手に対し、何もできない事がつらい時もあるだろう。その心が大事。それがやさしい人というものだ。そうなりたい。
#ミサキ
「ナカミチ君。これすっごい難しいというより全部知らない事なんだけど……。」
#ナカミチ
「時間はまだあるから大丈夫だと思う……。」
#ナレーション
2人で社会の問題を解いているらしいというか、全問題を調べているほうが近い。とにかくナカミチ君はまだ大丈夫らしい。余裕があるならもう少し量を増やしてあげたらどうだろうか。それがいい。
#クラスメイト
「なんかナカミチいつも女の子と居るけど……。」
「うらやましくは無いなぁ……。」
「大変そうだという感情が先に出る」
#ナレーション
優しいクラスメイトらだ。直視できない。
#ネネ
「しかし難しすぎませんか……。私の知らない単語がいくつか……。」
#ナレーション
ネネちゃんが知らないレベルらしい。それなりに彼女も自身があるからだろうか、信じられないらしい。
#ふうき
「いや。わかっているほうだと……。というかネネちゃん同じ塾じゃなかった?良く考えたらなんで唸ってるの。これ今日提出分って聞いたけど。ネネちゃんの事だからやってるよね?」
#ネネ
「なにか言い方が気になりますけど、良く知っていますね。言いましたっけ」
#ふうき
「言ってたよ」
#ネネ
「あ。いえ。正確にはもう違います。さいかさん辞めてしまわれたので……。今は違うところに通われているはずです」
#ふうき
「それで急に難しくなったのか……。」
#さいか
「うぅ……。ごめんなさい……。」
#ネネ
「何も謝ることではないでしょうに」
#ふうき
「そうだね。さてさっさと終わらせちゃおうか」
#ナレーション
再び解き始める3人組。
#ミサキ
「うぅ。向こうもう終わっちゃうよ」
#ナカミチ
「な、なんとかなるだろ」
#ナレーション
再び調べる2人組。果たして終わることができるのだろうか。


#ナカミチ
「お、終わった……!」
#ナレーション
終わったらしい。
#ミサキ
「終わったねー……。」
#ナレーション
終えたようだ。ご苦労様である。
#さいか
「ナカミチさん。ミサキさん。ありがとうございます……。本当に申し訳ないです……。」
#ミサキ
「あぁ!別にいいよ、いいよ!挑みがいがあったね!」
#ナカミチ
「そうだな。このぐらいならなんともないよ」
#ナレーション
強がりにしかみえない。
#ふうき
「なるほどなるほど。ナカミチ君はこのぐらいなんともない、ね。よく覚えておくよ」
#ナカミチ
「なんで委員長が言うんだ……。」
#ふうき
「それは置いといてとりあえずみんなお疲れ様!さ。憂いも晴れたことだし休憩を満喫しよう!ほらほら、さいかちゃんもね!」
#さいか
「は、はい。わかりました。ネネさんも風紀さんもありがとうございました」
#ネネ
「かまいませんよ。大変そうな時はこれからも手伝うつもりです」
#ふうき
「前は渋っていたのに」
#ネネ
「そ、その時も手伝ったでしょう!」
#ふうき
「うんうん。クラスメイトの仲が良くて委員長はうれしい限りだよ」
#ナカミチ
「なにか話の流れがつながってないなぁ」
#ふうき
「なにかいった?」
#ナカミチ
「いや。なんでもないです」
#ミサキ
「ほんとナカミチ君は風紀さんに弱いね」
#ふうき
「じゃあ解散ということで。私はまたひと眠りするよ」
#さいか
「あ、はい。みなさんありがとうございました」
#ネネ
「そんなに何度も言っていただかなくて大丈夫ですよ。さいかさんの気持ちは通じています」
#ミサキ
「うん。気持ちがこもっていることがうれしいよね」
#ナレーション
そう言って各自自分の席へ戻っていく。
#ナカミチ
「あ。ちょっと話しておきたいことが、」
#ナレーション
そういって風紀さんを追いかける。追いかけるといっても風紀さんの席は結局自分の席の隣であるわけだが。
#ふうき
「えー?寝ている私を起こすとはどういう了見?」
#ナカミチ
「まだ寝てないじゃないか」
#ナレーション
席に座ってもいない。しかし眠いのを邪魔するのはいかがなものか。眠気は取れる時に取っておかないと危険である。
#ふうき
「寝るって言ったのにー。なーに?手短にね」
#ナカミチ
「……まぁ。ごめん。聞きたいのは参加競技の振り分けについてだったんだが」
#ふうき
「うん?聞きたいこと?」
#ナカミチ
「ああ。案を考えてきたんだが」
#ふうき
「あ、考えてきてくれたの?ありがとう」
#ナカミチ
「最終的な振り分けが明日にずれ込むことになっても大丈夫だよな?」
#ふうき
「え?ああ、元々その、今週中って言ってたし。問題ないでしょ」
#ナカミチ
「そうか。じゃあ続きは放課後にするよ。邪魔して悪かったな」
#ふうき
「あー。待って待って。ちなみにさ、その案の内容聞いてもいい?」
#ナカミチ
「ん?各自の希望する参加したい種目を複数あげてもらって、その希望にできるだけ沿う形で振り分けを俺たちでするっていうのを考えたんだけど。どうかな」
#ふうき
「……。」
#ナカミチ
「……どうした?」
#ふうき
「いや。いい案だと思う。いや、いいんじゃない?それでいこうよ」
#ナカミチ
「そうか。じゃあ放課後に提案してみるよ」
#ふうき
「うん。よろしくね」
#ナレーション
そう言って2人が席に着こうとしたところで、ミサキちゃんが声をかけてきた。
#ミサキ
「あれ?風紀さん起きてるの?じゃあ少しいいかな?」
#ふうき
「うん。もちろんだよ!何かな?」
#ナカミチ
「何か対応の態度が違う気がするんだが……。」
#ふうき
「聞こえないなー」
#ミサキ
「え?何の話?」
#ふうき
「いやいや。こっちの話。ナカミチ君、ミサキちゃんの話の邪魔しちゃだめでしょ?」
#ナカミチ
「それで話というのは?」
#ふうき
「やりすぎました。反省してます」
#ミサキ
「えーと。やっぱり後にしたほうがいいかな?」
#ふうき
「いや!聞く。聞くから!聞かせてください!」
#ミサキ
「う、うん。でもあたしが聞きたいことがあるんだけどね」
#ナカミチ
「聞きたいこと?」
#ミサキ
「昨日言っていた競技の振り分けなんだけど明日にずれ込んでもいいのかなって」
#ふうき
「……えっと。ちなみにどうしてかな?」
#ミサキ
「うん。せっかくだしできるだけみんなの意見を聞ければと思って。まずはみんなの参加したい競技を今日聞いて、それをもとに振り分けていくといいんじゃないかなって、思ったんだけど、でもそしたら決めるのは明日に……。どうしたの?やっぱり駄目だったかな?」
#ナレーション
2人とも真顔である。
#ふうき
「ああ。いや。えっと」
#ナカミチ
「いいと思う。放課後に提案してくれたらうれしい」
#ミサキ
「そう?よかったー。じゃあそうするね」
#ナレーション
そう言って自分の席へと戻っていった。
#ナカミチ
「じゃあ、まぁ。ミサキさんに任せるということにしようか」
#ふうき
「……そうだね。それがいいかな」
#ナカミチ
「……なぁ。ところで委員長の案はあるのか?」
#ふうき
「いや。特に思いつけなかったよ。だから提案してくれて助かったかな」
#ナカミチ
「そうか。じゃあ後は放課後だな」
#ふうき
「そうだね。……さ。ひと眠りするかー。まったく。ナカミチ君にえらい時間食わされたよ。まったく」
#ナカミチ
「俺はそんなに取らせた覚えはないんだけどな」
#ふうき
「他人のせいにしない。それに他は別にいいの。さー、寝よ寝よ」
#
キーンコーンカーンコーン……。
#ふうき
「。」
#ナレーション
無常。時間は無慈悲。なんたらかんたら。
#ナカミチ
「いや、ごめん」
#ふうき
「いや、こっちこそごめん」
#ナレーション
互いに冗談を言い合えるのは素晴らしいことだ。その関係が続くようにやはり礼節は必要である。とにかくお昼は過ぎて行った。もう返ってはこない。そんな感じである。

#ミサキ
「というわけで、まずはみんなのやりたい競技を聞いて調べちゃうのがいいと思うんだけど。どうかな?」
#ナレーション
一気に放課後まで時は過ぎた。もちろん過ぎたものは普通戻ってこない。今、教室ではミサキちゃんが考えてきた案を提案しているようだ。同意を求める声に教室は少し静まり返る。第1賛成者の名誉は重い。
#ネネ
「いいと思います。これなら委員長の案と合わせても問題ないかと」
#ふうき
「ホント?わーい。やったねミサキちゃん」
#ミサキ
「うん。よかったよ風紀さん」
#ナレーション
風紀さんはそのままわーい。という感じできれいな黒板の真ん中に、参加希望種目を調べよう案。と書いていく。
#ネネ
「……なにか騒がしいというか、何でしょう。なにか1つややこしくするというか」
#ナカミチ
「じっとできないんだろうなぁ」
#ふうき
「何か言った?」
#ナカミチ
「いいや」
#ふうき
「さて、他に案がある人―。……は、いないかな。じゃあミサキちゃんの案を採用という事で。異議なしかな。意義のある人はー、手をあげろ!ハンズアップ!」
#ネネ
「さっさと進めていただけません?まだ大丈夫だとは思いますが、用事ある方もいるはずですよ」
#ふうき
「はい。すみません」
#ナレーション
至極もっともだった。1分無駄にすればクラスメイトの人数分だけその時間が失われてしまう。しかし若者なのだからもっと無駄に、ぜいたくに使ってもいいかもしれない。思い出に残るような事はそんな時間にだってうまれたりするのだから。たぶん。
#ふうき
「では明日の朝中に、各自得意な種目を4つ!4つ書いておいてね。ホームルームが終わったら集めるよ。じゃあこれでこの話は完了!もう1つの方に移ろうか」
#クラスメイト
「もう1つの方?」
「あー、なんだったかな」
「そういえば言っていたよな。えっと」
#ナカミチ
「魔動機械の使用だな」
#ふうき
「……そう!私たちは前提として身体能力が魔法で強化してくる普通科に比べて相対的に低くなる。だから魔動機械を使って追いつく!多分だけどこれで普通科の身体能力と同じぐらいになるんじゃないかな」
#ネネ
「えっと。どういうことですか」
#ふうき
「体育会で必要なのはいわゆる重力操作。自身にベクトル操作を行い加速する。これに限る。というかこれしかないんだけど。その加速装置を運動靴に取り付ける!」
#ミサキ
「重力操作というと……。いわゆる浮遊魔法だっけ?」
#ふうき
「そうそう。それそれ」
#クラスメイト
「なるほど。これでハンデがなくなるってことか」
「どうかな。まだ向こうのほうが強い気もするが」
「とりあえず差は縮まるじゃない。でも魔動機械がないけど」
#ふうき
「それは大丈夫だよ。私たちは機械科だからね。そのあたりの部品は魔道実習でもらえるはずだよ」
#ナカミチ
「必要なのか」
#ふうき
「そうそう。勝つには前提としてこれがないと話にならないよ」
#ネネ
「そのようなことに魔動機械を使うのは認められないと思うのですが」
#ふうき
「そこはまぁ。ちょっと適当な理由でお借りするから大丈夫だよ」
#ネネ
「それはあまりよくないと思いますが。やっぱりやめませんか?」
#ふうき
「えぇー。他クラスを団結して倒すにはこれしか方法はないよ?いや、さっきも言ったけど前提だね。同じ身体能力になるだけだよ?ほかの人も賛成してくれているじゃない」
#クラスメイト
「それはまぁなー」
「相手が魔法を使っている以上はこっちも使わないと」
「同じことをしているだけだとも言えるし」
#ネネ
「で、ですが。相手が魔法を使っているのかは判断できませんし」
#ふうき
「いや、前にネネちゃんが言ってたんだよ?事実上やっているはずだって。それにこの戦いは全員のためにもなるはずだしね。クラスの団結にもつながるし」
#ネネ
「た、たしかに言いはしました!で、ですが。先生も言ってらっしゃいました。結局憶測でしょう。そう、それに団結って言っても、」
#ふうき
「それはわかっているけどね。でもそれでやらないっていうのもどうかと思うんだよ。賛成してくれる人も多いしね」
#ミサキ
「多数決はちょっと……。私はやってみてもいいと思うけどね。嫌がる人がいるのに無理強いするのはどうかなって思うな」
#ナカミチ
「確かに多数決だと確かに無理強いしている感じにはなるな……。」
#ナレーション
そのナカミチ君の言葉を最後に教室は静まる。妥協案が出ない以上、するかしないか。どちらかが折れるしかない。しかし折るというのは力がかかる。多数決は数の力なのだ。
#さいか
「……あの、ネネさん。やりませんか。いえ、準備だけだけでもしてみてもいいんじゃないかと思います。私はズルされてクラスが負けるのは嫌ですし……。」
#ナレーション
説得か妥協を迫る力か。それはわからないが1人の意見だった。
#ネネ
「さいかさん、いや。ですが……。」
#ふうき
「そ……、いや。どうしよっかな」
#ナカミチ
「しかし準備と言っても結局使うか使わないかの話になるんじゃないのか?」
#ミサキ
「確かにそうかも……。」
#さいか
「それは……。実際に見てから決めるのがいいと思うんです。使うか使わないかを」
#ナカミチ
「見てから……?というのは?」
#さいか
「ええ。他クラスが魔法を使っていると判断するには実際に見るまで分からないと思うんです……。だからとりあえず準備だけして……。」
#さいか
「あ、でも、これも……。結局相手が魔法を使っているかは分かりません……。」
#ミサキ
「見ただけじゃ魔法って使ってるか使ってないかわかりにくいもんね……。特に浮遊は……。」
#ふうき
「いっそ浮いてくれればわかるんだけどね」
#ナカミチ
「それは目立つだろうなぁ」
#さいか
「うぅ……。」
#ネネ
「……わかりました。準備はしましょう。でも使うのは各自の判断で。これでいいですか」
#ふうき
「……うん。そうだね、じゃあそうしようか」
#ナレーション
ここに一応の決着がついた。無事に議論は着地した。さぁ帰ろう。いや、帰れるだろうか。これで終わりだろうか。一抹の不安。
#ふうき
「じゃあ他に何もなければー…………。ないみたいだね。よし!」
#ナカミチ
「あ。一つ聞きたい事があるんだが」
#ふうき
「よし!帰ろう!」
#ナレーション
無事に終わった。もうひと波乱あるかと思ったがそんなことは何度も起こらないようである。
#さいか
「ふ、風紀さん。ナカミチさんがなにかあるみたいですけれども」
#ふうき
「うんうん。さいかちゃんはやさしいねぇ。それに比べて副委員長……。ナカミチ君のなんときびしいことか」
#ナカミチ
「委員長ももう少しやさしくしてくれてもいいと思うんだけどもな」
#ふうき
「おっ。言うね。前向きに検討しておくよ」
#ネネ
「今考慮すればいいと思いますが……。」
#ふうき
「そこはいいから早く話を進めてと怒ってもよかったんだよ」
#ネネ
「いいから早く話を進めてください……。」
#ナレーション
さすがに疲れてきているようだった。
#ふうき
「そこで付き合ってくれるあたりネネちゃんもやさしいというか、じゃなくて。なにかな、ナカミチ君。聞きたいことっていうのは」
#ナカミチ
「クラスメイトの割り振りなんだけどさ」
#ふうき
「……割と本気でむしかえさないでほしいんだけど」
#ナカミチ
「いや、そうじゃなくてだな……。休んでいる子がいるじゃないか。そこの割り振りをどうしようかと思って」
#ふうき
「あー。そうか。そうだね。寿(ことぶき)さんだったかな。うん」
#ナレーション
久しぶりの名字でのご登場だ。フルネーム、寿このみ。このみちゃんである。
#クラスメイト
「ずーっと来ていないけど……。病欠らしいよ」
「それは、大変……というのも失礼かな」
「でも体が弱いなら来ても見学という形になる……こっちが決める事じゃないよな」
#ナレーション
気遣いと考慮とやさしさが満ちて教室に充満。一方、部屋にこもってゲーム。二酸化炭素が充満してそうである。においが充満しているかもとかやさしさが無い事を言わないように。そもそも香りと言うべきだ。香りがあったとしてもフローラルでフルーティな香りが充満している事だろう。
#クラスメイト
「そういえばやっぱり寿さんって生徒会長の妹さんなのか?」
「そうなんじゃない?お名前一緒でしょう?寿という名字なかなかいないとおもう」
「じゃあやっぱりコトブキカンパニーの社長令嬢?」
#ナレーション
なんか社長令嬢とかいう情報が出た。
#ネネ
「魔動機械の日本シェアナンバー1の会社ですしすごいお嬢さん……、かは微妙ですね。知名度のわりに市場規模すごく小さいですし」
#ナレーション
すごく小さいらしい。お金の話というか収入を考えれば大事なのは利益と報酬である。確かこのみちゃんのおうちは一軒家でそれなりに大きかったが一般的に大きなおうちであり、豪邸とかすごいお宅とか言われはしないレベルだ。まぁ会社経営なんて赤字が出ていないだけですごいことである。
#さいか
「でも本当に深窓のご令嬢という感じでしょうね……。いつかお会いしたいです……。勝手にすごい美人だと思ってしまいます」
#ナレーション
深窓でゲームをしているので間違ってはいない。窓は定期的に開けるべきだ。換気もしよう。
#ミサキ
「あの生徒会長さんの妹だしね。私も会うのが楽しみだなー」
#ナレーション
ご期待にそえるとは思う。生徒会長とは方向が違う美人さんであるが。愛嬌……、だろうか。説明しづらい。いや、説明を放棄したわけではない。説明と解説はナレーションの仕事で存在意義、アイデンティティ。そう、魅力的な子である。このみちゃんは。うん。ばっちりの説明だった。
#ふうき
「はいはい。あんまり本人もいないのに人の家の話をしたりしない」
#ナレーション
知りたくなるのが人の性(さが)。噂と言っても陰口でなければ憶測とか推測とかの分類に入るのだろうし。噂話も高潔さをもってやればいい。わざわざ噂話としてやらなくてもいいが。
#ふうき
「うーん。そうだね……。といっても本人がいない以上ね。とりあえずあまり激しくない競技に割り振るしかないかな。本人が登校してきたら改めて聞くしかないね」
#ナカミチ
「そうか。そうだな、そうしよう」
#ふうき
「後はそれでいいか明日先生に聞いておくとして、寿さんが体育祭当日に欠席していた場合は代わりに誰かがその競技に参加するということで。こんな感じかな。意義ないかな」
#クラスメイト
「異議なーし」
「いいんじゃない?」
「まぁなんにしても本人が来るまではそれでー」
#ふうき
「よーし!じゃあ他に何もなければー………………。」
#ナレーション
ちらちらとナカミチ君のほうを見る風紀さん。
#ふうき
「なければー……、」
#ナカミチ
「ないよ」
#ふうき
「よし!解散!」
#クラスメイト
「帰るぞー!」
「今日は少し遅くなったな。急ぐか」
「今日こそ素早く靴を取り出してみせる」
#さいか
「わ、私も急がないと……。」
#ネネ
「え。わ、も、もうこんな時間」
#ナレーション
各々かばんを机の横から勢いよく引っ提げて教室から押し出ていく。
#ナカミチ
「うわっ。ちょ、かばんがっ」
#ナレーション
ナカミチ君もその動きに流されるように運ばれていく。なんとかかばんを手に取り廊下へ流される。


#生徒会長
「……。」
#ナレーション
廊下を歩いていた生徒会長のともみさんが横を通り流れていく生徒の波を奇異な目で見ていたが、まぁそれ以外は特になく。
#ナレーション
こうしてまた体育祭へと1日が過ぎていった。

#このみ
「おぉ。姉さんが出てきました。ようやく姉さんが我らがクラスに関わり始めるんですね」
#ナレーション
場所は再びカフェへ。約2年後の世界。
#ナカミチ
「いや。直接かかわることはなかったな。このみも知っているだろう。直接関わったのはこのみと出会った2学期の始業式で、それまで直接話した事もなかった」
#このみ
「はぁ。そうですか。何か面白い話でもあるかと思ったんですけどねー」
#ナカミチ
「品行方正で優秀だって噂ならよく聞いたけどもな」
#このみ
「あの姉さんに悪いうわさばなしが立ってたらおどろきますよ」
#ナレーション
立っていたとしたらこっちもおどろく。
#このみ
「しかし、みなさんうちの家の事知ってたんですねぇ」
#ナカミチ
「家っていうと父親の会社の事か?」
#ナレーション
そういえば何か話が出ていた。
#このみ
「ええ。だれも触れないもんですから知らないのかもとか思っていましたが。まぁ知らないわけありませんよね」
#ナレーション
知らないわけがないらしい。しかし常識というのは地域、国、世界ごとに違うのが当然であるし知らなくても仕方が無い。決してナレーションが説明するタイミングを逃したとかそういうわけではない。今まで話題出なかったし。
#このみ
「というわけで私、深窓の社長令嬢なので敬うように」
#ナカミチ
「本人の人間性を大事にする方なのですみません」
#このみ
「あやまられました……。」
#ナカミチ
「まぁ初めにこのみを見たときは深窓の令嬢に見えたよ。病弱なイメージの方だったが」
#このみ
「あ。見えました?やっぱり淑やかさは隠せませんね」
#ナカミチ
「5秒後ぐらいにはひっくり返ったけどな。180度ぐらい。いや、むしろ540度くらいあらぬ方向にひねり曲がったような感覚だったけどなぁ」
#このみ
「そこまで言われるほどですか?!」
#ナカミチ
「だってなぁ。お姉さんのともみさんに悪態ついていたし」
#このみ
「うぐっ……。」
#ナカミチ
「今でも思い出せるなぁ。いやです。家でゲームをします。とか。姉の献身的な態度に妹は感動しました。とか」
#このみ
「…………あのころは……、若かった……。」
#ナレーション
高校生がなんか言っている。
#ナカミチ
「でも仲が悪そうには不思議と見えなかったな」
#このみ
「でしょう?!」
#ナレーション
!?ではなく?!のあたり余程慌てていると見える。
#ナカミチ
「いや、そう迫られても」
#このみ
「ん?でもよく考えたらナカミチ君も社長令嬢なのでは……。」
#ナカミチ
「とりあえず令嬢ではないなぁ」
#ナレーション
まぎれもなく男の子である。実は主人公は女の子だったのですとかそんな叙述のひっかけはない。いままで散々男の子だと描写してきた。これで違ったらとりあえず説明役を降りる。
#このみ
「じゃあなんでしょうね。……。無理です。知らないものは出てきません」
#ナカミチ
「諦めが早すぎる……。でも俺も知らないな、令嬢の男性版は。えっと……?」
#ナレーション
スマートフォンを片手に調べ始めるナカミチ君。このままでも答えはわかるだろうが、もちろん説明役であるナレーションのほうが答えを早くお伝えできる。ご子息だ。
#ナカミチ
「あぁ。あった。令息(れいそく)というらしい」
#ナレーション
というわけで答えは社長令息だった。ご、ご子息でもあっているから説明役は降りない。どっちのほうがそれっぽいとかそういうのではなく。早くお伝えするのも説明役の仕事である。というよりも社長令息など一般には使われない。うん。そうである。ご子息のほうがいい。
#ナカミチ
「と言っても家は個人経営で従業員は両親だけだから令息って感じではないんだけども」
#ナレーション
ナカミチ君の実家は和菓子屋だったはずだ。いや、自信を取り戻そう。和菓子屋である。
#このみ
「へぇー。そうなんですか」
#ナカミチ
「あぁ」
#このみ
「でも大体飴ばっかり作っているんで洋風のイメージが強いです」
#ナカミチ
「飴は和風のイメージだと思うんだが……。洋風だとキャンディじゃないのか?」
#ナレーション
飴とキャンディ。この解説役をもってしても説明が難しい。余白が少なすぎるというあれである。語源がそもそも違う。西洋で作られたらキャンディ、日本で作られたら飴。それでいいのではないだろうか。ちなみに漢字で飴と書かれるが中国では飴の意味で使われる漢字は糖になる。
#ナレーション
日本で作られても海外に行けば飴という言葉はなくなるというのがなんとも。え?飴という漢字の中国語での意味?アメとムチが意味的には近いと思われる。人を操るようなものの意味が、長くなるのでやめ。
#このみ
「そういやキャンディーとドロップとどう違うんですかね」
#ナカミチ
「知らん」
#ナレーション
説明するとまた長くなるので知らない。
#ナカミチ
「それに俺は和菓子屋を継がないしな」
#このみ
「えっ。そうなんですか?」
#ナカミチ
「ああ。子供のころに継がないって言ったんだ。父親に。小さいころだったんだけどな。何故か自分が和菓子屋を継ぐってイメージがわかなくてな」
#このみ
「イメージ、ですか……。」
#ナカミチ
「和菓子は好きだったんだけどなぁ。で、その話を父親にしたわけだけど、びっくりされて。わかってもらえたからよかったんだけどな」
#このみ
「それは、まぁびっくりするでしょうね」
#ナカミチ
「だろうなぁ。5歳の子が言ったとは我ながら思わないよ」
#このみ
「5歳?!」
#ナカミチ
「まぁそう驚くよなぁ。5歳の時にそれだけ言うんだからきっと感覚みたいなものだったんだろうな」
#このみ
「感覚……。先ほど言ってたイメージですか」
#ナカミチ
「ああ。今なら理解できるんだけどな。きっと和菓子を作るのも和菓子自体も好きだったから趣味のレベルにとどめておきたかったんだろう」
#このみ
「5歳の判断力じゃありません……。」
#ナカミチ
「と言っても5歳らしいところもあったんだぞ」
#このみ
「……ほぅ。ナカミチ君の子供らしい一面ですか。想像がつかない分興味があります」
#ナレーション
こっちも興味がある。
#ナカミチ
「うちの和菓子屋の歴史は母側の家系だから先に母親に話を通すべきだったんだよな。相談ならまだしも」
#このみ
「想像していたのと違います!?」
#ナレーション
想像って難しい。心の中のものである。自分が思い描いたものと相手が同じものを共有しているとはゆめゆめ思わないようにするべきだ。
#このみ
「まぁナカミチ君の意外ないつもの一面が見れたということにしておきましょう。いつも通り、いつも通り」
#ナカミチ
「変わり映えしなくて悪かったな」
#ナレーション
移ろいゆくものばかりが映える。変わらないものを変わらずに美しいと言い続けることは難しいのだろうか。移ろうものを定めと諦め眺めるだけではいけない。
#このみ
「しかしナカミチ君のことをいろいろ知れました。知られざる私生活。その実態は?というやつです。……結局私生活も行動に違いはなさそうでしたけどね。珍しいものです」
#ナカミチ
「珍しいか?」
#このみ
「そりゃそうでしょう。学校で友達といる時と家族に接する時じゃあ違うのが普通です」
#ナカミチ
「そりゃあ違うだろう」
#このみ
「あ、やっぱりその辺は違うんですか」
#ナカミチ
「突っ込みがいらないからもっと柔らかく話しているな」
#このみ
「そういうことではないです……。なんか今日は私のほうが突っ込んでいる気が……。よく考えると学校以外では私が突っ込み役になっているような気がします……。」
#ナカミチ
「それはないと思う」
#ナレーション
たまに突っ込み役をするから印象に残るのだろう。普段恒常的にやっていることよりも印象に残っているのだ。
#このみ
「しかし……。そうですね。せっかくナカミチ君が話してくださいましたし私のプライベートもお教えしましょう」
#ナカミチ
「プライベートなぁ……。」
#このみ
「……何ですかその顔は」
#ナレーション
ナカミチ君は少し眉をひそめているようである。
#ナカミチ
「何か知らないことってあるか?このみと出会った日には大体わかった気がするが」
#このみ
「いやいや。なにをばかな。あ。ナカミチ君もそうでしたが私たち姉妹も父親の会社を継ぐつもりはなかったんですよ」
#ナカミチ
「へぇ。ともみさんが。継ぐつもりはなかったのか。知らなかった」
#このみ
「そうなんですよ。しかし、つい最近いったいどういう心境の変化があったのかもう一度考えてみると言ってまし、ではなくて!!」
#ナカミチ
「声が大きすぎるぞ」
#ナレーション
何か言いたそうなこのみちゃんであったが、いったんしゃべるのをやめて小声でしゃべり始める。
#このみ
「……私は継ぎませんという話です」
#ナカミチ
「だろうなぁ」
#ナレーション
意外でも何でもなかった。
#このみ
「……出来のいい姉を持つと苦労します」
#ナカミチ
「なんだそりゃ」
#ナレーション
特に脈絡のない漠然とした感想だろう。
#このみ
「父親の会社に入るつもりもないですけどねー。めんどくさそうですし」
#ナレーション
実にこのみちゃんらしい回答だった。
#ナカミチ
「出来の悪い妹を持つと……。いや。しかし、割と」
#このみ
「いや。聞こえましたから。とりあえず最後まで言ってみてください」
#ナレーション
聞き逃さなかった。わざわざ不都合な言葉を聞こうとするとはなかなかできることではない。きっと受け止めて自分の糧とするのだろう。出来のいい妹を持つと姉は苦労しそうである。
#ナカミチ
「……手のかかる妹ほど可愛いとともみさんも思っているだろうなぁ」
#このみ
「ですかねー?」
#ナレーション
なんか喜んでいるようだがほめ言葉ではない。ほめことばではないが耳触りのいい言葉を聞くのは心に負担が無くていい。
#このみ
「まぁそれは置いとくとしてさっきの言葉の続きをどうぞ」
#ナカミチ
「……まぁ。出来の悪い妹を持つと姉は大変だろうな。と言おうとしてました」
#このみ
「そっちじゃありません?!そのあとです!そのあと!」
#ナカミチ
「あ、ああ。そのあとか。そのあとね。えっと。なんだったかな」
#ナレーション
別に隠せてなかったが見たくなかった不都合な真実がかってに暴かれた。世の中には1つか2つか大量に見なくていい真実があふれている。だからまぁわざわざ見なくてもいいはずだ。
#ナカミチ
「割と同じ境遇なんだな。と思ったんだよ。将来の事、やらないとだけ決めて、なにをやるのか何も決めてないなって」
#このみ
「……私は継ぐのが面倒だったからしないんです。ナカミチ君ほどしっかりした理由じゃありませんよ」
#ナカミチ
「このみ。さっきは茶化してしまったんだけどな」
#このみ
「さっきと言われてもどこの事かさっぱりなんですがね」
#ナカミチ
「それは申し訳ないと思う」
#ナレーション
少し押され始めたナカミチ君。引いた分だけ相手が詰め寄ってくる。よって散々茶化しあう事で均衡をたもつ二人である。大変そうだ。
#ナカミチ
「いつもこのみはやりたくないからやらない。このみはとてもそれを大事にしているじゃないか」
#ナカミチ
「俺は……、俺もそんな姿がいいと思ったんだ。やりたいことをやって。楽しそうで。それを一緒にやるようになって。そして楽しくて」
#ナカミチ
「それはきっとこのみ自身が楽しそうにしているからなんだと思う。幸せそうに」
#このみ
「……どうでしょうね。それに大事にしているって言ってもナカミチ君が思っているだけかもしれませんよ」
#ナカミチ
「ともみさんのお墨付きだけどな」
#このみ
「なあっ?!い、いつ?そんなにお姉ちゃんと話したりしているんですか?!わ、私知りませんよ?」
#ナカミチ
「いつって……。ともみさんの大学に行ったときだな。それ以降に会ったのは前の文化祭だけだ」
#このみ
「あ、あの時ですか……。よほど仲が良くなったようで。よかったですね。手を出すつもりですか。そうですか。手は貸しませんから。いやむしろ出した手を払ってやります。姉さんへ迫る魔の手から守るのは妹の役目です」
#ナカミチ
「……手を出すつもりはないんだけどなぁ」
#このみ
「そうそう。それがいいですよ。我が姉は高嶺の花。手にいれたくば妹の屍を乗り越えてから行くんですね」
#ナカミチ
「屍はいやだなぁ。高嶺の花というのはわからなくはないが」
#このみ
「そうでしょう。そうでしょう」
#ナカミチ
「いや、謙遜しただけで高嶺の花っていうのはともみさんへのほめ言葉には……。まぁいいか」
#ナレーション
そう言って視線をお店の外へと向ける。西日に照らされた道路や建物がもう夕方である事を教えてくれていた。
#ナカミチ
「もう4時か。少し話がそれてしまったな」
#ナレーション
外を見た後、彼は店内の注文カウンター上に取り付けられた丸い壁掛け時計を見ていた。時計で時間を計るならわざわざ外を見なければいい。描写に力を入れたのが滑稽である。もう夕方か。とでも言えばと風情があると思わないだろうか。
#このみ
「もうそんな時間ですか……。」
#ナレーション
手元で明るい水色のスマートフォンを少し動かして時間を見るこのみちゃん。人の数だけ時間を知る方法があっていいと思う。特にデジタルは正確でいい。
#ナカミチ
「……うん。ちょうどいいかもな。もう少しだけ話しておきたい事もあるし。後少しだけいいか?」
#このみ
「え。もう少しなんですか?まだまだ話してもらう事はあるはずですけど……。」
#ナカミチ
「ああ。俺から話せるのはもう少しだけだよ。そこから先は風紀さんに聞いてくれないか」
#このみ
「風紀さんに……。」
#ナカミチ
「ここから先は風紀さんにとってはだいぶつらい出来事だったから。いや、堪えた出来事だった」
#ナカミチ
「だからきっと風紀さんは知られたくないと思う。でもこのみだったら話してくれるよ」
#このみ
「……そうですかね」
#ナカミチ
「ああ。だからここから先は俺が話すよりも風紀さんから聞く方がきっといいから。俺から話すのは後少し。体育祭の準備まで―――」

#ふうき
「……。」
#ナレーション
机に向いながら黙々と鉛筆を動かす風紀さん。
#ナカミチ
「委員長。手伝えるところは手伝うつもりなんだが。本当に何もないのか?」
#ふうき
「ん?んー。まぁね。そんな大人数でできることでもないよ。特に今回みたいな振り分けとか、分担してやると余計時間かかりそうだし」
#ナレーション
風紀さんの机の上には紙が散乱している。クラスメイト達の参加競技希望がその1枚1枚に書かれているようだ。1人1人参加希望をテキトウな紙に書いて提出してもらったのだろう。大きさも形も不揃いな紙がクラスメイトの数ぐらいはあるように見える。
#ナカミチ
「そうかもしれないけれども」
#ふうき
「なんにしても1人でできるから心配しなくてもいいよ」
#ナカミチ
「……あ。そうだ。途中で交代しようか?」
#ふうき
「うーん。やっぱり時間がかかりそうだからいいよ。気持ちだけ受け取っておくね」
#ナレーション
そう言って話は終わる。作業を分担したとき、作業の合計時間が増えるなどよくあることだ。誰かの作業時間を減らせるのか。そこを重要視したいものである。
#ナカミチ
「……まぁ何かあったら言ってくれ」
#ふうき
「そうだね。何かあったら……。」
#ナカミチ
「?何かあるのか?」
#ふうき
「ああ、いや。何もないよ。あったときは頼るからよろしくね」
#ナカミチ
「そうか。わかったよ」
#ナレーション
その日、風紀さんが作った参加競技の振り分けはお昼休みが終わるころには出来上がり教室に貼りだされ、放課後まで特に反対意見もなく、くぜ先生へと提出されていった。


#ナレーション
そこから数日たち、週をまたいでとあるある日。また風紀さんは机に向かって黙々と鉛筆をにぎっていた。
#ナカミチ
「委員長。手伝うつもりで来たんだけれども」
#ナレーション
そこへまた同じようにナカミチ君が登場。
#ふうき
「…………すぅ」
#ナカミチ
「……。」
#ナレーション
そりゃあ黙々するわけである。待てども返事は来ない。
#さいか
「……あの。風紀さん?」
#ナレーション
風紀さんの横に座っていたさいかちゃんが風紀さんに呼び掛ける。どうやらさいかちゃんの席の隣に座っていたようだ。
#ふうき
「…ふぇあ?」
#ナレーション
起きた。
#ふうき
「あ、あぁ。ごめん。寝てた。ごめんね、手伝っている最中に」
#さいか
「い、いえ。私は問題ないのですが……。」
#ふうき
「どうしてもお昼は眠くなっちゃうね。いやはや。さてと続きを……。」
#ふうき
「ん?あれ?ナカミチ君どうしたの?」
#ナレーション
気付かれた。
#ナカミチ
「いや。手伝えることがあればと思って」
#ふうき
「それは私に聞かれてもなー。さいかちゃんに聞きなよ。私は無理言って手伝っている立場だからね」
#ナカミチ
「それもそうか。……って無理言って手伝っている?」
#ナレーション
話の流れがよくわからなかったのだろう。ナカミチ君は少し不思議そうな顔でさいかちゃんを見る。
#さいか
「い、いえ。もともと一人でも終わる量だったのですが……。ですので結構です。お気持ちだけ受け取ります。風紀さんもお疲れでしたらここまでで充分ですよ」
#ナレーション
双方の座っている机には参考書やらプリントがあった。どうも風紀さんが頼んでさいかさんの手伝いをしているようであった。
#ふうき
「ううん。今日はこれから忙しくなるからね。これぐらいさせてよ」
#ナカミチ
「ああ。それで手伝っていたのか。確かにいつもより2時間時間がなくなるといえるけども……。」
#ネネ
「当人が大丈夫だと言っているのですから手伝う必要はないのでは?」
#さいか
「あ、ネネさん」
#ナレーション
さいかちゃんの前の席に座っていたネネちゃんが席に座ったまま振り返り会話に参加してくる。机には可愛い風呂敷に包まれた何かが置かれている。おそらくはお弁当箱だろうか。食べ終わったので会話に参加してきたという感じだろう。
#ふうき
「そうなんだろうけどね。私のせいで時間をもらうんだからこのぐらいはしておきたいんだよ」
#ネネ
「……そう思うなら最初からやめておけばいいと思います」
#ふうき
「……。みんなでやるって決めたことにまだ何かあるのかな?もう少し協調性とか考えてみてもいいんじゃない?」
#ナレーション
明確に双方から嫌悪が出ていた。
#さいか
「あ、あの……。そのへんで……。」
#ネネ
「そもそもそこが私には疑問です。どうせ来年には半数以上が普通科に編入するでしょう」
#さいか
「そ、そうだとしても。そんな言い方はしなくてもいいと、思う……。」
#ふうき
「いい?そうだとしても。だからこそだよ」
#さいか
「だからこそ……?」
#ナカミチ
「ちょっと待ってくれ。編入ってそんなに移るものなのか?」
#ネネ
「ええ、そうです。毎年半数は編入します。考えれば当然でしょう。そうですよね、委員長」
#ふうき
「……ほんとわざわざ聞かなくてもいいのに」
#ネネ
「では私から説明しますよ。そのほうが早そうです」
#ふうき
「ああ、いや。私が答えるよ。そのほうがナカミチ君もいいだろうしね。心配しなくても簡単に答えるよ」
#ふうき
「機械科から普通科。まぁ逆もそうなんだけど、編入には制限がないの。申請さえ出しておけば年次が変わるときに他には特に何もしなくても編入できるんだよ」
#ナカミチ
「そこまで……。」
#ふうき
「そう。だから毎年のように学年が上がるときには機械科から普通科へ生徒が流れるんだよ。当然と言えば当然だよね。だって機械科の評価といったら。ひどいものだよね」
#ネネ
「落ちこぼれだとか。不必要とか。好き勝手に……!」
#ふうき
「……でもね。だからこう思って入学してきた機械科の生徒は多いはずだよ。入った後で普通科に編入すればいいや。とね」
#ナカミチ
「それが半数にも……?」
#ふうき
「うん。そうだよ。それが事実だね」
#ネネ
「だからそんな無理に普通科に勝つ必要なんかないでしょう。どうせ来年には半数は機械科ではないんです」
#さいか
「そ、そんなことは……。ネネさん……。クラスみんなで勝ちに行くことはきっと大事なはずです……。」
#ふうき
「その通り。大事なんだよ。ネネちゃんが言うように半数は普通科に行く。だからこそ私たちはここで勝っておくべきなんだよ」
#ふうき
「機械科のクラスメイトが普通科に行った時の為にこそ、ね」
#ネネ
「行った時の為にこそ……?」
#ふうき
「そうだよ。考えてみて。私たちが普通科に行った時どんな立場だろうね」
#ネネ
「立場?」
#ふうき
「扱いのほうがいいかな」
#ネネ
「……っ。あ、扱い……。」
#ふうき
「そうさ。決まっているよ。世間と一緒」
#さいか
「……だから勝ちに行こうって言って。それで………………………………。」
#ミサキ
「あのー。人の席の前で重苦しい話をされていると気になって仕方ないんだけど……。」
#ナレーション
ミサキちゃんだ。さいかちゃんの後ろの席から体を乗り出して話に加わってきた。話に明るさを取り戻してほしいと願うばかりである。
#ふうき
「ああ、ごめんね。つまりはナメられないため。軽く見られないためなんだよ。だから今機械科にいるクラスメイト全員にとって重要なことなんだよ。わかった?」
#ネネ
「そ、それは……。」
#ミサキ
「もー。怖い言い方したら駄目だよ風紀さん。そんなこと起こるって決まっているわけじゃないでしょ。ねっ?」
#ふうき
「そりゃ決まっているわけじゃないよ。ただなんにしても勝っといたほうがいいって話」
#ナカミチ
「ところで少し話を変えるんだが……。」
#ふうき
「また急だね。今度は何かな」
#ナカミチ
「時間大丈夫か?もうすぐ昼休み終わるけども」
#ふうき
「え?」
#ネネ
「あ。10分前」
#ふうき
「えっ?」
#ナレーション
机の上にはまだ残っているであろう宿題があった。
#ナカミチ
「手伝わなくて大丈夫か?」
#ふうき
「ナカミチ君じゃ間に合わないよ!お、おぼえてろよー!」
#ナカミチ
「何を」
#ナレーション
会話も終わったのでとりあえず自分の席へと戻るナカミチ君。あわただしそうなのを横目で見ながら。
#ふうき
「さ、さいかちゃん!急がないと終わらないよ!」
#さいか
「……ええ。わかりました」
#ネネ
「はぁ……。英語なら手伝いますよ。さいかさん。一緒にやりましょう」
#ふうき
「あ。英語担当してるの私だよ。一緒にする?」
#ネネ
「たまには国語でもしましょうか」
#ふうき
「あれぇ?!」
#ミサキ
「……私もちょっとは勉強しないとなー」
#ナレーション
まぁやっているかいないかでは全然違う。しかしやらないなら全くやらない方がいいかもしれない。やりたければやればいい。素直に行こう。


#ふうき
「えー。というわけで基板の回路図は黒板に書いたとおりです。小さいし回路がつながる場所自体はいくつもあるから取り付ける場所は間違えないでね。あと作業中はゴーグルと手袋!」
#ナレーション
場所は変わり理科室。黒板を使って風紀さんが説明している事にクラスメイト達が耳を傾けていた。どうやらついに体育祭の準備を行うようだ。
#ネネ
「初めから重力操作用に設定されたものはないのですか」
#ふうき
「いやー。あるんだけどね。数が無かったし、大きいし、私たちにはオーバースペックだし。身の丈に合ったものを使おうねと言われた気分だったので。汎用型のこれにしました。これだと貸出じゃなくて提供してもらえるしね」
#クラスメイト
「オーバースペック?」
「重力操作専門だと主に空を飛ぶために作られているということだろう」
「そこまでの能力は必要ない、というかいらないしそこまでは使えないな」
#ふうき
「まぁ飛ぶというより浮くための機械なんだけど。とにかく予備は無いから注意してね。できたらケースに入れて靴底に埋め込むよ。これで靴が魔動具に早変わり!」
#ナレーション
そういって丸いプラスチックの容器をとりだす。どこかよく見かけるような形だ。
#ナカミチ
「それペットボトルのキャップじゃないのか」
#ふうき
「ちょうどよかったからいいじゃん。重力操作にはこれぐらいでいいよ。まぁ実はちょっと基板の方が大きいんだけどね」
#ネネ
「じゃあダメですよね」
#ふうき
「大丈夫。大丈夫。四角い基板だけど四隅の方は本来の取り付け用の穴があいているだけだから。そこを少し削り取ったら入るよ。計算上は。基盤が仕様通りの大きさなら」
#ナレーション
仕様とは往々にして後から設定されるものである。
#ナカミチ
「運動靴の靴底にキャップほどの大きさのものを埋め込めるのか?」
#ふうき
「計算上は」
#ミサキ
「不安になってきた……。」
#ふうき
「大丈夫。大丈夫。キャップも内側と淵を削って高さを3分の2まで落とせるから」
#ネネ
「計算上で。ですか」
#ふうき
「そうだね。運動靴が仕様通りの大きさなら」
#ナカミチ
「基板よりは誤差がありそうだなぁ」
#ふうき
「基板は結構余裕があるけどね。とにかく基板を完成させるところまでやってみよう。私は基盤と付属していた配線と説明書を配るからナカミチ君、キャップ配ってよ」
#ナカミチ
「わかった」
#ナレーション
そういって理科室特有の長い教師用の机にコンビニのビニール袋を置く。おそらくなかにはペットボトルのキャップが入っているのだろう。ナカミチ君は配り始めていく。


#ナカミチ
「よし。どうかな」
#ふうき
「おー?うん。出来てるんじゃないの。動かしてみないと分かんないけど」
#ナレーション
自分の作業に集中しているようだった。
#ネネ
「せめて見てあげたらどうです」
#ふうき
「ナカミチ君だから大丈夫だと思うんだけどなぁ。……うん。あってるね。けどさっきも言ったけど動かしてみないと分かんないよ」
#クラスメイト
「委員ちょー」
「委員長ちょっとわからないんだけどー」
「出来たと思うんだけどこの後どうしよう」
#ふうき
「はーい。今行くー」
#ナレーション
とてとてと呼ばれたほうへと歩いていく。
#ネネ
「……まず自分で確認するべき……かもしれませんね。あれを見ると」
#ナカミチ
「……さっきからあの調子だったな。後で謝るよ」
#ネネ
「謝る必要はないと思います」
#ナカミチ
「……そうかな?」
#ナレーション
風紀さんの机にはまだ作業途中の基板が置かれていた。
#ネネ
「そもそも黒板にも配られた説明書にも重力操作用の配線がかかれているんですからそれでわかるでしょう。皆さん委員長に頼りすぎです。委員長もそういえばいいんです」
#ナカミチ
「本人に言ってくれ。俺に言われても」
#ネネ
「い、いいません!そもそも委員長が言い始めた事です。最後まで責任を持つべきです。このぐらいするのは当然でしょう」
#ナカミチ
「そうか」
#ナレーション
少し苦笑いするナカミチ君。2人の仲を心配していたのだろう。風紀さんとネネちゃんの今後を知っていても不安を覚えるほどだった。彼の不安は大きかっただろうか。
#さいか
「……あの」
#ナレーション
ナカミチ君の後ろにさいかちゃんが立っていた。
#ナカミチ
「えっ?あ、さいかさん。なにか用?」
#さいか
「……キャップ余ってましたか?」
#ナカミチ
「キャップ?ああ、ペットボトルのならその袋に」
#ナレーション
そういって机の上にある袋に目を向ける。
#さいか
「削りすぎたので1つもらっていきますね」
#ナカミチ
「ああ。いいと思うけども」
#さいか
「……。」
#ネネ
「……ん?さいかさんどうかしました?」
#さいか
「いえ。ネネさんこういうの得意そうですよね。きれいに出来ています」
#ネネ
「そうですか?普通だと思いますが」
#さいか
「じゃあ私は作業に戻ります」
#ナレーション
そういって戻っていった。
#ネネ
「……。そう見えますか?」
#ナレーション
ナカミチ君に聞くネネちゃん。
#ナカミチ
「見えるかもしれない」
#ネネ
「曖昧ですね」
#ナレーション
はっきり意見を言うと角が立ちそうだとでも思ったのだろう。
#ネネ
「ところで……。」
#ネネ
「ミサキさんはいつになったらはんだ付けが終わるんですか」
#ナレーション
ネネさんの横には目の前の基板を集中してみながら動かないミサキちゃんがいた。右手にはんだごて。左手にはんだを持ちながら固まっている。
#ナレーション
はんだやはんだごてを知らない人はいない気もするので説明はしない。
#ミサキ
「……ううぅ。む、無理。あたしにはできないっ」
#ナレーション
なにか悲壮な決意じみた事を言い始めた。
#ナカミチ
「まぁだいぶ細かい作業だもんな」
#ネネ
「そろそろ覚悟を決めてください。終わりませんよ」
#ミサキ
「……え、えいっ」
#ナレーション
はんだごてを基盤に当ててはんだを溶かし。無事接着できたようだ。
#ミサキ
「き、緊張したー」
#ナレーション
失敗できない事は緊張してしまうものだ。
#ミサキ
「で。できたよ」
#ナカミチ
「もう一か所あると思うんだけども」
#ナレーション
悲劇である。悲劇的な現実を伝える方もつらい。
#ミサキ
「……別に嫌ってわけじゃないんだけどねこういう作業。集中しすぎてしまうっていうか」
#ネネ
「代わりにやりましょうか?」
#ナレーション
やさしかった。得意不得意人それぞれ。助け合いの精神。実際はただ単に心配されるほど切羽詰まった表情だっただけではあろうが。いや、疲れた表情だろうか。集中するとその後でげっそりする。
#ミサキ
「いやいや!自分でできるよ!そんなの悪いし!」
#ふうき
「そうそう。失敗したときどうするの」
#ナカミチ
「委員長こそ急いでつくらないといけないけれどな」
#ふうき
「うぬぅ。いいじゃん。あと1時間以上あるし。できるできる」
#ナレーション
ポジティブ派だ。
#ミサキ
「あ。そうだね。後1時間あるんだもんね。それまでにはできるかー」
#ナレーション
周りにもいい影響が出てくる。
#ナカミチ
「まだ取り付けがあるだろう」
#ナレーション
現実をぶち込んできた。
#ふうき
「靴底切り取って入れるだけだよ。やれるやれる」
#ネネ
「……まだ新しい靴なんですけどね。そういうところもあまり気乗りしない要因です」
#ふうき
「そこは悪いと思ってるよ。でも他にやり方が無いしね。成長期だし買い替えの時期はそのうち来るでしょ」
#ネネ
「男子はそうかもしれませんけれども」
#ふうき
「そりゃあまぁ私だってこれ以上成長するかと言われたら微妙に思ってるほうだけどさ」
#ナレーション
結果はしっかり成長したが。急に成長し始める時期である。自分自身のことでも予測はできない。そんな輝かしい時期だ。
#ナカミチ
「それで埋め込むというのは大体想像がつくんだけども具体的にどうするんだ」
#ふうき
「ああ。そろそろ説明しようか」
#ナレーション
そう言って立ち上がる。
#ナカミチ
「内容を教えてくれたら代わりに説明するが」
#ふうき
「そうしたら2回説明することになるでしょ。私が説明するよ。聞いといてね」
#ナレーション
ナカミチ君に説明してナカミチ君が全体に説明するとなれば確かに2回である。風紀さんはさっさと前に出ていった。


#ふうき
「というわけで靴の内側、中敷きから靴底を直径2.8cmの正方形でくり抜くんだけどその下が貫通しないように気を付けてね。それでキャップを押し込んだら完成だよ。蓋の上を足の側に入れてね。逆だと痛いよ」
#ナレーション
キャップの直径は28mmなのだろうか。それで完成らしかった。前で説明している風紀さんの出番もこれで終わりだろう。ようやく風紀さんも自分の作業に集中できる。
#ネネ
「基盤自体はどうするんです?」
#ふうき
「え?キャップの中に入れてくれたらいいよ」
#ミサキ
「それだと走ったりしたときになかで基板が跳ねちゃう……。」
#ふうき
「あ。確かに。で、でも実際に使うのは2、3回だしなんとかなるでしょ」
#ネネ
「というよりも魔力は物理的に接していないと流せないんじゃありませんでしたか?跳ねたりしてたら基板に魔力が通らないのでは」
#ふうき
「最初に魔力を蓄積しておけばー……。」
#ナカミチ
「蓄積できるほどの魔力を持っていないし、どこにためておくんだ。そもそも接していないという事は靴が魔動具にならないんじゃないか」
#ふうき
「……まずい」
#ナレーション
完全に考えていなかったらしい。
#ナカミチ
「専用のケースに変更したらどうだ?」
#ふうき
「ケ、ケースは用意してなくて……。それにケースは大きいし。すると結局、通常の魔動シューズを使ったほうが……。いや、そもそも当然ばれるし……。」
#ナレーション
詰まった。解決できないことはそう簡単にどうこうできないものである。だからこそ解決できなく詰まってしまったのだ。
#ネネ
「……ここまでみたいですね。残念ですが」
#クラスメイト
「えー。苦労して作ったんだけどなー」
「使えなきゃ意味がないだろう」
「無駄になってしまった」
#ナレーション
無駄になった事も経験だ。戒めて、次頑張るしかない。
#さいか
「埋めたらいいんですよ」
#ネネ
「えっ?」
#ふうき
「埋める……?あぁ、なるほど!そっかそっか!そうだよね!そうしようか!」
#さいか
「紙粘土とかいいと思います。キャップの中に埋め込むだけなら今日中に終わらなくても大丈夫でしょう?」
#ふうき
「うんうん。5分もかからないね。キャップに粘土を詰め込むぐらいね」
#クラスメイト
「何とかなるのか?」
「そうらしい。どうにかなるものだな」
「何とかしようという考えが大事だったな」
#ナレーション
代替案。思いつき。考えることが大事で解決する方法だ。しかし精査は必要である。代わりは代わり。思いつきは思いつきでしかない。
#ふうき
「じゃあ今日はキャップが靴にはまることを確認するところまで!あ、そういえばこの部屋に硬化剤って書いてあるもの見かけたことがあるからそれ使えば埋めるのも今日中に出来るかも!」
#さいか
「いえ。使い慣れないのを使うのもどうでしょうか。それにその硬化剤っていうのも学校の備品ですし」
#ふうき
「ふむ。それもそっか。じゃあ明日までに紙粘土用意しておくよ!じゃあ各自作業続行ね!」
#ナレーション
そういって教壇を降りる。
#クラスメイト
「あ。委員長。ここなんだけどー」
「委員長ー。切り取るのって何センチだっけ?2.8でよかった?」
「あ。その後こっちも聞きたいんだけど。お願いしていい?」
#ふうき
「いいよー。順番ねー」
#ナレーション
そのまま呼ばれたほうへととてとて歩いて行った。
#ナカミチ
「……ふーむ」
#ナレーション
溜息のように小さく吐き出した声というよりも吐き出した息が音を持ったような声が出る。
#ネネ
「やっぱり不安ですよね」
#ナカミチ
「うん。……あぁ、いやそういう意味じゃなくて。いや、ネネさんが思っている不安もあるんだけども。委員長の作業が終わるのかなって」
#ネネ
「何とか出来ると思いますけどね。私としてはこれでいいのかという方が不安です。順調に進んでいるからこそもう止まらないんだろうという方が」
#ナカミチ
「そうだな。止まることはないだろうな」
#ネネ
「……不安です」
#
……キュイイイイイ。
#ナレーション
走りだした以上引き返す選択はなかなか取られないだろう。見直して、修正して、なお走る。正しいと思って走っているのだから。ところでキュイイイと鳴っているようだがなんだろうか。
#
キュイイイイイイイイイイ―――
#ネネ
「……あの」
#ミサキ
「……。」
#
キュイイイイイイイ―――――
#ナレーション
ミサキちゃんが手に何かを持っている。左手には基板。右手には……。何だろうか。ペンのような。先が回転しているようだが。
#ネネ
「……。やすりを動かし続けながら固まるのやめません?」
#ナレーション
手に持っていたのは回転やすりだった。先端がやすりなのだろう。キュイイイイイと音を鳴らしながら回っていた。
#ミサキ
「やすりじゃなくて研磨機だよ」
#ネネ
「そこはどっちでもいいんです」
#ナレーション
どう違うのか。
#ミサキ
「というかネネちゃんこそそんな適当なのでいいの?4つの角を削るよう言われたじゃない」
#ネネ
「キャップに収まればいいわけですからね。2つ角を大きく削れば収まりますし。ミサキさんこそそんな研磨機を使っている人他にいませんしそこまでしなくていいと思いますが」
#ナレーション
ネネちゃんの基板は2か所しか削っていないようだ。
#ミサキ
「きれいに削れてた方がすごいと思うし」
#ネネ
「変に難しくしない方がいいと思います。出来ていませんし」
#ミサキ
「こ、これからできるの!」
#ナカミチ
「ま、まぁきれいにできていた方がいいだろうし」
#ミサキ
「うん。そうだよね!」
#ネネ
「最後紙粘土で隠れますけどね」
#ミサキ
「み、見えないとこもちゃんとできてるのがいいじゃない」
#ネネ
「見えないところは効率のいい形であるべきでしょう。私のだってちゃんとできています」
#ナレーション
全部に凝り始めると切りが無くなる。しかし凝れるところは凝りたい。当然みんな全部凝ったハイエンドモデルがいい。値段も青天井。使いこなす技術もなければ使い込めるお金もない。
#ナカミチ
「そういうところに凝るのはやっぱり女の子だよなぁ」
#ナレーション
おっと。ここでミスが出た。
#ネネ
「凝ってなくてすみませんね」
#ナレーション
怒っていた。
#ミサキ
「やっぱりってなに?」
#ナレーション
そりゃ怒る。
#ナカミチ
「いや。そんなこと自分は気にしなかったなと思っただけです。ごめんなさい」
#ナレーション
もっと誠意を見せるべきだ。まず這いつくばってみよう。
#ナレーション
その後ナカミチ君は暇そうに、ミサキちゃんはようやく研磨が終わり、ネネちゃんは新たに何かしていた。
#ネネ
「あ。ミサキさん。それ使い終わったようでしたら貸してください」
#ミサキ
「ん?研磨機?いいよ」
#ナレーション
ネネちゃんは受け取った研磨機で自分の基板を磨いていく。
#ミサキ
「うん。やっぱり磨いた方がいいよね」
#ナレーション
ちょっと嬉しそうに言うあたり気にしてたのだろう。相手が自分の言った事を受け止めてくれたらうれしいものである。
#ネネ
「磨いた方がいいのはその通りだと思いましたから。それに私のはもっと凝りましたよ」
#ミサキ
「え?なんのこと?」
#ネネ
「……ふふっ。ストラップ型にしました」
#ナレーション
ネネちゃんの手元には基板が。角の取付穴を1つだけ残しているようだ。ほかの角は大きめに削られて、研磨したのだろう、丸みを帯びていた。
#ミサキ
「…………割と気にしてたんだねー」
#ナレーション
何をと言われればおそらく実質、女子力低いねと言われたことにだろう。凝ったのを作ってきた。
#ネネ
「暇だったのが一番の理由なんですがね」
#ナレーション
特に意識して作ったわけではないようだった。作ったからにはちょっと心にでも引っかかってたのかもしれないが。その後は終わった人は自由時間。風紀さんもなんとか完成させたようだった。


#ナレーション
そして授業も終わりホームルームが終わるところである。
#
ガラッ―――
#くぜ
「席に着きなさい」
#ナレーション
終わるところである。
#くぜ
「連絡事項及び配布物等はありません。寄り道等しないよう。以上です」
#ナレーション
終わった。
#ふうき
「きりーつ!れーい!」
#
「ありがとうございましたー」
#ナレーション
終わりとともに帰る始まりである。今そのスタートが切られる。
#ふうき
「かいさーん!」
#ナレーション
一斉に生徒が動き始める。くぜ先生はもう教室を出ていった。
#ふうき
「っし!忘れ物なし!」
#クラスメイト
「1番に帰るのは俺だ!」
「ふっ。それはどうかな」
「お先!」
#ナレーション
初動が勝負である。廊下にあふれ出てしまえばごった返し。大混雑。前に出るのは難しい。
#ナカミチ
「風紀さんちょっと」
#ふうき
「帰るー」
#ナカミチ
「ちょっと」
#ふうき
「……なーにー。もう。みんな行っちゃったよ」
#ナレーション
教室の入り口あたりで出きれず詰まってはいるが完全に初動は逃した。
#ナカミチ
「紙粘土明日いるだろ。用意するから何個いるか聞こうと思って」
#ふうき
「もうちょい早く聞くタイミングもあったでしょ。いいよ。私が買うから」
#ナカミチ
「帰り道に売っているところがあるからな。ついでに買えるのを思い出したんだ」
#ふうき
「あっそ。でもいいよ。先生も寄り道はだめだって言ってたでしょ」
#ナカミチ
「一応学校行事の用意だし構わないだろう」
#ふうき
「非公認のね。ばれたらえらいことになるから」
#ナカミチ
「とにかく買えるから買ってくるよ。5個ぐらいでいいかな」
#ふうき
「……6個。足りないのが一番困る」
#ナカミチ
「わかった。じゃあ明日の朝、委員長に渡すから」
#ふうき
「りょうかい。任せたよ。じゃあ帰ろうか」
#ナレーション
そのあとは何も話すことなく校舎を出て、学校を出て。


#ふうき
「……もしも」
#ナカミチ
「ん?」
#ふうき
「なにかあったら、私がみんなにやってって言ったことにしてね」
#ナレーション
それだけ言って、その日はもうお互いにしゃべらなかった。
#ナレーション
2人だけの下校。一緒に帰るナカミチ君と風紀さん。帰る道が途中まで一緒だということを知った1日だった。

 

 

#ナレーション

学校。昨日も学校。今日も学校。学生らしい健康的な生活習慣だ。

#このみ

「おはようございまーす」

#クラスメイト

「おはよー」

「おはようこのみさん」

「おはよう」

#ナレーション

時系列が飛んだらしい。少なくとも数か月。いや、1年は飛んだだろうか。

#このみ

「おはようございます風紀さん。ナカミチ君」

#ふうき

「おはよう。このみちゃん」

#ナカミチ

「おはよう」

#ふうき

「それで?私に話があるって言ってたけど。なにかな」

#このみ

「ええ。そのためにいつもより早く来ていただいて。ありがとうございます」

#ナレーション

あれから2年後のようだった。2人でカフェの日も過ぎたようである。

#ふうき

「他ならぬこのみちゃんの頼みだからね。体に鞭打ってここまでたどり着いたよ」

#このみ

「暴力に屈しないその姿。目に焼き付けておきます」

#ナカミチ

「そんなに時間ないぞ」

#ナレーション

いつも通りでは間に合わないらしい。

#このみ

「あれ?ナカミチ君は呼んでなかったのですが」

#ふうき

「やっぱり?ナカミチ君も暇だねぇ」

#ナレーション

ナカミチ君は呼ばれていなかったらしい。

#ナカミチ

「少し早く着いただけだ」

#ふうき

「よく言うよ。私より早くついてたじゃん。今日聞きたいことってのもナカミチ君の姿を見て大体わかったよ」

#ふうき

「でも聞くね」

#ふうき

「何が聞きたいの」

#このみ

「1年生の時の体育祭についてです」

#ふうき

「…………ナカミチ君に聞きなよ」

#ナカミチ

「話してもいいなら話すよ」

#ナレーション

知るべきだけど話したくない。風紀さんはそんな位置にいる。問題を引き起こしたと同時に、巻き込まれた。そんな立ち位置。

#このみ

「風紀さんは私になら話してくれるってナカミチ君が言ってました」

#ふうき

「……勝手なことを言うよねー。というか勝手にやるんだよ、ナカミチ君は」

#このみ

「そこはよく知っています」

#ふうき

「このみちゃんには改めて言うことじゃなかったね。……はあー」

#ナカミチ

「なんでため息なんだ」

#ふうき

「思い出したら腹が立ってきただけだよ。ほっといて。……はあー。やれやれ」

#ナレーション

そういいながらナカミチ君を眺める風紀さん。少しだけ間をおいて。また、しゃべり始める。

#ふうき

「ちゃんと話せる自信がない」

#ナレーション

表情は変えず。それでも声はさみしそうに聞こえた。不安な声だろうか。

#ナカミチ

「話しづらい時は手伝うから」

#ふうき

「…………はぁー。……んー。…んー」

#ふうき

「……うん。はなすよ。このみちゃん、ちょっと長くなるからナカミチ君の椅子を貸してもらいなよ」

#このみ

「そうします。さ、ナカミチ君、女の子が席に座ります。喜んで差し出してください」

#ナカミチ

「自分の席の椅子を持ってきたらいいだろ。すぐそこにあるじゃないか」

#ナレーション

このみちゃんの席はナカミチ君の席の横である。風紀さんの2個となり。しかしそんなことは関係ない。早く明け渡すべきだ。

#このみ

「私お箸より重いものを持ったことがないので……。とても運べませんわ……。」

#ナレーション

おしとやかスタイルである。

#ふうき

「その気持ち超わかるー」

#ナレーション

ナウいスタイル。

#ナカミチ

「分からないからその話し方やめてくれないか」

#このみ

「超美少女の頼みを断るとは……。」

#ふうき

「いったい何が不満なんだ……。」

#ナカミチ

「いいから椅子をもってこい」

 

 

 

 

#ナレーション

場面は運動場へ。体育祭が開かれているようだ。時系列は再び2年前だろうか。

#ふうき

「えーっと。1位1組、2位3組……。」

#ナレーション

2年前で確定した。風紀さんが待機場所兼観客席として立てられたテントから双眼鏡を片手に競技中のグラウンドを覗いている。もう片手で膝上に乗せたメモ帳に何かを書き込んでいる。

#ナカミチ

「あんまりよくないな」

#ふうき

「……やっぱ両足分用意するべきだった」

#ナレーション

周りでクラスメイト達が立ちながら応援している中、一番前で座りながら参謀、兼、委員長と副委員長の会話が始まる。

#ナカミチ

「基板の話か?いや、もう魔動具と呼んだほうがいいか」

#ふうき

「魔力的には片足で十分だけどバランスが取れてない。次に魔法による加速に慣れていない。靴とキャップの接続が不安定。そして相手をむきにさせてしまった」

#ナカミチ

「相手を?」

#ふうき

「そうだね。……おっ。1位101組、2位2組……。」

#ナレーション

再度メモに何かを記入。数字を書き込んでいるようだ。どうやら現時点での各クラスの点数を把握しているようだ。

#ふうき

「最初はこっちが勝ててたでしょ。それで相手が全力で魔力をつぎ込んできたんだよ。ばれないようにとか考えてるのかなぁ」

#ふうき

「後は参加者が偏ってる。魔力が高いか運動が得意かは知らないけど同じ人が多めに出てるね。1組にはすでに4種目、他の人より2倍ぐらい出てる子もいる。まぁこっちも休んでいる子のところに運動が得意な子を入れてるからあまり強くは言えないけど」

#ナレーション

出たい人が出て、得意な人が出る。正しい話だ。なぜフェアに思えないのだろうか。抗えば勝てる相手であることがフェアなのだろうか。

#ナレーション

ところで2倍出ている1組の人というのは双子ではないかとナレーション的には思う。

#ナカミチ

「あー。まぁ2倍ぐらい出ている子はさすがにもう出てこないだろう」

#ふうき

「と言っても他の人と同じぐらいの強さだし別に困ることはないけどね。なんか不調の時もあるし。……っと。次は1位が3組。2位が……。」

#ナレーション

きっと2分の1ぐらいの確率で強かったりするのだろう。まだ風紀さんも双子がいるとは知らない時のようだ。もしくはその子が双子だということを知らないのかもしれない。

 

#ナレーション

体育祭が始まり数時間。放送が流れる。ともみさんの声のようだ。

#ともみ(放送)

「以上で午前の部の競技が終了しました。この後はお昼休みを挟みまして午後1時から―――」

#ナレーション

スピーカーを通してもよく通る声である。しかし特に誰も注意を払っていない為聞こえていない。

#クラスメイト

「よーし。お昼休憩だー。学食行こうぜー」

「今日は混むから昼食持参が推奨だって言われてたんだけど」

「もう買ってる。こっちはここで食べてるから早くいけ。混むぞ」

#ナレーション

お昼休みはお昼ご飯のことで精いっぱいなのである。仕方ないといえば仕方ない。成長期は栄養が必要だ。

#ふうき

「……。ま、休憩休憩。後は午後からにしよう」

#ナレーション

メモ帳をたたんで休憩モードに入る風紀さん。休息は大事だ。

#くぜ

「風紀さん」

#ナレーション

くぜ先生である。生徒たちの後ろ。少し離れて風紀さんを呼んでいる。しかし体育祭でもあるし体操服を着てもいいのではないだろうか。無理か。そこを何とか。無理か。

#ふうき

「はい。風紀です。ご用件は何でしょう?」

#ナレーション

ひょいひょいと食事を始める生徒の合間を抜けてくぜ先生のいる場所へ躍り出る。

#くぜ

「何かしているようなら今すぐやめなさい」

#ふうき

「えーっと。何かと言われても……。何もしていることはありませんが」

#ナレーション

当たり前だが気づかれないわけがない。さっきまでグラウンド上では他の高校ではありえないハイレベルな戦いがあったはずである。わかりやすい話であれば100m走1試合が他校より1秒ほど早く終わる。そんな感じ。

#ナレーション

まぁ恐ろしい話である。とにかくこれでくぜ先生が忠告しに来たのだろう。しかし風紀さんこれを知らぬ存ぜぬで通すらしかった。するとくぜ先生が再度お弁当を食べ始めている生徒たちのほうへ近づき声をかける。

#くぜ

「ナカミチさん」

#ナレーション

1人追加。

#ナカミチ

「はい」

#ナレーション

集まっている前の方から声が聞こえてきた。呼ばれると立ち上がり、食事を始めているクラスメイトの合間をひょいひょいと抜けてくぜ先生のもとへ。

#ナカミチ

「なんでしょうか」

#くぜ

「クラス内で面倒事は起きていませんか」

#ナカミチ

「いえ。面倒なことは起きていないと思いますが」

#ふうき

「私が知る限りでもありません」

#くぜ

「わかりました。私はこの後来賓されている方との食事があるため席をはずします。昼休み中はくれぐれも面倒事をおこさないように」

#ふうき

「了解しました。ぜひおまかせください」

#ナカミチ

「わかりました」

#くぜ

「では」

#ナレーション

くぜ先生はそういうと校舎の方へ去って行った。見逃してくれたらしい。

#ふうき

「お昼休みじゃなければ何が違うっていうのかねぇ」

#ナカミチ

「違っている方がいいのか?」

#ふうき

「べつにー。さ、戻ろうか」

#クラスメイト

「委員長ー。くぜ先生何か言ってたー?」

「ばれてないよな?」

「ばれたら怒られるよな?」

#ネネ

「そりゃあまぁそうでしょうね。で。どうだったんですか」

#ふうき

「いや。お昼の間くぜ先生がいないってさ。用事があるみたい。来賓のお偉いさんとお食事だって」

#クラスメイト

「なんだそっかー」

「お食事って何だろう。いいなー」

「この辺にそんな食事するとこあったか?」

#ふうき

「まぁお弁当じゃない?どっかに注文してるんでしょ。お弁当は豪華なものとは思うけどめんどくさいだけだと思うよ。社交辞令ってやつ?」

#ナカミチ

「来賓多いもんなぁ」

#ミサキ

「そんなに面白いかなぁ」

#ネネ

「面白い面白くないで来られたりはしないと思います」

#ふうき

「……あいさつ回りで終わりそうだねぇ。先生内心嫌がってそう」

#クラスメイト

「大人は大変だな」

「そうだな。楽しい話全然聞かないよな」

「お金はあるんじゃない?」

#ナレーション

もっと希望を持ってほしい。大人はもっと希望を語ろう。自分の体験したことで。きっとたくさんあるはずだ。人によっては。それではだめか。

#ふうき

「さてと。じゃあ……おや?」

#ナレーション

言いかけたところで放送が再度入る。ともみさんの声だ。

#ともみ(放送)

「お食事中ですが、先ほど各クラスの現在における獲得点数が集計されました。1年生から順に1位から発表させていただきます」

#ふうき

「なっ?!」

#ナカミチ

「今年から中間発表があるのか……。」

#ナレーション

1位から順に発表されていった。1年からの発表という事で早々に結果がわかる。機械科は3位のようだ。ナカミチ君が言ったことから予測するにこれまで中間発表は無かったらしい。

#ふうき

「ま、まぁこっちの計算が間違ってなかったという事がわかったからいいよ。大事なのはここからの1点を争う計算だからね」

#ナカミチ

「点数加算は5点からだけどな」

#ふうき

「うるさいよ。……スケジュール表に各順位の点数がかかれてたし今年の生徒会はどうも仕事熱心だね」

#ナカミチ

「生徒会長かわいいしな」

 

 

 

 

#ナカミチ

「そんなこと言ってないよな」

#ふうき

「そうだっけ?」

#ナレーション

急に2年後に戻られても困る。

 

 

 

 

#ナカミチ

「しっかりしてそうな人だったよな。生徒会長」

#ふうき

「実際しっかりしているようだね。ありゃ人気でるよ」

#ナカミチ

「すでに人気があるから生徒会長やっているんじゃないのか?」

#ふうき

「どうだろう。対抗がいなけりゃ人気なくてもいいだろうし。いや、人気あるか。出ない理由がなさそうだし」

#ナレーション

姿よし。性格よし。文武両道。確かに出ない理由がない。

#ふうき

「さてと。じゃあ私もお昼食べてくるよ」

#ナレーション

さっき放送で途切れた言葉だろう。

#クラスメイト

「すっごい混んでると思うけど大丈夫?」

「今から行って座れるか?」

「うちの購買パンとか売ってないしなぁ。不便だよなぁ」

#ふうき

「食品を取り扱うのは大変なんだろうね。保管場所とか。まぁいいよ。何とかするし。じゃあねー」

#ナカミチ

「ぼたもち作ってきたからよかったら後でもらいに来てくれ。結構作ってきたから」

#ふうき

「あー。じゃあ後で残ってたら、」

#クラスメイト

「ぼたもち?おいしそうじゃないか。欲しいな」

「デザートを持ってくるなんてなかなかやるじゃない」

「1つもらおうか」

#ナレーション

わらわらと欲しい人が出てくる。運動したからおなかが減っているのだろう。

#ナカミチ

「全員分はないから。おい。聞いてくれ」

#ナレーション

聞いていても関係ないだろう。俺もー、私もー、という声が次々上がる。

#ふうき

「私は残ってたらでいいよ。とにかく行くね」

#ナレーション

そう言って食堂の方へ向って言った。

 

 

 

 

 

 

#ナレーション

それからしばらくして午後の部が始まる。

#ふうき

「……。」

#ナレーション

午前と変わらず右手に鉛筆。膝にメモ帳を乗せて。左手に双眼鏡とラップに包まれたぼたもちを持って。あいかわらず順位チェックをしているようである。

#ミサキ

「風紀さんいつまでぼたもち持ってるの……。」

#ナレーション

どうやら無事もらえたらしい。午後の部も始まってだいぶ経っているようだ。されど未だ手をつけられていないぼたもち。

#ふうき

「うん?いやー。なかなか食べるタイミングが無くて。早く食べたいとは思っているんだけどね。みんなが遠慮してくれたものだし。味わいたいというのもあって」

#ナレーション

そう言いながら右手の鉛筆を動かす。忙しそうだった。

#ネネ

「はやくたべた方がいいと思いますが」

#ふうき

「わかってるよ。これがおわったら1年生の競技がしばらくないからその時食べるよ」

#ナレーション

言っているうちに終わった。

#ふうき

「よし。待たせてごめんねナカミチ君」

#ナカミチ

「いや。待ってはいないけど」

#ふうき

「あ。そうだ。先に集計しようっと。後は間違っていないか再計算もしよう」

#ナレーション

再計算が必要なのではなく再計算する時間が必要だった。多分わざとだろう。待ち焦がれていたぐらい言えないのか。

#ネネ

「手伝いますからさっさと食べたらどうです」

#ふうき

「それはありがたい。けどネネちゃん、それには及ばないよ。なぜならまず副委員長のナカミチ君に頼るから」

#ネネ

「……確かにそうするべきですね」

#ナレーション

普通に考えれば委員長と副委員長で事足りるならそれでいいかもしれない。というかそうあるべきである。

#ナカミチ

「じゃあそのメモ借りるな」

#ふうき

「きゃあ。ナカミチ君が太ももに手を伸ばしてきたー」

#ナレーション

そう言って大げさに身を守るように足を抱え込む。ひどい主人公だ。風紀さんが怖がって縮こまってしまった。別にもとから縮こまっているようなものとは言っていない。

#クラスメイト

「まぁ趣味は人それぞれではあるが。とりあえずあやまれ」

「ロリコンはあんまりよくないと思うけど。まず土下座からね」

「付き合う女の子は顔だけで選ぶもんじゃないぞ。じゃあ謝罪しよう」

#ナカミチ

「なにもしてないから」

#ふうき

「今、全方位からセクハラ受けたんだけど」

#ネネ

「それだと最初にしたの委員長ですね」

#ふうき

「さっ。ぼたもち食べよ」

#ナレーション

それがいい。そうしよう。

#ミサキ

「見事なまでの話題転換……。」

#ネネ

「見事というよりすがすがしいというべきですね」

#ふうき

「いただきまーす」

#ナレーション

その話はもう終わったと決め込んだようだった。

#ふうき

「むぐむぐ。うまーい」

#ナレーション

ご満悦。

#ネネ

「点数はどうなっているんですか?」

#ナレーション

預かったメモ帳を開いて計算しているナカミチ君に問いかける。

#ナカミチ

「今は4位だと思う。細かい計算は今しているけども」

#ネネ

「魔動具を使っても4位ですか……。やっぱりみんな魔法を使うんですね」

#ナカミチ

「どうだろうな。使っていない人もいるとは思うよ」

#ネネ

「使ってなかったら私たちが4位なのはおかしいでしょう。今は大体の人が魔動具を使っているのに」

#ふうき

「こっちでも魔動具を使っていない子がいるんだから相手にも使わずに挑んでいる子がいるかもってことだよ。まぁ1人、2人の話だろうけどね」

#ナレーション

風紀さんが会話に混ざってきた。

#ふうき

「ごちそうさま。とてもおいしかったよ。魔動料理としてはコメントを控えさせていただくけど」

#ナカミチ

「それはしかたないだろう。ごみ預かるよ」

#ナレーション

ぼたもちを包んでいたラップを預かろうとする。

#ふうき

「そのぐらい自分で捨ててくるよ」

#ナカミチ

「家から持ってきたものだし、家で捨てるつもりだから」

#ふうき

「そう?じゃあよろしく」

#ナレーション

こういうときのごみ箱はすぐいっぱいになる。

#ふうき

「後はグループ競技だね」

#ネネ

「ええ。後残っているのは二人三脚とリレーです」

#ナレーション

2人3脚はグループ競技に入るのだろうか。もっと数を増やしてみたらどうか。いっそクラス全員。

#ふうき

「ああ、いやいや。そっちじゃなくて。点数の話。4位になってる理由」

#ネネ

「理由?」

#ふうき

「綱引きあったでしょ。あれが勝てないのは仕方ないとして順位での点数幅が大きいのがきつい」

#ネネ

「点数幅?」

#ふうき

「他の競技ではぎりぎりで2位や3位を取り続けて時々1位を取れて。って感じでいいんだけどね。他クラスも全部1位を取れるわけじゃないし」

#ナカミチ

「差がつきにくいというわけか。それで上位に食らいつけていた」

#ふうき

「まぁ実際は食らいつけてなかったけどね。1組にだけはどんどん差がついていってたよ」

#ネネ

「それが綱引きで完全に引き離された……。ん?しかし綱引きは1組が勝っていましたか?」

#ふうき

「いや。勝ったのは4組。それで4組が2位に浮上。午前終了時点で私たちが3位。午後になってから2組が2位まで浮上。で、めでたく4位になったというわけ」

#ネネ

「めでたいはおかしいでしょう?」

#ナレーション

にらみつけられた。

#ふうき

「こ、言葉のあやだって。いや。実際順位こそ4位だけど綱引きは私たちにいい結果をもたらしてるからね。うん」

#ナカミチ

「いい結果?」

#ネネ

「負けていい結果もなにもないでしょう」

#ふうき

「だからにらまないでって……。点数差が縮まったんだよ」

#ナレーション

ちぢこまりながら説明し始めた。

#ふうき

「私が懸念してたのは逆転できなくなるほどの点数差ができてしまうこと。1組がそこまで行きそうなところだったからね。途中経過で大事なのは順位じゃなくて点数差だから」

#ネネ

「そういうことですか」

#ふうき

「そうそう。そういうこと」

#ナカミチ

「しかしなぜそんなことが起きたんだ?」

#ふうき

「使用ペースの配分を間違えたんでしょ。ああ、魔力の話ね。総量の話」

#ナカミチ

「なるほど。ペース配分か」

#ナレーション

確かに魔力は体力より回復速度が遅いイメージである。

#ふうき

「体力は短時間である程度元に戻るからね。比べるとどうしても使い勝手が悪い」

#ナレーション

体力は瞬発力と持久力で分かれているが魔力はそういう境目が無いのだろう。

#ナカミチ

「しかし純粋に上乗せされるような力だからなぁ」

#ふうき

「あー。そうだね。そういう感じだね」

#ネネ

「私たちにとってはあってもなくても変わらないような力ですが。ただ、あってよかったとは思います」

#ふうき

「……1つ思ったんだけどさ」

#ナカミチ

「うん?」

#ふうき

「じゃあ初めからみんなにこの力がなかったら今、こういう苦労する事もないのかなって」

#ナカミチ

「……うーん。どうだろう」

#ネネ

「別になかったらないだけで別の事で苦労するだけでしょうね。私はさっき言ったようにあってよかったと思います」

#ナカミチ

「……じゃあ、あってよかったという事で」

#ふうき

「なんでナカミチ君が結論出すのさ。まぁ同意見だけど」

#ふうき

「さて!また準備しないとね。ナカミチ君、計算してたメモ帳もらえる?」

#ナカミチ

「ああ。ほら。各クラスの合計点がこのページだから」

#ナレーション

メモ帳を開きながら手渡す。

#ネネ

「まだ何かするんですか……。」

#ふうき

「想定するだけだよ。この後に必要な戦績をね。この後2つの競技に私出るから計算する時間もないし」

#ナカミチ

「全員に1位を目指してもらえばいいんじゃないか?」

#ふうき

「最後にわからないまま挑むのもいやでしょ?」

#ナカミチ

「それもそうか」

#ナレーション

その後メモ帳にばりばりと計算する風紀さん。やがて残り2つの競技が近づいてきた。

 

#ふうき

「で、なんでこうなるかなぁ」

#ナカミチ

「知らん」

#ナレーション

2人3脚の競技に集まった生徒たちの中に並んで座る2人の姿があった。クラスごとペアで整列して並んでいる。1年生だけの競技らしく、他学年の姿は見あたらない。

#ふうき

「普通女の子のペアは女の子にならない?」

#ナカミチ

「その女の子が休んでるからなぁ。というかべつに決まってはいなかったし。男女になる事もあるだろう」

#ふうき

「せめて2人3脚を走りやすいように身長差がないように代役立てるよね」

#ナカミチ

「風紀さんの身長だと誰でも走りづらいのは変わらないし」

#ふうき

「ええい!みんなと同じこと言って!」

#ナカミチ

「そう言われても俺もそう言われて押し付けられた側だし……。」

#ナレーション

クラスメイトからそう言われたのだろう。

#ふうき

「押し付けられた?」

#ナカミチ

「引き受けました」

#ナレーション

言いなおした。いつも通り押しには弱い。というよりさっさと受け流す。

#ふうき

「まったく。どこが相性よさそうなんだか」

#ナレーション

どうやらそういう感じの事を言われて最終的に代役がナカミチ君になったらしい。

#ナカミチ

「委員長と副委員長だからなぁ。そんなところだろう」

#ふうき

「えらい迷惑だ」

#ナカミチ

「それはこっちのセリフだけどなぁ」

#ナレーション

この感じだとはたから見れば相性は良さそうだろう。

#ナカミチ

「勝てるのか?」

#ナレーション

小声で聞くナカミチ君。

#ふうき

「ナカミチ君は点数差知ってるでしょ?」

#ナカミチ

「……40点差」

#ふうき

「リレーが1位と2位で20点の差。2人3脚は順位ごとに5点差でそれが4回」

#ナレーション

リレーの話が1位と2位の話しかしない時点で1位をとらなければもう駄目なのだろう。

#ナカミチ

「つまりどうなるんだ」

#ふうき

「そのぐらいの計算自分でしなよ」

#ナカミチ

「全部勝たなきゃいけないんだろ?」

#ふうき

「そう。たぶん前提として、ね」

#ナレーション

計算上、ナカミチ君たちの機械科が1位をとっても1組がすべて2位をとれば同点の点数幅である。

#ふうき

「……ふー」

#ナレーション

おおきく息を吐き出しながらうずくまる。遠くでスタートを知らせる音が鳴った。

#ふうき

「……初めから駄目だったのかなぁ」

#ナカミチ

「委員長はそう思ってたら初めからやらないだろう」

#ふうき

「……んー」

#ふうき

「……それもそっか」

#ナレーション

並んでる列が1つ前に進んだ。1つ目の競争が終わったらしい。次の走者たちが立ち上がって前に出る。後ろに続く生徒はしゃがみながら前に移動。ナカミチ君たちは4つ目、最後だ。

#ふうき

「……えっ!?1組目の競争終わったの?!順位見てない!!」

#ナカミチ

「……1位が1組。2位が101組」

#ふうき

「…………そう」

#ナレーション

厳しい現実はより厳しくなる。悪化していくというのはそういうものである。

#クラスメイト

「い、いきなり叫んでどうしたんだ?」

「何かあったのか?」

#ナレーション

前の走者がおどろいていた。

#ふうき

「ああ、いや。厳しいなと思ってね。ごめんね。……大声出しちゃって」

#クラスメイト

「厳しいって?何の話だ?」

「順位の話か?」

「どうしたの?なにかあった?」

#ナレーション

さらに前の走者。次に走るため立ち上がっていた2人のクラスメイトも気になったようだ。

#クラスメイト

「点数がやばいってよ。頑張って走ってくれよな」

「わかってるって。先に走った奴も頑張ってたし」

「さっきの見たら1組が速すぎたからあまり期待されるのも嫌だけどね」

#ナレーション

次の走者が呼ばれ、立ち上がっていた2人が前に歩いていく。

#ふうき

「……。うん。頑張って」

#ナカミチ

「もう行ったぞ」

#ふうき

「わかってるよ」

#ナレーション

スタートの音が鳴る。ゴールまでおよそ50m。勝負はすぐ決まる。

#ふうき

「よしっ。1位!1組は……3位か」

#ナレーション

膝立ちして戦績を眺めている。もう見逃すつもりはないのだろう。

#ナカミチ

「2人3脚だとスピードを出しにくいのかもしれない」

#ふうき

「そういうのはあるかもしれない。相手とスピードを合わせるのは難しいだろうね」

#クラスメイト

「やった!1位だぞ!」

「喜ぶのはまだ早いだろう」

#ナカミチ

「……たしかにまだきびしいな」

#クラスメイト

「俺たちも1位を狙わないといけないか」

「点数幅を縮めないといけないんだけどな。まぁできることは1位を目指すだけか」

#ナレーション

そう言って次の走者2人がスタート地点へと歩いていく。

#ふうき

「……どうなるかな」

#ナカミチ

「なんとかなって欲しいけどな」

#ふうき

「あぁ。そうだね」

#ナレーション

スタートの合図が鳴る。

#ナカミチ

「!相手がもたついてる!」

#ナレーション

バランスを崩しているのが見える。

#ふうき

「……1位。5位。4位以降は点数が無いから……。」

#ナレーション

機械科が1位で1組が5位のようである。

#ふうき

「残り20点差……!」

#ナカミチ

「……これは次1位とらないと合わせる顔が無いな」

#ふうき

「ははっ。まったくだよ」

#ナカミチ

「じゃ、行くか」

#ふうき

「うん。そうだね」

#ナレーション

スタート地点に立つ。足をマジックテープのついた紐でつなぐ。

#ふうき

「ちゃんと合わせてよ?」

#ナカミチ

「たがいに合わせるものだと思うんだけどな」

#ふうき

「じゃあエスコートでいいよ」

#ナカミチ

「それも違う気がするなぁ」

#ふうき

「ま、とりあえず最初出す足は内側から」

#ナカミチ

「了解」

#ナレーション

クラスメイトの声援が聞こえる中、スタートの音が響く。

#ナレーション

2人は掛け声も出さずただ走っていた。乱雑な走りで。気合いで姿勢を保っているような。そして圧倒的に速くゴールして、

#ナレーション

止まろうとしてこけていた。残りは15点差 ―――。

 

 

 

 

 

 

#ふうき

「えらい目にあった」

#ナカミチ

「お互いさまだからな」

#ナレーション

競技が終わり、2人ともグラウンドから退場していた。

#ふうき

「ゴールしたらふつう止まるでしょ」

#ナカミチ

「急に止まられても。普通は徐々にスピードを落とすだろう」

#ナレーション

双方譲る気はないようである。

#ナカミチ

「それより次のリレー。集合場所に向かわないといけないんじゃないのか」

#ふうき

「はいはい。行きますよ。それじゃあね、ナカミチ君。終わったらすぐ戻るよ」

#ナカミチ

「全力で走ってくればいいよ。じゃあな、委員長」

 

 

 

 

#ふうき

「それで2人3脚は最初が2位。他が1位でね。1組の順位もあってなんとか逆転できる点数内になったんだよ」

#ナレーション

再び2年後へ。

#みしろ

「2人3脚かー、懐かしいな。私たちも出てたんだよねー」

#ふうき

「ん?……最初の1位はみしろちゃんたちか!」

#ナレーション

2年後にして明かされる事実だった。

#ナカミチ

「そういや風紀さんは最初の順位を見逃してたな」

#ふうき

「そうだね!ナカミチ君が教えてくれたからね!」

#ナカミチ

「おこらなくても……。」

#ふうき

「怒ってはいない!」

#ましろ

「でもあれは双子という理由で出さされたようなものだったから。多めに出るはめになったんだけれど」

#みしろ

「姉妹の力を見せるいい機会だと思ったしねー」

#ましろ

「まぁこういう感じで」

#ナレーション

いつの間にかましろちゃんとみしろちゃんも会話に入っている。

#このみ

「姉妹のきずなは最強ですけど時々苦労することもあります」

#ナカミチ

「苦労させる側が言うことではないなぁ」

#このみ

「かく言う私も苦労したのは1度や2度ではありません」

#ナカミチ

「させたのは数えきれないんだろうなぁ」

#このみ

「……。」

#ナカミチ

「……。」

#このみ

「まぁ苦労した覚えはありません」

#ナレーション

負けた。

#ふうき

「続きいい?」

#ナレーション

珍しくあきれていた。さらに乗っかっていくスタイルではないようだ。

#ナカミチ

「といってももう残り10分ほどでホームルームだぞ」

#ふうき

15分前を切ったところでしょ。ちょうどいいじゃない。ましろちゃんとみしろちゃんも聞いといて。この後何があったかこのみちゃんに話すところだから」

#ましろ

「このあと……。」

#みしろ

「ああ。あれ。私たちは1組の観客席から見てたけど。どうしてああなったのかよく知らないんだよね」

#ふうき

「どうして……、ね。そうだね。このあと起きたことはあんまり。いや、かなりいい話ではないんだけど。ね」

#ふうき

「……そうか。もう2年前なのか」

 

#ナレーション

再び2年前。リレーの参加者たちがグラウンドへ入場するため少し離れたところで一時的に集まっている。そんな中、風紀さんが周りを見渡しているようだが。

#ネネ

「委員長!」

#ナレーション

集団の中から声が聞こえる。ネネちゃんの声のようだ。人混みのわりに静かでよく聞こえた。風紀さんは人の合間を抜けながら呼ばれたほうへとすたすたと歩いていく。

#ふうき

「助かったよ。どこにいるのかさっぱりわからなかったから」

#ネネ

「こちらもたまたま迷っていそうな委員長を見つけただけです」

#クラスメイト

「これだけ人数いるとわからないんじゃないかって話してたんだ」

「1チーム8人とかいう規模だからな」

「しかも3学年分だろ?100人超えてんじゃねーか?」

#ナレーション

もはや群衆である。

#ネネ

「なんで学年ごとに分けないのでしょうね……。」

#ふうき

「さぁね。しかしよく私を見つけられたね。自分で言うのもなんだけど小さいからわからなかったでしょ」

#ネネ

「いえ。小さいというのが特徴になっていましたよ。風紀さんの身長で動いているのはむしろこちらからは目立っていました」

#ふうき

「わるかったね、ちんちくりんで」

#ネネ

「自分から言い始めたことですよね。そういうのは副委員長とやっておいてください」

#ふうき

「うぅ……。冷たい。あんなに必死に探してくれてたのに」

#ネネ

「必死には探していません」

#ナレーション

探してくれているだけでありがたい話である。無関心でないだけよかった。

#ネネ

「しかし何といえばいいでしょう、殺伐というか。ここまで注目されているといっそすがすがしいものですね」

#ナレーション

周りからの視線が気になるようだった。確かに他クラスから視線が集まっている。

#ふうき

「これで勝敗が決まるからね。いやー、まいったね。そこまで機械科が1位を取るのはおかしいかな」

#クラスメイト

「いや……。おかしいとは思われてるんじゃないか?」

「他学年のを実際に見てるとね……。」

「見るだけで、あれ機械科だなっていうのがわかるぐらい差が出るよね」

#ネネ

「途中から明らかに他の学年まで魔力を使い始めました。私たちのせいじゃないでしょうか?」

#ふうき

「毎年こんなもんじゃないの?私たちが影響を与えたのかはわからないけどね」

#ネネ

「どうしてそんなことがわかるんですか」

#ふうき

「わからないっていったじゃん?!」

#ネネ

「えっ?」

#ふうき

「いや、だから。私たちが影響を与えたかどうかなんてわからないよ」

#ネネ

「いえ。その前のはなしですが」

#ふうき

「前?ああ、毎年こんなものだと思うって話か。それネネちゃんも知ってるでしょ。過去機械科が勝ったことなんて1度もないって。少し有名な話だけど」

#クラスメイト

「そういえばそんなこと言ってたな。有名なのか?」

「それなりにな。ネットで検索候補の下に出るぐらいには、だが」

「学校のこと調べてたら見ると思うけど……。」

#ナレーション

どれだけ有名でも知らない人はいる。ましてや自分が知っているのだから相手も知っているだろうなんて思うのはよろしくない。自分が知っているのだから相手にも知っていてほしかったとは思うかもしれない。

#ふうき

「だから毎年どのクラスも魔法を使ってる。と考えるのが普通なんだよ。結局さ、持っている力を使わないなんて出来ないんだよね」

#ふうき

「ネネちゃんもそう思ってたでしょ?」

#ネネ

「そうですが……。」

#ナレーション

周りが動き始める。そろそろ始まるようだ。

#クラスメイト

「始まるのか……。」

「正直勝てるのか?こんなこと言いたくないけども」

「自信ないんだけど……。」

#ネネ

「どうなるんでしょうか……。」

#ふうき

「ここまで来たら最後はなるようにしかならないよ。とにかく全力で走るんだ。途中離されてもね。そしたら……、」

#ネネ

「そしたら?」

#ふうき

「もし負けたって私が全部責任持つから心配しないで!ほら!もう進んでるよ!」

#ナレーション

そう言ってクラスメイトを押して進む。

#クラスメイト

「うわっとと」

「ここまで来たらなるようにしかならないな」

「それもそうね」

#ナレーション

先頭に立つ教師の指示のもとグラウンド中央へと歩いていく。

#ネネ

「委員長……。本当のところ私たち勝てるんですか?私は走るの得意じゃないんです」

#ふうき

「それは、ごめんね。これ以上の戦力をここに持ってこれなかったんだ。本当はね、ここの時点で20点を超えるリードを持っておくつもりだったんだけど」

#ネネ

20点差内に抑えれるかどうかになったんですか……。1位を取るしかないですね」

#ふうき

「ここにはぎりぎり2位を取れるかどうかの戦力しか残ってないよ」

#ネネ

「……言い方が気に入らないですが」

#ふうき

「そういう目線は必要だよ。戦力として計る」

#ふうき

「まぁとにかくね。安心していいよ。うちのクラスは負けたからってだれかを責めたりしない。だから全力で走ってればいい。そういうことなんだろうね」

#ネネ

「そう……ですか。たしかにそうですね」

#ふうき

「…………。」

 

 

#ふうき

(その時。私が何を考えてたのか。もうよくわからない。)

 

 

#ふうき

「ねぇ。ネネちゃん。それでも私はやっぱり勝ちたいんだ。せっかくここまでみんなで頑張ったんだから勝ちたいってそう思う」

 

 

#ふうき

(そう思っていたと思いたいけど。)

 

 

#ふうき

「だから、ネネちゃんも……。魔法を使ってほしいんだ」

#ネネ

「……それは各個人で決めることになったはずです」

#ふうき

「使ってくれないと勝てない」

#ナレーション

使っても勝てるのかどうかわからない。まして使わないと言うならどうやっても無理なのかもしれない。

#ネネ

「……。わかっています。私もここまで来て使わないつもりはありませんでした」

#ふうき

「あ、ありがとう!ネネちゃん!」

 

 

#ふうき

(その時どんな顔をして、どう思ったか覚えていない。)

 

 

#ネネ

「委員長に言われたからじゃありません。私だってもう使う気でしたからね」

#ふうき

「そっかそっか。これで大丈夫だね!」

#ネネ

「大丈夫かはわからないと思いますが……。」

 

 

#ふうき

(笑った顔は歪んでなかったかな。内心あざ笑ってたりしてなかったかな。)

#ふうき

(いや。その時どう思っててももう遅いんだろう。)

 

 

#ナレーション

隊列が競技に向けて止まる。一時待機の為、生徒たちはその場でしゃがんだり座ったりしていく。

 

#ネネ

「あれ?」

#ふうき

「ん?どうしたの?」

#ネネ

「い、いえ。なんでもありません」

#ふうき

「……?そう?」

#ナレーション

そう言いながらも困惑しているのは明らかだった。

 

 

 

 

 

 

#ナレーション

時間は少し戻って。観客席に戻るナカミチ君。

#さいか

「あ、ナカミチ君。お疲れ様でした。大変でしたね」

#ナカミチ

「え。ああ……。まぁこけたけど特にケガとかはなかったよ」

#さいか

「ナカミチ君はよく巻き込まれていて大変ですね」

#ナカミチ

「いや、俺はおそらくみんなから想像されているよりは大変ではないと思うけどな」

#ミサキ

「あ、ナカミチ君おかえりー」

#クラスメイト

「おっ。帰ってきたか」

「こけてたけど大丈夫?」

「委員長ケガとかしてなかった?」

#ナカミチ

「あー。うん。何もケガしてなかったよ」

#クラスメイト

「おー。そうか。じゃあ後はリレーだけか」

「どうなるかなー」

「1位とれるの?」

#ナカミチ

「難しいとは思うけどな。でも委員長はまだあきらめてないから応援してほしいけども」

#クラスメイト

「応援は当然するが。どうやら副委員長殿は我々の勝利に疑問を持っているようだぞ」

「なんですって?あとで委員長に報告しないとね」

「副委員長、委員長に対して反乱の兆しあり……、と」

#ナカミチ

「悪い影響を受けないように」

#ナレーション

誰の影響かは言わず、それだけ言うと観客席の先頭へ、特に指定はないが何となく決まっている定位置へと移動。折り畳み式の腰掛けに座る。

#ミサキ

「あ、みんな出てきたよ」

#ナレーション

遠くで入場してくる生徒たちが見える。

#ナカミチ

「……どこ?」

#ナレーション

人数が多いからわからなかった。

#ミサキ

「ほら、あそこあそこ。みんなー!がんばれー!」

#ナレーション

双眼鏡を覗きながら指をさしたり手を振ったり。

#ナカミチ

「いや、双眼鏡ないしわからない……。」

#ナレーション

距離の問題だった。

#クラスメイト

「おっ。来たか」

「最後だー!がんばってー!」

「ふれーふれー!」

#ナレーション

前へ押し気味に応援が始まる。距離は関係なかった。立ち上がるクラスメイトに圧迫されるナカミチ君。

#ナカミチ

「お、押すな押すな。まだ始まってないぞ」

#ナレーション

言いながらナカミチ君も立ち上がる。座ったままだと押し出されそうな勢いだったという理由もあるだろう。

#ナカミチ

「ファイトー!」

#ナレーション

ナカミチ君の大声も珍しいかもしれない。

 

 

 

 

#ふうき

「……あ」

#ナレーション

待機している生徒たちの隙間から応援してくれているクラスメイト達が見える。

#ふうき

「見て見て、ネネちゃん。みんな応援してくれてる」

#ネネ

「え?あ、ああ。ホントですね」

#ふうき

「ホントって何?そんな嘘ついたりしないよ?信用無いなー」

#ナレーション

他よりも明らかに目立つ応援の声が聞こえていた。2人とも応援のほうに意識を向けていたが、しかし、徐々に周りからのざわめきがおおきくなる。視線や声が向けられている。違和感が2人を包む。気づいた風紀さんが目線の先を追うと、

#ふうき

「……えっ」

#ナレーション

ネネちゃんの靴が燃えていた。

 

 

 

 

#ナカミチ

「……ん?」

#ナレーション

違和感は応援していた方にもすぐにわかった。隊列を組んで座っていた生徒たちがその隊列を崩し始めていた。乱雑になり、立ちあがって何かを見る生徒までいるのが観客席からも見えていた。

#ナカミチ

「……ミサキさん。双眼鏡を」

#ミサキ

「待って、こっちで確認してる……。なんだろう……。生徒たちで壁になってみえない……。」

#ナカミチ

「ごめん。自分で確認したい。貸してくれ」

#ミサキ

「……うん。わかった」

#ナレーション

双眼鏡を受け取る。

#???

「きゃああああああああ!」

#ナカミチ

「!」

#ナレーション

双眼鏡を覗き込んで確認する。

#ナカミチ

「……くそっ!」

#ナレーション

集まっている生徒たちはどんどん立ち上がりその壁を厚くしていく。観客席からはとても見えない。

#ふうき

 

#ナカミチ

「……風紀さん!」

#ナレーション

一瞬見えた顔はこっちを向いていた。

#ミサキ

「何か見えた?!」

#クラスメイト

「な、なにがあった?」

「いや、わからないけど……。」

「あ、あれ!くぜ先生が飛んで!」

#ナカミチ

「く、くぜ先生」

#ナレーション

双眼鏡を離すと上空にくぜ先生がいるのが見えた。文字通り飛んで行ったのだろう。

#クラスメイト

「な、生身で飛んでる……。」

「ほうきも使わずに飛ぶとか……。」

「ね、ねぇ。それよりあれ。なに?」

#ナカミチ

「……水」

#ナレーション

再度双眼鏡を覗き込みながらあたりを確認しているようだ。

#ミサキ

「水?」

#ナレーション

空に浮かぶ、くぜ先生の前に視認できるほどの大きさを持った水であろう液状の球体があらわれ、落下する。集まっていた生徒たちが落下点から逃げているのだろう、慌てて広がっていく。

#クラスメイト

「水の生成をあれだけ瞬時に」

「グラウンドが一気に水浸し……。」

「い、いや。何のために?」

#くぜ

 

#ナレーション

液体を落とした後、くぜ先生は一度だけこちらを見たように見えた。そしてそのまま降りて行き、姿が見えなくなった。再度群がるように覗き込み始めた生徒の数はさらに増え、きっと、もはや観客席からその中を見ることはできないだろう。

#クラスメイト

「な、何があったんだ……。」

「わからないけど……。」

「嫌な予感はする……。」

#ナカミチ

「……委員長」

 

 

 

 

#ナレーション

少し前に戻る。

#ふうき

「……えっ」

#ナレーション

周りの目線の先には火が見えた。

#ふうき

「ネネちゃん。く、靴……。」

#ネネ

「え。えっ。えっ」

#ナレーション

自分の靴が燃えているのを見て、彼女の顔からどんどん血の気が引いていく。

#ネネ

「き、きゃああああああああああああ!!!あ、あ!ああ!」

#ナレーション

声は出ても体が動かないのだろう。表情までこわばりながら震えている。

#ふうき

「……………。」

#ナレーション

風紀さんも同様だった。しかし彼女は声すら出せない。彼女の中では色々考えているはずである。何をした方がいいのかだってわかっているかもしれない。しかし体が動かない。自分の感覚が遠いように感じているようだった。

#ふうき

「……。」

#ナレーション

ふと、観客席を見た。それは思いのほか、スムーズに顔は動いた。しかし、観客席に居るはずのクラスメイトは距離を取りながらこちらを見ている周りの生徒たちによってふさがれて見えない。

#ふうき

「ぁ」

#ナレーション

ナカミチ君が見えたような気がした。周りの声が聞こえ始める。

#クラスメイト

「は、はずせない!」

「おい!この火熱くない!魔法によるものだ!」

「ネネさん!しっかり!魔法の火みたい!大丈夫だから!」

#ネネ

「あ、あ。え、えっ?あ、熱くない……。」

#クラスメイト

「靴ひも固く結び過ぎ!気合入りすぎだって!と、とれない!」

「引っ張れー!」

「おーえす!おーえす!」

#ネネ

「あ!痛いです!痛いですって!!」

#クラスメイト

「痛い?!」

「やっぱり魔法の火じゃないの?!」

「はずせー!」

#ネネ

「引っ張らないでって!ちょっと!聞きなさ、あいたたたたた!!!」

#ふうき

「……。わ、わたしは…………。」

#ナレーション

ふと伸ばした手に水滴が落ちる。

#クラスメイト

「ん?」

「え?」

「お?」

#ふうき

「……水?」

#ナレーション

見上げた空には液体によってゆるやかに揺らめくきれいな青空があった。

#ナレーション

そして迫って来ているように見えた。

#ネネ

「へ?……あぷっ」

#ナレーション

地上で水中に沈んだ。

#クラスメイト

「へぷっ」

「はぷっ」

「こぷっ」

#ふうき

「……。」

#ナレーション

水が外へ流れ出ていく感覚の中。ただ何も考えない一瞬が過ぎて。水が引いた。

#ネネ

「……こはっ?!」

#ナレーション

水中から地上へ。空気が戻ってきた。

#クラスメイト

「ぷはっ?!」

「かはっ?!」

「けはっ?!」

#ナレーション

全員何が起きたのかよくわからなかった。

#ふうき

「……あ。くぜ先生」

#ナレーション

ただ、空を見上げて。そこにいた担任の名を呼んだ。空中に立ちながらどこかを見ていた。

#ナレーション

見ている方を同じように見てみたが。さっきと同じようにふさがれいて見えなかった。

 

 

 

 

#クラスメイト

「お、おい。いったい何があった?」

「何か見えたの?」

「あの水は何だったんだ?」

#ナレーション

観客席からは未だ何が起きたのか確認することができなかった。

#ナカミチ

「おそらく、俺たちが魔動具を使っていることがばれた」

#クラスメイト

「なっ?!」

「いや、まだそうだって決まってないでしょ?!」

「あの大量の水が何だったのかわからないし」

#ナカミチ

「あの水が何だったのかはわからない。おそらく先生が作ったものだと思うが……。」

#クラスメイト

「あの先生は意味もなくあんなことするわけはないだろうし、いったい何なんだ?」

「それになにかその前に悲鳴聞こえてなかった?」

「不安……。」

#ミサキ

「そもそもナカミチ君が魔動具がばれたって何でそう思ったのか聞きたいんだけど」

#ナカミチ

「……委員長の顔が見えた」

#クラスメイト

「……それだけか?」

「ばれたっていうような顔をしてたのか?」

「副委員長が言うとそうかもしれないと思うけど……。」

#さいか

「ナカミチ君にはそう言うだけの根拠があるんですか?」

#ナカミチ

「……。いや」

#ミサキ

「あの中で何があったのかが分かれば違うと思う」

#ナレーション

人ごみは未だに続いていた。それどころか野次馬がどんどんグラウンドへと向かっていく。そんな中スピーカーからアナウンスが流れる。生徒会長のともみさんの声だ。

#ともみ(放送)

「トラブルにより一時1200メートルリレーを中断しています。競技に参加しない生徒は元の場所へ戻りましょう。繰り返します―――」

#ナカミチ

「何が起きた、か。おそらく、くぜ先生が水をつくったのには理由があるはずだ。それは、その何かが起きたためだろう」

#さいか

「……答えが元の位置まで戻ってますよ」

#ミサキ

「他の人はどう思う?」

#クラスメイト

「どう思う?」

「やっぱりなにか悲鳴があったのが気になるけど」

「あとは私たちの事。魔動具の使用がばれているのかどうかという事も」

#ミサキ

「……うーん。そんなところだよね」

#さいか

「………魔動具の使用がばれたらどうなるんでしょうね」

#ナカミチ

「そこは後にする。まず使用が発見されたという事がわかってからにしたい」

#さいか

「ナカミチ君はばれた方がいいと思っていますか?」

#ナカミチ

「そう思ってはいない」

#さいか

「だったら待っていればそのうちわかると思いますよ」

#クラスメイト

「そ、そうか。そりゃあまぁそうだな」

「怖いけど待つしかないか」

「でも……。やっぱりばれてる気がする……。」

#ナカミチ

「それじゃあダメなんだ。間に合わない」

#ミサキ

「まにあわない?何かあるの?」

#クラスメイト

「ナカミチ、何かさっきから変だぞ。なにかばれてるって決めつけてる感じだが」

「不安なの?」

「間に合うとかよくわからないけど」

#ナカミチ

「……それは。そうだ。決めつけだ。誰かの魔動具がばれたんだ。それで周りがざわついた。その後悲鳴が聞こえて……。」

#ミサキ

「くぜ先生が飛び出して行ったのは私が見たよ。その後水を落として降りて行ったけど」

#ナカミチ

「水をつくる理由……。」

#クラスメイト

「なんか見えたのかな」

「問題があって水を落とした?」

「その理由が魔動具だとしたら」

#ナカミチ

「発火……。魔動具から火の魔法が出た?」

#クラスメイト

「なんとなくそれっぽいけど……。」

「だからといってねぇ」

「火の魔法っていうとフレイムだよな?それが出るとどうなるんだ?」

#さいか

「そもそもなぜ火が出るんですか。私たちは重力操作の魔動具を使ったんですよ」

#ナカミチ

「いや、一体型だったはずだ」

#さいか

「では配線を間違えたということでしょうか」

#クラスメイト

「あぁ。なるほど。しかし間違えるほど複雑だったかな」

「絵で取り付け位置を示してたから視覚的にわかりやすかったと思うけど……。」

「それにたぶんだけどみんな最後は実際に動かして確認したはず」

#ナカミチ

「……いや。しかし実際に起こったんだろう。誤作動の可能性もある。だけども大事なのは発火したらどうなるのかということだ」

#クラスメイト

「どうなるっていうと……。」

「それは、周りが燃えるから……。靴が燃える?!」

「それであの悲鳴ってわけか!?」

#ナカミチ

「……そうか。あの悲鳴は機械科の生徒じゃないと起こらない。だから確かにあの悲鳴は靴が燃えた本人のもの」

#ミサキ

「ちょっとまって?機械科の生徒じゃないと起こらないってどういうこと?」

#ナカミチ

「あの時最初に起こったのはただのざわめきだった。靴が燃えた本人は気づいてなかったんだろうけど、靴が燃えているとなったら普通は周りも悲鳴や騒ぎ立てるはずだ」

#さいか

「……でしょうね。でも周りにいた普通の生徒はこの学校の普通科。一般的な普通ではありませんね」

#ナカミチ

「そうだ。この学校では火はまず魔法の火という考えになる。なら普通はこう考えるはずだ。靴が燃えていたら、なんでわざわざ自分の靴を燃やしているんだろう。と」

#ナカミチ

「……そう、彼らにはただ単に変に見えたんだと思う。自分の魔法で自分の靴を燃やしているという風に見えたんだ」

#クラスメイト

「そうか、おかしなことやってる。って感覚なのか」

「それでそのあとに周りの反応で本人が気づいたのね」

「えーっと。それで気付いた本人が悲鳴を上げた?」

#ナカミチ

「そうなるな」

#ミサキ

「まとめるとどうなるのかな」

#ナカミチ

「まず何かが燃えたのは間違いない。しかし普通この場で何かを燃やす必要なんてない。つまり本人が使うつもりのなかった火の魔法が発生した。それがどうやって起こったかと考えた場合、魔動具の誤作動の可能性が高い」

#さいか

「魔動具が動くかどうか確認でもしてたんでしょう。でも魔力を注ぎ込んでも重力操作は起きなかった。そして靴が魔動具として動き続けた結果……。」

#ミサキ

「靴自体が発火……。」

#ナレーション

具体性のある予想は重くのしかかる。ただの予想だと思いたくても、そう切って捨ててはいけないとどこかで思う。悪い予感はそう心に残る。

#ミサキ

「……あ!だれか出てきた!」

#ナレーション

グラウンドで集まっていた生徒たちの中からくぜ先生と背負われている女の子、そして後ろをついていく生徒が1人。風紀さんだと思われる。

#クラスメイト

「あれは……。くぜ先生か?」

「後ろは委員長ね……。」

「じゃあやっぱり……。」

#ナレーション

やはり予想通りだと突き付けられた。

#ミサキ

「ナカミチ君?見えてる?」

#ナレーション

双眼鏡を除くナカミチ君に確認を取る。

#ナカミチ

「くぜ先生と委員長と…………。」

#ナカミチ

「ネネさんが背負われてるのか……。」

#クラスメイト

「ネネさんか……。」

「じゃあネネさんの靴が……?」

「そ、そうよ。靴はどうなってるの?!」

#ナカミチ

「確認してるがまだ見えてない……。」

#ナレーション

はたから見れば女子生徒の足を双眼鏡でのぞ……、いけない。まだ真面目な場面だ。右側は見えているが燃えた痕跡はない。だが未だ左側が彼には見えていなかった。

#ミサキ

「………。ネネちゃんが……?」

#ナカミチ

「……ん?素足?……あ」

#ナレーション

ようやく確認できたが左足には靴も靴下も身につけられていなかった。かわりにネネちゃんを背中に担いだくぜ先生の手に焦げた靴が普通に見えるように握られていた。

#ナカミチ

「あった」

#ミサキ

「……燃えていた?」

#ナカミチ

「ああ。焦げている」

#クラスメイト

「ということは……。」

「予想通り、ね」

「これからどうなるの……。」

#ナレーション

不安に高ぶっていた気分が落ち込んでいく。そしてさらに不安になっていく。

#さいか

「ほんと……。どうなるんでしょうね」

#ナカミチ

「いや。きっとこのままだとそれほど悪いようにはならないんだ。委員長が何とかするって言ったから」

#ナレーション

風紀さんはなんとかすると言って出来ると思われるほうだ。きっとなんとかなるのだろうし、なんとかできるのだろう。

#さいか

「……それはどういう」

 

 

 

 

#くぜ

「……。何があったか説明しなさい」

#ナレーション

水浸しになったグラウンドへ静かに降り立つと地面にへたり込んで何が起こったのかと少し呆けているネネさんたちを見た後、おなじくへたりこんだ風紀さんへ顔を向けながらそう言った。

#ふうき

「これは、その」

#ナレーション

言う事は決めていた。こうなった時にどうするかも決めていた。言えばそれで済む。風紀さんにはもうクラスメイトに迷惑をかけるつもりはなかった。言えばそれで終わる。それでいいと思っていた。

#ふうき

「……。」

#ナレーション

だから彼女は自分が今黙ってしまっているのが許せなかった。

#ふうき

「……っ!」

#ナレーション

どうしても出ない声に怒りを覚えながら彼女は見切りをつけた。態度で示すために勢いよく頭を濡れた地面へすりつけて。そして、ようやく声を出す事が出来た。

#ふうき

「……すいませんでした」

#くぜ

「それでは何もわかりません」

#ナレーション

風紀さんはそう言われた後、急に地面につけていた頭が持ち上がった。彼女の意志で頭をあげたわけではなかったのか、驚いた顔しながらくぜ先生の方へ顔を向けさせられる。強い目つきをしながら手を向ける姿が見えた。

#ふうき

「えっ?き、きゃあっ?!」

#ナレーション

体の表面を暖かい風が流れる。緩やかに感じるが、目には服が強くたなびいているのが見える。

#クラスメイト

「わああっ?」

「な、なにこれぇ?!」

「うわわわっ?!」

#ネネ

「さっきから何が起こってるんですか!?き、きゃあああ!?」

#ナレーション

続けざまに起こっている事についていけないようだった。強い風が顔にあたる。反射的に腕を目の前に上げて風を防ごうとするが防げている気がしない。

#ふうき

「まさか、……これが魔法?」

#ナレーション

こんな事が出来るのは魔法しかないと思った。だが、力の差を感じるとかそういう話ではなかった。

#ナレーション

体を抜けていく暖かな風にただ身を任せるしかなかった。やがて風が止まると濡れていた体、服、髪。そして彼女たちの周りの地面までもが鮮やかな土色を取り戻してすっかりと乾いていた。

#くぜ

「……立ちなさい」

#ふうき

「はい……。」

#ナレーション

もはや言われればそうするしかなかった。他のクラスメイト達も立ち上がる。

#ネネ

「……あっ」

#ナレーション

立ち上がろうとしたが立てないのだろう。力が入らないようだ。わずかに上がった腰がストンと地面につく。

#ネネ

「あ、あれ?あ。待ってください……。あ、あ。いや。立てない。立てないんです。待ってください。い、今立ちますからっ……。」

#ナレーション

試行錯誤して立ち上がろうとするが、足に力が入らないようだった。そうしているとくぜ先生が手を伸ばして近づく。

#ネネ

「ひっ……。」

#ナレーション

くぜ先生はしゃがみこみ、すっかりおびえているネネちゃんの焦げた靴を丁寧に外して焦げてしまった靴下も外して靴の中に入れてしまう。

#くぜ

「やけどやけがはありません。安心しなさい。……立てますか」

#ネネ

「え、えっと……。ごめんなさい。立てません……。」

#くぜ

「そうですか」

#ナレーション

そう言うとちらりと周りに目を向ける。

#くぜ

「しかし、ここにいるのは面倒です」

#ナレーション

様子をうかがうような素振りをする周りに居る他クラスの生徒が思い思いにしゃべってどんどんと近づいていた。興味があるのだろう。

#ふうき

「あのっ!くぜ先生!」

#ナレーション

くぜ先生はしゃがんだまま何の反応も返さない。

#ふうき

「その靴には魔動具が埋め込まれています!今回の体育祭に勝つために私がみんなにそうするように指示したものです!」

#ナレーション

そう言うと周りの生徒たちは一斉にしゃべりあう。ここで何が起こったのか。大体の予想がついたと。彼らの中で結論が出たのだ。欲しかった情報に一斉に互いに予想をしゃべり、もはやその声は大きくなる一方で、

#くぜ

「静かにしなさい!!」

#ナレーション

一瞬、ざわめきが落ち着く。

#くぜ

「……。彼女を保健室まで連れて行きます」

#ナレーション

そう言ってくぜ先生はネネちゃんの腕を背負い、持ち上げてそのまま背中に担ぐ。

#ネネ

「……すみません」

#ナレーション

消え入るような声で言う。

#くぜ

「そんなに謝らなくてかまいません。それにもうあなたが謝る必要もありません」

#ナレーション

そう言って歩き出す。

#くぜ

「道を開けなさい」

#ナレーション

未だに周りを取り囲み続けている生徒にそう告げる。目線の先の生徒たちがあわてて身を引くがその周りにも生徒たちがいるせいでゆっくりと道が開く。

#くぜ

「……風紀さんついてきなさい」

#ナレーション

ぽつんと立っていた風紀さんはそのまま何も言わず、言われるままに後ろへ続く。

#クラスメイト

「あ、あの。くぜ先生。俺たちはどうしたら」

「こ、ここにいればいいんですか?」

「ど、どうすれば」

#ナレーション

ただあわてるしかない。なにか出来る事もない。なにかした方がいいのだろうか。なにかしたいのかもしれない。する事があった方がいいのかもしれない。することはなにも思いつかない。

#ナレーション

くぜ先生はゆっくりと振り向く。

#くぜ

「何もなければ別の指示があるまでそこにいなさい」

#ナレーション

そう言うと背を向けて歩いて行った。

 

 

 

 

#ナレーション

くぜ先生たちが校舎内へと入っていき、姿が見えなくなる。観客席にいるナカミチはそれを最後まで見届けるとクラスメイトの方へ振り向く。クラスメイトのほとんどが不安さを顔に出していた。

#ナカミチ

「委員長はなんとかすると言ってた」

#クラスメイト

「な、なんとかできるのか?」

「言ってたって……。なんでわかるの?」

「何か見えたの?それならわかるけども……。」

#ナカミチ

「いや、今じゃない。もっと前に。体育祭が始まるよりも前に。委員長はそう言っていたんだ」

#ナカミチ

「そしてきっとそのずっと前からそう思ってたんだと思う……。」

#クラスメイト

「じゃあ委員長はこうなった時の事を考えてたのか」

「じゃあ準備はしてたってこと?」

「あ、じゃあそんなに心配しなくても大丈夫ってわけね。多分だけれど……。」

#ナレーション

少しの安堵感がクラスメイトに広まる。それは伝染するかのように。そうであってほしいという逃避かもしれない。願望は思考を固まらせてしまう。

#クラスメイト

「でもどうやって?どうにかできるものなのあれ?」

「……まさに混乱状態だな」

「もはや大事よね」

#ナレーション

視線はグラウンドで未だに乱雑に集まっている生徒の集団を見つめる。

#さいか

「あれはどうにかなるでしょうね。……ですけど起こった事はどうにかできる事ではないと思います」

#ナレーション

グラウンドを見ながらそう告げる。

#さいか

「それにその規模は大きくなっています。先生たちも動き始めているようですし」

#ナレーション

すでにスピーカーからは生徒会長のともみさんの声は無く、おそらくは教師であろう声が響いており元の整列をするようにという旨を言っているようだった。

#ナカミチ

「いや。規模が大きくなっているというよりも正確な深刻さに近づいてきたんだろう」

#ミサキ

「そう考えるべきだとして、これはもうどうにかできることじゃないよ。風紀さんはこれをどうするつもりだったの?」

#ナカミチ

「いや。それは聞いていない」

#クラスメイト

「聞いてないのか」

「聞いてないとわからないよ……。」

「結局分からないのね……。」

#ナレーション

彼は聞いていたはずだった。

#ナカミチ

「俺は頼まれただけだ。後のことを」

#ナレーション

風紀さんが、私がしたことにしてね。と言った言葉を。

#ミサキ

「後のことって。……それって全部責任を取るつもり?」

#ナカミチ

「ああ。きっと風紀さんはそのつもりだ」

#ナレーション

だからこれは彼のわがままと言えるかもしれない。彼の願いと言えるのかもしれない。

#クラスメイト

「全部責任をとるって……。」

「そりゃあ風紀さんが言い始めた事だけど」

「全部の責任を持つのはおかしいんじゃない?」

#さいか

「そうでしょうか。彼女が責任者と考えれば決しておかしな話ではないと思います」

#ナレーション

立案も進行も風紀さんだった。立場だってクラスのトップである。だが全部背負えと言う事は誰にもできないはずである。

#クラスメイト

「責任者、って」

「それは委員長がかわいそうだよ」

「なんとかしてあげられないの?」

#ミサキ

「……なんとかしてあげられないかとか、かわいそうとか。さっきまでとずいぶん態度が違うんじゃない?」

#さいか

「ミサキさん……。」

#ミサキ

「さっきまでなんとかなって欲しいとか。いや、今だってなんとかしてって。それを風紀さんが引き受けてくれるっていってるんだよ」

#ミサキ

「それがいやだっていうの?」

#ナレーション

自分の手が汚れるのがいや。他人の手が汚れるのもいや。他人の手を汚したと思うのがいや。普通そう思うものだ。

#クラスメイト

「そ、そりゃあ嫌に決まってるだろう」

「そんなことしてほしくないよ!」

「委員長1人で背負う必要なんてないし!」

#ミサキ

「じゃあどうするか考えないと!」

#ナレーション

嫌だと言うならそうするしかない。そのままだと後悔するなら違う事をしなくてはならない。それでも違う事をするというのはとても難しい。今までした事がない事をするのだから。やり方すらわからない。

#さいか

「そうですね。その通りだと思います。でもそれならきっとこのままでも大丈夫だと思います」

#ミサキ

「えっ?大丈夫って」

#さいか

「どう考えてもこの事態を風紀さんがどうにかするのは無理だと思います。ですからみんなで責任を負うならこのままでもいいんです」

#クラスメイト

「た、たしかに今はこの事態をどうにかしようと考えているわけじゃないから」

「何もしなくてもいい、というわけね。そうしたら全員怒られる、と」

「ちゃんと責任を受け止めるって決めたらそれだけの話なのね」

#ナレーション

打算的でも誰かのために受け止めることにしたならきっと大丈夫だろう。大事なのはちゃんと反省することだ。

#ナカミチ

「いや。それじゃダメだと思う」

#さいか

「……なぜですか」

#ナカミチ

「きっと委員長はなんとかする」

#さいか

「そのなんとかってなんですか?出来るわけないです。こんなこと、たった1人で背負えるわけがありません」

#ナカミチ

「それは風紀さんなら、委員長なら出来ると俺は思うんだ」

#さいか

「い、いえ。無理です。きっと風紀さんが多く責任を負う事にはなるはず……。でも、何もかも私たちの分まで負う事なんて……。できるわけが、できるはずがありませんっ。そ、そうでしょう?!」

#クラスメイト

「えっ?!そ、それはまぁ」

「そうよね……。でも……。」

「もし。もし、できたら……。」

#さいか

「っ!」

#ミサキ

「……あっちゃいけないことだよね」

#ナカミチ

「全部、委員長に背負わせるわけにはいかない」

#クラスメイト

「そうだな。委員長がそれを出来るかできないかじゃないんだな」

「そうなっちゃいけない」

「なんとかしないと」

#ナレーション

何とかしなければならない。何も思いつかない。何とかしようとした。その想いで救われるだろうか。望まれていない想いで救えるだろうか。

#ナカミチ

「委員長……。」

#ナレーション

ナカミチ君は風紀さんたちが入った校舎を見る。どうにかしたい気持ちだけが大きくなっても、どうすればいいのか何も出てこない。

#???

「――!」

「―――!」

「――――!」

#ナレーション

彼はどこからか声をかけられているのを感じた。グラウンドの方だろうか。周りのクラスメイト達もグラウンドのほうを見る。誰かが駆け寄ってきていた。リレーに出る予定だったクラスメイト達である。

#クラスメイト(リレー参加者)

「おーい!みんな!ナカミチ!」

「大変なの!このままじゃ!」

「これ全部委員長のせいになっちゃう!」

#クラスメイト

「そっちもその結論に達したのか!」

「どうするかって今話してたのよ!」

「けどまだ何も思いつかない!」

#ナレーション

そのまま合流する。

#クラスメイト

「どうするかってなんだ?!」

「委員長が罪を全部引き受けようとしてるのよ!」

「……どういうことだ?」

#クラスメイト

「どういうことって。だから委員長のせいになっちゃうのよ!」

「だからこっちもそうなりそうだったから戻ってきたんだが……。」

「その解決策をはなしてたんだ」

#さいか

「……な、なんで全部風紀さんのせいになるっておもうんですか?」

#ミサキ

「え?それは風紀さんならそうしかねないって」

#さいか

「それはこっちの話です……。それに根底はナカミチ君が風紀さんの行動を予測したからです。こちらだって本当はただの予想のはずです……。」

#クラスメイト

「な、なんだそれ?」

「こっちは委員長がこの騒ぎを全部自分のせいにするつもりだと話していたんだが……。」

「こっちは全部委員長のせいになりそうだったからあわてて知らせに……。」

#ナカミチ

「ずれてる……。いや、進んでる……!」

#ミサキ

「進んでる……?えっ?あっ!ほんと!」

#クラスメイト

「進んでるってなんだ?」

「えっと。多分……。あれじゃない?委員長の責任になり始めてるって」

「こっちで話してたのよ。こんな規模のことを委員長が全部の責任を負えるわけないって」

#さいか

「それがそちらではこのままだと風紀さんのせいになるって。なぜです?こちらではまだ、かもしれない。という話でしかなかったのですけども……。」

#クラスメイト

「い、いや。こっちだって絶対ってわけじゃないぜ?!でもまわりがそう言うもんだから!」

「他クラスの生徒たちの間でうちのクラスの委員長が無理やりさせたって!」

「私たちも賛成したって言ったのに!間違ったうわさしか広まらない!」

#ナカミチ

「……。そうか」

#ナカミチ

「そのうわさ、最初に広めたのは委員長だ」

#クラスメイト

「はぁ?!い、いやいや!委員長はうわさが広がる前にくぜ先生とどこかに行ったぜ?!」

「多分保健室だと思うけど。確かにもういなかったわ」

「その後戻ってきたりはしていないと思うが……。」

#ナカミチ

「委員長自身が広め続ける必要はないんだ。最初に委員長がさせた事だと、そう周りに思い込ませれば後は勝手に広がるんだ」

#さいか

「うわさ……ですか」

#ミサキ

「それで勝手に広まったって言うの?!じゃあこれが風紀さんの作戦?!」

#ナカミチ

「そうなる。一度広まれば訂正するのも難しい。現に出来ていない……!」

#クラスメイト

「そ、そんな」

「そこまで委員長は考えてたの?」

「なんでそこまで……。」

#ミサキ

「それが……、そこまでが自分の責任だって思っているんだよ……。」

#さいか

「ですが結局どうやったのかわかりません。それに風紀さんが広めたのかどうかも予想です。結局わからない状態ですね……。」

#クラスメイト

「……ひょっとしてあれ、あれじゃないか?委員長言ってただろ!」

「あ、あれ!そうよ!言ってたわ!私が指示した、って!くぜ先生に!」

「それが本当は周りへのアピールというわけか……。」

#ナカミチ

「……これでわかったな」

#ミサキ

「うん……。だけどそれがわかったのはよかったのかもしれないけど。なにも解決策が出ないよ……。」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

解決策は未だ出ない。しかし終わりは近づいて来ていた。

#ともみ(放送)

「グラウンドに居る生徒にお知らせします。競技の中止が決定されました。各自、教師の指示に従い各クラスの観覧席まで戻ってください。繰り返し―――」

#ナレーション

時間は進んでいく。

#ミサキ

「……ねぇナカミチ君。今、解決策が出なかったらどうなるの?」

#ナカミチ

「……委員長に責任が行く。それで事態が収まる」

#ミサキ

「それで急いでたんだね」

#クラスメイト

「急いでた?」

「あなたたちが戻ってくる前から何があったのか話してたの」

「ナカミチ君は何があったのか早く知りたがってたんだけど」

#さいか

「風紀さんが何か行動をおこす前に私たちを説得したかったんですね」

#クラスメイト

「どういうことだ?」

「俺たちにも罪をかぶって欲しかったんだろ」

「委員長が罪をかぶる前にな」

#ナカミチ

「……結局委員長の方が何もかも早かったけどな」

#ナレーション

彼は苦笑する。

#ナカミチ

「でも何とかするしかない」

#クラスメイト

「そのとおりだな」

「そうよね……。」

「後は方法だけ……。」

#ナカミチ

「そう。もうそれだけなんだ……。」

#ナレーション

それが一番大変でも、ここまで来れた。だからもうたったそれだけ。

#クラスメイト

「そ、そうだ!直接先生に言えばいいんだよ!」

「全員でやりました、って?確かにそれいいかも。他の生徒にも伝えて回ろう!」

「それで済めばいいんだがな……。」

#さいか

「それでは足らないと思います……。もうこれは風紀さんとの勝負でもあるんですよ……。」

#ミサキ

「あっ、そっか。この後も風紀さんが何かする可能性があるんだもんね。それを考えたら普通の案じゃなんていうか……、こわいね。なんとかできそうに思えない」

#ナカミチ

「だけどもそれぐらいしか考えつかないんだ……。それでやるしかないかもしれない」

#クラスメイト

「しないよりした方がいいもんな……。」

「それにみんなで本当の事を言うんだから委員長でもどうにかできないはず」

「まぁそりゃあ普通そうだろうが……。」

#さいか

「だめでしょうね」

#ナカミチ

「さいかさん……。」

#さいか

「うわさなんて面白い方が広がるんです……。それに先生たちがこちらの言い分を受け取る可能性だってわからないんですよ……。」

#クラスメイト

「そ、そんなのやってみなきゃ分からないぞ!」

「それにちゃんと説明すればわかるはずよ!」

「……いや、まさか」

#さいか

「私たち全員のせいにするのと1人のせいにするの。どっちが楽だと思いますか?」

#クラスメイト

「な、何の話だよ……。」

「楽って、楽って何……?どう言う事?」

「教師の立場に立って見ろということか……!?」

#ミサキ

「……クラス全員が企てた事よりも1人の生徒の計画だったという事の方が学校として都合がいい。……そういうこと?」

#さいか

「……ええ。そうなると私は思います」

#クラスメイト

「いや、そんなわけないだろ!そんなわけないよな?!」

「き、聞かれてもわからないわよ!」

「そうだな……。」

#ミサキ

「それはもう信じるしかないことだよ……。」

#さいか

「そうかもしれません。ですが考えておかないといけません」

#クラスメイト

「そ、そんなこと言ったって」

「む、無理だろ……!」

「俺たち全員で言うんだぞ。もみ消せるわけがない。と思うが……。」

#さいか

「……だれが責任を取るかという話です。私たちも加担したからと言っても学校側が責任を取らせようとした時、人数は少ないほうが都合がいいでしょうね。それこそ指示した人ですとか」

#クラスメイト

「そ、そんな馬鹿な話……。」

「け、結局無駄になるの……?」

「じゃあどうすれば。わからないよ……。」

#さいか

「……風紀さんが自分が指示したことを言わずに、周りの生徒たちが今信じている噂をなくす……。」

#ミサキ

「それができなきゃ助けれない……。」

#さいか

「風紀さんが助けようとする手を振り払っていますから、さらに簡単ではないと思います」

#ミサキ

「じゃあ、風紀さんへの説得も必要……。」

#ナカミチ

「委員長がいまさら態度を変えると思えない」

#ミサキ

「でもそうしないといけないんだよ?!」

#クラスメイト

「説得は必須の気がするな……。」

「いる場所は多分保健室だろうけど……。もしくは職員室かも。きっと先生と一緒に居るわ」

「なら分担がいいと思うぜ?ナカミチは委員長を、俺たちは他を説得する」

#ナカミチ

「……。」

#ミサキ

「それしかないか……。」

#さいか

「もう時間もなさそうです」

#ナレーション

グラウンドで固まっていた生徒たちは徐々に教師の指示のもと落ち着きを取り戻していた。落ち着きさえ戻ればすぐに生徒たちは観覧席へと戻り、おそらくそのまま閉幕式へと動いて行くのは予想がついた。

#さいか

「……。ナカミチ君、いいですね?」

#ナカミチ

「……。うん」

#さいか

「では一斉に動きましょう。ナカミチ君と私は先生方と委員長への説得に行きます。……そうですね。どうせならまず私たちは校長先生に話をしに行きましょうか。ミサキさん」

#ミサキ

「私は他クラスへ説明をしに行くね。人手は、半分づつがいいかな」

#さいか

「そうしましょうか。そちらのほうが忙しいと思いますが、先生方への説明のほうが重要度は高そうですし。……。じゃあ行きましょうか」

#クラスメイト

「せ、精一杯やるけどよ。正直指示はくれないと動ける気しないぞ」

「なさけない事言わないでよ」

「いや、正しい判断だろうな。俺も動ける気がしない」

#さいか

「その辺はなんとか指示します。そちらはミサキさん。お願いします」

#ミサキ

「うん。まかせてよ。やったことないけど」

#さいか

「こんなことやったことあったら驚きます……。」

#ミサキ

「いや、人に指示するという事自体がね?」

#さいか

「私だって……。」

#クラスメイト

「普通ないよそんなこと」

「委員長ぐらいでしょ慣れてそうだったの」

「リーダーシップというかなんていうか」

#ナカミチ

「あれは巻き込んでるだけだよ」

#クラスメイト

「確かに」

「副委員長がいうと重みがあるわね」

「一番最初に巻き込まれた奴だもんな」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

まわりが苦笑いではあるものの少し笑顔が戻る。しかし、ナカミチ君には余裕がないらしくその表情は未だに固い。

#ミサキ

「ほら!しっかりして!ナカミチ君が号令を出すんだよ?」

#クラスメイト

「まぁ委員長がいないとそうなるか」

「委員長の声はよく聞くけど副委員長はおとなしいから。あれね。レアな感じ」

「まぁあんま聞かないな」

#ナカミチ

「別にいいだろ……。」

#ナレーション

レアではあるがついさっきの応援で叫んでいた。印象に残らなかったらしい。まぁ仕方ない。

#さいか

「ではナカミチ君の号令とともに一斉に開始と言う事で。……お願いします」

#ナカミチ

「……。」

#クラスメイト

「……大丈夫だろうか」

「もう言ったって仕方ないだろ」

「そうだな……。」

#ミサキ

「……ナカミチ君?」

#ナレーション

ピクリとも動かない。が、表情は険しい。

#ミサキ

「……もう本当に時間はないよ。特に風紀さんが動き始めたらどうなるかもうわからないっていうのは、きっと正しいと思う」

#ナカミチ

「ああ」

#さいか

「ナカミチ君。どうするんですか。私はあなたが風紀さんを助けたいというなら今のこの状態を逃してはいけないと思います。ナカミチ君があの委員長を助けたいというなら。私も手伝います」

#ナカミチ

「……わかった」

#ナレーション

そういって1つ深呼吸する。

#ナカミチ

「……クラスメイトに号令をかけるの初めてだな」

#クラスメイト

「委員長がやってたもんな」

「しっかり頼むぜ」

「いつもと違うとなんか引き締まる」

#ナカミチ

「責任が重たいな。……。」

#ナレーション

そう言って彼の顔にも苦笑の笑顔が出る。が、そのまま固まる。

#さいか

「ナカミチ君。号令を」

#ナカミチ

「……なぁ。俺が号令したら全員が一斉に動くんだよな?」

#クラスメイト

「ん?まぁそりゃそうだろ?」

「言い方が引っかかるが……。」

「なんか権力に取りつかれた人みたいな言い方」

#ナレーション

ナカミチ君の顔が一気に険しくなる。だが、なにか落ち着きがないようだ。

#さいか

「いまさら何を……?」

#ナカミチ

「目立つよな」

#ミサキ

「そりゃあまぁ」

#ナカミチ

「それって目に付くよな」

#クラスメイト

「目に付くってなんだ?」

「なんだ?はおかしいでしょう。目立つんだから目に付くでしょうね」

「……周りの生徒はもちろん先生方も気づくと思うが」

#ナカミチ

「噂は面白いほうが広がると言ってたな?」

#さいか

「は?え、……えぇ。本人たちにとって面白いほうが支持され取捨選択されるものだと思います」

#ナカミチ

「さ、作戦変更だ」

#ミサキ

「えっ」

#ナカミチ

「俺たち全員で一斉に逃げる」

 

 

 

 

#ふうき

「…………。」

#ナレーション

そのころ保健室。ベットで上半身だけ持ち上げて座りこむネネちゃん。その横でくぜ先生がパイプいすに座っている。その横に同じように座る風紀さん。全員が終始無言である。が、無表情の座ってる2人に比べ、ネネちゃんはその無言に耐えきれなさそうである。

#ナレーション

ベッドの周りはカーテンでとじられており、そこに無表情で押し黙る2人がいれば居心地は悪くて当然だろう。

#ネネ

「あ、あの。本当に私は大丈夫です。ですから先生も委員長も戻られてください」

#ふうき

「……ごめんねネネちゃん。そうだね。そろそろ体育祭も残念だけど終わっちゃうみたいだし。閉会式が終わったらまた来るよ」

#ネネ

「い、いえ。こうなったのは自分自身のせいですし。……もういいです」

#ふうき

「……。それはネネちゃんのせいじゃないよ」

#ナレーション

そう言って立ち上がる。と同時に強い口調でくぜ先生が言葉を挟んできた。

#くぜ

「まだここにいなさい」

#ふうき

「……。」

#ネネ

「あ、あの先生?先ほどから言っていますがもう本当に大丈夫です。なんでしたら私ももう歩けます」

#ふうき

「保険の先生も外傷は無いし歩けるようになったら問題ないとおっしゃってましたね」

#くぜ

「本日来ていただいている校医の方がそうおっしゃられるなら間違いは無いでしょう」

#ふうき

「そうですね。一緒に聞かれていましたから」

#くぜ

「その取ってつけたような敬語をやめなさい。敬語を使いたくないなら使わなくて結構」

#ふうき

「……先生のおっしゃる事は出来る限り従いたいんですけどね」

#くぜ

「その結果がこれですか」

#ナレーション

そう言い放たれて風紀さんは黙るしかないし、ネネちゃんに至っては泣き出しそうな顔だ。

#くぜ

「……ネネさん」

#ネネ

「はい……。」

#ナレーション

悲しそうな声だった。

#くぜ

「一度落ち着いて冷静に考えてみてください。……今回のこの騒動。誰のせいですか?」

#ネネ

「それは。……。」

#ふうき

「その責任は」

#くぜ

「黙りなさい。あなたには何も聞いていない」

#ナレーション

そう言われて押し黙る。その言葉に風紀さんは委縮するしかなかった。

#ネネ

「……私たち全員です」

#くぜ

「そうですね。クラス全体の責任です。だから自分だけを責めるのは間違っています」

#ネネ

「……。」

#くぜ

「返事は?」

#ネネ

「は、はい!」

#くぜ

「……風紀さん」

#ふうき

「なんですか」

#くぜ

「あなたが何を考えていようとそれが事実です」

#ふうき

「へぇ。で、それがなんですか?何を考えていようとね。もう私が動く理由はありません。まぁ何を考えているかは私もわかります。でももう全部終わりました」

#くぜ

「何を考えているかなど私にもわかります。それを判断するのはこちら側です」

#ふうき

「……ふふふ。そうですねぇ」

#ナレーション

口元だけ笑う風紀さんと冷たい表情のくぜ先生。そこに一緒に居るネネちゃんはどんな気持ちだろうか。先ほどとは違う不安感を抱いている事だろう。

#くぜ

「ん?」

#ナレーション

くぜ先生が視線を動かす。ベッドを囲う締め切ったカーテンの外を気にしているように見える。

#くぜ

「2人ともそこで待っていなさい。ネネさん。風紀さんが外に行こうとしたら伝えるように」

#ネネ

「は、はい!」

#ナレーション

その言葉が言われると同時にカーテンを閉めて出て行った。保健室内にはいるようである。

#ナレーション

だがまぁそれよりも残された2人は押し黙ったままである。もっとも3人の時も黙りきってた時間の方が長かったと思われるが。

#ネネ

「み、みなさんどうしてるでしょうね」

#ふうき

「さぁ。知らない」

#ネネ

「……。」

#ふうき

「……。」

#ナレーション

どっちの方が心に応えてるのかわかったものではない。風紀さんは勝手に自分を追いつめているだけではあるが、そっちの方が精神上応えたりするものだ。本当につらい思いをしているほうが優しくなれたりする。

#ネネ

「……。」

#ナレーション

目およがせ始めた。いたたまれない。

#ふうき

「心配いらないよ。後のことはナカミチ君に任せているからね」

#ネネ

「後のこと?副委員長にですか?不安な気がしますが」

#ナレーション

ひどい言われようである。だが仕方ない。ここまでクラス行事の実務などはほとんど風紀さんが担当していたのだ。ナカミチ君の評価が上がるのはここからである。と言ってあげるべきだろうか。別にいいか。

#ふうき

「そう思うよね。あんまり存在感ないし」

#ネネ

「そうですか?そうは思っていませんが……。」

#ふうき

「あれでなかなか私並みに気が付くほうみたいだし。みんなで手助けしてあげてよ」

#ネネ

「別に手助けするのはいいんです。こういう怒られるようなことでもなければ」

#ふうき

「その辺はまだわからないかな。……まだっていうのももうおかしいか」

#ネネ

「大体まず委員長が手助けしてあげたらどうですか。彼も委員長のことでだいぶ苦労していると思います」

#ふうき

「彼も、か。迷惑かけたね」

#ネネ

「えっ?あ、いや。そんなつもりで言ったわけでは」

#ナレーション

また静かになる。聞こえるのは外からの喧騒のみだ。

#ネネ

「……騒がしいですね」

#ふうき

「そう、だね」

#ナレーション

カーテンの外で、同じ室内で何かをはなしているくぜ先生の声より窓の外から聞こえてきているのであろうグラウンド側の声のほうが大きく聞こえていた。

#ふうき

「……………騒がしすぎる」

#ネネ

「そうですね」

#ナレーション

何気ない顔で窓側のカーテンを見るネネちゃんと違い、風紀さんの表情は曇っていく。するとくぜ先生がカーテンを開けて入ってきた。

#くぜ

「外の状況がわかりました」

#ネネ

「そ、そうですか」

#くぜ

「……私も他人というのを過小評価しがちですね」

#ネネ

「えっと。何かあったんですか」

#くぜ

「私たちのクラス。逃亡したようですよ」

#ネネ

「……えっ」

#ふうき

「…………。」

#ふうき

「………………。」

#ふうき

「――――――――――。」

 

 

 

 

#ナカミチ

「俺たち全員で一斉に逃げる」

#ナレーション

彼は1つの答えを出した。

#クラスメイト

「な、に?」

「今さらなにを……。」

「り、理由は何なんだよ?」

#さいか

「今さら怖気づいたわけではないと思いますが……。」

#ナカミチ

「その怖気づいたふりをするんだ」

#ミサキ

「怖気づいたふりっていうのは、あれかな?ば、ばれた!怒られるの嫌だ!逃げる!自分のせいじゃない!っていうなさけない感じの」

#ナレーション

身振り手振りを交えて行動してくれた。それはもう、とてもかわいい感じだった。

#ナカミチ

「……う、うん。まぁそんな感じというかそのまんまの感じだけど」

#ナカミチ

「つ、つまりだな」

#ナレーション

仕切り直した。

#ナカミチ

「全体にアピールするんだ。俺たち101組が、機械科がだれに責任があるかということでもめて崩壊した。……とな」

#クラスメイト

「ま、まさに今の真逆だな。正気じゃない」

「しかし本当になぜそんなことを。……そうか、ついにおかしくなったか」

「委員長に目をつけられるぐらいだし劣らず変な奴なんだろうと思っていたけどな……。」

#ナカミチ

「劣っているぐらいに常人だし、おかしくなってないし、正気だ」

#ナレーション

自分がどう思われているのか。わからないものである。これを機に己が内面にでも向き合ってみてはいかがか。正当な評価だったと思いなおせるかもしれない。違ったら違ったで儲けものだろう。

#ナカミチ

「つまりだな」

#ナレーション

仕切り直した。

#ナカミチ

「狙いは他クラスが持っている噂の情報を上書きする。そして先生たちには俺たち全員を印象づけてもらう。そのためにもう一度大騒動を起こすんだ。たちの悪い大騒動を」

#さいか

「……っ。確かにそれなら」

#クラスメイト

「つまりどういうことだ?」

「新しく噂を流布して前の噂をかき消すということだろうか?」

「噂としてどっちのほうがエンタメ性があるか。ということだと思うが……。」

#さいか

「そうです……。これは人の悪癖を突いています……。きっとより醜悪な噂の方が広まると思います」

#ミサキ

「それがクラスの崩壊……。責任を逃れようとした生徒たちの逃亡……。」

#さいか

「そして、もう1つは人の善性をついているんだと思います……。風紀さんの印象を、彼女を傲慢な指導者から見捨てられた指揮者へ間接的に貶めるんです」

#クラスメイト

「貶める……。哀れな存在にする……か」

「むしろ保護をしなければならないと先生たちに思わせるのか」

「またよくもまぁそういう事を考えつくもんだ」

#ナカミチ

「……あとは全員問題児になるというのが大事だ。全員同等の問題児になることで責任を分散させる、と」

#ミサキ

「問題を大きくすることで私たちが責任を負う理由ができる……。いける。いけるよ」

#クラスメイト

「現実味が出たな。いや、勝ちの目が見えた、か。余計緊張してきたな」

「体育祭はおそらく負けた。けどこれは負けるわけにいかない……。」

「まったくだ。譲れねーな」

#ナカミチ

「……俺たちが責任を負う、こうなる事をきっと委員長は望んでいないと思う」

#クラスメイト

「こうするのが1番いいんだろう?」

「じゃあやるべきね。なんかやらないと後悔しそう」

「このあとが大変そうだけど、大変になってから考えることにする」

#ミサキ

「……うん。じゃ、始めよ!」

#さいか

「今度こそ合図。おねがいします」

#ナカミチ

「……みんないい奴らだな」

#クラスメイト

「……は?い、いきなりなんだよ」

「そうかなぁ?」

「そうだろうな」

#ミサキ

「うん!あたしもそう思うよ!」

#さいか

「……。そう、ですね」

#ナレーション

もう心配することは何もなかった。ナカミチ君が最後の合図を始める。

#ナカミチ

「カウント……いくぞ。3…、2…、1…。」

#ナレーション

そして全員が助けるために逃げ出していった。

 

 

 

 

#ネネ

「逃げ…た?」

#くぜ

「正直驚きました。考えついた事もそうですが実行する行動力、」

#ふうき

「―――。」

#ナレーション

スッと風紀さんが動く。

#くぜ

「……。」

#ナレーション

が、その動きは椅子から立ち上がったところで止まる。

#ふうき

「……。今すぐ解放してください」

#ナレーション

視線をくぜ先生へと向ける。口調はやさしいが目つきは教師へ向けるべきものでは到底なかった。

#くぜ

「何を言っているかわかりませんが」

#ふうき

「私にかけている重力操作を切れと言っているんです」

#くぜ

「何もしていません。何か私が使っている証拠でもありましたか?」

#ネネ

「まさか……。」

#ナレーション

おそらくはくぜ先生が風紀さんを魔法で動きを止めているのだろう。それを知るすべはないが。

#ネネ

「―――!きゃあ!」

#ナレーション

ベットから飛び上がり走りだそうとして、おそらく妨害されたのだろう。ベッドの上で固まっている。はっきり言ってかなり間抜けな形で固まった。

#ネネ

「あ、ありえない。いくらなんでも触れてもいないものを。こんな……!」

#ナレーション

操作できるわけがないと言いたいのだろう。それも行動を阻止するという精密な事を。

#くぜ

「誰もかれもすぐに行動に移す……。素晴らしい事です。が、その前に自分の事を省みるべきです。自己犠牲が過ぎています。……あと触れていないわけではありません。床を通じて魔力を通しています」

#ネネ

「そもそも重力操作を人に直接かける事が出来るなんてなんて聞いた事がありません……。」

#くぜ

「力の格が違います。私からしたらあなたたち機械科も普通科も同レベルにしか見えません」

#くぜ

「ですが……。私も2人同時に動きを止めておくのは5分も無理でしょう。特にネネさん。あなたの姿は思わず笑ってしまいそうです」

#ナレーション

くぜ先生の笑う顔はレアだろう。どっかの主人公の大声のレア度とは格が違う。ぜひ見たいものだ。

#ネネ

「えっと。そんな変なポーズですか。自分では見えませんけど」

#ナレーション

表現しがたいが無理やり表現するなら登校中の食パンを加えたヒロインの少女が曲がり角で主人公の男の子と追突する直前のような。もう少しいい表現は無かっただろうか。

#くぜ

「まずは私の話を聞きなさい」

#ナレーション

そう言うと同時にネネちゃんはベットの上にトスッ、と尻もちをついた。おそらく魔法による拘束が解かれたのだと思われる。

#ネネ

「きゃっ……?あ、自由が」

#ナレーション

目線を風紀さんの方に向けるが彼女はまだ拘束を解かれていないようだった。

#ネネ

「えっと。話し……ですか?」

#くぜ

「そうです。あなたが出て行こうとした理由はクラスメイトへの説得のためと思いますが。正確にいえば風紀さんを守るため、ですね」

#ネネ

「…………別に庇おうとは思っていません。ですがこれは私たち全員の責任です!」

#くぜ

「ですがそう思っていない人が1人います」

#ネネ

「ええ。ですから話をしに……。1人?」

#くぜ

「そこで突っ立っている子だけです」

#ネネ

「突っ立っているのは先生のせいですよね……。」

#ナレーション

つっこむべきはそこではなかった。

#ネネ

「………えっ?」

#ナレーション

気付いた。

#くぜ

「風紀さんはここに来る前にグラウンドで、私がみんなに指示しました。という風な事を言いました。すべての罪を1人で引き受けるつもりでしょう」

#ネネ

「そ、そうなんですか……?」

#ふうき

「まさか。そこまで思ってないよ」

#くぜ

「彼女の言葉は聞き流しなさい。今も何か企んでいるはずです」

#ネネ

「わ、わかりました」

#ふうき

「……。」

#くぜ

「外に居るクラスメイト達は今、他クラスで流れているうわさを塗り替えています」

#ネネ

「うわさ?」

#くぜ

「この騒動は風紀さんが引き起こしたものだ。といううわさから、機械科が引き起こしたものだ。というものへ、です。その為に目立つ方法として全員が責任を放棄した。問題をおこした生徒たちが責任を逃れるため逃げたという行動をとりました」

#ふうき

「それは考え過ぎですよ。正直そんな事をする奴らだとは思えま、―――ぐっ?!」

#ナレーション

急に言葉を詰まらす。

#くぜ

「先に同じことを言ったと思いますが素晴らしかったです。そう思うのが正しいかは私にも判断できません。ですが理由があってもあなたがけなすべきことではないでしょうね」

#ネネ

「先生。や、やりすぎでは……」

#ナレーション

おそらくはネネちゃんが察しているように風紀さんが急に黙ったのはくぜ先生の仕業であろう。強制的に口でも閉めさせられたのではないだろうか。

#くぜ

「……。」

#ふうき

「いやはや。不思議な体験でした。急に体が動かなくて。何故か足はいまだに動きませんが」

#ナレーション

ある程度動けるようになったらしい。自由とはかくも素晴らしいものだとこういう時にわかるのだろう。

#くぜ

「でしたら座ればいい」

#ふうき

「あー。まったくですねー」

#ナレーション

にこやかにそう言って後ろにある椅子に腰を下ろす。あきらめたように見えるが、どうせあきらめていないだろう。

#ふうき

「ちなみに足はどのくらいで動きますかねー」

#くぜ

「緊張で筋肉が固まってたりするんでしょう。最大2時間ぐらい様子を見ていなさい」

#ふうき

「……そーですか」

#ナレーション

先は長かった。

#くぜ

「ですが彼らの逃亡など本来必要ありません。噂などで指導内容が変わるなどありえない。指導する項目が増えただけ」

#ナレーション

そう話しているとカーテンの外から小さな声が聞こえた。

#ともみ

「カーテン越しに失礼いたします。生徒会長の寿ともみです。くぜ先生へご相談したいことがあり至急うかがわせていただきました」

#ネネ

「生徒会長……?」

#くぜ

「……。わかりました。保健室の外で少し待っていてください」

#ともみ

「ありがとうございます」

#ナレーション

そういってカーテンの外から気配が消えた。

#くぜ

「用事が出来ました。しばらくはここにいるように言っておきますが、適当なタイミングで自由にしていただいて構いません。では」

#ナレーション

そう言ってくぜ先生は去っていった。残っているのは2人だけだ。

#ネネ

「……。」

#ナレーション

風紀さんはうつむいたまま動かない。ネネちゃんは風紀さんを見てとりあえず何か声をかけるべきかどうかで迷っていたりするのだろう。

#ふうき

「あー――――――――。っ」

#ナレーション

ダン、と床を踏む。忌々しげである。だいぶ自分を追い詰めてしまったのだ。周りが見えていない。それとも、気持ちを切り替えるためだろうか。とりあえず足の動きは切り替わっていた。

#ネネ

「……。」

#ナレーション

いたたまれないのだろうか。風紀さんから目をそらす。彼女の見るべきではない姿だろう。

#ふうき

「…………ごめん」

#ネネ

「別に……。」

#ネネ

「……しばらくしたら皆さんに話を聞きに行きましょう」

#ふうき

「うん……。そうしようか」

#ナレーション

ひとまず休むようだ。少し休めばきっといつもの調子に戻るだろう。

 

 

 

 

#ナレーション

観覧席に集まっていたクラスメイト達が一斉にばらけていく。彼ら、彼女らの決めたことだ。誰が止められるだろう。クラスメイト達は口々に心にもないだろうことを叫んでから走り去っていく。

#クラスメイト

「絶対俺のせいじゃねーからな!俺は怒られたくなんかねーぞ!」

「なんでこんなことになったのよ?!私は関係ないからね!」

「責任とれよ!こっちは知らないからな!」

#ナレーション

事情を知っているものならその姿は悲痛に見えるだろうか。単純に、ただ見れば、醜悪に見せるための姿はしっかりと醜悪に見えていた。

#ミサキ

「そもそもあんな事、初めから受け入れてなかったんだから!みんなが乗り気だから仕方なくやったの!」

#ナレーション

どこまでもひびが入っていくように。壊れ始めたものが止まらないように。

#さいか

「わ、私は最初からそもそも嫌だったんです……!責任は風紀さん……、委員長がとってください!副委員長にも責任があるはず!」

#ナレーション

1つの目的のために。

#ナカミチ

「勝手なことを!お前らがやるっていうから準備しただけだ!それに全部委員長がやったんだ!俺は何もかかわってない!」

#ナレーション

間違っても本心ではない。と思う。本心だったとしても、いや本心ではないと思う。そして騒動は落ち着き始めていた周りからの注目を集めた。どうやら彼らの勝ちのようである。他の生徒たちへとざわめきが広がっていった。

#ナレーション

クラスメイト達はおおよそ校舎のほうへ向かっていった。教室が目的地だろうか。中にはグラウンドを突っ切っていった者も割といた。そこまでしなくてよかったとは思う。

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

我らが副委員長もどこかへと走っていた。

 

 

 

 

#ナレーション

保健室では2人ともおとなしくしていた。ネネさんは冷静を取り戻せばおとなしいし、風紀さんも普段はおとなしいのだろう。通常時が騒がしいだけだ。おそらくそんな感じである。よくわからないがそんな感じだ。

#ネネ

「そろそろ出てみましょうか」

#ナレーション

おとなしさの限界だった。人は知りたいという欲求が根底にあるのであるから仕方ないだろう。またはどれだけここで待っていたのかはわからないがそれなりに時間がたっているのかもしれない。

#ふうき

「……まぁそうしようか」

#ナレーション

風紀さんは椅子からすっと立ち上がり、ネネちゃんはベットから立ち上がろうと、ベットのふちに腰掛ける形になる。きょろきょろと足元をみるネネちゃん。何かを探しているようだ。おそらく靴である。

#ネネ

「靴が……。」

#ふうき

「ない……。ベットの反対側にもないね」

#ナレーション

風紀さんはベットを囲んでいたカーテンを開けて調べるが見つからなかった。

#ふうき

「先生が持って行ったんだろう。スリッパがあるからそれでいこうか」

#ナレーション

保健室のちょっとだけ高そうなスリッパを持ってくる。

#ネネ

「これで学校を歩き回るのはどうかと」

#ふうき

「靴箱によればいいでしょ。よく考えたら運動靴は燃えちゃってもう使えなかっただろうし。靴箱に行けば上靴も革靴もある」

#ネネ

「そう、ですね。少しお借りしますか」

#ナレーション

そう言ってスリッパをはく。と同時にスピーカーから校内放送が流れ始める。

#くぜ(放送)

「校内放送です。1年101組の機械科の生徒は至急観覧席まで戻るように。処分と指導においては全員に対して後日改めて指示します」

#ネネ

「行く場所指示してくれましたね」

#ふうき

「こっちへの連絡の意味合いは低いだろうけどね」

#ふうき

「………、そっか。終わったか」

#ナレーション

何が、と聞くべきではないだろう。もう何かする気もないということだろう。それとも何かしてももう遅いということかもしれない。終わったことは終わったことだ。次への区切りは大事だ。

 

 

 

 

#ナレーション

グラウンドの方は相変わらず騒がしい。だが生徒全員が自分たちのクラスの観覧席のスペースに居る。おそらく教師からの指示によるものだろう。各担任と思われる教師たちも観覧席に居た。

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

放送を聞いて自分のクラスの観覧席の場所へ戻ってきたナカミチ君と思われる姿があった。特に急ぐでもなく歩いている。観覧席にはすでにほとんどのクラスメイトが戻って来ていた。

#さいか

「あ、ナカミチ君が戻ってきました」

#ミサキ

「ひさしぶりだねー!」

#ナレーション

1秒1分が長く感じられるときもある。

#ナカミチ

「……15分ぐらいだけどな」

#ナレーション

彼がそう言うのであれば確かだろう。20分ぐらいたってるかもしれないが。

#クラスメイト

「ナカミチー、戻ってきてよかったよな?」

「副委員長が最後だよ。他は戻って来てる」

「先生からの放送を信じて戻ってきたんだがな」

#さいか

「私たち全員に責任を取らせるという事でしたから……。ですよね?」

#ナカミチ

「大丈夫だろう。どういう結末になるにしてももう少し時間がかかると思ったんだけどな。あの先生はその辺早いと思ってたが……。ここまでとは……。」

#くぜ

「そこまで高評価をいただけていたとは知りませんでした」

#ナカミチ

「ん?」

#ナレーション

クラスメイトの後ろに座っているくぜ先生がいた。ナカミチ君からは見えなかったのだろう。

#ナカミチ

「い、いらっしゃったんですか」

#クラスメイト

「そりゃいるだろ」

「失礼な物言いしてなかった?」

「これは追加で叱責だな」

#ナカミチ

「いるような、じゃない。いらっしゃるような言い方じゃなかっただろ」

#さいか

「わたしが先生にはなしかけてたじゃないですか……。」

#ナカミチ

「どこでだ……?」

#さいか

「えぇ……?私たちに責任を取らせるんですよねって」

#ナレーション

たしか、ですよね?とか誰かに聞いていたはずである。

#ナカミチ

「俺に聞いたのかと」

#さいか

「自意識過剰です」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

何も言えなかった。

#クラスメイト

「言われっぱなしだなー」

「ちょっと頼りがいが出たと思ったんだけどー」

「まぐれかなー。それとも委員長限定かなー」

#ナカミチ

「知らん」

#ナレーション

拗ねた。まぁしかたない。

#くぜ

「整列。ある程度でかまいません」

#ナレーション

指示がでた。あわてて列をつくり始めるクラスメイト達。

#クラスメイト

「えーと?ええと?」

「6、いや5列だ。5列で並ぶぞ」

「おっとと」

#クラスメイト

「ナカミチは?」

「副委員長は前で」

「じゃあ中央で、ほら。お願い」

#ナカミチ

「なんで……。」

#ナレーション

ある程度だからだろう。みんなの願いが反映されたのだ。美しいとでも言えば感動的な場面になる。おそらく。

#くぜ

「……そろいましたね」

#ナレーション

整列した生徒たちを眺めてそう言った。

#くぜ

「これから閉会式を行いますが進行に変更はありません。普通にしていなさい」

#ナカミチ

「まだ委員長とネネさんがいませんが」

#くぜ

「彼女たちは現在保健室です。無理に参加する必要はありません。何か必要があればナカミチさんが代わりを……。」

#ナレーション

言葉が止まった。

#ふうき

「おまたせー」

#ナレーション

全員後ろを向く。

#ネネ

「……。その。迷惑かけました」

#ナレーション

横にはしょんぼりとしたネネちゃんもいた。靴は登下校用の革靴だった。体操服に革靴はいいものだ。なにがとかそういう事を言わないように。足がみえていない?ナレーションに言われても困る。想像は創造に劣らない。らしい。知らないが。

#ミサキ

「ネネちゃん!委員長!」

#クラスメイト

「大丈夫だった?!」

「足は?!……あれ?革靴?」

「燃えたからねぇ。けがはなさそうでよかった。……ないよね?」

#ネネ

「えぇ。けがは無いんですが……。」

#クラスメイト

「ほ、ほかになにかあったのか?!」

「あったの?!」

「見た限り大丈夫そうだが……。」

#ナレーション

見た限りだと体操服で革靴のネネちゃんである。100点が120点になったような事ぐらいしかないように見える。

#ネネ

「その……。ごめんなさい。私のせいです。申し訳ありません……。」

#ナレーション

そのまま頭を下げた。つらそうな姿は120点が100点になってしまう。

#さいか

「謝る必要はありません。そうですよね」

#ナレーション

そうナカミチ君に問いかけた。今度は間違いなく彼に問いかけたのだろう。

#ナカミチ

「そうだな。そんなに落ち込む、」

#クラスメイト

「そうよ!ネネさんのせいなんて話少しも出てないから!」

「そんな心配しなくていいぜ。だれもそんなこと思ってなかったぞ」

「そういうことだ」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

さえぎられた。みんなの思いがあふれた結果である。美しい。

#ふうき

「そうそう。みんなの言うとおり!気にしちゃダメだよ!私も気にしない!」

#ナレーション

いつでもポジティブな考え方は大事である。

#クラスメイト

「気にしろ」

「あ?」

「委員長……?」

#ナレーション

時と場合による。

#ふうき

「みんなが冷たいよー」

#ネネ

「そりゃそうでしょう」

#ふうき

「そろそろ冬かな」

#ナレーション

そろそろ夏である。

#ナカミチ

「誰も風紀さんのせいだとは思ってないよ」

#ふうき

「そう」

#ナレーション

それだけ言って目も合わせなかった。

#ふうき

「……みんな。ごめんなさい」

#ナレーション

そう言って頭を下げる。

#クラスメイト

「別に委員長のせいとも思ってないよ」

「みんなで決めた事だし」

「だな」

#ふうき

「そう……。ありがとう」

#ミサキ

「うんうん。ひとまず一件落着だね!」

#ナカミチ

「……うん。よかった」

#ナレーション

ひとまず一件落着。もっともひとまずであるが。ひと休憩だ。

#くぜ

「……そろそろ終業式を始めていいでしょうか」

#ナレーション

次の一件開始。

#ふうき

「私たちが来るのを待っててくださったんですか?」

#くぜ

「いいえ」

#ナレーション

くぜ先生はそう言ってグラウンドのほうを向き、軽く右手を上げる。誰かへ向けて合図しているのだろう。その後すぐに放送が入る。

#ともみ(放送)

「ただいまより閉会式を行います。各クラスは担任の先生の指示に―――」

#ナレーション

閉会式が始まった。

 

 

#ナレーション

閉会式の入場行進は大抵、形だけのものだ。この学校も彼らのクラスも同じである。力が入っていないのが普通であるが、息があった行進は間違いなく彼らであった。秩序を乱したクラスが一番秩序を保っていたというただの皮肉である。

#ナレーション

全体が指定の個所にとどまる。男女各2列、先頭は委員長、副委員長である。両役職が両方同性だった場合はどうなるのだろうか。いや、そうはならないのだろう。現実はそういうものだ。本当は代役を立てるのであるが。

#ナレーション

ナカミチ君は目線だけ横を見る。あれから風紀さんは1度も目を合わせない。目線を戻し朝礼台、わかりやすく言えば大きなお立ち台へ目を向ける。生徒会長のともみさんが立っていた。

#ともみ

「それでは各学年ごとに上位3組の発表を行います。ですが今回最後に行われるはずだった競技が中止になってしまったため、そこまでの合計獲得点数にて順位を決定いたしました」

#ナレーション

マイクに向けて話すともみさんの声がスピーカーでグラウンド上に響く。それでも一部の生徒がひそひそとしゃべっている声は当然ある。

#ともみ

「また、不正が行われたクラスに関しましてはそこまでの競技においても同様の不正が行われていた可能性があるため今回除外することになりました」

#ナレーション

残念な終わり方である。クラスメイト達は残念な顔をしているはずだ。悔しい気持ちだろう。見なくてもわかるというものだ。

#ともみ

「では1年生から順に発表していきます。なお、不正が発覚したクラスが2位であったため繰り上げて発表いたします」

#ナレーション

順に発表されていく。除外されたのだから当然自分たちのクラスは発表されない。これを因果応報だと切って捨てれるだろうか。この不正に満ちた大会においてそう言うのが正しいのだろうか。

#ともみ

「……。不正があったと思われる中、それでも発覚するまで非常に接戦でした」

#ともみ

「では続いて2年生の順位を発表していきます」

#ナレーション

2年生は1位から順に1組2組3組。まさに正しく成るべき姿があった。

#ふうき

「……ふん」

#ナレーション

横からひっそりと声が聞こえた。続いて3年生は1位から順に2組3組1組だった。1組はともみさんのクラスである。たしか生徒会長兼、委員長だっただろうか。

#ふうき

「つまらない……。」

#ナレーション

口に出さなくていい事をわざわざ口に出す。かまってほしいのだろう。だがナカミチ君にそこまでの甲斐性はない。頑張って欲しくはあるが。

#ナレーション

その後はつつがなく終わった体育祭はくぜ先生による、とにかく今日は早く帰って休みなさい。という号令のもと、制服から着替え終わったものから順に帰って行った。

#ナレーション

ナカミチ君が教室に鞄をとりに行った教室には座り続けているくぜ先生の姿があった。教室にとどまっている生徒を見ては帰りなさいと無言で訴えていたように見えた。ナカミチ君もその1人だった。

#ナレーション

かくして、この日。皆で騒々しく動いたこの日。最後は1人で静かに帰宅することになった。

 

 

 

#ナレーション

体育祭の後、1日の代休を挟んで、そのまた次の日。午前8時。ナカミチ君は学校へついていた。

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

普段はホームルームが始まるぎりぎりに着く彼も今日は少し早く着いていた。早く着いて8時というのもどうだろうか。個人の自由か。靴箱前で上靴に履き替える。

#ナレーション

履き替えていると風紀さんご登場。まぁなんというか。なるべくしてというべきか都合がいいというべきか、風紀さんがナカミチ君を見つけると露骨なほどに冷たい目つきを向けてきた。

#ナカミチ

「おはよう。委員長」

#ナレーション

しかしようやく目線はあった。実に2日ぶりである。土日を挟んだ方が長い。

#ふうき

「……。」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

もう少し時間がいるようだった。2人並んで教室へ向かう。さながら喧嘩中のカップルとでも表現してやろう。彼もうれしかろう。

#ナレーション

そしてもう少し時間がたち、教室前まで着く。

#ナカミチ

「みんなにはちゃんと挨拶しないといけないぞ」

#ふうき

「ばかにしてるの?わかってるよ」

#ナレーション

ようやくまともな会話が行われた。よかったよかった。そんなやり取りをして風紀さんが教室のドアを開ける。

#ふうき

「おはよ……。」

#ナレーション

クラスの中にはくぜ先生と見知らぬ教師たちがいた。クラスメイトは一様に席に座っており、言葉も発せない。

#ナカミチ

「……。お早い事で」

#くぜ

「席に着いてください」

#ナレーション

くぜ先生がそう言うので2人とも席に着く。この2人で必要分がそろったらしい。どうせ怒られるのだろう。なにがとかどういった経緯だったのかとか。そういうのは必要ないのだ。

#ナレーション

そして怒られた。よく知らない教師の人、数名に。その内容はナカミチ君も風紀さんも、他のクラスメイトもよく覚えていない。心に残らなければ意味がないが仕方ないだろう。しかし、つらい時間だったと全員が言うはずだ。

#ナレーション

ホームルームの時間も費やされ、1限目がそろそろ始まるからという理由で話が締めくくられ始める。最後に担任からとかなんとかいう理由で一言とかなんとかで終始教壇から離れた場所にいたくぜ先生に話が振られていた。

#くぜ

「……監督不行き届きでした」

#ナレーション

それだけ言った。引き継いでまた指導が入る。担任にこんなことを言わせてだとかなんとか。もっともな話だ。言われんでもわかる。

#ナレーション

今後こういうことがないように、処分は検討中で後日とかなんとか、お決まりの言葉とともに去っていった。処分は全員に割り振られた。彼らの勝利である。だから、そんなにつらそうな顔はしないでほしい。

#ナレーション

悲痛な空気が漂い。誰も動けない。

#ネネ

「…………わたしのせいです」

#ナレーション

座ったまま下を向き。机に目を伏せている。女の子らしい少し長めの髪で顔が見えない。

#ネネ

「……ごめんなさい」

#ナレーション

耐えきれなくなった声があふれてきたのだろうか。

#ネネ

「私がしっかりしてなかったから」

#クラスメイト

「ね、ネネさんのせいじゃないよ!」

「おとといにそう話しあっただろ」

「そのとおりだ。気にすることは無いだろう」

#ふうき

「ネネちゃんのせいじゃない。計画したのは私だし、指示したのも私。それに……、ネネちゃんは最後まで心配してくれてた」

#ネネ

「違います!私、昨日ずっと考えていたんです!……なんでこんなことになってしまったのか」

#ナレーション

ずっと誰の方も見ず、うつむいて机に言葉を吐き出している彼女はきっと自分自身に話しかけて、いや、責めているのだろう。

#ネネ

「私は心配なんかしていません。もともと乗り気じゃなかった」

#ネネ

「だから仕方なくあの魔動具をつくったんです。その結果があれです……。」

#ふうき

「で、でも……!」

#ナレーション

誰もがわかっていた。それでも口に出さなかった事。それは変えようのない事実だと。そう理解していたから。

#ネネ

「私が、しっかり作らなかったから……。そのせいで、みんなに迷惑をかけて……。迷惑を……。」

#ナレーション

表情は見えなかった。声色は泣いているのを隠せていなかった。みんなネネちゃんの方を見ていない。見れなかったのだろう。痛ましい表情をしているだろうから。見えてなくても、見なくてもわかったから。

#ふうき

「違う、違うから!」

#ナレーション

風紀さんだけがネネちゃんの方を向いて話しかけていた。声は届いているだろうか。思いは届いているだろうか。

#ふうき

「ほら!最後にネネちゃんに使えって命令したの私だったでしょ?!作ってるときだって!あの機械作ってるときも私が最後にちゃんと確認しなかったから!ほら!私のせいでしょ?」

#ナレーション

それが風紀さんが望んだものだった。

#ネネ

「ごめんなさい……。ごめんなさい。風紀さん……。」

#ナレーション

彼女の願いは結局、聴き入れてはもらえなかった。

#ふうき

「……。」

#ふうき

「…………。」

#ふうき

「―――っ」

#ふうき

「……っ。……あ゛あっ……。」

#ナレーション

風紀さんもうつむくしかなかった。

#ナカミチ

「……委員長」

#ナレーション

心配するのは構わないが聞くべきではなかった。

#ふうき

「………………。」

#ふうき

「―――。」

#ナレーション

つらそうな顔でにらんできた。

#ナレーション

その表情は、彼にどれだけの感情を届かせただろう。

#ふうき

「……。」

#ふうき

「………。ごめん。ごめんなさい。ごめんなさいナカミチ君…………。」

#ふうき

「みんなも……。ごめん、なさい」

#ナレーション

もしこの話、結局誰が悪いのかというつまらない話をするならば結局の話、結局は風紀さんである。無論ここまで詳しくは語っていない細工をして滅茶苦茶にしたさいかさんの話を抜きにして、である。

#ナレーション

だから、いくら責任や処分を分散できても。では誰のせいでこんなことになってしまったのだろうと各自が自分に問いかければ風紀さんとネネちゃんに重くのしかかってくる。そして2人とも自分に厳しい方だ。

#ミサキ

「……これでよかったの?」

#ナレーション

ぽつりとつぶやく言葉が教室に響く。

#クラスメイト

「……いいはずなんだけどな」

「後味が悪すぎる」

「気にするな。といえばそれまでなんだがな……。」

#ナレーション

過ぎた事は過ぎた事である。だがそれで済めばいわゆるトラウマというやつは無いわけで。最後は自分を許せるかどうかである。つまり1番難しいわけで。

#くぜ

「……。」

#ナレーション

くぜ先生が立ち上がり、ドアに向かい、ドアの前で立ち止まった。

#くぜ

「そろそろ1限目が始まります。各自準備をするように」

#ナレーション

次に進むきっかけなんてこのくらいがいいのである。だが、一向に生徒は動かない。それどころかくぜ先生もドアに手をかけたまま止まっている。

#くぜ

「…………私も少し考えます」

#ナレーション

そう言い残して出て行った。ゆっくりとドアを開ける音がやけに大きく聞こえた。

#ふうき

「……つぎのじゅぎょうはなんだったかなー。えっとー」

#ナレーション

強い子というか、もっと違う何かというか。

#クラスメイト

「えぇっと……。数学、ね」

「教科書だけ出して。おわりだな」

「準備ってそういう事だけじゃなくてだな……。」

#ナレーション

無理にでも平穏を取り戻す。いつも通りの毎日は進んでいく。取り残されることは許されていないかのように無慈悲に進む。

#ナレーション

いつかつらい思い出が風化する日まで。長い日が始まる。

 

 

 

 

#ナレーション

次の日。

#ナレーション

長い日?昨日ならおわった。時は進むから時なのである。普通戻らない。ナレーションに文句言われても困る。進行は任されていない。回想も急に始まるし。被害者ぶってもいいはずである。

#ナレーション

朝8時前。学校についたナカミチ君。最近少し早い。いい事ではあるが。どうせ何か企んでいる。

#ナレーション

教室に着くなり自分の机に鞄を置く。隣にはまだ風紀さんはいない。風紀さんはいつもぎりぎりに来る。ナカミチ君といい勝負である。

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

しかし風紀さんの机には鞄がかけられていた。

#ナカミチ

「……なぁ。委員長はもう来てるのか?」

#ナレーション

後ろのクラスメイトに聞く。

#クラスメイト

「委員長か?おう。いるはずだぜ?廊下で見かけたぞ」

#ナカミチ

「いつ」

#クラスメイト

「うーんと。俺が学校に来た時だからな。5分以上前ってとこかな。教室前ですれ違ったぜ」

#ナカミチ

「……ありがとう」

#ナレーション

そう言って廊下に飛び出して行った。後ろで、おう。と返事をしたクラスメイトが取り残されていた。

 

 

 

 

#ナカミチ

「失礼します!」

#ナレーション

場所は職員室。廊下を走ってたどり着いた。5分たったかたたなかったかというところだろう。当然廊下は走ってはいけない事になっている。今の彼には知ったこっちゃないだろうが。

#ナレーション

勢い余ったのだろう。大声で叫んではいってきた生徒に数人の教師が目を向けるが、しかしよくみればもっと注目を集めているところがあるようである。

#ふうき

「―――を―――――です!」

#ナレーション

何人かの教師を前に何かを話している。厄介事が次々に起こる。各自が各々の自身のために自己犠牲を望む。彼もまたそうなのだろうか。

#ナレーション

近づくと何を話しているのかわかった。彼にはおおよそ予想通りだっただろうか、教師たちは、決めるのはこちらだ。そのようには聞いていない。と言っている。どちらかといえば言い聞かせているようだ。

#ふうき

「他のクラスメイト達は何もしていません!それなのに処分はおかしい!」

#ナカミチ

「何もしていないわけじゃないだろう」

#ふうき

「っ!また邪魔しに!」

#ナレーション

心底邪魔なのだろう。声が聞こえた瞬間に出た言葉がこれである。よほど嫌われたか。まぁ彼にとってそんな事この状況を何とかする事に比べればどうでもいいのだろう。

#ナカミチ

「すいません。止めたんですけど」

#ナレーション

教師たちに向けてそう説明する。

#ふうき

「必要ない!私が全部責任をとるべき事だ!」

#ナレーション

追い詰められて再度振り出しに戻ったようだ。というわけで再度どうにかしたらいい。もちろんしなくてもいいが、彼はなんとかしようとするだろう。

#くぜ

「呼ばれて来てみれば……。」

#ナレーション

くぜ先生もご登場である。

#ふうき

「くぜ先生!くぜ先生ならご存知ですよね!」

#くぜ

「まず叫ぶのをやめなさい。大声でいえば何かが通るとでも思っているわけではないでしょう。高校生にもなって」

#ふうき

「そんなこと聞いていません!」

#ナレーション

そもそも何を聞いているのか話していない。おそらくは体育祭の責任はだれにあるか説明してほしいのだろう。

#くぜ

「……。あなた方が全員加担していた事はわかっています。よくまぁあんな事をしでかしたものです。ただ最後に崩壊したようですがね」

#ナレーション

風紀さんの思い通りに動く気はないようだった。

#ふうき

「なん……で!」

#ナカミチ

「……戻ろう。委員長」

#ふうき

「聞いてないよ!ナカミチ君には!とにかく、責任を取るべきなのは私1人なんだ!」

#くぜ

「どう責任を取るつもりですか。たかだか1人の高校生が」

#ナレーション

高校生って面倒だ。いや、便利なのだろうか。

#ふうき

「……辞めます」

#ナカミチ

「委員長!」

#ふうき

「うるさい!」

#ふうき

「本来そうなるはずだったんだ。それがナカミチ君のせいで……。みんなの、…………おかげで?」

#くぜ

「……辞める。ですか。まぁどうあっても責任を取らないと気が済まないんでしょうね。……わかりました」

#ふうき

「えっ」

#ナレーション

そう言ってくぜ先生は他の先生方のほうへ向いて話し始めた。

#くぜ

「彼女、風紀さんはうちのクラスの委員長です。今回の騒動、生徒の中で一番責任が重いのは彼女と考えるべきです」

#くぜ

「ですから彼女の言う通り生徒たち全員の責任を取って役職を辞してもらうのがいいと思います。彼女に委員長の役職はふさわしくありません」

#ふうき

「……え」

#ナカミチ

「そんな……。」

#ナレーション

なんてこった……。とか言っている場合ではない。どうも何か始まったようだ。ナカミチ君はナカミチ君でくぜ先生の作戦に乗っかったようである。

#くぜ

「まだ処分の方法は決まっていませんでした。全員に処分を渡すよりも1人の責任者に処分を下したほうが他クラスへの示しがつきますでしょうし分かりやすくて的確だと思います」

#ナレーション

先生たちの間ではとりあえず様子見としか言えないような意見が一回りした後、保留という流れになっていく。

#校長

「いいと思いますがね」

#くぜ

「校長先生」

#ナレーション

一番偉いところがきた。色々なところから挨拶が出る。

#校長

「ええ、おはようございます。朝の職員会議に来てみたら朝からなかなかに大変な場面のようですね」

#くぜ

「……まぁ」

#校長

「本人が罪を認め、背負うというのですから。何せ大変なのは本人が処分を受け入れない時でしてね……。」

#ナレーション

でしてね、と言われても生徒2人はよくわからない顔をするしかない。幾人かの教師の顔には苦悩が出ている。

#校長

「後は早めの収束を望んでますし。かまいませんね」

#ナレーション

運営側の考えだろう。生徒の方を向いていない。とりあえず1人の先生がうなずく。

#校長

「学年の主任先生から許可も出ました。さて、君は。風紀さんと呼ばれていたね」

#ふうき

「は、はい」

#校長

「君はやめると言ってたけど。あぁ、委員長の役職をね。そう言ってたけど。正直なところ別にやめる必要はないと思っているんだけどね。校長先生としては」

#くぜ

「それは……。」

#ナレーション

周りからも苦言が出る。それでは示しもつかないと。先ほど言っていたことと矛盾されますとか何とか。急に饒舌になるあたりよほど処分が好きなのだろう。邪推か。

#校長

「体育祭もリレーこそ中止になりましたが無事に順位も出せて閉会式もきれいに終わりましたし」

#校長

「そもそも生徒会長さんが言うには最後の時点で点数差はほとんどなかったという話ですし。最後に魔が差してしまった。そんなところではないですかね」

#ふうき

「え、えっと」

#校長

「あぁ、いやいや。風紀さんに聞いているわけではないんですよ」

#ナレーション

教師たちの間では、では彼女に責任を。とやら、いや、全員に処分を。とか、今回はこの辺で。とか。いろいろ意見が出ている。出ているだけだ。

#くぜ

「校長先生」

#校長

「はい。わかっていますよ。朱里先生。その辺りは生徒に似ていると言いますか。いえ、逆でしたかね」

#ナレーション

朱里というと久しぶりにでてきたがくぜ先生の下の名前。名字である。

#校長

「んんっ。えー。今回の事は未然に防げなかった事が一番の問題です。つまり朱里先生に責任があるわけです」

#ふうき

「あ」

#ナレーション

責任がどこにかかるのかもう少し考えるべきだったろう。

#校長

「また昨日朱里先生の方からもお話を受けました。今回の1件、監督不行き届きだったと」

#ふうき

「ちょ、ちょっと待ってください」

#校長

「生徒が口を挟める話ではありませんよ。それに話は最後まで聞いてから意見を言いなさい」

#ふうき

「そ、そんな……。……な、ナカミチ君!」

#ナカミチ

「…………そう、すぐには……。」

#ナレーション

予想していなかったらしい。考えておかなければならない範囲が狭かった。だが責めるなんてことは誰もできない。でもなんとかしないといけない。

#校長

「元々、朱里先生は仮として担任を受け持っていただいてました。臨時教員だったんですよ。いや、採用はしているんですがね。研究員として」

#ナカミチ

「研究員……?」

#校長

「ええ。この学校は一応特殊ですから。教員採用の際にそれなりの魔法適性の有無も必要でしてね。どうしても教員が見つからなかったんですよ。それで基本契約で研究員として採用していました朱里先生に、」

#ふうき

「それで、都合が悪くなったからって!……責任を取らせるんですか」

#校長

「話は最後まで聞きなさい。問題が起きれば責任を取るのは当然のことです」

#ふうき

「……。」

#校長

「さて、つきましては正式に朱里先生を1年101組の担任といたします。研究員と教員の2足わらじの契約、正式に受けていただきます」

#ふうき

「……え?」

#ナカミチ

「え?」

#くぜ

「…………は?」

#ナレーション

校長先生に、は?はまずいんじゃないだろうか。

#校長

「拒否権はほとんどありません。受け入れられない場合はこの学園を去っていただかねばならないと考えています」

#くぜ

「いや。それは……。」

#ナレーション

言いよどむ。くぜ先生がここまで困ったような顔をするのは見た事がない。先にも後にも。そのまま黙ってしまう。

#校長

「……。」

#くぜ

「……わかりました。お引き受けします」

#校長

「はい。ではこの件は以上で」

#ふうき

「……ふぅ」

#ナレーション

緊張が解けてよろけたのだろう。後ろに居たナカミチ君にぶつかったがそのおかげかこけたりはしなかった。

#くぜ

「……私で大丈夫でしょうか」

#校長

「教職が大変なことはこの場に居る職員なら知っています。普通は2足わらじで出来るものではありませんが。責任ですから。どちらもしっかりやってください。担任の仕事もきっと自分のためになりますよ」

#くぜ

「……。」

#ナレーション

不機嫌そうだが丸く収まったとみてよかった。

#校長

「さて、そういうわけですから。この1件は以上で。風紀さん、あなたが委員長をやめる必要もありません」

#校長

「なによりも、子供がそう簡単に責任を取るとか言ってはいけませんよ。それはとても重いことですから」

#ふうき

「……それでも」

#ふうき

「それでも、もうやめます」

#ナカミチ

「委員長」

#ふうき

「その委員長ってやつは私には向いてないってわかったよ。やるべきじゃなかった」

#ナレーション

向いてないかどうかは周りが判断することである。だが本人がやりたいと思ってないならさせても意味がないだろう。だが今は風紀さんも追い詰められて弱気になっている状態である。一時の気の迷いかもしれない。

#校長

「残念だけれども、それは認められません。そう簡単にやめれるものじゃありません。君、風紀さんには一度引き受けたという点では責任がありますから」

#くぜ

「私からもお願いします。本人がそうしたいというならそう責任を取らせてあげてください。困るほどの事ではないはずです」

#校長

「そうですね……、担任がそう言うのでしたら」

#校長

「後は学年内で問題がなければというところですが。そこは学年主任と話を、」

#ナレーション

視線を向けられた先生方は特に問題ない、いいかと思います。等々。おそらく1年を受け持っている先生方だろうか、賛同の声が上がる。

#校長

「……まぁいいでしょう。さて、さすがに職員会議をそろそろ始めないといけません。生徒のお2人は教室に戻ってください。よろしいですか?」

#ふうき

「は、はい」

#ナレーション

今まで抜けていた力を入れなおし、直立する。

#ナカミチ

「はい。ありがとうございました」

#ナレーション

そう言って2人は職員室を出た。

#ナレーション

廊下を2人で歩く。職員室の周りだからだろうか、とても静かだった。2人も黙っていた。今は話すような事もないのだろう。ゆっくり歩いていた。

#ふうき

「……。ありがと。ナカミチ君」

#ナカミチ

「別に何もしていないけどもな。……。」

#ナレーション

そう言って歩いていると、ガラガラと扉の開く音がした。2人が出てきた職員室の扉だ。気になって振り向くとくぜ先生がすたすたと歩いて来ていた。

#ふうき

「えっと……?なにか?」

#くぜ

「何もありません。会議が終わったので教室に向かっているだけです」

#ふうき

「会議はやっ!?」

#ナレーション

この感じだと職員会議は1分もなかっただろう。

#くぜ

「早いというより、」

#

キーンコーンカーンコーン

#ナレーション

チャイムがなった。ホームルーム前の予鈴だ。

#くぜ

「……もうホームルームの時間ですから」

#ふうき

「あー……。」

#ナカミチ

「すみません……。」

#ふうき

「別に謝らなくてもいいでしょ」

#くぜ

「それはあなたが決める事ではありません。それより教室に向かいなさい」

#ふうき

「はーい」

#ナレーション

久しぶりの笑顔だった。これで一件落着。なわけがないのはわかっているが。ひとまずよかったといえるだろう。3人で教室に向かって歩き出す。

#ふうき

「あの……。くぜ先生」

#くぜ

「なんですか」

#ふうき

「ありがとうございました。その。なにもかも」

#くぜ

「かまいません。お礼なら私よりナカミチさんに言いなさい」

#ふうき

「ええと。まぁさっきしましたので。それで勘弁していただけないかと」

#くぜ

「そうですか」

#ナレーション

それで充分だった。彼の顔もそのような表情だろう。それを決めるのは俺じゃないのだろうか?とでも言いたげには見えなくもない。風紀さんは笑顔なのでそれでいいだろう。

#ナレーション

そのまま廊下を歩いているとふいに風紀さんがぽつりと。

#ふうき

「あ、いい事思いついた」

#ナレーション

と言って立ち止まった。信用してあげてほしい。

#ナカミチ

「思いつかないでもよかったんだがなぁ」

#ナレーション

信用は無かった。いいことかどうかは否定していないのは彼なりの妥協点かもしれない。

#くぜ

「いいから早く歩きなさい」

#ふうき

「了解です!ほらナカミチ君!行くよ!」

#ナレーション

そう言ってナカミチ君を引っ張って駆け出して行った。

#ナカミチ

「うわっとと。急に引っ張るな……。」

#くぜ

「廊下を……、はぁ……。」

#ナレーション

後ろから溜息が聞こえた。前途多難が見えたのかもしれない。ちなみに廊下は走るべきではない。

 

 

 

 

#ふうき

「よーし」

#ナレーション

教室前。無論自分たちのクラス前である。

#ナカミチ

「よし、じゃない。何をするつもりだ」

#ふうき

「ふひひ。まぁなんだろ。報告会?」

#ナカミチ

「報告会……?必要だと思うがくぜ先生の方からしてもらったらいいんじゃ、」

#ふうき

「みんなー。ただいまー」

#ナレーション

ガラガラガラ―――とドアを開ける。そのまま入っていった。

#ナカミチ

「聞け」

#ナレーション

聞こえてはいるだろうが聞いちゃいない。とてとてと黒板前の教卓まで歩いて行く。教室では生徒たちが席に座っていた。くぜ先生を待っていたのだろう。

#クラスメイト

「なに?どうしたの委員長?なんかやっかいごと?」

「またなんかやるのか?目をつけられない程度にしてくれよ」

「こりないねぇ。まぁ落ち込んでるよりいいけど」

#ふうき

「ナカミチ君。みんなの評価がおかしい」

#ナカミチ

「おかしくは無い」

#クラスメイト

「やっぱり出た」

「付属品」

「なかいいね」

#ナカミチ

「……付属品はやめろ」

#ナレーション

正しい評価だった。

#ふうき

「おまけ?」

#ナカミチ

「ちがう」

#ネネ

「違うかはさておいて今度は何なんですか。もうおかしなことはしたくないんですけど」

#ナレーション

さておかれてまだ何か言いたげなナカミチ君もいたが、ネネちゃんが心配している方が重要である。

#ふうき

「いやいや。今回はお客様にとって耳寄りな情報をお持ちいたしましたから!」

#ミサキ

「こ、これは信用できない……。」

#さいか

「なんでわざわざ信用できない事をするんでしょう……。」

#ふうき

「まぁまぁ信用してあげようよ」

#ナカミチ

「自分で言うな」

#ネネ

「それで?何を考えているんでしょうか?」

#ふうき

「あ。やっぱり興味ある?さすがネネちゃん」

#ネネ

「興味とかではなく長くなりそうですから。早く話してください」

#ふうき

「ひええ。視線が冷たい……。」

#クラスメイト

「冷静だなぁ」

「この中で1番委員長のノリになれてるんじゃない?あ、2番かな」

「氷のような視線、クールだな」

#ネネ

「クールとかではありません。それにこの場合、クールという使い方は、」

#さいか

「ネネさん。話がずれてます……。」

#ミサキ

「何がダメなの?」

#ふうき

「いいんじゃないの?コールドとかもあるかもしれないけど?ねぇ?ナカミチ君」

#ナカミチ

「知らん」

#ナレーション

その対応は冷たかった。

#ふうき

「1人ぐらいのってくれてもいいのにー」

#ネネ

「コールドよりはクールの方がまだいいと……、ではなく。これ以上話が長くなったら困ります。とにかく謝りますから話を戻してください……。」

#ふうき

「はーい。というわけで委員長やめてきたよ」

#ネネ

「……はい?」

#ふうき

「これでクラスの責任は問わないって。よかったよかった」

#クラスメイト

「いや、よかったって、そんなわけないだろう」

「みんなで責任取ろうって話したのに」

「どうしたものか……。」

#ネネ

「また勝手に……。」

#ミサキ

「えっと。ナカミチ君、どういう事?」

#ふうき

「あれ?本人に聞こうよ。かもんかもん」

#ナレーション

両手を自分の方へ動かしている。質問くださいとでも言いたげだ。

#ミサキ

「いやー。みんなちょっと怒ってるみたいだから。早く真相知りたいなと思って」

#ナレーション

いつもの笑顔でそう言われる。

#ふうき

「ナカミチ君どうぞ」

#ナレーション

譲られた。有事の際、素早い対応が身を守る。

#ナカミチ

「……。まぁ。とにかく。委員長も……、それなりに責任を感じているんだ。このぐらいの責任はとらせてあげるべきだと思う」

#ふうき

「ってくぜ先生が」

#ナカミチ

「……くぜ先生がそう言ってた」

#ナレーション

俺もそう思っているよ、ぐらいは言って見せてほしかった。

#ネネ

「……まぁ、くぜ先生がおっしゃるなら」

#ミサキ

「まぁ。それだったら」

#クラスメイト

「まぁいいか」

「まぁそうだな」

「まぁそうね」

#ナレーション

まぁまぁ受け入れられていった。

#さいか

「では耳寄りな情報というのはそれで私たちの責任はすべて解決したという事でしょうか」

#クラスメイト

「あ!そうじゃん!」

「おお、これで無事解決か」

「確かにいい情報ね」

#ふうき

「え?ちがうよ?」

#ナレーション

ちがった。

#ミサキ

「ちがうの?!」

#ふうき

「そう。なんとなんと。とっても素晴らしくて美しくて、えーっと。わんだほーで。えーっと」

#ナカミチ

「早く言え」

#ふうき

「そんな感じの話です。はい。というわけで、発表ー。……いえーい。どんどんぱふぱふー」

#ナレーション

盛り上げが欲しいのか自分ではやし立てる。

#ふうき

「えー、今回私たちは学内の秩序を乱してしまったと思われています」

#ネネ

「事実ですね」

#ふうき

「しかし!そんなことは無いと私はわかっている!」

#ナカミチ

「もう少しわかろうな」

#ふうき

「というわけで!私こと白野風紀は風紀委員になります!」

#ミサキ

「なんでそうなるの」

#ふうき

「学内に我がクラスありと知らしめるためにー。うちのクラスは清く正しく清潔な学生の鏡と知ってもらうためにー」

#ナカミチ

「それ風紀委員の仕事か?」

#ナレーション

広報なら渉外という役職だろうか。いや、しかし活動が学内に限定されそうであるし、渉内と呼ぶところもあるだろうか。いや、これは普通に学級委員長の仕事ではないだろうか。いや、そもそもクラスの広報をする役職なんてあるわけがなかった。

#さいか

「クラス内の風紀を保つためにその権限のある風紀委員になるというわけですか……。あと、その象徴として風紀委員をやるんですね……。」

#クラスメイト

「それで風紀委員をやると」

「風紀を乱す風紀委員ね」

「だめだこりゃ」

#ナレーション

だめだった。

#ナカミチ

「……俺はいいと思う」

#ふうき

「……でしょー?!」

#ナカミチ

「茶化すな。本当にやりたいと思ってるんだろ。ならやった方がいいよ」

#ふうき

「……そうかな」

#クラスメイト

「ああ、いいと思うぞ」

「ほんとは誰も駄目だとおもってないよ。楽しみだ」

「どうなる事かとはおもうけどね」

#さいか

「ええ。その方がいいと思います」

#ネネ

「……やりたいならだれも止めませんよ。がんばってください」

#ふうき

「うんうん。頑張るよ。それはもうたっぷりと」

#ネネ

「……止めた方が良かったかも知れません」

#ナカミチ

「止めても無駄だな」

#ふうき

「そうだね」

#ナレーション

そうらしい。

#ミサキ

「じゃあ決まりだね!風紀委員よろしくね、風紀さん!」

#クラスメイト

「おー、風紀委員の風紀さんだ」

「これは期待できるな」

「さて、どれだけ風紀が風紀さんの前で保つのか」

#ナレーション

教室内は、わいわい、やいのやいのと騒いでいる。ナカミチ君が教室の外、廊下を見るとくぜ先生がいた。手持無沙汰だと言わんばかりに開いた窓の枠にもたれかかり空を見ている。待ってくれているのだろう。

#ふうき

「さて!というわけでナカミチ君!」

#ナカミチ

「ん?」

#ナレーション

急に呼ばれて風紀さんの方へ目線を戻す。

#ふうき

「今日からナカミチ君が委員長だ!よかったね」

#クラスメイト

「え?なんでだ?」

「そりゃ委員長がいなくなるんだから誰かがやらないと」

「あぁ。現、副委員長が繰り上がるのが普通か」

#ナカミチ

「いや。俺はやらない。それに副委員長でももうないぞ」

#ふうき

「……ん?」

#ナカミチ

「いや。ん、じゃなくてだな」

#ナレーション

自身もさっき言ったのだが。とにかく何か言い始めた。

#ふうき

「なんで?」

#ナカミチ

「いや、そりゃあな。委員長が任命したから俺がやってただけで、委員長が辞めたなら俺も自動的に辞めることになる」

#クラスメイト

「うわぁ。めんどくさい事言い始めた」

「うわぁ。あれはマジな顔だ。なにもわかってない」

「うわぁ。……うわぁ」

#ミサキ

「あーあ」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

何か間違っただろうかとでも思っているのだろうか。

#ナカミチ

「とにかく俺はするつもりはないよ。もうしわけないけど」

#ふうき

「……まぁやるつもりがないならしかたないか。はぁー」

#ナレーション

やれやれと首を振る。

#ネネ

「……本人にやる気がない以上それでいいかと」

#ミサキ

「……まぁね」

#さいか

「私はナカミチ君がやるのが一番いいと思いますが……。」

#ナカミチ

「いや。やめとくよ」

#ふうき

「そうそう。やる気がないならいいよ。ふーんだ」

#ネネ

「……すねましたね」

#ミサキ

「まぁしかたないかな」

#クラスメイト

「さっきまで上機嫌だったのにー」

「誰かがー」

「あーあ」

#ナカミチ

「え?そこまで言われる事か?」

#ナレーション

信用問題みたいなものだろう。素直に責任持ってやると言えばよかったかもしれない。もっとも、これはもう過ぎた話。

#ナレーション

そんな騒がしい教室にくぜ先生が入ってくる。気づいた生徒はあわてており、うかれて気づいてない生徒は変わらず楽しそうに。あとは気づいてなお楽しそうにしている子。

#ふうき

「あ、くぜ先生!どうも!風紀委員の風紀ちゃんです!」

#くぜ

「……。」

#ナレーション

表情1つ動かさない。

#くぜ

「各自1限目の授業の準備をすること。以上です」

#ナレーション

言い終わると同時に学内にチャイムが鳴る。

#ふうき

「よーし。じゃあホームルームも終わったし1限目までにこれからの掃除について話があるんだけど!」

#ミサキ

「おお、さっそくだね!」

#ナカミチ

「……結局あまり変わらないな」

#さいか

「そうですね。……あはは」

#ナレーション

相変わらずこれまでもこれからもばたばたしそうだと思っただろう。そしてそれは間違いではない。相変わらずばたばたする。人数が今より1人、そして3人と増えながら。

#くぜ

「……何を言っているんですか。今のチャイムは1限目開始のチャイムです。まだ担当の先生は来られていないようですが」

#ふうき

「へっ?」

#クラスメイト

「えっ」

「あっ」

「おっ」

#ナレーション

時計は1限目開始の時刻をさしていた。どうやら1つチャイムを聞き逃したようだ。全員が熱中してたのだろう。

#くぜ

「わかったら早く席に着いて準備をしなさい」

#ナレーション

目で射抜かれた。

#ふうき

「は、はい!」

#ナカミチ

「わかりました!」

#ナレーション

従うに限る。

#ふうき

「あの。ところで風紀委員は認めていただけるでしょうかね。ふへへ」

#ネネ

「何ですかその笑い方……。」

#ナレーション

趣味か何かだろう。

#くぜ

「……そもそもこの学校に風紀委員はいません。クラス内での役職は委員長と副委員長のみです」

#ミサキ

「えっと。そこはなんとか……。」

#ふうき

「そうですそうです。ミサキちゃんいい事言った。100点」

#ミサキ

「なんで点数下げる事言うの……。」

#ナレーション

いちいち口を挟まないといけない性分なのだろう。今後もいかんなく発揮される。

#くぜ

「……そもそもする必要がありません。役職はありません。やりたいならやればいいでしょう」

#ネネ

「えっと。つまり……。」

#くぜ

「言ったとおりです。クラス内の活動なら自由にやりなさい」

#ふうき

「……いいんですか?」

#くぜ

「そういいました」

#ふうき

「……やったー!」

#クラスメイト

「うんうん。よかったなぁ」

「これで本当に1件落着、か」

「大変だったな。しかし、よかったな……。」

#ナレーション

クラスメイト達の祝福によってさらに教室が騒がしくなる。

#ふうき

「ふふふ!やったねナカミチ君!」

#ナカミチ

「……ああ。よかったな。……えっと。風紀さん」

#ふうき

「…………。」

#ふうき

「ふふふ!がんばるね!」

#ナレーション

彼らの長い回想も終わりが近い。

#ナカミチ

「まぁ俺は特に関係ないけど」

#ふうき

「あー!そう言う事いうー!」

#クラスメイト

「おっ。なんだ?」

「ナカミチが何かやらかしたらしい」

「マジか。吊るしあげよう」

#ナカミチ

「なぜだ」

#ナレーション

騒がしいままの教室を眺めたあと、くぜ先生は教室を出て行った。ナカミチ君が最後に見た顔はやさしいまなざしに見えた。

 

#ふうき

「で、まぁ。……くぜ先生のおかげもあって委員長をやめて風紀委員になるって言って。これもまぁ、くぜ先生に許可を……、もらったっていうのかな?」

#ナカミチ

「いや、見て見ぬふりをしてもらっただけだな」

#ナレーション

再び2年後。話しあっている人数はさらに増えている。

#ましろ

「見て見ぬふり?」

#みしろ

「前のクラスでは風紀委員はいなかったよね。姉さん」

#ネネ

「そういえばお2人には説明していませんでしたね」

#さいか

「その、言ってみれば自称のようなものですから。クラス皆はみとめていますけど」

#ミサキ

「クラス公認、自称風紀委員。それがうちの風紀さんだね!」

#ふうき

「わーい」

#ナレーション

風紀さんのばんざいポーズが決まった。

#ましろ

「……そっか。実は不思議に思ってはいたの。2年生の時いつの間にか風紀さんが風紀委員だったから。なんかそういうものなのかなって」

#みしろ

「あー。そういえばいつのまにかそうだったね」

#ましろ

「……。」

#ナレーション

気にしてもいいし気にしなくてもいい。支障は起きなかった。

#このみ

「……。」

#ナレーション

もう1人黙ったままである。口は半開き。

#ナカミチ

「……どうした?」

#このみ

「じ……、」

#ネネ

「……じ?」

#このみ

「自称だったんですかああああ?!」

#ナレーション

もう1人知らない子がいた。

#ふうき

「え?」

#ナカミチ

「え?」

#クラスメイト

「うおっ?な、何だ急に叫んで?」

「どうしたの朝から?またなんかナカミチ君がやったの?」

「そうでしょうねぇ……。」

#ナカミチ

「……なぜだ」

#ふうき

「私より先に疑われるところ。すごいとおもうよ」

#ナレーション

同情に近いなぐさめだった。

#このみ

「そんなことはどうでもいいんです!なんで私まで知らないんですか!」

#ナレーション

もっともだった。

#ナカミチ

「……言ってなかったっけ?」

#ナレーション

そう言いながら風紀さんの方を見る。

#ふうき

「……う、うぅん。言ってなかったってことだろうねぇ」

#ましろ

「一応言っとくけど私たちも教えてもらってなかったよ?」

#みしろ

「あ。ナカミチ。この顔は姉さん怒ってるよ」

#ましろ

「怒ってはいない」

#ナカミチ

「何でおれだけ……。」

#ネネ

「な、なんででしょうね。その辺は私たちも謝るところですけど」

#ナレーション

あなたから教えてほしいという事だろう。たぶん。知らないけど。解説役としてはそんなこと言われてみたいものだ。

#クラスメイト

「で?結局何だったんだ?」

「風紀さんの風紀委員の役職が自称ってこと知らなかったみたい」

「……言ってなかったか?いや、言ってないから騒いでるのか」

#ミサキ

「ま、まあまあ。これで知れたという事で。ごめんね。このみちゃん。ましろちゃんとみしろちゃんも」

#このみ

「ミサキちゃんに言われたら仕方ありませんね!ナカミチ君!ミサキちゃんに感謝しとくんですよ!」

#ましろ

「私は別に怒ったりしてないよ。ほんと」

#みしろ

「なにか怒る事でもないよね。姉さんなぜか怒ってたけど」

#ましろ

「怒ってないって」

#ナカミチ

「……、ありがとう……。」

#ナレーション

消え入るような声で言った。疲れたらしい。

#ミサキ

「あははは……。感謝される事じゃないけどね……。」

#ナレーション

ミサキちゃんも珍しく少し疲れた感じだ。

#クラスメイト

「いや、しかし懐かしいな。風紀さんの風紀委員宣言」

「あの時はもう2人は決まったようなものと思ったのにねー」

「そうか?なんか次の日からおかしかったような」

#クラスメイト

「え?何の話?」

「そりゃ、なにの話よ。いい雰囲気だったじゃない」

「あれから1人、2人から6、7と増えて……。いや?8か?」

#ナレーション

おもいおもいに話をする。何を話し合ってるのか?聞くのは野暮だ。

#クラスメイト

「いや、9の可能性、」

「次の日の様子が全く変わってて、」

「これで決まらなかったら本当に吊るさないと、」

#ふうき

「何の話だーーーー!!!」

#ナレーション

思いっきり割り込んできた。

#クラスメイト

「うわわわっ!」

「きゃー!ごめんごめん!」

「逃げろ逃げろ!」

#みしろ

「……なんだったのかな?」

#このみ

「何だったんでしょうねぇナカミチ君?」

#ナカミチ

「知らん」

#ナレーション

刺されたりする前に決めてほしい。流石に心配になってきた。どんな思いかまでは知らないが7人の視線がナカミチ君に向いている気がしなくもなかった。

#校長

「おや。朝から元気ですね」

#ふうき

「席に戻れー!」

#クラスメイト

「わー!」

「急げー!」

「ぎゃー!」

#ナレーション

現在担任を受け持ってくれている校長先生が登場。同時にチャイムが鳴った。おそらく本鈴である。

#このみ

「あぁ。この感じ、ひさびさですねぇ」

#ナカミチ

「いいから席に戻るぞ」

#ナレーション

今日も騒がしい一日になりそうだった。

 

 

 

 

#ナレーション

理科室。ナカミチ君は1人で作業をしていた。場面は再び2年前。風紀さんが委員長を降りた日。

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

1人で何をしているのかというと。どうもペットボトルのふたから体育祭で使用した基板をとりだしているようだった。

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

取りだし終えた基板の金属部分は赤くさびていた。部品を取り付けた部分も赤くさびている。おそらくは埋め込みに使った紙粘土の水分によるものだろう。そして、取り出した基板は、

#ふうき

「ナーカミーチくーん!手伝いに来たよー!」

#ナレーション

扉が勢い良く開かれる。ナカミチ君驚いてびくっとしていた。

#ナカミチ

「……このくらい1人で出来るぞ」

#ふうき

「もともと私が始めた事なんだから。委員長を辞めたと言ってもこのぐらいさせてよ」

#ナカミチ

「……じゃあ半分よろしく」

#ナレーション

そう言って机の上に置かれた色とりどりなペットボトルのキャップを半分ほどを机の反対側へ押して動かす。風紀さんは置かれた場所に座った。

#ふうき

「よーし。じゃあ取り出して行こうか。えーっと。シャーペンでいっか」

#ナカミチ

「いや、よくないだろう」

#ナレーション

そういって座っている足元に置いていた工具箱を机の上に置く。

#ナカミチ

「これがちょうどよかった」

#ナレーション

そう言って手元に置いていたマイナスドライバーを渡す。これで基板をふたから掘り出したのだろう。

#ふうき

「おお、ちょうどいいね」

#ナレーション

紙粘土をくりぬきながら基板をとり出す。ナカミチ君も工具箱から大きめのドライバーをとり出して再度取り出し始める。

#ナカミチ

「……本当に別に良かったんだぞ。手伝わなくても」

#ふうき

「なに?手伝ってほしくないの?」

#ナカミチ

「そうは言ってないが……。」

#ナレーション

こういう時はありがとうと言うべきだろう。照れくさいのだろうか。

#ふうき

「それを言うならナカミチ君の方だよ。わざわざ何をするのか黙って1人で引き受けなくてもよかったのに」

#ナカミチ

「一応まだ俺は副委員長だからな」

#ふうき

「あー。ずるーい」

#ナカミチ

「ずるくは無いだろ」

#ふうき

「いいや。そう言うのはずるいって言うの。まだ先生にやめるって伝えてないから副委員長とか。だったらいつ先生に言うの」

#ナカミチ

「……明日かな」

#ふうき

「ふーん。ずるーい」

#ナカミチ

「なんでだ」

#ふうき

「えへへ。ずるーい」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

黙って作業をすることにしたらしい。風紀さんも作業を本格的に始める。

#ふうき

「……こんなに錆びて」

#ふうき

「……よーし。1つ目っと」

#ナレーション

机の上に基板と紙粘土とふたが並べられる。不燃ごみ、可燃ごみ、プラスチックごみ。

#ふうき

「これを分けて捨てるっと。やれやれまじめだね。ナカミチ君は。お昼休みに集めて回ってた時は驚いたよ」

#ナカミチ

「ごみ分別してるだけだ。しかも授業中に」

#ナレーション

時間的には5限目。1年生はこの日、この学校で特殊な時間帯、魔道実習の時間らしかった。で、あれば本来実験室として解放された理科室に機械科の生徒はいるべきはずだが。2人しかいない。他は図書館とかだろう。

#ふうき

「捨てるからってだけ言って集めて。取り出したりする作業があるって言ったらみんな手伝ってくれるんじゃないの?ナカミチ君はそう思う方でしょ」

#ナカミチ

「思うけどな」

#ナレーション

その後は黙々と作業を続けて行く。

#ふうき

「よし、これでラスト」

#ナレーション

手持ちの分をすべて分別し終えた。

#ふうき

「終わったよー?ナカミチ君まだー?」

#ナカミチ

「……まだだ」

#ナレーション

ナカミチ君はまだ終えてなかった。

#ふうき

「少し少なめにわたしたりしたんでしょ?ふふふ。自業自得だね」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

それは自業自得だ。自分で落とし前をつけるべきだろう。

#ふうき

「そういえば……。ネネちゃんの燃えた分はどうしようか……。」

#ナカミチ

「くぜ先生が処分したよ」

#ナレーション

作業しながらナカミチ君が答える。

#ふうき

「そうなの?」

#ナカミチ

「ああ。靴はもう捨てるしかないし、基板も燃えたり、周りの熱で変形してたから捨てた」

#ふうき

「そっか」

#ナカミチ

「……よし、終わったぞ。全部捨てていいよな?」

#ふうき

「うん。捨てよっか」

#ナレーション

2人で教室の各種ごみ箱へ放り込む。

#ふうき

「自業自得、か」

#ナレーション

錆びた基板を見ながらそうつぶやいた。

#ふうき

「さて終わり終わり。この後はナカミチ君どうするの?」

#ナカミチ

「いつも通り家庭科室かな」

#ふうき

「そう?じゃ私はここに居とくよ。1人ぐらいちゃんと機械科らしくしないとね」

#ナカミチ

「なんだそれ」

#ふうき

「まぁ少しぐらい勉強しようと思ったんだよ。何も知らないんじゃ使う時に事故も起きちゃうからね」

#ナカミチ

「……そっか。じゃあな」

#ふうき

「うん。じゃあね。……あ、そうだ」

#ナカミチ

「ん?」

#ナレーション

教室を出ようとしていたナカミチ君が振り返る。

#ふうき

「今日から私が風紀委員だからね。しっかり掃除してもらうよ。6限目終わったらすぐ教室に戻ってくるよーに」

#ナレーション

笑顔でそう言っていた。

#ナカミチ

「……わかったよ」

#ナレーション

ああいう顔には逆らえない。観念したまえ。

 

 

 

 

#クラスメイト

「ふへー。つかれたー」

「掃除も体力がいるからな」

「汚れもたまってたみたいだしね……。」

#ふうき

「おつかれー!いやー!ピゥイッカピィッカだね!」

#ナレーション

6限目も終わり、初めての風紀さん指導のもと行われた掃除も終わったらしい。床はピッカピカ。いや、ピゥイッカピィッカになっていた。ただ疲れ果てたクラスメイトが雑巾を握ったまま倒れてぼろ雑巾のようになっていた。

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

ぼろ雑巾の一例。早々に教室に帰ってきた彼は1番長く動いていた。

#ミサキ

「ほんとにきれいになったねー」

#ナレーション

元気が残っているミサキちゃんはきれいになった教室がうれしそうだった。

#さいか

「窓も黒板も時計からカーテンまで……、全て……、掃除しましたから……。」

#ナレーション

元気の残ってないさいかちゃんは息も絶え絶えに机に座っている。

#ネネ

「…………。」

#ナレーション

元気ゼロ。机に突っ伏している。

#ふうき

「今日は初めてだったから全員でやって大変だったけど明日からは当番制に戻すよ。といっても今までよりは時間と体力使うけどね」

#クラスメイト

「これは間違いなく風紀委員……。」

「だれだよ風紀が乱れるとか言ってたやつ……。」

「風紀委員の鏡……。」

#ナカミチ

「教室に生徒が転がっている状態は風紀が保たれてるとは言えないと思うが……。」

#ナレーション

なんとか起き上がってきた。

#ふうき

「教室をきれいに保つためには多少の犠牲は仕方ないからね」

#ネネ

「普通、掃除で聞く言葉ではないですね……。」

#ナレーション

時間と労力は犠牲になった。人は犠牲になっていないのでセーフ。人の価値は時間と労力だけではない。らしい。

#さいか

「教室の掃除も業者さんがやってくれると楽なんですけど……。」

#ミサキ

「まぁ楽ではあるかもしれないけど自分でするものじゃない?」

#ネネ

「分担や効率を考えるなら全部任せた方がいいんでしょうけどね。学生にさせるという事が大事ですし」

#ふうき

「清掃は自分たちの教室だけでいいって国立高校は珍しいと思うけどね。まぁ規模が大きいからかな。それよりみんな。座らなくていいの?」

#クラスメイト

「そう言われてもまだ動けない」

「床が冷たくて……。」

「やばい。眠くなってきた」

#ふうき

「くぜ先生もういらっしゃってるよ」

#ナレーション

一斉にばたばたと動きだす。掃除の片づけも終わり、着席。廊下からくぜ先生が入ってくる。

#ふうき

「お待たせいたしました」

#くぜ

「……まだホームルームの時間ではありませんし、そこまで急がなくてかまいません」

#ふうき

「早く終わるにこしたことは無いでしょうし……。」

#くぜ

「……そうですね。では、連絡事項は1点。新しく委員長と副委員長を決めなくてはいけません」

#ナレーション

さらっと告げられた言葉に重さがあった。誰も立候補はできなかった。

#ふうき

「誰かがやってくれると助かるんだけどなー」

#ナレーション

再度、静けさが教室に満ちる。

#くぜ

「……わかりました。しばらくは検討中という事にします」

#ネネ

「……その。また、風紀さんとナカミチ君がやるというのは」

#くぜ

「風紀さんは無理です」

#ふうき

「そりゃあそうだよ。やめたんだから」

#くぜ

「やめたからではなく不適当として許可がおりません」

#ふうき

「ばっさりいかれた……。」

#ナレーション

気にしていないのか気にしていないふりをしているのかはわからないが本人だけが深刻そうにはしていなかった。

#ふうき

「あ、でもナカミチ君は行けるみたいだよ。どう?」

#ナカミチ

「やらない」

#ナレーション

即答だった。

#くぜ

「無理に決めなくてかまいません。それにどうせ仮という事になりますから」

#ネネ

「仮?ですか?」

#くぜ

「委員長や副委員長を任せて大丈夫なのかどうか試用期間を設けるそうです。……面倒なのでやりたい方がいないようならそれでかまいません」

#ミサキ

「えぇー……。」

#ナレーション

めんどくさい事に付き合う義理はくぜ先生には無かった。

#ふうき

「自称とどっちが強いですか?!」

#くぜ

「仮です」

#ナレーション

終わり。

#くぜ

「では今後、委員長が行っていた業務はその日の日直が担当するように。では解散」

#ふうき

「はい!起立!」

#ナレーション

風紀さんの号令によりクラスメイトが立ち上がる。素早い動きは賞賛されるまのだが、まぁ当然くぜ先生の表情は険しい。

#くぜ

「私の話を聞いてましたか?」

#ナレーション

その眼光は生徒に向けていいものかどうか。

#ふうき

「いえいえ!今日ぐらいは後始末という事で!へぇ!させていただきやす!」

#ナレーション

めげない。

#クラスメイト

「なんでいちいち信用できないような口調なんだ?」

「それは……、趣味じゃない?」

「趣味だろうな」

#ナレーション

趣味らしかった。

#くぜ

「……。わかりました。号令を続けてください」

#ナレーション

押し負けたと言えるかもしれない。

#ふうき

「了解しました!では再度姿勢を直して!……礼!」

#ふうき

「ありがとうございました!」

#クラスメイト(全員)

「ありがとうございました!」

#ナレーション

号令が響く。

#くぜ

「……はい。気をつけて帰るように」

#ナレーション

教壇からそう言った。

#ふうき

「かいさーん!!」

#クラスメイト

「よっしゃー!帰るぞ!」

「今日こそ1番に学校を出る!」

「そううまくいくかしら!」

#ナレーション

ずだだだだ、と生徒たちが廊下へ出て行く。くぜ先生は1つ溜息をついたが止めなかった。止めた方がいいのは間違いないだろうが。

#ネネ

「……さいかさん、どうしましょう?」

#ナレーション

やめた方がいい。とはわかってるがそれでいいのかも悩ましいらしい。苦悩は美しくもある。

#さいか

「えっ?あっ。えっと。……自分で決めてください」

#ナレーション

その方がきっと悩んだ価値がある。そういう事だろう。

#ネネ

「……そうですね。じゃあ行きます」

#ナレーション

そう言ってネネちゃんも走り出した。結論は出ていたようだ。

#さいか

「あっ。わ、私も行きます!」

#ナレーション

乗り遅れてはいけない。そういうものもある。

#ふうき

「ほら!何してるの!ナカミチ君も行くよ!」

#ナレーション

急かされている子もいた。決定権とか否決権は無い。ほら急ぎたまえ。

#ナカミチ

「わかった。わかったから。押すな。教科書をまだかばんに入れてない」

#ふうき

「また明日使うでしょ?!」

#ナカミチ

「いや、それで持って帰らないのはよくないだろう。だから押すな!もう直し終わるから!引っ張るのもやめろ!」

#ナレーション

よくないらしい。押されるまま、片手を引っ張られるままにもう片手に教科書を持ったまま廊下へと消えて行った。

 

 

 

 

#ナレーション

帰り道。まだ日は高く、暖かさも少し感じる。そろそろ夏が来るのかもしれないと思わせるような時間が流れていた。

#ふうき

「なんとか今日も終わったって感じだね」

#ナカミチ

「全く同感だ」

#ふうき

「なんでこう毎日ドタバタするかなー」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

黙っておいた。君のせいだなんて女の子に言うべき言葉じゃない。もっとこうやさしい言葉を。まぁ、彼には無理だった。

#ふうき

「ま、とりあえずしばらくはおとなしくするよ」

#ナカミチ

「しばらく、か」

#ふうき

「まぁね。明日は掃除の時ぐらいかな。騒がしくするのは」

#ナレーション

騒ぐのは決まりらしかった。

#ふうき

「んじゃ、明日もよろしくね」

#ナレーション

分かれ道にさしかかる。

#ナカミチ

「よろしくって……。また何かあるのか」

#ふうき

「何かあったらよろしくってことだよ。またなんとかしてくれるよね?」

#ナカミチ

「いや、まずそういう事がない方がいいんだけどな」

#ふうき

「ま、危ない事はもうしないよ。次はもっと気をつけるから」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

次やる気満々だった。そんなものだ。人は懲りない。それはめげないという事でもあるが。だが前よりは他の人の事を考えるだろう。成長とはそういうものかもしれない。

#ふうき

「今回ももっと気をつけてればなー。でもまさかってところから失敗はおきちゃうんだね」

#ナレーション

もう少し懲りた方がよさそうではある。

#ナカミチ

「……絶対にネネさんを責めるなよ」

#ふうき

「それはわかってるよ。……うん。一番悪いのは私だから。あやまったよ。……。」

#ナカミチ

「……落ち込まれるとかえってみんなに心配かけてしまうかな」

#ふうき

「それもわかってるよ。うん」

#ナカミチ

「うん。……じゃあ明日もよろしくな」

#ふうき

「私はよろしくされる事なんかないよー。じゃあねー」

#ナレーション

そういって軽く手を振り帰っていく。

#ナレーション

ナカミチ君がその後ろ姿を見つめているとふと振り返った。

#ふうき

「……また明日ー」

#ナレーション

とりあえず彼は手を振ってこたえた。風紀さんの姿が見えなくなると彼も自分の家へと足を動かした。

 

 

 

 

#ナレーション

次の日。少し暑く感じる通学路。くぜ先生が学校へと箒で飛んでいく姿を見て、ましろちゃんに挨拶をもらって、返事をし、通り過ぎるのをみしろちゃんが追いかけていき、学校について、教室へ。

#ナレーション

すでに風紀さんは来ているようだ。かばんが置かれている。自身もかばんを机に置いて席に着く。

#ナカミチ

「……風紀さんはどうしたんだ?」

#ナレーション

後ろのクラスメイトに聞く。

#クラスメイト

「挨拶の前に風紀さんの事かよ……。まぁいつものことか」

#ナレーション

半ばあきれられていた。

#ナカミチ

「ご、ごめん。おはよう」

#クラスメイト

「ああ。おはよう。で?風紀さんか?昨日も聞いてきたが、そういつも風紀さんの居場所を知ってるわけないだろ?ナカミチじゃねえんだから」

#ナカミチ

「いや、なんで俺だったら知ってるみたいな言い方なんだ」

#クラスメイト

「まぁ?人の趣味は人それぞれだけどな」

#ナカミチ

「何の話だ……。」

#クラスメイト

「そらまぁ何の話だよ。高校生活、そういったことも大事だと思うぞ。まぁ?人の趣味は人それぞれ、」

#ナカミチ

「それはもういい」

#クラスメイト

「とにかく知らないもんは知らないな」

#ナカミチ

「そうか。ありがとう」

#ナレーション

そのまま自分の席に座り、鞄を机の横にかけ、中身をとりだしていると教室のドアが開いた。風紀さんだ。

#ナレーション

そのまま、風紀さんは変わらない笑顔ですたすたと足を運んできていた。

#ふうき

「おはようナカミチ君」

#ナカミチ

「ああ、」

#ナレーション

その瞬間、風紀さんの表情がどこまでも無感情を思わせるような。そんな表情を浮かべる。

#ふうき

「ちょっと来てよ」

#ナレーション

手首をつかまれる。引っ張られる。つかまれている手が震えるほどに強い力で握られる。どんどんと引く力が強くなっていく。

#ナカミチ

「……わかった」

#ナレーション

その言葉を聞いて手の力が緩められる。反射的に手を振りほどき、立ち上がる。

#ふうき

「……。」

#ナレーション

風紀さんは黙って廊下へと歩いて行く。

#ナレーション

階段付近で止まった風紀さんはナカミチ君へ向き直る。

#ふうき

「知ってること全部話してくれる?」

#ナカミチ

「何も知らない」

#ふうき

「そんなはずはない」

#ふうき

「……昨日もう一度学校に行ったんだ。理科室に行ってごみをあさったの。そしたら2人分足りなかった。基板が」

#ナカミチ

「……うん」

#ふうき

「1人はネネちゃんが使ってたやつでいい。くぜ先生が処分したから。じゃあもう1人分は?」

#ナカミチ

「……知らない」

#ふうき

「誰かの分を回収し忘れた?」

#ナカミチ

「……全員分回収したよ」

#ふうき

「じゃあなんで足りてないの?!」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

黙っていた。黙っているのが正しいと彼は決めたから。

#ふうき

「…………そっか。やっぱり私のためにしてくれた事じゃなかったんだ」

#ナカミチ

「……そうかもしれない」

#ふうき

「昨日ね。帰り道でおかしいと思った。気づいた」

#ふうき

「……ゴミ捨て場もあさったの。他の探せるところのごみ箱もあさった。すごい匂いだった。暑くなってきたからかな?ごみのにおいがすごかったの」

#ふうき

「ただ1つ部品が、基板が見つかればよかった。見つかったところで、何になるのかわからなかったけど。暗くなるまで探した。ごみ捨て場でごみが見えなくなるまで。そのぐらい暗くまで」

#ナカミチ

「……。」

#ふうき

「…………ひどいよ」

#ナレーション

そう言い残して、逃げるように走って行った。

 

 

 

 

#ナレーション

その日、風紀さんはとても静かだった。

#ナレーション

正確に言えば、彼女は授業が終わるたびに姿を消した。元々授業は真面目に受けている子である。時々、教科書は授業と関係ないところを開いていたりするが。

#ナレーション

眠っているお昼休みを除いて、休み時間に彼女は騒がしいのである。彼女は走りまわるわけではない、行動の1つ1つが大げさであり、目に付く。声が大きいわけではない。が、耳に付く。

#ナレーション

その日、教室は平穏だった。

#クラスメイト

「よーし。掃除すっぞー」

「今日からしっかり掃除するんでしょ?」

「せっかく昨日きれいにしたんですし。でもどうしたらいいかしら?」

#ナレーション

風紀さんの姿はすでになかった。掃除は進んでいく、教室はさわがしくなり、掃除の当番以外は廊下へ追い出される。ナカミチ君も叩き出されるように廊下へ。

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

壁にもたれながら掃除中の教室を見る。教室前の廊下掃除に合わせ、時々移動する。とても手持ち無沙汰に見える。ほら、することがあるだろう。動け動け。

#ナレーション

彼はそのうち学校中を移動し始めた。廊下、運動場、校門付近、体育館、理科室。

#ナレーション

風紀さんは見あたらなかった。

#ナレーション

彼が教室に向かって階段を上がっていると、階段を下りてくる風紀さんに会った。さっき見あたらないと説明したばかりなのであるが、探すと会えないとかそういうたぐいのものであろうか。

#ナレーション

実際は双方とも教室に帰るところだったから出会えたのであろう。ナカミチ君が風紀さんを探し出せたかどうかは微妙なところだが見つけたからセーフだろう。

#ナレーション

風紀さんはナカミチ君に気づいたものの特に何も言わず歩く。向かう先は一緒。横並びである。微笑ましい。いや、修羅場だろうか。

#ナカミチ

「クラスの掃除、しっかり進んでるぞ」

#ふうき

「……そう?まぁ今の私にそれがどれだけ必要な事なのか、もうわからないけどね。……こんな風紀委員必要ないね。私、風紀委員も失格かなぁ」

#ナレーション

そう言って教室のドアを開ける。

#クラスメイト

「あ、風紀さん。どう?風紀委員さんの目から見て」

「きれいに保つにはやっぱ雑巾がけが必要だと思ってな」

「掃き掃除の後、窓、机、床を拭いて、乾拭きまではしたんだが、どうだろう」

#ナレーション

今まで掃除をしてたのであろうクラスメイト達がわらわらと風紀さんのもとに集まってくる。

#クラスメイト

「今日1日の汚れがなくなって見えるよな」

「ここまできれいになると明日以降の掃除、ハードルが上がるわねー」

「明日以降は手早さも求めるといいんじゃないか?」

#ナレーション

今日は登板ではなかったクラスメイト達もわらわらと。

#ふうき

「……うーん。そのきれいになった教室が私の目線じゃ見えないよー」

#ナレーション

風紀さんを取り囲むクラスメイト。みんなの顔を見上げる風紀さんだが教室を見ようとしてもクラスメイト達の制服しか見えない。成長期はもうすぐだ。めげることなく生きてほしい。

#クラスメイト

「あ、ほんとだ」

「はーい。解散解散」

「道を開けろー」

#ナレーション

自分たちのクラス、学びの園。その場所は昨日よりも鮮明に見えた。

#ふうき

「……。」

#ふうき

「……まいったね。これじゃあ本当に、ね」

#クラスメイト

「まいったって。これはいいという事か?」

「どうでしょうね。頭を抱えるほどということだから」

「わからん」

#ミサキ

「わかりづらいよー。もうちょっとわかりやすく言うべきだと思うけど」

#ネネ

「ふ、風紀さん。みなさん頑張ったんです。その辺を考慮して、ですね」

#ふうき

「いやいや!悪く言うわけないよ!それじゃ本当に性格悪いじゃん!」

#クラスメイト

「て、ことは?……というか悪くは無いけどさ」

「そもそも風紀さんの性格、あれはいいっていうの?」

「悪くは無いだろうけど……。ひどい?」

#ふうき

「ひどくないー!せいぜい困ったちゃんだー!」

#クラスメイト

「うわわ!」

「わ、わるかったって!」

「ご、ごめんなさいー!」

#ナレーション

本調子である。

#ナカミチ

「困ったやつなのはもう知ってるから結局どうなんだ」

#さいか

「やっと掃除の話に戻りましたね……。」

#ネネ

「少し脱線しただけのはずがなぜこうも……。」

#ミサキ

「まぁその辺は愛嬌だよね。……人によるだろうけど」

#クラスメイト

「これを愛嬌だと受け止めれる人はいるのかしら」

「いるならその人に任せるべきだな」

「邪魔するべきではない……。いや、だれもする必要がないか」

#ナカミチ

「戻った話を再度脱線させるな!」

#ミサキ

「……ごめん」

#ナカミチ

「あ、いや。悪いのは風紀さんだから」

#ふうき

「……ひどーい」

#ナレーション

かわいらしく拗ねた。

#さいか

「ナカミチ君?それはどうなんですか?」

#クラスメイト

「あーあ」

「自業自得」

「因果応報」

#ネネ

「……。」

#ナカミチ

「……もう知らん」

#ナレーション

拗ねた。男が拗ねてもかわいくない。だれか彼の味方はいないのか。絶賛募集中。まぁ本当に困ったらみんな助けてくれるだろう。多分。

#ふうき

「じゃ、まぁ。求められたとおりにやりまーす」

#ナレーション

ナカミチ君が拗ねたからかどうかはわからないがようやく風紀さんが動き始めた。とてとて、と教壇のほうへ。

#ふうき

「……つー」

#ナレーション

歩きながら優雅に、声で擬音を発しながら。右手の人差指で教壇の机を文字通り、つー、っとなぞる。なぞった人差指をじっと眺める。

#クラスメイト

「なんだありゃ?」

「あれだ。埃が残ってますわよ。とかいうやつ」

「あー、そりゃ性格悪いわね。ってそこは求めてないでしょ」

#ナレーション

ご期待に添えてきっちり決めてきた。

#ふうき

「……うん。完璧。塵ひとつないや。完璧だね!」

#クラスメイト

「よーし!風紀委員のオッケーが出たぞー!」

「ま、しっかりやったから当然だ。うん。よかったな」

「その通りだな。よかった。よかった」

#ミサキ

「うんうん。よかったー。私的には昨日よりきれいに見えるよ」

#さいか

「まぁ……、そうですね。そうかもしれません」

#ふうき

「……ま、実際昨日よりきれいだと思うよ。昨日やったのは大掃除だからね。微細な埃まで掃除できてなかったかもしれないし、掃除の後で部屋に舞っていた埃が全体に積もったかもしれないしね」

#さいか

「……そうですね。今日は目に見えるところを重点的に掃除したとも言えますし……。言い方が悪いかもしれませんけど」

#ネネ

「では明日以降もこの感じで」

#ミサキ

「もう明日の話してる……。」

#さいか

「……ふふ。待ちきれないんでしょうね」

#ネネ

「ち、違います。継続が必要だという話です。そうですよね」

#ふうき

「どうだろうねー」

#ネネ

「……も、もうしりませんっ」

#ミサキ

「あ、拗ねた」

#ナレーション

1名追加であった。

#ナレーション

あいかわらず騒がしいというべきか、ついに騒がしくなってきたというべきか。こうして日々は形作られ続いて行く。そして、チャイムが学校に鳴り響いた。

#くぜ

「……。」

#ナレーション

あけっぱなしの扉からくぜ先生が入ってきた。

#クラスメイト

「あっ」

「ん?」

「えっ」

#ナレーション

ホームルーム開始。

#ふうき

「撤収ー!」

#ナレーション

くぜ先生が扉を閉める音がまるで聞こえないぐらいにあわただしく生徒たちが席へと向かう。その姿を横目で見るくぜ先生の顔は少し笑っていたかもしれないし、あきれていたかもしれない。どっちだろうね。とにかく1日が終わった。

#ナレーション

そんな日々が続いていった。

 

 

 

 

#このみ

「ナカミチ君、今日はありがとうございました」

#ナレーション

夕方。空が夕日色に染まる。少し前、ナカミチ君とこのみちゃんが1年生の頃のお話をしていた休日。そんな日々が続きに続いた約2年後である。いろいろ続いていろいろあった。まぁそれより、しかしほんとよく時系列が飛ぶ事で。

#ナカミチ

「いや、お礼を言われるようなことでもないよ」

#ナレーション

話し終えた2人は帰り道を一緒に帰っていたようだ。分かれ道を前に少し立ち止まって話し合う。別れが惜しいのだろう。まさしく青春の1ページというやつだ。その1ページ後また3カ月ぐらい飛んだりしないだろうか。

#ナカミチ

「まだ明るいけど自宅まで付き添おうか?」

#ナレーション

聞かずについていけばいいものを。しかし彼にしてはすさまじく踏み込んだ行為だろう。きっと内心帰り道の間その言葉を言おうか言わないでおこうか迷っていたに違いない。頑張れ男の子。

#このみ

「いいえ。それはまた今度の機会に」

#ナレーション

体よく逃げられたか否か。しかしこのみちゃんの表情を見るにいたずらっぽい笑顔であるし勝算はあるかもしれない。これからも頑張れ。

#ナカミチ

「そうか」

#このみ

「ええ。また学校で」

#ナレーション

こっちを向きながら手を振って帰っていくこのみちゃん。後に残されたナカミチ君も手を振ってこたえる。夕暮れに染まる景色を見ながら彼は体育祭の事を思い出していた。彼の目はとても澄んで見えた。さぁ、次は約2年前である。

 

 

 

 

#ナレーション

体育祭は混乱を極めていた。リレー競技での混乱が収まりかけていた矢先、1年の機械科が崩壊、逃げ出した。混乱の中心はグラウンドから逃げ出した生徒たちに移り、学校中に散開していた。

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

ナカミチ君もまた逃げるように走っていた。周りから噂が聞こえる。機械科の仕業だって、みんな逃げたらしいな、なにそれ笑える。といった、思い通りの噂が立っていた。

#ナレーション

そして彼が逃げる先には1人の少女がいた。彼は逃げるというよりは追いかけていた。もちろん。それは、さいかさんだった。

#ナレーション

校内を走り、また出て、グラウンド付近、校門前、また校内、また出る。そして、校舎裏で立ち止まり―――

#さいか

「……なんでしょうか」

#ナレーション

振り返ってたずねてきた。正真正銘、体育祭、最後の1ページ。

#ナカミチ

「ああ。少し用事があって」

#さいか

「用事?回りくどい言い方ですけど……。なんでしょうね」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

聞く事は1つ。君を疑っている。なかなかハードな言葉だ。

#さいか

「……。まさか告白だとか……?その、困ります……。なんとお断りしたらいいのか……。」

#ナレーション

お断り前提だった。というか断られた。何も言っていないのに。おどおどと困っているような素振りはかわいらしいと言えるが。まぁ演技だろう。

#ナカミチ

「……靴」

#ナレーション

ぴた。とさいかちゃんの動きが止まる。それを見てナカミチ君は言葉を続ける。

#ナカミチ

「おかしいと思うんだ。ネネさんの靴が発火する?同じグループで作っていたんだ、そんなこと起きると思えない」

#さいか

「……現に起きました」

#ナカミチ

「だからおかしいんだ」

#さいか

「……回りくどいですよ。こうおっしゃりたいんですよね……。私が細工した、って」

#ナカミチ

「……そうだ」

#さいか

「……いえ、もし私じゃなかったら。……そう。風紀さんやミサキさんが細工したかもしれません」

#さいか

「どうでしょうか」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

彼は相変わらずの無表情だった。

#さいか

「……ふふっ。怒りました?でも私にだってそのぐらい言わせてくれてもいいのではないですか」

#ナレーション

そう言って一歩近づいてきた。

#さいか

「不機嫌だったネネさんより、信用できないような風紀さんより、真横に居たミサキさんより、私が疑われるんですから」

#ナカミチ

「不機嫌だったのも信用していなかったのも、ネネさんにいちばん親しくて近くに居たのもさいかさんだ」

#さいか

「……そう見えてましたか」

#ナカミチ

「俺はそう思った」

#さいか

「……。そうですか。だから私が犯人だと。そう私が認めると思っているんでしょうか」

#ナレーション

一歩詰め寄ってくる。

#さいか

「……まぁ、今日一番面白くはありますね。……どきどきします」

#ナレーション

そう言って。にっこりと笑った。

#ナレーション

……それでもその笑顔は疲れているように見えた。

#ナカミチ

「さいかさん」

#さいか

「なんでしょうか」

#ナカミチ

「その靴の中に入っている魔動具。さいかさんの作ったものじゃないよな」

#さいか

「いいえ。私のです。白いプラスチックのケースに紙粘土が詰め込まれた、ね」

#ナカミチ

「その中の機械もか?」

#さいか

「……ええ。間違いなく。2か所の角を大きく削った基板です」

#ナカミチ

「それが自分のものだと言うのか」

#さいか

「そうですね」

#さいか

「初めは私も4角を削ろうと思っていたんですが……。」

#さいか

「ネネさんの作っている基板を見る機会があって。これはいいと思って私もそうしました。……ナカミチ君が私を見ていてくれていれば覚えているはずですよ」

#ナカミチ

「……。ケースをとりに来てたな。白いプラスチックのふたを取って行った」

#さいか

「そこまで覚えてくれていると思わなかったです……。少しうれしいです」

#ナカミチ

「ケースまでは覚えてないが多分白だったんだろう。そう思っただけだ」

#さいか

「……残念です。細かいとこまで見ていてほしいって。そう思います」

#ナカミチ

「ネネさんのケースも白色だったしな」

#さいか

「……わざわざありがとうございます」

#ナカミチ

「ちなみにな、ネネさんは3か所の角を大きく削ったよ」

#さいか

「…はい?」

#ナカミチ

「取りつけ穴を1つ残したストラップ型だそうだ」

#さいか

「……な、なんのはなし、でしょう」

#ナカミチ

「ネネさんが作った、その靴の中に入ってる基板の形だよ」

#さいか

「…………。…………………。」

#ナカミチ

「……何も言えない、か」

#さいか

「…ふ、ふふ。は、は。あはは」

#ナカミチ

「……。」

#さいか

「でも、でも失敗ですね。みんなの前でこういいます。私もストラップ型にしたって。私がどんな形にしたのかは、だれにも、見られないように、作ったから!」

#ナカミチ

「……自分のためだけにしたんじゃないはずだ。風紀さんの考えが気に入らなかった。そうだな?」

#さいか

「あの人が気に入らないのは確かです。ナカミチ君はそうじゃないようですけれども」

#ナカミチ

「考え方なんてそれぞれが違っていいはずだから。その中身がいいか悪いかはまた別だ。そしてあんなことになるほど彼女が、風紀さんが間違っているとは思えない」

#さいか

「……。」

#ナカミチ

「そうだろ?さいかさんもそう思っているはずだ」

#さいか

「……。……どうぞ」

#ナカミチ

「っと」

#さいか

「今お渡ししたそれがネネさんの作ったやつです。全てナカミチ君のおっしゃったとおりですよ」

#ナカミチ

「……そうか。……よかった」

#さいか

「よかったですね。……もはや憎いなんて言葉じゃ収まりません。……うらやましい」

#ナカミチ

「……。」

#さいか

「大丈夫ですよ。ナカミチ君がみなさんにお話したら私、認めますから」

#ナカミチ

「いや、話さない」

#さいか

「…………え?」

#ナカミチ

「俺の考え、願いは言った通り、みんなで罪を背負う。それでこれからもみんなで学生生活をおくる。……さいかさんの考えと似てるな」

#さいか

「……に、似てません。……そ、その魔動具、返してください」

#ナカミチ

「え?」

#さいか

「か、返してください!」

#ナカミチ

「な、なぜ」

#さいか

「……っ。……っ。さ、最低ッ!」

#ナカミチ

「あ、さいかさん?!」

#ナカミチ

「……。」

#ナカミチ

「…………。」

#ミサキ

「ちょっとまって」

#ナカミチ

「えっ?!ミ、ミサキさん?!」

#ナレーション

さいかちゃんが去り、ナカミチ君も去ろうとした時、ミサキちゃんが声をかけてきた。が、見渡しても姿が見えない。よく声だけでミサキちゃんだとわかったものだ。これで違ったらどうするのか。

#ミサキ

「あ。こっちこっち」

#ナレーション

校舎内にいた。1階の開いた窓から顔を出していた。

#ナカミチ

「ミサキさん……。いつから?」

#ミサキ

「いつからって言われるとね。ほとんど初めからかな。逃げてるナカミチ君を追いかけてたからね」

#ナカミチ

「なぜ?」

#ミサキ

「ナカミチ君と一緒。どうしてもネネちゃんの魔動具が誤作動したっていうのが違和感があって。もしかしたらって思ったらナカミチ君、さいかちゃんを追いかけてたみたいだから」

#ナカミチ

「そうか……。」

#ナレーション

彼はシリアスな表情を浮かべる。

#ミサキ

「何を話してるか興味あったから盗み聞きしちゃった」

#ナカミチ

「そうか……。」

#ナレーション

シリアスな表情はどっかにいった。

#ミサキ

「……実際はね、ナカミチ君がさいかちゃんを追いかけてるのを見て察したの。だから邪魔はせずにナカミチ君だけでどうにもできなかった時にだけあたしも出ようって」

#ナカミチ

「それは、その、ありがとう」

#ミサキ

「あ、まだ感謝の言葉は言わないで。で、そういうわけであたしは見て見ぬふりをしようって思ってたんだけど」

#ミサキ

「ナカミチ君までが見て見ぬ振りをしたら、」

#ナカミチ

「……。」

#ミサキ

「そのしわ寄せ、ネネちゃんに行くよ。そしてきっと風紀さんにも」

#ナレーション

さて、ミサキちゃんのシリアスな顔は珍しいものだ。この体育祭最後の締めとして、これいじょうはないだろう。

#ナカミチ

「何とかして見せる」

#ナレーション

彼にはそうするしかないから。彼はそうしたいと思っているから。これから彼はそう思い続ける。

#ミサキ

「……うん。じゃあそうしよう」

#ナカミチ

「え?」

#ナレーション

終わった。

#ミサキ

「えっと。実際の実際はね、あたしも何とかしたかったんだけど。ナカミチ君があたしよりよっぽどきれいに解決していったから。何もできなかったの。その、ごめん」

#ナカミチ

「いや、別に謝られることではないけれども」

#ミサキ

「だからさっき感謝されるの困ったんだよね。気まずくて」

#ナカミチ

「……ああ」

#ミサキ

「あ、でも勘違いしないで。あたしはどちらかっていうと黙っているのは反対だからね。ただ……。」

#ミサキ

「きっとナカミチ君が解決したほうがいいと思うから。まかせちゃうね。ごめんね」

#ミサキ

「それにここまで手を出したんだから最後までナカミチ君が解決するべき。でしょ?」

#ナレーション

そりゃそうだろう。手を出しておいて放り出すのはいかがなものか。

#ナカミチ

「そんな決まりはないけども」

#ナレーション

煮え切らない。熱湯にでも放り込むべきだ。

#ミサキ

「もう!頼ってくれたら助けるから頑張って!」

#ナカミチ

「いや、助けてくれとは言わないけども」

#ミサキ

「そういうことじゃないの!ナカミチ君の周りにはあたしより頼りになる子たちがいるんだから、ちゃんとナカミチ君から頼りなさい!ってことだよ?いい?」

#ナカミチ

「あ、ああ」

#ナレーション

生返事だが、ほんとにわかっているのだろうか。

#ミサキ

「だからあたしは見てるだけになりそうだけど、期待に応えてちゃんと解決してあげてね」

#ナカミチ

「……わかった」

#ミサキ

「あ、あと。もし何ともできなかったらあたしも黙ってたって責任分散してもいいからね?」

#ナカミチ

「しないから安心してほしい」

#ミサキ

「むー。やっぱり頼らないなぁ」

#ナレーション

まずは自分で何とかする気持ちは大切だ。何とかできない時に助けてくれる人がいればいいのだが。さてどうなることやら。

#ミサキ

「まぁそんなところかなぁ。……うーん。これからどうしよ」

#ナカミチ

「……どうしようかなぁ」

#ナレーション

騒ぎを起こすだけ起こしてどう収拾をつけるか考えてなかったらしい。

#ミサキ

「……どうなるかな?」

#ナカミチ

「……鬼のいないかくれんぼみたいなものだからなぁ」

#ナレーション

2人で逃避行すればいい。鬼がいなければ永遠にできる。素晴らしい。

#くぜ(放送)

「校内放送です。1年101組の機械科の生徒は至急観覧席まで戻るように。処分と指導においては全員に対して後日改めて指示します」

#ナレーション

全員捕縛。さすがの鬼である。いや、くぜ先生が鬼だと言っているわけではない。

#ミサキ

「あ、ちょうどよくない?先に行ってるね!一緒だと怪しまれちゃうかもしれないし!」

#ナレーション

ピャーっと走っていった。逃避行は終わり。逃避行の相手がナカミチ君では致し方あるまいか。怪しまれてもかまわないとぐらい言ってもいい場面かもしれない。そうでもないだろうか。

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

手の中の魔動具を見て、ポケットに突っ込み、彼はゆっくりと歩き始めた。まだ何も解決していない。これから解決していく。まだ始まったばかりだった。

 

 

 

#ふうき

「……。」

#ナレーション

あれからいろいろあった後、時間軸は今。あの時からもう2年が経とうとしている。時刻は午前中の休み時間らしい。風紀さんは机に座り1人なにかをしているようだった。

#ふうき

「……うぬぬぬ」

#ナカミチ

「近づいてきたのを察して唸るな」

#ふうき

「あ、ばれた」

#ナレーション

1人追加。

#ナカミチ

「それよりも何とかできたぞ。……ん?」

#ナレーション

机の上に数枚の紙を置く。再度置いた紙を持ち上げる。もともと置かれていた紙は白紙である。

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

再度そっと紙を置く。

#ふうき

「……ちっ」

#ナカミチ

「舌打ちを声で言うな」

#ふうき

「そこはこう、何も進んでないのか。とか口を滑らせてほしいところなんだけどなー」

#ナカミチ

「まぁなんか考えてるんだろうとは思う。形にする前に考えているんだろうと思うことにした」

#ふうき

「信じ切ってないのがナカミチ君らしいよ。まぁね、人なんてそんなもの。その中でナカミチ君は頑張ったほうだよ。もう世界を信じられないっ」

#ナレーション

いつも通りだった。

#ナカミチ

「じゃあそこに資料置いたからな」

#ナレーション

そう言って離れようとする。いつも通りだった。

#ふうき

「まぁ待ちたまえ待ちたまえ。確認するから。……ふんふん」

#ナカミチ

「……。」

#ふうき

「おっけー。これで2組のデータは完了っと。あ、この確認は信頼の証」

#ナカミチ

「なにも言ってない。確認してくれたほうが安心するしな」

#ふうき

「ナカミチ君は自分を信用してない、っと」

#ナカミチ

「悪いほうに持っていくのは趣味か?」

#ふうき

「信頼の証かなぁ?」

#ナレーション

信頼関係が成り立っていた。

#このみ

「風紀さーん。でっきまっしたー。はい!」

#ふうき

「おっけー!解散!」

#このみ

「やりましたー」

#ナレーション

信頼。

#ナカミチ

「待て」

#ナレーション

ここでちょっと待ったが入る。何か文句でもあるのだろうか。

#このみ

「ひえっ。呼び止められましたよ風紀さん。何かあるんでしょうか」

#ふうき

「きっといちゃもんつけたいだけだよ。怖いね。もう世界を信じられないっ」

#このみ

「ああっ。何ということでしょう。いたいけな少女の心が1つ傷ついてしまいました。ここは友情パワーの出番ですね。えーい」

#ふうき

「人の心がこんなにも温かかったなんて……。人もいろいろあるんだね……。」

#ナレーション

友情パワーは万能である。風紀さんの回復も何も文句はでないだろう。ナカミチ君は付き合いきれないとでもいうように立ち去ろうとしているが。

#ふうき

「待てー」

#このみ

「待てー」

#ナレーション

ちょっと待ったが入る。しかしナカミチ君待たない。と言っても隣の自分の席に座るだけだった。逃げ道はない。

#みしろ

「来たけどー?風紀さん何か用ー?」

#ナレーション

みしろちゃん登場。後ろにましろちゃんもいる。

#ましろ

「今よかった?」

#ナカミチ

「何の問題もないから4人で話し合っといてくれ」

#ふうき

「なーに言ってるの。ナカミチ君も聞いといてよ?」

#ナカミチ

「横から聞いとくから」

#このみ

「じゃあナカミチ君を中心に囲い込んで話をしたらどうでしょうか」

#ふうき

「このみちゃんは賢いなぁ」

#このみ

「むふー。そうでしょうそうでしょう」

#みしろ

「でも4人じゃ囲い込むって感じにはならないんじゃない?」

#ましろ

「え?もう囲い込む事は決まったの?」

#ナカミチ

「やめろ。ちゃんと聞くから」

#ナレーション

ナカミチ君立ち上がる。初めからそうしておけばいいと思う。

#ふうき

「初めからそうしとけばいいんだよ。まったく」

#このみ

「そうだそうだ。そのとおりです」

#ナレーション

同意見だった。

#みしろ

「ナカミチもあいかわらずだねー」

#ましろ

「相変わらないのは私たちの方な気がするけど」

#ナカミチ

「気じゃない。事実だ」

#ましろ

「……ごめん」

#ふうき

「それでもこの関係が素晴らしいと思ったから。このままで」

#このみ

「おぉ。ふぉーえばーです」

#みしろ

「なにが?」

#ナカミチ

「なんでもない。それで?用事は?」

#ナレーション

風紀さんのほうを見る。

#ふうき

「ん?なんでこっちみるの?」

#このみ

「あわわ……。これはあれですよ」

#みしろ

「あれ?」

#ナレーション

ロマンスである。

#このみ

「難癖つけてるんです!あれですよ。えぇと、がんをとばす。とかいうやつです!」

#ナレーション

ロマンスの対極だった。

#みしろ

「ええぇ……?何か違う気がするんだけど……。 」

#ふうき

「あぁ。いわゆるメンチを切るというやつか……。受けて立つー。おぅ兄ちゃんやるけんねー」

#ましろ

「何語なのそれ?」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

口角が吊り上がり少しにこやかな顔だ。場は和やかである。

#みしろ

「あわわわわ」

#このみ

「あ。やば。本気でいらついてます」

#ましろ

「謝るしかないと思うけど」

#このみ

「ひえぇ。風紀さん一緒に謝ってくださいー」

#ふうき

「仕方ないねー。1人だと心細いしねー。一緒に謝ったげよう」

#このみ

「わーい」

#ネネ

「……なにやっているんですか」

#ミサキ

「いつも通りだねー。資料できたから置いてくね」

#ナレーション

そこに2名混ざる。

#ネネ

「あ、私も同じ要件です。では」

#ナレーション

退場。

#ふうき

「逃がさん!お願い!一緒に怒られてー!」

#ネネ

「いやですよ!なんでですか!引っ張らないでください!」

#ナレーション

服をつかまれるネネちゃん。

#このみ

「そこを何とかー」

#ナレーション

乗り遅れるなと言わんばかりにネネちゃんの腕に抱きつく。そして抵抗するネネちゃんに振り回される。まさに微笑ましい光景であった。ネネちゃんにとって今微笑ましい状況かどうかはわからないが。

#ネネ

「なんでですかー!そういうのはナカミチさんにやっといてください!」

#ナカミチ

「いや、俺もされたくないなぁ」

#ナレーション

ほんとうだろうか。ちょっと試してみたいところではある。

#このみ

「あ、機嫌なおりましたよ」

#ナレーション

試さずともなおった。

#ふうき

「ま、ざっとこんなもんだね。はっはっは」

#このみ

「あーっはっは」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

自分の席に戻ろうとする。

#ふうき&このみ

「あ、ごめんなさい」

#ナレーション

こういうのは早く言ったもの勝ちだ。

#ナカミチ

「最初からするな……。まったく」

#さいか

「許すまでがいつもの流れですよね……。」

#ミサキ

「まったくだねー」

#ナレーション

ふらりとさいかちゃんもあらわれる。

#ふうき

「あ、さいかちゃん。さいかちゃんも持ってきてくれた?」

#さいか

「はい。これが1組の生徒たちの魔力量と魔力排出力で、こちらがおおまかな運動能力です。これでいいと思うのですけど……。」

#ふうき

「ありがと。他のも確認するからちょっと待ってね。……。」

#ナレーション

数枚の紙を手渡された風紀さん。資料を確認していく。どうも他クラスについての資料らしい。おそらくは体育祭に向けて情報を集めているのだろう。

#ましろ

「……1組の分の確認ぐらいは私たちがしてもいいんじゃないかな」

#このみ

「まぁその辺はこっちが遠慮してるということで1つ」

#みしろ

「まぁ?気分良くはないよね。ありがと」

#このみ

「いえいえ。こちらこそです」

#ナレーション

2人で深々と頭を下げあう。もともと1組にいた2人なら調べるのもたやすいだろうが、そうはしなかったらしい。

#ましろ

「……気にしすぎだよ?」

#ナカミチ

「気にしすぎだなぁ」

#ナレーション

全員のほうを向いて話しているのだろうましろちゃんとましろちゃんの方だけ向いてしゃべっているナカミチ君。

#ましろ

「……。」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

視線の流れは変わり、今度はましろちゃんがナカミチ君のほうに視線を向けている。ナカミチ君は視線をとっくに外し、だれを見ているわけでもないポーズをとっている。

#ナレーション

知っているとは思われるが本人が気を付けているだけで基本的には彼も一言多いタイプであり、気を抜くとあれである。

#クラスメイト

「また何か集まってるな」

「なにしてるの?」

「なんだ?ずいぶん集まってるな?」

#クラスメイト

「また何か始めるのか」

「乗り遅れると面倒だぞー」

「みんなー。何かやるってー」

#ナレーション

ぞろぞろと集まってくる。気が付けばクラスメイト全員集合。

#ふうき

「ふひひ。みんなの期待が重たい限り」

#このみ

「おお。そんなところを感じさせないのが、さすが風紀さんといったところです」

#ネネ

「少しは感じられたほうが私は安心します」

#ふうき

「えー?そうかな?」

#ネネ

「……いや、何かすごい嫌な予感がしかねないので感じられたら感じられたで嫌ですね」

#さいか

「同感です……。」

#ミサキ

「分からなくはないなぁー」

#ふうき

「……うぅむ。求められていることがわからない」

#ナカミチ

「安心感とか安定感だろうな」

#ふうき

「それ何が楽しいの……?」

#ナカミチ

「本気で分からないみたいな顔をするな……。」

#クラスメイト

「それで?何の悪だくみしてるの?いつものメンバーで」

「これだけ厄介なメンバーがそろっているからなぁ」

「まぁ時期的にも体育祭関係だとは思うが。さて……。」

#ネネ

「あぁ……。わかっているとはいえ完全にこの一味に数えられているというのは……。」

#ナレーション

頭を抱える子。

#ミサキ

「一味て。……まぁ一味がしっくりくるけど」

#ナカミチ

「そこはもう割り切るしかないな……。」

#ネネ

「……いや、ナカミチ君は中核ですよね」

#クラスメイト

「特に厄介な3人衆だよな」

「そうなのよねー。風紀さんは断トツとしても……。」

「このみさんと比べるとその上に行きそうなのよねぇ」

#ふうき

「このみちゃんは常識人だからね案外」

#このみ

「自覚はあります」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

何か言いたげだが堪えた。ここで何か言えば突っ込まれるからだろう。よく我慢したといえる。

#ふうき

「さて、まぁ何かやるのかと言われれば、それにお応えするのが礼儀ってものだけども」

#ミサキ

「礼儀なのね……。」

#みしろ

「礼儀正しいのって大事だよねー。よく言われるし」

#ナレーション

誰にだろうか。お姉ちゃんにだろうか。それしかないか。

#ふうき

「ですがまだ企画途中ですのでお楽しみに!」

#このみ

「うぅん。焦らしますねぇ。さすがですねぇ」

#ナカミチ

「ただの準備中だ」

#ナレーション

身もふたもなかった。

#ふうき

「というわけでいったん解散!放課後にまた会おう!」

#クラスメイト

「準備まだだってよ」

「急ぎすぎたか」

「解散解散」

#ナレーション

ぞろぞろと散らばっていく。

#ふうき

「あ。もらった資料も確認したからね。おっけーだったよ。ありがとね」

#ネネ

「ようやく解放されました……。」

#さいか

「では戻りますね」

#ミサキ

「放課後楽しみー」

#みしろ

「そうだねー」

#ナレーション

散会していく。

#ましろ

「いや、みしろは待って」

#みしろ

「ん?どうしたの姉さん」

#このみ

「姉さんからの指示には絶対従うのが妹の矜持……。」

#ナカミチ

「ともみさんが聞いたら苦笑いしそうだな」

#ナレーション

笑ってくれるだけ優しいと思う。

#ふうき

「んー?ましろちゃんなにかあった?」

#ましろ

「いや、私たち風紀さんに呼ばれていたからきたんだけど……。」

#みしろ

「あ、そうだった」

#ナカミチ

「そういえばそうだったな……。」

#ふうき

「……んー。……あれっ?」

#ナカミチ

「本気で忘れてたな……。」

#ふうき

「はは、まっさかー。これこれ。あーっと。どこだっけ。あっとここだここだ」

#ナレーション

机の中からまた数枚の紙を取り出す。

#ふうき

「そう!2人にはとっても重要なことをお願いします!」

#ナレーション

取り出した紙を両手でピッと差し出す。

#ましろ

「大事なことなら忘れかけないで……。」

#ナカミチ

「まぁわざとじゃないし懲りるだろ」

#ふうき

「言ったなー。こりてやらないもんねー」

#ナレーション

そう言いながら立ち上がり紙に何か書いてある資料を見ているましろちゃんとみしろちゃんと資料を囲みながら話し始めた。

#ましろ

「これは、うちのクラスの資料……?」

#ふうき

「そうそう。といってもこれは一応渡すという感じ。1年前と2年前の断片的な、簡単に作った資料だからね。これをもとに更新してもらって、今の私たちの能力表を作ってほしいんだ」

#ましろ

「うん。なるほどね……。」

#ナレーション

受け取った資料をぺらぺらとめくって確認していく。

#みしろ

「あれ?これだけなんか全員分書かれているけど。それも詳しく」

#ふうき

「あぁ。それは1年の魔道祭の時にナカミチ君が作った奴。その時の……、瞬発力順かな?それで並んでるやつだね」

#ナカミチ

「懐かしいな……。」

#このみ

「んー?あぁ。100メートル走の記録じゃないですか。なんかナカミチ君が調べまわってたのを覚えてます」

#ふうき

「それはそれはもう、絶対1組倒すって息巻いてた時だねぇ」

#ナカミチ

「……そんなに息巻いてはいない」

#みしろ

「……その時まだ私たちいたんだけどねー」

#ナレーション

落ち込んだ。

#ふうき

「あ、冗談が通じなかった」

#このみ

「あちゃー」

#ナカミチ

「相手を考えような」

#みしろ

「冗談?いや、でもやっぱりよく考えるとあの時ナカミチ本気だったしねー……。」

#ましろ

「まぁそれは戦っている相手だしね。私たちも本気出したでしょ?」

#みしろ

「そりゃそうだけど」

#このみ

「ゲームは互いに本気であってこそ結果に価値が生まれるんですよ」

#ましろ

「うん。その通り」

#みしろ

「姉さんそういうの好きだもんね。まぁでもそっかな。そうだよね」

#このみ

「そうですよ。そ、れ、に、ナカミチ君が本気だったのにはいろいろな理由があったんですよねぇ?」

#ナカミチ

「知らないな」

#ナレーション

もう1年以上前のことである。勝負の結果は覚えていてもそこにあった理念まで覚えてはいないかもしれない。きっとすっとぼけているだけだろうが。

#ふうき

「ふひひ。私は覚えてるよ。ナカミチ君が覚えていないなら私から説明しようか?」

#ナカミチ

「しなくていい」

#ましろ

「……。ナカミチ君?」

#ナカミチ

「……なんだ」

#ましろ

「教えてほしいかな」

#ナレーション

にこやかというか照れているというか。まぁ察しをつけられたらしい。

#ナカミチ

「ぐっ……。」

#ナレーション

うろたえ気味である。目線を逃がすがみしろちゃんと目線が合う。

#みしろ

「……えっ?べ、別に私はどっちでもいいかなー」

#ナレーション

視線を外された。

#ナカミチ

「いや、もう2人ともわかってるみたいだから」

#ナレーション

彼が言うにはましろちゃんのみならず、すでにみしろちゃんにもわかられているらしい。

#みしろ

「……うぅ。も、もういいじゃん。行こう、姉さん」

#ましろ

「うーん。いや、ナカミチ君の悪い癖だから。直さないと」

#みしろ

「わ、私は別にそういう感じでもいいと思ってるけど……。」

#このみ

「まぁ言いたくなきゃ言わせるのみです」

#ふうき

「いい趣味だね。加勢するよ」

#ナカミチ

「しなくていい」

#ナレーション

そんなやり取り。これが次の授業開始まで行われたのだった。彼は結局言わなかったが。

 

 

 

 

#ナレーション

同日、お昼休み。食べ終わったのであろうお弁当を風呂敷で包んでかばんへ直しているナカミチ君がいた。そしてそこに近づく1つの影があった。別に怪しい影ではない。

#このみ

「ナカミチ君。ちょっとこの数学の問題解いてくれません?」

#ナレーション

数学の問題集をもっているこのみちゃん。もう彼女も3年生。大学へ進学するための受験勉強だろうか。このみちゃんが問題集をもって勉強する姿を見る日が来るとはという感傷である。

#ナカミチ

「うん?数学?解説書ないのか?」

#このみ

「あるんですけど……。省略されててよくわからないんですよね……。」

#ナカミチ

「ん。わかった。ちょっと解いてみる」

#ナレーション

解き始めた。

#このみ

「……。」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

このみちゃんは問題を解くナカミチ君をじーっと眺めて一言。

#このみ

「……ひまですー」

#ナカミチ

「やかましい」

#ナレーション

早く解くべきだ。このみちゃんが暇そうにしているのだ。ほら、早く。しかしそんなときにいるのが風紀さんである。と思ったがお昼休みだ。彼女は寝ている時間帯である。

#このみ

「……風紀さんも最近は図書館で勉強してますし」

#ナレーション

このみちゃんの目線の先には風紀さんの机があったがいなかった。このみちゃんもしょんぼりしている。

#ナカミチ

「そうらしいな」

#このみ

「前ちょっとだけ見かけたんですよ。熱心そうにしていました」

#ナカミチ

「……ふーん」

#このみ

「自習用の机にかじりついてたので何をしてたかわからなかったですけど工具箱が足元に置いてありました」

#ナカミチ

「……なんでだよ」

#このみ

「そりゃあ勉強するために図書館にいるんでしょう」

#ナレーション

本を読むために図書館を使うのが1番正しいはずであるが。

#ネネ

「あれ?お2人とも数学を受験で使われるんですか?」

#ナレーション

横を通りかかったネネちゃんに声をかけられる。彼女もまた手に参考書類を持っていた。

#このみ

「あ、ネネちゃん。図書室から戻られたんですか?」

#ネネ

「えぇ。区切りがいいところで戻ってきたんです。しかしたしか……、私大希望でしたよね?たしか文系志望だともお伺いした覚えがありますが……。」

#このみ

「ん?そうでしたっけ。お伝えしてませんでしたか?」

#ナカミチ

「まぁ人の受験先まで気にしてられないからなぁ」

#このみ

「それもそうですね。まぁ数学は使います。入試は英語、国語、数学でいきます」

#ナカミチ

「俺もそうだな」

#ネネ

「そうなんですか。文系と伺っていましたのでてっきり社会だとばかり思っていました」

#このみ

「まぁそういう固定概念ありますよね」

#ナレーション

あるのだろうか。

#このみ

「ということはネネちゃんは社会ですか」

#ネネ

「そうですね。世界史です」

#ナカミチ

「といってもこのクラスは受験で数学を使う生徒は多めじゃないのか?一応機械科だろう、このクラスは」

#ナレーション

一応機械科で一応理系なのだろう。理系なら数学を使う人も多い。そういう理論なのだろう。

#ネネ

「その一応という言葉が全てじゃないかと」

#このみ

「いないんですね……。」

#ネネ

「いえ、いないということはあり得ませんよ。国立を狙っている方は当然数学を勉強していますし。当然使われることになるでしょう」

#このみ

「ネネちゃんもですか?」

#ネネ

「いえ、私は私大希望ですよ。ここが第1志望です」

#ナレーション

そう言って手に持っていた参考書を見せる。とある大学の入試過去問題集だった。学部も書かれている。

#このみ

「あれ?私もそこですよ。第1志望の大学」

#ネネ

「えっ。ほんとですか?」

#ナレーション

ぱっと喜んだ顔になる。このみちゃんもうれしそうであるが、さて試験がある以上これは競争である。ともに狙うのはいいだろう。しかしさてどうなるか。

#このみ

「でもその学部はたしかかなり難しいところですよね。とても同じ大学を狙っているって言えませんねー……。」

#ネネ

「そんなの気にしなくていいですよ。ともに頑張りましょうね!」

#このみ

「……ふむ。そうですね。一緒に大学行けるといいですねぇ」

#ナレーション

まぁ心配しなくても大丈夫そうである。

#ナカミチ

「おーい。問題解けたぞ」

#ナレーション

解き終わったらしい。もっと早く解いてほしい。ネネちゃんがいなかったらこのみちゃんが寂しがったかもしれない。

#ナカミチ

「ん……?えっ。俺もその大学……。」

#このみ

「第1志望なんですか?!」

#ナカミチ

「あぁ……。学部は決めてないが、経済か経営かって思っていて……。」

#ナレーション

決めきれないらしい。とにかく大学に入れども、そこで何をするのか。20歳になろうとしている子供には今一つわからない。

#このみ

「……。」

#ナカミチ

「……ん?」

#このみ

「わ、私もです……。どっちかというと経済かと思っているんですけどねー。いやー、ナカミチ君も同じとこだったんですねー!ふふふふ!」

#ナレーション

服をつかんでゆすってきた。が、喜ばしいことにカツアゲではなさそうであった。

#ナカミチ

「うわっっ。ゆ、ゆするな。経済、経済な!わかったから」

#ナレーション

決めたらしい。

#ネネ

「……ふふっ」

#このみ

「ん?ネネちゃんどうかしました?」

#ナレーション

ゆする手を止めて聞くこのみちゃん。だが手はナカミチ君の服をつかんだままである。ナカミチ君は乱れた身だしなみをつかまれたまま治せる範囲で整える。ネネちゃんは嬉しそうに、いやおかしそうに笑っている。

#ネネ

「いーえ。私の時よりずいぶん喜んでいると思いまして」

#このみ

「……。はは。面白いことをおっしゃる。そんなことありませんよ。なんならネネちゃんへ追加の喜びをあげます」

#ナレーション

ナカミチ君を手放した手がうにょーんというようにネネちゃんへ向けられる。

#ネネ

「い、いえ。結構です」

#このみ

「そーですかそーですか」

#ナレーション

難は逃れたらしかった。ネネちゃんもほっと一息。

#このみ

「まぁそうおっしゃらずに」

#ネネ

「いりません!」

#ふうき

「なにしてるの?」

#ナレーション

帰ってきた。

#このみ

「ああ、風紀さん。いえ、私たち3人とも同じ大学に行くって話をしてたんですよ」

#ふうき

「へぇ。それは、まぁうらやましいね」

#ナカミチ

「……そういえば風紀さんはどうするんだ」

#ふうき

「わたし?わたしは、まぁどっかの国立大かな?みんなは……、確かネネちゃんが私立志望だったから私立に行くんでしょ?」

#ネネ

「えぇ。そうですね。というかよく知っていましたね」

#ふうき

「あー。それはさいかちゃんと違って塾の何かしているときに理科の勉強しているところ見かけてないからね。そうだろうと思って勝手に言っちゃった。ごめんね」

#ネネ

「別に謝られることではありませんけど。そうですね。私が所属しているのは私学対策ですからね。たしかに理科の科目は習っていません」

#ナカミチ

「そう考えるとやっぱり国立は大変だなぁ」

#ふうき

「そうでもないよ。どっちも大変なところはあると思うよ」

#ましろ

「えっと、話してるとこ悪いんだけど風紀さんちょっといいかな?」

#ナレーション

ましろちゃん登場。

#ふうき

「6限目にある次の体育についてでしょ?」

#みしろ

「そうだけど……。なんでわかったの?」

#ナレーション

みしろちゃんもいつも通り。

#ましろ

「予測してたんじゃないかなぁ。それなら最初から支持してくれてもいいんじゃない?」

#ふうき

「誰かさんいわく誰かの悪い影響ってやつだね」

#ナレーション

ナカミチ君に視線を向ける。知らん顔しているナカミチ君がそこにはあった。

#ふうき

「ま、いいや。3人とも勉強頑張ってよ。こんな話して受からなきゃ悲惨だよ?」

#このみ

「それは本気で怖いです……。」

#ナカミチ

「じゃあまずこの問題からだな」

#ナレーション

さっきまで解いていた手元の問題を手に取る。

#このみ

「そうですねぇ。やりますか、っと」

#ナレーション

そう言ってナカミチ君が解いた紙を受け取る。

#このみ

「ありがたくもらっていきますね」

#ナレーション

そう言って自分の席へ戻っていった。

#ネネ

「では私も戻ります」

#ふうき

「じゃあ私たちも少し話し合っとこうか」

#みしろ

「うん、そうだね」

#ましろ

「じゃあ私たちの考えなんだけど……。」

#ナレーション

ネネちゃんも自分の席に戻り、風紀さんの席の周りで話し始める。

#ナレーション

そして時間はあっさりと放課後へ。

 

 

 

 

#ふうき

「えー。そろそろ悪だくみを話し合いたいんだけどー」

#ナレーション

放課後の掃除も終わり席にみんな着いている。というより机に突っ伏したり椅子に大きくもたれかかっていたりととんでもない光景である。割とよく見かける光景ではあるが。

#ましろ

「……まだ無理じゃない?」

#ふうき

「なに言ってるのましろちゃん!みんなはさっきの体育でいけるって言ったんだよ!それがこれではちゃんちゃらちゃんちゃんちゃらららおかしいというやつだよ!」

#ましろ

「わけがわからない事を言わないで。困るから」

#ナレーション

簡潔に言われる。元気なのは風紀さんとましろちゃんだけだった。

#ふうき

「んー。まぁそれだけシャトルランを頑張ってくれたという事だし、その後掃除までした人たちもいるしね。どうしようかなー」

#ナレーション

前の体育はそれはそれは過酷だったようだ。

#ましろ

「走る前は楽観視しすぎていたよね。その後に会議なんてやっぱり無理だったかな」

#ふうき

「そうだ!友情パワーだ!」

#ナレーション

そうだー……。と小声が隣でべちゃーと机に突っ伏しているこのみちゃんから聞こえた気がナカミチ君はしたが悲しいかな声はそれ以上届かなかったらしい。

#ましろ

「わけがわからない事言わないで。まだナカミチ君も疲れてるんだから」

#ふうき

「いやー、今日友情パワーを見たんだよ」

#ましろ

「……やっぱりよくわからないなぁ。ごめんね」

#ふうき

「いやいや、謝らないで。でもたまにはナカミチ君以外のつっこみを食べたいなー。ましろちゃーん」

#ナレーション

食べるものらしい。もしかすると精神力みたいもので、それを吸っているのかもしれない。妖怪の類だろうか。

#ましろ

「……うーん。そのツッコミって言うの私よくわかってないから。やっても風紀さんの求めてるものじゃないと思うよ」

#ふうき

「職人芸みたいなものだしね」

#ナカミチ

「そんな芸持っていない……。」

#ふうき

「あ、復活してきた。そろそろ使えるかな」

#ましろ

「風紀さん、言い方」

#ふうき

「ゆ、友情の上に成り立っている信頼関係によるものでありますゆえ大丈夫です」

#ましろ

「それもそっか」

#ふうき

「ほっ」

#ナレーション

安堵するその横では複雑な顔をするナカミチ君がいた。

#このみ

「ゆうじょうぱわ~……。」

#ナレーション

疲弊しきった顔でなんとか声を紡ぎ出したらしかった。だがもうその話は過ぎていた。

#ふうき

「はっ!?聞こえた!うおぉぉおこれが友情!力がみなぎるー!」

#ナレーション

美しき友情。

#ふうき

「うわぁぁぁぁあ!力がー!」

#クラスメイト

「なんか暴走してる……?」

「じゃあ次は爆発か……。」

「なんでよ……。」

#ナレーション

爆発はしなかった。

#ましろ

「……結局よくわからないんだけど」

#ふうき

「いいのいいの。ましろちゃんは心でわかってる。ね、みしろちゃん」

#ナレーション

元に戻る。儚い友情パワーだった。

#みしろ

「……え?まぁ姉さんはすごいからそうだね……。」

#ナレーション

一方みしろちゃんは大多数と同じく疲労にとらわれていた。しかし姉妹の絆が彼女に正しい回答を与えた。そういう感動的なシーンであると思われる。時代は姉妹パワーへと移ったのだ。だから何というわけではないが。

#ふうき

「さて、しかし本当の所どうしようかな……。あ、そうだいい事思いついた。正真正銘」

#ナレーション

悩みをすぐに解決できる事はその人の力強さがみえる。しかし正真正銘とつけるあたり普段のいい事を思いついた、は何なのだろうか。若干悪い事だと自覚しているのだろうか。

#ふうき

「あったあった」

#ナレーション

自分の席の鞄から何かを取りだし再び教卓に戻ってくる。ナカミチ君も一緒に前へ出て行った。

#ふうき

「別に座っててもいいよ?」

#ナカミチ

「いや、もう大丈夫だ」

#ナレーション

足は少し震えてるようにもみえるが知らないふりをするのがいいと思う。幸い他の人からは気づかれなかった。教壇戻った風紀さんから少し離れて立つ。

#ふうき

「えー。皆さん疲れていると思いますので目線と耳だけ傾けてください。首はかしげないでください。縦に振ればそれで幸せになります」

#ナカミチ

「ホームルームまでもう10分切ったぞ」

#ふうき

「誰のせいだ!」

#ネネ

「誰でもいいですけど私たちはホームルーム後すぐ下校しますから」

#さいか

「ま、まぁまぁ……。」

#ネネ

「こういうのはちゃんと言わないとだめです。例外とかはありません。……と、いうわけですから」

#ナレーション

ひかない姿勢。目線を風紀さんに合わせる。

#ふうき

「え、えー、こちら。ドンッ!」

#ナレーション

ようやく本題に入った。教壇の上に黒いゴーグルがとん、と置かれる。それと同時に教室が静まり返る。

#ネネ

「……くぜ先生のゴーグルですね」

#ふうき

「そうだね。くぜ先生が私たちに配布したゴーグル。魔力均整化汎用ゴーグル」

#ミサキ

「魔力きんせい……?」

#ふうき

「うん。このゴーグルは装着している人たちの魔力を共有して等しくする力があるの。調べてわかったんだけどね」

#クラスメイト

「等しく?というかなんでそのゴーグルが今出てきたんだ?」

「そもそもそのゴーグルは少なくともそんな程度のものだと思えないが……。」

「てっきり体育祭のことについての話だと思っていたんだけど」

#ミサキ

「魔力の平均化……?あ、まさか……!」

#ふうき

「そう。これを使えば!」

#ネネ

「私たちもましろさん達の魔力を使える……。」

#ナレーション

再び静寂に。ネネちゃんがその一言を言ったことで全員が想起したのだろうか。きっと今、彼らの目にはあの日の光景が。

#ましろ

「私は反対だよ」

#みしろ

「姉さん……。」

#ふうき

「私も反対だよ。恐ろしいこと言わないでよね」

#ネネ

「1度頭から水をかけましょうか?ちょっとは冷えてまともになると思いますよ」

#ふうき

「な、ナカミチ君!パース!」

#ナカミチ

「………はー」

#ナレーション

大きなため息だ。

#ナカミチ

「一応風紀さんから事前に聞いている限りではこの魔力均衡化ゴーグルには、」

#ふうき

「汎用ゴーグル」

#ナカミチ

「……魔力均衡化汎用ゴーグルには互いの魔力を均衡化するために魔力的なつながりを生み出すもの、らしい」

#さいか

「……本当にすいすいと話が進みますね」

#ネネ

「本当にもう……。」

#ナレーション

じろりと風紀さんのほうを見る。

#ふうき

「いやー。そう熱い目線を向けられると照れるなー」

#ナカミチ

「で、まぁここからが本題らしいんだが……。」

#このみ

「どうしたんですか?改まって」

#ナカミチ

「いや、俺はここまでしか聞いていないんだけどな」

#ふうき

「へい。ぱすぱーす!」

#ネネ

「パスパース、じゃありません!さっさと本筋を言いなさい!ナカミチ君も甘やかさない!」

#ふうき

「りょ、了解であります!」

#ナカミチ

「え、俺甘やかしてるか?」

#クラスメイト

「だいぶ」

「わりと」

「それなりに」

#ナカミチ

「いや、絶対お前らのほうが、」

#ネネ

「ナカミチ君!」

#ナカミチ

「風紀さん、そろそろちゃんと話せ」

#ふうき

「はー。これだから女の味方は」

#このみ

「はー。女の敵です」

#みしろ

「あのー。そろそろやばいと思うんだけどー」

#ナレーション

みしろちゃんが指さす先にいるネネちゃんはプルプルと震えだしていた。

#ふうき

「わかったわかった!みんな疲れてるからね!そう!休息の時間だったの!ここから超早いから!安心安全の徐行運転!そう!余裕を持つことが大事!車の幅を開ける!で!えっと……。」

#ふうき

「……なんだっけ」

#ナレーション

車間距離だろう。ちがうだろうか。

#ネネ

「そのゴーグルは何なのかって話です!!」

#ふうき

「ぎゃー!」

#ナレーション

ついにネネちゃんが大声を上げた。

#ふうき

「そ、そう!このゴーグルは子機、サブ、補助なんだよ!私たちがこのゴーグルが持っていると思っている不思議な機能はおそらくくぜ先生が研究室で使っていた機械につながれていたゴーグルとその機械!この機械は関係ないの!」

#ふうき

「この機械はさっき言った通り互いの魔力を均衡化する能力しかない!だから魔力均衡化汎用ゴーグル!これを使って他クラスの魔力を参加者全員で均衡させる!」

#ふうき

「これにより私たちは競技で魔力を使うことなく勝利をつかめる可能性がある!」

#ふうき

「以上です!」

#ミサキ

「初めからそう言えばいいとおもうんだけどなぁ……。」

#このみ

「趣味ですからね。大事ですよねそういうの」

#ネネ

「時と場合によります!別にそういうところを否定しているわけではありません!」

#さいか

「いえ、それよりも……。今魔力を使わずに勝てると聞こえましたが……。」

#ふうき

「うむ!その通り!ぱちーん!」

#ナレーション

そういいながら指を鳴らす。いや、鳴ってはいない。口で言っている。そして何も起こらない。

#ふうき

「……へい!」

#ナレーション

そう言いながら指を、鳴っていない。

#ナカミチ

「……クラスの戦力についての資料か?」

#ふうき

「よくわかったね」

#ナカミチ

「……どこにあるんだ」

#ふうき

「えっと。……机の中?」

#このみ

「今持っていきますー」

#ふうき

「お願いねー」

#ナレーション

このみちゃんが風紀さんの机になかを探し始めた。

#ふうき

「どーするのナカミチ君、仕事取られてるよ」

#ナカミチ

「いいんだよ」

#このみ

「はい。風紀さん」

#ふうき

「ありがとー」

#ふうき

「でね。多数のご協力のもと作られたこの資料ですが……。衝撃の事実が発覚したのです!」

#このみ

「しょ、衝撃の事実ですか!」

#ふうき

「そう!衝撃の事実はCMのあ、」

#ネネ

「……。」

#ナレーション

鋭い視線が刺さる。大事な大事なCMはどこかへ行ってしまった。

#ふうき

「いえなんでもないです。いえ、ありません」

#このみ

「あれ絶対ナカミチ君の悪い影響ですよ」

#ナカミチ

「……うーん」

#ネネ

「何かいいました?」

#このみ

「いえ。特にございませんです」

#ふうき

「じ、事実はね。私たちが体育祭で獲得できる期待値が他クラスより1.3倍近く高くなるはずということ」

#クラスメイト

「1.3倍?!楽勝じゃねーか!」

「楽勝とは思わないが……。しかしそれは……。」

「恐らくは素の体力差で考えた場合だろう」

#ふうき

「そう。魔力による補正が入った場合。全力で使ってくると仮定した場合、そして私たちも……、1年の時に使ったような簡易的な魔道具を用意、全力で使用して相手が1組で期待値が0.7倍。2組で0.9倍」

#ナレーション

理想と現実の差であった。

#ましろ

「勝負になってないね」

#みしろ

「その姉さんの勝負に対してのシビアさもう少し抑えたほうがいいと思う……。」

#ましろ

「あ、ごめん……。」

#さいか

「まぁ事実ですし……。」

#クラスメイト

「それにもう魔動具を、というかそんな手を使いたくねーしな」

「卑怯な手を使ってまで勝ちたいという気持ちももうない」

「まったく同意見ね」

#ネネ

「……しかしそれでは勝てないのでしょう?そしてそのためにあるのがそのゴーグル」

#ふうき

「そう。これは妥協案なの。私とみんなとの間の、ね」

#このみ

「妥協……?」

#ふうき

「うん。こうしないと勝てない。……このゴーグルはね。私が改造したものなんだ」

#ナカミチ

「そういえば俺たちがもらったものから形が変わっているな……。」

#ふうき

「そう。今の私が正真正銘本気で改造したもの。誤作動はないと思っている」

#さいか

「……風紀さんがそこまでいうのでしたら無いのでしょうね」

#ふうき

「……うん。これは私がみんなと勝ちたいとだけ思って作ったものだからね。誤作動は私のミスがあった時だけ」

#さいか

「……。そうですか」

#このみ

「……改造というのは?」

#ふうき

「このゴーグル相手に使ってもらうにはどうしたらいいと思う?いや、まともに答えは出ない問題だけどね」

#クラスメイト

「まともにってことは、そうね。ゴーグルを相手にかけてもらえるわけないし」

「気が付かれないほど小型化して……、いや。完成品は小型化していないね」

「風紀さんの手元にあるやつがその問題を解決している物なんだよな?」

#ネネ

「そうだと思います。実はダミーなんだよ、本物はこっちー。とでも言われて教壇の下から別のものを出されたら今度こそキレます」

#ミサキ

「ありそうなところがなんともいえないよ……。」

#ふうき

「いくら私でも何かをするためにはそのための準備時間がいるからね?」

#ナレーション

時間がないことがプラスに働いたということだろう。そういうこともある。

#ナカミチ

「釈明するところ間違ってるぞ」

#このみ

「……美人釈明」

#ふうき

「うまい!10点!」

#このみ

「あ、ほんとですかー?言ってよかったですー」

#ナカミチ

「うまくない」

#ナレーション

感性は人それぞれだ。他人のつけた点数をおいそれと非難してはいけない

#このみ

「まぁそれは冗談として。……ふむ。つまりそのゴーグルがあれば解決するということだと思うんですよ」

#ナカミチ

「あぁ……。つまり装着しなくても効果が発揮されるようにしたんだな」

#ふうき

「その通り!1点!」

#ナレーション

感性は人それぞれである。

#ナカミチ

「いいから早く話を進めて……、」

#ふうき

「……?どうしたの?」

#ナカミチ

「いや、何でもないよ」

#このみ

「……。何でもないということですか?今思い出したことは」

#ナカミチ

「……いや、違うな」

#ふうき

「…。そっか」

#ネネ

「……どうかしました?」

#ナレーション

さっきまであきれていたが聞いてくれるあたりやっぱり優しいのだろう。

#ふうき

「いや、ね。こういう時にくぜ先生の存在が大きかったんだなって。そう思ったの」

#ナカミチ

「その場にいるときはもちろんだが、そうじゃない時も道を示してくれていたんだろうな」

#さいか

「そうですね……。なんていうか急かされていたとも言えるでしょうけどやるべきことを端的に示してくれていたのかもしれませんね」

#ナレーション

いなくなってそのありがたさがわかるものである。もっとも思い出は美化されがちなものでもある。面倒くさがりな良い先生だったというのが実情だろう。そして間違いなく彼らの恩師であるのだろう。

#ナレーション

遠くでチャイムが鳴る。ホームルームが始まろうとしていた。

#ふうき

「……さて!私が求めることは1つ!その前に!監視係!」

#ナレーション

廊下側の生徒たちが答える。

#クラスメイト

「未だ廊下に校長先生の姿は見えん」

「ホームルームはまだ少し先だと思う」

「こっちは変わらず監視しておくから大丈夫よ」

#ふうき

「よし!さて、このゴーグルについて最後の説明!この改造型ゴーグルは複数の使用によってその効果範囲を限定的に広げることができる!」

#ましろ

「限定的に……?効果範囲というのは魔力が均衡化される人たちがいる範囲ということだよね?」

#ふうき

「そう。2つでその直線状の範囲。3つ以上でそのゴーグルによって囲われる範囲。このゴーグルで体育祭の行われるグラウンドを囲む。すると?!」

#このみ

「囲われた人たちで魔力が均衡しますね。となると……。先ほどおっしゃっていた点数獲得の期待値が変動しますね」

#ふうき

「素晴らしい!その通り!」

#クラスメイト

「確か1組で0.7倍だったわね」

「魔力については2組以下、特に3組からはそんなに変わらんだろう」

「全クラスが限りなく1倍に近づく」

#ナレーション

全体にいい雰囲気が流れる。が、そういうときこそ現実を見るべきである。

#さいか

「いえ、そこまでうまくはいかないですね……。出力差があります……。」

#クラスメイト

「出力差?なんだそれ」

「出力、一度に使える魔力の量だ。変換力ともいわれているが……。」

「一般的には魔力総量と比較する。この変換力を補佐するのが魔動具だ」

#ナレーション

そうらしい。一応さらに説明すると魔力をいかに効率よく変換できるかである。

#ふうき

「ふひひ。それが大丈夫なんだよ」

#さいか

「そう不敵に笑われても困りますが……。」

#みしろ

「大丈夫ってことはその力も平均化するの?」

#ふうき

「そういうことゆえに均衡化なんだね。さすがのネーミングだよ」

#ましろ

「ネーミングがさすがかはわからないけどすごいゴーグルだというのはわかったかな」

#クラスメイト

「まぁいつもよりはまともな名称よね」

「分かりやすいしな」

「なんだっけ。魔力均衡化ゴーグルだったか?」

#ナレーション

分かりやすさとは大事なものである。覚えてもらうにはわかりやすさも非常に重要だからだ。

#ふうき

「さて。というわけでこの最高にイカスアイテムなんだけど。これを使えば他クラスと勝負できるよ」

#このみ

「勝負……ですか」

#クラスメイト

「まぁ、去年の思い返せばなぁ」

「直前まで勝ちに行くつもりはなかったけど全力ではあったからなぁ」

「結局当日になったら勝ちたくなったからな」

#ましろ

「……去年も戦力差は同じくらいだったの?」

#ふうき

「そうだと思うよ。準備も不十分だったから少し不利だったかなとは考えられるけど」

#ましろ

「ふぅん……。」

#みしろ

「?どうしたの姉さん」

#ましろ

「……確かにそのゴーグルを使えば勝てるかもしれない」

#みしろ

「うわ!姉さんのお墨付きだ!」

#ふうき

「勝った。勝った」

#このみ

「やった。やった」

#ナレーション

お祝いムード2人。予想は当てるために存在する。よって勝ったも同然だということだ。

#ましろ

「かもって言ったでしょ。自分のクラスだから色眼鏡で見て言ってるからね」

#クラスメイト

「色眼鏡?」

「先入観を持っているという意味だ」

「俺たちならできるだろうという意味だ」

#ミサキ

「つまり準備は万全に……。全員協力の下でようやくということだね」

#ましろ

「そういうことになるかな」

#クラスメイト

「なんかできるって言われると現実味が出てくるわね」

「特にましろさんが言うとね」

「風紀さんだと今1つふわっとするからねぇ」

#ふうき

「なぜだ……。」

#ネネ

「日頃の行いです」

#ナレーション

希望的観測であっても嬉しかった。そういうことだろうか。彼らの中にはあたたかな雰囲気が漂っていた。

#このみ

「風紀さん。そろそろ」

#ふうき

「……ん。わかった」

#ナカミチ

「……。」

#ふうき

「さ、みんな。このゴーグル使う?」

#クラスメイト

「そらまぁ使うだろう」

「即答ね……。わざわざ聞いてきてるあたり嫌な予感するけど」

「恐らく予感通りだろう……。」

#ネネ

「しかしこれを使わないと勝ち目はないんでしょう?」

#ましろ

「……私はそう思う」

#みしろ

「姉さんが勝負事でそういうなら私もまず間違いなくそうだと思うよ」

#ネネ

「じゃあ使いましょう。それがいいんでしょうし」

#ミサキ

「それは……。」

#さいか

「いいんですか?ネネさん?」

#ネネ

「え?良いも何も、」

#ナカミチ

「このゴーグルは紛れもなく魔動具だってことだ」

#ネネ

「えっ?それはそうでしょう。……あ」

#ナカミチ

「……。」

#さいか

「……。このゴーグルが魔動具である以上、使用には当然魔力がいります」

#ふうき

「そう。だから、これは妥協案」

#ナレーション

沈黙。2年前の出来事。風紀さんが勝利を望み、魔道具を使い、失敗したあの体育祭。風紀さんが望み、魔道具を使う。向かう先は同じだろうか。

#ふうき

「……さ、話は単純。この案に賛同してくれるかどうか、」

#このみ

「その前に。1つ」

#ふうき

「えっ?」

#このみ

「私は風紀さんが指揮する体育祭でこのクラスのみんなと勝ちたいと思ったから風紀さんに委員長をお願いしたんです。誰よりも風紀さんがみんなと勝ちたいとそう思っているだろうから、と」

#ふうき

「……うん。私もそうだと思っていたよ。ありがとう、このみちゃん」

#このみ

「だから私は風紀さんが考えたこの案で勝ちたい。不安も懸念も全部含めて風紀さんが考えてくれたこの方法で」

#このみ

「だから、……みんなで協力しましょう。賛成とか反対とか妥協とかではなく。私たち個人の願いとして」

#ふうき

「どういうこと……?」

#このみ

「人それぞれに風紀さんに協力する理由があるという事ですよ」

#ネネ

「それってつまり……。」

#ミサキ

「あたしだったら……、自分たちのクラスが勝つところを見たいし……。」

#クラスメイト

「俺は相手が魔法を使っているのを黙って見ていたくないし」

「私はもうみんなに負けてほしくないし」

「実力勝負なら負けないって相手にわからせたいし」

#ましろ

「……そろそろ相手にわからせてあげないといけないだろうね。こっちには負けて悔しがる理由があるってこと。そして私たちは勝って喜べるんだってことを」

#みしろ

「姉さんと同意見。それにずるをして勝手に自分たちが強いと思ってるなんてね。……あとは好戦的になってる姉さんは久しぶりに見るし。かっこいいでしょ」

#このみ

「うーん。姉を持つ妹という身としてはわかると言わざるを得ません」

#みしろ

「ねー。手助けしないと」

#ましろ

「……まぁうれしいけど」

#ナレーション

それぞれに勝ちたい理由があった。だから協力し合う。

#ふうき

「でも……、この案はみんなに迷惑をかけることになると思う。それを、」

#ネネ

「すごく今更です」

#ふうき

「ネネちゃん……。」

#ネネ

「すっごく今更な事を言っているってわかっています?もう3年目ですよ。嫌なら嫌だって言ってます。もう!」

#ナレーション

怒っていた。うれしそうに。

#ネネ

「その案が1番いいと思って提案したんですよね?」

#ふうき

「う、うぅん……。どうかな……。」

#ネネ

「何で自信がないんですかー?!」

#ナレーション

今度は怒っていた。

#ふうき

「ひえー!だってこれが1番いいと思ってやってきたけど他に何かあるかもって思ったらー!」

#ネネ

「1番いいと思ってるんじゃないですかー!」

#ふうき

「ひぃー」

#クラスメイト

「よく考えたら風紀さんが押されるのってネネさんぐらいだよね」

「あれでネネさん感情的な人だから……。」

「印象変わるよなー」

#ネネ

「なにかいいました?」

#クラスメイト

「いいえ」

「とくには」

「覚えないな」

#ナレーション

印象が変わったのかネネちゃん自体が変わったのか。なんにしても相手のことをよく知れているようで、いい事だろう。

#さいか

「……。」

#ナレーション

さて、不安要素である。

#ふうき

「えっと。さいかちゃん」

#ナレーション

強い子である。だけどもみんながそうではないわけで。ここで聞くことができる風紀さんは強い子である。聞かれている子はどうだろうか。

#さいか

「…………もうあれから2年経ってしまいました」

#ふうき

「うん……。」

#さいか

「……手伝わさせてください。お願いします」

#ふうき

「それは……。うれしいよ?うれしいけど……。」

#このみ

「風紀さんも協力してくれますよね」

#ふうき

「私が……?協力する……?」

#このみ

「そりゃそうですよ。協力してもらってるなんて寂しいこと言わないでくださいよ。今までだって風紀さんが協力してくれたからいろんなことができたんですよ」

#クラスメイト

「そうそう。いつも通りやってくれよ」

「企画考えてさ」

「それでなんだかんだうまくいってきたよね」

#このみ

「さ、ふうきさん」

#ナレーション

もう大丈夫だろう。

#ふうき

「……いいや。まだだね。まだたりない。たりないぞー」

#みしろ

「たりない?何の話……?」

#このみ

「……。あー……。」

#ましろ

「あぁ……。なるほどね……。」

#ナレーション

足りないらしい。何がかは分からないが足りないということは満ち足りていないのだろう。追加がいるらしい。

#ふうき

「お前だー!まだ何も聞いてないぞー!」

#ナカミチ

「……ん?」

#ナレーション

風紀さんから少し離れたところで突っ立っていらっしゃる。いいご身分なナカミチ君だ。ん?ではない。

#ふうき

「んー?なにー?よくわかんないー?じゃなーい!」

#ナカミチ

「そうはいってない」

#ふうき

「言ってないのはナカミチ君でしょー?どうするのー?手伝ってくれるのー?」

#ミサキ

「ナカミチ君何も言ってなかったっけ?」

#さいか

「確かに……。手伝うかどうかってところから……、いえ、もう少し前あたりからあまりしゃべっていませんでしたね」

#ナカミチ

「いや、もう大丈夫だろうと思って」

#このみ

「わー。なんてありがたい信用なんでしょう」

#ましろ

「ナカミチ君……?」

#ナカミチ

「……まぁ。その」

#ナレーション

風紀さんのほうを向いて目を合わせるナカミチ君。非難の目線にいたたまれなくなって目をそらした先が風紀さんの方だったとは思いたくないが。はてさて。

#ふうき

「……。」

#ナレーション

じっと待つ風紀さん。

#ナカミチ

「……今度はちゃんと手伝わせてほしい。俺もこのクラスの一員だから」

#ふうき

「……よし!」

#ナレーション

よいらしい。

#このみ

「やったー。ついに始まりますよー」

#ネネ

「また忙しくなりますね……。時期も時期だというのに」

#ミサキ

「まー、うちぐらいだねー。でも楽しくていいと思うよ。最近勉強ばっかりだし」

#ナレーション

勉強が苦手でも関係ない平等な試験が迫っている。

#さいか

「その、私も忙しくて。でも手伝える限り手伝いますから」

#ましろ

「腕が鳴るね」

#みしろ

「びしっと決めちゃおっか」

#クラスメイト

「さーて。……とりあえず何するんだ?」

「詳細は話し合うとして、まぁ大枠は風紀さんから聞くにしても」

「それよりも始まったからにはまずは……。」

#クラスメイト

「企画名。よねぇ」

「風紀さんのそれ最近なかったよね」

「まぁやっぱ時期よね」

#ネネ

「まぁ……。名称がないと締まりませんし。どうせその辺も考えてきていますよね」

#ナレーション

安心の信頼感。ここでびしっと企画名が出て次のシーンへ描写が移る。

#ふうき

「……ちょっと待ってね?」

#ミサキ

「考えてないのね……。」

#ナレーション

そんなもんだ。

#ふうき

「そこまで頭が回ってなかったよ……。なんでかなぁ……。」

#さいか

「普段なら1番最初に考えてそうですけどね……。」

#このみ

「1年の頃は企画名とか考えてなかったようですし、その流れでは?」

#ふうき

「あ。それかも。……うーん」

#ネネ

「そういえば最初はありませんでしたね」

#ナカミチ

「そういやそうだったなぁ……。」

#ナレーション

もはやはるか昔のような思い出である。それだけ密度があったのだろう。

#ふうき

「……ふーむ」

#さいか

「難儀していますね……。」

#みしろ

「なんかいつもさっと思いついているイメージだよね」

#ましろ

「そこはネネさんが言ってたけど準備してくれてたんじゃないかな」

#ふうき

「いや、今回は最後だからね。こう、かっこいい感じの……。」

#ナカミチ

「不安だなぁ……。」

#ふうき

「あっ。思いついた。大好評間違いなし」

#ナレーション

クラスの生徒は一様にこう思っただろう。絶対変なのが出ると。

#ふうき

「まず今回このゴーグルで体育祭の場所を囲む」

#ふうき

「そして恐らく今回は拮抗した戦力のぶつかり合いになる。そうだね?ましろちゃん」

#ましろ

「多分だけどね。戦力的にはほとんど等しくなると思う」

#ふうき

「このゴーグルでとじられた空間で全力で戦う……。よし!作戦名は『クローズドゲーム』だ!」

#ネネ

「……う、うん?」

#ナレーション

珍しいこえだ。

#クラスメイト

「いつもよりダサい」

「え?なにそれ?いつもよりダサい」

「いつも通りでいいのでは?いつもよりダサいぞ」

#ナレーション

期待通りのようだった。かっこいいと思うがクラスメイト達はお気に召されなかったようだ。

#ふうき

「……。」

#このみ

「……そ、その。いつも通りで」

#ふうき

「……よし!企画名は『体育祭!大決着!』だ!」

#ネネ

「……しっくりきました。もう、なんていうか。慣れですね……。こういう企画名のほうがしっくりきてしまいました……。」

#ふうき

「べ、別にいいじゃん!」

#ナレーション

企画名が決まった。

#このみ

「さて!企画名も決まったことですし!どんなことをするとか決めないといけませんね!」

#ふうき

「それなんだけど……。私はゴーグルの改造で手いっぱいになりそうなんだよね。ちょっとは他のこともできるけど普通の勉強もしたいからねー。他の人にいっぱい回すよ。ごめんね」

#クラスメイト

「まぁ手伝うって言ったからなー」

「気は回さなくていいわ」

「遠くに校長先生の姿が見えたぞ」

#さいか

「ゴーグルの改造は一人で大丈夫なんですか……?手がいるなら必ずちゃんと手伝いますから……。その、抱え込まないでください」

#ふうき

「その辺は心配しないで。当然というかこのゴーグルややこしいつくりになってて。今まで魔道具の勉強してきた私じゃないと危険なんだ」

#さいか

「……そうですか」

#クラスメイト

「今考えたらあんな小さい基板で靴を魔動具化させるのは無理があったよね」

「あの頃は魔道具のこと全然知らなかったしなー」

「今もそんなに知らないけどな。あと一応もう一度言うが校長先生すぐそこに来てるぞ」

#ふうき

「そもそもすでに部品のついた基盤を切るとか危なすぎて意味わかんないよねー」

#ネネ

「指示したの風紀さんでしたよね……。」

#ふうき

「……てへっ」

#ネネ

「はぁ……。もういいです。もともと風紀さんのせいとも思ってませんし」

#さいか

「……。」

#ふうき

「よぉーし!さっそく案を出そうか!私も考えては来てるけどー!私よりいい案を出せるって意義のある人はー、手をあげろ!ハンズアップ!」

#このみ

「きゃー!怖いですー!」

#ナレーション

このみちゃんお手々万歳降伏のポーズ。

#ふうき

「はい!このみちゃん!」

#このみ

「異議なし!」

#ふうき

「よし!」

#ナカミチ

「なにがだ」

#クラスメイト

「おーい。来てるぞ」

「聞こえてないよね?」

「風紀さーん?」

#ふうき

「えっ?なに?」

#クラスメイト

「いや、だから」

「校長先生がすぐそこに来てる」

「あと10秒ぐらいかな」

#ナレーション

10秒というとどのくらいだろうか。もう過ぎただろうか。

#ふうき

「えっ?」

#クラスメイト

「言ってたからな」

「ちゃんと聞いてくれないと」

「あと5秒」

#ふうき

「しょ、詳細は、後は後日!」

#このみ

「急いでくださいー!」

#ナレーション

教卓の上に置いていた紙を片付けだす。さぁいそげ。ナカミチ君はそそくさと自分の席に戻った。

#ましろ

「……もっとスムーズにやれば決めれたんじゃない?」

#ネネ

「でしょうね」

#ふうき

「いいっこなしだよー!」

#ナレーション

両手で紙を抱え自分の席へ戻っていく。

#

ガラガラガラ―――

#校長

「すみません。大変お待たせしてしまいました。急な来賓がありまし……、ふ、風紀さんどうかしましたか?」

#ナレーション

べちゃーとこけて床にへばりついている風紀さんがいた。心配そうな顔をする校長先生と何とも言えない微妙な顔をするクラスメイト一同。大半が片手で軽く頭を抱えている。

#ふうき

「アァ、イエ、タイイクサイノハナシデス。オワリマシタ」

#校長

「はぁ……、そうですか……?体育祭……。」

#このみ

「これは……、まずいのでは?」

#ナレーション

小声でナカミチ君へしゃべりかけるこのみちゃん。ナカミチ君もぼそぼそとしゃべり返す。

#ナカミチ

「……校長先生の心情を確かめたいんだろ。静かにしておけ」

#ナレーション

ということらしい。

#校長

「そうですね。もうそろそろそんな時期ですね。精一杯頑張ってください」

#ふうき

「了解です!決してご迷惑をおかけしません!」

#校長

「私に迷惑とかは気にしなくてもいいですが……。あぁ、いや。それよりホームルームを始めますか」

#ふうき

「了解しました!きりーつ!」

#ナレーション

1日が終わる。そして最後の体育祭が始まる。

 

 

 

#ナレーション

体育祭。グラウンドとその付近は生徒たちの声で騒がしく、されどその喧騒は普通なぜか体育祭のこととは無関係なおしゃべりである。だが、こと今日に限ってはそうでもないようだ。ざわめきは間違いなくその体育祭に向けられていた。

#ふうき

「ふひひ……。順調順調」

#ナレーション

競技に参加しない生徒たちがクラスごとに待機する場所で騒がしく動いているクラスメイト達の真ん中でちょこんと座っている風紀さん。

#クラスメイト

「次の参加者たちが来たぞ!1組先頭から11番、29番、7番、14番!2組が……、」

「4組先頭から2番、31番……、」

「6組先頭から……、」

#ナレーション

双眼鏡でグラウンドへ入場してくる次の競技の参加者を見ながら手元の資料と見比べている。発言している番号は参加してくる生徒たちの出席番号だろうか。

#みしろ

「姉さん!次の資料がまとまった!」

#ましろ

「うん。ありがとう。えっと……。じゃあ……、順番入れ替えは2、4、1、3で」

#ナレーション

受け取った資料を見て指示を出す。

#ミサキ

「了解!」

#ナレーション

それを聞いてグラウンドに向けて大きく手を振るミサキちゃん。それを見てだろうか、競技に参加している生徒たちが先頭だった子が3番目へ、2番目が先頭へ……、というようにその並び順を変化させる。

#さいか

「……はい。少し前進してください。……はい。校長先生の動向は引き続き最優先でお願いします。効果範囲には入れないでください。……ネネさん。3番隊が花壇前まで前進します。1番隊は校舎側まで後退させます」

#ナレーション

どうやら通信機器で他の場所にいるクラスメイト達と会話をしているようだ。おそらくはゴーグルをかけている生徒たちとの通信だろうか。魔力均衡の効果範囲を指揮しているようだ。座りながら低い机に広げた上から見た学校の縮図に置かれた駒を動かす。

#ネネ

「分かりました。えーっと」

#ナレーション

チェスの駒だ。誰の趣味だろうか。ネネちゃんは5つ置かれている白いポーンの駒を動かしていく。さいかちゃんは1つ置かれたキングの駒を動かす。おそらく校長先生のいる場所を示している。魔力の高い校長先生を範囲に入れないのが最優先事項なのだろう。

#このみ

「ナカミチ君、先ほどの競技の特典点数の資料と今回の参加者の資料です」

#ナレーション

あわただしいクラスメイト達の合間からぴょこんと出てきた。様々なところから上がってきた資料を集めてきたようだ。

#ナカミチ

「ああ。ありがとう」

#ナレーション

受け取り確認するナカミチ君。

#ふうき

「ふひひ……。」

#ナレーション

横でいつものように笑っている声が聞こえるがナカミチ君は特に気にしない。

#ふうき

「…………。……アレ?私ヒマ?」

#ナレーション

することがないようだった。しかし周りが忙しそうな中で言うことでもないが。まぁ風紀さんである。誰も気にしていない。

#このみ

「まぁいいことなんじゃないですかね。企画実行中に総指揮者が暇なのは」

#ナカミチ

「たまには休んでろ」

#ふうき

「珍しいお気遣いだね。ありがたいけどそりゃ無理だ」

#このみ

「無理なんですか……。じゃあ仕方ないですね」

#ナレーション

無理なものは無理だ。見切りが大事である。

#ふうき

「そうそう。さすがよくわかってるねこのみちゃんは。本当のやさしさを知れた。ナカミチ君見習ってね。じゃあこのみちゃん何か手伝うよ。何かお仕事頂戴?」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

反論の余地を与えられず次の話題に持っていかれた。というわけで彼には心の中で反省しといてもらおう。

#このみ

「いえ、私も今の競技が終わるまで何もすることはないですし。休める時に休みましょう。それに風紀さんは始まったときは細かいところ指示していただきましたし、またいつ忙しくなるかわかりませんよ」

#ふうき

「その通りだね。このみちゃんの言う通りだよ。たまには休んどくか」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

彼は特に相手にせず手元の資料を眺めていた。自分の案通りに動いてくれたのだ、喜んでもいいのではないだろうか。

#ふうき

「はふぅー」

#ナレーション

椅子に腰かけ、かばんから水筒を取り出し一息つく風紀さん。

#ふうき

「……みんな何かないー?」

#ナレーション

立ち上がって聞いた。10秒もじっとできていなかった。

#クラスメイト

「いや?問題なく動いているからなー」

「してもらうことはないわ」

「それに何かあったらまずナカミチが動く予定だし」

#ナカミチ

「まぁそう決めたしな」

#ふうき

「ことごとく仕事を奪っていく……。」

#ナカミチ

「そんなつもりはないし。大体一緒に決めたことだろう」

#ナレーション

仕事があるとはいいことだ。まともな仕事であれば、だが。そもそも仕事でも何でもないが。

#このみ

「まぁまぁ。座っててくださいな。一緒に観戦していましょう」

#ふうき

「ま、そうしよっか。応援しとこう。がんばれー」

#このみ

「がんばれー」

#ナレーション

周りのクラスメイト達が話している言葉のほうが大きくて届いているかどうかわからない応援だがひとまずやることが見つかったようでおとなしくなった。

#ふうき

「人を動かす、か……。」

#ナレーション

ぼそっとつぶやいた言葉は喧騒に溶けていったが。耳ざといのが我らが主人公であるが。さて聞き取れただろうか。

#このみ

「全員で動いたからですよ」

#ナレーション

このみちゃんが聞き取っていた。もうナカミチ君の出番がないのではないだろうか。

#ふうき

「もー。そこは聞き流しといてよー」

#このみ

「あれ?ごめんなさい。まだまだナカミチ君のようにはいきませんね」

#ふうき

「あ、ごめんごめん。ほんとは気づいて欲しかったの。ね?だからナカミチ君のマネしちゃだめだよ。風紀さんとの約束」

#このみ

「約束なら仕方ありませんね」

#ナカミチ

「黙って聞いていれば……。」

#ナレーション

聞き流しきれなかった。

#ふうき

「ま、そういうのはいいとしてね。……本当にこれでよかったのかな」

#このみ

「まだそんなこと言ってますね……。風紀さん悪い癖ですよ」

#ふうき

「うっ。このみちゃんから言われるとはね。心にこたえるなぁ」

#ナカミチ

「そうか。じゃあ何かあったら今度からこのみから注意してもらうようにするよ」

#ふうき

「やめろー」

#ナレーション

ダメージは大きくなりそうだった。

#このみ

「あっはっは。大丈夫ですよ。私が素直にナカミチ君の言うことを聞くと思いますか」

#ナレーション

しかしそのダメージ計算は不可能だった。

#ふうき

「それもそうだね。私たち互いに思いやれてるね」

#このみ

「いい関係です」

#ナカミチ

「せめてまともな関係を俺にもしてほしいんだが」

#このみ

「これ以上何を望むってんです」

#ふうき

「そっちから歩み寄ってからだから」

#ナレーション

当然だった。

#ふうき

「でもね。思うの。結局何が違うんだろうって」

#ナレーション

グラウンドの競技が始まるのを見ながらそうしゃべり始めた。

#ふうき

「みんなに動いてもらって。私また魔道具使ってもらって。これでいいのかなーって」

#ナレーション

思い悩んでいるようだった。悩んでいる人が欲しいのは肯定の言葉だろう。だが心からの言葉でないと相手に響いてくれない。ナレーションとしても常に心掛けているのでわかっていただけるだろう。

#このみ

「そうですねー……。バフとデバフ?いや、バフ解除?」

#ふうき

「なんだっけそれ?」

#ナカミチ

「バフは能力を向上させるもので、デバフは逆」

#ふうき

「ふーん」

#このみ

「……。ち、チートとズルぐらい違います!」

#ふうき

「……。どっちも同じ意味じゃない?」

#このみ

「……。よし!ナカミチ君!あとはお願いします!」

#ナカミチ

「なんでだ。自分で説得したらいいだろ」

#このみ

「だってー!ニュアンスがー!ニュアンスがー!」

#ふうき

「ニュアンスねぇ」

#ナレーション

微妙な差異に説明したい全てが込められていた。聞いたその子はわかってくれるだろうか。

#ふうき

「だってさ。結局のところ相手が本当に魔力を使っているかなんてわからないんだよ?そして私たちは確かに魔力を使ってるの」

#ふうき

「1年の時はもちろん最初っから決めつけて。今回はましろちゃんが最初の競技を見て不自然な動きから、魔法を使っているはずだっていう判断をしてもらってからゴーグルを起動させたけど確証はないよ?」

#ましろ

「ん?何か呼んだ?」

#ナレーション

前の方で競技を見ていたましろちゃんが声を返してきた。

#ふうき

「よ、呼んでないよ」

#ましろ

「そう?」

#ナレーション

それだけ言うとまた競技を見始めたようである。

#ふうき

「ざ、雑音だらけなのになんで聞こえるんだ……。」

#ナカミチ

「集中しているんじゃないかなぁ」

#ふうき

「そんな説明で納得しろというのか……?」

#ナカミチ

「それ以外説明しようがないしなぁ」

#ナカミチ

「それより意地悪すぎないか?」

#ふうき

「私の意地が悪いのはよく知っていることでしょう?今さら何を言っているの?」

#ナカミチ

「俺はまぁそういうものだって思っているけど、わかってても慣れているかは別問題だからなぁ」

#ふうき

「……っ?!」

#このみ

「……。」

#ナレーション

何も言えなくなってしまった子がそこにいた。

#ふうき

「ごめん!言い過ぎたね!」

#このみ

「い、いえ。私こそ何の力にもなれず……。」

#ふうき

「い、いや。何の力もって」

#ナカミチ

「あまり斜に構えて人の言葉を聞くものじゃない」

#ふうき

「う、うるさいよ。ごめんねこのみちゃん。ナカミチ君の時と同じような対応をしちゃって。ちょっとムキになっちゃったんだ」

#ナカミチ

「おい」

#このみ

「ま、まぁ気にしていませんし。今度からはちゃんとナカミチ君だと確認してからにしてくれたらいいですから」

#ナカミチ

「おい」

#ナレーション

とても平和に体育祭は進んでいった。

 

 

 

 

#ナレーション

前半も終わりに近づいていた。具体的に言うと午前の部も終了間際である。

#ふうき

「よし。そろそろ昼食準備に入ろうか」

#ナレーション

風紀さんのその一言で午前の部は絞められた。

#ナカミチ

「事前の予定通り昼食を食堂でとる人は先に解散してくれ。午後の部が始まる10分前には戻ってきて午後の準備をしてくれ」

#クラスメイト

「わかったー」

「りょうかいー」

「かいさんかいさんー」

#ナカミチ

「風紀さんみたいな言い方やめろ」

#クラスメイト

「喜ぶかなと思って」

「喜ぶかと思って」

「喜ぶかなぁと思って」

#ナカミチ

「さっさと行け」

#ナレーション

喜んでいるかはわからないがきっと喜んでいるのではないだろうか。知らないが。食堂へ複数人が向かっていく。

#ふうき

「おうどん食べてこよー」

#ナレーション

歩いていく。なんにしても楽しみなお昼タイムだ。もちろんまだ放送は流れていない。午前の最後の競技が終わっただけである。フライング気味だ。気にせず行こう。

#さいか

「では私も食堂に……。すみませんネネさん。後よろしくお願いします」

#ネネ

「ええ。わかりました。連絡とゴーグルの回収しておきますね」

#ナレーション

そう言ってゴーグルをネネちゃんに渡してさいかちゃんも歩いていく。ナカミチ君のほうへ。

#さいか

「……心配ですか?あのゴーグル」

#ナカミチ

「いいや」

#さいか

「もしかしたら……。」

#ナカミチ

「あんまり自分を卑下するな」

#さいか

「……本当気に入らない」

#ナレーション

そういうと今度こそ食堂へ歩いて行った。放送が流れ、正式にお昼ご飯タイムになった。

 

 

 

 

#ナレーション

思い思いに食事をとっている。その結果ナカミチ君の周りには女の子しかいないのはまぁ必然である。同性の友人に、お昼を一緒に。と言ったら、逃げるんじゃない。と言われ諦めていた。

#このみ

「しかしこのメンバーでお昼ご飯を食べていると1年生の時を思い出しますね」

#ナレーション

そう言ってもぐもぐとお肉を食べている。

#ミサキ

「うん?調理実習のこと?」

#このみ

「そうですそうです。何やりましたっけね?」

#ミサキ

「なんだっけ?」

#ネネ

「よく忘れられますね。えげつないソースを作った人が」

#ミサキ

「えげつない……?……。あ、ハンバーグ!」

#このみ

「あぁ。それですそれです」

#ネネ

「私としてはハーブ塩も忘れられませんよ……。」

#ナカミチ

「変なの覚えてるな」

#ネネ

「私としてはよく忘れられますね。という気持ちですが」

#ナカミチ

「まぁ俺も忘れてないなぁ。後はお味噌汁もあったなぁ。後は……。ほうれん草のお浸しと……。その3つか」

#ネネ

「あぁ、そうでしたね」

#ミサキ

「思い付きで料理しちゃいけないということは学べた気がするなー」

#ネネ

「あれから少しは上手になったんですか?」

#ミサキ

「……何もしてないなー」

#ネネ

「……。まぁ私も料理していませんから何も言えませんが」

#このみ

「継続は力なりです。私の姉さんの料理の腕は上がる一方ですよ」

#ネネ

「どんどん完璧になっていきますね……、ともみさんは」

#このみ

「そうでしょうそうでしょう」

#ナレーション

自慢げである。

#ナカミチ

「このみのことは入ってないぞ」

#ナレーション

ともみさんは。完璧になっていく、ということはこのみちゃんは含まれていない。ネネちゃんもなかなか厳しい。

#このみ

「そういうこと言うと姉さんの手料理渡してあげませんよ」

#ナカミチ

「いるとは一言も言ってない」

#ネネ

「あと私そんなつもりで言ってませんからね?」

#ミサキ

「大学入ったら料理もしてみようかなー……。」

#ナレーション

未だに料理ができる女の子の評価は高い時代である。そりゃそうだ。変わったりしない。なにごともできないよりできたほうがいいのは悲しい事実であり、必要なのはそれだけで評価を決めつけない多様な評価基準である。

 

 

 

 

#ナレーション

食事も終わりかけ。このみちゃんのお弁当はまだ残っていた。

#このみ

「……。多い……。」

#ナカミチ

「少食になったなー」

#ミサキ

「女の子にかける言葉じゃないね……。でも1年生のころを知ってるとそう思うのもまぁ……。」

#このみ

「いつまでも成長期じゃないんですよ。今日は体育祭ですねと言って姉さんがニコニコと大きなお弁当を渡して来たら受け取るしかなかったんです」

#ネネ

「相変わらずお姉さん思いですね」

#このみ

「重い……?」

#ナレーション

そっちではない。が、気になるのはそっちのようだ。とにかく姉にとってはいつまでも可愛い妹なのだろう。そういう結論だ。あとともみさんの体重も別に重くない。それも結論である。健康体。

#このみ

「……ナカミチ君。卵焼き上げます」

#ナカミチ

「……まぁ残すぐらいならな」

#ナレーション

横からお箸で卵焼きを食べていくナカミチ君。

#ナカミチ

「……相変わらずおいしいな」

#このみ

「お肉も食べます?」

#ナカミチ

「いや、俺もまだ食べるものが残っていて……。」

#ネネ

「え?もう食べ終わりましたよね?」

#ナレーション

ナカミチ君はすでにお弁当をかばんに直していた。

#ナカミチ

「いや、食後のデザートにと思って、ぼたもちを……。」

#このみ

「食後のデザートとかブルジョアですか……。」

#ミサキ

「ぼたもちがブルジョアっぽいかどうかは微妙だけど……。」

#ナカミチ

「クラスの人数分……。」

#ナレーション

39個。かばんから保冷用の袋がズッと出てきた。さらに中からズオッとタッパー3個分が出てくる。

#このみ

「やっぱこのクラスで一番おかしいのナカミチ君です」

#ミサキ

「まぁねぇ……。」

#ネネ

「……。」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

誰も否定しなかった。ちなみにナレーションは最初からそう思っている。

#ナカミチ

「しかしこの感じだとこのみはいらないだろうし他にもいらない人いるかもなぁ」

#このみ

「えっ?!いやいや。知らないんですかナカミチ君!今、ちまたではデザートは別腹ってのが女子のトレンドなんですよ?!」

#ナカミチ

「いや、知らないが……。まぁ食べられるならどうぞ」

#このみ

「仕方ありませんねぇ」

#ナレーション

にやにやと自分のお弁当に1つ取って入れた。

#クラスメイト

「おっ。ナカミチのぼたもちが久しぶりに……、なんだこの量」

「おお。前は食べれなかったから……、なに?この量?」

「あら。ナカミチさんの……、えぇ……。」

#みしろ

「ナカミチがまた変なことやってるけど……。」

#ましろ

「……。」

#ミサキ

「ほ、ほら。みんなに食べてほしいから作ってきてくれたんだって!ほら!ナカミチ君だしね!」

#ネネ

「そ、そうですね。せっかくですし、いただきましょう!」

#ナカミチ

「ひ、ひとり一個と思ってな。ちょっと久しぶりに作ったのもあって量を作って勘を取り戻したかったんだ」

#このみ

「らしいのでいただきましょう!」

#クラスメイト

「ま、まぁそうだな。作ってきてくれたんだもんな」

「それにナカミチの作ったのは売っているものと比べてもおいしいしな」

「そうね。ありがたくもらいましょうか」

#ナレーション

各自お箸やナカミチ君が持ってきた大きめのようじでぼたもちをもらっていく。味が好評なのは食べた人の顔を見ればわかるものである。おいしいようだ。

#ましろ

「……。」

#ナカミチ

「ましろとみしろも1つづつもらってくれ」

#みしろ

「え?!えっと。じ、じゃあ。1つ。……ありがとう」

#ましろ

「……。」

#ナカミチ

「ましろも」

#ナレーション

そう言ってぼたもちがぎっしり詰まったタッパーを差し出す。様になっていないとしか言いようがないが。まぁかっこいいんじゃないかな。よくわからないが。

#ましろ

「も、もらいます。ありがとう」

#ナレーション

そう言ってもぐもぐと食べる。

#ましろ

「……おいしい」

#みしろ

「多分だけど昔より格段においしいよ」

#ナカミチ

「……久しぶりだな。食べてもらうのも」

#みしろ

「そうだね。もう10年前ってやつ?」

#ましろ

「たしか……。そのぐらいだね」

#ナレーション

思い出そうとしているのだろうか、むずかしい顔をしている。

#ふうき

10年ひと昔。人に歴史ありってやつだね」

#ナレーション

湧き出した。

#このみ

「おお。風紀さん戻られましたか」

#ふうき

「みんなの声を受けて戻ってきたよ」

#ましろ

「呼んでないけど……。」

#ふうき

「心の声が聞こえたんだ……。」

#このみ

「あ。それ私です」

#ナレーション

解決。

#クラスメイト

「おーい。ナカミチ。このぼたもち魔力回復するぞ」

「いつもよりもっと低い効果だがいいのかこれ?」

「午後の部に影響しないの?」

#ナカミチ

「ん……?そりゃあ手作りだからな。いくらかは魔力が入るだろう」

#このみ

「いやいや。調節してくださいよ。……あ、確かに回復してきました」

#ナカミチ

「調節って言ってもなぁ……。ゼロにはできないだろう」

#ましろ

「……普通は魔力を吐き出すというか放出するように調節するものだけど」

#ナカミチ

「ん?出ないように調節するものじゃあないのか?」

#みしろ

「いや、それじゃあ放出しっぱなしに…?あ、私たちも回復……。」

#ましろ

「……。なにこれ」

#ふうき

「どうしたの?」

#みしろ

「い、いや。なんていうか」

#ましろ

「回復した。2割ほど」

#このみ

「2割……?」

#ネネ

「何が2割なんですか?」

#ふうき

「……はい?2割って」

#ミサキ

「えっ。まさか」

#ましろ

「私たちの魔力の2割が回復した」

#みしろ

「……うん。そうだね」

#ナカミチ

「なっ?!」

#ネネ

「な、なんでですか?!」

#ましろ

「それは……。」

#みしろ

「このぼたもちしか考えられることはないんだけども……。ナカミチ。これは?」

#ナレーション

ぼたもちの入ったタッパーを見て聞く。

#ナカミチ

「いや。何も変わったことはしていない……。」

#ナレーション

慌てているようである。予想外には慌てないことと迅速な行動が求められる。つまり不可能だ。

#クラスメイト

「いやいや。このぼたもちにそんな力はねーよ」

「ナカミチにそんなたいそうなものを作れる気はしないぞ」

「大体他のクラスに使われた私たちの魔力を回復しきれる程度もないのよ?」

#ナカミチ

「そ、そうだな」

#ナレーション

擁護が援護になっているかはわからないものだ。

#さいか

「……どうしたんですか?」

#ネネ

「いえ、それが……。」

#ナレーション

さいかちゃんが戻ってきた。ネネちゃんから説明を受けている。

#さいか

「……彼が作る魔動具としての食品は特殊だと考えるべきではないでしょうか」

#このみ

「特殊?」

#ふうき

「……。くぜ先生がナカミチ君の作った魔動具の飴を使っていた」

#ましろ

「そういえば……。」

#ナレーション

思い出すのはナカミチ君から飴を受け取っていたくぜ先生の姿である。そして実際に使っていた。

#ましろ

「食べてみたら面白いかもとかそういうことをおっしゃっていた気がする」

#さいか

「……とにかく、です。回復してしまったのなら再度使う必要があります」

#クラスメイト

「使うっていうと……。」

「午後にまた魔力の均衡を行うなら今のままでは、な」

「わざわざ魔力の総量を増やす必要はないってことね」

#ましろ

「……待って。それは体育祭中にゴーグル以外で魔力を使うということになる」

#みしろ

「それは。まぁそこを気にして私たちは体育祭前に魔力をほとんど使い果たしてきたからね。私は飛び回って姉さんは大量に水を生成して。みんなもそうでしょ?」

#クラスメイト

「え?」

「……してない」

「た、確かに言われてみればするべきことね……。」

#ましろ

「え?連絡あったじゃない。風紀さんからケータイに」

#みしろ

「私は姉さんから聞いたよ?伝えてくれって風紀さんから連絡があったって」

#このみ

「……ん?」

#ネネ

「知りませんけど……。……。風紀さん?」

#ナレーション

知っているのはましろちゃんとみしろちゃんとそして風紀さんである。尋問開始。

#ふうき

「やってもーたわ」

#ナレーション

自供。

#さいか

「しかし……。こうなった以上ましろさんとみしろさんにはなんとか魔力を消費していただかなくてはいけませんし」

#このみ

「ですが……。」

#ナレーション

シリアスに戻った。

#ふうき

「あー!ごめん!ごめんって!ねっ?!ふうきちゃんは構って欲しがりなの!ねっ?!」

#ネネ

「知っていますから空気ぐらい読んで黙っといてください」

#ふうき

「無理だって!風紀さんシリアスとかできないタイプ。ねっ?!」

#ナレーション

とてもわかる。シリアスだとナレーションも空気を読んで出ていきにくい。だがシリアスができないはさすがに嘘だとわかる。

#このみ

「しかし状況は深刻ですよ風紀さん。どうしましょうかねぇ」

#ふうき

「ふふふ。それはどうかな。こういう時にこそデータというのは役に立つんだよ。ましろちゃん。回復したっていう魔力の量は2割だね?」

#ましろ

「うーんと……。そうだね。2割から2割3分ぐらいってところかな」

#ふうき

「それはましろちゃんとみしろちゃんを除いた3学年合わせた生徒たちの総量の5割ぐらいのはずだよね。ナカミチ君」

#ナカミチ

「ああ……。そうだな。すごい差だから覚えている。確かにましろとみしろの魔力はそのほかの生徒の魔力総量の2.5倍ほどだったはずだ。その2割少しなら5割ほどと考えてもいいだろうな……。」

#ナレーション

データ資料を手に取る。

#クラスメイト

「改めて聞くとこの差よ……。」

「他全員どんぐりの背比べってやつよ」

「で、おそらく上には上が圧倒的な差でいてらしたんだろうな……。」

#ふうき

「後は……、さいかちゃん。午前中の魔力均衡の推移はどのぐらいだったかな」

#さいか

「えっと……。あ、半分ほど……。」

#ふうき

「そういうこと。午前の時点で得点はわずかにうちのクラスが上回っていた」

#ミサキ

「つ、つまり……。」

#ふうき

「午前と同じようにやっていれば勝てるっていうこと。そうでしょ?ましろちゃん」

#ましろ

「それは……。……。私たちの体力と精神力が持つかどうか」

#ネネ

「それはつまり午前と同じパフォーマンスができるどうかということですか」

#ましろ

「そういうこと。肉体的な疲労は相手も同じだと思う。だけど私たちはそれに加えてそれなりに精神も使っている。そこの疲労の度合いは私にはわからないよ」

#ふうき

「そうだね。その通り」

#ましろ

「……わかってて聞いた?まぁいいけど」

#ふうき

「ごめんごめん。でもこれでやることははっきりしたというわけだね」

#このみ

「そ、それは……?」

#ふうき

「それはねー。ナカミチ君?」

#ナカミチ

「?なん、」

#ふうき

「えい」

#ナレーション

ようじに突き刺したぼたもちを1つナカミチ君の口に押し込む。

#ナカミチ

「むぐっ?」

#ふうき

「甘いものを食べて脳に栄養を送ることだよ。私たちの魔力が回復したところでほとんど変わりやしないし」

#ナレーション

「それは……。たしかにそうだが……。」

「まぁ風紀さんがそういうならそうなんでしょうね」

「ナカミチがせっかく作ってきたんだしな。まだもらってないやつは取っていこうぜ」

#ナレーション

全員が1つづつ手に入れてそして1つ残らずなくなった。

#このみ

「よかったですねナカミチ君。……風紀さんにお礼言っとかないといけませんよ」

#ナレーション

そっとナカミチ君の横にこのみちゃんがやってくる。

#ナカミチ

「……まったくだ」

#ナレーション

ふと振り返ったとき、人はたくさんのことを他の人からしてもらっているだろう。だからこそ自分もたくさんのことをしてあげたいと。そう思うのだ。うん。完璧なまとめだった。そして午後へ続く。

 

 

 

 

#ナレーション

午後の部。

#ふうき

「えー。午後の部が始まる前に。1つ」

#ナレーション

まだ始まってなかった。

#ネネ

「手短に」

#ふうき

「わかってるって。後3分あるじゃん」

#さいか

「その言い方だとわかってないって思われます……。」

#ふうき

「分かってるけどやめられないんだよねー」

#このみ

「そういうことって人である限り1つはありますよね」

#ふうき

「そうそう。それを止めることなんて誰にもできないんだよ」

#ネネ

「じゃあもういいですね」

#ふうき

「えー。私が言いたいことは1つ」

#ナレーション

始まった。

#ふうき

「ここまで順調に進んでいるのは間違いないし、このままいけば勝てるだろう。だけどね。力が入りすぎてけがをするのだけはやめてね。あと勝利に妄執して他人をケガさせたりもしないよう気を付けて。団体戦が午後は多いからね。それだけ」

#みしろ

「ここにきてとてもまとも」

#ましろ

「ううん。とても大事なことだよ。私も力が入りすぎてるかも。気を付けないと」

#クラスメイト

「よーし。やりましょうか」

「そうね。気を抜かずに」

「じゃあ次の競技に行ってくるわ」

#ナレーション

各自が各自のやることをする。その先にある勝利のために。

 

 

 

 

#ふうき

「いやー。……でなんでこうなるかなぁ」

#ナカミチ

「どこかで見たような点数差だな……。」

#このみ

「1年の時も最後15点差なんでしたっけ?」

#ふうき

「そうそう。よく知ってるね。あ、いや。私が言ったんだっけ」

#ナレーション

最後の競技を残し15点差という数字。ただ一つ違うのは。

#ふうき

「まぁ今回は1年の時と違って15点リードしてるから気が楽だなぁー。ははは」

#ナレーション

15点上回っていた。その余裕は乾いた笑いからも読み取ることができるだろう。

#ナカミチ

「最後の競技の得点差が1位の俺たちと2位の1組で20点だから順位によっては最後の競技2位でもいいが……。まぁ1位を取るしかないだろうな」

#このみ

「でもまぁ本当にどれもギリギリでしたよ。騎馬戦とか本当に危ないっていうか」

#ふうき

「うちの騎馬戦は最近の高校にしてはすごく珍しい全クラス参加の多数対多数だからね。猛攻を避けるだけで精一杯というか、このみちゃんが言うように危ないよねあれ」

#ナカミチ

「なんにしても次が最後だ。全力を出さないとな」

#ネネ

「全力を出すのは賛成なのでそろそろ入場口のほう向かいませんか」

#ナレーション

ネネちゃんがどこからかやってきた。ちなみにもう前の競技は終わっている。次の競技の参加者であれば入場口にいてもいい時間だ。というか遅れ気味だろう。

#ふうき

「その昔、とある剣豪はとある剣豪と戦い、後れを取ったという話が」

#ネネ

「遅れたのと後れを取ったのは別の人ですけど」

#ふうき

「じゃあやっぱ遅れるのがいいんだよ」

#このみ

「うぅん。この思慮深さよ……。」

#ネネ

「おかしなこと言わないで行きますよ。他の方たちはもう向かってますし」

#ふうき

「それは、そろそろ行かないとねぇ」

#このみ

「そうですねぇ」

#ナカミチ

「……。」

#ネネ

「……。」

#ナレーション

待てども3人、動かない。

#ネネ

「なんで動かないんですか!」

#ふうき

「いや、これで決まると思うと気後れするというか。しない?」

#ネネ

「皆さん居るから大丈夫ですよ!さっさと行きますよ!」

#ナレーション

手首をつかんで引きずっていく。

#ふうき

「あーれー。ご無体なー」

#ナレーション

引きずられるままに連れていかれた。ついに始まるようだ。

#このみ

「じゃあ私たちも行きましょうか」

#ナカミチ

「そうだな」

#ナレーション

2人も引きずられていく風紀さんの後を見ながら歩き始めていった。

 

 

 

 

#ナレーション

グラウンド。出走準備に入るナカミチ君たち。1クラス合計8人、1人トラックを半周し、最後の走者は1週走り、終わりだ。

#ナレーション

すでにトラックの反対側へ4人行き、風紀さんとこのみちゃんとは別の出走場所にナカミチ君はいた。

#ナレーション

すでに他学年のリレーは始まっていた。3年生のリレーは最後の最後になる。

#クラスメイト

「ついに最後かー、緊張するなーナカミチ」

#ナカミチ

「そうだな。必要なのは速さとか身体能力より度胸とか心の強さとかいう感じがする」

#ネネ

「ここまで来たら全力で走るだけです。それが一番いい結果を出すはずです」

#ましろ

「ネネさんの言う通り。みんなが全力で走れば必ず……。いや、あとはもう勝つだけだよ。私が予想する必要はない。勝つ」

#ナレーション

2人とも完全に集中している目だった。

#クラスメイト

「そ、その通りだな!うん。俺もそう思うぜ!ナカミチも頑張ろうな!」

#ナカミチ

「あ、ああ。落ち着くのが大事なんだ。こういう時は。集中だ。集中」

#ナレーション

比べると不安に見えてしまうが信じたいと思う。集中している2人に聞こえないように小声で2人がしゃべる。

#クラスメイト

「も、もはや怖いという気持ちが出てくるんだけど。ま、まぁ頼もしいってことでいいんだよな?」

#ナカミチ

「み、味方でよかったと思おう。こういう時は女性が強いというが……。」

#ナレーション

ぼそぼそと都合のいいことを言う。女性が、というなら男性らしく頼りがいを見せたらどうか。

#ましろ

「聞こえてるよ」

#ネネ

「聞こえてますよ」

#クラスメイト

「あ、すみません」

#ナカミチ

「すみません」

#ナレーション

立場が弱い。

#ナレーション

そんなことをやっている間に2年生のリレーが終わり、ついに出番が来た。

#ナレーション

ナカミチ君は視線をトラックの反対側にいるクラスメイト達に向けた。向けたが遠くてよくわからなかった。このみちゃんが手を振ってきたのでナカミチ君は振り返しておいた。

#ナレーション

教師からの指示が出た。立ち上がる。スタートは反対側にいる第1走者からだ。

#クラスメイト

「さーて。いっちょやるか。何とか俺んとこ、第2走者で先頭を取ってほしいって言われてるしな」

#ネネ

「私はなんとか2位で踏みとどまればと言われています。気負わずに全力で行きます」

#ナレーション

ネネちゃんはその次、間に向こうにいるクラスメイト1人を挟んで第4走者。

#ナカミチ

「で俺がネネさんの次に走るこのみが縮めた先頭との差を維持して。と」

#ナレーション

彼は第6走者。このみちゃんはその前の第5走者。

#ましろ

「後は風紀さんと私で1位を取る。……うん。大丈夫そうだね」

#ナレーション

風紀さん、第7走者。アンカー、ましろちゃん、第8走者。

#ナレーション

その会話を最後にお互い、もう話さなかった。

#ナレーション

開始の火薬音が鳴る。歓声が競技に向けられる。混ざり合い何を言っているのかわからない。ただ一番騒がしいのは彼らのクラスが待機している方向の気がした。

#ナレーション

第1走者たちは既にその差を明確に開けていた。先頭とその次こそ差は少しづつ開いていくように見えたが、それ以降はなかなか厳しいようだった。

#ナレーション

先頭は1組の生徒。次がナカミチ君たち機械科の101組である。

#ナレーション

バトンが次の走者に手渡される。第2走者が走り出していく。

#ナレーション

ネネちゃんが走る準備を始め、歩き出していった。第2走者たちはその順位を入れ替えていく。先頭は次の走者に行くころには機械科が先頭になりそうだった。3番目以降は大きく変わらない。

#ナレーション

第3走者。歓声はいよいよ本当に何を言っているのかわからないほどに大きく混ざり合うように聞こえる。先頭と2番の差がほとんどなくなる。第3走者以降が大きく距離を離されていた。ネネちゃんへバトンが渡る。第4走者が走る。

#ナレーション

ナカミチ君はトラックのほうへ近づく。視線を走っているネネちゃんへ戻す。先頭は1組へ渡り、その差は空間ができるほどに広がっていた。彼女は前だけを見ていた。遠くからでもわかった。そのバトンがこのみちゃんへと渡る。

#ナレーション

先頭を走る1組との距離を縮め始める。いきなり先頭が大きく体勢を崩し、スピードが落ちる。このみちゃんが距離を縮め、

#ナカミチ

「……あっ」

#ナレーション

このみちゃんが大きく前へと転ぶ。顔から大きく地面へ。ナカミチ君がトラックへと足を踏み入れた時だった。

#ナカミチ

「このみ!!」

#ナレーション

叫んだ。彼女はきっと痛いはずだ。むき出しの地面。擦り傷の痛みはすぐに精神を蝕む。彼女はすぐに立ち上がって走りだす。崩した姿勢を立て直した先頭との距離は明確にあいていた。

#ナレーション

ナカミチ君の横を先頭の1組が走っていく。このみちゃんの姿がしっかりと見えてくる。泥だらけだった。ナカミチ君はバトンを受け取るため走り始める。

#このみ

「地面が濡れてます!!」

#ナレーション

バトンを手渡されるときにそう叫ばれた。ナカミチ君は走り始めた。先頭との距離は縮まらない。前の方で地面の色が違うのが見えた。先頭を走っていた1組は足を滑らせて姿勢を崩したが立て直す。ナカミチ君はぬかるんで走りにくい地面を走っていく。

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

彼は明確に不快感を顔に出したがすぐにやめた。先頭との距離は縮まったが、また少しづつ離されている気がした。前に風紀さんが見える。

#ナカミチ

「地面がぬかるんでる!!」

#ナレーション

そう叫んでバトンを手渡す。風紀さんが駆けていった。

#ナレーション

距離が縮まっていく。先頭も、それに続く風紀さんも体勢を崩さない。走り終えたナカミチ君は走り終えた生徒として指定の場所へ歩いていく。歩いているときでも競技から視線は離せなかった。だからナカミチ君は何もないとこでこけた。すぐ立ち上がる。

#ナレーション

風紀さんと先頭の距離が縮まりに縮まってましろちゃんへバトンが手渡される。最後の走者だけあって走るのが速い人が選ばれているのだろうか。そのスピードは1段階上がって見えた。

#ナレーション

だが、ましろちゃんのスピードは1段階、2段階という物ではなかった。必死に逃げていた先頭だが、やがて抜かれ、抜いてさらに加速していく。やがてトップスピードになったのだろうか。速さが安定する。

#ナレーション

最後尾の走者がバトンを手渡された後、ゴールテープが慌てて用意される。ピン、とテープが張った瞬間、ましろちゃんが文字通り突っ込んできた。テープを持つ先生方が引っ張られるようにテープに突っ込み、慌てて先生方が手を離す。テープはましろちゃんにひっついてたなびいていた。

#ナレーション

最後の競技が終わった。

#ナレーション

やがて徐々にスピードを落とし歩き始める。ゴールテープがましろちゃんからはなれて、落ちる。

#ふうき

「や、っ……!」

#ふうき

「やった……。」

#ナレーション

いつの間にか静まり返っていたグラウンドで小さくつぶやく風紀さんの声が聞こえた。次の瞬間このみちゃんが風紀さんに抱き着いて喜んだ。

 

 

 

 

#ナレーション

リレーが終わり観客席に戻ってきた一同。当然のように勝者への歓声がクラスメイトから上がる。しかしもう全員が勝者である。自分のために喜んでもいいのだが、そうならないのは謙虚とか美徳だろう。

#クラスメイト

「お、俺はもう感動して……。なんで2人泥まみれなんだ?」

「みんなよくやったわね!……なんで2人泥まみれなの?」

「なんで泥まみれ……?」

#ナレーション

このみちゃんと風紀さんが泥まみれだった。なぜだろうか。よく思い返せばこのみちゃんは濡れた地面にすっころんでいた。しかし、風紀さんはなぜ泥まみれなのだろうか。疑問として残しておこう。これでミステリを名乗れる。名乗る必要があるかわからないが。

#ふうき

「いや、勝者には美女からの熱い抱擁がお決まりだからね」

#このみ

「す、すみません。調子に乗っちゃって」

#ナレーション

謎は深まるばかりだった。

#ふうき

「それだけ喜ぶ姿が見れてうれしいかったよ。みんなで勝てたんだって思えて。なかなか実感がわいてこなかったからね」

#ネネ

「確かに素直に喜べましたね」

#クラスメイト

「実感……。実感かぁ」

「そういえば勝った瞬間はなんか喜びより安心感があったな」

「そうね。よかったな。って感じだったかも」

#みしろ

「でもさすがだったよねー。姉さんにバトンが渡るときには勝利が確信できたけど」

#ましろ

「いや、危なかったよ。直前でナカミチ君が笑わせてきたんだもん。力が抜けるかと思っちゃった。走っているときもそれ考えないようにしてたんだから」

#このみ

「あ、やっぱりこけてたんですね。なんか視界の端でこけてた気がしたんですけどふと見たときには立ってましたので見間違えたかと思いました」

#ミサキ

「あ、やっぱりこけてたんだ。こっちでもあれ?ってみんな思ったんだけど」

#ふうき

「え?なにそれ。そんな面白いことあったの?」

#さいか

「風紀さんが走っているときだったはずです。そのあたりで皆さん不思議な反応していましたし……。」

#ナカミチ

「よそ見してたからな……。そんなことはどうでもいいだろう……。」

#ナレーション

余裕があっていいことだ。勝負がついた後の和やかな一幕だった。

#ミサキ

「こけたというと……、このみちゃんは大丈夫?見た限り大丈夫だけど」

#クラスメイト

「あ、そうよそうよ!このみちゃんこけてびっくりした!」

「あの時はこっちも凍り付いたぞ」

「すぐに立ち上がってほっとしたからなぁ」

#このみ

「あぁ……。特にケガもないし大丈夫ですよ」

#ネネ

「それで……。あの転倒はやはり……?」

#ナカミチ

「まぁ後続の嫌がらせだろう。いちいち相手にしなくていい」

#さいか

「同感ですね……。」

#クラスメイト

「いやがらせって……。なんだそれ?」

「いいのか?そんなことされて」

「そんなことされたの?というかどういうこと?」

#ふうき

「走っているグラウンドが途中からぬかるんでたんだよ。おそらく途中で水魔法によってグラウンドが濡らされたんだとは思うんだけどね」

#クラスメイト

「それで泥だらけってわけか」

「まさかそういう手まで使われるとは思わなかったが」

「どうするのこれ。さすがにひどいと思うんだけど」

#ミサキ

「このみちゃん本人が気にしていないみたいだしいいんじゃないかな。それにせっかく勝ったのにそんなこと気にしたくはないよ」

#ましろ

「……そうかもね」

#みしろ

「珍しいね。姉さんこういうこと許さないのに」

#ましろ

「別に許してはいないけど……。実際このみちゃんがこけたとき何が起こったか分かったんだけど頭に血が上ってたよ。そのまま走ってたら実力出せてなかったかも」

#みしろ

「うわぁ」

#ネネ

「ましろさんが冷静さを欠くというのは何か言い難い怖さがありますね……。」

#ふうき

「それはもう……。大地は裂け、風はあばれ狂い……。」

#このみ

「草木はレクイエムを奏で、太陽はその姿を隠す……。」

#ましろ

「そ、そんなことないよ。実際冷静さ取り戻せたし」

#ましろ

「……ナカミチ君がこけてたから」

#ナレーション

さすが主人公である。

#ふうき

「またか!わざとやったな!」

#このみ

「吐け!吐きなさい!やりましたね!?」

#ナカミチ

「何もやってない……。こけただけだ……。」

#ネネ

「何か変なダメージ受けてますね……。」

#ナレーション

恥ずかしいのだろう。

#ましろ

「ま、まぁそういう意味ではこけてくれて助かったかな。あ!ナカミチ君がね?!心の平穏が保たれたし!」

#ナレーション

このみちゃんがこけてくれて、だと大きく意味が違う。もちろんそんなことをいう子ではない。

#ふうき

「ま、勝ててよかったよ。私みんなと勝てて本当によかったと思ってる。今はそれだけ思っていたいかな」

#このみ

「同意見です。気が合いますね」

#ふうき

「いつものことだね。ふふふ」

#クラスメイト

「そう……だな。本人が気にしてないし」

「私も素直に喜びたいし」

「それが一番いいだろうしね」

#ナレーション

喜ぶときは素直に喜んでおくべきだ。

#みしろ

「じゃあこれでこの企画は大成功ということで!」

#ナレーション

長かった執念はここに昇華された。これでおしまいである。

#ふうき

「あぁ!締めを取られた!」

#みしろ

「えっ?ご、ごめん」

#ふうき

「いや、謝られると……。いや、いいんだよ。うん」

#ナレーション

たまにはナレーションの読み通りにきれいに終わらしてくれないだろうか。まだ続くらしい。

#ネネ

「グダグダやっているからです。これから改めたらどうです」

#ふうき

「それはアイデンティティを捨てろと……。」

#ネネ

「嫌ならもういいです。こっちもいい加減慣れましたし」

#ふうき

「か、考えとくよ……。」

#ナレーション

割と効いたらしかった。今自分探しの旅が始まる……。始まらないが。

#ましろ

「じゃあ改めて、風紀さん」

#ふうき

「改められるのもちょっと……。」

#このみ

「ここで押しが弱いのはさすがに面倒ですよ」

#ふうき

「そ、そう?」

#ナカミチ

「このみにまで言われてるぞ」

#ふうき

「ぐわー!」

#このみ

「あぁっ!ナカミチ君が私の言葉を悪用して、」

#ネネ

「そろそろ閉会式ですし皆さん行きましょうか」

#クラスメイト

「いやー。よかったよかった」

「集大成。有終の美ということだ」

「じゃ行きましょうか」

#ナレーション

おとなしくナレーションがしめたところで終わっておけばいいと思う。

#このみ

「……悪用してー」

#ふうき

「ぐふぅー……。」

#ナカミチ

「分かったから行くぞ」

#ナレーション

終わり。

 

 

 

 

#ナレーション

そして日は経ち。

#ふうき

「ふぅ……。」

#ナレーション

教室で机に肘を置き、手で頬を支えている。目線は廊下を見ているようだ。そして可愛い風紀さんがこんなため息をついているのに隣のナカミチ君は勉強をしたまま知らぬ顔だ。

#ふうき

「あの騒がしかった体育祭もまるで昨日のよう……。」

#ナレーション

どうやら体育祭から1日後らしい。風紀さんの性格を考えるとこう推察ができる。ナレーションも慣れてきたというものだ。

#ナカミチ

「……。」

#ふうき

「昨日のよう……。昨日のよう………。昨日のよう…………。」

#ナレーション

エコーがかかったようにそう言い続ける。そろそろナカミチ君が折れるころだ。

#ナカミチ

「……それほとんど毎日のようにいってるよな」

#ナレーション

目線を机の参考書に落としたまま口だけで答える。なんとまぁレディに対してそのどうでもいいかのような口の利き方。なんて奴だろうか。まぁナカミチ君であるが。

#ふうき

「ふぅ……。時がたつのがはやい……。……。はやい……。はやい……。はやい……。」

#ナカミチ

「それもほとんど毎日のように聞かされているんだが」

#ナレーション

参考書類をとじて風紀さんのほうへ向き直る。それでいい。

#ふうき

「さっきからほとんどってなんだよー。言い忘れたことないよー」

#ナカミチ

「……そうだったかな?」

#このみ

「多分ナカミチ君が聞いてない時があるんじゃないですか?私時々聞いてますし」

#ナカミチ

「じゃあ全部任せる」

#このみ

「言われなくてもだれが好き好んでこんなかわいいかわいい子をこわいこわいナカミチ君に任せるってもんですか。さ、こっちですよー」

#ふうき

「わーい」

#ナレーション

椅子をごとごとごと、と座ったままひきずって動かしてこのみちゃんの机に向かう。

#このみ

「じゃあ私と数学の問題でもしますか。早解き競争で」

#ナレーション

変なことを言い出した。

#ふうき

「いやだあああぁぁぁぁ!学校でまで勉強したくないぃぃぃぃ!」

#ナレーション

風紀さんが至極まっとうなことを言い出した。あ、いや学校で勉強をすることはおかしくない。風紀さんが変なことを言い出した。

#ナカミチ

「おかしなことを言うな。やる気がなくなる」

#ふうき

「だってー。せっかくの学校なのにー」

#ナレーション

こう聞くとかわいそうになってくる。

#このみ

「まぁまぁ。風紀さんにとってはもう学校の勉強じゃ物足りないんですよ。家で勉強して学校で寝る。いいことじゃないですか」

#ナカミチ

「よくない」

#ナレーション

よくなかった。よくなくても解決策は生徒の手にはない。

#ふうき

「残念だけどこのみちゃん。これはナカミチ君に賛成だね。残念だけど」

#ナレーション

念押しのように残念だと2回言う。それほどまでにこのみちゃんのことを大事に思っているという友情が垣間見える大事なシーンだ。

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

この大事なシーンに黙っているとは置物かなにかだろうか。

#このみ

「いいえ。そんなことでは私たちの友情に傷一つつきませんよ。わかりましたかナカミチ君」

#ナカミチ

「分からない」

#ナレーション

わからなかったらしい。置物である。

#ふうき

「学校ははしゃぐ場所だよ?それがまぁなんともまぁ。もうやんなっちゃう。わかるでしょ?」

#ナレーション

具体的な言葉は何も出なかった。

#このみ

「分かります分かります」

#ナレーション

わかるらしい。

#ナカミチ

「とりあえずはしゃぐ場所ではないなぁ。」

#ふうき

「かぁーっ!それが間違ってるんだよ!まったく近頃の若いもんは……。」

#ナレーション

別に若い者が若い者を近頃の若い者と言っても問題はない。むしろもっと言ってやったらいいかもしれない。

#ナカミチ

「その近頃の若い者はもう受験の年なんだがなぁ」

#ふうき

「何が受験だ!若いもんは太陽の下で遊ぶのが正しい姿だ!」

#このみ

「室内でのゲームは?」

#ふうき

「大いに結構!」

#このみ

「わーい」

#ナレーション

一つの友情が守られた瞬間だった。

#ナカミチ

「もうわかったから勉強しろ。充分はしゃいだだろう。周りの迷惑にもなるからさ」

#クラスメイト

「別に。いつものことだろ」

「いつも通りだし」

「むしろ静かだといつもと違って落ち着かん」

#ナカミチ

「……そうですか」

#ナレーション

急に丁寧な言葉になってしまった。

#ふうき

「はぁー。ま、学生らしくそろそろいつも通り勉強しましょっか。このみちゃん」

#このみ

「……いけません」

#ふうき

「え?なに?急に」

#ナカミチ

「……またいつも通りがどうだとか、」

#このみ

「よく考えたらそうですよ!何か引っかかってたんです!何となく充実してたから気が付かなかったんですよ!体育祭が終わってからというもの変わり映えのしない日々!」

#ナカミチ

「充実してるならもういいだろ……。」

#ふうき

「あー。スイッチ入ったね」

#ナカミチ

「もう知らん」

#このみ

「何言ってんですか。ほら、やりますよ」

#ナカミチ

「なにを」

#このみ

「いや、夏休みの時からちょこちょこと言ってたやつですよ。魔道祭の準備」

#ふうき

「あー。もうそんな時期か。あと何か月後だっけ」

#ナカミチ

「2か月後」

#ふうき

「そのころには推薦入試が始まっている子もいるだろうね」

#ナカミチ

「だろうなぁ。だからそろそろ受験勉強も最後の追い込みを始めて、」

#このみ

「忙しくなる前に準備するんですよ!」

#ナレーション

常に先手を打って準備をする。忙しい時ほどじゅうよう……。夏休みが終わったと聞こえたが見え間違いだっただろうか。聞き間違いだろうか。いや、現実を見よう。今はおそらく9月ぐらいだ。

#ふうき

「あのね。このみちゃん。私さっきはあんなこと言ってたんだけど結構志望大学に学力ぎりぎりであんまり時間取れなくてね」

#ナレーション

現実が見えていた。このみちゃんの表情が固まってしまった。

#このみ

「そう、ですか。いや、仕方ありませんね。……。」

#ナカミチ

「……このみ。できる範囲で、」

#ふうき

「だから準備もうちょっとかかるかなー」

#このみ

「そうですか。……ってもうちょっと?」

#ふうき

「あと1か月ぐらい」

#ナカミチ

「……できるのか?」

#ふうき

「できるよ?」

#ナレーション

期待には答えてこそである。

#このみ

「わーい。さすが風紀さんですー」

#ふうき

「わーい」

#ナレーション

喜ぶこのみちゃんたち。

#クラスメイト

「あー。ついに始まるか。いや、楽しみではあるんだがな」

「怖いのよねー。この時期に準備をこなしきれるかがねー」

「それなんだよね。なんか不安っていうかー」

#ナレーション

ぞろぞろと集まり始めていた。

#みしろ

「始まるならそろそろと思ってたんだよねー」

#ましろ

「ふふ。そうだね」

#ミサキ

「そこはみんなでやれば大丈夫だよ!むしろ勉強以外にやることができて安心しない?」

#ネネ

「そんなことで安心しないでください」

#ナレーション

ネネちゃんミサキちゃん。2人と一緒に勉強していたさいかちゃんや他のクラスメイトも集まってくる。もうクラスの全員が集まってきていて団子状態だ。

#ふうき

「ま、できるだけ早く1つ仕上げるよ。後は微調整と動作テストだと思うからね。あとの複製は前から言っているように任せるからね。よろしく」

#このみ

「ええ!ここまでしてもらいましたからね。後は任せてください!」

#ふうき

「後は企画名もよろしくね」

#このみ

「いやー。それは……。」

#ナカミチ

「それは風紀さんが考えてこそだと思うんだが」

#ナレーション

また変な企画名だろうか。それもいいのかもしれない。彼らにとってはそれがいいのかもしれない。

#クラスメイト

「そうだよなぁ」

「今となってはないとそれはそれで寂しく感じるけど」

「そうなのよねぇ」

#ふうき

「だーめ。このみちゃんが委員長でこの企画はこのみちゃんが考えたの。自分で考える。ねっ」

#このみ

「うぅ……。難しい問題です……。風紀さん。今からでも委員長に戻ってください」

#ふうき

「いーや。私はこのみちゃんが委員長のほうがいいの。だから委員長をやめてわざわざみんなでもう一回決めなおしてもらったの。ね?じゃ、あと頑張ってね」

#このみ

「うぅー。ナカミチ君も考えてくださいよぉ」

#ナカミチ

「そういっても納得しないじゃないか」

#このみ

「納得できるもの出してくださいよー!」

#ネネ

「これまた理不尽なこと言っていますね」

#ましろ

「まぁまぁ。ちょっとみんなで考えてみよ。みんなで考えるのはいいよね?風紀さん」

#ふうき

「うん?もちろんだよ。ナカミチ君だけじゃ何とも不安だから」

#ナレーション

もっともだった。わいわいと全員で話し合う。

#ナカミチ

「いいのか?混ざらなくて」

#ふうき

「それはナカミチ君の方でしょ。さっさと副委員長は委員長を手助けに行ったら?」

#ナレーション

そう言って頬に手を当てる。目線は集まっているクラスメイト達に向けられているのかその先を見ているのか。

#ふうき

「ふぅ……。時がたつのがはやい……。」

#ナレーション

アンニュイな気分であるところ申し訳ないが、その感想こちらほどではない。

#ふうき

「……。私も混ぜろー!」

#クラスメイト

「うおっ?!」

「あぶな?!」

「おっと」

#このみ

「ぎゃあー?!」

#ふうき

「きゃー」

#ナレーション

どーんと飛び込んでいった。近くにいたものは即座に反応できたが中心にいたこのみちゃんがその勢いを全部受けていた。じっとできない体質なのだろう。我慢が聞かないのだ。我慢するべき場面などそうないものだが。つまりいいことだ。

#さいか

「……。」

#ナレーション

そして彼らの学生生活。最後のひと騒動が始まる。

 

 

 

#ナレーション

学校前。いつもより騒がしい声が響いている。校舎には文化祭という垂れ幕が飾られている。ナカミチ君はそれを見ながら学校へと入っていく。

#このみ

「えー。そしてその理論を使用して魔力という力を空間内にためることができました。これにより……、」

#ナレーション

前のほうに手元の紙を見ながらぶつぶつとつぶやくこのみちゃんがいた。

#ナカミチ

「前を見ないと危ないぞ」

#ナレーション

そう言って横に立つ。

#このみ

「おっと?これはナカミチ君おはようございます」

#ナカミチ

「おはよう、このみ。それは今日の原稿だよな?」

#このみ

「ええ。やっぱり不安ですからね。内容がふっと抜け落ちたらと思うと。ってやつです」

#ナカミチ

「このみは本番に強いほうだから大丈夫だろう。それにフォローも万全だしな」

#このみ

「それはそうですし、ありがたいんですけどね。忘れたら通信で話す内容を教えてもらえるって思うと緊張が切れて話す内容が全部抜け落ちてしまいそうで、しまいそうで」

#ナカミチ

「あー。まぁわかるかもな」

#ナレーション

適度な緊張感が重要だということなのだろうが、調節ができるかどうかは別問題だ。できたら苦労しない。乗り越えた困難の数だけ強くなれる。らしい。噂ではよく聞く。

#ナレーション

とりあえず言えることは進んだ分だけ学校のにぎやかさが増しているということだけだ。

#このみ

「いやー。にぎやかですねぇ。毎日がこうだといいんですけどねー」

#ナカミチ

「毎日がこうだと準備する時間もないぞ」

#このみ

「そう言われればそうですね。じゃあ月に1回ぐらいで」

#ナカミチ

「1学期中に1回ぐらいでちょうどいいだろうな」

#ナレーション

今まで通りだ。向上心が欲しい。

 

 

 

#ナレーション

校舎内を進んでいく。文化祭当日、廊下にはあわただしい生徒たちが行き交う。

#さいか

「おはようございます」

#ナレーション

ふと後ろから声をかけられた。

#このみ

「うん?あ。さいかちゃんおはようございます」

#ナレーション

振り返りさいかちゃんのほうを見るこのみちゃん。

#さいか

「おはようございます。このみさん」

#ナカミチ

「おはよう。さいかさん」

#さいか

「おはようございます」

#このみ

「あ、そうだ。さいかちゃんは毎月文化祭とか体育祭とかがあったらいいと思いませんか?」

#さいか

「毎月、ですか?いえ、それはちょっと……。」

#ナレーション

それはそうだろう。毎月あってもいいだろうがなかなかハードである。

#ナカミチ

「そりゃあそうだろ」

#ナレーション

向上心を持ってほしい。

#このみ

「おっと。ナカミチ君。さいかちゃんは普通の日常を愛しているのであってそういったイベントがいらないといっているわけではありませんよ。ねー。さいかちゃん」

#さいか

「は、はぁ」

#ナレーション

よくわからないようだった。

#さいか

「イベント、ですか。……中間テストや期末テストを含めたら結構あると思いますけども?」

#このみ

「ぐっ?お、おっしゃる通りです」

#ナカミチ

「テストもイベントと考えれば楽しかったかもなぁ」

#このみ

「いやいや。それはありません」

#さいか

「いえ、じゅうぶんイベントみたいなものだったと思いますけど……。」

#このみ

「……さいかちゃんは強いですねぇ」

#さいか

「は、はぁ」

#ナレーション

そんな話をしていると教室に着いた。真っ先にこのみちゃんが扉を元気に開ける。

#このみ

「おはようございますー」

#ナレーション

そのままの勢いで大きな声であいさつでもしそうだと思ったがそんなことはしなかった。クラスメイト達の返事のあいさつが返ってきていた。ナカミチ君が入ろうとした瞬間、襟首を後ろからつかまれた。強く引っ張られる。

#ナカミチ

「っ?!」

#ナレーション

すごい力で引っ張られた。後ろへよろめく。崩した体制のまま固まる。顔のほんの後ろから声が聞こえた。すぐ近くから、小さな声が右耳に響く。

#さいか

「今日。皆さんにちゃんと。謝ります」

#ナレーション

後ろへ引っ張られる。

#さいか

「見守っててくださいね」

#ナレーション

教室へと入っていった。

#ナカミチ

「……。」

 

 

 

 

#ナレーション

グラウンドにクラスメイト達が集まっていた。正確に言えばグラウンドは文化祭仕様。催し物をするためのステージ台が設置されていた。その後ろ側で待機しているようだった。

#みしろ

「……。うん。姉さん、そろそろいいんじゃない?」

#ナレーション

両手で握っていた何かを見ながら問いかける。問いかけられたお姉さまことましろちゃんもの中にある何かを見ている。両手の中に完全に隠れているのでずいぶんと小さなもののようだが、何かからは淡い青色の光が漏れていた。

#ましろ

「……。うん。そうだね、これで完成」

#クラスメイト

「うわぁ。光ってる。噂通りきれいな光ね」

「というかなんで光るんだ?」

「わからん。魔力が大量に込められた物質はそうなるとしか言えん」

#ナレーション

クラスメイト達が覗き込む。2人の手の中には1つづつ丸いビー玉と思われるものが握られている。淡い光はその物体から発せられていた。ようするに魔法的な不思議な何かである。説明できるようなものではない。

#ふうき

「大事なのはこれが魔道具の動力源になるってことだよ」

#ナレーション

説明していただけた。

#ましろ

「はい。どうぞ風紀さん」

#ふうき

「ん。どうもっと。えいっ、と」

#ナレーション

2つのビー玉らしきものを受け取るとそのうちの1つを手に持った基板にとりつける。ちょうどはめこめる大きさの穴が開いていた。

#このみ

「はい。ケースです」

#ふうき

「ん。どうもっと。えいっ、と」

#ナレーション

渡された長方形の入れ物に基板を入れる。ケースにはボタンがついており、回すと上部から勢いよく火が出だした。おそらく魔法によるものだろう。

#ふうき

「うん。問題なさそうだね。さて、装置の方も……。えいっ、と。うん。おっけー。問題なーし。他の装置はどう?」

#ナレーション

手に持った丸い装置にもう1つのビー玉をはめながらクラスメイト達に聞く。

#クラスメイト

「おう。きっちり動くぜ」

「問題ないわ」

#ネネ

「しっかり動いてます」

#ナレーション

風紀さんが持っている装置と同じものが3つあった。ビー玉をはめ込める場所はないようだが動かせているようだ。

#ふうき

「おっけー。おっけー。よし、このみちゃん行けるよ」

#ナレーション

手に持っていた2つの道具をましろちゃんに渡しながらそう言う。

#このみ

「……わかりました。行きましょうか」

#ナレーション

そう言ってステージに向かっていく。

#ふうき

「うーん。ちょーっと待って、ちょっと待って」

#このみ

「なんですか?」

#ふうき

「いや。なんかずーっと緊張しているみたいだから……。」

#このみ

「さすがに大人数を前にすると思うと緊張してしまいまして」

#ネネ

「大丈夫ですよ。もし内容が抜けたら咳払いでもしてください。私から原稿内容を連絡しますよ」

#ナレーション

そう言ってゴーグルを被る。体育祭でも使ったくぜ先生が作ったゴーグルだった。

#ふうき

「そうそう。サポートはばっちりだからね。安心して」

#このみ

「……いえ。皆さんはもっと重要なことをしてもらいますし、原稿はちゃんと覚えていますから大丈夫ですよ。それより初めて魔法使う方のサポートのほうが大変だと思います。風紀さん。指揮はお願いしますね」

#ふうき

「うん……。それはもちろんだけど」

#このみ

「ではいってきます」

#ふうき

「う、うん。頑張ってね」

#みしろ

「こっちは任せてねー」

#ましろ

「それじゃあ私たちも急がなきゃ」

#ネネ

「私たちも所定の場所に向かいますね」

#クラスメイト

「問題があったらすぐ連絡するぜ」

「この多機能すぎるゴーグルでね」

「贅沢な通信機器だよな」

#ナレーション

それぞれにやることがあるようでみんなは散らばっていく。残ったのは風紀さんとナカミチ君だけである。

#ふうき

「……。ナカミチ君。私嫌な予感がしてるの。また私だけ置いて行かれるような」

#ナカミチ

「ゴーグルの通信入れるぞ。……風紀さんも早くつけたほうがいい」

#ふうき

「っ。なんで……。」

#ナカミチ

「嫌な予感なんて人の勝手な想像でしかないからだ」

#ナレーション

それが彼の考えだった。

#ふうき

「そ、れは……。」

#ネネ(通信)

「――ちら、ネネです。聞こえていますか?」

#ナレーション

かけたゴーグルから声が聞こえてきた。

#ナカミチ

「こちらナカミチ。聞こえています。風紀さん、はやくゴーグルを」

#ネネ(通信)

「風紀さんまだ取り付けていないんですか?早くつけるように言ってください」

#ナカミチ

「いや、そう言ったぞ……。」

#ネネ(通信)

「えっ?し、失礼しました……。」

#ナレーション

堪えきれなかった何人かの含み笑いが小さく聞こえてきた。

#ネネ(通信)

「ぜ、全員に声が聞こえるというのは……。」

#ナレーション

やりづらいのだろう。顔が見えていない複数人と会話である。

#ふうき

「取り付けたよ」

#ネネ(通信)

「あ、はい。こちらネネです。指定の位置に着きました。魔道具も起動しました」

#クラスメイト(通信)

「こっちも完了したぞ」

「こちらもよ」

#ましろ(通信)

「気球も準備できているよ。いつでも行ける」

#ふうき

「了解。……このみちゃん。オッケーだよ。行こっか」

#このみ(通信)

「はい。では3年101組、文化祭企画『マジカル☆トラインギュラーピラミッド』開始です」

#ナレーション

企画名は『マジカル☆トラインギュラーピラミッド』に決まったようだった。堪えきれなかった何人かの含み笑いが小さく聞こえてきた。悪気はないはずだ。なお、トラインギュラーピラミッドは三角すいの英名とのことである。

#クラスメイト(通信)

「何度聞いても……。」

「慣れん……。」

「言いたいことはわかるが静かに……。くすっ」

#このみ(通信)

「えー!こほん!」

#ナレーション

咳払いが入った。ゴーグルからの声とは別にステージ側から大きな声が聞こえた。おそらくステージ上にあるスピーカーから聞こえているのだろう。ナカミチ君たちもステージ裏から正面の方へと移動する。

#ネネ(通信)

「……えっ?忘れたんですか!?」

#ナレーション

咳払いは忘れたという合図である。

#このみ(通信)

「ち、ちがいます……。」

#ナレーション

小声で返ってきた。ステージ正面に回ったナカミチ君がステージ上のこのみちゃんを見ると手を口に当ててしゃべっていた。グダグダだった。が、それよりも注目している人たちの人数である。かなりの人数が注目していた。

#このみ

「えっと。皆様、本日は3年101組の企画へ足を運んでいただきありがとうございます。告知していました『誰でも!魔法の体験』という言葉に驚かれた方もおられるのではないでしょうか」

#ナレーション

対外的なダミーの企画名があったようだ。非常にわかりやすい。『マジカル☆トラインギュラーピラミッド』に比べれば、ではあるが。

#このみ

「皆さんご存知の通り魔法というのは使える人、使えない人がおり。使えない方が多数です。理由はよくわかっていませんが魔力が生成できる体質であるかどうか、と言われていますがこれも俗説です」

#このみ

「ただ、魔法を使うには魔力というエネルギーがいるということはほぼ間違いがありません」

#ナレーション

スピーチが続いていく。

#このみ

「私たちはこの今まで物質にしかとどめておくことのできなかった魔力を空間内にとどめて、充満させることができました」

#このみ

「これにより体の表面上にある魔力をどなたでも使用でき、魔法が使えるということがわかっています」

#このみ

「これを可能にした魔道具は私たちのクラスの担任だった紅瀬朱里先生が基本的な理論をそして私たちのクラスメイトである白野風紀さんが応用し作り上げたものです」

#このみ

「それではさっそくその空間を作っていきたいと思います。今から皆様の中央付近に設置させていただいています場所から1つ魔道具を浮かばせます。これにより地上にある残り3つの魔動具とつながった内側の場所が先ほど説明した魔力をためて置ける空間となります」

#ふうき

「今。気球を浮かばせて」

#ましろ(通信)

「こちらましろ。了解。火力を高めます。……。いいよ。みんな手をはなして」

#??(通信)

「うまいこと浮かんでいってるね」

#ましろ(通信)

「みしろ。静かに」

#ナレーション

そう聞こえると人混みの中央付近からふわりと丸いものが浮かんだ。

#このみ

「浮かばせる方法として熱気球方法を採用してみました。動力源は魔力を使用しているため一般的な気球とは厳密には違いますが浮かばせている魔道具は約600グラムあります」

#ナレーション

ふわりふわりと浮かんでいく。その下には遠くからでも見えるぐらいの火と丸い魔道具がくくり付けられていた。さらに結ばれた糸が下へと伸びている。

#このみ

「魔法というとやはり浮遊魔法が一番有名ですが使用する魔力は膨大です。物を浮かばせるならこの方法がいいということになります。さて、これで今皆様のいる場所が説明した空間になったわけですが、まだ魔法は使えません」

#このみ

「楽しみにしていただいているところ申し訳ないのですが、パンフレットにも書いていますが、注意事項が3点あります」

#このみ

「まず1つは浮かぼうと考えないでください。大変に危険です。重力操作の魔法により1メートルほどジャンプできるようになりますが落下時が大変に危険です」

#このみ

「もう1点は火の魔法についてです。人体に影響を及ぼしませんが所持品や衣服に影響を及ぼします。気を付けてください」

#このみ

「最後は水の魔法です。濡れます」

#このみ

「以上3点において不安のある方は退出をお願いいたします」

#ナレーション

結局退出する人はいなかった。参加者は魔法が使えることを楽しみにしているようである。

#??(通信)

「あれ?」

#??(通信)

「どうしたのみしろ?」

#みしろ(通信)

「あ、ごめん。なんでもないよ。ごめんごめん」

#ふうき

「どうしたの?みしろちゃん何か問題があったら必ず連絡して」

#みしろ(通信)

「あ、ううん。なんでもない、なんでもない。それよりもう魔力放出する?」

#ふうき

「……うん。そうだね。お願いするよ」

#このみ

「では皆さんお待たせいたし、」

#??(通信)

「お待たせいたしました。……ナカミチ君」

#ナレーション

最後のお話が始まる。

 

 

 

 

#??(通信)

「えっ?なに?どうしたの?ナカミチがどうしたって?」

#??(通信)

「その声……。」

#ナカミチ

「このみ、そのまましゃべってくれ。ましろとみしろは魔力の放出を続けて。……その声はさいかさんだな」

#このみ

「こほん。お待たせしました。今魔力を充満させていっています。徐々にわかるほどに魔法が使えるようになっていきますが、もう1分ほどお待ちください」

#ナレーション

ステージからこのみちゃんの声が聞こえる。

#さいか(通信)

「私みなさんに1つ。そして何よりもネネさんに1つお伝えしたいことがあるんです」

#ネネ(通信)

「え?私ですか?それよりさいかさんですよね?今言わないといけないことなんですか?」

#クラスメイト(通信)

「そ、そうだぜ。今大事なところ、」

「急がないといけないことなんじゃ、」

「何か嫌な感じが……、」

#みしろ(通信)

「あ、さっきあれって言ったのさいかさんがどこかへ行くの見たからだった、」

#ふうき

「とにかく聞こうか。……なに、さいかちゃん」

#さいか(通信)

「科学って素晴らしいと思いませんか?」

#ネネ(通信)

「か、科学ですか?」

#さいか(通信)

「ええ。今、気球が浮いているのだって魔法の力というより科学と言った方がいいですよね。誰もが使えて……。そしてなによりも簡単に火が使えてとても便利で、とても危険」

#ふうき

「時間稼ぎはいらない。何なの」

#さいか(通信)

「あぁ……。やっぱりよくわかってますね。ご褒美にまず風紀さんに伝えましょうか……。いえいえ、やっぱりあいつに伝えましょう。わかっていないはずがないんですから」

#さいか(通信)

「……ナカミチ君。私今回は気球に電子式の発火装置を付けました。あ、気球を下ろそうとしたりすると遠隔操作で発火させて燃やしますから。ぜひ屋上まで来てください。待ってます」

#クラスメイト(通信)

「は?!」

「それってどういう!」

「どういうことだ」

#このみ

「私も行っていいですかね」

#ナレーション

ステージ側からではなく通信機とその横側から声が聞こえた。ナカミチ君が横を見るとこのみちゃんがいた。

#ナカミチ

「このみ?!」

#ふうき

「このみちゃん!ス、ステージは?!」

#このみ

「風紀さん。お願いです。代わりに立っていただけませんか」

#ふうき

「えっ?でも私原稿覚えてないよ?!」

#このみ

「風紀さんならなんとかできるってわかっています。お願いします」

#ネネ(通信)

「あ!それでしたら私が!原稿を覚えています!」

#さいか(通信)

「く、くすくすくす。ネネさん。私、ネネさんにもお話があるって言ったでしょう?忘れないでくださいよぉ……。」

#ネネ(通信)

「何を……!さいかさん!さっきからおかしいですよ!?」

#ふうき

「……。みんな、聞いて。落ち着いて。このまま進める。変な行動をおこさないで。多分みんなの周りおかしな目で見られてるはず。私がステージに立つ。みんなは予定通りに」

#さいか(通信)

「あはははは!そうするしかないですよねぇ!」

#クラスメイト(通信)

「い、いったいどうなってるんだ……。」

「か、考えろ。なんでこんなことに」

「いや、まず解決策を考えないと」

#ナカミチ

「俺が話をしてくる」

#クラスメイト(通信)

「な、ナカミチ……。なんとかできるのか?」

「大丈夫なのか……?さいかさんの様子かなりおかしいぞ」

「屋上って言ってたけど……。」

#さいか(通信)

「あぁ。大丈夫。もともとそのつもりだったし。そいつに何とかしてもらうつもりだから」

#みしろ(通信)

「ね、ねぇ。本当にあなたはさいかさんなの?」

#ましろ(通信)

「口調は違いすぎてるけど……。」

#ネネ(通信)

「違うっていうもんじゃありません!別人の……ように……。いえ……。」

#さいか(通信)

「そう思う?そうだったらいいんだけどね。残念だけど私はネネちゃんがよく知っている私だよ?1年生の時あなたの靴に発火するように作った基板を埋め込んだ……ね!」

#ネネ(通信)

「……え」

#ふうき(通信)

「ミサキちゃん!ネネさんの方へ!私もうステージに出るから!ましろちゃん!魔力放出してる?!」

#ミサキ(通信)

「もう向かってる!……っと」

#ましろ(通信)

「一応放出し続けているけど……。」

#さいか(通信)

「どうしました?ネネさん。聞こえていただけたものであると思うのですがね」

#ふうき(通信)

「みなさん!お待たせしました!ここからは司会変わらせていただきます!もう皆さんは魔法を使えるようになっています。利き手のほうに意識を集中させてみてください。そこから水を出したい。火を出したいと考えてみてください」

#さいか(通信)

「うるさいなぁ……。不愉快だからもう気球燃やしちゃおっか」

#ナレーション

「そう聞こえたと思うとガシャっと音が聞こえた」

#さいか(通信)

「……あはは!きっと風紀さんゴーグル放りましたよ!本人が聞いていないから言いますけどそういうところ尊敬します!」

#ナレーション

ステージから風紀さんの声が聞こえる。ナカミチ君はそのステージから遠ざかって行っていた。その前にミサキちゃんが出てきた。ゴーグルは外して手に持っていた。ナカミチ君もゴーグルを外す。

#ミサキ

「なんとかできるの?」

#ナカミチ

「してくる」

#ミサキ

「……わかった」

#ミサキ

「やっぱりナカミチ君が解決した方がいいんだろうね。このみちゃんもがんばってね」

#ナレーション

ナカミチ君の少し後にはこのみちゃんがついてきていた。

#ミサキ

「じゃあ私ネネちゃんのところ向かうから。無茶しないでね」

#ナレーション

そういうと走り去っていった。

 

 

 

 

#ナレーション

廊下を駆け抜けていく。階段を駆け上がっていく。人の合間を縫って2人は走って行く。

#ナレーション

屋上の扉をあける。カギはかかっていなかった。外から空の光とともに廊下へ風が通り抜けていく。全力で走り熱くなった体に爽快感が通り抜けていった。屋上からグラウンドを見つめる1人の女の子がいた。

#さいか

「―――だからね。燃やしてあげたの」

#ナレーション

彼が来たことに気づいていない。ゴーグルをかけ、ただ語りかけている。異様なのは、その横にいつか見たパラソルと椅子が2つ並んでいた。

#ナカミチ

「さいかさん!」

#さいか

「……。来ましたか……。おや。このみちゃんも一緒ですねぇ。私呼んだかな?」

#このみ

「一応行くと連絡しました」

#さいか

「嫌ですねぇ。女の子が男の子を屋上に呼んでいるのに首を突っ込むなんて。無粋ですよ」

#このみ

「そういうの私が言うセリフですから」

#さいか

「ふふ……。そうですね」

#ナレーション

優しく笑った。この場面にはとてもふさわしくない笑顔だった。再び視線をグラウンドへ戻す。

#さいか

「私これだけ大勢の人を見るとよく思うことがあるんです。本当にこの人たちは私と同じように何かを考え、悩み、生きているのかなって。彼も人ならば、私も人、とわかってはいるのですがとても信じられないんです」

#ナレーション

そういうと再び視線を向けてきた。

#さいか

「……いいですよ。このみちゃんは大事な大事なお客様です。特等席で見せてあげる」

#ナレーション

そういうと横にあった椅子を蹴りつけた。強い勢いで蹴り上げられた椅子は軽く跳ねナカミチ君たちのほうへ。椅子の金属部分が床に当たる。金属がすれる音が響く。

#さいか

「ごめんなさい。ナカミチ君に座ってもらうつもりだった分の椅子なくなっちゃった」

#ナカミチ

「いらない。要件は何だ」

#さいか

「なんだったっけなぁ……。あぁ、そうそう。あなたとすべてが台無しになるところを特等席から一緒に見ようと思って。ここからだとよく見えるでしょう?」

#さいか

「あぁ。違った」

#さいか

「その時にあなたがどんな顔をするのか見ようと思って。いい考えでしょ!」

#ナカミチ

「特段変わった顔はしない。悲しい顔をするだけだ」

#さいか

「ほんとかなぁ?まぁいいです。それよりゴーグルかけてよ。私まだみんなに話さないといけないことがあるの。聞いといて」

#ナレーション

ナカミチ君はゴーグルをかけなおすと小さく泣いている声が聞こえる。

#さいか

「聞こえる?この泣き声。ネネさんの声だよ。わざわざ言わなくてもわかるかな?」

#ネネ(通信)

「なんで…。ひどい……。」

#ミサキ(通信)

「大丈夫だから。大丈夫だからね」

#ナレーション

苦しそうな声と支えようとする声が聞こえる。

#さいか

「そうですか。ひどいですか。まぁそうですね。とてもひどいことをしているのは自覚があります」

#ふうき(通信)

「だったら今すぐやめるんだね」

#ナレーション

そう声が聞こえた。

#ナカミチ

「風紀さん?!ステージのほうは?!」

#ふうき(通信)

「参加者の人たちにはもう自由に遊んでもらっているよ。今忙しいのは見回ってもらっている人たち」

#クラスメイト(通信)

「今のところ危険な使い方をしている人たちもいないし……。」

「楽しんでもらえているけど……。」

「とにかくこちらには今のところ問題はない」

#さいか

「うんうん。とっても優秀だね。こっちもやりやすいよ。せっかくだから、せっかくだから風紀さんにも聞いてみようか!風紀さんは知ってたのかな?1年の時に私がネネさんの靴に細工をした犯人だってこと!」

#ふうき(通信)

「予想だけ」

#さいか

「うんうん。優秀だね。じゃあさ。やっぱり予想着いているのかな」

#さいか

「今、私の前にいるこいつが体育祭の日には私がやったってことを知っていたことも」

#クラスメイト(通信)

「知っていたって……。」

「目の前にいるのって、2人……。」

「でもこのみさんはあの時にはいない……。」

#ふうき(通信)

「予想だけね。ナカミチ君は結局しゃべりはしなかったよ」

#さいか

「……ははっ。でしょう!でしょう!そう思ってました!だってそうじゃなきゃ私今ここにいることなんてできなかったでしょうし!」

#ふうき(通信)

「そうかもしれないね。私は苦しんだ子を犠牲にしてまでさいかさんを守ったりしなかっただろうしね」

#クラスメイト(通信)

「苦しんだって……。」

「それは俺たち全員のこと……。いや……。」

「っ。ネネさん……。ネネさんのこと?!」

#ネネ(通信)

「わ、たし……?」

#さいか

「そう。彼はね。ネネさんがあれだけ大変な思いをして自責の念に駆られてそれでなお、私とネネちゃんを同列に扱ったの!おかしいでしょ?だからね?!」

#さいか

「もう一度チャンスを上げる。今度は逃がさない。どっちを選ぶかよーく考えて」

#ナレーション

そういった瞬間屋上の扉が勢いよく開く。ましろちゃんとみしろちゃんが飛び込んできた。

#さいか

「なっ?!」

#ましろ

「みしろ!前方13メートル!」

#みしろ

「了解!姉さん!」

#ナカミチ

「ましろ?!みしろも!」

#さいか

「っ……?!?!」

#ナレーション

さいかちゃんの動きが固まる。ましろちゃんがゴーグルをかける。

#ましろ

「さいかちゃんの動きは止めた!気球を下ろして!」

#ふうき(通信)

「えっ?その声はましろちゃん?!」

#みしろ

「ね、姉さん!!やっぱりゴーグルをかけられると魔力が分散してきつい……!」

#さいか

「な、なにこれ……!?」

#ましろ

「重力魔法の応用!こんなバカなことは今すぐやめて!」

#さいか

「ふ、ふふ。馬鹿なこと、でしょうか……。」

#みしろ

「ね、姉さん……!きつい……!」

#ましろ

「……気球を下ろして。すぐに!」

#ふうき(通信)

「……わかった。中止にしよう」

#クラスメイト(通信)

「中止?!」

「気球を下ろす以上そうなる。魔力を保持していた空間がなくなるんだからな」

「でも気球が燃えたりなんかしたら……。中止しかないわ」

#ネネ(通信)

「ちゅ、中止……?ここまでやったのに……?」

#ふうき(通信)

「さいかさんが発火装置の遠隔操作ができない今しかタイミングはない」

#ナカミチ

「その必要はない。飛んで取ってくる」

#ましろ

「何言ってるの!どれだけ危険か、」

#ナカミチ

「心配はいらない。俺が行って取ってくる」

#ましろ

「馬鹿なこと言わないで!それなら私が行く!」

#みしろ

「なっ?!」

#クラスメイト(通信)

「確かにナカミチが行くぐらいなら……。」

「馬鹿なこと言っていないで2人とも止めて!このみちゃんそこにいるんでしょ!」

「もう気球を下ろしたほうがいい」

#みしろ

「姉さんもナカミチもやめて!ナカミチ!姉さんは重力操作できない!やめさせて……!」

#さいか

「く、くくく……。聞きましたか?ましろさん重力操作できないんですって。残念でしたねみなさん」

#ふうき(通信)

「……確かに飛んでいるところ見たことがなかったね」

#ましろ

「できないわけじゃない。かなり苦手なだけ。それにゴーグルのせいかわからないけどみしろの魔力が流れ込んでる。とにかく慣れていないナカミチ君よりはまし」

#みしろ

「かなりどころじゃない!私が苦手な水魔法を使うと水を生成するだけで大量の魔力を消費するの!だから姉さんは重力魔法の練習なんてしてない!話にならない!」

#ナカミチ

「もとから行かせる気はない。俺が行く」

#ましろ

「それはこっちのセリフ。行くっていうなら体で止める」

#このみ

「あ。ちょっとえっちい……。」

#ふうき(通信)

「このみちゃんさすがに時と場合を選んで……。」

#ナレーション

シリアスが終了したならナレーションもしゃべっていいだろうか。だめか。

#このみ

「そうですね。……ナカミチ君。どうしても行くんですか?」

#ナカミチ

「ああ。行ってくるよ。このみ」

#このみ

「そうですか、わかりました。飛ぶのはこれを使ったらいいと思いますよ。飛ぶための魔動具はもちろん箒もないですし」

#ナレーション

そう言ってパラソルを立たせるための台から引き抜く。

#ましろ

「このみちゃん?!」

#クラスメイト(通信)

「なんだ?何してる?!ナカミチ?!危険なことはやめろ!」

「このみちゃん!止めてよ!」

「な、なんでこんな……。」

#ましろ

「このみちゃん……?」

#このみ

「ごめんなさいましろちゃん。足止めさせてもらいます」

#ナレーション

ましろちゃんとナカミチ君の間に立つ。

#ましろ

「……。舐められたものだね」

#このみ

「ナカミチ君、早く!」

#ナレーション

ましろちゃんが一瞬で距離を詰めてくる。このみちゃんはなんとかましろちゃんの服をつかむ。が、すごい力で腕をねじられる。

#このみ

「ぁぐうぅぅぅっ!」

#ナレーション

それでも何とかつかみ続ける。ナカミチ君はパラソルの棒にまたがり浮かび始める。パラソルの先、生地の部分が逆立つ。その姿は箒のように。浮かび上がる。ふわりふらりと。

#ましろ

「手をはなせ!!!」

#ナレーション

すごい声で言われる。

#このみ

「誰か……、誰か1人ぐらい彼のやりたいようにさせてあげるべきです!」

#ましろ

「そのやり方が間違ってるの!こんな高さから落ちたら死んじゃう!彼が落ちたらどうするの!」

#このみ

「わたしも落ちます!」

#ましろ

「……勝手なことを!!ナカミチ君!」

#ナレーション

彼は屋上から空と呼べるところへ出ようとしていた。金網よりも高く。もう足場がないところへ。

#ナレーション

行こうとして金網の外、その間のわずかばかり高くなっている段差へ足を下ろす。

#ましろ

「ナカミチ君!」

#ナレーション

ましろちゃんは未だ手を離さないこのみちゃんを引きずるようにナカミチ君へ手を伸ばす。

#ナカミチ

「このみ。悪いが飛ぶ制御だけで精いっぱいだ。……一緒に来てほしい」

#ナレーション

大変きまりの悪い顔でカッコ悪いことを言い出した。

#このみ

「……わかりました。行きましょう!」

#ナレーション

力の抜けたましろちゃんの手を振りほどいて転がっていた椅子を手につかみ金網を上るための台にして、ナカミチ君のところまで。笑顔で。

#ナレーション

パラソルがその後ろから赤い光を放出するように瞬いて。2人を乗せて空へと飛び出していった。

#ましろ

「……。ナカミチ君の……、ナカミチ君の……。」

#ましろ(通信)

「バカーーー!!」

#ナレーション

当然の言われようだった。

 

 

#ナレーション

空は青かった。晴れ渡る空。彼はこのみちゃんを後ろに乗せてふわふわと目に見える気球へ向かっていく。目の前には空と雲。下は見れない。後ろの女の子の顔も見えない。でも近くに彼女がいるという感覚はわかる。彼はずっと前に引っ付かれていた時を思い出しているだろうか。彼女も思い出しているだろうか。

#このみ

「……、空を飛ぶのってこんなに気持ちいいんですねぇ」

#ナレーション

後ろから、そしてつけているゴーグルから、声がとても近く聞こえる。

#ふうき(通信)

「いいなー。今度みしろちゃんにお願いしてみようかなー」

#みしろ(通信)

「さ、さすがの私も怒る時ってあるからね。姉さん。私もうほんとに限界……。もうさいかさんの動き止めれない……。」

#このみ

「そういえばさっきから思っていたんですけどみしろちゃんゴーグルかけていないのに声が聞こえるんですよね」

#みしろ(通信)

「あれ?そういえばそうだね。姉さんがゴーグルかけているからその影響かな……?」

#ナレーション

気がそれた。もう怒ってなかった。

#ふうき(通信)

「おーい。ましろちゃん。ましろちゃんが動いてくれないと本当にまずいんだけど。動ける?」

#ましろ(通信)

「……なに」

#ナレーション

冷たさを感じる声でそう言った。

#クラスメイト(通信)

「あ。絶対機嫌悪い」

「黙ってろ……!」

「空気読んで……!」

#ふうき(通信)

「さいかちゃんから遠隔操作の装置を探して。使わせるわけにはいかない」

#ましろ(通信)

「……わかった」

#さいか(通信)

「ふん……。面白くなってきましたね」

#ましろ(通信)

「黙ってて。私本当に機嫌が悪いの」

#さいか(通信)

「私もですよ。気が合いますねぇ。……あぁ、くすぐったいのはやめてください。どうせ見つけられないでしょうし。くすくすくす」

#ふうき(通信)

「みしろちゃん。今からナカミチ君たちのほうへ魔力を押し込むから。限界まで頑張って」

#みしろ(通信)

「ほんとに限界なんだけどね……。わかった。やっちゃって」

#ふうき(通信)

「みんな!今私たちの魔力はゴーグルでつながってる!トラインギュラーピラミッドの範囲でも影響は受けていない!自分の魔力をつながっている誰かへと押し出して!ナカミチ君の方へ流れていくように!」

#クラスメイト(通信)

「わかった!とにかく他の奴へ魔力を流せばいいんだな!」

「そうすれば押し出していない、使っているナカミチのほうへ流れるというわけか」

「そういうことだな。……すごい勢いで魔力量減ってないか。これ」

#みしろ(通信)

「当然だよ……。慣れてない、適性が少ないのを大量の魔力で無理やり、しかも2人飛んでるんだからぁ……。姉さん……。まだ見つからないの……。こっちは少ない魔力で無理やり止めてるんだから……。」

#ましろ(通信)

「探してる!どこなの!隠せるところは全部……。まさか下着の中とか!?……ない!ほんとにどこにあるの?!」

#ナレーション

さらっと調べられた。らしい。言葉から判断するしかないが調べたらしい。おそらく遠慮なく。いや、遠慮しないでいい場面なのだが。もうシリアスが終わるまでナレーション黙っておいたほうがいいだろうか。

#このみ

「ナカミチ君想像していないでしょうね」

#ナカミチ

「そんなは余裕ない……。」

#このみ

「きっちり聞いているだけの余裕はあるみたいですが」

#ナカミチ

「そりゃあ大事な話があるかもしれないし」

#ミサキ(通信)

「もう魔力が足りなくなってもおかしくないんだから集中して!」

#ナレーション

さっそく大事な話が来ていた。

#ふうき(通信)

「こっちでも肉眼で位置は確認してる。おそらく発火装置は球皮の部分。浮かび上がるときにそっと取り付けたと考えるなら内側ってことはないはず」

#ナレーション

それを聞いているナカミチ君たちは明らかにふらついていた。遠くからはわからないようだが限界は近いようだった。

#このみ

「ナカミチ君。もうちょっとです。もうちょっと。頑張ってください」

#ナカミチ

「ああ」

#ナレーション

気球へと近づく。

#このみ

「さて……。あ、これっぽいですね」

#ナレーション

あっさり見つかった。基盤が緑色で目立ったのだろう。

#クラスメイト(通信)

「見つけたのか?!」

「本当に?!」

「も、燃えたりしてないか?!」

#このみ

「いたって普通ですね。なんか基板っぽいのが見えてます。しかし、へばりついていてなかなか……。そしてなんかぬめぬめしてますー……。」

#さいか(通信)

「それはサラダ油。よく燃えますようにって。ふふっ。基盤を取り付ける時、手にたっぷり付けといたんだ。いいアイデアでしょ?」

#ナレーション

見えなくてもわかる。きっといい笑顔だろう。

#ましろ(通信)

「性根が腐ってる……。」

#ナレーション

笑顔の受け取り方は人それぞれだ。

#ふうき(通信)

「へばりつく……。硬化剤かな……。………て。こ、このみちゃん?もしかしてもう取ろうとしてる?」

#このみ

「ん?そりゃあまぁ。あ、引っ張ったら取れそうです」

#ましろ(通信)

「こっちはまだ遠隔操作の機械見つけれてないんだよ?!」

#このみ

「大丈夫ですよ。取ってしまえばさいかちゃんも発火しようなんて考えないです」

#ミサキ(通信)

「それは……。」

#クラスメイト(通信)

「いやいや!とってしまえばもう燃やすこともできないだろ!」

「気球は、な。それでも燃やすというなら……。」

「そ、それはさすがにないだろう」

#さいか(通信)

「皆さんがそこまで信じてくださるなんて……。私そこまで聖人に見えましたか?」

#ましろ(通信)

「黙ってて!手荒なことされたくないなら!」

#さいか(通信)

「怖いですね……。でもねこのみちゃん。それはきっとあなたのだーいじな前にいる人と考えは違うはずだよ」

#ナカミチ

「俺のことか?」

#さいか(通信)

「俺のこと……?ふふっ……。ふっ、ふひひ……。」

#さいか(通信)

「あッ!!ッ!あなた以外にいないでしょう!!!」

#ナレーション

通信機から叫び声が聞こえる。

#みしろ(通信)

「あっ……。ぐっ……。も、持たない……!」

#ましろ(通信)

「な、ない……。遠隔操作をするための機械がない!これだけ探してないなら……!でも……!ないなんて思えない!」

#ふうき(通信)

「おかしいな……。あるはずなんだけど……。落ち着いて考え……。」

#さいか(通信)

「ナカミチ君。これが最後。あなたがわかっているように私はこのみちゃんまで殺したくない。発火装置を手に取ったならこのみちゃんが持っていようが関係ありません。その瞬間燃やしてあげます。早く戻ってきてください」

#ナカミチ

「さいかさん。君はもう普通じゃない。きっとこのみが持っていようが発火装置を作動させると思う」

#さいか(通信)

「ええ!ええ!そうです!そうですよね!ナカミチ君はちゃーんとわかって、」

#ナカミチ

「でもこのみがそう言うならそうなんだろうな」

#さいか(通信)

「…………は」

#このみ

「あ。取れました」

#ナカミチ

「じゃあ戻るか」

#ふうき(通信)

「も、戻るかって……。お、降りてきて!ゆっくり!もう取れたんでしょ!その基板捨てて!私が受け取る!」

#このみ

「いえ。この機械を処分しないといけません。ひっそりと。屋上はちょうどいいです」

#ふうき(通信)

「な、なにを……!」

#ナレーション

ゆっくりと2人が動き出す。目指すは屋上。

#クラスメイト(通信)

「な、なにを……!もう持たんぞ!」

「そっちが一番わかってるだろ!早く降りてこい!」

「ナカミチ君……!このみちゃん……!」

#ナカミチ

「すまない。もう少し甘えさせてくれ。みしろ。もういい。さいかさんの拘束を解いてくれ」

#ましろ(通信)

「ば、馬鹿なこと言わないで!」

#みしろ(通信)

「……ナカミチがそういうなら。私もナカミチに魔力を送るよ」

#ましろ(通信)

「みしろっ!っ!私が!」

#さいか(通信)

「いっ!そ、そうですよ。普通こうするんです。しかし……。片手ですか。自分は非力だと思っていましたがここまで差があるとは。こう両手がふさがれては……」

#さいか(通信)

「何の意味もないんですけどネェ!!ゆるさない赦さない許さないユルサナイ!!ワカル訳ガナイ!!」

#ましろ(通信)

「うっ?!」

#ふうき(通信)

「ッ!!靴の内側!」

#さいか(通信)

「燃えて落ちろ!!」

#ナレーション

このみちゃんの手の内に握られた発火装置は、動かない。ゆっくりと2人は屋上へと動き続ける。

#みしろ(通信)

「さいかちゃん……。」

#さいか(通信)

「うっ……。うぅ……。うああああああっ!」

#クラスメイト(通信)

「な、なんだ?!だいじょうぶ?なのか?」

「ナカミチたちは、飛んでる」

「ふ、ふぅ……。そうよね。そりゃそうよ」

#ふうき(通信)

「出来なかったんだね」

#さいか(通信)

「ぐ、ギぃぃぃい!あ、っ!あ!シ、シネ。コロシテやる……!で、できるんだ。ワタシは……!」

#このみ

「できませんよ。さいかちゃん本当はそんなことしたくないんですもん」

#みしろ(通信)

「姉さん。もういいでしょ。さいかさんを離してあげて」

#ましろ(通信)

「……。わかった。でも機械は取り上げる。っと」

#ふうき(通信)

「……あった?」

#ましろ(通信)

「うん。右の靴底に。思いっきり踏み抜いて作動させる予定だったのかな。多分このスイッチを押したら……。」

#ふうき(通信)

「押さないでね?」

#ましろ(通信)

「押すわけないでしょ」

#ナレーション

軽口をたたきあう。少し安心したのだろうか。

#ふうき(通信)

「とにかくまだナカミチ君たちの状況が油断できない。みしろちゃん、2人の魔力は足りそう?」

#みしろ(通信)

「油断はできないけどたぶん足りるかな。何なら私が飛んでって2人を回収しようか?」

#ミサキ(通信)

「そ、そんなことができるの?」

#みしろ(通信)

「やったことないけどその方が2人が無理に飛んでいるよりいいと思うけどね」

#ましろ(通信)

「それは……。」

#ふうき(通信)

「いや、何とかなりそうなら違うことをせずにこのまま行こう。変に何かやって悪化してしまったら良くないし」

#ましろ(通信)

「そ、そうだよね」

#ナレーション

後は2人が戻ってくればというところだが。

#さいか(通信)

「ふ、ふふ」

#ナレーション

嫌な予感がするのはこのナレーションだけだろうか。

#ふうき(通信)

「さいかちゃん……。」

#さいか(通信)

「結局私に2人を落とす覚悟はなかった、か」

#ふうき(通信)

「そうだね。このみちゃんの言う通りだったよ」

#このみ

「そうですよ。さいかちゃんは本当は優しいんですから」

#さいか(通信)

「うん……。このみちゃんが言うならそうなんだろうね……。だから」

#さいか(通信)

「勝手に落ちてもらう」

#ナレーション

未だに彼女を蝕む悪意は消えない。

#ナカミチ

「っ!風紀さん!!企画終了まであと何分だ!!!」

#ふうき(通信)

「えっ?!えっと5分……。あっ!!ご、5分13秒!!」

#ナカミチ

「魔力送れ!」

#ふうき(通信)

「全員!魔力をナカミチ君に!全部!早く!無理でも送って!!」

#クラスメイト(通信)

「えっ?!」

「どういう?」

「な、なんだ?!」

#ミサキ(通信)

「考えないで!送って!!」

 

#さいか

「あははははっははははは!!は、」

 

#ナレーション

ナカミチ君たちがすごい勢いで空を飛ぶ姿が見えた。傘の後ろから白い光が瞬いて1つの白い線を描いている。彼女はそれがなぜか見たかった景色のような気がした。そして、

#このみ(通信)

「っはー!はやいですー!」

#ナレーション

楽しそうな声が通信から響いていた。

#ナカミチ

「このみ!装置を屋上に投げろ!」

#このみ(通信)

「了解!」

#ナレーション

そして、このみちゃんの手から小さな物が空へと放り投げられる。そして、その物体は空高く上がると赤く燃え出しながら屋上へ落ちて。そして、ナカミチ君たちは地面へ落ちていった。

 

 

 

 

#ナレーション

落ちていく。彼は後ろから強くしがみつかれていた。胴に回され、しがみつく腕は強く震えている。

 

#ナカミチ

「こんなふうに引っ付かれるのも久しぶりだな」

#ナレーション

感慨にふけっているところ申し訳ないが、そんなこと言っている場合ではない。が、しがみつかれていた腕の震えはなくなっていた。

#ナレーション

ナカミチ君の体が落下するスピードを失い空中で停止した。

#ナカミチ

「ぐっ?!」

#ナレーション

急に止まったことによりダメージを受けていた。ナカミチ君の体が宙に浮かぶ。というより学生服が浮き上がっているように見える。それに吊り下げられているような感じだ。心配である。

#このみ

「お、おおおお!!?とととと?!」

#ナレーション

さらにそれにしがみついていたこのみちゃんがぷらーんとぶら下がっていた。急停止したときにはこのみちゃんの重さもナカミチ君に思いっきりかかっただろう。軽いので問題ない。心配しなくてもよかった。

#ふうき(通信)

「っ。こ、このみちゃん!ナカミチ君!」

#このみ

「あ、はい。何でしょうか」

#ナレーション

ぷらーんとぶらさがったまま答える。かれらはゆっくりと高度を下げていく。下げているのか勝手に下がっているのかは微妙なところだが。

#ふうき(通信)

「ふ、ふぅっ……。」

#ナレーション

がたんと音が聞こえる。

#このみ

「どうしました?」

#ふうき(通信)

「ち、力が抜けちゃって」

#このみ

「あー。わかります。ひと段落ですもんね。私も力が抜けそうです」

#ふうき(通信)

「ははっ。一緒だね。……。」

#ふうき(通信)

「いや!?手、絶対離さないでね?!」

#ナレーション

手を離せば落下しそうである。ナカミチ君にぶら下がっているのは下からも見えているようだった。

#みしろ(通信)

「ね、姉さん!ナカミチ君たち大丈夫だって!」

#ましろ(通信)

「……よかった」

 

#ナレーション

ゆっくりと降りていると校舎にいる幾人かの気づいた人から視線を受ける。ゆっくりと人が下りて行っていたら当然目に付く。特に魔法を使えない人たちが大量にいる日だ。そういう人からは特段に変わった目で見られていた。

#ナレーション

地面にふわりと降り立つ。いきなり空から降りてきた2人に注目が集まる。が、当の本人たちは気にしていないようである。そんな余裕はないのだろう。

#このみ

「今地面に着きましたー」

#ナカミチ

「やっぱり足が地面についていると安心するな……。」

#ナレーション

安心したのは本人たちだけではない。

#クラスメイト(通信)

「っつはー!魔力送るのもういいよな?!」

「そうね。大変だったわ」

「これで一安心だな」

#ふうき(通信)

「しかし危なかった……。」

#みしろ(通信)

「結局なんで発火装置は作動したの?屋上の隅で小さく燃えているけど」

#ましろ(通信)

「時限式だったの。多分終わる直前に、5分前に燃えるようセットしてたんじゃないかな。……後戻りできないように。そうでしょ。さいかさん」

#さいか(通信)

「…………。」

#ナレーション

返事はなかった。

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

ずっとこのみちゃんに抱きしめられたままのナカミチ君。気になるのは周りの視線ではなく、このみちゃんの感触だろうか。無論それが当然だろう。

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

だがいつまで黙っているつもりだろうか。よく見るとナカミチ君の顔が赤い。このみちゃんの方はというと特に意識して抱き着いているわけではないのだろう。特に気にしてなく地面を足踏みしていた。地面が珍しいのだろう。10分間お目にかかれなかった品である。

#このみ

「いやー。やっぱり地に足付けるっていうのは大事なんですねぇ。ナカミチ、君……。」

#ナレーション

状況に気づいたようだ。顔が赤くなる。が、抱き着かれているナカミチ君はその顔を見ることはできない。残酷な現実である。

#このみ(通信)

「あ、わわわごめんなさい!!」

#ナレーション

手を離して少し距離を取る。。

#ふうき(通信)

「え?どうしたの?」

#このみ(通信)

「な、何でもありません!」

#ナカミチ

「このみ」

 

#このみ

「へっ?」

 

#ナレーション

このみちゃんの方を向いたナカミチ君は彼女の顔を見る。ゴーグルが邪魔だと言わんばかりに取り上げ、正面から抱きしめた。

#このみ

「えっ?えっ?あ、あの……。」

#このみ

「………。」

#ナレーション

ナカミチ君の腕の中にすっぽりと収まるように抱きしめられたこのみちゃんは何もしゃべらなくなった。もう誰にもこのみちゃんの顔は見えない。どんな顔をしているのだろうか。興味は尽きずとも流石に野暮というものである。まぁ焦らずともいつか見れるかもしれない。

#ナレーション

ちなみに周りからの目線は増えていた。野暮であっても興味が尽きないのだ。こればっかりは仕方ないだろう。

#ふうき(通信)

「ん?どうしたの?なにかあった?」

#ナレーション

なにかはあった。

#ナカミチ

「……いや。俺たちは屋上に向かう」

#ナレーション

はぐらかした。このみちゃんを抱きしめていた手を離し、少し距離を取る。

#ふうき(通信)

「んー、了解。こっちもそろそろ最後の締めのあいさつをするよ。終わったらみんなで行く。それでいいかな」

#ナカミチ

「ああ。頼む」

#ネネ(通信)

「ま、待ってください!」

#ナカミチ

「えっと。ネネさんか?」

#ネネ(通信)

「わ、私も先に行きます!」

#ミサキ(通信)

「ネネちゃん……。そうだよね。それがいいよ。後は私が引き継げばいいよね?」

#ふうき(通信)

「そうだね。ナカミチ君もいいよね?」

#ナカミチ

「ああ。先に向かうからネネさんも来てくれ」

#ネネ(通信)

「わかりました、すぐに向かいます!」

#ナカミチ

「……行こう。このみ。まだ終わっていない」

#ナレーション

ナカミチ君がこのみちゃんの手を取って走りだす。

#このみ

「……はい!ナカミチ君!」

#ナレーション

彼が初めてつかんだこのみちゃんの手はすべすべして柔らかかった。

#ナカミチ

「……ヌルヌルしてるな」

#このみ

「サラダ油らしいですよ。……あ、ナカミチ君の服にもべったりですね」

#ナレーション

ナレーションがわざわざ表現に気をまわしたというのに。彼が初めてつかんだこのみちゃんの手はぬめぬめして感触がよくわからなかった。これでいいんだろうか。

 

 

 

 

#ナレーション

屋上の扉前に着く。

#ナカミチ

「よし。入るぞ」

#このみ

「えっと。このままですか?」

#ナレーション

手はしっかり握られていた。

#ナカミチ

「……。す、すまない」

#ナレーション

手を離した。つないだままでもよいのではないだろうか。つないだままさいかちゃんたちの前に出て、結果起きることに何の責任も持つつもりはないが。と、同時に階段を駆け上がってくる音が聞こえる。

#ネネ

「はぁっ。はあっ。な、ナカミチ君。このみちゃん。ま、待たせましたか?」

#ナカミチ

「い、いや。ちょっと心の準備をしていただけだ」

#ナレーション

手を握ったり離したりするのが心の準備らしい。

#ましろ(通信)

「そんなのいいから早く入ってきて」

#ナレーション

そんなのと言われていた。ナカミチ君ドアを開ける。床に座り込んださいかちゃんとその近くで立っているましろちゃん、みしろちゃんがいた。

#ナレーション

ふらり、とさいかちゃんが立ち上がる。グラウンドを一瞥する。

#さいか

「……見てください。あなたたちの出し物は大盛況です。もうすぐ風紀さんの締めのあいさつも終わるようですし、大成功に終わるでしょうね」

#さいか

「おめでとうございます」

#さいか

「……そのうえで、一応聞きます。どのような要件でしょう」

#ナカミチ

「連れ戻しに来た。さいかさんもクラスの一員だからな。出し物の途中でいなくなられたら困るから。……まぁ出し物が終わるのには間に合わないとは思うけど」

#さいか

「ほんとうになかったことにするつもりですか……。あなたは本当にどこまでも私の邪魔をするんですね。ほんとうに苛立ちます」

#このみ

「さぁ。戻りましょうさいかちゃん。まだ文化祭は終わっていません。楽しみましょう」

#さいか

「……。そういうわけにはいきません、私がしたことを無駄にされるわけにはいかないんです」

#このみ

「無駄なんかじゃありませんよ。無駄ではないはずです。……さぁ。戻りましょう。さいかちゃん」

#さいか

「ふふっ。そう全てこのみちゃんの思う通りにはいかないよ」

#さいか

「ましてやあなたの思い通りになんか」

#ナカミチ

「……。」

#ましろ

「ナカミチ君。さいかさんの言う通りだと思う。ナカミチ君はそれでいいかもしれないけどもなかったことになんかしちゃいけない。私はさいかさんを許せない。彼女はもうまともじゃない。このみちゃんとナカミチ君を殺しかけたの」

#このみ

「勝手に死地に飛び込んだだけですよ。……おっと地面はなかったですね。あっはっは」

#みしろ

「ぷふっ」

#ナレーション

堪えきれなかった子が1名。姉ににらまれる。

#みしろ

「っとと。いけない」

#みしろ

「このみちゃん、私もいい返事はできない。姉さんが言ってるからじゃないよ。2人のことはもちろん、気球が燃えてたら他の参加してる人たちにも危害があっただろうし」

#ましろ

「聞いていたら2年前のこともさいかさんが原因なんだよね。迷惑をかけすぎている」

#さいか

「ああ、そうです。その通りです……。それで?そこのお嬢さんは何をしに来たんですか?」

#ネネ

「私のことですか」

#さいか

「そうです。まさかただ眺めに来たというわけではないでしょう?あなたの意見は?ねぇ。私に言いたいことぐらいあるでしょう?ね?」

#ネネ

「私は、私は聞きたいことがあってきたんです。なんで私だったんですか?2年前のあの日。体育祭で私の靴は発火しました。さいかさんの仕業、だったんですよね」

#さいか

「……なんだ。そんなこと」

#ネネ

「そ、そんなこと。って。わ、わたしさいかさんのこと、友達だって。あの時もう思っていたんですよ?!」

#さいか

「あ、そう?そう思ってくれていたんだ。うれしいから答えてあげる。都合がよかっただけだよ。友達だと思ってくれてたから放課後のあなたの行動とかは大体知っていたし。靴の細工をするにはちょうど良かったの」

#ネネ

「……。それ、だけ?」

#さいか

「他に何かいる?……せっかくだから何か言ってほしい言葉があったら言うよ?」

#ナレーション

ネネちゃんの瞳が揺らぐ。聞かなきゃならないことが彼女にはあった。ちゃんと本人から、と自分を奮い立たせていた。でも返ってきた言葉は少なくとも自分が求めていた言葉ではなかった。うつむいて苦しそうな声を出した。

#ネネ

「いいえ……。想像通り、でした。私、友達だと思われていなかったんですね」

#さいか

「……え?以上ですか?それだけのために来たんですか?……ご苦労様」

#ナレーション

冷たい目線を向けたままだった。

#ましろ

「……外道」

#ナレーション

すごい目つきでにらむ。憎悪すら感じられる。

#さいか

「そうですか」

#ナレーション

表情は変わらない。そして、ネネちゃんはうつむいたまま。

#ネネ

「でも…でも私だって」

#ネネ

「さいかちゃんが今日起こしたことも!2年前やったことも!全部……!1つだって表に出したりするつもりなんてありません!」

#さいか

「……。……………は?」

#ネネ

「だって!だって!こんなこと公にしたら!さいかさんとんでもないことになります!」

#さいか

「ふ、フフフふふっ!………、」

#さいか

「ナカミチ………、」

#さいか

「ナァカミチィイイイィィィィ!!お前のせいで!ネネさんまでおかしなコトを言い始めた!!」

#さいか

「アアァ!!!アアアああああ゛ア゛っ!!!イらだつッ!!わかるわけがない、分かる訳がない、ワカル訳がナイィィィ。――――――!」

#ナレーション

低い声が屋上に響き渡る。ゴーグルの通信からはひび割れるように声が響いている。そして強く鈍い音が聞こえた。

#みしろ

「な、なに。なんなの……。こわい……。」

#ましろ

「……わかるでしょナカミチ君。もうさいかちゃんはおかしいの」

#ナカミチ

「勝手に決めつけるな。まだわかるはずだ。さいかさん2年前の体育祭。なんであんなことをしたんだ」

#さいか

「どうせ知っているくせにぃ……!どうせわかっているくせにイィィイイ……!」

#ナカミチ

「俺からネネさんに説明していいのか?」

#さいか

「あああぁぁぁぁあああ!くそがぁぁ……!あいつがぁぁぁぁぁああ!」

#ナカミチ

「……あいつじゃ誰かわからないだろ?」

#さいか

「風紀が…!風紀さんが!わたしの、私の邪魔をシた……!!そこまではまだよかった……!だが、あいつは私たちを利用した!」

#みしろ

「り、利用?」

#さいか

「……。まだ……、まだ私に言わせるつもりぃぃいいい……?」

#ふうき(通信)

「いや、もう着くよ」

#ナレーション

風紀さんの手によって屋上の扉が開かれ、風紀さんが姿をあらわす。そして後ろからクラスメイト達が押し寄せる。

#ふうき

「ぐえっ」

#ナレーション

押し出された。

#クラスメイト

「さいかちゃん!」

「さいかさん!」

「さいかちゃん!」

#ナレーション

わらわらと校舎から出てくる。

#ふうき

「もうちょっと落ち着いてだねぇ……。」

#ミサキ

「先頭を突っ走っていった人が言うセリフではないと思うよ?」

#ふうき

「ま、それだけ心配だったということで」

#このみ

「風紀さん!」

#ふうき

「やぁやぁこのみちゃん。無事終わったよ。大成功ってやつさ。今は少なくとも対外的にはだけどね」

#さいか

「く、くくっ……。大成功ですか……。」

#ふうき

「さて、私のことだったよね?」

#ナカミチ

「……そうだな。風紀さんから説明してもらってもいいかもな」

#ふうき

「はいはい。えーと、2年前、か。あの頃はまず私の考えは、機械科なんかに居続ける予定はない。というものだったね」

#クラスメイト

「まぁ……。あの頃にも話題になっていたけど」

「俺たちの半数以上はそういう考えだっただろうな」

「風紀さんもそういう考えだったんだろうとは思っていたが」

#ふうき

「それで……。あの時は濁した言い方をしたんだけど。普通科に行った時、軽く見られないようにと体育祭に挑んだんだ。勝ちに行こうって。私のために、ね。正直他の君たち、クラスメイトのことはどうでもよかったのかもしれない」

#ふうき

「それでまぁ、あとは余談になるけど、都合よくクラスを動かすために委員長になって、扱いやすそうに見えたナカミチ君を副委員長に据えたわけだったんだけど……。」

#クラスメイト

「あぁ。そこで間違えたのね……。大変だったわね」

「よりによって一番面倒なのを引いたのか……。」

「苦労したなぁ……。」

#ふうき

「みんな……!」

#ナレーション

クラスの気持ちが1つになった。

#ナカミチ

「同情する方向間違えてないか?」

#ナレーション

1名がごねている。

#さいか

「黙って……!」

#ナカミチ

「おかしい……。」

#ナレーション

認識は人によって違うものである。そしておかしくはないと思う。

#ましろ

「それで怒ってあんなことをしたっていうの?」

#さいか

「うるさい……。私に聞かないで……。」

#ナカミチ

「大事なのはさいかさんがその時点で風紀さんの行動に怒りを感じていたということだ。その行動は少なからず俺たちのために行われていたはずなんだ」

#ナカミチ

「そしてその行動の責任も取るつもりだったんだろう」

#ネネ

「取るつもりだったって……。」

#ナカミチ

「それに今回のこともそうだ。さいかさんは自分を罰したくて仕方ないんだ」

#さいか

「黙れ……。」

#ナカミチ

「……わかった。あとはネネさんならわかるはずだ。なぜさいかさんがネネさんを傷つけるようなことをしたのか」

#ネネ

「……。そうですね、私も、わかる気がします」

#ネネ

「きっと……。私に嫌われたかったんですね」

#さいか

「………あぁ。……あああ。……違う。……違うんです。」

#ナカミチ

「いや、きっと、」

#ネネ

「待ってくださいナカミチ君」

#さいか

「私は……。そんな思いで……、ネネさん選んだわけじゃない……!知ったふうな口を……!」

#ネネ

「きっと……、甘えられる人が私以外にいなかったんですよね」

#さいか

「……え」

#ネネ

「迷惑をかけられる相手が私しかいなかったんですよね……?さいかさん、やさしいですから……。」

#さいか

「…………。ぅ、嘘……。」

#ましろ

「嘘?嘘って何が……、」

#さいか

「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ」

#ナレーション

そうつぶやき続ける。

 

 

 

 

 

 

#さいか

「アアァ!!!アアアああああ゛ア゛っ!!!イらだつッ!!本当の意味で他人の苦しみがわかるわけガないっ!!!気安く触レるなァッ!!」

#ナレーション

金切り声が耳に通る。その目は焦点が合っていない。その目でナカミチ君を見据える。少なくとも顔は向いている。

#ナカミチ

「……。」

#さいか

「ああ……。ああああア!これもソレもあれモ、ゼンブオマエノセイダ、オマエノ……。ぁぁぁぁぁああ!」

#さいか

「あぁぁぁ、う、ううぅぅ……。はぁっ!はぁっ!かはっ!」

#ましろ

「ちょ、ちょっと。大丈夫?」

#ナレーション

駆け寄る。

#さいか

「さわるなぁッ!」

#ナレーション

手を払う。

#ましろ

「……そう」

#ナレーション

ましろちゃんは手を払ったさいかさんを放ってナカミチ君のことを見る。

#ましろ

「ナカミチ君。あなたが、いえ。ネネさんが言ったようにさいかさんが2年前に引き起こしたことに理由はあるのかもしれない。責任だってとるつもりはあったのかもしれない」

#ましろ

「でも実際に取ることはなかった」

#みしろ

「あ……。姉さん。それは……。」

#ましろ

「なに?どうしたのみしろ」

#みしろ

「それは多分ナカミチの仕業だと思うけどな……。」

#ましろ

「……あ。ま、まさか」

#ナカミチ

「……。」

#このみ

「ナカミチ君」

#ナカミチ

「……俺はあの日、さいかさんがなぜあんなことをしたのか察しはついていた。だから隠すべきだと思った。……必要なのはその方法だった」

#ナカミチ

「何があったのかは証拠を隠せばよかった。だが問題はさいかさん自身だった。彼女自身に罪を隠す選択を取らせなければならなかった」

#ナカミチ

「後は時間が解決すると思った。このクラスメイト達ならいつかこの話をした時にさいかさんを許してくれると思った。だがそれはあの時ではなかった。まだ早すぎた」

#ましろ

「……。ナカミチ君、あなたは……!」

#みしろ

「私はそれでもいいと思うところもあるけどね。これはどうかなぁ」

#ナカミチ

「……だが何よりさいかさんは悩みすぎた。そして今回の事件を引き起こした。だから今回の騒動の原因は俺だとさいかさんは言っているんだ」

#さいか

「私は2年前どうしても許せなかった。風紀さんは私たちを捨てて他の場所へ行こうとした。今の私ならそれは普通のことかもしれないと思えるけど。でも許せなかった。ほんの少しみんなのことを知って、考えていたあの時には。もう」

#さいか

「でも。でも今回は違う。あなたをただ倒すため。私のわがままで。あなたの願い、そう。今日、私は本当に信じれました。ナカミチ君は本当にただクラスの私たちの幸せを願っていた」

#さいか

「そのあなたの願い。それ だけは 壊して。……台無しにします。それが今の私の願い」

#ナレーション

まだ彼女の悪意は消えない。執念。願い。そして理想通りだったことのに対しての。

#このみ

「さいかちゃん……。そんなことを願いになんてしないでください。もっとあなたが幸せになるような。誰かが幸せになれるような。さいかちゃんを苦しめているのはもうさいかちゃんだけなんです」

#さいか

「……このみちゃん。私はあなたのその天真爛漫なところを見るとその時だけは心が晴れました。あなたが喜ぶときは心からよかったねって思えるんです。それはきっとあなたが心から自分の幸せを正しく願っているから」

#このみ

「さいかちゃん……。」

#さいか

「そんなこのみちゃんの願いがあいつと同じだっていうならあなたも私の敵です」

#このみ

「さいかちゃん!あなたを苦しめているものはもう何もないんです!」

#さいか

「いいや!残ってるの!私にはまだちゃんと残っているの!見て見ぬふりなんてさせてあげない!終わったことになんてさせない!なかったことになんてさせない!」

#さいか

「ナカミチ君の言う通りに私のために罪を握りつぶすか、私の言う通りに誰かのために罪を認めるか選んで!」

#クラスメイト

「!」

#ナレーション

選択肢は2つあった。ただ、1つは全員の賛同がいる。そしてもう1つは1人でも賛成すればよかった。そして、ただ、彼らには共に過ごした日々があった。

#クラスメイト

「俺はその2択ならさいかさんの方を選ぶぜ」

「その言い方だとわかりにくいでしょ。まぁわかるけど」

「ナカミチの言う通りに、ということだな」

#クラスメイト

「それにナカミチ君が願ったことなんでしょう?かなえてあげたいじゃない」

「はっきりとお願いを見せられるのは初めてだもんな」

「そういうことだ。たまには恩を返さないとな」

#クラスメイト

「それにこのみちゃんが言うようにさいかちゃんあまりに苦しんでいるもの」

「それなら誰かの為よりさいかさんを選ぶ」

「だから私たちはさいかちゃんの幸せを望むわ」

#ナレーション

みんなの思いが集まっていく。

#さいか

「……。えっ」

#ナレーション

事ここに至っても信じられないのだろう。信じられる人たちが、信じたとおりの人たちで、自分を祝福してくれていることが。

#ナレーション

さいかちゃんはみしろちゃんのほうを向く。

#みしろ

「あ、えぇっと。私の意見?だよね。…………うん。私も本心はみんなと一緒。ナカミチとこのみちゃんがあなたのことを許しているしね。私が気にしたのは本当はそこだけ。私にあなたを許さない理由はないよ」

#さいか

「―――っ」

#ナレーション

ましろちゃんの方を向く。ましろちゃんは黙っていたがゆっくりと口を開ける。

#ましろ

「……。私は……。ここまで愛されているあなたが間違っているとはもう思えない」

#さいか

「……。は、ははは。まだ。まだなんだから!風紀さん!」

#ふうき

「えっ?!私?」

#さいか

「なにを腑抜けたことを!あなたなら私を許さないはずですよね!」

#ふうき

「あ、ああ。そういうことか。私ならもうさいかちゃんのこと、まぁ恨んでいたのは事実だけどね。もうクラスメイトとして大事に思っているよ」

#さいか

「な、なにを……。」

#ふうき

「だからね。さいかちゃん。みんな、さいかちゃんのこと心配して大事に思っているんだよ。心配しなくて大丈夫」

#さいか

「……えっ。え?そんな、そんなあっさりと。どうして?急に?なんで?どうして?」

#ナレーション

あたりを見回す。彼女を嫌っている人は誰もいなかった。

#さいか

「あ、あれだけのことを私はしたのに……。私はしたのに……。」

#ナレーション

彼女をみんなが守ろうとしていた。

#さいか

「ひ、ひぃっ!」

#ナレーション

だから彼女はクラスメイト達の中で、彼女は独りぼっちだった。

#このみ

「さいかちゃん。戻りましょう。さっきも言いましたけど一緒に文化祭まわりましょう。きっと楽しいですよ。ねっ!」

#ナレーション

さいかちゃんへと近づく。

#さいか

「あ。そうだ」

#さいか

「このみちゃんを傷つければナカミチ君も私への気が変わってくれるかな?」

#ナカミチ

「っ?!このみ!」

#ナレーション

さいかちゃんの右手が振り上げられる。

#このみ

「え……、」

#ナレーション

さいかちゃんの瞳は何も見ていない。彼女が見ているのは自分の世界だけだ。

#ナレーション

そしてこのみちゃんが見たのは振り上げられた手と空と、

#ナレーション

―――風が吹いた。太陽が出ている空から影が差した。空に何かあるのだろうか。

#ナレーション

勢いよく空から誰かが落ちてくるように飛んでくる。振り上げられたさいかちゃんの手をつかんだ。

#くぜ

「友人に手を上げるべきではありません」

#ナレーション

くぜ先生だった。

#ナカミチ

「く、くぜ先生?!」

#ふうき

「くぜ先生……。本当に……?」

#さいか

「な、なぜ……?くぜ先生はもう……。」

#くぜ

「なぜ……。と言われると私も説明できません。もう2度と戻れないと思っていたんですが……。」

#くぜ

「そして戻ってきてみれば空に出まして、下の方にあなたたちの姿が見えました。合わせる顔などなかったのですが……。こんなに自分の気持ちがわからないのも久しぶりですね。……っと」

#ナレーション

さいかちゃんが座り込む。というよりかは力が抜けたのだろうか。

#さいか

「ぐっ?!」

#ナレーション

そういって意識を手放した。

#クラスメイト

「な、なんだ?」

「さいかちゃん?!」

「お、おい。口から血が……!」

#ナレーション

くぜ先生がさいかちゃんの口の中を除く。

#くぜ

「舌を切ったわけでは……、奥歯が砕けたようです。体に力が入りすぎたのでしょう。噛み砕いてしまったのかもしれません」

#ふうき

「扉開けて!保健室に運ぶよ!」

#くぜ

「必要ありません。飛んで向かいます」

#ナレーション

そう言って飛んで降りていった。

#ましろ

「……ついさっき聞いたセリフにここまで安心感の差があるなんて」

#みしろ

「姉さん。わかるけどまず保健室向かおう?」

#クラスメイト

「お、おお!そのとおりだ。向かおうぜ!」

「い、急げ急げ!」

「あ、安全に!そのうえで早く行け!後ろつっかえてるぞ!」

#ナレーション

わしゃーと校舎に入っていく。扉の広さがネックであったがそのうち全員が校舎に入る。

#ナカミチ

「あっと。カギだ、風紀さんカギ!」

#ふうき

「あ、そうだ。閉めとかないとね」

#ナレーション

手元から金属片を取り出して鍵を閉めた。それなりに危ない場所である屋上の鍵を閉める。いい行為だ。褒められる行為だろう。

#ふうき

「……。もうこんなものもいらないかな……。」

#ナレーション

そして廊下を走っていった。

 

 

 

 

#ナレーション

保健室前。先に向かっていたクラスメイト達が集まっていた。しょんぼり気味である。何か重大なことでも起きてしまったのだろうか。

#このみ

「あれ?どうしたんですか、みなさん入りましょうよ」

#クラスメイト

「いや、入っていったんだがな……。」

「うるさい。といわれて……。くぜ先生に追い出された」

「あ、さいかちゃんは意識も戻ってる。……って聞いたわ。会う前に追い出されたし」

#ナレーション

教師から叱られるとはよっぽどのことである。反省しているようであるし寛大な心が大事だ。

#ましろ

「人から叱られるのなんて何年ぶりかな……。」

#ナレーション

かなりダメージを受けていたようだ。

#みしろ

「まぁそういう日もあるよ、姉さん」

#ナレーション

特にダメージはないようだ。

#ましろ

「……みしろの言うとおりね」

#ナレーション

ダメージ回復。このみちゃんがそわそわしている。姉妹パワーを感じたのだろう。だが、珍しく空気を読んで黙っている。我慢は体に毒だ。心配になってしまう。と、そこへ校長先生があらわれる。

#校長

「あ、皆さんこちらにいましたか」

#ミサキ

「あ、校長先生」

#ふうき

「えぇっと。な、何か御用でしょうか」

#ナレーション

慌てるように返事を返す。後ろめたさを感じるような、御用になりそうなことでもしたのだろうか。していたかもしれない。

#校長

「いえ。担当を受け持つ生徒たちの出し物が無事成功したと聞きましたので皆さんにおめでとうと一言……。」

#このみ

「あ、いえ。それだけのためにわざわざ。ありがとうございます」

#校長

「いいえ。いつも皆さんのために時間を取れなくて本当に申し訳ありません。ですが、一応どなたかだけにもお祝いを言わせていただきたくて」

#みしろ

「い、いえ。謝られるとなんていうか……。」

#ナレーション

居心地が悪いのだろうか。

#ナカミチ

「あ、いえ。お忙しい中……、あ。いえ、校長先生!くぜ先生が、しゅり先生が戻られ、戻られました!」

#ナレーション

しゅり先生。久しぶりに出てきたがそろそろ覚えていただけただろうか。紅瀬朱里。くぜ先生の下の名前、つまり名である。

#校長

「…えっ?ど、どちらにいます?」

#ナカミチ

「保健室に、」

#ナレーション

聞くや否や保健室へ。

#クラスメイト

「あ、素早い」

「そりゃあ一人娘よ?そうなるわ」

「やはり心配されていたんだなぁ」

#ナレーション

察していた方も多いかもしれないが校長先生は紅瀬の名字、姓である。さっさと説明しておくべきであったかもしれない。まぁいいだろうか。むしろここまで来たら黙っていた方が綺麗だったかもしれない。つまりくぜ先生は養子である。

#ふうき

「……そりゃあ嫌いとか利害とかで引き取った子供を立派な人に育てることなんてできないよ」

#ナレーション

ナレーションが無理やり説明したのが無に帰した。

#ふうき

「さて、じゃあどうしよっか。さいかちゃんは無事のようだけどね。くぜ先生が付き添ってくれているようだしこのまま撤退するのが普通なんだろうけど。騒がしくして怒られたあとだし」

#このみ

「よし。わかりました。1人づつ順番にお見舞いしましょう」

#ナカミチ

「邪魔になるなぁ」

#ましろ

「代表を選んだらいいよ。数人で付き添うべきかな」

#ナカミチ

「素晴らしいなぁ」

#ナレーション

ついにひいきを始めた。どうするべきか。もう吊るすしかないかもしれない。

#ふうき

「現実的な案を取るか理想を取るか……。」

#ネネ

「常識的なほうを取ってください」

#ふうき

「常識を取り払えと。ネネちゃんも私の好みがわかってきたね」

#ネネ

「では代表で数人付き添うということで。私が行きます」

#ふうき

「じゃあ後は委員長と副委員長にしようか。かいさーん」

#ナレーション

あっさりと決めれる。というよりも初めからそのあたりを着地点として考えていたのかもしれない。クラスメイト達はよろしくな。というようなことを言い残してどこかへ姿を消した。

#ネネ

「……。」

#ナカミチ

「まぁそういうところがあっての風紀さんだから……。」

#ネネ

「……ナカミチ君の悪い影響ですね」

#ナカミチ

「えぇ……。」

#ましろ

「わかりやすい分ナカミチ君よりいいと思うけどね」

#ナカミチ

「うおっ?いたのか、ましろ」

#ましろ

「居たら悪いみたいな言い方だね」

#ナカミチ

「そんなこと言ってないだろ」

#このみ

「あー。これは減点ですー」

#ナレーション

もっと厳しくいこう。

#みしろ

「あ、姉さんいたいた。どこに行ったかと思ったよ。文化祭一緒に回ろ」

#ましろ

「えっと、私動いてないんだけど……。数秒で見失わないで」

#このみ

「たとえ見失ってもすぐに見つけられる……。これが姉妹パゥワァー……。」

#ナカミチ

「行くぞ」

#ナレーション

余裕のないことで。

 

 

 

 

#ナレーション

保健室。さいかちゃんがいる場所はすぐにわかった。1つだけカーテンでとじられたベットがあったからだ。カーテンを開けて、パイプ椅子を持ってきて。さいかちゃんを座って囲む。校長先生とくぜ先生も当然いる。

#さいか

「……。5人にも囲まれると気が休まらないのですけど……。」

#このみ

「さいかちゃん。もうしゃべっても大丈夫なのですか?」

#さいか

「うん。すごく痛むぐらいだから……。じゃなくて、その。気が休まらないのですが」

#このみ

「そう言わないでくださいー。皆さん心配してるんですよー」

#ナレーション

そう言ってさいかちゃんのいるベットに上半身を倒す。

#このみ

「あ……。おふとんふかふか……。さいかちゃんの太ももがちょうどいい高さ……。……。」

#ナレーション

しばらくほおずりしていたが動かなくなった。安心したら眠気が来たのだろう。

#さいか

「……。」

#ナレーション

さいかちゃんは手を適当に上げて、ぺちんとこのみちゃんの頬を叩く。

#このみ

「あふ」

#さいか

「……。」

#ナレーション

ぺちん。と。

#このみ

「あふ」

#ネネ

「こ、このみちゃん。一応けが人なんですから……。」

#さいか

「一応?」

#ネネ

「あ、いえ。すみません」

#さいか

「いえ。本当は気にしていません。このみちゃんのこれも別にいいですし……。」

#ナレーション

ぺちんとたたく。

#このみ

「あふ」

#ナカミチ

「……おい。ちゃんとしろ」

#ナレーション

このみちゃんの服の襟をつかんで引きもどす。

#このみ

「あふー」

#ナレーション

ひっぱられて元の姿勢に戻る。さいかちゃんが若干非難するような眼をしたが気にしない方向のようだ。

#校長

「では私は失礼します。また用事がありましてね。すみません」

#さいか

「いえ。ご迷惑を掛けました」

#校長

「しかし……。どうしましょうかね。けが人が出てしまいましたし……。」

#さいか

「……そこまでいたくありませんし文化祭は続けてください」

#校長

「まだ全部言っていませんが。……あなたにとって引けないことなのでしょうね。ですがすごい痛みが伴っているはずだと養護教諭の方からうかがっています」

#ナレーション

養護教諭。いわゆる保険室の先生である。

#さいか

「これ以上言わせていただくと歯医者に行くつもりも起きないほど痛くなくなりますが」

#このみ

「さいかちゃん……。」

#校長

「……ふむ。そうですか。本人の口からそうきけるのでしたら問題はありませんね。文化祭は続けましょう。……では朱里先生、後はよろしくお願いいたします」

#くぜ

「……は、いえ。もう先生でもありません。ですのでそのようなことはお受けできません」

#ナレーション

悲しいかな責任を取るのが大人である。

#校長

「そう言わないでください。休暇中とはいえ在籍する学校の生徒がけがをしているのですから。特別手当は出しますし」

#くぜ

「いえ。そういう訳では、……はぁ?」

#校長

「朱里先生。言葉遣い」

#くぜ

「え、いや。……休暇中とは?」

#校長

「……具体的に申し上げますと朱里先生は今までの有休と休日出勤の代休が280日分たまってましたから」

#ナカミチ

「に、にひゃくはちじゅうにち……?」

#ナレーション

おかしな数字が出てきた。

#校長

「ええ。もう少し多かった気もしますが、朱里先生は研究に対してストイックなのはいいんですがね。毎日のように休日に出てこられると賃金を払うのが厳しいと説明しても休みを取らずに代休に回すからと言いますし……。」

#ネネ

「そう言って研究を続けていたんですか……。」

#校長

「そういうことです。あ、ちゃんと休日に出た割増の分はお給料に入れていますからね。大変ですがそういうのは当然守らないといけません」

#ネネ

「いや、それは説明していただかなくてもわかっています」

#ナレーション

わかっていないと思う。払うのが当然だが払いたくない人がいるのが世の中である。

#校長

「信用してくださっていてうれしいです」

#ナレーション

受け取り方が素晴らしい。

#くぜ

「え、えっと。いいのですか?」

#校長

「こちらがお願いしているんですよ。私だとどうしても生徒のために使える時間が少なくて今日も皆さんの出し物を見れず……。おっと。本当に時間が迫ってきました。早く担任として復帰していただけるよう願っていますよ」

#このみ

「え、えっ。それじゃあ……!」

#ネネ

「くぜ先生が担任へ戻る……?!」

#さいか

「ほ、ほんと、ですか……?」

#くぜ

「し、しかし……。」

#校長

「もちろん本人の希望次第ですが。私としてはここまで生徒に望まれているのですからという気持ちはありますけどね」

#ナカミチ

「そ、そうです!戻ってきてください!全員喜びます!」

#くぜ

「……わ、わかりました」

#校長

「ふふ。よかったですね」

#ナカミチ

「……あ」

#ナレーション

校長先生の方を向いて固まる。くぜ先生を担任に選ぶということは校長先生は担任から外れる。どっちの方がいいかはっきり言ったようなものだ。選ぶということの一面である。

#このみ

「ん?どうしまし、あ」

#ナレーション

気づく。

#校長

「私は全然皆さんのために動けませんでしたから。これでいいんですよ」

#ナレーション

ありがたい言葉である。

#校長

「では……。最後に朱里先生。休暇中、ご両親には会えましたか」

#くぜ

「あ。……はい。……私だって気づいてもらえました」

#校長

「そうですか。……本当によかったです」

#くぜ

「……ありがとう。お父さん」

#校長

「……いえ。それでは」

#ナレーション

そう言って去っていった。聞きにくいことを最後に聞くなんて大人はずるいものだ。何かもっとずるいことがあった気がしないでもないがたぶん気のせいである。

#ナレーション

少し沈黙する。何か話すにしてもその内容が今の空気にふさわしいのかわからないのだろう。

#ネネ

「え、えっと。この後さいかさんはどうなるんですか?歯医者に行くと思っていますが」

#くぜ

「そうですね。そうなります。ご両親が迎えに来られるということですので、ご両親と歯医者へ向かわれる予定です」

#ネネ

「そ、そうですか」

#ナレーション

再び沈黙。

#さいか

「……もういいですよ。心配していただかなくても私は大丈夫です。そしてもう心配しなくても何もしません」

#このみ

「心配しなくても付き添っていますよ」

#さいか

「……。文化祭楽しみじゃなかったんですか」

#このみ

「何がしたいかは自分で決めます」

#さいか

「……そうでしたね。このみちゃんはそういうのが似合う子でしたね」

#さいか

「ネネさん」

#ネネ

「え。は、はい。何でしょう」

#さいか

「ごめんなさい」

#ネネ

「あ……。」

#ネネ

「……いいえ。謝る必要も後悔を持つ必要もありません。何もなかったと決めたんです、私たち。だから今まで通り。今まで通り友達です」

#さいか

「……そう、かな」

#ネネ

「はい」

#さいか

「……ありがとう」

#ナレーション

ずっとこじれていたもの、こじらせていたものが解けた時である。

#くぜ

「……。またずいぶんと、やっかいなことをしていたようですね」

#ナレーション

だいぶ言葉を選んでくれたようだった。やっかいというよりもおかしなことである。

#このみ

「えーっと。まぁそれなりにですかね」

#ネネ

「その。何とかなりましたのでくぜ先生にも何とか理解していただけないかと……。」

#くぜ

「そういう言い方をされても困ります。そもそも何が起こっていたのか私にはわかりません」

#ネネ

「えっと。ご迷惑かけます」

#くぜ

「いえ。本当にわかっていませんよ。本当はわかっていると思われても困ります」

#ナカミチ

「くぜ先生が戻ってこられたタイミングは俺たちの前に現れたほんの少し前ですよね」

#くぜ

「ええ。学校上空へ出てきて慌てて浮かんだんですが屋上の方でさいかさんが手を挙げているのが見えました。あとはみなさんが知っている通りです」

#ネネ

「え。そんな後だったんですか?」

#このみ

「あれ?おかしいですね」

#さいか

「おかしい、ですか?」

#このみ

「ええ。わたしもくぜ先生が戻ってきていたのはもっと前のイメージだったんです。ほら、私たちが落下した時があったじゃないですか。で、途中でまた浮いたじゃないですか。今思えばくぜ先生のおかげだったんだと思ってたんですが」

#ネネ

「あ、きっとそれです。私もくぜ先生が助けたんだと思ってもうその時にはいらしたんだと思いこんでいたんです」

#さいか

「ああ、それは私が……。いや、それでもおかしいですね」

#くぜ

「……いま落下したと聞こえましたが」

#ナカミチ

「その。聞き流してください」

#くぜ

「いえ。もう担任に戻って……。はぁ……。聞き流しておきます」

#ナレーション

このクラスの担任は一筋縄では務まらない。もっとも担任自体も一筋縄ではいかないといえばそうであるというしかない。さて、ナカミチ君は上着から生徒手帳を取り出して開く。

#ナカミチ

「あの時。落ちていったあの時にすべての魔力をこれに流し込んだんだ。きっちりと俺たちを守ってくれた」

#ナレーション

開いた生徒手帳から何かを取り出す。いつかどこかで見た基板。ネネちゃんが作った基板だ。重力操作を望み作られた魔動具。緑色の基板、金属部分は赤茶色く錆びている。

#ネネ

「……。それ、は」

#ナカミチ

「ああ。2年前ネネさんが作った魔動具。ずっと俺が隠していたもの」

#ナカミチ

「かえすよ。もう返してもいいと思うし。助かった」

#ナレーション

ネネさんに渡す。彼女はそれを両手で受け取り眺める。

#ネネ

「動いたんですか……?こんなに錆びて……。」

#ナカミチ

「動いた。……と思う。あの時確かに基板と接していた学生服が魔動具として浮いたからな」

#このみ

「確かに変な浮き方はしていましたね。しかしよくこの小さい基板でよく2人分の体重を支えたものですね」

#ナカミチ

「そうだな。あとは流れてきた魔力の量があの瞬間に増えたからかな。あの時はさいかさんも送ってくれていたんだろ?」

#さいか

「……無意識でしたけどね。あの時私の中には皆さんが押し出していた魔力が溜まっていましたし、それなりの量ではありました。しかしその量はそれなりでしかありません。どこまで溜まろうと1機械科の生徒レベルです」

#ナカミチ

「まぁ言ってしまえばそうなんだ。だからやっぱりこの魔動具が助けてくれたんだと思う」

#ネネ

「……。」

#このみ

「ネネちゃんが私たちの命の恩人だったんですね。……いえ。全員が恩人なんですよね」

#ナカミチ

「……まぁな。……なかったことになったとはいえ頭が上がらないな」

#このみ

「ですねぇ」

#くぜ

「命の恩人……?」

#ナレーション

くぜ先生も大体察してきておられるようだ。同時に本当に見て見ぬふりでいいのかとも思うかもしれない。知るということは悩みを増やすことでもある。

#ネネ

「そうですか……。2人を守れたんですね……。」

#ナレーション

基板を両手で包み込む。

#ネネ

「……あの。動かないんですが。今、基板に魔力を通してみているんですけども」

#このみ

「え?」

#ナカミチ

「……そうなんだよなぁ」

#さいか

「……その口ぶりだとついさっき動かなくなったとかではないんですね」

#くぜ

「そういえば自信のない口調でしたね」

#ナレーション

振り返れば彼は、~と思う。という言い方をしていた。

#ナカミチ

「いや、一応勝手に預かったものだから大事にはしていたんだが。動かしたりはしていなくて動かせたのかわからないんだ」

#このみ

「つまり?」

#ナカミチ

「あの時に動いたと思うんだけどわからない。いや、最後に動いたはずなんだが、多分無理やり動かしたことで完全に壊れたんだと思う」

#このみ

「つまり人のものを勝手に借り、あげく壊した、と。どさくさに紛れこれもなかったことに……。」

#ナカミチ

「言い方が悪意に満ち溢れているんだが」

#ナレーション

悪意に満ちていようが事実であった。

#くぜ

「……なるほど。大体何があったのかは予想がつきました」

#ナレーション

くぜ先生はズボンのポケットに手を入れて言う。

#くぜ

「ナカミチさん。すべて解決したんですね」

#ナカミチ

「……ええ」

#くぜ

「そうですか。ではこれもお返ししましょう」

#ナレーション

ポケットから取り出したのは焼け焦げた基板。今ネネちゃんが持っているものと非常によく似ていた。しかし形は似ているようで違う。

#さいか

「それは、私、の……。」

#くぜ

「2年前ネネさんの靴から取り出したものです」

#ネネ

「も、持っていらっしゃったんですか」

#くぜ

「ええ。2年前の時から違和感は感じていました。とくに体育祭が終わった後、ナカミチさんが基板を引き取りに来たのでいつか必要になるかもしれないと思っていたんです」

#ナカミチ

「そ、そうだったんですか。気づきませんでした」

#このみ

「そこまで魔の手が迫っていたとは……。」

#ナカミチ

「魔の手って」

#くぜ

「いえ、実際あのタイミングで何気なく引き取りに来たナカミチさんはかなり怪しかったですし渡すわけにはいきませんでした」

#さいか

「実際隠しましたし……。あ、ごめんなさい」

#ナカミチ

「いや、勝手にやったことだから……。事実だし……。」

#ナレーション

ついに認めた。

#くぜ

「それでどこかに置いておくわけにもいかずずっと持ち歩いていましたが。そのあたりはナカミチさんも同じだったのでしょう。しかしもう必要ありませんね」

#くぜ

「ではこれはさいかさんにお返ししましょう」

#さいか

「……いいえ。もうなかったことになったもの。それは私のものじゃありません」

#くぜ

「そうですね。では、」

#さいか

「ネネさんに返しといてください。私はいりませんし」

#ネネ

「いらないものを友人に渡さないでください……。」

#ナレーション

そう言って受け取った。手元には1つ作ったはずのものが2つに増えていた。

#このみ

「増えましたね」

#ネネ

「そりゃあまぁなかったことにすればどこかに矛盾が生まれるものかもしれませんが、私に集まってくるとは思いませんでした」

#ナレーション

そんな話をしているとくぜ先生が養護教諭といかいう保健室の先生に呼ばれる。

#くぜ

「……はい。わかりました。さいかさん、お母さまが迎えに来られました。行きましょうか」

#さいか

「……はい」

#ナレーション

ベットから立ち上がる。

#このみ

「付き添いますよ」

#ネネ

「そうですね。そうしましょう」

#さいか

「いいえ。後は私だけで。……ではまた」

#ナレーション

あっさりと、そして有無を言わさず保健室から出ていった。

#くぜ

「後は私がついていきます。……あなたたちは本当にすごいですね。では」

#ナレーション

くぜ先生も出ていった。保健室に静寂が戻る。あるべき姿だ。

#このみ

「……さて。どうしましょうか」

#ナカミチ

「とりあえずみんなにチャットで連絡入れとくよ。今さいかさんが学校を出たってな。問題もないとおくっておこうか」

#ナレーション

ナカミチ君はスマートフォンで文字を打ち込みながら3人で廊下に出る。

#このみ

「さてと。じゃあ……。」

#ナレーション

きょろきょろと見渡して少しうつむいて何かを見る。

#このみ

「何か食べましょう!」

#ナレーション

自分のおなかを眺めていたようだ。おなかが減ったらしい。

#ナカミチ

「今は、3時か。お昼も食べてなかったなぁ」

#ネネ

「私もですね。安心したからだと思いますが急激におなかが減ってきました」

#このみ

「さいかちゃんも今頃……。」

#ナレーション

言ってしょんぼりとする。

#ナカミチ

「うーん。多分歯の痛さでそれどころじゃないだろうな」

#ネネ

「本当に冷静に判断しますね……。しかしさいかさんも気にしてもらいたくないと思いますよ」

#このみ

「……そうですねぇ。じゃあやきそばで」

#ナレーション

切り替えが早かった。

#ナカミチ

「いや、唐揚げとかがいいんじゃないか」

#ネネ

「いえ、もう3時ですし軽いもので。たい焼きとかがいいと思います」

#ナレーション

アイデアを出し合う。すべては自分自身の食べたいもののために。

#3人

「……。」

#ナレーション

譲歩しあえば円滑に物事は進む。しかしそれでは後に争いの本質が出てくる。だから本気でぶつかり合うことも時には必要なのだ。

#このみ

「では唐揚げ、焼きそば、たい焼きの順番で」

#ナカミチ

「そうしよう」

#ナレーション

若さゆえに時間はたっぷりあった。余裕こそが争いをなくすのだろう。その後食べ終わった3人は徐々に人数が増え大人数で文化祭を楽しんだ。

#ナレーション

そして日は経ち、彼らの学園生活も大詰めへ動き出す。

 

 

#ナレーション

2学期も過ぎて、今日は終業式である。

#このみ

「おはよーございまーす」

#ナレーション

がらりがらりとドアを開けて挨拶をするこのみちゃん。挨拶をしながら自分の席へ向かっていた。

#ふうき

「だからできればというより持っていたら返して……、じゃなくて渡してほしいんだけど……。」

#さいか

「そう言われましてもこちらにも事情がありまして……。と言っても持っているとは言っていないんですけれども」

#ふうき

「ええっと……。うーん」

#さいか

「心配しなくても大丈夫ですよ。よくわかりませんけどね。……と言ってもそれが風紀さんにとって良いことかどうかというのはわかりませんけど」

#ふうき

「あの。よくわからないんだけど……。ってナカミチ君。横で突っ立ってもらうためについてきてもらったんじゃないんだよ?!」

#ナカミチ

「……え?あぁ。そうだな」

#ふうき

「……。」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

反応なし。

#ふうき

「そこは突っ立ってるだけでいいから付いて来てくれって言っただろうって突っ込み返すところでしょー?!」

#ナカミチ

「あ、ああ。そうだったな。で、なんで俺がついてこなけりゃならなかったんだ」

#ふうき

「おぉ……。もう……。」

#さいか

「ふふっ」

#このみ

「なーにしてるんですかっと」

#ナレーション

このみちゃんが会話に入ってくる。

#ふうき

「あー。このみちゃん聞いてよー。おはよー」

#このみ

「聞きました。おはようございますと返しましょう」

#ふうき

「おお。これはご丁寧に」

#さいか

「いつもの漫才はいいんですが、するなら自分たちの席でやってくれません?」

#このみ

「これはさいかちゃん。ご機嫌麗しゅう」

#さいか

「麗しゅう?かどうかは私にもわからないですけど。おはようございます」

#このみ

「あとナカミチ君もおはようです」

#ナカミチ

「……おはよう」

#このみ

「……?それで何の話だったんですか?」

#ふうき

「えっと。いま私が昔作った鍵開けを探しているんだ」

#このみ

「鍵開け?昔のと言いますと靴箱に放り込まれていたやつですか?」

#ふうき

「そうそう。それそれ」

#さいか

「……私の記憶ではその鍵開けはもう風紀さんは使っていなかったはずで、たしか放棄していたと思うのですが」

#このみ

「そういえばそういうことを言っていた気もします」

#ふうき

「いや、放棄は確かにしたんだけどね。廃棄しようと思って。それで探しているんだけど……。」

#このみ

「あぁ。それで最後に使ったさいかさんに聞いていたんですか」

#ふうき

「……それがそう単純じゃなくてね」

#さいか

「私使いましたか?覚えていないんですけれど」

#このみ

「それはあの文化祭の時……。あ」

#ふうき

「そうなんだよ。何もなかったでしょ?」

#ナレーション

無いことにしたからその時間帯のさいかちゃんの行動は何もなくなった。

#ふうき

「だから強く出れなくて。ナカミチ君も一緒に聞いてもらったら何か変わるかなと思ったんだけどなんか調子悪くて」

#ナカミチ

「言い方にとげがあるぞ……。」

#ふうき

「ね?」

#このみ

「確かにキレがありませんね」

#さいか

「……私にはわからないですね。とにかく、私にはこれ以上話せることはありません。風紀さんが探しているものが危ないことに使われたりしないことは私から保証しておきます」

#ふうき

「使われたり、しない……?」

#さいか

「……もうホームルームも始まりますよ」

#このみ

「あ。そんな時間ですか。始まる前に帰る準備しないと」

#ナカミチ

「えっ。もう帰る準備か」

#このみ

「そりゃそうですよ。いつも通りなら終業式が終わったらすぐ解散です」

#さいか

「その方がいいでしょうね。あまり直前に急ぎすぎてもよくないでしょうし」

#ナカミチ

「……それもそうか」

#さいか

「ふ、ふふっ。ほら早く戻ってください。私も少しロッカーの整理しないといけませんから」

#このみ

「ロッカーですかぁ……。私も卒業式までには整理しないといけませんねぇ」

 

 

 

 

#ナレーション

時間は経ちホームルーム。くぜ先生が前でしゃべっている。

#くぜ

「というわけでうちのクラスは珍しいことですが全員が大学進学を希望しています。今日からしっかり勉強を詰めて行い、冬休み中しっかりと勉強をできるようにすること。以上です」

#くぜ

「……では体育館に向かうので号令を」

#ナレーション

号令はかからない。静寂のままだ。

#くぜ

「…このみさん?」

#このみ

「……。」

#ナレーション

気づいていない。じっと机を見ている。

#ナカミチ

「このみ。くぜ先生が、」

#このみ

「はい?!えっ?なんでしょうか!ナカミチ、くん……。」

#ナカミチ

「ホームルームの号令と始業式のために体育館へ」

#くぜ

「終業式です」

#ナカミチ

「あ、そうでした。終業式」

#ナレーション

ボロボロである。

#このみ

「えーっと。起立でいいんですよね?」

#ふうき

「それ以外に何があるの?」

#このみ

「き、きりーつ!」

#ナレーション

号令を終えてクラスメイト達が廊下へ並びだす。

#ふうき

「ちょっと、ナカミチ君」

#ナレーション

廊下へ出ようとしたところを後ろから襟首をつかまれて引っ張られていた。

#ナカミチ

「ぐえっ?!な、なにを、」

#ふうき

「…がんばってね」

#ナレーション

そう言うとナカミチ君を追い越して廊下へ出て行った。

 

 

 

 

 

#ナレーション

終業式はなんやかんやで終わった。大事なことを言っていたとして今の彼らの耳に届いていたかどうかは怪しいところである。教室では再度ホームルームが進行している。これが終われば2学期は終わりである。

#くぜ

「連絡は以上です。このみさん。号令をお願いします」

#このみ

「はい!きりーつ!」

#ナレーション

今度はちゃんと号令が響く。そしていつも通り解散という言葉の後、クラスメイト達は一斉に動き出す。

#クラスメイト

「急ぐぞ!」

「私が一番早く出る!」

「負けないぞ!」

#ナレーション

教室から生徒が放出される。教室のドアの狭さに思いっきり詰まってなかなか出ていけていない。

#このみ

「風紀さんー。申し訳ないんですけど私、用事があるので一緒に帰れないんですけど……。」

#ふうき

「そうなの?せっかく最終日だからと思ってたけど仕方ないね」

#このみ

「すみません……。」

#ふうき

「ああ、いや。謝られるとこっちも申し訳なくなっちゃうから。それじゃまた3学期に」

 

 

 

 

#ナレーション

ナカミチ君がのんびりと廊下を歩く。が、その足はどこへ向かっているわけでもなくただ歩いている。

#ナレーション

生徒たちの姿は見えない。ほとんどの生徒たちは帰ったようだ。終業式後である。何の用事もなければすぐに帰るだろう。

#みしろ

「ナカミチ!」

#ナレーション

みしろちゃんが走ってきていた。彼を探していたのだろうか。

#ナカミチ

「みしろ……。」

#みしろ

「ナカミチ……。朝はありがとう。教えてくれて」

#ナカミチ

「……自己満足だった。お礼を言わないでくれ」

#みしろ

「うぅん。言わなくてもよかったのに教えてくれたんだから。お姉ちゃん……。姉さんにもナカミチに話をしに行こうって言ったんだけど行かないって。ごめんね」

#ナカミチ

「いや、いいんだ」

#みしろ

「それで……。朝に言っていた通り今からこのみちゃんに告白しに行くんだよね?」

#ナカミチ

「ああ。そろそろ約束の場所に向かおうかと思っているんだが」

#みしろ

「その前に……。私の思いも聞いて欲しいんだ。朝言えなくて。でも言わないままだと嫌だから。そのチャンスをナカミチはくれたから」

#みしろ

「私、ナカミチのことが好き。です」

#みしろ

「小学校の頃、私たちを助けてくれていたって知った時から。あの時にできた友達はもう何も連絡を取り合ったりはしていないけど。それでも私が姉さんを頼ってばかりで、孤立していた私たちを助けてくれた」

#みしろ

「ナカミチに助けた理由なんてなかったのはもう知ってる。でも姉さんが気づいて一緒に遊ぶようになってから私のことどう思って助けてくれたのか気になっていた」

#みしろ

「それで……。今もやっぱり好きかな。できれば友達のまま終わりたくない。そう思うぐらい」

#ナカミチ

「……そうか。ごめん」

#みしろ

「そういう時はありがとうとか言っておく方がいいと思うよ?」

#ナカミチ

「いいや、ごめん」

#みしろ

「……うん。ありがとう」

#みしろ

「じゃあ私帰るね!じゃあねナカミチ!」

#ナカミチ

「ああ。またな」

#ナレーション

みしろちゃんは背を向けて歩いていく。その姿が遠くなっていく。その姿を見送っていた。

#ナレーション

廊下を曲がって歩いていくみしろちゃんを窓越しに見ていると誰かがその横を走ってこっちに向かってくる。みしろちゃんがその姿を目で追いかけて―――。

#ましろ

「ナカミチ君!」

#ナレーション

ましろちゃんが息を切らせて、

#ましろ

「私、私も、ナカミチ君のことスキ……、だったの……!」

#ナカミチ

「ましろ……。」

#ましろ

「ナカミチ君は……?」

#ナカミチ

「……好き、だった、よ。そして今は友人として」

#ましろ

「……うん。ありがとう」

#ましろ

「じゃあ帰る。またね」

#ナカミチ

「ああ」

#ナレーション

ナカミチ君の返事を聞かずさっさと歩いて去っていく、と思ったらもう一度振り返った。

#ましろ

「告白うまくいかなかったら私が付き合ってあげるから」

#ナカミチ

「またとんでもないことを言うな」

#ましろ

「私本当は性格悪いの。知ってるでしょ」

#ナカミチ

「いいや。そんなこと思ったことないし、悪くなんてないよ」

#ましろ

「そう?……じゃあ応援しとく。あとうまくいかなくても付き合ってあげない」

#ナレーション

今度こそ去っていく。みしろちゃんと合流して歩いて行った2人は笑顔だったように見えた。

#ナレーション

そしてナカミチ君は歩き出す。

 

 

 

 

#ナレーション

ナカミチ君が教室へ向かうと扉の前に1つ人影があった。

#ナカミチ

「このみ」

#このみ

「ナカミチ君……。」

#ナカミチ

「ごめん。待たせたな」

#ナレーション

遅れた者の常套句である。キザったらしいが今日ぐらいは大目に見よう。

#このみ

「いえ。私もついさっき来たばかりですから……。ほ、本当ですよ」

#ナレーション

気を使われていた。大目に見てもらえないレベルであるが、どうも本当についさっき来たらしいのでセーフだろう。

#このみ

「あ。その。場所はここでよかったんですよね?私の机に入っていたお手紙には教室で会いたいとだけ書かれていたのでクラスの教室かなって思っていたんですけど」

#ナレーション

教室とだけ書かれても家庭科室か理科室か音楽室か体育館か分かったものではない。ナレーションなら説明のプロ故その辺までちゃんと説明しているはずだ。振り返ってみよう。してなかった。

#このみ

「それで……。話があるからということが書かれていたんですけど……。」

#ナカミチ

「ああ、そうだ。でもその話は教室に入ってからな」

#このみ

「あ、ナカミチ君。教室の鍵は開いていないですよ」

#ナカミチ

「大丈夫。これを持っているから」

#このみ

「それは……、風紀さんの鍵開けじゃないですか」

#ナレーション

いつか見た薄い鉄の板の集合体だった。

#ナカミチ

「一応、風紀さんが所有を放棄していたものだけどな。さいかさんが持っていたのを無理言ってそのまま渡してもらった」

#ナレーション

鍵穴に差し込んでカチャカチャと動かす。

#このみ

「い、いいんですかこんなことして?」

#ナカミチ

「駄目だろうな」

#ナレーション

カチャカチャと動かしていると鍵穴とうまく合わさったようで勢いよく回りガチャリと音が響く。

#ナカミチ

「だけどどうしても教室で聞いて欲しかった。話したかったんだ」

 

 

 

 

#ナレーション

教室の中。電気をつけずにほんのりと薄暗い中、彼はこのみちゃんへ向き直る。

#ナカミチ

「このみ。俺はこのみのことが好きだ。いや、愛してるって言ったってかまわない」

#ナカミチ

「その事をここで伝えたかった。だってここがこのみとの思い出が一番ある場所だから」

#ナレーション

彼の声はどこまでも緊張していたが彼女もまた緊張して体をこわばらせている。

#このみ

「……。」

#このみ

「なんで……、私なんでしょうか……。」

 

 

#このみ

「きっと、私よりもナカミチ君のそばに居続けた人がいます」

#ナカミチ

「このみと一緒にいた時間のほうがもう長いよ」

#このみ

「私よりもナカミチ君のことをわかっている人がいます」

#ナカミチ

「俺はこのみが一番理解してくれていると思う」

#このみ

「私よりナカミチ君にふさわしい人がいるはずです」

#ナカミチ

「俺はこのみと一緒に居たいんだ」

#このみ

「私、なんかでいいんでしょうか」

#ナカミチ

「このみがいいんだ」

 

 

#このみ

「ナカミチ君……。」

#ナカミチ

「このみ……。」

#このみ

「私、とっても嬉しいです……!私もナカミチ君の事大好きです!私だって愛しているって言えるぐらい想っています!毎日ナカミチ君の事を考えています!」

#ナカミチ

「このみ……!」

#ナレーション

彼は好きだと、大好きだと言ってくれた彼女を抱きしめる。きっと愛である。衝動である。

#このみ

「あっ、ナカミチ君……!」

#ナレーション

抱きしめられるこのみちゃんはきっと幸せな表情をしていることだろう。彼はその表情を確かめるように少しだけ抱きしめる力を緩め、右手を優しく彼女の頭にそえて、

#このみ

「ナカミチ、くん……。」

#ナレーション

見つめあう2人の顔が近づく。もう相手の事しか見えない―――

#

カシャ。ピロリン。

#ナレーション

何か聞こえた。

#ナカミチ&このみ

「―――!?」

#ナレーション

ふと音がした方へ顔を向ける。

#???

「―んで、おと―ならし――――。」

「そっちこ―、―――んじゃないで――。」

#ナレーション

教卓からガコガコと小さい小競り合いの音がしている気がする。と思っていると前方へ傾いた。倒れそうだ。というか倒れ始める。

#???

「あっ!?」

「きゃっ?!」

#ナレーション

2人倒れた教卓の中に詰まっていた。

#ふうき

「あいたたた。んじゃ、そういうことでー。……。ちょっと。早く立ち上がって」

#さいか

「無理に立ち上がろうとするから立てないんですよ……!うぅ……。いたた……。」

#ナレーション

そう言いながら無理に立ち上がる2人。帰ろうとする。

#ナカミチ

「待てこら」

#このみ

「ねぇ、ちょっと戻ってきてくれません?」

#ナレーション

他人の恋愛を覗き見したものの末路がどうなるのか覗き見しよう。

#ふうき

「待った!こ、この今撮った写真をこのみちゃんにもあげよう!感動のシーン!二度と見れないシーンをもう一度!素晴らしいね!」

#ナカミチ

「そのもう二度とないところを邪魔されたんだが」

#さいか

「私は風紀さんに無理やり連れてこられたんです」

#ふうき

「あ!ずるい!わりと乗り気だったくせに!」

#このみ

「それで?」

#ふうき

「それで?とは?」

#このみ

「いえ。取引に使用する写真の説明がそれだけでいいのかな、と思いまして」

#ふうき

「ひぃ!さいかちゃんとの茶番が通じていない!」

#さいか

「余計怒らせるだけですよ……。」

#ふうき

「いや、なんとこの写真。照れていた顔もばっちり写っているの。もう一度じっくり眺めていたくなる表情じゃなかった?」

#このみ

「ほう。それは確かにもう一度見たいものではあります」

#さいか

「何とか表情を撮ろうと角度を苦心して、結果、画面にはこのみちゃんの顔しか映っていないんですけどね」

#このみ

「それ私に何かメリットあります?!」

#ふうき

「し、仕方ないじゃん!教卓からじゃナカミチ君は後ろ姿しか見えなかったんだし!それに2人があまりに初々しかったから!」

#このみ

「だから?」

#ふうき

「だから写真に残したくなっちゃったんだよね。消音アプリをインストールして写真を撮ったんだけど、写真の音は消せなかったみたい。防犯のためだね」

#このみ

「……。」

#ふうき

「……。許して?」

#このみ

「頼る相手を間違えましたね。ナカミチ君にお願いしておけば何とかなったかもしれません」

#ふうき

「くっ?!ここでのろけか!独り身にはつらい!」

#このみ

「のろけじゃありません?!私は写真に私が写っているならナカミチ君に渡せばよかったんですと言っているんです!」

#ふうき

「あ、ああ。そういうこと。それはねこのみちゃん……。」

#ふうき

「確かにこれをナカミチ君に渡せばナカミチ君は私を助けてくれるかもしれない。しかし!私はわが身可愛さに友達を売ることなどできない!」

#このみ

「ふ、風紀さん……!」

#ナレーション

感動のシーン畳みかけ。きっと終わりも近いからだろう。感動の大盤振る舞いだ。

#ナカミチ

「おい。感動する場面じゃないぞ」

#ふうき

「何を言う!わが友をたぶらかすとは!……いや、もうたぶらかして。いや、何でもない。とにかく私とこのみちゃんの仲は強固だから!」

#このみ

「そうだそうだ。その通りです。わが友情は永遠に不滅です」

#ナカミチ

「えぇ……。」

#ふうき

「でも本当おめでとう。このみちゃん。よかったね」

#このみ

「無理やりいい話にしようとしてません?」

#ふうき

「ほ、本心として受け取っていただけたらなー、と」

#このみ

「いえ。本心なのはわかっていましたよ。ありがとう風紀さん」

#ふうき

「というわけでさいかちゃん共々許していただければと……。」

#さいか

「勝手に私を含めないでください…。風紀さんに手助けしていただかなくても何とかできます」

#ふうき

「えっ?」

#さいか

「このみちゃん。私は風紀さんと違って動画で撮っていたんです。ですからスマートフォンに入ったこのデータを差し上げるので許してください」

#このみ

「動画ですか?!」

#ナレーション

写真ではなく動画で一部始終を撮ったらしい。

#ふうき

「動画って……。いつから撮ってたの」

#さいか

「風紀さんが教室の鍵を開けているときに録画ボタンを押しておきました」

#ナカミチ

「最初から盗み撮る気満々だな……。」

#さいか

「それはまぁ……。一大イベントですから。いつか披露宴で流してもいいかなと思いまして」

#このみ

「披露宴?」

#さいか

「結婚式で」

#このみ

「け、結婚式?!」

#ふうき

「気の早いことで……。」

#さいか

「目論見はつぶれましたけど。それでよかったのかもしれません」

#ナカミチ

「本当にな……。」

#さいか

「さすがにカメラを向けれなかったので音声だけですから。今一つ盛り上がれないでしょうし。それにいい所で横からの音に驚いて停止ボタンを押してしまいましたし……。」

#ナカミチ

「そういうことじゃないんだけどな……。」

#さいか

「ですがこのみちゃんには、愛する彼氏さんの告白の言葉が何度も聞けてうれしいのではないかと。それに何といっても最後のシーンはちゃんとカメラを向けていましたし。表情もちゃんと写ってますよ」

#このみ

「いやですねー!もう。愛するだなんてー。仕方ないですねー。許しちゃいます!」

#さいか

「そうですか。よかった。……そういえば私からも祝福の言葉を送っていませんでしたね。おめでとうこのみちゃん。幸せそうで何よりです」

#このみ

「えへへー。ありがとうございますー」

#ナカミチ

「……なぁ。2人とも、俺への祝福の言葉とかは」

#ふうき

「このみちゃんを手に入れてなお祝福まで求めるか。まぁ、おめでとう」

#さいか

「欲張りすぎですね、本当に……。まぁ、おめでとうございます」

#ナカミチ

「……まぁ、ありがとう」

#ナレーション

社交辞令も終わった。

#ふうき

「でもそのさいかちゃんが撮った動画って私と同じ位置から撮ったんだよね?正直ナカミチ君の表情が写っているとは思えないんだけど……。」

#このみ

「えっ?」

#さいか

「ナカミチ君の表情が映っていたとは言っていませんし。最初の方でこのみちゃんしか画面に映っていなかったといいましたし。それにもう許してもらったので」

#このみ

「ええええっ?!自分の呆けている顔を見たって仕方ないですよ!」

#さいか

「では帰りましょうか。動画データは送りましたので」

#ふうき

「……なんていうか度胸がついたよね、さいかちゃん」

#ナカミチ

「図太くなったっていうんだあれは……。間違いなくこのクラスからの悪影響だな……。」

 

 

 

 

#ナレーション

教室の鍵を風紀さんがいつも通り何らかの方法で閉め、帰路に就く。

#ナカミチ

「あぁ。そうだ、これ返しておかないとな」

#ナレーション

そう言ってポケットから簡易鍵開けを取り出す。

#ふうき

「これはご丁寧にどうも。黙って借りっぱなしにしてどんな悪いことをしたのか」

#さいか

「少なくとも女の子の心を1つ奪いましたね……。」

#このみ

「きゃー」

#ナカミチ

「……照れなくていいぞ」

#ふうき

「しかし、なんでこの時期に告白したの?全然告白とかしそうになかったから卒業式とかにするのかとか、それでもしなさそうだったら後ろから蹴り飛ばさないといけないかな、とか思ってたんだけど」

#さいか

「私も受験が終わるまでは、とか何かしら理由をつけて告白していないのかと思っていましたが……。」

#ナカミチ

「さっきからいちいち言い方がきつくないか……?」

#ふうき

「妥当でしょ」

#さいか

「ですね」

#ナカミチ

「……。言いたくない」

#このみ

「ええー。私は気になりますけどねー」

#ふうき

「ほら、彼女さんもこう言っていることですし。お時間は取らせませんから」

#ナカミチ

「信用ならない聞き方だな……。……。」

#ナカミチ

「……いや、もうこのみのことしか考えられなくて。何も手がつかない状態になっていたんだ」

#ナレーション

静寂。

#このみ

「……。」

#ナカミチ

「……。ごめんな。なんか俺の勝手な気持ちで」

#このみ

「……いいえ。そこまで思っていてくれてうれしいです」

#ナレーション

完全に2人の世界である。

#ふうき

「……さ、さぁ。帰ろっか。こんな時間までいてるのが見つかったら不審がられるからね」

#さいか

「そ、そうですね……。」

#ナレーション

アウェー。2人自ら望んできた場所である。受け入れるか逃げるしかない。当然自分の有利な場所まで逃げるのがいい。だが、人生逃げれない時も逃げてはいけない時もあることはよく知っておくべきだ。

 

 

 

 

#ナレーション

とりあえず靴箱前まで逃げてきた2人とカップル1組。そこには姉妹1組がいた。ましろちゃんとみしろちゃんである。

#みしろ

「あ、ナカミチ……?とこのみちゃんはわかるんだけどなんで風紀さんとさいかさんがいるの?」

#ナレーション

当然の疑問だった。

#ましろ

「もしかして……。隠れて除いていたの?いや、見つかったんだね……。」

#ふうき

「一瞬でばれたね」

#さいか

「それ以外ありませんしね……。」

#ナカミチ

「……それで2人はなんでここに?」

#ナレーション

半笑いがひきつったような顔で訪ねていた。緊張してるのだろう。告白と時とは違う感じで。振った相手との面会である。どのような心境なのだろうか。

#ましろ

「それはもちろんこのみちゃんとナカミチ君へお祝いの言葉でも送ろうかと思って。……あとどんな幸せそうな顔をしているのかちょっと見てみたくなっちゃって」

#ナカミチ

「後半が本音だよな」

#ましろ

「建前でもそう思っているというのが大事なんだよ」

#みしろ

「私はどっちかというとどんな顔をしているのか見たい気持ちが大きかったけどねー」

#ましろ

「まぁ、そうだね」

#このみ

「そ、それはご期待にそえませんで……。」

#ましろ

「うぅん。このみちゃんが気に病むことじゃないよ。本当に。強いて言うなら風紀さんとさいかちゃんが邪魔したんだろうし」

#ふうき

「うっ」

#さいか

「返せる言葉はありませんね……。」

#みしろ

「そう?幸せそうな顔してるよ」

#ましろ

「違うのみしろ。なんていうんだろう。呆けているような表情かな?そういう表情見たくない?」

#みしろ

「あー。なるほど。それはちょっと見てみたいなー」

#このみ

「それはちょっと勘弁していただければ……。」

#ましろ

「……ナカミチ君。気の利いた言葉でも言って。彼女に」

#ナカミチ

「望まれて出せるほど器用じゃないから」

#さいか

「よく言えますね……。」

#ましろ

「まぁ、とにかく。このみちゃんお幸せに。おめでとう。後ついでにナカミチ君も」

#みしろ

「おめでとうこのみちゃん。よかったね。ナカミチもついでによかったね」

#ナカミチ

「……もうちょっとこうねぎらいの言葉とか」

#ましろ

「報われたんでしょ?このみちゃんを手に入れて。それ以上何かいるの?」

#みしろ

「まぁナカミチ欲張りなところあるし、こういうところで欲張りになれたのもいいことなんじゃない?」

#ナカミチ

「……やっぱり結構です」

#ましろ

「気の利いた言葉でも言ってくれたらこっちも気の利いた言葉言うけどね」

#ナカミチ

「……やっぱり結構です」

#ナレーション

それしか言えないのだろうか。

#ふうき

「……あ。そういえばこのみちゃんの呆けた顔なら手元に、」

#このみ

「それはもういいですから!ほら帰りますよ!」

#ナレーション

カップル1組に野次馬4名。力関係は逆転していた。

 

 

 

 

#このみ

「ですがまぁ皆さんよく残っていられましたね。もし今日のこれが告白じゃなかったらどうしたんですか」

#ナカミチ

「あぁそれはまぁ思うな。告白が受け入れてもらえなかったりしたら気まずいどころの話じゃなかっただろう」

#ふうき

「……そんな心配、当人たちしかしていないよ。あほなの?」

#さいか

「まさに呆けてますね」

#みしろ

「そんなに余裕なかったの?」

#ましろ

「もっとお互いのこと分かり合わないと」

#このみ&ナカミチ

「……。」

#ナレーション

好き勝手言われていた。

 

 

 

 

#ナレーション

歩いていくと当然のように校門につくが、視覚にとらえたものは少しおかしかった。

#このみ

「なんか……、人がいっぱい見えません?」

#ふうき

「……まさか」

#ナカミチ

「うちのクラスメイト達だ……。どうせそうだ……。」

#ナレーション

片手で軽く顔を覆うように頭を抱える。

#ましろ

「どうせって……。」

#ナレーション

結論から言えばクラスメイト達だった。当然のように全員いる。これで勢ぞろいだ。

#このみ

「とりあえず手を振っときますね」

#ナレーション

ぶんぶんと手を振ると向こうも気づいたようで駆け寄ってきた。

#クラスメイト

「よー、お2人さん。……はわかるんだが」

「やっぱり覗きに行っていたのね。しかも4人も」

「1人は絶対そうだと思っていたけど」

#ふうき

「だれ?その信用無い1人は」

#ミサキ

「風紀さんだよ……。」

#ましろ

「私たちは覗いていないけどね」

#ふうき

「あ!ずるい!安全圏から!」

#みしろ

「安全圏も何も実際除きに行っていないし安全圏だよねー」

#さいか

「……。」

#ネネ

「結局覗きに行ったのは風紀さんだけじゃないですか」

#ふうき

「おっと?」

#さいか

「……。」

#ナレーション

信頼を裏切るのはつらいことだ。勝手に信頼されているとしても。

#さいか

「……それで、みなさんも私たちと同じ理由で残っているんですよね?」

#ふうき

「あ、逃げやがった!」

#ミサキ

「やがった、て……。言葉遣いが……。」

#ネネ

「さいかさんも覗きに行ったんですね……。」

#さいか

「まぁ……、もう許していただいたので大丈夫ですよ。それで皆さんも?」

#クラスメイト

「まぁ、野次馬?」

「野次馬かなぁ?」

「正直、野次馬かな?」

#ナカミチ

「建前って知っているか?」

#このみ

「……まぁもう素直ってことでいいんじゃないですかね。もうクラスメイト全員がいますし、何でもいいです」

#ナレーション

寛容と諦めることは似ている。この場合は寛容だろうか。

#ネネ

「いえ、これでも皆さん祝福したいと思って集まっていたんですよ」

#クラスメイト

「……まぁ」

「……うん」

「……半分ぐらいは」

#ネネ

「すいません。野次馬だったみたいです」

#ナカミチ

「いや、いいんだ」

#ナレーション

諦めと寛容はうんぬん。この場合はどっちか。

#ネネ

「ですが……、どうやら告白はうまくいったようですね。ナカミチ君、このみちゃん。おめでとうございます」

#このみ

「あ……。ありがとうございます。ネネちゃん」

#ナカミチ

「……。」

#ネネ

「……どうしました?」

#ナカミチ

「いや、俺が素直に祝福されて驚いただけだ……。ありがとう、ネネさん」

#ナレーション

世知辛い言葉である。

#ネネ

「……あの。あなたたちどういう祝福を、」

#ふうき

「いや、おめでとう!ナカミチ君!素直におめでとうというのも恥ずかしいからね!仕方ないね!」

#さいか

「おめでとう」

#ましろ

「お、おめでとうナカミチ君。よかったと思ってるからね」

#みしろ

「よかったねー」

#ネネ

「ちょっと。話をそらして、」

#クラスメイト

「おめでとう2人とも!」

「よかったねこのみちゃん!ナカミチ君!」

「いや、本当にめでたいな」

#ナレーション

大きな流れは止められない。クラスメイト達の祝福が飛び交う。

#ネネ

「……もういいです」

#ナレーション

諦めと寛容うんぬん。

#ミサキ

「あはは……。本当におめでとう2人とも。あとみんな恥ずかしがっているだけでナカミチ君が報われてよかったってみんな思っているはずだからね」

#ナカミチ

「そ、そうかな」

#ミサキ

「たぶん。かな」

#ナカミチ

「……。まぁ、いいか。しかしよく全員集まったな」

#ふうき

「まぁバレバレだったし。あれだけ様子がおかしけりゃねぇ」

#さいか

「時間もありましたし。一大イベントですからね……。」

#このみ

「そ、そんなにわかるものでしたか?」

#ましろ

「振り返ってみたらよくわかると思うけどかなり挙動不審だったからね」

#このみ

「そ、そうですか」

#クラスメイト

「それで気づいたら興味出るし」

「でもさすがに邪魔する気概は私たちにはないから」

「自然とここに集まってきたってわけ」

#ふうき

「なぜそこで覗きにいかないのか」

#ナカミチ

「黙ってろ」

#ナレーション

ワイワイと言い合っていると1つの影が忍び寄ってくる。くぜ先生だった。

#くぜ

「……なにをしているんですか」

#クラスメイト

「あ、くぜ先生」

「いえ。ただ集まっているだけで」

「くぜ先生こそどうなさいました」

#ナレーション

非の無いように受け答えする。こなれたものである。

#くぜ

「帰るんですよ。やることは終えましたからね。さすがにまだいるとは思っていませんでしたが……。仕事が増えましたね」

#ナレーション

生徒たちに目線を向ける。

#ふうき

「よ、寄り道したりしていませんが」

#くぜ

「本当に?」

#ふうき

「こ、個人的には人生の寄り道ぐらいですかね」

#ナレーション

人によっては寄り道ではなかった。具体的には特に2人ぐらい

#くぜ

「ホームルームが終われば速やかに下校するのが当然です。それをこんな時間まで……。」

#ナレーション

ちらりとナカミチ君の方を向く。

#くぜ

「……はぁ。いいでしょう。怒る気も起りません。私も帰りますのでさっさと帰りなさい」

#ふうき

「は!了解しました!さ、みんな帰るよ!」

#クラスメイト

「まぁ見たいもんも見れたし帰るか」

「解散ね」

「そうするか」

#ましろ

「これは……。くぜ先生なりの祝福かな」

#さいか

「まぁ気づいてらっしゃるでしょうね。くぜ先生自身も帰る時間を遅らせてらっしゃったみたいですし。お気遣いでしょう。……まぁそれ以上の時間を私たちが残っていたわけですが」

#くぜ

「何かわかっているようでしたらこちらもわからざるを得ませんがどうします」

#みしろ

「姉さん!かえろっか!」

#ましろ

「そうね」

#さいか

「帰ってやりたい勉強もありますしね……。」

#ナレーション

もはや撤退準備である。全員がすたこらと門を出る。ようやく学校を出たわけであった。が、そこでナカミチ君の足が止まる。ずっと隣にいたこのみちゃんが不思議そうな顔で覗き込む。

#このみ

「……?どうしました?急に止まって」

#ナカミチ

「……いや、初めてこのみにあった時のことを思い出してな」

#このみ

「……そういえばナカミチ君はここで姉さんと私がしゃべっているところを見かけていたんですよね」

#ナカミチ

「ああ。このみが言いたい放題言ってて……。」

#このみ

「は、恥ずかしい限りです……。」

#ナカミチ

「……思えば初めて会った時にはもう、このみから目を離せなかった。憂いを帯びた瞳に、天真爛漫なところに」

#このみ

「……ナカミチ君」

#ナカミチ

「ん?なん―――、」

#ナレーション

このみちゃんが正面から抱き着いて―――

#このみ

「ん―――。」

#ナレーション

ちゅっ。と音がする。このみちゃんが抱き着いて、全員が呆けて黙り込み、そのせいか音が大きく響いた。そして再び静寂。

#このみ

「…さ、さぁ!帰りましょうナカミチ君!」

#ナレーション

腕に抱き着かれて引っ張られていくナカミチ君は驚いて声も出せなかったが、それは周りも同じだった。

#ナレーション

そして時は進み―――

 

#ナレーション

時期は3学期を半分過ぎて、大勢の人たちが学校を歩き、校内はにぎわう。今日は魔道祭である。3年生の彼らにとって最後のお祭りであるが、彼らの展示教室はひっそりと机が1つ。そしてその上に1つ資料が置かれているだけだった。

#ナレーション

だがそれは展示物に限った話であり、教室の隅の方ではいくつもの机が並べられ、いつものように騒がしく、はないようである。

#ミサキ

「う、うぅ。勉強もう疲れたよー」

#ナレーション

これから騒がしくなりそうであった。この場にはミサキちゃんの他4名。ナカミチ君、このみちゃん、風紀さんとネネちゃんがいた。

#ふうき

「みんな思っていて言わなかった事をついに言葉に出したね……。もう戦争しかないよ……?」

#ミサキ

「そこまで?!」

#さいか

「そういうことを言える間はまだ余裕があるということですよ。ほら、分からないところでもあったんですよね。教えますので勉強に戻ってください」

#ミサキ

「あ、ごめんごめん。ちょっと弱気になっちゃっただけだから。邪魔したくないから何とかするよ」

#さいか

「……そういうのは大体自分で何とかできない問題だと思います。いいから見せてください」

#このみ

「確かに……。勉強をし続けた人が言うと重みが違いますね」

#ナカミチ

「解けない問題なんて大体そうだけどな」

#ナレーション

問題なんて解けるうちは問題とは言わないのだろう。

#ミサキ

「で、でもさいかちゃんが受ける大学のこと考えると……。」

#さいか

「くどいですね……。いいんですよ私がやりたいんですし。苦手だった数学も安定しましたし。それにこの前のセンター試験が予想をはるかに超えていい点数だったのではっきり言ってもう大丈夫ですし」

#ミサキ

「ま、まじですか……。」

#ふうき

「そこまで言えるのはすごいよね……。私もまだぎりぎりだし……。」

#さいか

「私から言えば風紀さんのほうがすごいんですけどね。2年ほど何もしてなかったくせに京都の方受けようとするなんて」

#ふうき

「今くせにって言った……?」

#ネネ

「まぁ正直私も言いたくなりますけどね。やっぱり風紀さんは勉強できますね。さいかさんと同じで東京の方でも良かったんじゃないんですか?」

#ふうき

「んー。まぁ良かったんだけど……。気分?」

#ネネ

「……。」

#ナレーション

何も言えなかった。

#さいか

「……馬鹿なんじゃないですか。ミサキさんさっさと問題教えますから風紀さんを超えてください。私では無理でしたから」

#ミサキ

「あたしに無理を押し付けないで?!」

#このみ

「はー。雲の上はとんでもない話をしてますね。私たちは地道に頑張りましょう」

#ナカミチ

「そうだな。ほら、ネネさんも勉強に戻ろう」

#ネネ

「全くですね」

#ミサキ

「あ、あたしもそっちだよ?!」

#さいか

「わからない問題がなくなったら戻してあげます」

#ミサキ

「ひ、ひぃー!」

#ナレーション

世にも恐ろしい光景がそこにはあった。かもしれない。

 

 

 

 

 

#ナレーション

そんな苦痛的なシーンは飛ばされるのが定めであるが、しばらくもしないうちに扉が開かれる。誰かが展示を見に来たようだ。

#ふうき

「あ、私が対応しとくよ。物好きな人もいたもの……。わーお」

#ナレーション

ふうきさんが変な声を上げたので扉の方へ顔を向けるとともみさんがいた。

#ともみ

「どうも。お久しぶりですね皆さん」

#このみ

「あ。姉さん。どうしたんですか?もう妹の顔が恋しくなって会いに来たんですか?とてもうれしいんですがそろそろ妹離れをしていただかないと……。」

#ともみ

「それはこっちのセリフです。そろそろ姉離れをしてください。さて、無論そんなことのために来たわけではありません」

#このみ

「そんなことと言われましたナカミチ君」

#ナカミチ

「いや、俺に言われても」

#ナレーション

そういうことをしている間にともみさんは全員とあいさつを終えてさっさと展示物を見に行っていた。

#ともみ

「これが展示品ですね。論文1つとはまた思い切りましたね」

#ふうき

「もともと文化祭でうちのクラスがやったのは共同発表でしたからね。魔道祭で発表するのも共同研究になるのはまぁ当然の流れと言いますか」

#ともみ

「中身を拝見しても?」

#ふうき

「どうぞどうぞ」

#ともみ

「ふむ。うわさは聞いていましたが……。題名は魔力の均衡、その方法について。ですか。ついにここまでたどり着きましたか、すごいですね」

#ふうき

「いえ。くぜ先生の研究がベースですし。その中にはおそらくともみさんの研究内容も含まれている気がしました。この論文の参考論文にはともみさんの論文も書いていますよ」

#ともみ

「そうでしたか……。しかし、くぜ先生が研究していることをおおやけにしてもよかったのですか?」

#ふうき

「いやー、よくなかったので大丈夫なように書き換えました。何度検閲に引っかかったことか。おかげで必要のないところがそぎ落とされて装置は簡素化できて汎用性も高くなったのでいいんですけどね」

#ナレーション

2人が専門的なことをしゃべり始めた。周りは置いてけぼりである。

#このみ

「姉さんが妹を無視しています……。どうしてやりましょうか……。」

#ナレーション

寂しいと危険な行動をとってしまうものもいる。

#ナカミチ

「いいから勉強に戻るぞ」

#さいか

「そうした方がいいでしょうね」

#ナレーション

彼はとりあえずやることをあたえておいた。寂しさも紛れるだろう。

#ともみ

「しかし……。この研究自体が発表禁止とならなかったということはくぜ先生の研究はこれではないということですよね。もしくは副産物的なものでしかない……?」

#ふうき

「さぁ?わかりかねます」

#ともみ

「まぁそうですね。聞いてしまい申し訳ありません。私にも知りたい気持ちはありますからね。つい聞いてしまいました」

#ナレーション

そういうとみていた論文を机に置き戻す。

#ともみ

「とても素晴らしい論文でした。何かを作り上げるところまで完成された論文はそれだけで素晴らしいものですが、これは魔力の均衡を成し遂げたというものですから。すごい影響力を持ちますよ」

#ふうき

「持ちますかね?」

#ともみ

「まぁ、この盛り上がりが失われた界隈だけの話ですけどね。下手をすれば魔力を持つ人の優位性が崩れるものですから。さらに盛り下がっていく要因になるかもしれません」

#ふうき

「ですよね」

#ナレーション

苦笑いだった。

#ともみ

「何かを解明したうえでそうなるならそれでいいんですよ。それが良い悪いは人によって違うかもしれませんがね。……さて、それではこれ以上お邪魔してはいけませんし、失礼させていただきます」

#このみ

「ええっ?!もう帰るんですか?待っててくれたら一緒に帰れるじゃないですかー!」

#ともみ

「さっき妹離れがとか言っていた人の言葉とは思えませんね……。」

#このみ

「あ、いえいえ。違いますよ。妹としてはお姉ちゃんが寂しがると思ってですね」

#ともみ

「結構です。彼氏さんと一緒に帰っていればいいじゃないですか。受験に忙しくてデートもまだできていないんでしょう?姉としては邪魔できません」

#このみ

「なっ?!」

#ナカミチ

「……知ってらっしゃいましたか」

#このみ

「あ、ちょっ、」

#ともみ

「無理にかしこまらなくて結構です。そうですよね」

#ナカミチ

「……そうでした」

#ふうき

「さてはそれが目的でしたか」

#ともみ

「それも、です。風紀さんの論文は前から見に行くつもりでしたから。結果としては共同研究の論文を見に行くことになるとは思っていませんでしたけどね」

#ふうき

「それはうれしいですけどね。……同列ですか?」

#ともみ

「うーん。いえ。どちらかというと何時までたっても姉に挨拶の一つも来ない、かわいい妹にできた彼氏の顔を拝みに行こうと思った方が少し大きいですかね」

#ナカミチ

「ぐうっ?!」

#このみ

「ぐえっ?!」

#ナレーション

何故かこのみちゃんもダメージを受けていた。

#このみ

「ば、ばかな。私お姉ちゃんには一言も言っていなかったはずなんですが……。」

#ネネ

「付き合っていること黙ってたんですか……。」

#ともみ

「あれだけ様子がおかしくて察されていないと思う方が難しいと思うんですけどね。恋は盲目とはこういうことなんでしょうかね」

#ふうき

「さぁ?彼氏ができたことがないので何とも」

#ともみ

「ですね」

#ともみ

「まぁでも見に来て正解でした。この様子だと全てうまくいったんですね」

#ナカミチ

「……ええ。まぁなんとか」

#ともみ

「そうですか……。本当によかったですね。ナカミチさん」

#ナカミチ

「ありがとうございます」

#ともみ

「というわけで姉としては妹との交際を認めます。後の両親へのあいさつはご自身で何とかしてください。お忙しいでしょうし受験が終わるころぐらいまでは黙っててあげましょう」

#ナカミチ

「ぐうっ?!」

#このみ

「ぐえっ?!」

#ナレーション

再びダメージ。

#ミサキ

「いつの間にかご両親へのあいさつの話にまでなってる……。」

#ネネ

「まぁいいんじゃないですか?時間の問題でしかないでしょうし」

#ともみ

「しかしこんなに早く甥や姪の姿を見ることになるとは2、いえ3年前にはとてもとても。このみを学校へ引っ張っていた、あの時の私に妹に夫ができると教えても信じないでしょうね。ふふふ」

#ナレーション

のほほんとすごいことをしゃべっていた。

#このみ

「お姉ちゃん?!おかしなところまで話が進んでますよ?!」

#ともみ

「え?!あ、あぁ。すみません。つい甥や姪に囲まれる姿を思い浮かべてしまって……。」

#ふうき

「囲まれているほどいるんだ……。」

#ナレーション

数人以上は確定である。

#さいか

「お2人も大変ですね」

#ナレーション

淡々と言ってきた。

#ナカミチ

「言葉に心がこもってないぞ……。」

#ともみ

「……いや、つい長居してしまいますね。では本当に失礼させていただきます。……最後の追い込み。頑張って頑張りぬいてください。それでは」

#ナレーション

そういうと扉を開けて教室を出ていった。

#ふうき

「……いやー。激励いただいたね」

#さいか

「頑張っている人に頑張りぬいて、とはなかなか言えません。……やるしかありませんね。ほらミサキさん勉強に戻りますよ」

#ミサキ

「うぅ……。たしかにもう入試の終わりまで1か月をきっているんだし……。や、やってみせますとも」

#ネネ

「その胆力があれば必ず受かりますよ」

#ナレーション

そう言っていると再度ドアが開いた。ましろちゃんとみしろちゃんだった。

#みしろ

「お疲れー。交代に来たよ。あとさっき、ともみさんとすれ違ったよ」

#ましろ

「もう展示物は見たということだったからみんな会ったよね?」

#ネネ

「ええ。先ほど勉強を頑張って頑張りぬいてくださいと激励をいただいたばかりです」

#みしろ

「そ、それはすごい言葉だね。私たちも頑張らないと」

#ネネ

「では私は図書館へ行きますので、監視役お願いします」

#ましろ

「うん。引き受けたよ」

#ナレーション

何か物騒な言葉が聞こえた。

#ふうき

「……。やっぱりその監視役っていう名称やめない?」

#ネネ

「他に何かいい言葉があったらよかったんですけどね。着飾っても仕方なかったので」

#ましろ

「散々迷惑かけたからって言ったの風紀さんたちじゃない」

#ふうき

「いや、それはそうなんだけど。監視役は……。」

#みしろ

「迷惑をかけた人たちだけで当番させるのはおかしいっていうのは理解していたじゃない」

#ふうき

「まぁそれも……。」

#さいか

「目を離すと何をし始めるか分かったものじゃありませんし監視役という言葉がぴったりじゃないですか」

#ふうき

「さいかちゃんは迷惑かけた側だよね?!」

#さいか

「私はかけたのかかけていなかったのか微妙な立場ですので」

#みしろ

「まぁでもミサキちゃんが私もやるって言ったときには驚いたけどね。まさか全部知っていたなんて」

#ましろ

「割と全て初めから知っていたって聞いたときはびっくりした」

#ミサキ

「ごめんね。黙って見守るって約束してたから」

#ナレーション

彼女もまた全て知ったうえで黙っていた。ただ、もう説明したようだった。

#ふうき

「これもまたナカミチ君の責任……。」

#さいか

「……さすがに悪い気もしてきました。何故かわかりませんが」

#ナレーション

ともみさんが帰った後は特に何もなく、時間が過ぎていく。特に何もない時間。それでも彼らは幸せそうであり、もう特別な何かがなくても楽しいのだろう。そして時間が過ぎて、日々が過ぎていって、

 

#ナレーション

今日は卒業式である―――

 

 

 

#このみ

「はー。卒業式も終わっちゃいましたね」

#ナレーション

終わっていた。体育館で行われていた卒業式も終わり、教室に戻ったこのみちゃんは机に突っ伏してだらけていた。このままでは余韻も何もなさそうである。

#クラスメイト

「結局誰も泣いたりしなかったなー」

「誰か1人ぐらい泣くかもと思っていたんだがな」

「湿っぽいのはうちのクラスにはできないんでしょ」

#クラスメイト

「どうかな。意外と1人になってから泣いたりするものかもしれない」

「家に帰ってからってこと?ありそうでなんかこわいわ」

「つまり騒げるうちは騒いどけってことだな」

#ナレーション

誰もが誰かとしゃべっている。

#みしろ

「これで本当に卒業かー。もうみんな離れ離れになっちゃうんだね」

#ましろ

「そうだね。大学が一緒なのってこのみちゃんたちだけだもん」

#ナレーション

意外に思うだろうがそんなものである。しかしそれでも離れ離れになるというのが今ひとつピンとこないのかもしれない。

#ネネ

「そうですね。私たち3人だけがクラスの誰かと同じ大学へ行くというのも驚きですが、私としてはやはりましろさん達が2人べつの大学に行かれる事の方が驚いたといいますか」

#ミサキ

「そうだよね。せっかく一緒に同じ大学行けるのに」

#みしろ

「まぁね。絶対行きたいって大学もなかったし。行ければいいなって思ってたところが何個か受かってたから、私たちにとってはせっかくだから別の大学に行ってみようかなって感じかな」

#ましろ

「私たちは双子だから、ってわけじゃないけどこれからも一緒にいることが多いだろうから。だから一度別の道を歩んでみようかなって」

#ミサキ

「なるほどなぁー」

#ナカミチ

「2人が決めたならそれが一番だな」

#さいか

「何の話ですか?」

#ナレーション

別のところで話していたさいかちゃんがやってきた。

#ミサキ

「いや、驚いたって話をしていたんだけど」

#さいか

「驚いた、ですか……。たしかにミサキちゃんが第1志望の大学に受かったというのは驚くことかもしれませんがきちんと努力した結果ですからそう卑下しないでください。私も手伝ったんですから」

#ミサキ

「え、えぇ?!ち、ちがうもん!そりゃあさいかちゃんや風紀さんが第一志望に受かったことより私が第一志望に受かったことのほうが驚きかもしれないけどさ!」

#さいか

「あれ?違いましたか。あぁ。このみちゃんが本当に度付きのめがねをかけるようになったってことですか」

#ミサキ

「それと私が受かったの同列?!」

#このみ

「いや、私も驚きました。目が悪くなる時は絶対ゲームのせいだと思っていたんですが。まさか勉強でとは……。笑えませんよね」

#ミサキ

「今まさに私の合格が笑い話にされているんだけど?!」

#さいか

「冗談です。謝りますから許してください。……あと別に今関係ありませんけどミサキさんが受かったのって私が勉強を教えたからっていうのもありますよね」

#ミサキ

「ろ、露骨に関係あるよね!それを持ち出されたら私何でも許さないといけなくなるよー?!」

#ナレーション

そう話していると教室のドアが開く。最後のホームルームである。生徒たちはいっせいに自分の席へ戻る。

#くぜ

「ホームルームを始めます」

#このみ

「起立!礼!」

#全員

「お願いします!」

#このみ

「着席!」

#くぜ

「まず卒業証書をお渡しします。名前を呼んでいきますので教卓まで取りに来るように」

#ナレーション

くぜ先生は生徒の名前を呼び、卒業証書が1人1人へと手渡されていった。生徒たちは大事に受け取っていく。彼らの日々、共に築きあげた日々の思い出の証であった。

#くぜ

「皆さん本日はご卒業おめでとうございます」

#くぜ

「振り返ればこの3年間は素晴らしい高校生活だったと思います。ですがそれは決して誰かから与えられただけではなく、全員で支えて自分たちで作り上げたものだと自負してください。そして……、」

#くぜ

「わたしをこのクラスの担任として受け入れてくれたこと。うれしかったです。ありがとうございました。これからも日々を全力で生きてください。あなたたちなら必ず素晴らしい未来を作り上げることができるでしょう。私はそう思えます」

#くぜ

「改めて。皆さん、本日はご卒業本当におめでとうございます。………以上です」

#くぜ

「委員長、号令をお願いします」

#このみ

「はい!……起立!」

#ナレーション

一糸乱れずに。立ち姿は美しく。

#このみ

「………礼!」

#全員

「ありがとうございました!」

#ナレーション

教室に響き。そして教室はとても静かになった。……あとは解散の号令だけだ。

#ふうき

「……。」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

今日と変わらない明日、昨日と変わらない今日。そんなものはないのかもしれないが、それでも明日と今日は明確に違う。誰もがわかっている。それでも今日は、卒業の日。

#ナレーション

いつかまた会う日まで、もう会えない。

#このみ

「……。か……。解散!!」

#ナレーション

絞りだされるように大きな声が発せられる。そして全員が一斉に走りだす。一気に騒がしく、いや、やかましいぐらいにざわめきたつ。

#クラスメイト

「くぜ先生ありがとうございましたー!一番に学校を出るのは俺だー!」

「くぜ先生おせわになりました!最後のトップは俺だー!」

「くぜ先生には感謝してもしきれません!今日の最速は私がもらう!」

#ナレーション

くぜ先生へ別れの言葉が飛び交いながら廊下へと生徒たちが流れ出すように押し出ていく。

#みしろ

「姉さん!今日は勝たせてもらうね!」

#ましろ

「上等!こっちだって本気で行くから!」

#ふうき

「2人とも後はよろしくね!行ってくるよ!」

#このみ

「はい。戸締りは任せてください」

#ナカミチ

「気をつけてな」

#ナレーション

あっという間に教室から生徒たちの姿が消える。残ったのはこのみちゃんとナカミチ君にくぜ先生の3人だけである。

#このみ

「窓の施錠確認しました」

#ナカミチ

「教室内のごみも見当たらない。……くぜ先生。教室を閉めますね」

#くぜ

「はい。では教室を出ましょうか」

#ナレーション

廊下へ出て教室のドアをきっちりと施錠する。

#くぜ

「カギは預かります。早く皆さんのところへ行きなさい」

#ナカミチ

「いえ、職員室まで持って、」

#ナレーション

教室の施錠をしたナカミチ君の手からカギを取る。

#くぜ

「ナカミチさん、このみさん。お2人ともありがとうございました。またいつかお会いしましょう」

#ナレーション

そう言い残して去っていった。

#このみ

「……皆さんのところへ向かいましょうか」

#ナカミチ

「そうだな」

#ナレーション

他に誰もいない靴箱で靴を履き替え、靴箱を閉じていた南京錠ともう使わない上履きを袋に入れてかばんへしまい込む。彼ら2人が、クラスメイト達がまたいつかここへ来ることはあるだろうか。その時まだこの靴箱は残っているだろうか。無いかもしれない。でもそれでもいいのかもしれない。

#ナレーション

今は走って誰かクラスメイトに追いつければ。

 

 

#ナレーション

外へ出ると校長先生が立っていた。急ぎ、走っていた足を止める2人。

#校長

「ご卒業おめでとうございます」

#このみ

「ありがとうございます!」

#ナカミチ

「ありがとうございます。お祝いに来てくださったんですか」

#校長

「ええ。ですが邪魔になってしまったようですね。みなさん私の前では急停止して。感謝の言葉をかけてくれた後に早歩きで去っていくんです。なんだかおかしくて少し笑ってしまいました」

#ナレーション

当然廊下は走ってはいけない。校舎を出ようがグラウンド以外で走っていれば危険行為であった。

#このみ

「いやー。あはは」

#ナカミチ

「……。」

#ナレーション

笑ってごまかすか知らぬ存ぜぬしかなかった。

#校長

「機械科の皆さんはあなたたちで最後ですね」

#ナカミチ

「はい。本当にお世話になりました」

#校長

「いいえ。お世話になったのはむしろこちらです。朱里にとって、いえ朱里先生にとってあなたたちのような生徒を見ることができたのはとても大切なことでした。そして私にとってもです」

#このみ

「いえ。ご迷惑ばかりかけまして……。」

#校長

「いいえ。かけたのはこちらの方です。あなたたちには感謝してもしきれません。……引き留めてしまいましたね。それでは。私は引き続き卒業生を見送ります」

#ナカミチ

「はい。ありがとうございました」

#このみ

「ありがとうございました」

#ナレーション

校長先生が見えなくなるところまで歩いていき再度走り出す。学校を出るとクラスメイト達が見えた。

#クラスメイト

「お、来たぞみんな」

「意外と早かったわね」

「これで全員そろったか」

#ナカミチ

「全員待っててくれたのか」

#ふうき

「まぁ名残惜しかったんだよ。どうしても、ね。それに下校競争に参加せず最後まで委員長と副委員長の職務を全うしてくれた2人をおいては帰れなかったよ」

#このみ

「それは、気を使わせましたね」

#ましろ

「互いに気を遣うのが美徳だと思うよ。それで誰が一番にゴールしたと思う?」

#ナレーション

にこにこと聞いてきた。どうもましろちゃんがうれしがるような結果なのかもしれない。

#ナカミチ

「そう嬉しそうに聞かれると何となくわかるんだが……。ましろか?」

#ネネ

「……一発で当てましたね」

#さいか

「そういう人ですから……。そういうところの配慮はしないのもらしいですね」

#ましろ

「そんなに意外じゃなかったかな……。」

#ナカミチ

「いや、意外だとは思っているけど。普通にやればこういう時は風紀さんがトップを取りそうだからな」

#みしろ

「確かに2位だったね」

#ふうき

「そこまで分かるかー。じゃあどうやってましろちゃんは1位を取ったと思う?」

#ナカミチ

「いや、分かってはいない。そうだろうなという予想しか言ってないぞ俺は。どうやってかなんてわかるわけがないだろう」

#このみ

「まぁそりゃあそうですよね。そこまではわかるのがすごいと思うんですけどね」

#ナカミチ

「だから……。おそらくましろが納得するレベルで何か変わったことをしたんだろう。まぁそもそもどうやってと聞く時点で普通ではないということなんだが……。」

#このみ

「ふむ。それではましろちゃんらしい勝ち方と考えられますね」

#ナカミチ

「そうなるな。風紀さんが勝つ場合はテクニックを駆使して要所要所でタイムを縮めるからだ。しかし、ましろにテクニックで風紀さんを超える要素はないと思う。逆に言えばそれ以外の場面はましろが本来強い」

#このみ

「確かに身体的にはましろちゃんが圧倒的なスピードを持っています。ですがそれは発揮されればという前提があります。入り乱れて走るこの競技においては全力で走るということはほぼ不可能です。普通にやれば」

#ナカミチ

「そうだ。つまり、ましろの秘策は自身の能力を最大限発揮できる方法。たとえば入り乱れる集団から一歩抜け出せればもう止められないだろう」

#このみ

「その抜け出すというのも前方へ抜け出すだけではありません。他のルートを使う。つまり別ルートで走れば抜け出すことはできています。つまり遠回りです」

#ナカミチ

「ああ。それが答えだろう」

#ふうき

「……おみごと。その通りだったよ」

#みしろ

「さすがナカミチ君とこのみちゃんだね。2人が参加していれば姉さんも危なかったかもね」

#このみ

「いいえ。わかっていたとしても止めることはできませんね。風紀さんのテクニックとスピードで追いつけないならましろちゃんの速さに対してかなり正面から向かっていく必要があります」

#ナカミチ

「一朝一日では無理だな」

#ましろ

「どうかな。結構ぎりぎりだったよ。今日のために隠していた作戦だったし2回目は通用しないかもね」

#クラスメイト

「でももう次はないし」

「ましろちゃんの作戦勝ちね」

「おかげで最後にいいもん見れたよ」

#ましろ

「うん。それは良かった」

#クラスメイト

「さてそれじゃあどうするかな」

「やることは全部終わっちゃったね」

「ほんとねー」

#ナカミチ

「名残惜しいのはわかるけどな。……帰ろうか。ここにいたらそろそろ邪魔になってしまう」

#クラスメイト

「他のクラスもそろそろ帰るころかもな。ナカミチが言うなら帰るか」

「そうね。そうしましょう」

「そうするか」

#ナレーション

1人1人と帰っていく。

#クラスメイト

「じゃあね。楽しかったわ」

「最高のクラスでした」

「またいつか会いましょう」

#クラスメイト

「何もかも忘れられない日々だった。面白かったぞ」

「ああ。そうだな。このクラスで本当によかった」

「じゃあな、ナカミチ。また遊ぼうぜ」

#ナカミチ

「ああ。またな」

#ましろ

「みしろ。帰ろっか」

#みしろ

「うん。じゃあね、みんな。ありがとう。楽しい学生生活だったよ」

#ましろ

「そうだね。本当にありがとう。またいつか会おうね」

#ナレーション

次第に人数が減って。寂しくなってくる。

#ミサキ

「楽しい毎日だったよ。毎日の学校が楽しみだった」

#ネネ

「かけがえのない日々でした。……ありがとう」

#さいか

「……。感謝しています。それでは」

#ナレーション

そして残ったのは3人だけである。

#ふうき

「さて、と。じゃあ私も帰るね」

#このみ

「え?でも途中までは一緒じゃ……。」

#ふうき

「うぅん。ここでサヨナラにするよ。その方がいいんだ」

#ナカミチ

「……そうか。そういうならそうしようか」

#ふうき

「うん。そうする」

#ふうき

「……じゃあね。このみちゃん。しばらくの間お別れだよ。そう頻繁にこっちへ戻ってこれないと思うからね。2、3年はあえないかも」

#このみ

「…………ええ。わかりました。また会いましょう風紀さん。近いうちに」

#ナレーション

いきなり意見が食い違っていた。が、互いに笑みのままだ。

#ふうき

「ふふ……。」

#このみ

「ふふふ……。」

#ふうき

「3年間ありがとう。私の大事な親友」

#このみ

「3年間楽しかったです。私の大切な親友さん」

#ナカミチ

「じゃあな。楽しかったよ」

#ふうき

「そう。じゃあね」

#ナカミチ

「……俺にはそれだけか?」

#ふうき

「はいはい。親友親友。これでいい?」

#ナカミチ

「……ま、いいよ。じゃあな。ありがとう風紀さん。俺も親友だと思っているよ」

#ふうき

「……やっぱりあと1つ。このみちゃんちょっと耳ふさいどいて」

#このみ

「え?……いいですけど。親友ですからね。……。」

#ナレーション

耳をふさいでじっとナカミチ君をにらむ。

#ナカミチ

「なんで俺がにらまれるんだ……。」

#ふうき

「はいはい。聞こえてないからね。ナカミチ君に1つ聞きたいことがあるの」

#ナカミチ

「……答えられることだったらな」

#ふうき

「大丈夫。簡単なことだよ」

#ふうき

「私、ナカミチ君から見て魅力的な女の子だったかな?」

#ナカミチ

「……ああ。かわいらしくて、何もかも全力で、誰かのために頑張れる素敵な女性だと思う。風紀さんを振るような奴は世界中俺ぐらいしかいないよ」

#ふうき

「……あっそ。見る目ないんだね」

#ナカミチ

「そうかなぁ」

#ふうき

「このみちゃーん。もういいよー」

#ナレーション

風紀さんはこのみちゃんの手をどかす。

#このみ

「もういいんですか?」

#ふうき

「うん。ところで何を話してたか知りたい?」

#このみ

「え?まぁ気になるものではありますが……。話したくなければ別に、」

#ふうき

「このみちゃんのことどれだけ愛しているのか聞いたら、たとえ美の女神があらわれてもこのみちゃんを選ぶほどだって」

#このみ

「何を聞いてるんですか?!」

#ナカミチ

「聞いてない聞いてない」

#ふうき

「はは……。……。名残惜しいけど帰るね」

#このみ

「……ええ。さようなら」

#ナカミチ

「またな」

#ふうき

「うん。……さようなら私の親友!そして、さようなら私の初恋の人!」

#ナカミチ

「なっ?!」

#このみ

「あー!あー!やっぱり!」

#ふうき

「ふひひ!ごめんね、わが親友よ!じゃあね!」

#ナレーション

そう言い残すと走り去っていった。すたすたと走る彼女の姿はすぐに見えなくなった。

#このみ

「やっぱりそういうこと聞いていたんですね……。親友じゃなければ許さなかったところです」

#ナカミチ

「許すのか。まぁその方が、」

#このみ

「だが彼氏は別です!私というものがありながら私の親友に愛をささやくとはー!」

#ナレーション

畜生である。鬼畜生。

#ナカミチ

「愛はささやいていない!精々かわいらしいといっただけだ!」

#ナレーション

アウトだった。

#このみ

「じゅうぶんじゃないですかー!……でも」

#このみ

「私を選んでくれたので許します。……私たちも帰りましょう。ナカミチ君」

#ナカミチ

「ああ、そうだな。行こう」

#ナレーション

そっと彼が差し出した手を、彼女は抱きしめるように腕を取って答える。そして帰り道をともに帰っていった―――

#

Our glorious our memories.In our hearts.END.

#

おわり。

#ナレーション

「これで彼らの物語も終わり―――」

#ナレーション

「であるのだが、ここまでさんざんナレーションが終わり終わりと言った時は終わらなかったのだ。最後ぐらいもう少し続けてもらおう」

#ナレーション

「だが最後は余韻も大事である。そのためにも狂言回しはここでしつれいさせていただこう。ここまでお付き合いいただきありがとうございました」

#ナレーション

「そして最後に、願わくば未だ見果てぬそれぞれの未来を歩み始めた、彼らの道に幸せの多きことを願って。―――それでは」

 

 

 

#

#

・・

#

・・・

 

#

―――3年後

#このみ

はいナカミチ君。あーん。

#ナカミチ

ん。……。いつ食べてもこのみの作ったお弁当はおいしいな。特に卵焼きはだれにも負けないと思うぞ。

#このみ

えへへー。そうでしょう。そうでしょう。いっぱい食べてくださいねー。はい。あーん。

#ナカミチ

ん。

#ネネ

……また学内の共有スペースでいちゃついてるんですか。

#このみ

あ、ネネちゃん。お久しぶりですー。

#ナカミチ

ネネさん久しぶり。

#ネネ

久しぶりって言っても3日ぶりじゃないですか。そんなの学部も違うんですから当然だと思うんですけど。

#このみ

そんなこと言わないでくださいー。私たち毎日のように遊びあった仲じゃないですかー。

#ネネ

高校でクラスが同じだったら毎日顔を合わせて当然です。あと学校なんですから学びあった仲間ならわかるんですけど遊びあったって言われるとおかしな気がします。……ん?

#このみ

おっと?すみません。スマートフォンに連絡が。

#ナカミチ

俺のも反応しているな。高校のグループチャットじゃないか?

#このみ

あ、ほんとです。何でしょうか。

#ネネ

話題に出した途端に連絡が来るとは……。何となく誰からの連絡か想像がつくのは何なんでしょうね。

#ナカミチ

まぁ風紀さんかもしれないなぁ。

#このみ

どれ。ええと……。予想通りでしたね。風紀さんから……。全員で集まる機会を設けましょうですって!

#ナカミチ

また突拍子もないことを……。クラス全員で39人だぞ。そこにくぜ先生を招くとすれば40人だ。全員の予定が合う可能性ほとんどないだろう。集まる理由も何となくって書いてあるし……。これで全員集まると思っているのか風紀さんは。

#このみ

合わせようとすれば合いますよ!

#ネネ

無茶苦茶な理論ですね……。いや、全員がそう思っていれば集まれるかもしれませんが……。うちのクラスほど日本各地の大学へ散らばったところもありませんよ。地理的な問題もあります。集合場所とかも考えないと……。

#このみ

えっと。それも書いてあります。予定地は京都ですね。

#ネネ

さらっと自分のいる場所にしているじゃないですか!もう!電話してやります!

#このみ

……行っちゃいましたね。

#ナカミチ

まぁそれだけネネさんも楽しみにしているんだろ。もうすでに行く気になっているんだ。

#このみ

なるほど……。本当に全員集まれるかもしれませんね。

#ナカミチ

なんだ、集まれるって言ってたのに不安だったのか?

#このみ

そ、そんなことありませんよ。

#ナカミチ

まぁ、何となく思うんだがな。きっとあいつらとはなんだかんだ長い付き合いになるよ。

#このみ

……そうですね。そんな気がします。

#ネネ

はぁ……。駄目です。電話に出ませんでした。

#このみ

あれ?風紀さんでなかったんですか?

#ナカミチ

講義中なのかもしれないな。時間的に。

#このみ

もう1時過ぎていますからねぇ。

#ネネ

だとしたら講義中にスマートフォンをいじっている事になるわけですが……。まぁ言っても仕方ないことですか。授業態度がある程度は自由なのも大学ですからね……。ん?

#このみ

あ、また連絡が来ましたね。集合場所は検討しなおします。ですって。

#ナカミチ

察したな。

#ネネ

ちゃんと勉強してるんでしょうね……?

#ナカミチ

……しかし、つまるところ同窓会になるんだろうけど。……。結構楽しみだな。

#このみ

話したいことも聞きたいこともいっぱいありますからね。特に風紀さんの留学とか。

#ナカミチ

1年間アメリカに行ってたらしいからな……、偶然短期留学中のさいかさんと鉢合わせて発覚して……。

#このみ

かたくなに双方が連絡先を交換しないからグループのほうに連絡が飛び交って。

#ナカミチ

で、ネネさんが怒って。か。あいつらももうちょっと片意地はりあうのをやめたら意思の疎通が楽なんだがな……。

#このみ

あれはもう双方の持ちネタみたいなものですから。あれでいいんですよ。はい。あーん。

#ナカミチ

ん。……ま、それもそうか。ごちそうさま。

#このみ

いいえ。また明日も作ってきますね。

#ネネ

そういうのはせめて私の見ていないところでやってください。

#ナカミチ

ん?風紀さんとさいかさんの連絡の取り方についてか?

#ネネ

あなたたちの場所を選ばない、いちゃつきに対してです!

#このみ

そんなにいちゃついてますかね?

#ナカミチ

どうだろう。いつもより抑えていたと思うが。

#ネネ

はぁ、もういいです。しかし……、高校時代ですか。思い出すといろいろありすぎます。

#このみ

ええ。本当にたくさんのことがありましたね。

#ネネ

あの時は大変だったこともありました。しかし、思い返せばすべてがいい思い出だと言えます。

#ナカミチ

……そうか。そうだな。

#このみ

楽しかったですねぇ……。

#ネネ

っと。思い出に浸るのもいいのですけれど次の講義までにレポートを印刷しないといけないんでした。これで失礼しますね。

#このみ

そうでしたか。名残惜しいですがまた明日会いましょう。会員ナンバー002ネネちゃん。

#ネネ

時間が空いていましたらね。あと何度も言っていますが手伝いはしますがそのあやしげな同好会には入っていませんから。002はナカミチ君にでも繰り上げて渡してください。

#このみ

あやしくはないですよー。秘密結社的同好会ですー。様々なクラブやサークルの力を合わせ、サポートをし、時には企画を提案、大きなことをしようという理念を持つ。立派な活動内容ですー。

#ナカミチ

その立派な活動内容も変な名称のせいでいろいろ大変だったんだがな……。ま、いいか。じゃあなネネさん。また。

#ネネ

ええ。また。

#このみ

お気をつけてー。

#ナカミチ

……さて、俺たちもそろそろ行こうか。

#このみ

そうですね。

#ナカミチ

そういえば同好会のサークル申請どうするんだ?学生会だか何だかから要望書来ていただろう。大きすぎるからせめてサークルにしてくれとかなんとか。

#このみ

えー?嫌ですよ。私の肩書とかがサークル長とかになるじゃないですか、秘密結社的同好会だとみんな変わった呼び方してくれるんですもん。そっちの方が良いですー。

#ナカミチ

じゃあそのままにしておくか。この後はゲームセンターによった後、俺の家でゲームでいいのか?

#このみ

ええ。妹さんにも会いたいですしねー。この前は負けちゃいましたからね、リベンジです。リベンジ。

#ナカミチ

リベンジねぇ。最近はほとんど勝ててないじゃないか。

#このみ

きょ、今日は勝つんですよ!

#ナカミチ

まぁ頑張ってくれ。

#このみ

はぁ……。しかし妹ですか……。お姉ちゃんっ子の私ですがナカミチ君になついている妹さんを見ると……。わたしも親におねだりしてみましょうか。

#ナカミチ

やめとけ。

#このみ

あと10年ほど早ければよかったんですけどねー。せめて高校時代中に教えてくれていればー。

#ナカミチ

高校時代に知っていても何も変わらないと思うが、家族構成まで説明する機会はなかなかないからな。……ほら、行くぞ。

#このみ

はい!ナカミチ君!

#

おわり

      


――――――――――――――――――――――――――

著作・製作 二ツ橋 のめり

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